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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第155号)
水質汚濁防止法に基づく採水検査結果部分公開事案
(答申日 平成20年4月22日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないことと決定した部分を公開すべきである。
第二 異議申立ての経過
- 平成19年7月13日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「大阪府が行った泉佐野市内における採水検査の結果、水質汚濁防止法に定められた排水基準値を超過した工場名及びその住所が判るもの。(対象期間:平成18年度~平成19年現在まで)についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年7月26日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
水質検査結果のうち、排水基準を超過した泉佐野市内にある事業場に関する部分(平成18年4月1日~平成19年7月13日) - (2)公開しないことと決定した部分
排水基準を超過した事業場名 - (3)公開しない理由
条例第8条第1項に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、排水基準を超過した事業場名が記載されており、これを公開した場合、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため。
- (1)行政文書の名称
- 同年9月21日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全ての情報の公開を求める。
第四 異議申立ての主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
水質汚濁防止法による調査結果において、違反したしないに関わらず全てのデータを公開することでクリアした事業場は励みになり、基準を超過した事業場は基準クリアのため更なる改善への努力を行政の呼びかけに関わらず自ら進んで自主的にする、という仕組みが大切だからである。法の検査を受けるほどの規模の事業場名や所在地は、どう考えても“個人情報”とは考えられない。“お金”を払って済む問題でもない。ましてその“罰金”すら払っていない事業場の利益が“正当な利益”にはなりえない。検査をしている費用などは税金であることから、国民に知る権利がある。それにも関わらず公開しない、できないというのは社会に対し公平さや公正さ、又は信頼を欠く行為であり国民を権力で踏みにじり欺くものである。基準を超過した、しないに関わらず府が検査した全ての事業場に対する差別行為にも該当し、この条例の内容では国民が変に懐疑心を持つ。法の基準を超過した事業場はその時点で既に条例第8条第1項にある“人の生命身体もしくは健康に対し危害を及ぼすおそれがある事業活動”という文言に当てはまっている、にも関わらず該当する事業場が除かれずに、その1項の中の文言が今回の異議申立てに対する部分公開決定通知書の“公開しない理由”に挙げられたことは、行政自らの条例違反に当たる。条例を、その趣旨や意義を含め内容を府民と共に見直すべきである。“住民の目”をもう少し意識していただきたい。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 採水検査及び排水基準について
水質汚濁防止法(以下「法」という。)第22条第1項において、「都道府県知事は、この法律の施行に必要な限度において、政令で定めるところにより、特定事業場の設置者又は設置者であった者に対し、特定施設の状況、汚水等の処理の方法その他必要な事項に関し報告を求め、又はその職員に、その者の特定事業場に立ち入り、特定施設その他の物件を検査させることができる。」と規定されており、府は同規定に基づき特定事業場への立入検査を行い、定期的な採水検査も実施している。
一方、排水基準は、法第3条第1項の規定に基づく環境省令により、全国一律に適用されるいわゆる一律基準が定められている他、府では、法第3条第3項の規定に基づき、「水質汚濁防止法第3条第3項の規定による排水基準を定める条例」を制定し、一律基準で定める許容限度より厳しい基準(上乗せ基準)を定めている。
2 排水基準を超過した場合の対応について
排水基準を超過した場合、内規で定めた「水質指導マニュアル」に従い、度重なる指導に従わずに継続的に基準超過を繰り返した場合や、公共用水域に重大な影響を与える恐れがある場合は、法に基づく改善命令を行うとともに、必要に応じて公表を行っているが、それ以外の場合は行政指導で対応すべき事案とし、原則として事業者を呼び出し、排水基準を超過した原因の調査を行っている。
排水基準を超過した原因を大別すると、担当者の作業ミスに起因する一過性のもの、生産設備の運転方法の変更や排水処理施設の維持管理の不備によるもの、事故等の突発的な原因によるものに分類される。
これらの原因の究明を行った後に、必要に応じて、事業者に改善措置を講じさせた上で、改善後の水質の報告も含めた「改善措置報告書」の提出を行わせ、必要に応じて行政による再度の採水検査を実施している。
また、改善にある程度の期間を要するものについては、応急的措置を講じさせた上で、恒久的措置についてまとめた「改善措置計画書」の提出を行わせ、その後、改善内容の確認を行っている。
今回、部分公開の決定通知を行った6事業場については、度重なる指導に従わずに継続的に基準超過を繰り返した場合や、公共用水域に重大な影響を与える恐れがある場合に該当しないため、行政指導を行い、既に、全ての事業場が改善済または改善中となっている(改善済が5事業場、改善中が1事業場。)。
3 本件行政文書(係争部分)について
本件行政文書は、採水検査の結果を検体毎に整理したものであり、事業場名、事業場が存在する市町村名、水域名、採水箇所名、採水日、検体番号、検査の項目、基準、分析結果、備考及び採水検査を行った担当者名が記載されているものであり、本件決定において事業場名を非公開とした。
4 本件決定の適法性について
(1)条例第8条第1項第1号に該当することについて
ア 条例第8条第1項第1号について
条例第8条第1項第1号においては、法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)に該当する情報が記載されている行政文書を公開しないことができる旨が規定されている。
イ 本件行政文書が条例第8条第1項第1号に該当することについて
今回の請求内容に該当する事業場については、2で述べたように、実施機関が行った行政指導により既に改善済又は改善中であり、改善済の事業場についてはその後、排水基準が遵守されていることも確認できており、改善中の1事業場についてはその改善について順次確認を行い、行政指導を継続している状態である。
