ここから本文です。
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第165号)
大公審答申第
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第165号)
〔宝くじ助成申請事前協議文書不存在決定異議申立事案〕
(答申日 平成21年2月5日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成20年7月1日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、条例第6条の規定に基づき、「(1)H19年度各種施設に対する助成事業について、事前協議の過程がわかるもの。決定過程がわかるもの。(2)H20年度各種施設に対する助成事業について、事前協議の過程がわかるもの。決定過程がわかるもの。(3)H20年度泉佐野市一般会計補正予算について、指導、助言、協議の経過がわかるもの。」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成20年7月14日、本件請求のうち「(1)H19年度各種施設に対する助成事業について、決定過程がわかるもの。(2)H20年度各種施設に対する助成事業について、決定過程がわかるもの。」に係る部分について、「「助成申請書について(副申)」(平成19年度分、平成20年度分)」を対象行政文書として特定のうえ公開決定するとともに、「(1)H19年度各種施設に対する助成事業について、事前協議の過程がわかるもの。(2)H20年度各種施設に対する助成事業について、事前協議の過程がわかるもの。(3)H20年度泉佐野市一般会計補正予算について 指導、助言、協議の経過がわかるもの。」に係る部分について、条例第13条第2項の規定により不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して異議申立人に通知した。
(公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
事前協議等にかかる文書を作成していないため、管理していない。 - 異議申立人は、平成20年8月1日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取消し、公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
本件請求に対して、実施機関が公開した文書は、泉佐野市が作成した宝くじ助成申請書(平成19年度分、平成20年度分)のみである。これらの文書は、既に泉佐野市で公開されている文書である。私が請求した文書は、事前協議の経過についての文書、実施機関が決裁した過程がわかる文書、そして平成20年度泉佐野市一般会計補正予算を作成するについて指導、助言、協議の経過がわかる文書である。
ところが、これらの文書は「作成していないため、管理していない。」と非公開決定したものである。
この事業の簡単な経過を述べる。泉佐野市助役が、宝くじ助成制度を知り、府の担当者と平成18年から協議している。平成19年1月に「地域交流支援施設整備事業」として事業費165878千円のうち、1億円を助成申請した。申請した宝くじ助成事業は、平成19年度当初予算案に「次世代育成地域交流施設整備事業」として、253166千円で計上した。ところが予算案は本会議で否決され、翌日取り下げた。その後、6月補正予算に計上し1票差でかろうじて可決された。3ヶ月遅れの予算可決になったため年度内に完成することが困難になった。そこで大阪府の担当者と泉佐野市の担当者が協議して、平成19年度申請を取り下げ、平成20年度で再申請するとなったと、泉佐野市議会で答弁している。そしてそのようにした。さらに平成20年度当初予算では、本件事業は計上していないため、府の指導、助言により、当初予算を可決した直後に補正予算として議会に提出している。本件事業は平成19年度12月議会で「繰越明許費」として処理されていたが、府の指導、助言で修正したのである。こういう処理の仕方が異常なやり方である。
他方、次世代育成地域交流施設整備事業に対しては、議会で反対が強かったために3月当初予算で否決されていること、6月補正予算でかろうじて可決したが、市民の反対も強かったために同年8月10日に住民監査請求されている。そして10月1日付で棄却されたが、その後10月30日に提訴されている。
このように泉佐野市で大きな問題になっている事業である。このことは市町村課振興・合併グループで周知のことであったと思われる。また担当者には何度も電話で問い合せ、面談もしている。したがって本件は慎重に扱っていたものと思う。
