ここから本文です。
農空間リアル・インタビュー『辻本正直さん』(株式会社KANSOテクノス)
南河内の農空間>農空間リアル・インタビュー>株式会社KANSOテクノス
農空間リアル・インタビュー 辻本正直さん(株式会社KANSOテクノス)
【概要】
建築・土木・環境分野を主分野とする一方で、令和2年度から河南町でのイチゴ栽培にも取り組み始めた関西電力グループ会社の株式会社KANSOテクノス。異業種である農業に挑戦されたきっかけや目標等をアグリ事業グループ チーフマネージャーの辻本さんに伺いました。
株式会社KANSOテクノス環境部 アグリ事業グループ チーフマネージャー 辻本正直さん
リアルインタビュー
Q1.KANSOテクノスは関西電力グループの一員ですが、今回農業分野へ参入した経緯やきっかけを教えてください。
A1.関西電力の発電事業には『地域共生』という理念が掲げられており、発電所のある地域の農業や漁業を電気で支えていくため、農業電化の研究や開発を行ってきました。これまで、地域の人たちと一緒になって農業電化の研究を行っており、10年以上前にトマトの栽培から始め、現在はイチゴなども扱っています。親会社である関西電力が新規事業の開拓を推進していることもあり、「研究成果や技術を応用して農業をしてみよう」ということになったのが事業参入のきっかけです。
Q1-2.農業をする土台はあったということですが、実際に農業にチャレンジされようとして、何か問題はありましたか?
A1-2.あくまで本業はコンサルティングなので、試験研究はしていても、実際に「モノを作って売る」ということは初めてだったので、それが最大のネックになりました。そこで千葉のイチゴの生産会社と業務提携をして、栽培技術の提供をしてもらったり、販売ルートを共同で使わせてもらったりしています。
ハウスの外観と内部の様子
Q2.今回の参入地であるこの河南西部地区(河南町寛弘寺地内)は、大阪府営の農地開発事業で整備された地区です。ここで農業をしようと決めた決め手は何ですか?
A2.まず農業をするにあたって、電気が来ている、最低3,000平方メートルの区画が確保できる、消費地に近いなどの条件から大阪府内で土地を探しました。広い区画を確保、という観点では泉州や能勢町などもあてはまるのですが、見知らぬ土地より私の生まれ故郷でもある地元の南河内地域で探すことにしました。まず知人である[道の駅かなん]の駅長に相談にしたところ、大阪府が取り組んでいる『南河内いちごの楽園プロジェクト』が始まったところなので「イチゴを作りたいなら大阪府に相談してみては?」と言われました。そこで大阪府に相談しましたら、この地区を薦めていただきました。
平坦で広い区画もある上に、地元の人が「ウェルカム!」と言ってくれるようなところで農業したかったので、河南町も土地改良区も積極的に協力していただけたこの地区に決めました。
河南西部地区の農地
Q3.地元の農家さんとの関わり方や、企業として農業に参入されたなかで苦労した話について教えてください。
A3.地元の農家さんとは、大阪府開催のイチゴアカデミーに参加させていただく中で、先生や卒業生とのつながりができ、いい関係を築けていると思います。企業はやっぱりよそ者ですから、地元の方の迷惑にならないように、「一緒に地域を盛り立てていけるように!」と考えています。
ただ、最初に農業参入の話を持ちかけてから実際に農業が開始できるまで時間がかかったので、「ほんとにここで農業するの?」と言われたことがありました。そのため、地元農家さんに忘れられないよう、河南西部地区にはマメに通って顔を出しました。
Q3-2.時間がかかったのは何故でしょうか。
A3-2.社内の調整に、どうしても時間がかかりました。やはり農業は儲からないというイメージが根強く、「作っても売れるの?」という疑念を払拭できるような事業計画を作っていくことにだいぶ苦労しました。しかし、去年1年間イチゴを作ってみると、想定以上に収穫できたので、社内の人たちには驚かれましたね。
Q4.これまで農業電化を研究してきた成果を生かして、農業分野へ参入されたということですが、このイチゴ栽培施設についてこだわりや特徴を教えてください。
A4.栽培技術は千葉の会社に教えてもらっており、日々のイチゴの栽培管理などは千葉とオンラインで情報共有しています。朝に農場へ来て、イチゴの写真を撮って千葉に送ると「ちょっと葉っぱの色が悪いので肥料ちょっと濃くしときますね」というような返答があります。将来的にはカメラを設置して、大阪や千葉から直接農場の様子がわかるようになればと考えています。
また、関西電力の特許技術である局所空調システムを導入しています。イチゴは冷気にさらされないと花芽を付けないので、ヒートポンプの冷房機能を使って、イチゴの根元周りだけに冷気を当てて、花芽の分化を促します。普通ならイチゴが市場に出回るのは12月ごろからですが、こうすると10月や11月から収穫できるようになるのです。他の地域での試験ではうまくいったので、この農場でも一部導入しています。
イチゴの苗の根本をビニールで覆い、ヒートポンプからダクトを通じて直接冷気を送るしくみ
Q4-2.結果はどうでしたか?
