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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第156号)
教職員の評価・育成システム府立高等学校評価集計表部分公開決定異議申立事案
(答申日 平成20年5月1日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成19年7月2日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「府立高等学校における平成18年度「評価育成システム」の総合評価の各高校毎の評価分布(人数)全教職員・退職者を含む。」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成19年7月17日、本件請求に対応する行政文書として、各府立高等学校の平成18年度の「評価総括表(一覧表・集計表)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の部分を除いて公開する旨の部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(2)のとおり公開しない理由を付して異議申立人に通知した。
- (1)公開しないことと決定した部分
- ア 評価総括表(集計表)の「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の各欄
- イ 評価総括表(一覧表)の「職員番号」、「漢字氏名」、「カナ氏名」、「職名」、「業績評価」、「能力評価」、「総合評価」及び「備考」の各欄
- (2)公開しない理由
- ア 条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の業績評価、能力評価、総合評価、評価結果の集計等が記載されており、これらの情報は、教職員の評価・育成システム(以下「システム」という。)に関する人事管理情報であって、これらの情報が公になると、校長が他校の分布と比較されることにより、自分の評価に対する批判などを意識して適正な評価を行うことが困難になるおそれがあるなど、人事管理に関する事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - イ 条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の職員番号、業績評価、能力評価、総合評価等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものである。
- ア 条例第8条第1項第4号に該当する。
- (1)公開しないことと決定した部分
- 異議申立人は、平成19年9月4日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定のうち、「各学校毎職員の評価総括表(集計表)の『業績評価』、『能力評価』及び『総合評価』の各欄(以下「本件係争情報」という。)」を非公開とした部分を取り消し、公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 異議申立書における主張
- (1)本件請求に当たって、実施機関とのやり取りで公開請求の根幹に関わる問題が発生したので、事実経過を述べる。
- ア 7月2日:府政情報センターを訪れ、公開請求をする。府政情報センターの職員が実施機関と連絡を取り、教職員室教職員企画課企画グループの職員2名が府政情報センターに来る。公開請求の内容を伝えたところ、教職員室の職員が電話で「当該の行政文書が存在するかどうか」を問い合わせる。返事は「電子データとして個人ごとの情報は存在するが、学校単位で集計したものは存在しない。」というものであった。これに対し「学校単位で集計していないはずがない。コンピューターで簡単に集計できるものだから、必ず学校単位でまとめているはずで、もし行政文書として残っていないのなら、破棄したのではないか。」と主張した。府政情報センターの職員による「電子データとしては存在しても、集計した文書になっていなければ、公開請求の範囲外である。」との示唆(この点に関しても、条例第1条に則して正しいのか疑念がある。)もあったが、納得できなかったので、「『不存在による非公開』で返ってきたら、『異議申立て』をするつもりである。」と述べて、敢えて公開請求をした。
- イ 7月19日:7月17日付け部分公開決定通知書を受け取る。「不存在による非公開」で返ってくるものと思っていたので、意外であった。
- ウ 7月23日、24日、25日:部分公開決定通知書に「公開を実施する日時:別途調整します」とあったので、実施機関に電話をするが、上述の教職員室の職員2名は欠席及び多忙ということで「調整」はできなかった。
- エ 7月27日:府政情報センターを訪れ上述の府政情報センターの職員に状況を伝える。上述の教職員室の職員のうち1名が来る。同職員の説明は、「実施機関に戻って調べたら、校長からの提出用紙に学校毎の集計表があるのがわかった」ということであった。
- (2)条例前文には「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。府が保有する情報は、本来は府民のものであり・・・(中略)・・・府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。このような精神のもとに、府の保有する情報は公開を原則とし・・・(中略)・・・『知る権利』の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに・・・(後略)・・・。」とある。
