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大阪府情報公開審査会答申(大公審第211号)
薬事法指導関連行政文書部分開示決定異議申立事案
(答申日 平成24年2月7日)
第一 審査会の結論
- 実施機関は、本件異議申立てに係る部分公開決定で開示した行政文書について、別表1に示すとおり公開すべきである。
- また、実施機関は、本件異議申立てに係る部分公開決定で開示した「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」について、「名刺、商品カタログ、インターネットホームページ、動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書、飼育動物診療施設開設届、地図、会社概要」を対象行政文書に加え、本審査会の結論の趣旨を踏まえ、併せて公開・非公開の決定を行うべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成22年9月24日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、条例第6条の規定により、次の2件の行政文書公開請求(以下総称して「本件請求」という。)を行った。
- (1)株式会社○○○○に関するもの
- ア 平成21年1月1日から平成22年9月30日までの間に株式会社○○○○に対して行われた、立入検査その他の調査・改善指導(以下、「立入調査等」という。)に関する報告書・指導書(検査報告書・調査報告書・改善指導報告書、指導書を含みこれに限られない。)及び立入調査等に関する一切の資料(調査経過において入手した文書、画像、関係者からの聞取りに関するメモ・録取書、行政側担当者のメモ等を含みこれに限られない。)
- イ 株式会社○○○○が動物用医薬品の一般販売業許可を取得した経緯及び指導内容に関する文書・許可申請書類
- ウ △△△△に対する立入調査報告書、指導書
- (2)株式会社□□□□に関するもの
- ア 平成21年1月1日から平成22年9月30日までの間に株式会社□□□□に対して行われた、立入検査その他調査・改善指導(以下、「立入調査等」という。)に関する報告書・指導書(検査報告書・調査報告書・改善指導報告書、指導書を含みこれに限られない。)及び立入調査等に関する一切の資料(調査経過において入手した文書、画像、関係者からの聞取りに関するメモ・録取書、行政側担当者のメモ等を含みこれに限られない。)
- イ 株式会社□□□□が動物用医薬品の一般販売業許可を取得した経緯及び指導内容に関する文書・許可申請書類
- (1)株式会社○○○○に関するもの
- 平成22年10月20日、実施機関は、本件請求のうち、上記1(1)(ただし、不存在による非公開決定を行った上記1(1)ウの部分を除く。)に対応する行政文書として次のアからエを、本件請求のうち上記1(2)に対応する行政文書として次のア、イ及びオを特定の上、本件請求について、各々、別表2の公開しないことと決定した部分を除いて公開するとの部分公開決定処分(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を異議申立人に通知した。
- ア「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」
- イ「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」
- ウ「動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H20年5月22日受付)」
- エ「動物用医薬品卸売販売業許可申請書類一式(H22年2月19日受付)」
- オ「動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H21年12月3日受付)」
- 条例第8条第1項第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影等が記録されており、これらを公にすることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。 - 条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人に対する指導内容等に係る部分が記録されており、これらは薬事法に基づき事業者に対して行う指導・調査等の事務に関する情報であって、これらを公にすることにより、今後、指導の際に関係者の協力が得られなくなるなど、当該指導事務若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすと認められる。 - 条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人従業員の氏名等が記録されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる。
- 平成22年12月20日、異議申立人は、実施機関に対し本件決定を不服として行政不服審査法第6条の規定により、その取消しの決定を求める異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分の取り消し及び全部公開を求める。
第四 当事者の主張要旨
1 異議申立人の異議申立書での主張要旨
(1)行政文書の存在について
まず、申立人は、本件請求について、「立入検査その他の調査・改善指導に関する報告書・指導書(検査報告書・調査報告書・改善指導報告書、指導書を含みこれに限られない。)及び立入調査等に関する一切の資料(調査経過において入手した文書、画像、関係者からの聞き取りに関するメモ・録取書、行政側担当者のメモ等を含みこれに限られない。)」の公開を申し立てているが、それらについて、「存在する」ものとして処分庁が本件処分において回答した資料は、本件「薬事法関係コンプレインリスト」及び「薬事監視指導概要復命書」(平成22年8月26日の出張に関するもの)のみであった。
しかしながら、薬事監視指導概要復命書の作成は、薬事法に基づく立入検査の目的で行われた出張の報告のために行われたものであるところ、復命書以外に同立入検査結果を記載または記録した文書・資料が存在しないとは到底考えられない。また、上記復命書は、あくまでも薬事監視指導の「概要」に関する復命書であって、これ以外に、当該公務員の出張の契機となった原因や出張の必要性を復命担当者の上司や動物愛護畜産課内外に説明する説明文書及び稟議書類、復命書作成後に畜産衛生グループ又は動物愛護畜産課において行われた判断や課として行った対象者(○○○○)への指導の内容を記載した指導書類も別途作成されているはずである。(これらの文書も作成せずに、行政が過怠なく正常に運営されているとは想定し難い。)従って、○○○○に関する薬事監視指導概要復命書、○○○○及び□□□□に関する薬事法関係コンプレインリスト以外に、○○○○・□□□□に関して作成された、「立入調査等に関する報告書・指導書(検査報告書・調査報告書・改善指導報告書、指導書を含みこれに限られない。)及び立入調査等に関する一切の資料(調査経過において入手した文書、画像、関係者からの聞き取りに関するメモ・録取書、行政側担当者のメモ等を含みこれに限られない。)」の有無を明らかにしないのは違法であり、かつ、当該行政文書・資料の公開を行うべきである。
