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大阪府情報公開審査会答申(大公審第209号)
教職員評価・育成システムに関するアンケート個票非公開決定異議申立事案
(答申日 平成24年1月12日)
第一 審査会の結論
実施機関は、非公開理由が消滅した現時点においては、個人情報を除いて公開の決定を行うべきである。また、処分時においても、個人情報を慎重に判断するのに要する期間を延長し、個人情報及び個人が識別できる部分をのぞき公開すべきであった。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成22年8月31日付けで、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「8月6日に回収を締め切ったシステムについての教職員アンケートの、回収したアンケート用紙のすべて」について行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、同年9月13日、本件請求に対応する行政文書として「教職員の評価・育成システムに関するアンケート(【校長評価者版】、【府立学校版】、【市町村立学校版】)提出されたアンケート個票」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、条例第13条第2項の規定により、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付すとともに、備考欄に「公開予定期日:平成22年10月初旬」を付記して異議申立人に通知した。
(公開しない理由)
大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。
「教職員の評価・育成システム(以下「システム」という。)に関するアンケート」については、現在、提出された回答の入力・集計・検証・分析の作業中であり、事務を中断させることになる。さらに、本システムの今後の運営の参考にすることを目的とした事務の性質上、アンケート結果を集計、分析し、公表する以前に個々の回答を公開すると、実施機関がアンケートを今後分析し、同システムの運営の検討等を行うに際し、公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
また、当アンケートの目的に賛同し、無作為抽出アンケートに協力した回答者に、当該アンケート実施の趣旨に疑念を抱かせ、引いてはアンケートの信頼性そのものを損ねるおそれがあり、今後、当該事務及び同種の事務の適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - 異議申立人は、同年9月15日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、全部公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
「大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。」という「公開しない理由」は、条例解釈の誤りであり、本件は第8条第1項第4号に該当しないから、公開すべきである。
「公開しない理由」の説明で3点があげられている。
1点めは、「現在、・・作業中であり、事務を中断させることになる。」である。第8条第1項第4号は、「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの」と規定している。事務を中断させ集計作業が少し遅れることがあっても、当該の事務の目的が達成できなくなる、つまり集計作業ができなくなってしまうわけではない。集計が終わる前の現時点で存在する本件行政文書の公開事務と、進行中の集計事務とは、別の目的を持つ別の事務で、両方共に事務執行すべきである。このアンケートが府民の関心が高い大事な問題だということを考えれば、公開の事務を集計の事務より下に考えるのは、条例違反である。
2点めは、「集計、分析し、公表する以前に個々の回答を公開すると、実施機関がアンケートを今後分析し、同システムの運営の検討等を行うに際し、公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。」である。
これが、仮に記名のアンケートなら、集計前に公開された他の人のアンケートを見て、訂正・削除修正を求める人が出たり、何らかの利益誘導をすること等も考えられる。しかし、これは無記名アンケートなので、それらはありえない。集計前に公開することで、集計の仕方そのものが変わることもありえない。その上で、考えられるのは、集計結果に基づいて分析作業をする時に、平行して本件行政文書を読んだ市民から何らかの意見が出されることである。それは行政としては歓迎すべきことで、市民と共有するアンケート結果資料を基に、広く市民の意見も参考にした上で、行政として分析結果をまとめればいい。個人情報の侵害や利益誘導にあたらない限り、アンケート結果の分析作業は市民に情報公開して行うべきである。無記名アンケートという資料さえも隠して、行政が分析結果を発表するまでは市民は眼をつぶって待っていろというのは旧・日本国帝国憲法下の行政で、同条例第8条第1項第4号は、そういう「支障」は認めていない。
