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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第158号)
大公審答申第
大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第158号)
〔貸金業者申請書部分公開決定第三者異議申立事案〕
(答申日 平成20年6月17日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成19年12月19日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、条例第6条の規定により、「大阪府知事(02)第○○○○○号AことBの登録申請書様式第1号1面、2面、3面、4面、5面、6面、7面、8面の内容」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
- 同年12月26日、実施機関は、本件請求に係る行政文書に第三者である異議申立人に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対し、第三者意見書提出機会通知書を送付した。
- 平成20年1月9日、異議申立人は、実施機関に対し、次のとおり、本件行政文書の公開に反対する旨の意見書を提出した。
- (1)公開に反対する部分
対象となる行政文書の全て又は登録申請書様式第1面~第8面の全て - (2)公開に反対する理由
10年以上前に貸金業を廃業しており、又法人でなく個人(女性)経営と云う事もあり記載されている個人の情報等は、個人情報に該当し、個人情報保護法により保護されるべきである。又公開はプライバシーの侵害であり、公開には反対する。
- (1)公開に反対する部分
- 同年1月11日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、その旨を請求者に通知するとともに、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
大阪府知事(02)第○○○○○号AことBの登録申請書様式第1号1面、2面、3面、4面、5面、6面、7面、8面の内容 - (2)公開することと決定した部分
個人の印影、個人の住所・郵便番号及び電話番号を除く部分 - (3)公開決定をした理由
行政文書公開請求に対する公開・非公開の決定は、条例の規定に則して行うものであり、本件行政文書(公開部分)に記録されている情報については、当該事業を営む個人及びその事業の性質等を考慮すると、当該事業を営む個人の競争上の地位、その他正当な利益を害するとは認められず、大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当しない。
また、本件行政文書(公開部分)に記載されている情報については、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、同条例第9条第1号には該当しない。
そのほか、条例第8条第1項各号又は第9条各号(非公開情報)に該当しないため。
- (1)行政文書の名称
- 同年1月24日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
また、同日、異議申立人は、行政不服審査法第48条において準用する同法第34条第2項に基づき、執行の停止の申立てを行い、同年1月31日、実施機関が執行の停止を決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、非公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
- この案件による行政文書の公開は民法第1条の信義則の原則に反し、権利濫用である。
- 異議申立人は貸金業を10年以上前に廃業しかつ高齢の女性である。古今貸金業の風当たりは強く、私のような個人に対し、配慮に欠けている。貸金業者があたかも犯罪者のように闇金だ、高利貸しかと犯罪者のように罵られる。闇金融や高利貸しは犯罪であり、金融業者とまったく関係がない。
- また、異議申立人は10年前に貸金業を廃業しており、巷で流行のように、過払い金請求等とは時効の関係もあり、もう関係がありません。その様な者の情報を今更、公開をしてどうなるのでしょうか?条例第8条第1項第1号には「法人(国、地方公共団体、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成十三年法律第百四十号)第二項第一項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)」とあります。この「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)」という意味を理解せず、公開されていようとしています。何かと物騒なこの世の中に、逆恨み、金員を得るために様々な手段等が講じられます。しかし異議申立人の情報は、既に時効を迎えており法的にもなんら影響される事はないのです。その情報を公開することは、条例第8条第1項第1号に該当し、条例第9条第1号に該当するといえます。
- また、情報を公開されるのに、情報を公開するようとした人物の情報が異議申立人にはなんら公開されておりません。条例第7条第1項には氏名及び住所又は居所を示すよう記載されております。その様な情報は、異議申立人は一切、公開されることなく、異議申立人の情報だけが公開されることは、法の下の平等に反しており、このような情報公開請求をされた人物の意見だけを尊重されていることは、到底、納得いくものではなく、情報公開請求者の情報も公開されたい。
