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大阪府情報公開審査会答申(大公審第210号)
特定の教育長の教職員評価・育成システムに関するアンケート個票部分公開決定異議申立事案
(答申日 平成24年1月12日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において、公開しないことと決定した部分を公開すべきである。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成22年11月3日付けで、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「教職員評価育成システムの教職員アンケートの、結果を集計した文書の内の、大阪市教育長回答の部分の全面公開。既に情報公開されている結果集計文書全体の中で、大阪市教育長回答部分は非公開になっているが、同一内容の文書は既に大阪市教委によって全面公開されていて、非公開にする社会的理由が存在しない。また、非公開理由を明示した文書はないが、公職である教育長(大阪市教委)が、職務として協力して書いた公式アンケートの内容を市民に非公開とするのは、条例に違反している。」について行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年11月15日、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
大阪市教育長が回答した「教職員評価・育成システムアンケート個票」 - (2)公開しないことと決定した部分
問0-1から問0-3(回答者属性)に対する回答並びに問2-1及び問2-2(回答対象者ではないため空欄)を除く、回答欄全て - (3)公開しない理由
条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人のアンケートへの回答が記録されており、これらを公にすると、当アンケートの無記名アンケートの趣旨を損なうこととなる。その結果、当アンケートの趣旨に賛同し、協力した回答者に、当該アンケートの趣旨に疑念を抱かせ、ひいては、アンケートの信頼性そのものを損ねるおそれがあり、今後、当該事務及び同種の事務の適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
- (1)行政文書の名称
- 異議申立人は、同年12月15日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、全部公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
3,000人以上を対象にしたこのアンケート調査の記入結果内容について、唯一本件の大阪市教育長の分だけが非公開にされた。同じ各市の教育長でも、他の57市町村教育長の分は内容が公開されている。公職である大阪市教育長が、職務の一環として書いた公式アンケートの内容が、無記名アンケートでも市民に公開されなければならないのは当然である。
実際に、大阪市教育長自らがそう判断し、自らの責任で同文書を市民に公開している。私たちの公文書公開請求に応えて大阪市教育委員会は、市の教育長職は一人であり、本人の回答だと特定できることを知った上で、本件行政文書と同じ内容の文書を公開していた。回答者本人が自らの責任で公開していたのだから、「公開しない理由」が書いているような「回答者に、当該アンケートの趣旨に疑念を抱かせ」る可能性はゼロである。
そのことを私は、本件行政文書の公開請求書自体に記述したので、実施機関はその事実を知っていた。もし事実かどうか疑問を持ったのなら、大阪市教育長に連絡をとり、簡単に事実確認もできることである。条例第8条第1項第4号に該当するかどうかも、当該情報が既に社会に公表されてしまっている本件については社会的意味がなく、実施機関だけが非公開とすることは、条例の目的に反している。
2 反論書における主張
(1)反論に当たって
本件行政文書と同じ文書は、添付資料(「教職員の評価育成システムに関するアンケート(校長、教職員からの回答個票の全て)」について異議申立人が大阪市教育委員会に行った公文書公開請求書に対する決定通知書と当該公開文書)の通り、既に私にも全文が、大阪市教育委員会から公開されている。他のルートで手に入っているとしても、実施機関が本来公開すべき文書が非公開のままなのは、わたしにとって不利益である。
(2)弁明書の内容に対する反論
- ア 弁明書は、「大阪市教育委員会事務局の代表としての教育長の意見を求めたのではなく、あくまで最終(2次)評価を行う評価者の1人としての教育長個人の意見を求めたものであり、」(「第3 弁明の理由」「3」第2段落)というが、それを非公開の理由とするのは誤りだ。それならなぜ「校長」と区別して「教育長」という属性を記入させるのか。同じ「評価者」でも、教育長が校長を評価することと、校長が教職員を評価することは、教育行政上、学校教育上の役割と意味は全く別のものである。だから区別すること自体は当然で、かつそれぞれが職務遂行に関する公文書である。