3点めは、「協力した回答者に、当該アンケート実施の趣旨に疑念を抱かせ、引いてはアンケートの信頼性そのものを損ねるおそれがある。」である。自分が書いた無記名アンケートは、どんな形にしろ内容が公表されるのを前提にして協力したものである。無記名でも考えを知られたくないという人は、アンケートに協力しない。協力した人が、集計作業前に自分を含む全員の分が公開されたことに対して、いったいどんな疑念を抱くのか。全く考えられない。この一文は「事務の適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。」とは全く無縁で、同条例第8条第1項第4号にあたらない。
「非公開決定通知書」の「備考」欄に、「公開予定期日:平成22年10月初旬」とある。公文書公開による情報公開は、どの公文書を公開するかと共に、それをいつ公開するかが大事である。分析が終わってから10月に公開するのではなく、上記の異議を受け入れ、直ちに公開すべきである。
なお、同文のアンケート調査を実施機関の協力依頼を受け入れてほぼ同時期に実施した大阪市教育委員会は、条例とほぼ同内容の大阪市情報公開条例に立って、上記の公開すべき理由を受け入れて、8月30日に集計前でのアンケート個票(本件文書と同内容)の公開を決定した。
2 反論書及び口頭意見陳述における主張
(1)実施機関の主張について(その1)
弁明書によれば、異議申立人が「閲覧した後、必要な枚数分の写しの交付」を希望したため、実施機関が異議申立人に対して本件行政文書を「閲覧に供する間は、・・直ちに参照することができず・・事務に支障が出るためだ」というが、この理由は、弁明書で初めて出てきたものである。本件処分決定書の「公開しない理由」には一切書かれていなかったことが、つけ足されたのであるから、決定書記載の非公開理由自体危惧される。閲覧と写しの交付は公文書公開制度(条例)の柱であり、アンケート原票の集計作業と、アンケート原票の公文書公開は、共にそれぞれ別の行政事務で、どちらかが優先するものではない。閲覧する時間を理由に非公開決定すること自体が、条例違反で違法である。
また、「アンケート結果公表後に請求があった場合は、本件行政文書を公開することとしており、行政文書の公開を求める権利を阻害するものではない。」という主張については、公文書公開は「どの公文書を公開するか」と共に「それをいつ公開するか」が命である。アンケート結果公表後に公開することは、結果公表前に公開することと関連はあってもそもそも別のことである。
なおこれに関連して、アンケート結果公表後現在まで、私たちは改めて本件行政文書の公開請求はしていない。それは、別途請求して本件と同一の行政文書の公開を受けた知人から、そのコピー情報を知り得たからである。なおこれに関連して、結果公表後現在まで、私たちは改めて本件行政文書の公開請求はしていない。そして、私たちが今回異議申立てをしているのは、結果公表前の時点での、私たちが受けた本件決定の不当さについてである。
(2)実施機関の主張について(その2)
弁明書によれば、「本アンケートは、様々な立場・意見の教職員多数の協力の下に実施しているものであり、異議申立人の主張は、一方的といわざるを得ない。」というが、私たちのどの点の何が一方的だと指摘しているのか、論旨が理解できない。「様々な立場・意見」とは何についてのことなのか。結果公表前に公開することの是非についての「様々な立場・意見」の意味なら、公開に反対する人は実施機関以外にはほとんどいないと思う。もし、アンケートの自由記述欄に書かれている内容についての「様々な立場・意見」の意味なら、無記名アンケートとして個人情報関連部分だけを部分非公開にすればよく、全文を非公開することとの是非とは別のことである。
(3)結果公表前に公開が必要だった理由について
私たちが本件行政文書を、結果公表前に公開請求したのは、本件行政文書の内容自体を一日も早く知りたかったことと共に、実施機関のこの課題(システム)についてのこれまでの姿勢・言動から考えて、その内容を大きく歪曲して結果を発表する危惧を持っていたからである。市民に公開された情報としてのアンケート原票を自分たち自身の手でも集計・分析し、行政の誤りを監視することが目的であった。なお、結果公表後であるが別途公開された、本件と同一の行政文書を使ってその作業を行った。
