ここから本文です。
大阪府に寄せられた宅地建物取引に関する相談事例 No.2
売買契約締結
経過
買主Aは、宅建業者Y及びZの媒介で、宅建業者Xを売主とする中古の土地付建物(収益マンション)の売買契約(売買価格6,500万円)を締結した。Aは、当該物件が建築当時に検査済証を取得しておらず、再建築の際に同規模の建物が建築できない可能性が高いこと、過去に浸水事故があったこと、当該物件の排水施設には汲み上げポンプが設置されていることについて、業者から説明を受けていないとして、府に苦情を申し立てた。
判明した違反事実
府がX、Y及びZに事情を聴いたところ、以下のとおり違反事実が確認された。
- 重要事項説明書に次の記載不備がある。業法第35条第1項違反
- (1)排水のための施設の整備の状況(同項第4号)
- 当該物件は公共下水道からの引込管以外に汲み上げポンプが設置されているにもかかわらず、このことを記載していない。
- (2)契約の解除に関する事項(同項第8号)
- 手付解除について、売買契約書で規定されている内容と異なる記載をした。
- (3)当該宅地又は建物の瑕疵担保責任の履行に関する措置を講ずるかどうか、及び講ずる場合におけるその措置の概要(同項第13号)
- 実際は措置を講じないにもかかわらず、措置を「講ずる」としたうえで、措置の内容について、「本物件の引渡し時における隠れた瑕疵に対する売主の瑕疵担保責任は、物件引渡し後2年間とします。」と記載をした。
- (1)排水のための施設の整備の状況(同項第4号)
- 売買契約書(いわゆる「37条書面」)に次の記載不備がある。
- (1)売買価格の総額(消費税込み)は記載されているが、建物代金にかかる消費税の額が記載されていない。業法第37条第1項違反
- (2)仲介業者Yの宅地建物取引士の記名押印がない。業法第37条第3項違反
- 売買契約書において、土壌汚染対策法及び関係諸法令に基づく基準を超える汚染が発見された場合においても、売主は一切その責任を負わない旨規定している。業法第40条第1項違反
- 取引の公正を害する行為
- (1)売買契約書において、買主が手付金を放棄することにより契約を解除することができる期限を、契約締結日より5日後までと規定している。
- (2)当該物件において、過去に浸水被害があった事実を重要事項説明書に記載していない。
- (3)売買契約書において、当該物件は建築確認に係る検査済証を取得しておらず、再建築の際には同規模の建物を建てられないことを買主は了承する旨規定しているが、重要事項説明書において、再建築の際には同規模の建物が建てられない旨を記載していない(重要事項説明書の「敷地と道路の関係」において、「再建築可」とだけ記載している。)。
- YはXに対し媒介契約書を交付していない。業法第34条の2第1項違反
違反が発生した事情(又は理由)
1及び2(1)について
1(1)について、Zは、汲み上げポンプが設置されていることは買主に口頭説明したと述べ、重要事項説明書への記載不備を認めた。また、1(2)・(3)及び2(1)についてミスを認めた。X及びYも、1(1)から(3)及び2(1)について記載不備を認めた。
2(2)について
Yはミスを認めた。
3について
X、Y及びZは、ミスを認めた。
4(1)について
Zは、「当社の契約書の書式であれば、手附解除に期限は設けていない。」と述べ、ミスを認めた。X及びYもミスを認めた。
4(2)について
Xは、過去に浸水被害があった事実は、買主に口頭で説明したと述べ、重要事項説明書への記載不備を認めた。Y及びZも重要事項説明書への記載不備を認めた。
4(3)について
Zは、当該建物が容積率オーバーの違反建築物である事実は、買主に対して口頭説明したと述べ、重要事項説明書への記載不備を認めた。X及びYも、重要事項説明書への記載不備を認めた。
5について
Yはミスを認めた。
処分等
府は、次のとおり違反事実等を認定し、X、Y及びZを指示処分とした。