そういう経過であるから、当然にも泉佐野市との事前協議は頻繁に行われていたであろうと想像できる。また、事件になっている事案であることから、上司への報告、指導が必要だと考えられるし、後任者への引継などスムーズにできるように文書を作成しているはずだと思われるが、「文書が存在しない」方が不自然である。実施機関の主張では「個人メモ」としてあったが、「破棄した」としている。これは本当なのか。疑っている。
行政文書管理規則から、本件は行政文書として保管すべき種類の事業であると考えられる。宝くじ助成事業の許認可は「宝くじ協会」だが、府内の申請は実質的に大阪府が審査して合格した事業を宝くじ協会に申請している。宝くじ協会は、都道府県の事前審査を通った事業を許可しているようだ。したがって実質的に許認可に関連してくる事業である。担当者が一人で判断したとは考えにくい。したがって関連する文書、経過、問題点など文書を作成し残しているものと判断できる。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 本件における都道府県と財団法人日本宝くじ協会との関係について
本件助成事業は、財団法人日本宝くじ協会(以下「協会」という。)が実施する自治宝くじの普及宣伝事業であり、その実施に関しては、「公益事業への助成等による自治宝くじの普及宣伝に関する基本的事項」、「公益事業に対する助成要綱」及び各年度に通知される「各種施設に対する助成事業の実施と申請書の提出について」(以下「要綱等」という。)によって、助成対象事業、助成対象経費、助成対象団体及び助成の方法に加えて申請の手続きや助成決定方法などが明確に規定されている。その内容を簡潔に記すと以下のとおりである。
(1)助成対象事業
地方公共団体等が行なう事業で自治宝くじの普及宣伝の効果が発揮できると認められるもので、単年度で事業が完了するものであること。
(2)助成対象団体
助成対象団体は、都道府県・指定都市、市町村及び特別区その他の特別地方公共団体、その他公益法人等とされており、都道府県及び指定都市以外のものが助成を受けようとする場合にあっては、所轄の都道府県の宝くじ主管課を経由するものとされている。(助成要綱3-1)
なお、大阪府の宝くじ主管課は、総務部財政課であるが、市町村事業にかかるものについては、市町村の振興に関することを事務分掌としている総務部市町村課が行っている。
2 本件請求について
本件請求において異議申立人が請求を行った行政文書は、平成19年度と平成20年度に泉佐野市が行った助成申請に係る行政文書とそれに関連して、平成20年度泉佐野市一般会計補正予算についての指導、助言、協議についての行政文書である。
なお、本件請求については、異議申立人が平成20年7月1日に府政情報センターへ来所され、泉佐野市が申請した平成19年度及び平成20年度の日本宝くじ協会の助成金に関する事前協議の経過がわかるもの並びに平成20年度泉佐野市一般会計補正予算に関する文書を請求したい旨を情報公開課の担当者へ伝え、市町村課の担当者が異議申立人本人と応接し、日本宝くじ協会の助成事業に係る文書であることを確認している。行政文書公開請求書で公開請求を特定する行政文書の名称は、日本宝くじ協会が各都道府県及び指定都市あてに通知している公文書の名称を異議申立人本人に確認していただいた上、記入してもらったものであり、異議申立人との間で認識の食い違いはない。
3 市町村から寄せられる相談事案に対する処理方法について
総務部市町村課においては、府内市町村及びその他の公共団体の行財政に関することや国及び府と市町村間の連絡調整に関すること、市町村の振興に関すること等を業務としており、その内容は、一部事務組合の許認可から地方債の活用やPFI制度の活用など市町村のまちづくりに関する手法の検討に至るまで非常に多岐にわたっている。また、市町村を対象とした国が実施する事業や財団法人が実施する助成事業の取りまとめや経由事務も数多く行っているため、各市町村から日常的に様々な相談が電話や来課によって寄せられている。当課では、それぞれの相談事案に対して助言を行うことにより各市町村の課題解決に向けた取組を側面的に支援してきている。
相談事案は、「地方財務実務提要」のような行政実例や「地方自治法逐条解説」などで公にされている内容に関するものも少なくない。また、国が実施する調査事業や財団法人が実施する助成事業等は、要領等によってその取扱いが定められている。市町村からは、こういった要領等の規定事項に関する問い合わせを受けることも数多くある。
このように、担当者が参考文献等を伝えることで完結するものまで含めて、市町村からのすべての相談事案について、相談内容や処理方法等をすべて記録して留めておくことは業務遂行上、非効率的であるため、当課においては、従来、相談記録を記録・保存するものとそうでないものとに区別しているところである。
