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大津川水系河川整備計画
第1章 河川整備計画の目標に関する事項
第1節 流域及び河川の概要
(1)流域の概要
大津川水系は、その源を葛城山系に発し、父鬼川、東槇尾川、槇尾川、松尾川、牛滝川の支川を合流して大阪湾に注ぐ、流域面積102.2km2、流路延長約68.0km(うち二級河川指定区間流路延長56.6km)の府下最大の二級水系である。その流域は、和泉市、岸和田市、泉大津市、忠岡町の3市1町にまたがっている。
(2)流域特性
1.自然環境特性
大津川水系は大津川及びその支流により流域の下流部から中流部にかけて扇状地性低地が形成され、その周辺には段丘が広がっている。河川の上流部は、下流側から大起伏丘陵地(起伏量100~200m)、和泉山脈の小起伏山地(起伏量200~400m)、中起伏山地(起伏量400~600m)へと移行している。
地質については、河川沿いは砂の堆積がみられ、その周辺の低地や段丘はれきにより構成されている。上流部の和泉山脈部は、深成岩の花こう岩質岩石が分布し、源流部には、砂岩、れき岩、泥岩等の堆積岩の分布がみられる。
大津川流域の気候は瀬戸内式気候に属し、年間を通じて温暖な気候となっている。流域に隣接する堺地域気象観測所の観測では、平成11年の平均気温は16.4℃、年降水量は1,387mmである。
流域は上流部を中心に豊かな自然環境が広がっている。植物では中流部の丘陵地にアラカシや竹林等の植生が点在するほか、葛城山系の一部となる上流部の山地ではモチツツジ-アカマツ群集やスギ、ヒノキの植林等の植生が分布し、牛滝川上流の一部にはブナの原生林がある。
動物では多くの種の生息が確認されており、そのうち河川に関わりの深いものとして、魚類では上下流を通じてオイカワ、中流部から上流部ではカワムツ、上流部ではカワヨシノボリ等が多く確認されている。昆虫類では中流部から上流部でムカシヤンマやゲンジボタル等、両生類では松尾川上流で特別天然記念物のオオサンショウウオ、槇尾川上流部でカジカガエル、その源流部でブチサンショウウオの生息が記録されており、また、鳥類では下流部でカワウ、上下流を通じてカワセミ、中流部から上流部でヤマセミが確認されているほか多くの野鳥が生息しており、良好な水辺環境を有している。このほかにも流域では、ニホンザルやイノシシ等の哺乳類やオオタカやハイタカ等の猛禽類も確認され、多様な生物の生息環境が形成されている。
2.社会環境特性
流域は和泉市、岸和田市、泉大津市、忠岡町の3市1町にまたがっており、その人口は、平成11年において全体で約46万人である。特に和泉市及び泉大津市では、近年、大阪府下において人口増加率の高い地域となっている。また、大津川流域内の人口は、平成7年時点で約15万人である。
流域3市1町の産業別就業就業者数は、いずれの市町でも第3次産業が主となり、近年において増加傾向を示している。特に和泉市や岸和田市では第3次産業の割合が全体の6割以上となっている。第1次産業、第2次産業については、いずれの市町においても減少傾向となっている。代表的な産業としては「泉州ミカン」の生産や繊維工業も広く知られている。
流域3市1町の土地利用は、平成11年において、山林が約22%、田畑が約33%、宅地が約38%である。下流部から中流部にかけては大部分が市街化区域となっており、中流部の丘陵地において和泉中央丘陵新住宅市街地開発事業(トリヴェール和泉)等の整備が進められ、宅地が大きな割合を占めている。また中流部は水田やミカン畑等農地が比較的多く残っており、豊かな自然の残る上流部は、槇尾川周辺から葛城山一帯にかけて金剛生駒紀泉国定公園に指定されている。
また、流域には、「大津川河川公園」、「蜻蛉池公園」、「和泉市立青少年の家」、「牛滝温泉森やかの郷」等の施設や槇尾山や葛城山のハイキングコース、施福寺等の寺社、観光・レクリエーション施設が多く位置している。
交通は、下流の低地部では大阪と和歌山を結ぶ南海本線、国道26号、JR阪和線といった交通網が従来から基幹を成していたものの、大阪湾沿岸の臨海工業地の発達等により、道路における慢性的な渋滞が見られるようになり、高速道路等の整備が進められるようになった。平成5年には中流部に阪和自動車道が、平成6年には泉州沖の関西国際空港のアクセス道路として阪神高速湾岸線が開通している。また、上流の山沿いを国道170号(大阪環状線)が通過するほか、国道480号は槇尾川に沿って上下流を結び和歌山へ通じている。