- (X、Y及びZ) 業法第35条第1項、第37条第1項違反及び取引の公正を害する行為(過去に浸水があった事実及び同規模の建物を再建築できないことを重要事項説明書に記載していない)
- (Y及びZ) 取引の公正を害する行為(業法第40条第1項に違反する取引の媒介を行ったこと及び買主に不利な手付解約期限を設けた取引の媒介を行ったこと)
- (Xのみ) 業法第40条第1項違反及び取引の公正を害する行為(買主に不利な手付解約期限を設けたこと)
- (Yのみ) 業法第34条の2第1項及び業法第37条第3項違反
本事例のポイント
1 重要事項説明書について
- (1)排水のための施設の整備の状況について、汲み上げポンプ等が設置されているときは重要事項説明書に記載する必要があります。
- 設置の有無だけでなく、設備の状況についても説明する必要があります。
- (2)当該宅地又は建物の瑕疵担保責任の履行に関する措置を講ずるかどうか、及び講ずる場合におけるその措置の概要を記載する必要があります。
- ここは、売主が瑕疵担保責任を負うかどうかについて記載すべき箇所ではなく、売主に瑕疵担保責任が発生したときに、その履行について、売主は第3者機関により措置を講ずるのか講じないのかを記載すべき箇所です。(売主が負う瑕疵担保責任の内容については、重要事項説明書での記載義務事項ではなく、業法第37条書面での記載義務事項です。)なお、住宅瑕疵担保履行法により、平成21年10月以降に引き渡される新築住宅については、「保証金の供託」または「保険への加入」が義務付けられることに伴い、この措置を講ずるかどうか及びその措置の概要(供託する場合:供託する旨及び供託所の名称・所在地、保険を利用する場合:保険を利用する旨及び指定保険法人の名称、保険契約の内容)を記載する必要があります。
2 瑕疵担保責任の特約の制限について
業者が自ら売主となる売買契約において、瑕疵担保責任は2年以上負わなければなりません。また、瑕疵を負う範囲を狭めることはできません。
- 雨漏り及びシロアリが発生した場合についてのみ瑕疵担保責任を負うとする特約や瑕疵担保責任は引渡し後1年間負うものとする特約は、民法に規定するものより買主に不利な特約であり、その特約は無効となります。
3 手付解除の期限について
業者が自ら売主となる売買契約において、手付解除の期限は相手方の履行の着手があるまでとしなければなりません。
- 手付解除期限について、本事例のように契約締結日から数日後と定めたり、住宅ローンの「融資内定日」と定めたりする契約書がよく見られますが、契約の履行の着手より不当に短い手付解除期限を設けることはできません。契約書でそのような特約を定めても、業法第39条第3項により無効となります。
4 物件における過去の浸水被害について
過去に物件に浸水事故があったことを把握した場合は、重要事項説明書に記載して、買主に説明する必要があります。
- 物件に浸水事故が過去にあった事実は、物件の瑕疵にあたる可能性もあります。このような事実は、買主の判断に重要な影響を及ぼす事項に該当しますので、「重要な事項」として重要事項説明書に記載して、買主に説明する必要があります。
5 再建築について
取引物件について検査済証を取得していない為、再建築の際には同規模の建物を建てられない事実は、重要事項説明書に記載して、買主に説明する必要があります。
- 再建築の際に同規模の建物を建てられないという事実は、将来、買主が物件を転売するときに、物件の価値を下げる要因にもなり、買主の判断に重要な影響を及ぼす事項に該当しますので、事実を契約書にだけ記載するのではなく、「重要な事項」として重要事項説明書に記載して、買主に説明する必要があります。また、本事例のように建築基準法に基づく制限のため再建築の際は同規模の建物を建てられない場合は、再建築の可否についてだけでなく、再建築の際は同規模の建物が建てられない旨を重要事項説明書に記載する必要があります。