それに対し、実施機関が主張している「公開しない理由」の骨子は、「・・・(前略)・・・これらの情報が公になると、校長が他校の分布と比較されることにより、自分の評価に対する批判などを意識して適正な評価を行うことが困難になるおそれがあるなど、人事管理に関する事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。」である。- ア システムを推進している実施機関が、公開すると「校長が他校と比較されることにより、自分の評価に対する批判などを意識して適正な評価を行うことが困難になる」と主張することは、校長の評価が公平な基準と具体的な事実に基づいて客観的になされるのではなく、恣意的になされる余地があることを実施機関自ら認めているものである。手引きの説明をもって、実施機関は、校長の評価が公正に客観的になされるとしているのではないか。特に業績評価・能力評価・総合評価とも「絶対評価」とうたってあることからしても、どの点で「適正な評価を行うことが困難になるおそれがある」のか説明願いたい。
- イ 実施機関は府下の評価結果分布を、市町村立学校(大阪市・堺市を除く)・府立学校別、業績評価・能力評価・総合評価別に公表している。アの論理でいけば、そして日本の官僚の「横並び主義」を考えれば、それらの公表も、校長が「意識して適正な評価を行うことが困難になるおそれ」を生じさせることになるのではないか。
- ウ 条例の精神は「公開が原則」であり、第8条第1項第4号は例外規定である。つまり、「・・・事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に限定して、非公開を認めているにすぎない。問題は、「著しい支障を及ぼすおそれ」があるかどうかである。
実施機関の立場は、「評価は客観的な基準に基づいて公正になされる」かつ「なされるべきである」というものであるはずだから、「著しい支障を及ぼすおそれ」があるという主張に論理的整合性はない。
私は、システムは、ほとんどが自分の専門外の教科について、少しの(多くは1時間程度)授業観察で、教員の教える力を判断すること、校長室からあまり出ることのない校長が、教員の日常的な教育活動をトータルに判断するだけのデータを持つことは不可能であること、校長自身が評価される立場にいるので、自分のポイントになるような教員の活動を過大に評価する傾向があることなど、その根幹に関わる欠陥を多数持っていると考える。(「育成」の部分についても大いなる疑念があるが、ここでは触れない。)つまり、説得力のある「(数字で表せるような)客観的な基準」を持ち得ないシステムは、必然的に恣意的な評価にならざるを得ず、その意味では「公開は、(著しくはないが)一定程度校長の評価に影響を与える可能性がある」かもしれないと考える。だからこそ「評価の公正さ」を保障する(「府政の公正な運営の確保」-条例第1条)必要があり、そのためには情報の公開が求められる。「校長の評価への影響への危惧」と「システムの公正さの確保」と、どちらが「民主主義の活性化」「『知る権利の保障』と個人の尊厳の確保」(条例前文)のために重要であるのか、結論は当然後者である。教職員は客観性のないシステムにより、まさに「個人の尊厳」が冒されようとしているのである。
2 反論書における主張
(1)はじめに
公開請求の手続きの中で発生した、実施機関の不明朗な対応に対する釈明、説明が何もなされていない。1(1)の主張に対し、実施機関は何も触れていない。実施機関は無視することで事実を隠蔽しようとしているのかもしれないが、「公開請求」に関わる公的な場で主張されている以上、実施機関は「それが事実でなければ否定する」はずである。否定しないということは、少なくとも実施機関は「事実である」と認めたと解釈できる。実施機関の対応は、条例前文、第1条、第7条の5及び「情報公開事務の手引き」8ページ(1)のウに明らかに違反している。
(2)「条例第8条第1項第4号の該当性について」に対する反論
ア 「本件情報を公開すると、学校間の評価結果の分布を比較することが可能となり、評価者(校長)は、自身の評価に対する批判を避けようとする心理や、あるいは他校とのバランスを図ろうとする心理が働き、所属教職員の評価に予断が生じることが考えられるなど、システムの公正かつ適切な運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。」について
公開請求の目的の一つは「学校間の評価結果の分布を比較」して、評価が適正に行われているかを検証することである。もし公開によって「評価者(校長)は、自身の評価に対する批判を避けようとする心理や、あるいは他校とのバランスを図ろうとする心理が働き、所属教職員の評価に予断が生じる」なら、それは評価者の評価方法、評価基準に問題があるのであって、公開に問題があるのではない。
実施機関は府下の評価結果分布を、市町村立学校(大阪市・堺市を除く)・府立学校別、業績評価・能力評価・総合評価別に公表している。実施機関の論理でいけば、そして日本の官僚の「横並び主義」を考えれば、それも校長が「意識して適正な評価を行うことが困難になるおそれ」を生じさせることになる。実施機関の主張に一貫性はない。
イ 「また、府民にとっては、学校ごとの評価の分布の差が、所属教職員の資質・能力の差であると受け取られ、ひいては、学校自体の優劣を示すものと誤解されるおそれがある。そうすると、所属教職員や在校生等に対する偏見を生み、あるいは、学校の序列化につながるなど、今後の学校運営に著しい支障を及ぼすことも考えられる。」について