そして、私たちの危惧は的中した。実施機関が公表した分析文書(2010年12月付「システムの実施結果についての検証」)は、集計結果を大きく歪曲して発表している。一例を上げれば、同文書の2ページ11行め「4、システムへの意見」の「(1)『育成』の観点」で、「評価者である校長・准校長が学校目標の共有化や資質・能力の向上、学校の活性化等に大きく寄与していると評価する一方で、・・・」と断定しているのは、アンケート集計結果の事実とは全く違う。アンケート項目の1つで、「評価」と共に「育成」を掲げる本システムでもっとも大切な「質問1-2『教職員の意欲・資質能力の向上』」の校長回答の、実施機関による集計結果は、「つながっている」(肯定)が約6割、「つながっていない」(否定)が約4割である。それも校種による差があり、大阪市立中学校長129人は、過半数が否定(「つながっていない」)回答をしている。
本件の場合、行政の行為が正しいかどうかを市民が知るために、情報の事後の公開よりはるかに大きな意味で、事前の情報公開が必要であった。そして、実施機関の依頼を受けて、同時期に同じアンケート調査を実施し、政令市として自ら集計した上でその結果を実施機関へ提供した大阪市の教育委員会は、それに応えた。
私たちの、本件と同一文書の、集計終了前の事前公開の請求に対して、大阪市教委も当初は、実施機関と同様の理由で非公開決定をした。しかし、公開を求める折衝を続ける中で大阪市教委自身もその誤りを認め、結果公表前の公開(自由記述欄の個人情報部分のみ非公開)に転じた。大阪府と大阪市の情報公開条例の目的・内容は、基本は同じである。市民の知る権利を今後保障していくために、実施機関は今からでも本件決定を撤回し、結果公表前に公開すべきだったことを明示してほしい。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 本アンケートは、システムの充実・改善の参考とすることを目的として実施したものである。
本件請求がなされた際、実施機関では、提出された回答の入力・集計・分析・検証の作業(以下、「集計・分析作業」という。)中であった。アンケートの質問・回答項目の中には、意見記述も多くあり、中には、無記名での実施にもかかわらず、個人名が記載されたものもあった。このため、公開に当たっては、作業を一時中断し、本件行政文書全てに目を通し、個人の特定につながるような記載の有無を確認する必要がある。
また、異議申立人は、公開実施方法として、「閲覧した後、必要な枚数分の写しの交付を希望する」としていたため、現に公開するとなれば、閲覧に供している間は、実施機関に必要が生じても本件行政文書を直ちに参照することができず、集計・分析作業、ひいては、本アンケートそもそもの目的であるシステムの充実・改善に向けた検討作業に支障が生じるおそれがある。
異議申立人は、「事務を中断させ集計作業が少し遅れることがあっても、当該の事務の目的が達成できなくなる・・わけではない。」「公開の事務を集計の事務より下に考えるのは条例違反」などと主張しているが、本アンケートが、システムの充実・改善の参考とすることを目的として実施するものである以上、当該目的の達成に支障が生じるおそれがある場合に非公開とすることは、条例の予定するところである。
また、実施機関は、アンケート結果公表後に請求があった場合は、本件行政文書を公開することとしており、行政文書の公開を求める権利を阻害するものではない。
2 本アンケートは、無作為抽出により選出された教職員に対し、システムの充実・改善の参考という目的を示し、回答に協力を得たものである。
アンケートの実施主体である実施機関の集計・分析の結果が公表される前に、本件行政文書が公開され、流布することになれば、本アンケートの趣旨に賛同し、回答に協力した教職員に、アンケート実施の趣旨に疑念を抱かせるとともに、本アンケート及び実施機関への信頼性を損ねるおそれがある。
異議申立人は、「自分が書いた無記名アンケートは、どんな形にしろ内容が公表されるのを前提に協力したもの」「集計作業前に自分を含む全員の分が公開されたことに対して、いったいどんな懸念を抱くのか」などと主張しているが、本アンケートは、様々な立場・意見の教職員多数の協力の下に実施しているものであり、異議申立人の主張は、一方的といわざるを得ない。
3 結論
以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、システムの実施から7年を経て、また、評価結果の給与への反映から4年を経て、システムの目的・効果等について実施機関が改めて見直しを進めるため、評価者(二次評価者)及び無作為抽出した教職員(被評価者)に対して下記のとおり実施したアンケートに対する各府立学校長及び教職員からの回答個票である。
〔調査時期〕平成22年7月15日~8月6日
(※大阪市:~8月20日、堺市:~8月11日)
〔調査対象者〕(被評価者は無作為抽出)
- ア 府内公立学校の全ての校長・准校長等 1,685名
- イ 府立学校教職員・府費負担教職員から無作為抽出 2,950名
- ウ 市町村立学校長の評価者である市町村教育委員会の教育長 43名
- 計 4,678名
〔調査内容〕