尚、申立人担当者は、処分庁担当者と面談の上、少なくとも○○○○に対しては、大阪府は平成21年7月6日、7月10日、8月4日、9月2日、10月9日、10月13日に薬事法に基づく立入検査を行っている旨、かつこれらの立入検査にあたっては、大阪府が○○○○に対して商品流通に関して指導した旨を聞いていた。その際に、処分庁担当者は手元の文書ファイルを確認しながら申立人担当者に説明していた。従って、上記立入検査に関する復命書や立入検査結果、指導書の存在が部分公開決定に当たって存在する旨明示されず、平成22年8月26日実施の監視指導の復命書のみが存在する旨示されているのは、全く理解できないことである。平成21年7月6日、7月10日、8月4日、9月2日、10月9日、10月13日に立入検査が行われていることは確実であるので、それに関して作成された文書の有無は明らかにされるべきであるし、その公開もなされるべきである。
(2)公開しないことと決定した部分について
- ア 本件請求に関して、本件行政文書の非公開部分に関する非公開理由は、複数ある文書の内どの文書のどの部分をさして述べているのか判らないものであり、不適法である。
- イ 仮に、百歩譲って、非公開理由は非公開部分全てに関するものであると善解したとしても、本件決定における非公開理由は本件に妥当するものではなく、理由として不適切であって、そのような理由に基づく本件非公開部分に係る決定は違法である。
特に、処分庁が存在を認めた文書のうち「薬事監視指導概要復命書」については、復命事項・復命結果その他内容に関しては一切黒塗りがなされており、公開されていない。
公開しない理由の内、「本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影等が記録されており、これらを公にすることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。」とするものや、「本件行政文書(非公開部分)には、法人従業員の氏名等が記録されており、これらは特定の個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる。」については、印影部分や特定の個人名のみを黒く塗りつぶして公開することでその目的は達成するものであって、内容全体につき非公開とする理由にはならない。
また、公開しない理由の内、「法人に対する指導内容等に係る部分が記録されており、これらは薬事法に基づき事業者に対して行う指導・調査等の事務に関する情報であって、これらを公にすることにより、今後、指導の際に関係者の協力が得られなくなるなど、当該指導事務若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり・・・」とする点については、そもそも、動物用医薬品含め、医薬品の販売業の許可を受けた者は、薬事法上、例えば同法に基づく立入検査等(69条)に応じる義務があり、立入検査を拒んだ場合には罰則(87条)が設けられている。また、薬事法上の許可を得ている以上、同法違反の疑いその他監督官庁からの行政指導に対しては従うべき義務がある。特に、本件の場合、復命書対象の調査が行われた平成22年8月26日の段階では、○○○○は、動物用医薬品販売業(店舗販売)の許可を得て、ペット健康便として動物薬をネット販売している販売業者であって、薬事法を遵守する義務を負っているのであって、監督官庁である処分庁の立入検査その他の調査、指導には、単なる協力ではなく、法律上当然に従わなければならない義務があるのである。従って、処分庁が「今後、指導の際に関係者の協力が得られなくなるなど、当該指導事務若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり」と述べる点は全く理由にならない。
さらに、本件非公開部分には、復命事項や出張目的も記載されているはずであるが、ここも公開されていない。復命事項や出張目的を明らかにしたとしても、今後、指導の際に関係者の協力が得られなくなるものではない。
「薬事法関係コンプレインリスト」についても、その内容については一切非公開とされているが、ことさらに内容全体につき非公開とする理由は見当たらない。法人の印影や個人名等についてもその部分だけ黒塗りをして非公開とすれば、その目的は達成されるものと考えられ、全体として内容を非公開にする理由にはならない。
従って、本件請求に関して、本件行政文書1、2のうち非公開とした決定部分は大阪府情報公開条例第8条第1項第1号、同条同項第4号、9条第1号のいずれにも該当せず、違法な処分であって取り消されるべきである。
2 弁明書における実施機関の主張要旨
(1)薬事行政における動物用医薬品販売業への規律及び実施機関における運用について
薬事法に基づく立入検査及び指導のあり方について、保健衛生上有害な動物用医薬品の供給を防止するために、薬事法は、医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障及び保全上の種々の厳重な規制を設けている。また、これらの規制違反に対しては、罰則及び承認や許可の取消等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改善命令、薬剤師の増員命令、業務運営の改善命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、更に行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構として薬事監視員が設けられている。これらはいずれも、薬事関係各種業者の業務活動に対する規制として定められているものである。
実施機関としては、動物用医薬品販売業者の薬事法違反について、法の趣旨にのっとり、厳正に対処すべきものであると認識している。しかし、実施機関に認められている立入検査等の権限は、相手方の権利、自由を制限するものであるから、慎重に行使しなければならない。
薬事法違反に対して、厳正に対処すべきなのは当然であるが、薬事法に違反するかどうか疑わしい案件等も多数存在し、かかる案件については、迅速な事態の把握に努め、事業者の自主的かつ迅速な改善に委ねるほうが、より法の趣旨に合致することから、実施機関ではその最小限の措置として、薬事法違反の疑い等を把握するため苦情内容等を記録する「薬事法関係コンプレインリスト」(後述)、及びかかる指導等の顛末を記録する「薬事監視指導概要復命書」(後述)を利用し、苦情・相談・指導等を行い、薬事行政の適正な運営を図っている。
(2)本件行政文書の基本的性格及び記載されていた内容等について
ア「薬事法関係コンプレインリスト」と「薬事監視指導概要復命書」の基本的性格について
- (ア)「薬事法関係コンプレインリスト」
薬事法に関する苦情・相談・情報提供等を事案ごとに取りまとめたものである。事案によっては電話でのやりとりや聞き取った内容を記載するだけでなく、法の規定に違反しているかどうかを確認するために、職員が実施した立入調査の結果を記載する場合もあるが、この書面が作成されているからといって違反事例の対象であると判断されるものではない。 - (イ)「薬事監視指導概要復命書」
薬事法に違反するかどうか疑わしい案件について、より迅速かつ適正な対応を図るため、違反の有無及び指導内容の軽重にかかわらず、出張した職員が監視指導した結果を記載するものである。