府立高校全日制普通科には、すでに序列がある。32年前に教員になったA高校は学区最底辺校であった。B高校時代の校長は指導一課長(高校教育担当-当時)経験者であったが、よく9学区(当時)のトップ校とB高校を含め、「トップテン」と言っていた。組合は「高校間格差」の是正と「学区縮小」を要求してきたが、実施機関は逆に2007年度より「学区統合」をしてますます「格差」を拡大している。また、「エルハイスクール」のようなエリート校を固定強化するような施策もやっておきながら、「学校自体の優劣を示すものと誤解されるおそれがある。」とか「学校の序列化につながる」と述べるのは矛盾している。学区統合やエルハイスクールの指定は、私学に押されて凋落著しい府立の「トップ校」「有名進学校」を後押しするためのものであるというのが、教員の一般的な受け止め方である。府民(特に中高生を持つ親)の最大の関心事は各高校の大学進学実績であり、大学進学実績が府立高校全日制普通科の序列を決めているのである。その意味で、府民が「学校ごとの評価の分布の差が、所属教職員の資質・能力の差である」と受け取り、「学校自体の優劣を示すものと誤解」するおそれはない。
条例の精神は「公開が原則」であり、第8条第1項第4号は例外規定である。つまり、「・・・事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に限定して非公開を認めているに過ぎない。実施機関の立場は、「評価は公正に客観的になされる」かつ「なされるべきである」というものであるはずだから、「著しい支障を及ぼすおそれ」があるという主張に論理的整合性はない。
(3)「条例第9条第1号の該当性について」に対する反論
「・・・学校単位でみれば、CやDの評価を受けた教職員は、いるかいないかという程度の人数であり、仮に、ある学校にDの評価を受けた教職員が1名いることがわかれば、当該学校の関係者にとっては、日ごろの各教職員の仕事ぶりや言動等から、それがどの教職員のことであるかを具体的に類推できる」について
「部分公開決定通知書」に添付されていた別紙「公開しない理由」には、この項はなかった。つまり、実施機関が決定した理由の中には本来なかったものである。従って反論する必要はないと思われるが、念のために反論しておく。
「類推できる」と「特定の個人が識別され得るもの」とは同じではない。類推はあくまで類推である。それでもって、公開できないと言うのは、こじつけの理屈と言うほかない。実施機関は、過去において「個人が類推できる情報」を、これまで公表してこなかったというのだろうか。
システムは絶対評価で、あらかじめS・A・B・C・Dのパーセントが決められているわけではない。たまたまC、Dの数が少ないだけである。大半を占めるA、Bの評価分布の公開を求めたら、この理由はなくなることからも、理由が「条例第9条第1号」に該当しないことがわかる。
(4)結語
システムは、評価対象職種が教頭、事務長、事務職員、技能員、教諭、養護教諭、実習助手と多岐に亘っていて、しかも多数の教職員を評価しなければならないこと(全日制普通科24学級規模では約60名)、教諭に対してでさえ専門外の教科はよくわからないのに、教諭以外の未経験の職種に対しては、それ以上にわかるはずがないこと、1時間程度の授業観察で、教員の教える力を判断すること(野球選手が1試合の結果で査定をされるようなものである)、校長室からあまり出ることのない校長が、教職員の日常的な活動をトータルに判断するだけのデータを持つことは不可能であること、校長自身が評価される立場にいるので、自分のポイント(=学校運営)になるような教職員の活動を過大に評価する傾向があることなど、システムの公正・公平な実施の根幹に関わる欠陥を多数持っている。「数字で表せるような客観的な基準」を持ち得ないシステムは、上記の理由から必然的に恣意的な評価にならざるを得ず、また「当該評価が昇給や勤勉手当の成績率の判定に活用されている」ことからも、評価が「公平・公正」に行われているか、常に検証する必要がある。そのためには、各学校の「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の分布を知ることは、欠かせない情報である。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 システムについて
- (1)実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのがシステムであり、試行実施を経て、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)(以下、「実施規則」という。)を新たに制定し、平成16年度以降は、これら規則に基づいて実施している。
地方公務員法第40条第1項には「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とあり、実施機関においては、平成16年度以降、システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務評定として実施している。
評価結果の給与への反映については、平成18年度の評価結果を平成19年度の昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、職員の給与に関する条例、府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各府立学校長に通知し、全ての教職員に周知している。 - (2)システムは、実施規則に基づき、自己申告と面談を基本に実施しており、府立学校における教諭の評価者については、1次評価者は教頭、2次評価者は校長としている。
