ここから本文です。
大阪府に寄せられた宅地建物取引に関する相談事例 No.6
賃貸借契約締結
経過
借主Aは、宅建業者Xの媒介で、Bを貸主とするマンションの賃貸借契約を締結した。契約時、AがXにペット飼育について質問したところ、「Yによると、本当は飼えないが飼っても大丈夫。」との説明を受けた。しかし、入居後、ペット飼育のことでトラブルとなり、退去せざるを得なくなった。
また、重要事項説明を受けていないとして、Aは府に苦情を申し立てた。
判明した違反事実
府がXから事情を聴いたところ、以下のとおり違反事実が確認された。
- 重要事項説明書の交付及び説明をしていない。業法第35条第1項違反
- 賃貸借契約書(いわゆる「37条書面」)に記載不備がある。業法第37条第2項違反
- 建物の引渡しの時期を記載していない。(同項第1号)
- 法定上限を超える媒介報酬を受領した。業法第46条第2項違反
- 借主から家賃1ヵ月分の媒介報酬を受領する一方、貸主から特別に広告の依頼がなかったにもかかわらず広告料という名目で家賃1.5ヶ月分の媒介報酬を受領した。
- 取引の公正を害する行為
- 賃貸借契約書の特約条項において、借主が賃料等を1週間以上滞納した場合、貸主はなんら催告なく鍵を交換して本契約を解約できるものとする等、借主に不利な契約条件が規定されているが、このことを借主に説明していない。
違反が発生した事情(又は理由)
1及び2について
Xは、当初Aは別の物件を希望しており、その物件の重要事項説明は行ったが、その後、契約対象を当該物件に変更したときに重要事項説明を行うのを忘れていた、と述べ、重要事項説明書の交付及び説明を行っていない事実を認めた。しかし、当該物件においてペット飼育をできないことは借主に口頭で説明した、と述べた。
また、賃貸借契約書の記載不備を認めた。
3について
Xは、物件を優先的に紹介するために人件費等がかかるので、物件を紹介したことに対する費用として広告料を受領した、と述べた。
4について
Xは、借主に不利な契約条件については、今後は注意する、と述べた。
(なお、本件についてXとAの間で既に和解が成立しており、XはAに対し和解金を支払っていた。)
処分等
府は、次のとおり違反事実等を認定し、Xを文書勧告とした。
業法第35条第1項、第37条第2項、第46条第2項違反及び取引の公正を害する行為(借主に不利な契約条件の不説明)
本事例のポイント
1 重要事項説明書の交付及び説明について
媒介業者は、賃貸借契約が成立するまでの間に必ず、借主に対し重要事項の説明及び重要事項説明書の交付をしなければなりません。
- 賃貸借契約に関し、重要事項説明を受けていないという相談が少なからず府に寄せられています。府が媒介業者に事情を聴くと、「時間がなかった」「後で説明するつもりだった」「借主が説明しなくていいと言った」等、様々な理由が述べられますが、いかなる事情があろうと媒介業者が重要事項説明義務を免れることはできません。重要事項説明は媒介業務の中核でもありますので、くれぐれも重要事項説明書の交付及び説明を怠ることのないようご注意ください。
2 賃貸借契約書(いわゆる「37条書面」)の不備について
媒介業者は、賃貸借契約書に業法第37条で定める事項が記載されているか確認する必要があります。
- 「建物の引渡しの時期」が記載されていない賃貸借契約書がしばしば見受けられますが、業者が媒介する賃貸借契約の契約書(いわゆる「37条書面」)においては、業法第37条で規定する記載事項をすべて記載する必要がありますので、記載漏れないようご注意ください。
なお、契約期間の開始日が建物の引渡し日と同一である場合には、建物の引渡しの時期は契約期間の開始日と同一である旨を付記する書き方でも結構です。
3 広告料について
媒介業者が広告料を受領できるのは、依頼者から特に依頼があり、かつ、特別な広告を行った場合に限られます。また、受領できる広告料の額は、広告の料金に相当する額(実費相当額)です。
- 賃貸の取引において、媒介業者が家賃1ヵ月から数ヵ月相当額を「広告料」等の名目で貸主から受領している事例が見受けられますが、貸主からの依頼により特別な広告を行った場合でなければ、その「広告料」は実質的に媒介手数料とみなされます。そして、業者が受領した媒介手数料と「広告料」の合計額が媒介手数料の法定上限額を超えている場合には、超過報酬を受領したとして指導監督の対象となります。
なお、「特別な広告」とは、判例では、大手新聞における広告掲載料等、媒介手数料の範囲でまかなうことが相当でない多額の費用を要する広告とされています。チラシの配布や業者のホームページでの広告など、通常の媒介業務の一環として行われる広告については、一般的に「特別な広告」に当たらないと考えられますので、その経費は媒介手数料でまかなわれるべきものです。
また、貸主からの依頼により特別な広告を行う場合は、貸主に見積書等を提示し、広告の内容や広告料の額について書面を交わす等、事前にきちんと合意を得るようにしてください。
4 取引の公正を害する行為について
賃貸借契約書において借主に不利な条項が規定されている場合、その条項は借主の判断に重要な影響を及ぼす取引条件として、「重要な事項」に当たります。
- 賃貸借契約書において、借主が家賃を滞納した場合に、無催告で契約解除する権限を貸主に付与する条項や、無断のカギ交換や物件内の家財道具の搬出・処分をする権限を家賃債務保証会社に付与する条項を規定している事例が見受けられますが、このような借主にとって一方的に不利な条項は法的な有効性が疑われるところです。このような契約条項を提示する貸主に対しては、媒介業者は契約条項の見直しを助言すべきですし、少なくとも、借主に対し「重要な事項」として当該契約条項について、契約が成立するまでに説明する必要があります。また、その際には、説明内容を記載した重要事項説明書等の書面を交付するようにしてください。
5 ペット飼育できることが契約条件である取引について
借主がペットの飼育ができることを条件に物件を探している場合、ペットを飼育できるかどうかは借主の判断に重要な影響を及ぼす取引条件として、「重要な事項」に当たります。
- ペット飼育できることを条件に仲介業者に物件を探してもらったが、入居後、ペット飼育できない物件であることが判明した、という相談が寄せられることがあります。多くの場合、借主は、仲介業者から口頭で「大丈夫と思う」などとあいまいな説明を受け、重要事項説明書にはペット飼育の可否について記載されていません。ペット飼育ができる物件を探している借主にとって、ペット飼育ができるかどうかは「重要な事項」ですので、仲介業者は、きちんと貸主側にペット飼育の可否について確認する必要があります。そして、契約が成立するまでに、その確認結果を借主に口頭で説明するだけでなく、重要事項説明書等の書面に記載すべきです。説明内容を書面で残すことにより、後日、「説明した」「聞いていない」というトラブルを防止することもできます。