なお、寄せられた相談事案が電話によるものや来課によるものを問わず、担当者はその相談内容を聞き取るためにメモを作成しているが、その相談内容を確認して参考文献等を伝えることで完結できるものについては、その時点で相談内容を聞き取りしたメモを廃棄し、組織として共用していない。
4 文書として相談記録等を保存しているものについて
相談を受けた事案の記録に対する処理方法について定めた規程はないが、当課においては、(1)許認可に関連してくるもの、(2)複数の市町村に影響を与える可能性があるもの、(3)法律の解釈を求められているが逐条解説等の参考文献に掲載されていないもの、等については、相談記録を作成して組織的な処理を行うようグループ長から指示をおこなっている。
上記(1)は、その相談事案がそのまま許認可の決定に向けた課題であり、これらを整理していく必要があるため、その経過についても文書として記録・保存しているところである。また、上記(2)及び(3)は、市町村が実務上、疑義を生じた課題であるので、相談している当該市町村はもちろん、他の市町村にとっても起こり得る事例として当課で蓄積していくことは非常に有効であるため、その内容について文書として記録・保存しているところである。現在でも、このように保存している過去の助言内容を活用して市町村からの問い合わせに応じているところである。
5 文書として相談記録等を保存していないものについて
日常的に寄せられる相談事案は多岐にわたるが、相談案件の事業規模や重要度に関わらず、(1)市町村を対象とした国が実施する事業や財団法人が実施する助成事業の取りまとめや経由事務に関するもの及び(2)法律の解釈を求められているが逐条解説等の参考文献に掲載されているもの、については、相談記録等を保存していない。
これは、上記(1)は、その取扱いに大阪府としての判断を必要とするものではなく、調査要領や助成要綱等に定める内容しか市町村へ回答することができない。このようなものについては組織的に処理する必要がなく、単に担当者が電話等で回答することで解決するものであるため、相談記録等を保存していない。また、上記(2)は、相談内容が逐条解説等の参考文献に掲載されているようなものであれば、担当者がその旨を回答し、必要に応じて当該解説等の内容を情報提供することで完結するため、組織として共用すべき記録としては残さず、相談内容を聞き取りしたメモについても処理が終われば廃棄している。
6 本件決定に係る行政文書が存在しないことについて
本件決定において不存在としたのは、本件請求に係る行政文書のうち、泉佐野市が申請した平成19年度及び平成20年度日本宝くじ協会の助成金に関する事前協議の経過がわかるもの並びに平成20年度泉佐野市一般会計補正予算に関する文書である。
(1)平成19年度及び平成20年度日本宝くじ協会の助成金に関する事前協議の経過がわかるものについて
泉佐野市が申請した平成19年度及び平成20年度日本宝くじ協会の助成金に関しては、泉佐野市から助成事業の取扱いに関して電話で相談を受けたが、上記「5(1)」のとおり特段、大阪府としての判断を必要とするものではなく、協会の定める要綱に記載されている内容のみを伝えたものであるため、相談記録は作成しておらず、電話で相談内容を聞き取りしたメモ等についても、個人で自由に廃棄しても組織上・職務上支障がない個人メモとして、電話対応終了後、廃棄している。
なお、泉佐野市からは、電話による相談・報告だけではなく、事業遅延の経過など来課による報告もあったが、これも事実を聞きおくにとどまり、記録していない。
(2)平成20年度泉佐野市一般会計補正予算にかかる助言等に関する文書について
これは、泉佐野市で平成19年度に助成対象事業を計画していたが、実施することが困難となったため、予算を整理することが必要となり、繰越明許費を設定し、平成20年度に改めて助成申請を行ったが、この際、日本宝くじ協会の定める「公益事業に対する助成要綱」では、翌年度への繰越は不可とされていたため、財源を伴って繰り越す「繰越明許費」という手法よりも、平成20年度の歳出予算に改めて計上し、単年度予算としての財源として対応するほうがよいのではないか、と電話で伝えた一連のやりとりに関する文書ということである。
電話で伝えた一連のやりとりは、単年度事業であることを定めた助成要綱等を踏まえ助言したものであることや、「地方財務実務提要」に記載のある繰越明許費に関する事項の説明を行なったものに過ぎないことから上記「5(1)及び(2)」のとおり、組織として共有すべき記録として残す必要はないと判断し、相談内容をやり取りしたメモについても廃棄したものである。
7 結論