この様な状況の中で、工場名を公表すると、事業者の信用失墜などによる商取引に影響を与えることから、「公にすることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」として条例第8条第1項第1号に該当する。
ウ 条例第8条第1項第1号の「例外公開情報」について
本件決定の根拠とした条例第8条第1項第1号には、「人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。」という「例外公開情報」の規定があり、異議申立書にもこの部分に触れた記述がある。
当規定前半部分の「人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある」とは、現在、生命等への危害が発生している状況があること、あるいは過去又は現在の状況から類推して、将来、生命等への危害を及ぼす蓋然性が高い場合が該当し、具体的には健康項目に係る排水基準違反があり、その程度が大きい若しくは環境に著しく影響を及ぼしている場合が挙げられるが、今回の場合は、超過の程度が大きくなく、かつ、環境に著しい影響を及ぼしていないため、前述の「例外公開情報」には該当しない。
なお、泉佐野市内を流れる河川において府が行っている常時監視の結果、健康項目はここ10年間、全ての項目において環境基準を超過していない。
5 結論
以上のとおり、本件決定は、条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 水質汚濁防止法に基づく特定事業場への指導について
法第22条第1項においては、都道府県知事は、特定事業場の設置者又は設置者であった者に対し、特定施設の状況、汚水等の処理の方法その他必要な事項に関し報告を求め、又はその職員に特定事業場に立ち入り、特定施設その他の物件を検査させることができる旨規定されている。実施機関は、同規定に基づき、府域に設置された特定事業場への立入検査を行い、定期的な採水検査を実施している。
排水基準については、法第3条第1項の規定に基づく環境省令により、全国一律に適用される一律基準が定められており、さらに、府においては、法第3条第3項の規定に基づく「水質汚濁防止法第3条第3項の規定による排水基準を定める条例」により、一律基準で定める許容限度より厳しい基準(上乗せ基準)を定めている。
実施機関においては、排水基準を超過した事業場に対して、行政指導を行い、水質の改善を指導することとしており、内規で定めた「水質指導マニュアル」に従い、排水基準を超過した原因の究明、事業者の呼び出し、聞き取り、改善措置報告書の作成・提出、立入検査、採水検査などにより改善内容の確認を行っている。実施機関の指導に従わずに継続的に基準超過を繰り返した場合や、公共用水域に重大な影響を与えるおそれがある場合は、法第13条に基づく改善命令を行うとともに、必要に応じて事業場名の公表を行っている。
本件行政文書に記載されている事業場については、排水基準を超過したため、行政指導が行われており、概ね改善されたものであるが、1事業場においては、排水基準の超過が続いており、引き続き行政指導が行われているところである。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、実施機関が法に基づき、平成18年8月31日から10月26日の間に、泉佐野市内の複数の特定事業場に対して実施した水質検査の結果である。
本件行政文書には、事業場の名称、市町村名、水域名、採水箇所名、採水日・時、検体番号、検査項目とその項目に対応する基準・分析結果、実施機関の担当室名及び採水者名が記載されている。実施機関は、本件行政文書のうち、事業場名(以下「本件係争情報」という。)を非公開としている。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
本件係争情報について、実施機関は、本件決定に係る決定通知書では、「条例第8条第1項に該当する」とのみ記載しているが、決定通知書及び弁明書の内容から条例第8条第1項第1号に該当すると主張するものと認められるので、以下検討する。
(1)条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 法人(国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体を除く。)その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)が記録された行政文書を公開しないことができる旨定めている。
(2)本件係争情報の条例第8条第1項第1号該当性について
本件係争情報は、実施機関が法に基づき、法第2条に定める特定事業場に対して水質検査を行った際の事業場の名称であることから、(1)アの要件に該当することは明らかである。
次に、本件係争情報が(1)イに該当するかどうか検討する。
この点について、実施機関は、2に記載のとおり、排水基準を超過した事業場に対しては、まず、行政指導により水質の改善を求めた上で、実施機関の指導に従わずに継続的に基準超過を繰り返した場合や、公共用水域に重大な影響を与えるおそれがある場合に限って、事業場名の公表を行っているとしている。このため、過去に水質検査を実施した時点で基準を超過した事業場の中には、行政指導により既に水質の改善がなされた事業場があるうえ、現在、行政指導を継続中の事業場もあることから、事業場名を公にすると、事業者の信用失墜などにより商取引に影響を与えると主張する。
しかしながら、水質検査の対象となる特定事業場が、排出基準(法第3条第3項の規定に基づく条例で定めるより厳しい排出基準を含む。)に適合しない排出水を排出する行為は、法第12条第1項の規定により禁止されている違法行為であり、これに違反した場合は、法第31条に規定する罰則の対象となることからすると、当該事業場を経営する法人が、情報の公開によって一定の影響を被ることはやむを得ないものである。さらに、本件水質検査の対象となる排出水は、事業場から外部の公共用水域に排出されるもので、実施機関でなくても、一定の装備さえあれば、その水質を把握することが可能であること、また、当該事業場において、速やかに排出水の水質改善に努め、その結果を公表したり、説明を十分に行うなどにより、信用の回復を図ることが可能であることからすると、本件係争情報を公にすることにより、当該事業場を経営する法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまで言うことはできない。
以上のことから、本件係争情報については、条例第8条第1項第1号には該当せず、公開すべきである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、松田聰子、岩本洋子