各教職員は、学校や校内組織の目標達成に向け、各自が年間を通じて取り組む目標を設定し、自己申告票(設定目標等)を作成して育成(評価)者である校長に提出する。教職員の設定目標は、自己申告票をもとに、育成(評価)者との面談によって決定される。
教職員から提出された自己申告票に対して、育成(評価)者は、面談を実施し、児童生徒や保護者、同僚教職員などの意見も参考にしながら評価を行う。
評価では教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。
評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価でなされ、その結果は年度末に本人に開示される。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、実施規則第11条第1項に基づき、システムに係る評価結果について、各府立学校長から教育長に報告されたものであり、教育委員会事務局から書式が収録されたフロッピーディスクを各校長に配付し、校長が所属教職員の評価のデータを入力して、事務局に提出されたものである。
なお、実施機関では、このデータを集約して、府立学校全体の評価結果を毎年公表しているところである。
本件行政文書の記載内容は以下のとおりである。
(1)各学校毎職員の評価総括表(一覧表)
- ア 所属コード
- イ 所属名
- ウ 職員番号
- エ 漢字氏名
- オ カナ氏名
- カ 職名
- キ 業績評価
- ク 能力評価
- ケ 総合評価
- コ 備考
の各欄があり、キからコの欄については、記入要領に基づき、各府立学校長によって入力がなされたものである。
(2)各学校毎職員の評価総括表(集計表)
- ア 業績評価
- イ 能力評価
- ウ 総合評価
の各欄について、評価区分(S、A、B、C、D)ごとの人数の集計及び構成比(%)の分布がそれぞれ記載された2つの表で構成されている。これらの表は、(1)の一覧表のキ~ケの各欄にS~Dの評価区分を入力することにより、自動的に集計結果が表示される仕組みになっている。なお、この集計表は、校長が一覧表の記載に誤りがないか点検、確認するための便宜として設けられたものである。
3 本件決定の理由について
本件決定は、本件行政文書に記載された情報が条例第8条第1項第4号及び第9条第1号に該当することから、部分公開としたものであるところ、本件異議申立ての対象とされた集計表の「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の非公開理由は次のとおりである。
(1)条例第8条第1項第4号該当性について
教職員の評価は、前述のとおり、校長が個々の教職員ごとに、その業績及び能力について、絶対評価を行うことにより実施している。
本件情報を公開すると、学校間の評価結果の分布を比較することが可能となり、評価者(校長)ごとの評価分布の異同が明らかになることから、個々の評価者にとっては、自身の評価に対する批判を避けようとする心理や、あるいは他校とのバランスを図ろうとする心理が働き、所属教職員の評価に予断が生じることが考えられるなど、システムの公正かつ適切な運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。
また、府民にとっては、学校ごとの評価の分布の差が、所属教職員の資質・能力の差であると受け取られ、ひいては、学校自体の優劣を示すものと誤解されるおそれがある。そうすると、所属教職員や在校生等に対する偏見を生み、あるいは、学校の序列化につながるなど、今後の学校運営に著しい支障を及ぼすことも考えられる。
このように、本件情報は、教職員の人事管理に関する情報であって、公にすることによって、府民に誤解を与えるなど、当該及び同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報に該当する。
なお、実施機関においては、こうした事務執行上の支障を回避するため、学校ごとの評価結果は公表せず、全府立学校全体の評価分布を公表しているところである。
(2)条例第9条第1号該当性について
本件情報が公になると、各府立学校の教職員、生徒、保護者等の学校関係者にとっては、本件情報に個人の氏名等が直接含まれていなくても、数十人程度の限られた人数内における評価結果から、特定の職員の評価結果を類推できる場合がある。
たとえば、平成18年度の府立学校全体の総合評価の分布は、S:2.6%、A:38.8%、B:57.7%、C:0.8%、D:0.1%であり、この結果から明らかなように、多くの教職員がB又はAの評価を受けており、S、C、Dの評価を受けている教職員はごく少人数である。これを学校単位でみれば、CやDの評価を受けた教職員は、いるかいないかという程度の人数であり、仮に、ある学校にDの評価を受けた教職員が1名いることがわかれば、当該学校の関係者にとっては、日ごろの各教職員の仕事ぶりや言動等から、それがどの教職員のことであるかを具体的に類推できる場合がある。
また、当該評価が昇給や勤勉手当の成績率の判定に活用されていることから、当該教職員の昇給幅等も類推され得ることとなる。
これら教職員の勤務評価や所得等に関する情報は、個人のプライバシーに関わる情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報に該当する。
4 結論
以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 システムについて
実施機関は、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とするシステムを2年間にわたる試験的実施と試行実施を経て、平成16年度から本格的に実施している。