以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適切に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 財団法人日本宝くじ協会の助成事業について
本件助成事業は、財団法人日本宝くじ協会(以下「協会」という。)が自治宝くじの普及宣伝を行うため、公益法人及び地方公共団体等が実施する事業に助成するものである。その選定基準及び助成の方法等は、「公益事業への助成等による自治宝くじの普及宣伝に関する基本的事項」、「公益事業に対する助成要綱」及び各年度に通知される「各種施設に対する助成事業の実施と申請書の提出について」(以下「要綱等」という。)に定められている。
助成の対象となるのは、自治宝くじの普及宣伝の効果が発揮できると認められ、事業の計画及び方法が公益の増進又は地方公共団体共通の利益に資するため適切であり、かつ十分な効果を期待し得ると認められ、単年度で完了する事業であり、原則として、助成対象事業費の全額が交付される。
また、要綱等では、指定都市を除く市町村が申請する場合は、所轄の都道府県の宝くじ主管課を経由して協会に申請書を提出しなければならないと定められているが、実施機関においては、市町村の振興に関することを事務分掌としている総務部市町村課に提出することとしている。提出を受けた市町村課においては、申請が要綱等に定められている要件に適合するかどうか審査を行い、形式上適合していれば、宝くじ主管課である総務部財政課に適格である旨の意見を添えて取り次ぎ、財政課は、府の申請分と併せて協会に提出する。
3 本件助成対象事業について
泉佐野市(以下「市」という。)が本件助成を申請した事業については、実施機関及び異議申立人からの説明などにより、次のとおり認められる。
市は次世代育成地域交流施設の整備を計画し、財源の一部に本件助成事業による助成金を充てるため、平成19年1月、助成申請書を実施機関に提出するとともに、平成19年度予算案に「次世代育成地域交流事業」として計上した。しかし予算案は本会議で否決され、その後、平成19年6月補正予算に再度計上し、市議会において可決成立したものである。予算の可決成立が遅れ平成19年度中に助成対象事業を実施することが困難となったため、市は申請を一旦取り下げるとともに、本件事業に係る予算を翌年度に繰り越して使用できるようにするため、平成19年12月議会において、繰越明許費として予算計上した。
平成20年度に事業を実施するため、市が実施機関を経由して改めて助成申請を行った際、実施機関の担当者は市の予算編成として繰越明許費の設定を行っているとの説明を受けた。要綱等では助成対象は平成20年度単年度事業であり翌年度への繰越は不可と記載されているため、実施機関の担当者は、繰越明許費ではなく平成20年度歳出予算に改めて計上する方が適切である旨電話で伝えた。このため、市は平成20年度一般会計補正予算として本件事業に係る歳出予算を計上したものである。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)条例第2条第1項について
行政文書公開請求の対象となる「行政文書」の定義については、条例第2条第1項に「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真又はスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいう旨規定されている。
「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関の職員が管理しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
したがって、職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的なアイデアのメモで未だ組織的な検討に付されていないものなど専ら当該職員のみが利用するに過ぎないものはこれに該当しないが、職員が個人の判断で作成したものであっても、所管の組織において、複数の職員による検討に付され、その結果、これらの者が共用するに至ったもの、当該職員が関与した会議又は応接等の事務の記録であって、必要に応じて他の職員が利用することとなるものなど、実施機関の組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているものは、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」に該当すると解すべきである。
(2)本件決定の妥当性について