そうする事により、法の下の平等が保たれるというべきである。 - 情報の開示について、個人の印影、個人の住所、郵便番号及び電話番号は公開しないとされておりますが、それに伴い使用人や、役員など、異議申立人以外の個人情報も記載されている可能性もあります。異議申立人も含めて、個人情報の漏洩は、個人情報に該当し、個人情報保護法の問題もあり、適切に扱われるべきであり、情報を公開されるのであれば、異議申立人にどのような内容がどのような形で、公開されるのか、その内容が異議申立人を尊重されているかを公開前に事前に確認を求めたい。そうしないと公開した後に、記載されていましたで、済ますことはできない事項である。
よって、条例第8条第1項第1号又は、条例第9条各号に該当し、民法第1条の信義側に反し、まさに権利濫用の法理がここに適用されるので、情報公開は容認できない。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 貸金業の登録に関する事務について
貸金業を営もうとする者は、異議申立人が貸金業登録した平成8年12月18日当時(以下「登録当時」という。)の貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)第3条第1項(現貸金業法第3条第1項)の規定により、当該申請人の営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。
当該申請に対し、登録当時の貸金業規制法第6条(現貸金業法第6条)の規定による登録拒否要件審査の結果、適当と認められたときには、登録当時の貸金業規制法第5条第1項(現貸金業法第5条第1項)の規定により貸金業者登録簿に登録する。登録簿への登録は、登録当時の大蔵省銀行局長通達第2602号「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」(現貸金業法施行規則第4条の2)の規定により、登録申請書様式第1号第2面から第7面までを貸金業者登録簿に綴ることにより行うこととされている。
また、登録当時の貸金業規制法第9条(現貸金業法第9条)及び登録当時の貸金業規制法施行規則第9条第2項(現貸金業法施行規則第9条第2項)の規定により、貸金業者登録簿は、一般の閲覧に供するものとされている。
なお、貸金業者が登録有効期間(3年)切れ、廃業及び登録の取消し処分等となったときは、貸金業者の登録を消除しなければならない旨登録当時の貸金業規制法第40条(現貸金業法第24条の6の7)で規定されており、貸金業者登録簿からも消除することとされている。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、異議申立人が、登録当時の貸金業規制法第3条第1項(現貸金業法第3条第1項)の規定により、平成8年8月29日付けで大阪府知事に対して貸金業の登録について申請した登録申請書である。
本件行政文書に記録されている事項は以下のとおりである。
申請日、申請者の住所・郵便番号・電話番号・商号又は名称・氏名・実印、従前の登録番号、登録の区分、法人・個人の別、営業所の名称・設置年月日・所在地・電話番号、業務の種類(金銭の貸付形態・金銭の貸借の媒介形態・日賦貸金業営業の有無等)、業務の方法(貸付の相手方・貸付の利率・利息の計算方法・返済方式・返済期間・担保の内容・手数料に関する事項等)、他に行っている事業の種類、証紙貼付欄等
本件行政文書のうち、異議申立人が公開に反対している部分は、公開しないことと決定した個人の印影、個人の住所・郵便番号及び電話番号の部分を除く全て(以下「本件係争部分」という。)である。
3 条例における公開原則について
条例においては、その前文にあるように、「府の保有する情報は公開を原則」、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」、「府が自ら進んで情報の公開を推進」を制度運営の基本的姿勢としている。
よって、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものである。
4 本件決定の適法性について
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重・保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報、その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第1号の趣旨である。
同号では、
- ア 法人等に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものは、公開しないことができると規定している。
また、一般に、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうと解されており、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び公開により団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらわれないものをいうと解されている。