- イ 弁明書は、「実施機関に提出された時点で、無記名で実施した当アンケートの回答の一部として管理されており、(・・・)非公開とすることは、当然の判断である。」(「第3 弁明の理由」「3」第3段落)と書いているが、それは誤っている。公開・非公開の判断は、本件行政文書が「実施機関に提出された時点」ではなく、公開請求を受け付けた時点(2010年11月3日)で行うべきだ。その時点で、既に社会に明らかになっている情報かどうかも含めて判断すべきである。
(3)まとめ
行政情報は原則として公開する、という基本姿勢が全く欠落している。(一部非公開のための条件の規定は、原則公開の上での規定である。)全体で3000人以上のアンケート回答の内で、また府内全市町村の教育長の回答の中で、大阪市教育長ただ一人の回答だけが市民に非公開されるのは異常で、府の教育行政にとってもマイナスである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
- 本アンケートは、教職員の評価・育成システム(以下、「システム」という。)の充実・改善の参考とすることを目的として実施したものである。
対象者は、最終(2次)評価を行う評価者(各学校の校長・准校長、府立工業高等専門学校の事務局長・事務局次長、校長の評価者である各市町村教育委員会教育長)全員と、教職員(2950名抽出)である。実施に当たっては、対象者が忌憚のない意見を表明できるよう、無記名アンケートで実施することとしたところであり、このことは、たとえ対象者が市町村教育委員会教育長である場合でも変わるものではない。
また、アンケート回答の集計に際しては、全回答者からの回答をまとめて開封した上で、集計作業を行っている。従って、今回、全回答中唯一電子データの形式で回答が提出された大阪市教育長以外の市町村の教育長については、回答者属性の記載から、教育長の回答であることが分かるだけで、それがどの市町村の教育長の回答であるかは、実施機関においても全く把握していない。 - 本件行政文書の非公開部分には、大阪市教育長個人のアンケートへの回答が記録されており、これらを公にすると、当アンケートの無記名アンケートの趣旨を損なうこととなる。その結果、当アンケートの趣旨に賛同し、協力した回答者に、当該アンケートの趣旨に疑念を抱かせ、ひいては、アンケートの信頼性そのものを損ねるおそれがある。
実施機関が教職員を対象に行うアンケート調査は、本アンケート以外にも様々なものがあり、教職員の信頼を損なうこととなれば、今後、これら事務の適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - 異議申立人は、同じ教育長でも、大阪市教育長以外の市町村教育長の個票は公開されていると主張しているが、上で述べたとおり、大阪市教育長以外の市町村教育長については、どの市町村の教育長の回答であるか特定ができないことから、無記名アンケートの趣旨を損なうことがないと判断し、公開することとしたものである。
また、異議申立人は、公職である大阪市教育長が職務の一環として書いた公式アンケートの内容が無記名アンケートでも市民に公開されなければならないのは当然であると主張している。しかしながら、本アンケートは、大阪市教育委員会事務局の代表としての教育長の意見を求めたものではなく、あくまで、最終(2次)評価を行う評価者の1人としての教育長個人の意見を求めたものであり、異議申立人の主張は、誤解に基づくものである。
さらに、異議申立人は、大阪市教育長は自らの責任で本件行政文書と同じ文書を公開しているとして、回答者に当該アンケートの趣旨に疑念を抱かせる可能性はゼロであるとか、当該情報が既に社会に公表されてしまっている以上、条例第8条第1項第4号に該当するかどうかについて、社会的意味はないなどと主張している。しかしながら、大阪市教育長のアンケートの回答は、実施機関に提出された時点で、無記名で実施した当アンケートの回答の一部として管理されており、公開に際しては、回答データを管理する実施機関が、無記名アンケートの趣旨を損なうことのないよう、回答者属性に関する部分を除き、教育長個人の回答が記された部分を非公開とすることは、当然の判断である。
当アンケートは、多数の教職員の協力の下に実施しているものであるが、その協力の前提には、当アンケートが無記名アンケートとして実施されて、個人の回答が特定されたり、回答者が特定されるような形で回答が公開されるようなことがないことへの信頼感がある。たまたま、実施機関が回答者を特定できるような形(電子データ形式)で回答が提出されているとか、アンケート回答者が自らの判断で自身の回答を公開しているといった事情があるからといって、3000名以上の回答者の中から、回答者を特定して、個々の質問への回答内容が分かる形で回答を公開することは、アンケートに協力した教職員の当アンケートへの信頼を損ねる可能性がある。 - 結論