イ「薬事法関係コンプレインリスト」と「薬事監視指導概要復命書」に記載されていた内容等について
- (ア)「薬事法関係コンプレインリスト」
今回の部分公開対象となった「薬事法関係コンプレインリスト」については、21年度調査の発端となった経緯をはじめ、実施機関が薬事法違反などの事実を明らかにするために、本件調査を実施し、本件事案に関係のある動物用医薬品等の購入先や販売状況等、実施機関が薬事法の違反ないしは疑い事例の指導・監督等の事務を実施していくために、情報収集した結果が記載されている。 - (イ)「薬事監視指導概要復命書」
今回の部分公開対象となった「薬事監視指導概要復命書」については、出張したことに係る復命に加えて業者から聴取した22年度調査の内容及び職員が確認した内容が記載されている。
(3)本件非公開部分の妥当性について
ア 条例第8条第1項第1号該当性について
- (ア)条例第8条第1項第1号は、
- a 法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- b 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものが記録されたもの
- (イ)上記(ア)aの要件について
法人代表者の印影、連絡先電話番号、店舗内平面図等であり薬事法上の許可申請業務にあたり、申請を行う法人等から入手した情報であり、(ア)aの要件に該当する。 - (ウ)上記(ア)bの要件について
「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものをいうところ、法人代表者の印影については、公にすることにより取引の安全を害する恐れがあり、連絡先電話番号については公にされていない法人の電話番号であること、店舗内平面図等は、防犯上の安全対策の点から、(ア)?)の要件に該当する。
以上のことから、本件非公開部分に記載された情報のうち、上記ア(イ)の情報は、条例第8条第1項第1号に該当し、公開しないこととしたものであり、ア(イ)について、異議申立人主張のように不明瞭であるとは認められない。
イ 条例第8条第1項第4号該当性について
- (ア)条例第8条第1項第4号は、
- a 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業管理等の事務に関する情報であって、
- b 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの
そして、上記aに列挙された事務は例示であり、これらに類する事務に関する情報についても、bの要件を満たす場合には、公開しないことができるものである。
また、bの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものとは、公開することにより、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力が得にくくなるおそれがあるものなどをいうものである。 - (イ)(ア)aの要件について
本件行政文書の「薬事法関係コンプレインリスト」や「薬事監視指導概要復命書」については前記(2)イにあるように、実施機関が、薬事法に係る苦情相談において、本件動物用医薬品販売業者及びその関係者から聴取した内容が記載されている。これは、薬事法違反などの事実を明らかにするために、本件調査を実施し、本件事案に関係のある動物用医薬品等の購入先、販売状況等、実施機関が薬事法の違反ないしは疑い事例等の指導・監督等の事務を実施していくために、情報収集した結果を記載したものである。このことから(ア)?)の要件に該当する。 - (ウ)(ア)bの要件について
本件行政文書の「薬事法関係コンプレインリスト」や「薬事監視指導概要復命書」に記載された内容については、前記イにもあるように、本件関係者から本件事案の事実を明らかにするために本件調査を実施し、本件事案に関係のある動物用医薬品等の購入先、販売状況等、本件関係者から聴取した内容、すなわち薬事法に違反する事実の有無等の確認を中心に、違反があった場合には、その経緯、違反の内容、理由、動物用医薬品販売業者に対する指導、助言、勧告又は監督処分の基礎をなす情報が記載されている。
この内容を公開するのであれば、動物用医薬品販売業者は、自己の信用の低下や業績に対する悪影響を考慮し、実施機関の事情聴取に対して、事実を述べることを差し控え、又は、任意の事情聴取に応じない等の対応を取ることが予想され、実施機関は、違反事実や取引上の問題点を画するための情報を得ることが難しくなるとともに、紛争解決や業務改善のために必要な理解・協力を得ることが困難になる。
また、本件事案は薬事法上の不利益処分には至らなかった事案であるにもかかわらず、本件非公開部分が公開されることで指導、助言等の内容が公開されることになり不利益処分と同等の効果を及ぼすこととなる。これは大阪府行政手続条例に定められている「不利益処分をしようとする場合の手続」を逸脱することとなり、事務の公正かつ適正な執行を著しく損なうものである。
したがって、聴取の内容における非公開部分に記載された情報が公開されると、今後実施機関が、紛争解決及び薬事法に基づき、動物用医薬品販売業者等に対して行う指導・調査等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすことになり、薬事法の目的である保健衛生上有害な動物用医薬品の供給を防止することが困難になることから、(ア)?)の要件に該当する。 - (エ)以上のことから、本件非公開部分に記載された情報のうち、上記イの情報は、条例第8条第1項第4号に該当し、公開しないこととしたものである。
ウ 条例第9条第1号該当性について
- (ア)条例第9条第1号について
条例第9条第1号は、- a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該情報に関する情報を除く。)であって、
- b 特定の個人が識別され得るもののうち、
- c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの
- (イ)上記(ア)aの要件について
本件の非公開部分は、個人の印影、生年月日、診断書及び雇用契約書等である。これらは個人のプライバシーに関する情報であり、上記(ア)aの要件に該当する。 - (ウ)上記(ア)bの要件について
上記の個人の印影、生年月日、診断書及び雇用契約書等の情報は、直接的に、又は他の容易に入手し得る情報と結合することにより個人を特定することができるものである。したがって、上記イの情報は、上記(ア)bの要件に該当する。 - (エ)上記(ア)cの要件について
個人にとって、個人の印影、生年月日、診断書及び雇用契約書等のプライバシーに関する事実は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報である。したがって、上記イの情報は、上記(ア)cの要件に該当する。
以上のことから、本件非公開部分に記載された情報のうち、上記イの情報は、条例第9条第1号に該当するものである。
(4)行政文書の存在及びその他の事項について
今回の異議申立書において、異議申立人は、先に情報公開請求により部分公開された文書以外にも立入検査結果を記載または記録した文書・資料が存在するかのように述べており、請求内容に合致した決定ではないと主張している。