システムは、実施規則に基づき運営されている。府立学校における教諭の評価者については、1次評価者を教頭、2次評価者を校長とし、具体的な評価においては、教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。
なお、実施機関においては、システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務成績の評定とし、平成18年度の評価結果からは、翌年度の昇給や勤勉手当の支給割合にも反映している。
また、システムによる評価は、いずれも5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価であり、評価区分ごとの割合は、定められておらず、結果は年度末に本人に開示されている。
3 本件係争情報について
本件行政文書は、大阪府の各府立高等学校において作成された、平成18年度の評価総括表の「一覧表」及び「集計表」からなっている。本件係争情報は、本件決定における非公開部分のうち、評価総括表(集計表)の「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の各欄であり、これらには各府立高等学校の評価区分(S、A、B、C、D)ごとの人数の集計及び構成比(%)がそれぞれ記載されている。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件係争情報が条例第8条第1項第4号及び第9条第1号に該当することから非公開としたと主張するので、当審査会は、まず、本件係争情報が条例第8条第1項第4号に該当するか否かを判断し、なお必要があれば、条例第9条第1号について判断するものとする。
(1)条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。
同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
本件係争情報が上記(1)ア及びイの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。
本件行政文書は、実施規則に基づき、システムに係る評価結果について、各府立学校長から教育長に報告されたものであることから、本件係争情報は、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。
次に、本件係争情報が(1)イの要件に該当するかどうかについて検討する。
本件係争情報は、評価者である各府立高等学校の校長が、所属の教職員について行ったシステムによる人事評価における「業績評価」、「能力評価」及び「総合評価」の結果の評価区分ごとの該当人数に係る情報である。また、システムによる評価は、全て絶対評価であり、5段階の評価区分(S、A、B、C、D)ごとの割合は定められていない。
このような事情の下で、本件係争情報を公にし、各学校の評価結果の分布が明らかになると、今後とも、各校長が行うシステムによる人事評価に当たって、他校とのバランスを取ろうとしたり、自身の評価に対する所属教職員からの批判を避けようとする心理が働くことが想定され、評価結果が特定の評価区分に集中するなど客観的で公正な評価を行うことが困難になるおそれがあると認められる。
以上のことから、本件係争情報については、公にすることにより、システムによる人事評価に係る事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ、(1)イの要件にも該当する。
よって、本件係争情報は、条例第8条第1項第4号の規定に基づき、公開しないことができるものであり、条例第9条第1号該当性については、判断しないものとする。
5 その他の異議申立人の主張について
異議申立人は、本件請求時に、実施機関が、各高校毎の評価分布は「存在しない」と回答したことについて、「請求の文書が実際は存在するのに『存在しない』と述べるのは、請求する側には『確認する手段がない』のだから、絶対に許されるものではない。」と主張している。この点について、審査会において、実施機関に確認したところ、「本件請求に係る行政文書を『全ての学校の評価の分布が一覧になった表』であると理解したためであり、実際に存在する文書を故意に存在しないと説明したものではない。」とのことであった。
しかしながら、府民等は、通常、その知りたい情報について、実施機関がどのような行政文書を保有しているかを容易に知ることはできないものであり、公開請求時に誤解に基づいた情報が提供されると、府民等が公開請求を行う権利を損うこととなりかねない。当審査会としては、今後、実施機関において、条例第7条第5項の規定に基づき、公開請求を行おうとする者に対して、公開請求に係る行政文書の特定に必要な情報を提供するに当たっては、府民等が求めている情報の内容及びこれに該当する行政文書の保有の状況について、慎重に確認し、条例に基づく公開請求を行う権利の行使を阻害することのないよう、努められることを望むものである。
また、異議申立人は、実施機関が本件決定において、集計表については条例第9条第1号を非公開理由としていないのに、弁明書で理由を新たに追加したと主張しているが、本件決定に係る決定通知書においては、一覧表と集計表とを特に区分することなく、条例第8条第1項第4号と併せて、条例第9条第1号に該当することを非公開理由として掲げているものと解されるから、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。
6 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、曽和俊文、小松茂久、鈴木秀美