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大阪府に寄せられた宅地建物取引に関する相談事例 No.8
売買契約締結
経過
買主Aは、宅建業者Yの媒介で、宅建業者Xを売主とする土地付建物を購入した。入居直後から、当該物件に隣接する学校で工事が始まり、騒音に悩まされるようになった。Yから工事のことについての説明は受けていない等として、Aは府に苦情を申し立てた。
判明した違反事実
府がX及びYに事情を聴いたところ、以下のとおり違反事実が確認された。
- 重要事項説明書に次の不備がある。業法第35条第1項違反
- (1)代金以外に授受される金銭の額及び授受の目的(同項第7号)
- 固定資産税等精算金の具体的な額を記載せず、「別紙添付書類参照」とだけ記載している。
- (2)売主業者の宅地建物取引士の記名押印がない。(Xのみ)
- (1)代金以外に授受される金銭の額及び授受の目的(同項第7号)
- 売買契約書(いわゆる「37条書面」)に売主業者の宅地建物取引士の記名押印がない。業法第37条第3項違反(Xのみ)
- 法定上限額を超える媒介報酬を受領した。
本件売買契約に関して受領できる媒介報酬について、法定上限額を超える金額を買主から受領した。業法第46条第1項違反(Yのみ) - Xは当該物件に隣接する学校において工事が行われる予定であることを契約締結前に知っており、当該工事に伴う騒音の発生が予見できたにもかかわらず、当該工事について調査を行うことを怠り、当該工事が行われる事実について、契約が成立するまでの間に買主に対して説明しなかった。取引の公正を害する行為(Xのみ)
違反が発生した事情(又は理由)
1及び2について
X及びYは、「別紙添付書類」に当たる諸費用精算書を決済の日に買主に渡したと述べ、重要事項説明書に添付していないことを認めた。また、Xは、重要事項説明書及び売買契約書に宅地建物取引士の記名押印がないことについて、ミスを認めた。
3について
Yは、「消費税相当額を含んだ売買価格を基準に報酬を算定してしまった。」と述べ、ミスを認めた。
4について
Xは、「当該物件に隣接する学校において何らかの工事が行われる予定であることを知っていたが、特に意識していなかったため調査は行わず、Yにも伝えなかった。今から思えば調査不足だったかもしれない。」と述べ、ミスを認めた。
(なお、その後、Yは媒介報酬の超過分をAに返金した。)
処分等
府は、次のとおり違反事実等を認定し、X及びYを指示処分とした。
- (X及びY)業法第35条第1項違反
- (Xのみ)業法第37条第3項違反及び取引の公正を害する行為(当該物件に隣接する学校において工事が行われる予定であることを知っていたが、当該工事について調査を行うことを怠たり、買主に説明しなかったこと)
- (Yのみ)第46条第1項違反
本事例のポイント
1 重要事項説明書について
- (1)代金以外に授受される金銭の額及び授受の目的として、固定資産税等精算金の額を記載する必要があります。
- 本件のように別紙に記載する場合は、「別紙添付書類参照」などと記載するとともに重要事項説明書に添付して一体的に交付する必要があります。なお、「実費」「日割精算」といった記載がよく見受けられますが、それでは不十分です。額が確定していない場合は、例えば「概算」等として目安となる具体的な額を記載してください。また、その他の媒介手数料や所有権移転登記費用など買主が負担すべき費用についても重要事項説明書等の書面に記載して説明するようにしてください。
- (2)取引に媒介、売主、販売代理として関わったすべての業者の宅地建物取引士が記名押印する必要があります。
- 仲介業者の宅地建物取引士が記名押印しているからといって、売主業者の宅地建物取引士の記名押印が不要というわけではありません。
2 売買契約書(いわゆる「37条書面」)について
取引に媒介、売主、販売代理として関わったすべての業者が宅地建物取引士に記名押印させる必要があります。
- 仲介業者の宅地建物取引士が記名押印しているからといって、売主業者の宅地建物取引士の記名押印が不要というわけではありません。
3 媒介報酬について
仲介業者が受領できる報酬の上限額は、消費税相当額を除いた売買価格を基準に算定した金額になります。
- 消費税相当額を含めた売買代金に基づき算定した法定上限額を報酬として受領した場合、超過報酬として業法第46条第2項に違反します。報酬の上限額は、消費税相当額を除いた売買価格を基準に算定するようにしてください。
なお、売主業者が買主を募集する際に、成約した場合は売買代金の6%の報酬を支払う旨を業者向けパンフレットに記載し、成約後報酬としてその金額を受領したという事案があります。本件については、業法第46条第1項に違反する報酬を受領した仲介業者及びそれを誘引した売主業者が処分を受けました。売主や買主が同意しているからといって法定上限を超える報酬を受領することが認められるわけではありません。
また、売買契約書(いわゆる「37条書面」)には、代金又は交換差金の額並びにその支払の時期及び方法について記載することが義務付けられており、その対象には消費税相当額も含まれます。売買契約書に売買価格の総額のみ記載し、消費税相当額を記載しなかったため指導監督を受けるというケースもありますので併せて注意してください。
4 隣接地における工事予定について
隣接地において工事が行われる事実は、騒音被害や粉塵による被害が予想され、物件の周辺環境に関する事項として、買主の判断に重要な影響を及ぼす事項に該当します。
- 工事が行われることを認識していた場合、どのような工事が行われるか調査を行い、買主に対して工事の内容について、契約が成立するまでに説明する必要があります。また、その際には、説明内容を記載した重要事項説明書等の書面を交付するようにしてください。