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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第76号)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成14年4月16日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「泉北ニュータウン光明池地区センター内用地(和泉市室堂町824-34~37)の分譲にかかる分譲申込書、予定建築物等の図面、事業実績が明らかとなる資料」の公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
- 同年4月24日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に第三者に関する情報が含まれているため、条例第17条第1項の規定に基づき、異議申立人を含む当該第三者に対して意見書提出の機会を「第三者意見書提出機会通知書」により付与するとともに、条例第14条第2項の規定により決定期間を延長した。
- 異議申立人から意見書の提出はなかった。
- 同年5月15日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して、本件請求をした者(以下「請求者」という。)に通知した。
- (1)行政文書の名称
泉北ニュータウン光明池地区センター内用地(和泉市室堂町824-34~37)分譲に係る- 分譲申込書、確約書、申込者の概要、事業計画書〔その1~3〕、経営計画書〔土地所有者用・事業者用〕
- 配置計画図、動線計画図〔1階・2階〕、平面図〔1階~3階、R階〕、主要断面図、施設イメージ(ファサード、Light Terrace、エントランス)
- 事業実績が明らかとなる資料
- (2)公開しないことと決定した部分
- a 法人の代表者の印影
- b「申込者(代表企業及び構成企業)の概要」及び「経営計画書(土地所有者用・事業者用)」のうち担当者の氏名
- c「経営計画書(土地所有者用・事業者用)」のうち「資金計画」の金額、「収支計画」の金額、「損益見通し」及び「主な収益事業の内容と割合」の割合
- (3)公開しない理由
- a、c条例第8条第1項第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人代表者の印影、当該事業の経営計画に係る情報が記録されており、これを公開することにより、法人の取引の安全を害するなど当該法人その他の団体の正当な利益を害すると認められる。 - b条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、法人の従業者の氏名が記載されており、これは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- a、c条例第8条第1項第1号に該当する。
- (1)行政文書の名称
- 同年5月15日、実施機関は、本件処分を行った旨及び本件非公開部分を除いて公開することとした理由を次のとおり付して、条例第17条第3項の規定により第三者である異議申立人に通知した。
〔公開決定をした理由〕
条例第8条第1項各号及び第9条各号に該当しないため。 - 同年5月27日、異議申立人は、本件処分を不服として行政不服審査法第6条の規定により、本件処分において公開することと決定した部分のうち、次の部分(以下「本件非公開請求部分」という。)を公開しないことを求める異議申立て行った。
〔本件非公開請求部分〕- a「申込者(代表企業及び構成企業)の概要」のうち異議申立人における「担当責任者の所属等」、「TEL」及び「FAX」
- b「経営計画書(土地所有者用・事業者用)」のうち異議申立人における「担当者の所属」、「役職」及び「TEL」
- 同年5月29日、実施機関は、上記執行停止申立てに対して、本件非公開請求部分について執行停止することを決定し、その理由を次のとおり付して、異議申立人及び請求者に通知した。
〔執行停止をする理由〕
執行停止申立てに係る部分の公開の実施については、条例に基づき、別途異議申立人からなされている、異議申立てに係る大阪府情報公開審査会の答申を尊重した異議申立てに対する決定に基づき行うことから、行政不服審査法第34条第2項の規定により執行を停止する。 - 同年5月30日、実施機関は、請求者に対して本件非公開部分及び本件非公開請求部分を除き、写しの交付により本件行政文書の公開を実施した。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分において公開決定された部分のうち、本件非公開請求部分を公開しないこと。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 第三者意見書の提出を見送った経緯
平成14年4月24日付けで実施機関より「第三者意見書提出機会通知書」を受け取ったが、提出期限の同年5月7日までは5営業日しかなく、以下の事情により意見書を提出できなかった。
本件異議申立てに係る土地の売買契約は、平成14年3月31日までに締結する予定であったが、通知書が送付されてきた同年4月25日頃には、構成企業において契約を締結することを決定しておらず、売買契約締結の期限が延長されていた。そのため、契約締結を断念することとなれば意見書を提出するまでもなくなるので、意見書の提出を見送った。
その後、構成企業において当該事業を推進することが意思統一され、同年6月14日付けで売買契約を結ぶに至り、その間に本件異議申立てを行ったものである。
2 異議申立ての理由
当該事業における構成企業内での異議申立人の役割は、建物の所有及び土地買主の購入に際してのファイナンスの2点である。不動産登記簿で異議申立人の社名を確認することが可能であるため、社名、TEL、FAX番号の公開については、異議はない。
しかしながら、本件非公開請求部分が公開されると次の理由により異議申立人が不利益をこうむるとともに、当該事業のテナント募集に影響を及ぼし、ひいては当該事業の中止、本件土地売買契約の解除、大阪府の土地買戻しに至るおそれがある。
- a 本件土地買主の新規出店と競合することが予想される近隣の同業種の店数は14にのぼり、当然その中で本件出店により顧客数の減少並びに利益率の低下に繋がる店舗も充分予想されうる。
- b このような状況において、異議申立人は近隣の同業者の多数と取引しており、それら同業者の中には利益相反行為に加担した異議申立人に対してクレームや取引の見直しを申し出てくる者もあることが予想される。
さらに、近隣同業者が、自らの取引きを担当している異議申立人の当該担当部署が本件土地買主の取引きをも担当しているということを知った場合、異議申立人との取引きを一切打ち切るという強硬行動に出てくる者もあることが想像できる(そのような事例を経験している。)。そのため、異議申立人が不利益を被ることが予見される。 - c 上記bの強硬行動に起因して、本件事業に関係する各種許可取得への妨害行動に波及し、本件事業の進捗遅延や中止に至れば、異議申立人をはじめとする構成企業及び実施機関が不利益を被るおそれがある。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 本件事業の概要について