3.歴史・文化
流域の歴史は古く、弥生・古墳時代に遡り、国指定の史跡である池上・曽根遺跡、摩湯山古墳や「和泉」という名の由来といわれる泉井上神社の和泉清水等の遺跡が点在している。また、奈良時代には、現在の和泉市に和泉国の国府がおかれ、当時の泉州地域の政治・経済・文化の中心地として役割を担っていたとされている。中でも、弥生時代の環濠集落とされる池上・曽根遺跡は、当時の建物が復元され「池上曽根遺跡史跡公園」として整備されるなど、歴史を伝える取り組みが成されている。
(3)河川特性
流域の下流部では、宅地や商工業地が密集する市街地の中、川幅が広く、高水敷に公園が整備されるなど、広がりのある良好な河川景観となっている。中流部は水田や果樹園が多くみられ、河川は人工的なブロック積の護岸が目に付くが、河川沿いの樹木が水面を覆う美しい景観もみられる。上流部は集落の点在する山間部となり、河川は樹木や露岩のみられる渓流の様相を呈している。
第2節 河川整備の現状と課題
1.治水の現状と課題
大津川水系の過去の著名な災害は以下のとおりである。
既往最大の日雨量362.5mm(岸和田観測所)を記録した昭和27年7月の豪雨では、泉大津市、岸和田市を含む7市2郡で死者41名、浸水家屋約19万戸の被害が発生し、災害救助法が適用された。
また、昭和57年8月の台風10号による豪雨では、槇尾川の泰成橋付近での破堤などにより、大津川水系に関係する3市1町で床上浸水168戸、床下浸水5,526戸などの被害が発生している。
近年では、平成7年7月の豪雨により、和泉市で床上浸水11戸、和泉市と泉大津市で床下浸水60戸の被害が発生するとともに、和泉市坂本町の槇尾川等で護岸崩壊や法面崩壊及び松尾川の箕形橋の橋梁落下等の被害が発生している。
大津川水系では昭和27年7月豪雨による大出水を契機に災害復旧助成事業に着手した。昭和46年には基準地点高津における基本高水を1,300m3/s(確率規模1/100)とする大津川水系の全体計画を定め、河口から槇尾川、牛滝川の合流点までの区間について、中小河川改修事業で築堤、掘削等を施工するとともに、槇尾川、東槇尾川、松尾川等では、小規模河川改修事業及び局部改良事業を実施している。
しかし、その後も昭和57年8月の台風10号による出水等により、頻繁に河岸の決壊、氾濫を繰り返し、また、関西国際空港の開港に伴い、和泉コスモポリス、トリヴェール和泉などの流域内の開発が著しく進行した。このため、大津川、牛滝川、松尾川、槇尾川で合計約33kmを計画対象区間として位置づけた。さらに流下能力の低い槇尾川については、上流部で治水ダムの計画を検討し、平成3年度から実施計画調査を行い、平成7年度からは建設段階へと事業を進めている。
現在、大津川では、概ね100年に一度程度の確率で発生する規模の洪水に対しての整備は完成しているが、支川の牛滝川、槇尾川等では、流下能力が不足しており、改修が急がれている。
なお、河口から下流部の楯並橋までの約1km区間においては高潮対策事業を実施し、伊勢湾台風級の超大型台風による高潮にも対応できる高潮堤防が完成している。
2.河川利用及び河川環境の現状と課題
河川水の利用としては、現在、主に農業用として利用されている。平成6年の渇水時においても、大津川水系では、大きな渇水被害は生じていないが、今後、自然状況等の変化により、水不足が懸念される。
河川空間の利用状況としては、大津川の両岸や槇尾川下流部などで高水敷の整備を実施しており、沿川住民に利用されている。特に、大津川では泉大津市、忠岡町により公園として管理されている。また、松尾川中流部では、「ふるさとの川整備計画」を基本に、和泉市と協力して整備しており、牛滝川の最上流部では「ふるさと砂防事業」を実施するなど、府民に親しまれる河川整備を行っている。