下記7項目について回答するもので、設問が21題あり、うち8題について自由記述欄がある、一人あたりA4判5枚の個票である。
回答者属性の項目から勤務先の校種、年代(年齢)、職種等のみ把握できるが、個人が識別されるものではない。
- 「回答者属性」について(4題)
勤務先校種、年代(年齢)、職種を選択するもの。
評価者についてのみ、職(教育長、校長・准校長、その他)を選択するもの。 - 「システム(全体)」について(3題)
システムが「学校目標の共有」、「教職員の意欲・資質能力の向上」、「教育活動等の充実」、「学校の活性化」のそれぞれの目的につながっているかどうかを4段階(よくつながっている、つながっている、あまりつながっていない、全くつながっていない)で評価するもの。 - 「評価者設定・評価方法」について(3題)
複数で評価すること、教頭を評価者に加えることが適切かどうかを2段階で評価するものと、評価の公平性・客観性・透明性をより向上するために行うべき改善点について、該当すると思われるものを6問から選択又は記述するもの。 - 「自己申告票」について(2題)
自己申告票が仕事の成果の把握や目標の達成に向けて取り組むことに役立っているかどうかを4段階で評価するものと、自己申告票が目標の共有化等により一層役立つようにするために行うべき点について、該当すると思われるものを4問から選択又は記述するもの。 - 「面談」について(2題)
面談が教職員の意欲・資質の向上等につながっているかどうかを4段階で評価するものと、面談が教職員の意欲・資質の向上等につながるよう改善を行うべき点について、該当すると思われるものを4問から選択又は記述するもの。 - 「給与への反映」について(6題)
評価結果の給与反映により、意欲や資質能力の向上につながっているかどうかを4段階で評価するものとそのように思う理由、給与反映以降の評価に変化があるかどうかを5問から選択又は記述するもの【一次評価者を除く評価者のみ】、評価結果が給与に反映されたことに伴う影響について6問から選択又は記述するもの、給与差を設けるのが適当かどうかを2問から選択するもの、評価結果の給与反映の改善方策について、該当すると思われるものを5問から選択又は記述するもの。 - 「その他」(1題)
システムへの自由意見
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
本件決定は、平成22年9月13日に付けで、条例第8条第1項第4号に該当するとして、備考欄に関係者に集計結果を周知する時期を見込んだ公開予定期日(平成22年10月初旬)を付記して非公開決定されたものである。
実施機関に確認したところ、実施機関は、集計結果を公表した10月29日の後、11月2日、自由記述欄のうち記述内容から個人が識別できる部分を除き、本件対象文書について情報提供しているとのことである。また、反論書によれば、異議申立人は、別途請求して本件と同一の行政文書の公開を受けた知人から、本件対象文書と同一の文書を入手しているとのことである。
よって、本件行政文書は個人情報を除くすべての文書が公開されている状況にはあるものの、異議申立人は公開予定期日を経過後も本件行政文書の公開を請求しておらず、実施機関もまた非公開決定を取り消していないこと、さらに異議申立人は本件処分時の処分の当否について当審査会の判断を強く要望していることから、当審査会としては、審査時のみならず、処分時における実施機関の処分の当否についても審査することとする。
そこで、審査の現時点において、上述のとおり、非公開とする理由が既に消滅しているのは明らかであるから、実施機関は本件決定を取り消し、個人情報及び個人が識別できる部分を除いて公開すべきである。
次に、処分時において、実施機関は、本件行政文書に記録されている情報が条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。
(1)条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
本件決定の非公開理由が、処分時において上記(1)ア及びイの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。
本件行政文書は、実施機関がシステムの目的・効果等について改めて見直しを進めるため、評価者(二次評価者)及び無作為抽出した教職員(被評価者)に対して実施したアンケートの回答個票であり、「府の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、(1)アの要件に該当する。
次に、本件行政文書が(1)イの要件に該当するか否かについて検討する。
実施機関は、本件行政文書を公開すれば、次の二点から事務に支障が生じるおそれがあると主張している。