しかしながら、異議申立人の主張には理由がない。
大阪府情報公開条例第7条第1項第2号の「行政文書を特定するに足りる事項」とは、請求に係る情報が記録された行政文書やファイルの名称だけでなく、事務事業の具体的な名称、年度、期間など実施機関において合理的に行政文書が特定できる事項を含むものであり、本件請求における記載「株式会社○○○○及び株式会社□□□□に関して作成された立入検査その他の調査・改善指導(以下、「立入調査等」という。)に関する報告書・指導書(検査報告書・調査報告書・改善指導報告書、指導書を含みこれに限られない。)及び立入調査等に関する一切の資料(調査経過において入手した文書、画像、関係者からの聞取りに関するメモ・録取書、行政側担当者のメモ等を含みこれに限られない。)」を合理的に解釈した「当該公務員の出張の契機となった原因や出張の必要性を復命担当者の上司や動物愛護畜産課内外に説明する説明文書及び稟議書類」等については、本件決定で特定した文書以外には存在せず、作成していない。
3 弁明書に対する異議申立人の反論書での主張要旨
(1)行政文書の存否に関する実施機関の弁明に対する反論
- ア まず、行政文書の存否について、本件において、実施機関は部分公開された文書以外に○○○○及び□□□□それぞれについての立入検査に関する文書・資料は存在せず、作成していないと弁明する。しかしながら、少なくとも実施機関は、異議申立人に対して、「平成21年7月に○○○○に対して立入検査を行った。」「○○○○については、動物用医薬品のインターネット販売に際して薬剤師のいない場所(自称倉庫)から荷物を出荷している事実があった。」「立ち入り検査を行った際、仕入れ先についても許可がない(仕入先である株式会社□□□□についても動物医薬品一般卸売販売免許が取得されていない)まま、仕入れを行った事実があった。」旨述べており、平成21年に実施機関が少なくとも○○○○に対しては立ち入りを行ったのは確実であり、その立入検査の際に作成された文書・記録が存在しないはずがない、実施機関の弁明は不自然かつ不合理である。
行政文書の特定について、異議申立人は、対象となる期間を、平成21年1月1日から平成22年9月30日と特定し、事項も立入検査に関する報告書・指導書・その他立ち入り調査に関する一切の資料と特定し、立ち入り調査対象も「○○○○」「□□□□」と特定したのであって、条例第7条1項第二号の「行政文書を特定するに足りる事項」としては十分である。 - イ 実施機関は、弁明書において、「今回の部分公開対象となった「薬事法関係コンプレインリスト」については、21年度調査の発端となった経緯をはじめ・・・・」との弁明を行っており、平成21年度に調査が行われたことは明らかである。
平成21年7月6日、7月10日、8月4日、9月2日、10月9日、10月13日に○○○○に対して行われた立入(監視指導)に関する指導に関しては、異議申立人は、平成22年7月31日に大阪府動物愛護畜産課を訪問し担当者から、大阪府は平成21年7月6日、7月10日、8月4日、9月2日、10月9日、10月13日に薬事法に基づく立入検査を行った旨聞いている。その際に担当者は手元の文書ファイル、編綴された書類を確認しながら申立人に説明していた。従って、文書自体存在しないと述べる実施機関の弁明は、到底信じ難い。 - ウ 因みに○○○○は、平成21年7月の段階で既に、大阪府藤井寺市内■■■■内において動物用医薬品のインターネット販売業を行っていたところ、同社が同所を店舗として動物用医薬品店舗販売業許可を取得したのは平成22年3月1日になってからである。その間、○○○○としては動物用医薬品を無許可販売していた(もしくは店舗販売業の許可を得た店舗とは別の場所から動物用医薬品を発送し販売していた)ことになり、これは明らかに薬事法違反と考えられる。□□□□についても、動物用医薬品の卸売販売業の許可申請をしたのは、平成21年12月3日になってからであった。このような場合において、当然薬事法に基づく監視指導として立入検査・指導書の発行等は当然行われているものと考えられ、これに関する文書が一切作成されていないとは考えられない。
- エ 担当者が個人的に作成したメモ・データ等の文書であっても、実施上の業務の過程に使用しているものは対象文書に該当するものであり、行政文書に該当し、公開の対象となるべきである。
(2)部分公開された平成21年7月6日付薬事法関係コンプレインリスト及び平成22年8月26日付薬事監視指導概要復命書の非公開部分が、大阪府情報公開条例第8条第1項第1号及び同条同項第4号に該当するとの弁明に対する反論
ア 大阪府情報公開条例第8条第1項第1号に該当するとの弁明に対する反論
実施機関が、法人代表者の印影、連絡先電話番号、店舗内平面図に関し、それらの該当部分を非公開とする点に関しては、異議申立人としても争うものではない。
しかしながら、本件において、実施機関は、印影、連絡先電話番号、店舗平面図(以下まとめて「印影等」という。)が記載されている以外の部分についてもまとめて包括的に非公開としているのである。仮に、印影等の記載があるのであれば、例えば該当部分のみ非公開とすればよいのであって、該当しない部分についてまで無差別に非公開とすることには合理性はなく、違法である。
イ 大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する、との弁明に対する反論
薬事法関係コンプレインリスト及び薬事監視指導概要復命書について、実施機関は、「この内容を公開するのであれば、動物用医薬品販売業者は、自己の信用の低下や業績に対する悪影響を考慮し、実施機関の事情聴取に対して、事実を述べることを差し控え、又は、任意の事情聴取に応じない等の対応を取ることが予想され、実施機関は、違反事実や取引上の問題点を画するための情報を得ることが難しくなるとともに、紛争解決や業務改善のために必要な理解・協力を得ることが困難になる。」といい、また、「本件事案は薬事法上の不利益処分には至らなかった事案であるにもかかわらず、本件非公開部分が公開されることで指導、助言等の内容が公開されることになり不利益処分と同等の効果を及ぼすこととなる。これは大阪府行政手続条例に定められている「不利益処分をしようとする場合の手続」を逸脱することとなり、事務の公正かつ適正な執行を著しく損なうものである。」と弁明する。
しかしながら、第8条第1項第4号は、「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」を非公開とするが、そもそも同号にいう「目的が達成できないおそれ」とか、「支障を及ぼすおそれ」とは、単に名目的なものでは足らず、一般的抽象的なものであってはならず、具体的な支障が生じる蓋然性が存在する場合でなければならない。本件の場合非公開部分を公開したとしても、具体的に支障の生じる蓋然性があるとは認められない。