水系の水質汚濁に関わる環境基準は、高津(大津川)、高橋(牛滝川)、新緑田橋(松尾川)、繁和橋(槇尾川)でB類型、大津川橋(大津川)でD類型、神田橋(槇尾川)でA類型に指定されており、そのうち大津川橋と神田橋の2地点でBOD75%値(平成10年度調査)が環境基準を達成しているが、他の地点では環境基準を満足していない。各地点のBOD(年平均値)は、昭和63年以降、平成6年を除いてやや改善もしくは横這いの状況であるが、良好な水質の維持や回復に努める必要がある。
第3節 流域の将来像
流域は概ね山地が主となる上流部、丘陵地が主となる中流部、市街地の広がる下流部に分かれ、大阪府新総合計画及び流域各市町の総合計画等により、次のような方向付けがなされている。
- 下流部:国際交流、物流等の諸機能の強化、産業面の高度化(都市型・高付加価値型産業)等による特色ある都市を目指す。また、都市環境の向上を図る。
- 中流部:山地と市街地の緩衝帯としての役割を担い、良好な住宅地の供給、身近な自然の場の創出等を進める。
- 上流部:自然の保全と活用を基調とした地域を創出する。
第4節 河川整備計画の目標
1.洪水、高潮等による災害の発生の防止または軽減に関する目標
大津川水系では、将来的には概ね100年に一度発生する大雨(1時間あたり86.9ミリ)が降った場合に発生する洪水を安全に流下させるものとしているが、当面の目標として、1時間あたり50ミリの降雨による洪水を防御するものとする。なお、将来的な計画を考慮して、各河川の特性や状況等にあわせた整備を図るものとする。
将来的な計画高水流量配分図(計画規模:1/100年)
2.河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する目標
流水の正常な機能の維持に関しては、今後、取水等の水利用実態の把握を行い、適正かつ効率的な水利用が図られるように努めるとともに、河川の水質や景観及び動植物の生息・生育環境に十分配慮して、確保すべき流量を設定し、流域住民及び河川利用者等の協力のもと、流域の持つ保水機能の保全などにより、その流量の確保に努める。
また、槇尾川の上流部では、概ね10年に一度程度発生する確率の渇水においても、流水の正常な機能を維持するため、神田橋(東槇尾川合流点直上流)地点で必要な流量を確保し、既得取水の安定化及び河川環境の保全等を図るものとする。
流水の正常な機能を維持するために必要な流量(神田橋地点)
※1.水田に水を必要としない期間
※2.水稲の育成期間
3.河川環境の整備と保全に関する目標
大津川水系では、流域が持つ歴史・文化・景観や流域の多様な自然環境に配慮し、各地域の特色を活かした川づくりを行う。
牛滝川は、市街地における貴重な自然空間であり、樹林等の周辺環境に十分配慮した整備に努める。
松尾川は、隣接する久保惣美術館等周辺と調和のとれた、うるおいのある水辺空間を整備し、これにあわせ、樹林等の保全や緩勾配の護岸及びスポット的な公園整備等、人が自然に親しめる空間を整備する。
槇尾川並びに東槇尾川においては、自然が多く残っている河川であることから、河川特有の自然環境や景観を生かし、生態系に配慮するとともに、住民が身近に河川とふれあえるよう整備に努める。
4.河川整備計画の計画対象区間
二級河川大津川水系の河川のうち、本計画において、計画対象とする区間は、下記に示すとおりである。
計画対象区間
大津川水系河川整備計画対象区間位置図
5.河川整備計画の計画対象期間
本計画は、大津川水系河川整備基本方針に基づく河川整備の当面の目標を定めたもので、その計画対象期間は、計画策定から概ね15年とする。
6.本計画の摘要
本計画は大阪府における現時点での当面の河川整備水準の目標達成に配慮し、かつ流域の社会状況、自然状況、河道状況に基づき策定されたものである。策定後にこれらの状況の変化や新たな知見・技術の進捗等の変化によっては、適宜、河川整備計画の見直しを行うものである。
第2章 河川の整備の実施に関する事項
第1節 河川工事の目的、種類及び施行の場所並びに当該河川工事の施行により設置される河川管理施設の機能の概要
大津川水系における河川整備は、計画対象区間において、1時間あたり50ミリの降雨による洪水を安全に流下させることを目標に、河道の拡幅及び掘削等の河道改修を行うとともに、槇尾川においては上流にダムを建設する。なお、実施にあたっては、将来的な計画を考慮して、各河川の特性や状況等にあわせた整備を図るものとする。また、周辺の自然環境や動植物の生息・生育環境に配慮した整備に努める。
