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大阪府に寄せられた宅地建物取引に関する相談事例 No.1
売買契約締結
経過
買主Aは、宅建業者Yの媒介で、宅建業者Xを売主とする新築一戸建住宅の売買契約(売買価格2,200万円)を締結した。Aは契約時に売買代金の5%以上の手付金(200万円)を支払ったが、建物は建築工事中であり未完成物件であるにもかかわらず、Xが手付金の保全措置を講じていないとして、Aは府に苦情を申し立てた。
判明した違反事実
府がX及びYに事情を聴いたところ、以下のとおり違反事実が確認された。
- 重要事項説明書に次の記載不備がある。業法第35条第1項違反
- (1)代金以外に授受される金銭の額及び授受の目的(同項第7号)
- 固定資産税等精算金の具体的な額を記載していない。
- (2)契約の解除に関する事項(同項第8号)
- 売買契約書に規定されている引渡し前の毀損等による解除について記載していない。
- (3)金銭の貸借のあっせんの内容(同項第12号)
- 金融機関名を記載していない。
- (4)売主業者の宅地建物取引士の記名押印がない。(また、手付金等の保全措置の概要については、「講じない」と記載されている。)
- (1)代金以外に授受される金銭の額及び授受の目的(同項第7号)
- 売買契約書(いわゆる「37条書面」)に次の記載不備がある。
- (1)売買価格の総額(消費税込み)は記載されているが、建物代金にかかる消費税の額が記載されていない。業法第37条第1項違反
- (2)売主業者の宅地建物取引士の記名押印がない。業法第37条第3項違反
- 売買契約書において、買主が売主に瑕疵担保責任の請求をすることができる期間について、引渡し後1年を経過したときはすることができない旨規定している。業法第40条第1項違反
- 手付金の保全措置を講じていない。業法第41条第1項違反
- YはXに対し媒介契約書を交付していない。業法第34条の2第1項違反
違反が発生した事情(又は理由)
1、2及び4について
X及びYは、重要事項説明書と売買契約書の記載不備及び手付金の保全措置を講じていないことについて、ミスを認めた。また、Xは、重要事項説明書と売買契約書に宅地建物取引士の記名押印がないことについては、「当社が媒介であれば宅地建物取引士に記名押印させている」と述べ、ミスを認めた。
3について
Xは、「売買契約書のチェックが漏れていた。当社の書式の契約書では、瑕疵担保責任の期間は2年になっている」と述べ、ミスを認めた。
5について
Yは、「業者間の慣行として媒介契約書は交わさなかった」と述べ、ミスを認めた。
なお、その後、Xを売主とする別の売買契約について、新たな取引苦情が府に申し立てられた。その取引においても、Xは重要事項説明書の記載不備等の違反事実が認められた。
処分等
府は、次のとおり違反事実等を認定し、Xを指示処分、Yを文書勧告とした。
- (X及びY)業法第35条第1項及び第37条第1項違反
- (Xのみ)業法第37条第3項、第40条第1項及び第41条第1項違反 他
- (Yのみ)業法第34条の2第1項違反、取引の公正を害する行為(第40条第1項及び第41条第1項に違反する取引の媒介を行ったこと)
本事例のポイント
1 重要事項説明書について
- (1)代金以外に授受される金銭の額及び授受の目的として、手付金だけでなく、固定資産税等精算金も記載する必要があります。
- 「実費」「日割精算」といった記載では不十分です。額が確定していない場合は、例えば「概算」等として目安となる具体的な額を記載してください。
また、その他媒介手数料や所有権移転登記費用など買主が負担すべき費用についても重要事項説明書等の書面に記載して説明するようにしてください。
- 「実費」「日割精算」といった記載では不十分です。額が確定していない場合は、例えば「概算」等として目安となる具体的な額を記載してください。
- (2)売買契約書で規定されている契約の解除に関する事項は、すべて重要事項説明書に記載する必要があります。
- 契約の解除の内容としては、手付解除、違約解除、ローン解除、引渡し前の滅失等による解除、特約で定められている解除条項等がありますが、記載漏れがよく見受けられます。
- (3)金銭の貸借のあっせんの内容として、融資額、金融機関名、金利、返済方法などあっせんの内容や融資の条件を記載する必要があります。
- 金融機関について、「当社指定金融機関」といった記載がよく見られますが、これだけでは不十分です。あっせんを予定している具体的な金融機関名を記載してください。あっせんを予定している金融機関が複数ある場合には、それらをすべて記載してください。
- (4)取引に媒介、売主、販売代理として関わったすべての業者の宅地建物取引士が記名押印する必要があります。
- 媒介業者の宅地建物取引士が記名押印しているからといって、売主業者の宅地建物取引士の記名押印が不要というわけではありません。
2 売買契約書(いわゆる「37条書面」)について
- (1)消費税等相当額は、代金等の額の一部となるものであり、かつ、代金等に係る「重要な事項」に該当するので、代金の額の記載に当たっては消費税等相当額を明記する必要があります。
- 「消費税込み」といった記載がよく見られますが、これだけでは不十分です。具体的な額を明記してください。
- (2)取引に媒介、売主、販売代理として関わったすべての業者が宅地建物取引士に記名押印させる必要があります。
- 媒介業者の宅地建物取引士が記名押印しているからといって、売主業者の宅地建物取引士の記名押印が不要というわけではありません。
3 瑕疵担保責任についての特約の制限について
業者が自ら売主となる売買契約において、瑕疵についての責任の期間を「物件引渡しの日から2年以上」とする特約を除き、民法の規定より買主に不利となる特約をすることはできません。
- このような特約をした場合、その特約は無効となります。
4 手付金等の保全について
業者が自ら売主となる売買契約において、未完成物件の場合には、金融機関等による保全措置を講じた後でなければ、売買代金の5%又は1千万円を超える手付金等を受領することはできません。
- 未完成物件の場合、手付金の額が1千万円以下であっても、売買代金の5%を超える場合は保全措置を講じる必要があります。
5 媒介契約書の交付について
宅地建物の売買の媒介の契約を締結したとき、業者は依頼者に対し媒介契約書を交付しなければなりません。
- 依頼者が業者、一般個人のいずれであっても、業者には媒介契約書の交付義務があります。