ここから本文です。
大阪府に寄せられた宅地建物取引に関する相談事例 No.13
賃貸借契約の申込み
経過
借主Aは、宅建業者Xの媒介で、Bを貸主とするマンション一室の賃貸借契約の申込みをした。Aは翌日、申込みを撤回したところ、申込金は既に貸主に渡しているので返金できないとXに言われた。また、重要事項説明を取引主任者でない従業員から受けたとして、Aは府に苦情を申し立てた。
判明した違反事実
府がXから事情を聴いたところ、以下のとおり違反事実が確認された。
- 預り金の返還拒否業法第47条の2第3項違反
- Xは、Aが入居申込みを行うにあたり申込金を預ったが、Aが契約の申込みの撤回を行うに際し、賃貸借契約は成立していないにもかかわらず、当該預り金を返還することを拒んだ。
- 取引の公正を害する行為
- (1)Xは、宅地建物取引士が重要事項の説明を行っていないにもかかわらず、「重要事項説明書」と記載し、Xの宅地建物取引士が記名押印した書面を借主に交付したため、重要事項説明を受けたと借主に誤認を与えた。
- (2)Xは、Aから申込金を受領するにあたり、「手付金領収証」をAに交付した。
違反が発生した事情(又は理由)
1について
Xは、部屋止めをしているので家主は契約は成立していると思っているようで、それをそのまま担当者がAに説明してしまった。そのため預り金の返還を拒否したことを認めた。
2について
Xは、正式に契約する前に改めて重要事項説明をする予定であった、と述べた。
3について
Xは、Aから申込金を受領した時点ではまだ契約に至っておらず、当該申込金は「手付金」ではなく「預り金」であることを認めた。
処分等
府は、次のとおり違反事実を認定し、Xを文書勧告とした。
業法第47条の2第3項違反、取引の公正を害する行為(重要事項説明書と誤認させる書面の交付、手付金領収書の交付)
本事例のポイント
1 預り金の返還拒否について
賃貸借契約の申込時に借主から申込金等を預かる場合、借主が契約成立までに申込みの撤回を行うに際し、預り金を返還しなければなりません。
- 府が仲介業者に事情を聴くと、本件のように、「貸主に渡したので返金できない。」と弁明する事例がしばしば見受けられます。
しかし、業法上、仲介業者には預り金の返還義務が課せられています。借主から「預り金」を預かるのは、貸主からの審査条件であるなど必要性がある場合に限定すべきです。それでもなお「預り金」を預かる必要がある場合には、借主に交付する預り証に、「契約の申込みが撤回された場合は、預り金の全額を返還する」旨を明記しましょう。
2 「手付金領収書」について
契約成立前の入居申込みの時点で借主から預かる申込金等は「手付金」ではありません。
- 賃貸借契約の手付金は、契約成立を証するものとして借主と貸主との間で授受される金銭です。契約成立前の入居申込みの時点で借主が支払う申込金等は、「手付金」ではなく「預り金」です。また、預り金は、文字通り仲介業者が「預かる」だけで「領収する」お金ではありませんので、借主に交付するのは「領収書」ではなく、「預り証」であるべきです。