(1)牛滝川
河川整備は計画対象区間において、現況河道の拡幅、掘削等を行うこととする。実施にあたっては、治水上支障のない範囲で樹林等の保全に努める。
整備目標流量及び計画対象区間と整備内容を以下に示す。
整備目標流量
計画対象区間と整備内容
JR橋梁付近
牛滝川標準横断図
(2)松尾川
河川整備は計画対象区間において、現況河道の法線の是正や拡幅、掘削等を行うこととする。実施にあたっては、ふるさとの川整備計画に基づき『水辺を軸としたみどりと文化と暮らしのネットワークの形成』を図る。但し、整備においては、周辺との一体的な整備や河川の特性を考慮し、本水系河川整備基本方針で定める洪水の計画規模と整合した整備を行うものとする。
整備目標流量及び計画対象区間と整備内容を以下に示す。
整備目標流量
計画対象区間と整備内容
無常橋上流付近
松尾川標準横断図
(3)槇尾川
河川整備は計画対象区間において、現況河道の拡幅、掘削等を行うこととする。整備にあたっては、親水性や景観との調和を図るため緩勾配の土堤での整備を基本とし、周辺の樹林等の自然環境に配慮した整備を行う。
また、沿川の土地利用や流域の地形状況等を考慮し、河道改修と併せて、上流の和泉市仏並町、坪井町において河川の洪水流量を調節するため、槇尾川ダムを建設する。ダムの建設にあたっては、現況の自然環境に十分配慮するとともに、その保全と回復に努めるものとする。
河川整備とダム建設により、槇尾川においては、概ね昭和57年8月の豪雨による洪水に対応できる。
なお、槇尾川ダムについては、本水系河川整備基本方針に定める洪水の計画規模に基づき建設するものとし、ダム地点では流量最大時85m3/sのうち、75m3/sを調節し、10m3/sを下流に放流し、板原地点で750m3/sのうち、50m3/sを調節し、700m3/sとする。
整備目標流量及び計画対象区間と整備内容を以下に示す。
整備目標流量
計画対象区間と整備内容
さらに、槇尾川ダムにより、概ね10年に一度程度発生する規模の渇水時においても、流水の正常な機能を維持するために必要な流量を神田橋(東槇尾川合流点直上流)地点で確保する。
流水の正常な機能を維持するために必要な流量(神田橋地点)
※1.水田に水を必要としない期間
※1.水稲の育成期間
郷荘橋付近
槇尾川標準横断図
槇尾川ダムの概要
槇尾川ダム平面図
標準断面図
下流面図
(4)東槇尾川
河川整備は計画対象区間において、現況河道の拡幅、掘削等を行うこととする。実施にあたっては、治水上支障のない範囲で河川環境の保全に努める。
整備目標流量及び計画対象区間と整備内容を以下に示す。
整備目標流量
計画対象区間と整備内容
上川橋下流付近
東槇尾川標準横断図
第2節 河川の維持の目的、種類及び施行の場所
堤防及び護岸等の河川管理施設の従前の機能や河道の所定の流下能力を確保するため、必要に応じて河川管理施設等の点検を行うとともに、その結果に基づき必要な個所においては、堆積土砂の撤去などの維持を行うものとする。
また、槇尾川ダム完成後は貯水池の巡視、堆砂測量及び水質調査等を行い、貯水池の状況を把握するとともに、ダム本体の変形量及び漏水量等を測定、ダム施設の定期的な点検を行い、ダム機能の維持管理に努めるものとする。
さらに、河川の形状の変化に対しても十分な注意を払うとともに、河川水辺の国勢調査等のモニタリングを行い、河川環境の維持に努める。
ダム建設に伴って実施する自然環境保全対策については、施設完成後も追跡調査等を行い、その効果を確認するとともに、施設の維持管理と併せて、必要な管理を行うものとする。
第3章 その他河川整備を総合的に行なうために必要な事項
地域の市町とともに降雨時における雨量や水位などの情報提供、避難経路や避難地等を示したハザードマップの作成を行うなどして住民の安全な避難行動や地域防災活動を支援する。
さらに、大津川水系の豊かな自然環境を保全し、将来へ良好な姿で引き継いでいくためには、流域住民の理解と協力が不可欠である。そのため、大津川水系各河川と流域住民との関係をより緊密にし、河川愛護思想の普及を図るため、水辺の観察会の実施や住民によるクリーンキャンペーンを支援する。