そもそも、動物用医薬品につきインターネット販売を行う場合には、動物用医薬品販売店舗販売業の許可が必要である。そして、店舗として許可を得た場所以外で販売行為(商品の発送を含む)を行うことは、薬事法上無許可営業であって違法行為である。また、動物用医薬品の卸売り販売を行うものが、同卸売り販売業の許可を得ずに動物用医薬品を販売することも、薬事法上無許可営業であって違法行為である。動物用医薬品の販売業の許可を受けた者は当然、薬事法上、例えば同法に基づく立入検査等(69条)に応じる義務があり、立入検査を拒んだ場合には罰則(87条)が設け?れている。また、薬事法上の許可の有無にかかわらず、同法違反の疑いに対する調査やその他監督官庁からの行政指導に対しては従うべき義務がある。特に、本件の場合、○○○○は、平成21年7月の段階で動物用医薬品につき許可を得ていない場所で薬剤師の常駐もない中でインターネット販売を行っていたことが消費者によって指摘されており、薬事法違反が指摘されていた。さらに復命書対象の調査が行われた平成22年8月26日の段階では、同社は動物用医薬品販売業(店舗販売)の許可を得て、ペット健康便として動物薬をネット販売している販売業者であって、薬事法を遵守する義務を負っているのである。監督官庁である、実施機関の立入検査その他の調査、指導には、単なる協力ではなく、法律上当然に従わなければならない立場にあるのである。立入検査や指導を受けた関係者が検査等に協力しない場合には、実施者としては、強制的手段に及ぶこともできるのであって、目的達成のために何が何でも関係者の任意の協力を必要とする場合ではない。また、関係者の任意の協力が得られなくなるとの理由で、行政の怠慢や情報隠ぺいが正当化されることがあってはならない。むしろ、本件の場合、立入検査や指導内容が公表されないことによって、本来行うべき薬事法上の処分が適切に行われていない事実や監視監督が杜撰に行われてきた事実を隠蔽するものである。
従って、実施機関が「今後、指導の際に関係者の協力が得られなくなるなど、当該指導事由若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり」とは述べる点は全く理由にならない。
さらに、本件非公開部分には復命事項や出張目的も記載されているはずであるが、ここも公開されていない。復命事項や出張目的を明らかにしたとしても、今後、指導の際に関係者の協力が得られなくなるものではない。
尚、「本件非公開部分が公開されることで指導、助言等の内容が公開されることになり不利益処分と同等の効果を及ぼすこととなる。」と実施者が述べる点も理由にはならない。
そもそも実施機関のいう「不利益処分と同等の効果」とは何を言うのか全く不明である。
薬事法違反を行う悪質な業者を明らかにし、是正内容を明らかにすることは、一般消費者に対する情報公開として必要かつ有益である。また、そのような指導内容が明らかにされることによって、販売業者に対しても、薬事法違反を行わぬよう注意が促されるものである。また、薬事法に違反するかどうか疑わしい案件に関しては、業者名を伏せるなどして指導が行われたことや是正内容を公開すれば済む話である。
むしろ、本来不利益処分を行うべきケースにつきこれを行わず、「不利益処分と同等の効果を及ぼすことになる。」として情報を公開しないのは、本末転倒であって、実施者自らの怠慢を、隠蔽することにもなり、不当である。
第五 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の推進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件決定における行政文書について
本件決定における行政文書は、ア 平成21年1月1日から平成22年9月30日までの間に株式会社○○○○及び株式会社□□□□に対して行われた、立入調査等に関する報告書・指導書など、立入調査等に関する一切の資料 イ 株式会社○○○○及び株式会社□□□□に係る動物用医薬品販売業の許可申請書類一式であり、その概要は以下のとおりである。
(1)「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」
動物薬事行政に係る苦情・相談等におけるリストとそれらに係る関係書類で構成されており、受付日時、受付者氏名、申立者の氏名、性別、電話番号、内容の詳細、対応、株式会社○○○○及び□□□□に対して行った調査及び指導の際に取得した法人の取引状況等が判明する記載が記録されている。
(2)「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」
株式会社○○○○及び株式会社□□□□に対する薬事監視指導について、出張先、日時、対応者、出張者、指導内容が記録されており、併せて、指導の際に取得し、法人の取引状況等が判明する伝票が添付されている。
(3)「動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H20年5月22日受付)」
株式会社○○○○が実施機関に対して提出した動物用医薬品に係る販売許可申請書類であって、店舗名称及び所在地など薬事法上の許可に必要な薬事法で定められた事項、申請者側の担当者氏名、連絡先が記録されており、併せて、診断書など、許可に必要な事項を裏付けるための証明書等が添付されている。
(4)「動物用医薬品店舗販売業許可申請書類一式(H22年2月19日受付)」
株式会社○○○○が実施機関に対して提出した動物用医薬品に係る販売許可申請書類であって、店舗名称及び所在地など薬事法上の許可に必要な薬事法で定められた事項、申請者側の担当者氏名、連絡先が記録されており、併せて、診断書など、許可に必要な事項を裏付けるための証明書等が添付されている。
(5)「動動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H21年12月3日受付)」
株式会社□□□□が実施機関に対して提出した動物用医薬品に係る販売許可申請書類であって、店舗名称及び所在地など薬事法上の許可に必要な薬事法で定められた事項、申請者側の担当者氏名、連絡先が記録されており、併せて、診断書など、許可に必要な事項を裏付けるための証明書等が添付されている。
3 本件決定における具体的な判断およびその理由について
(1)非公開の判断及びその理由について
実施機関は、本件係争部分に記録されている情報について、次の条項に該当して非公開としているので、順次検討する。
ア 条例第8条第1項第1号について
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号本文の趣旨である。
同号本文は、
- (ア)法人(国、地方公共団体、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)、地方独立行政法人、地方住宅供給公社、土地開発公社及び地方道路公社その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
- (イ)公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)
が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。
イ 本件行政文書に記録されている情報の条例第8条第1項第1号該当性について
本件行政文書における非公開部分のうち、条例第8条第1項第1号の規定により非公開とされた情報は、(ア)法人代表者及び事業を営む個人の印影、(イ)伝票及び受領書等の指導対象から提供された文書並びに(ウ)店舗内平面図(店舗の略図)及び面積である。
これらは、いずれも法人に関する情報であり、ア(ア)の要件に該当することは明らかである。
次に、これらの情報が、ア(イ)の要件に該当するかどうかについて検討する。
- (ア)法人代表者及び事業を営む個人の印影