そして、「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、当該文書に記録された情報が明らかとなることにより、当該法人等に具体的な不利益が及んだり、社会的評価の低下につながるなどの事実が存在し、それが社会通念に照らして「競争上の地位その他正当な利益」を害すると認められる程度のものである必要があると解すべきである。
(2)本件係争部分が条例第8条第1項第1号に該当しないことについて
上記(1)ア及びイの要件を本件係争部分についてみると、本件係争部分は全て業を営む個人の氏名、営業所の名称及び所在地並びに当該事業内容等に関する情報であり、(1)アの要件に該当することは明らかである。そこで、本件係争部分に記録された情報が、(1)イの要件に該当するか否かを検討する。
これらの情報は、上述のとおり、大蔵省銀行局長通達により異議申立人が貸金業を営んでいたときは、一般の閲覧に供されていた情報であるから、当該情報が営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等に当たるとはいえず、当該業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは明らかである。
また、異議申立人は現在、貸金業を廃業しているが、それをもって当該情報を非公開とすべき特段の理由も認められない。
したがって、(1)イの要件に該当しない。
(3)条例第9条第1号について
個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特にプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。そして、条例第9条においては、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの
については、「公開してはならない情報」として定められている。
(4)本件係争部分が条例第9条第1号に該当しないことについて
(3)ア~ウの要件を本件係争部分についてみると、本件係争部分に記録されている情報は、業を営む個人の氏名であり、これらは(3)ア及びイの要件に該当すると認められる。
そこで、(3)ウの要件に該当するか否かについて検討すると、当該情報は、公表することにより、特定の個人が貸金業を営んでいたという事実が明らかとなる情報であるものの、上述のとおり、異議申立人が貸金業を営んでいたときは、一般の閲覧に供されていた情報であり、本件情報の開示によって、当事者の個人の尊厳が傷つけられたり、人格的利益が損なわれたりすることは、社会通念上考えられないことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とは認められないものであり、ウの要件に該当しない。
(5)その他の適用除外事項に該当しないことについて
本件係争部分に記録されている情報が、条例第8条第1項各号又は第9条各号に規定する他の適用除外事項に該当するかについて検討したところ、本件係争部分には、公にすることにより許認可等の事務に著しい支障を及ぼすおそれもなく、また、法令の規定により公にすることができない情報や、公にすることにより公共の安全に著しい支障を及ぼすような情報等も含まれていないことは明らかである。
(6)異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立人の情報を公開されるのに、情報公開請求した人物の情報が異議申立人には何ら公開されていないことを本件請求に反対する理由の一つとしているが、条例に基づく行政文書公開制度は、実施機関が取得した文書について、条例の非公開事由に該当しない限り、何人に対しても当該行政文書が公開の対象となるものであることから、この点について異議申立人の主張を採用することはできない。
また、本件係争部分に記録された情報の公開が、異議申立人のプライバシーや競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは、前述のとおりである。
5 結論
以上のとおり、本件決定は条例の公開事由の要件に該当するものを公開として決定したものであり、何らの違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 貸金業の登録に係る実施機関の事務について
登録当時の貸金業規制法(現貸金業法)は、貸金業者について登録制度を実施し、その事業に対し必要な規制を定めている。
貸金業を営もうとする者は、当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない(貸金業規制法第3条第1項(現貸金業法第3条第1項))。当該申請に対し、審査の結果適当と認められれば、都道府県知事は、登録申請書様式第1号第2面から第7面までを貸金業者登録簿に綴ることにより登録を行う(貸金業規制法第5条第1項、大蔵省銀行局長通達第2602号「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」(現貸金業法第5条第1項、同法施行規則第4条の2))。また、都道府県知事は、貸金業者登録簿を一般の閲覧に供しなければならない(貸金業規制法第9条、同法施行規則第9条第2項(現貸金業法第9条、同法施行規則第9条第2項))。
なお、貸金業者の登録有効期限が切れたとき、又は廃業若しくは登録の取消処分となったときは、都道府県知事は貸金業者の登録を消除しなければならないと規定されており(貸金業規制法第40条(現貸金業法第24条の6の7))、この場合、当該貸金業者の申請書は、閲覧に供している貸金業者登録簿からも消除される。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、平成8年8月29日付けで異議申立人が実施機関に対して貸金業者の登録を申請した際の登録申請書であり、次の情報が記録されているほか、割印として、各面に異議申立人の印影が記録されている。