以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、システムの実施から7年を経て、評価結果の給与への反映から4年を経て、システムの目的・効果等について実施機関が改めて見直しを進めるため、評価者(二次評価者)及び無作為抽出した教職員(被評価者)に対して下記のとおり実施したアンケートに対して大阪市教育長が回答した個票である。
実施機関がアンケートの回答を依頼した時点においては、特定の教育長が識別されるものではなく、回答者属性の項目から教育長の回答であることのみが把握できるアンケート個票であった。しかしながら、大阪市教育委員会がアンケートを実施する際に、府のアンケート個票をそのまま利用するのではなく、大阪市教育委員会事務局と付記したものを利用したことにより、結果的に大阪市教育長の回答個票のみが識別されることとなったものである。
〔調査時期〕平成22年7月15日~平成22年8月6日
(※大阪市:~8月20日、堺市:~8月11日)
〔調査対象者〕(被評価者は無作為抽出)
- ア 府内公立学校の全ての校長・准校長等 1,685名
- イ 府立学校教職員・府費負担教職員から無作為抽出 2,950名
- ウ 市町村立学校長の評価者である市町村教育委員会の教育長 43名
- 計 4,678名
〔調査内容〕
下記7項目について回答するもので、設問が21題あり、うち8題について自由記述欄がある、一人あたりA4判5枚からなる個票である。
回答者の個人が識別されるものではなく、回答者属性の項目から勤務先の校種、年代(年齢)、職種等のみが把握できる。
- 「回答者属性」について(4題)
勤務先校種、年代(年齢)、職種を選択するもの。
評価者についてのみ、職(教育長、校長・准校長、その他)を選択するもの。 - 「システム(全体)」について(3題)
システムが「学校目標の共有」、「教職員の意欲・資質能力の向上」、「教育活動等の充実」及び「学校の活性化」のそれぞれの目的につながっているかどうかを4段階(よくつながっている、つながっている、あまりつながっていない、全くつながっていない)で評価するもの。 - 「評価者設定・評価方法」について(3題)
複数で評価すること、教頭を評価者に加えることが適切かどうかを2段階で評価するものと、評価の公平性・客観性・透明性をより向上するために行うべき改善点について、該当すると思われるものを6問から選択又は記述するもの。 - 「自己申告票」について(2題)
自己申告票が仕事の成果の把握や目標の達成に向けて取り組むことに役立っているかどうかを4段階で評価するものと、自己申告票が目標の共有化等により一層役立つようにするために行うべき改善点について、該当すると思われるものを4問から選択又は記述するもの。 - 「面談」について(2題)
面談が教職員の意欲・資質の向上等につながっているかどうかを4段階で評価するものと、面談が教職員の意欲・資質の向上等につながるようにするために改善を行うべき点について、該当すると思われるものを4問から選択又は記述するもの。 - 「給与への反映」について(6題)
評価結果の給与反映により、意欲や資質能力の向上につながっているかどうかを4段階で評価するものとそのように思う理由、給与反映以降の評価に変化があるかどうかを5問から選択又は記述するもの【一次評価者を除く評価者のみ】、評価結果が給与に反映されたことに伴う影響について6問から選択又は記述するもの、給与差を設けるのが適当かどうかを2問から選択するもの、評価結果の給与反映の改善方策について、該当すると思われるものを5問から選択又は記述するもの。 - 「その他」(1題)
システムへの自由意見
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は本件行政文書に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。
(1)条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
本件決定の非公開理由が、処分時において上記(1)ア及びイの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。
本件行政文書は、実施機関がシステムの目的・効果等について改めて見直しを進めるため、評価者(二次評価者)及び無作為抽出した教職員(被評価者)に対して実施したアンケートの回答個票であり、「府の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。
次に、本件行政文書が(1)イの要件に該当するか否かについて検討する。
本件行政文書は、大阪市情報公開条例に基づく請求によって大阪市教育委員会が既に情報公開した文書であり、また、実施機関もその事実を確認している。このような事実関係のもとでは、本件行政文書を実施機関が公開することにより、行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することがあるとは、とうてい認められない。
したがって、本件非公開部分は(1)イの要件に該当するとは認められず、公開すべきである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議に関与した委員
松田聰子、岩本洋子、大和正史、野呂充