この情報は、通常、法人及び事業を営む個人自らが、厳格に管理する情報であり、公にされると、印章偽造等の不正使用を誘発し、偽造の契約書等の作成が容易になるなど、法人及び事業を営む個人による厳格な管理が意味をなさないものとなり、法人及び事業を営む個人の正当な利益を害すると認められることから、ア(イ)の要件に該当する。 - (イ)伝票及び受領書等の指導対象から提供された文書
伝票及び受領書等、指導対象から提供された文書のうち、取引内容の記載は、法人及び事業を営む個人の具体的な取引に関する情報であり、通常、取引上必要な範囲で取引先等に公開することはあっても、広く一般に公表しているものではなく、公にすることにより、法人及び事業を営む個人の正当な利益を害すると認められることから、ア(イ)の要件に該当する。
もっとも、文書の名称については、文書そのものが法人及び事業を営む個人の事業運営に際し一般的に利用しているものであることから、公になっても、法人及び事業を営む個人の正当な利益を害すると認められず、ア(イ)の要件には該当しない。 - (ウ)店舗内平面図(店舗の略図)及び面積
この情報は、法人の所在する場所に関するものであり、入口より見渡すことができる範囲は、来訪者には明らかであるが、その内部の詳細については、来訪者が見ることができず、また、広く一般に公表しているものではないから、公にすることにより法人の正当な利益を該当すると認められる。
以上から、本件行政文書に記録されている情報について、伝票及び受領書等指導対象から提供された文書のうち取引内容の記載、及び店舗内平面図(店舗の略図)と面積のうち、入口より見渡すことができない範囲の記載は、条例第8条第1項第1号に該当するため公開しないことができるが、それ以外の情報は公開するべきである。
ウ 条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等から見て執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達せられなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- (ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- (イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
また、本号における「事務の目的が達成できなくなる」とは、立入検査、交渉等事務の性質上、それらに係る情報を公開すれば、事務事業を実施しても期待どおりの結果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいい、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」とは、公開することにより、事務事業の実施時期が大幅に遅れるなど、当該事務事業の質の著しい低下を来すこと、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力を得ることが著しく困難になることなどをいうものと解すべきであり、本号における「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」、又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、また、それらの「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られると解される。
エ 本件行政文書に記録されている情報の条例第8条第1項第4号該当性について
- (ア)本件行政文書において、条例第8条第1項第4号に該当するとされた情報は、株式会社○○○○及び株式会社□□□□における動物用医薬品の販売についての事案に係る「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」及び「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」に記録されている。
このうち、「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」には、21年度調査の発端となった経緯及び薬事法違反などの事実を明らかにするために本件事案に関係のある動物用医薬品等の購入先や販売状況の資料等の実施機関が情報収集した結果が、また、「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」には、出張したことに係る復命や業者から聴取した22年度調査の内容及び職員が確認した内容が記載されているから、本件行政文書に記録されている情報はウ(ア)に該当する。 - (イ)次に、これらの情報がウ(イ)に該当するかどうかについて検討する。
薬事法において、都道府県知事は動物用医薬品販売業者に対し、立入調査の権限(同法第69条)を有し、立入検査を拒んだ場合には罰則(同法第87条)が設けられており、動物用医薬品販売業者はこれに応じる義務があるが、都道府県知事は、薬事法違反の可能性のあるあらゆる案件について、直ちに立入調査を行うのではなく、必要があると認められる場合には、調査対象者の任意の協力を求めながら調査・指導等を行うことも薬事法上禁じられているものではない。本件においては、この任意調査の形式で、指導等が行われたものである。 - 上記を前提して本項に係る情報を検討する。
- a 「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」
「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」のうち、相談内容の詳細・対応の記載部分、立入検査指導書の検査項目、指導事項等の記載部分及び府担当から農林水産省へのメールのうち農林水産省への報告内容については、相談申出者からの申出を基に、薬事法違反の疑いがある事案の相談内容、相談申出者からの言動及び対応した実施機関職員の回答内容及び指導内容並びに今後の対応方針等の記録であり、調査指導対象者の任意の協力を得て入手したものである。このような任意の協力を得て実施した調査指導によって得た情報は、内容が一般府民や同業者等に知られることは想定されていないことから、調査指導の内容を公開すると、当該調査指導対象者の実施機関に対する信頼を大きく裏切るだけでなく、今後の調査等に協力を得ることが難しくなり、事案の解明及び解決が円滑に進まなくなると予想される。
また、これらの情報が公開されると、他の調査指導対象者が、立入検査等の実効性を阻害する方策をとることを容易にすることとなるため、指導事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
もっとも、「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」のうち、本件調査及び指導が行われた日時、対応職員、農林水産省へのメールの相手方及び通信日時等、農林水産省への報告内容を除いた部分については、相談、調査、指導内容及び今後の方針が推知されるものではないから、本件事案の解明及び解決を円滑に進めることが困難になるとはみとめられない。 - b 「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」