第一に、本件行政文書の中には自由意見記述部分が多くあり、無記名による実施にもかかわらず、個人名が記載されたものや個人を識別しうる情報が見受けられるため、公開に当たっては、本件行政文書全てを精読し、個人情報の記載の有無を慎重に確認する必要がある。また、本件行政文書は集計・分析作業中のものであり、異議申立人の閲覧に供する間は、実施機関が本件行政文書を直ちに参照することができず、集計・分析作業、ひいては、本アンケートそもそもの目的であるシステムの充実・改善に向けた検討作業に支障が生じるおそれがあると主張する。
そこで、本件行政文書を公開すれば集計・分析作業に支障が生じると実施機関が主張するので、本システム見直しの作業工程や作業量等について確認したところ、下記の表のとおりであった。また、本件対象文書を見聞したところ、自由記述欄が多く、記述内容に個人情報が含まれているか否かについて慎重に確認する必要性が認められた。
これらの作業工程等をみるかぎり、実施機関の主張のように、本件行政文書を公開すれば人事管理等の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというよりはむしろ、個人情報の有無を慎重に確認する必要性から、本件行政文書の公開決定等をするまでに相当の期間が必要であったというにすぎない。したがって、条例第14条第2項又は条例第15条第1項の規定により、公開決定等の期限を相当の期間延長して個人情報及び個人が識別できる部分を除外した文書を開示すべきであった。
時期 |
作業内容 |
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8月中 |
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9月中 |
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10月上旬 |
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10月29日 |
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12月1日 |
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1月中 |
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2月~3月 |
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4月~ |
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第二に、実施機関は、アンケートの実施主体である実施機関の集計・分析結果が公表される前に本件行政文書が公表され流布することになれば、システムの充実・改善の参考というアンケートの趣旨に賛同し、無作為抽出アンケートに協力した回答者に、当該アンケートの実施の趣旨に疑念を抱かせ、引いてはアンケート及び実施機関への信頼性を損ねるおそれがあり、今後同種の事務において「率直な意見を書くことが難しくなり、真意をつかめなくなる。」あるいは、「今後、実施機関が行う調査に協力してもらえなくなる。」といった支障が生じ、当該事務及び同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると主張する。
しかし、結果公表後であれば公開できる本件行政文書を結果公表前に公開することによって、実施機関が行う事務執行にどのような内容の支障がどれほどの蓋然性で発生するか、具体的かつ合理的な説明を得ることができなかった。
通常、アンケート調査とは、不特定多数の者が任意に回答した内容を集計した統計データを活用するものであり、個々の調査票は公開される性質のものではないようにも思われる。この点について、実施機関の説明から判断すると、本件行政文書は、無作為に抽出された教職員を対象にしたアンケートという形式になっているとはいえ、府の行政システムについて、教職員に対して職務上回答を求めていると解することができ、通常のアンケートと異なり、請求があれば公開されることを回答者自身も想定できる性質のものと考えられる。
以上のことから、公にすることにより人事管理等の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは言えず、(1)イの要件に該当しない。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては理由があり、非公開理由が消滅した現時点においては、個人情報及び個人が識別できる部分を除いて公開の決定を行うべきである。また、処分時においても、実施機関は個人情報を慎重に判断するのに要する期間を延長し、個人情報及び個人が識別できる部分を除いて公開すべきであったので、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議に関与した委員
松田聰子、岩本洋子、大和正史、野呂充