ア 市町村から総務部市町村課に寄せられる相談の記録化の実情について
実施機関から説明を聴取した結果により、概ね次のとおりであることが認められる。
市町村から総務部市町村課に寄せられる相談の記録化について明文化された規定はなく、運用としては、許認可に関連するもの、複数の市町村に影響を与える可能性のあるもの、法律の解釈を求められたもので逐条解説等の参考文献に掲載されていないもの等については、相談記録を作成し、関係職員が事務の参考として利用している。
一方、逐条解説等の参考文献に掲載されている事項や、国等が実施する調査や財団法人が実施する助成事業に関する要領、要綱等の規定事項についての相談については、既存資料の説明をすれば足りることから、相談を受けた担当者が、対応の際にメモをとることはあっても、関係職員が共同で利用するような記録は作成していない。
イ 「平成19年度及び平成20年度助成事業に関する事前協議の経過がわかる文書」に該当する行政文書が存在するか否かについて
本項の行政文書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
本件助成事業の申請にあたっては、市町村課の担当者が市から事前に電話で相談を受けている。このとき、担当者は内容を聞き取るために手書きのメモを作成しているが、相談に対する回答が要綱等に記載されている内容を答えるにとどまるものであったため、担当者は本件相談内容について関係職員が共同で利用する記録は作成しなかったものである。
なお、このときの手書きメモは、電話対応終了後、担当者により廃棄されている。
また、市からは、事業遅延の経過など来課による報告もあったが、これも事実を聞き置くにとどまり、記録は作成していない。
以上の説明については、アで述べた市町村課における市町村からの相談の記録化の実情からすると、特段、不自然な点はなく、本項の行政文書は存在しないと認められる。
ウ 「平成20年度一般会計補正予算に係る指導、助言等の経過がわかる文書」に該当する行政文書が存在するか否かについて
本項の行政文書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
本件助成対象事業に係る予算を平成19年度からの繰越明許費ではなく、平成20年度予算として計上するために市が補正予算案を提出したのは、実施機関担当者の電話での助言を踏まえたものであるが、その内容が、単年度事業であることを定めた要綱等の内容を踏まえた助言や行政実例集に記載されている繰越明許費についての説明であったことから、担当者は、その助言の内容や経過について、関係職員が共同で利用する記録は作成していない。
なお、相談を受けた際に担当者が作成したメモは、担当者により廃棄されている。
以上の説明については、アで述べた市町村課における市町村からの相談の記録化の実情からすると、特段、不自然な点はなく、本項の行政文書は存在しないと認められる。
以上ア~ウで述べたところにより、本件決定は妥当であると認められる。
しかしながら、本件助成対象事業は、その実施の是非が泉佐野市政の争点の一つとなっていたことが認められ、市議会でいったん予算が否決されたこともあって、平成19年度中に事業を完了することができなくなった上、予算の取扱いについて、いったん平成19年度の繰越明許費として計上された後、平成20年度予算の計上に変更されるという異例の経過をたどっている。平成20年度一般会計補正予算として市議会に諮られた際の市議会での答弁において、市の幹部は、府からの指導・助言に基づき追加上程した旨の説明をしており、本件助成対象事業に関しては、現に本件請求が行われたように、府民等から問い合わせ等があることも十分に想定された。
また、本件助成事業に関しては、制度上複数の市町村からの申請が競合する可能性がないとは言えず、19年度においては、泉佐野市が申請を急遽取り下げたため、府内の地方公共団体が受ける助成金の総額が減少するという異例の結果となったことが認められる。
このような状況からすると、実施機関が、本件助成対象事業の取扱に関し、市に指導、助言した内容を記録した行政文書が作成されなかったことは、条例前文に規定する府民に対する説明責務をまっとうする上で、不十分であったと考えられる。
今後は、市町村に対する指導・助言に関し、既存資料の説明等に過ぎない内容であっても、少なくとも、市町村議会や住民との間で活発な議論の対象となっているなど府民の関心が高い事業に関するものについては、記録を作成し保存するなど、実施機関として府民に説明する責務を果たしていく上で必要な行政文書の作成、保存について、十分配慮されるよう望むものである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、松田聰子、山口孝司