「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」のうち、指導内容(既に公開されている部分を除く。)及び写真については、本件のような任意の協力を得て実施した調査指導によって得た情報であり、一般府民や同業者等に知られることは想定されていないことから、指導の内容を公開すると、当該指導対象者の実施機関に対する信頼を大きく裏切るだけでなく、今後の調査等に協力を得ることが難しくなり、事案の解明及び解決が円滑に進まなくなると予想される。
また、これらの情報が公開されると、他の指導対象者が、立入検査等の実効性を阻害する方策をとることを容易にすることとなるため、指導事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
もっとも、「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」のうち、上記以外の情報については、指導内容が推知されるものではないから、本件事案の解決を円滑に進めることが困難になるとはいえない。
以上から、本件行政文書に記録されている情報について、「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」のうち、相談内容の詳細・対応の記載部分、立入検査指導書の検査項目、指導事項等の記載部分、及び府担当から農林水産省へのメールのうち農林水産省への報告内容、並びに「薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日)」のうち、指導内容(既に公開されている部分を除く。)及び写真については、条例第8条第1項第4号に該当し公開しないことができるが、それ以外の情報については、条例第8条第1項第4号に該当しないため公開すべきである。
- a 「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」
オ 条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止を定めたものであり、
- (ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- (イ)特定の個人が識別され得るもののうち、
- (ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については、公開してはならない旨定めている。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
カ 本件行政文書に記録されている情報の条例第9条第1号該当性について
本件行政文書における非公開部分のうち、条例第9条第1号に該当するとして非公開とされた情報は、a 個人の氏名(法人代表者及び事業を営む個人を除く。)、住所(法人代表者を除く。)、電話番号等の書込 b 診断書、誓約書、雇用契約書、薬剤師免許証、動物用医薬品販売従事登録証、雇用関係証明書の全部である。これらの情報が条例第9条第1号に該当するかどうかについて検討する。
- (ア)a の情報について
a の情報については、公にすることにより、特定の個人の健康状態、出自及び取得資格等が明らかになるものであり、直接個人を特定し得る情報ないしは個人に固有の属性に関する情報であるから、オ(ア)及び(イ)の要件に該当する。また、このような情報については、社会通念上、他人に知られたくないと望むことが正当であると認められることから、オ(ウ)の要件にも該当する。 - (イ)b の情報について
b のうち個人の印影、生年月日、年齢、本籍、薬剤師名簿登録番号、販売従事登録番号及び登録年月日については、公にすることにより、特定の個人の健康状態、出自及び取得資格等が明らかになるものであり、直接個人を特定し得る情報ないしは個人に固有の属性に関する情報であるから、オ(ア)及び(イ)の要件に該当する。また、このような情報については、社会通念上、他人に知られたくないと望むことが正当であると認められることから、オ(ウ)の要件にも該当する。
bのうち診断書については、麻薬、大麻、あへんまたは覚せい剤の中毒者であるか否かについては、許可申請時に申請者がこうした中毒者ではないことは、動物用医薬品の販売業の許可に必要な要件であり、申請者は許可を受けて営業している以上、中毒者ではないことから、上記オ(ウ)の要件に該当しない。
bのそれ以外の情報については、公にすることにより、特定の個人が明らかになる情報とは言えないから、オ(ア)及び(イ)の要件に該当しない。
以上から、本件行政文書に記録されている情報のうち、上記カ(ア)については、条例第9条第1号に該当し公開してはならないが、それ以外の情報については、条例第9条第1号に該当しないため公開すべきである。
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件行政文書のうち別表1に示す部分について理由がある。
(2)本件決定における文書の特定について
異議申立人は、本件決定において公開した行政文書について、本件決定での文書特定が不適法である旨主張していると解されるので、以下検討する。
ア 請求の趣旨について
異議申立人は、
「薬事監視指導概要復命書の作成は、薬事法に基づく立入検査の目的で行われた出張の報告のために行われたものであるところ、復命書以外に立入検査結果を記載または記録した文書・資料が存在しないとは到底考えられない。
また、上記復命書は、あくまでも薬事監視指導の「概要」に関する復命書であって、これ以外に、当該公務員の出張の契機となった原因や出張の必要性を復命担当者の上司や動物愛護畜産課内外に説明する説明文書及び稟議書類、復命書作成後に畜産衛生グループ又は動物愛護畜産課において行われた判断や課として行った対象者(○○○○)への指導の内容を記載した指導書類も別途作成されているはずである。(これらの文書も作成せずに、行政が過怠なく正常に運営されているとは想定し難い。)従って、○○○○に関する薬事監視指導概要復命書、○○○○及び□□□□に関する薬事法関係コンプレインリスト以外に、○○○○・□□□□に関して作成された、本件請求において請求した文書の有無を明らかにしないのは違法であり、かつ、当該行政文書・資料の公開を行うべきである」
と主張する。
これに対し、実施機関は、「本件請求を合理的に解釈したところ、当該公務員の出張の契機となった原因や出張の必要性を復命担当者の上司や動物愛護畜産課内外に説明する説明文書及び稟議書類等については、本件決定で特定した文書以外には存在せず作成していないため、本件請求に対して特定する文書は、本件行政文書のみと判断したものである」
と主張する。
以上のように、異議申立人と実施機関において請求の趣旨に対する解釈が異なっているが、請求者は実施機関にどのような行政文書が存在するのかを予め知っているわけではないのであるから、実施機関としては請求者の考えている請求の趣旨を十分に把握した上で、適切な文書特定を行わなければならない。
本件請求のうち、「立入調査等に関する一切の資料」とは、立入調査の結果および指導内容を直接記録した文書のみならず、これらに関連して、立入調査及び指導等の際に使用した行政文書で、実施機関で保管しているものすべてを指すと考えることが請求の趣旨に合致すると考えられるから、これらの文書も「立入調査等に関する一切の資料」に含まれると解するのが相当である。