A4-2.これが、うまくいきませんでした。大阪府は他の地域と比較して暑い上に、去年の猛暑により思うようにイチゴが冷えず、期待に反して収穫できたのは通常通りの12月頃でした。ただ、早く植えた分だけ苗が大きくなるので、その分どっさり収穫できました。今年は再チャレンジを計画しています。
最終目標として、一年中イチゴが収穫できるようになったら、と思っています。そうなれば、例えば8月でも河南町に行けばイチゴが並んでいる、といった産地化・差別化ができるかなと。このようなチャレンジは企業しかできないことなので、手探りでも進めていきたいと考えています。
Q5.事業開始からおよそ1年経ちましたが、現状や取組みを通じて見えた課題があれば、教えてください。
A5.やはり、1年間業務提携してイチゴの栽培を教えて頂きましたが、初めての経験なので、業務提携先から「これをして」と言われても、「何を言ってるの?」と戸惑う時がありました。しかし、実際やってみるとほんとにその通りだ、と。
「たくさんイチゴができるから、準備しておいて」と言われていたんですが、こちらとしてはそんなに収穫できるとは思ってなかったんです。しかし、想像以上にイチゴができたので、収穫が追い付かない。そんな中で、「もっと人手がいるな」とか「作業効率や段取りがどうこう」というのは、教えてもらうことが難しい感覚なんです。すべての仕事がそうですが、農業は自然相手なものですから、全部マニュアル通りとはいかないものです。それでもこれをデータ化し、マニュアル化して、誰でもできるようにしていく、というのが大事なのかなと考えています。最終的にはAI化して、こういう条件なのでこうしてください、って判断するところまでいけたらと考えています。
収穫したいちごをパッキングする様子
Q6.企業として農業に取り組む中で、今後の展望や目標について教えてください。
A6.今は私たちが教えてもらっている立場ですが、数年もすれば一通りできるようになるかなと思います。そうなったら、今度は逆に、私たちが誰かに教えてあげられるようになりたいですね。
例えば、新たに就農される方については、「栽培技術は全部教えます。できたイチゴもうちが全部買い取ります。販売ルートもうちのを全部使っていただいて結構です」と言ってあげたい。そうすれば新しく農業を始める方も気兼ねなく入っていける。特に昨今コロナの状況もあり、若い方でも農業したいなという方が多いように思います。でも「資金がない」「技術がない」と。であれば、私たちが全部教えます。建物や設備もこちらで用意して、リースで借りてもらってもいいと考えています。
このように、担い手をどんどん増やしていって、できたイチゴは全部私たちで買い取って、売っていけたら、と。我々も企業なので儲けないといけないですが、他の皆さんも儲かって、皆でwin-winになるようなシステムが構築できたらと考えています。
農業は体一つあれば何とかなると思っている人が結構多いと思いますが、そうではないんです。機械も設備も、当然販路も必要です。できるだけそういうものを私たちでフォローしてあげて、本当に体一つで就農できるような体制を、整えてあげたいなと。それも企業しかできないことだと思っています。
また、少し話は大きくなりますが、地域のPR活動として、河南町に来れば年中農業体験できるような、観光農園事業に今後取り組んでいきたいと思っています。単に河南町だけのPRとしてしまうと、なかなか人を呼び込むことは難しいと思うので、河南町という「点」の取り組みでPRするのではなく、南河内という「地域」としてPRできればと考えています。南河内はイチゴだけではなく、ブドウの栽培もしているほか、金剛山や他の観光地もある。様々な地域の取り組みの中心に立って、PRのお手伝いをできたらと思っています。
いずれにしても「農業」をキーワードに色々取り組んでいきたいと思っています。
ありがとうございました。
関連事業はこちら
南河内いちごの楽園プロジェクト(農の普及課)