これらの情報のうち、実施機関が本件決定において公開しないこととした、異議申立人の印影、住所、郵便番号及び電話番号を除く情報が、本件係争部分に記録されている情報である。
- (1)第1面
申請日、申請者の住所、郵便番号、電話番号、商号又は名称、氏名、印影 - (2)第2面
従前の登録番号、登録の区分(新規又は更新)、法人・個人の別、商号又は名称、氏名、住所、郵便番号、電話番号 - (3)第3面
貸金業規制法施行令第3条(現貸金業法施行令第3条)に規定する使用人がいない旨の記録 - (4)第4面
営業所等の名称、設置年月日、所在地、電話番号 - (5)第5面
業務の種類(金銭の貸付け形態、日賦貸金業営業の有無) - (6)第6面
業務の方法(貸付けの相手方、貸付けの利率、利息の計算方法、返済の方式並びに返済の期間及び返済の回数、担保の内容、手数料に関する事項等) - (7)第7面
他に行っている事業の種類 - (8)第8面
大阪府証紙貼付欄
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
異議申立人は、本件係争部分の公開は「既に廃業しており、異議申立人の情報は時効を迎えている。」などとして、本件係争部分に記録された情報が条例第8条第1項第1号及び条例第9条第1号に該当すると主張しているので、検討したところ、以下のとおりである。
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 法人・・・その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。
また、本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や社会的評価の不当な低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。
(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報は、異議申立人が貸金業の登録をするにあたり実施機関に申請したものであり、事業を営む個人の当該事業に関する情報であることから、(1)アの要件に該当することは明らかである。
次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するかどうかを検討するに、本件係争部分に記録されている情報は、異議申立人が貸金業を営んでいた当時は一般の閲覧に供されていたものであり、また、異議申立人が廃業した現時点においては、これらの情報を公にすることによって公正な競争原理を侵害することは認められないことから、(1)イの要件には該当しない。
以上のとおりであるから、本件係争部分に記録されている情報は、条例第8条第1項第1号に該当しない。
(3)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
(4)本件係争部分の条例第9条第1号該当性について
本件係争部分に記録されている情報のうち、異議申立人の氏名以外の情報については、何れも、専ら異議申立人が営んでいた事業に関する情報であると認められ、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」として、(3)アの要件に該当しないことは明らかである。
一方、異議申立人の氏名については、公にすることにより、特定の個人が貸金業を営んでいたという事実が明らかとなる情報であり、(3)ア及びイの要件に該当すると認められる。
しかしながら、個人事業の代表者であった個人の氏名については、株式会社等の役員に関する情報と同様に、社会通念上、公開の情報として取扱われているものであり、本件行政文書が、営業当時、一般の閲覧に供されていたことからしても、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められず、(3)ウの要件に該当しない。
また、異議申立人は、「貸金業を10年以上前に廃業しかつ高齢の女性である。古今貸金業の風当たりは強く、私のような個人に対し、配慮に欠けている。」と主張しているが、本件決定においては、異議申立人の住所、郵便番号、電話番号は公開しないこととされている。
以上のことから、本件係争部分に記録されている情報は、条例第9条第1号に該当しない。
(5)異議申立人の主張について
異議申立人は、10年前に廃業した者の情報を今更公開することは意味がない旨や、公開請求者の情報を公開すべきである旨主張している。しかしながら、条例に基づく行政文書公開制度においては、実施機関が取得し管理している文書は全て公開請求の対象となるものであり、条例の非公開規定に該当しない限り、当該行政文書が公開されることとなるのは止むを得ないものである。また、公開請求を行ったのが誰であるかという情報は、一般に、条例第9条第1号又は第8条第1項第1号の非公開情報に該当するものであり、請求者名の情報を異議申立人に通知することはできないものである。
さらに、異議申立人は、使用人や役員など異議申立人以外の個人情報も記載されている可能性がある旨主張しているが、当審査会が見分したところ、本件行政文書には異議申立人以外の個人情報は記録されていないことが確認された。
以上のことから、異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、小松茂久、鈴木秀美、岩本洋子