イ 本件請求に対する文書特定について
実施機関が本件請求に対する行政文書として特定した「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」は、実施機関内において「薬事法関係コンプレインリスト」という簿冊名で年度毎に保管されている文書のうち、本件請求に係る文書一式を包括した名称である。簿冊である「薬事法関係コンプレインリスト」は、苦情相談に係る相談内容の記録、実施機関側で使用・取得した文書を保管し、実施機関内で組織的に共用するものであり、苦情相談に係る相談内容、立入調査の結果及び指導内容を記録した文書等、本件請求に直接関係する文書のみならず、これらに関連して立入調査の際に使用した行政文書で、実施機関で保管してした関係書類一切が保管されている。
一方、簿冊である「薬事法関係コンプレインリスト」には、本件に係る「名刺、商品カタログ、インターネットホームページ、動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書、飼育動物診療施設開設届、地図、会社概要」が保管されており、こうした保管状況を前提とする限り、請求の趣旨は、簿冊である「薬事法関係コンプレインリスト」に保管されている本件請求に関する一切の保管文書を指し示すと解されることから、本件決定により特定された文書のみならず、「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」に保管されている一切の文書を、本件請求の対象文書として特定すべきである。
よって、本件決定においては「薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10)」に保管されていた文書のうちの「名刺、商品カタログ、インターネットホームページ、動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書、飼育動物診療施設開設届、地図、会社概要」が対象文書として特定されていないから、これらを本件請求の対象文書に加えた上、当審査会の判断の趣旨を踏まえて、公開・非公開の決定を適切に行われなければならない。
4 結論
以上の理由により、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
鈴木秀美、山口孝司、松田聰子、細見三英子
別表1
異議申立てに係る公開決定等の対象となった 行政文書の名称等 |
公開すべき部分 |
|
---|---|---|
ア 薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10) |
個人の氏名、内容詳細・対応の記録部分 立入検査指導書の検査項目、指導事項等の記載部分 法人代表者の印影 農林水産省への報告内容 伝票のうち取引内容 を除く部分 |
|
イ 薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日) |
指導内容(既に公開されている部分を除く)、写真、法人従業員の氏名及び伝票のうち取引内容 を除く部分 |
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ウ 動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H20年5月22日受付) |
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動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書 |
個人の氏名、住所、電話番号等の書込、 法人代表者の印影 を除く部分 |
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添付書類 |
法人代表者の印影、事業を営む個人の印影、 個人の氏名、住所(法人代表者を除く) 個人の印影、生年月日、薬剤師名簿登録番号、本籍、登録年月日 を除く部分 |
|
動物用医薬品販蒔業調査票 |
個人の氏名、登録年月日、薬剤師名簿登録番号 を除く部分 |
エ 動物用医薬品店舗販売業許可申請書類一式(H22年2月19日受付) |
||
|
動物用医薬品卸売販売業許可申請書 |
個人の氏名、住所、電話番号等の書込、 法人代表者の印影 を除く部分 |
|
添付書類 |
法人代表者の印影、事業を営む個人の印影、 個人の氏名、住所(法人代表者を除く) 個人の印影、生年月日、販売従事登録番号、 本籍、登録年月日 店舗内平面図(店舗の略図)のうち入口より見渡すことができない範囲 を除く部分 |
|
動物用医薬品販売業調査票 |
個人の氏名、登録年月日、販売従事登録番号、 面積 を除く部分 |
オ 動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H21年12月3日受付) |
||
|
動物用医薬品店舗販売業許可申請書 |
個人の氏名、住所、電話番号等の書込、 法人代表者の印影 を除く部分 |
|
添付書類 |
法人代表者の印影、事業を営む個人の印影、 個人の氏名、住所(法人代表者を除く) 個人の印影、生年月日、年齢、販売従事登録番号、本籍、登録年月日 を除く部分 |
|
動物用医薬品販売業調査票 |
個人の氏名、登録年月日、販売従事登録番号、 を除く部分 |
別表2
異議申立てに係る公開決定等の対象となった行政文書の名称等 |
公開しないことと決定した部分 |
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---|---|---|
1薬事法関係コンプレインリスト(No.H21-10) |
指導内容に係る部分、関係者からの事情聴取内容に係る部分 |
|
2薬事監視指導概要復命書(H22年8月27日) |
指導内容に係る部分、関係者からの事情聴取内容に係る部分 |
|
3動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H20年5月22日受付) |
||
|
動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書 |
指導内容に係る部分、管理者の氏名・住所、連絡先電話番号 |
|
添付書類 |
診断書、法人代表者の印影、生年月日、誓約書、雇用契約書、個人の印影、管理者の資格を証明するもの |
|
動物用医薬品販売業調査票 |
管理者氏名、資格登録年月日、資格登録番号、面積 |
4動物用医薬品店舗販売業許可申請書類一式(H22年2月19日受付) |
||
|
動物用医薬品卸売販売業許可申請書 |
指導内容に係る部分 |
|
添付書類 |
診断書、法人代表者の印影、生年月日、誓約書、雇用契約書、個人の印影、管理者の資格を証明するもの、店舗内平面図 |
|
動物用医薬品販売業調査票 |
管理者氏名、資格登録年月日 |
5動物用医薬品一般(卸売一般)販売業許可申請書類一式(H21年12月3日受付) |
||
|
動物用医薬品店舗販売業許可申請書 |
指導内容に係る部分、管理者の氏名・住所、連絡先電話番号 |
|
添付書類 |
診断書、法人代表者の印影、生年月日、誓約書、雇用契約書、個人の印影、管理者の資格を証明するもの、店舗内平面図 |
|
動物用医薬品販売業調査票 |
管理者氏名、資格登録年月日、資格登録番号、面積 |