大阪府企業局が開発し、所有する泉北ニュータウン光明池地区センター内用地について、募集用途を「地区センター内の個性豊かなまちづくりを進めるため、アミューズメント機能を基本とした複合的機能の用に供する施設」として、平成13年12月11日に分譲の公募を開始した。
平成14年2月7日、A社(代表企業)、B社及びC社(構成企業)のグループから分譲申込があった。同グループ以外の申込はなかった。
同年2月20日に開催された泉北ニュータウン光明池地区センター内用地分譲選考委員会による選考結果を受け、同日、A社を譲受人とする決定を行った。
同年6月14日、大阪府はA社と土地売買契約を締結した。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、泉北ニュータウン光明池地区センター内用地分譲要綱(以下「分譲要綱」という)に基づき、泉北ニュータウン光明池地区センター内用地の分譲希望者から実施機関に対して提出された分譲申込書である。申込書の内容は、分譲を希望する者に事業計画等を表明させた上で、実施機関に対して、譲受人の決定を求めているものである。具体的には、次のとおりである。
- (1)分譲申込書
- (2)確約書
- (3)申込者(代表企業及び構成企業)の概要
- (4)事業計画書
- (5)経営計画書(土地所有者用・事業者用)
- (6)配置計画図・動線計画図
- (7)平面図
- (8)主要断面図
- (9)施設イメージ
- (10)事業実績が明らかとなる資料
3 本件非公開請求部分について
本件非公開請求部分は、本件行政文書のうち次の項目が明らかになる部分である。
- a 上記2の「(3)申込者(代表企業及び構成企業)の概要」のうち、異議申立人における担当責任者の「所属等」欄、「TEL」欄及び「FAX」欄に記載された情報
- b 上記2の「(5)経営計画書(土地所有者用・事業者用)」のうち、異議申立人における「担当者(所属・役職)」欄及び「TEL」欄に記載された情報(担当者氏名を除く。)
4 条例第8条第1項に該当しないことについて
- (1)条例においては、その前文及び第1条にあるように、府の有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものである。実施機関は、請求された情報が適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならない。
本件異議申立てにおいて、異議申立人は本件非公開請求部分を公開しないことを求めているが、当該情報は条例第8条及び第9条各号の適用除外事項には該当しない。 - (2)以下、まず、本件非公開請求部分が条例第8条第1項第1号に該当しないことを述べる。
事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが、条例第8条第1項第1号の趣旨である。
同号では、- ア 法人等に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの
- ア 上記アについて
本件非公開請求部分は、法人の担当者の所属、役職名、電話番号及びファクシミリ番号に関する情報であり、「法人等に関する情報」であると認められる。 - イ 上記イについて
異議申立人は、「近隣における企業とも弊社同一部署において多数取引があるため、将来的な競合先への融資等に関し外部の多大な反響が予想されるため。」と主張している。しかしながら、異議申立人は、情報公開において法人名を開示することについては、異議を申し立てていない。本件非公開請求部分は、異議申立人の法人内部における担当部署等に関する情報が記載されているにすぎず、法人の名称がすでに公になっている下では、これを公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利害を害する情報であると認められる具体的な事情は認められない。
また、その他にも本件非公開請求部分が公になることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる点はない。
5 その他の適用除外事項に該当しないことについて
本件非公開請求部分に記載されている情報が条例に規定する他の適用除外事項に該当するかについて、実施機関において再検討したが、本件非公開請求部分には、個人のプライバシーに関する情報や法令の規定により公にすることができない情報等も含まれておらず、本件非公開請求部分が条例第8条第1項各号及び第9条に規定する適用除外事項に該当しないことは明らかである。
6 その他
当該用地の分譲募集を行う際、「申込書の内容(申込者名、事業計画等)については、公開することがあります。」と、要綱に注意書きを付していた。
また、本件処分決定前に本件請求に係る第三者意見の提出を求めたが、異議申立人からは意見書の提出はなかった。
7 結論
以上のとおり、本件処分は条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件用地分譲事務等について
本件請求に係る泉北ニュータウン光明池地区センター内の用地(以下「本件用地」という。)分譲は、大阪府14,803.40平方メートル、和泉市2,224.23平方メートル、合計17,027.63平方メートルの宅地を和泉市と共同で分譲を行ったものであり、その概要は以下のとおりである。
(1)譲渡価格
2,554,144,500円
(2)募集用途
地区センターの個性豊かなまちづくりを進めるため、アミューズメント機能を基本とした複合的機能の用に供する施設とする。ただし、住居機能は除く。
(3)申込資格
分譲要綱にしたがって分譲条件を遵守し、十分な資力・業務実績・経営能力を有する者であること。
(4)申込条件等
一企業(法人、個人)に付き1件の申込とする。グループで申し込む場合は、以下の場合とし、代表企業を定め、申し込むこと。
- ア 土地を共有し、本事業を実施する場合
- イ 土地、建物を所有し、建物について事業を実施する企業に委託する場合
- ウ 事業用定期借地方式を活用して本事業を実施する場合
(5)募集日程
- 申込書等の配布 平成13年12月11日~平成14年2月5日
- 申込受付 平成14年2月6日~平成14年2月7日
実施機関は、以上の条件等を付して本件用地の分譲募集を行ったところ、平成14年2月7日にA社を代表企業とし、B社及びC社を構成企業とするグループから分譲申込があった。これは、上記(4)のウに該当するものであり、分譲申込書及び添付書類によれば、A社が大阪府等から購入し所有する土地に事業用定期借地権を設定した上で、B社が建物を建設することとしており、さらに異議申立人であるC社がB社から借地権を転借した上で、当該建物を売買により取得し所有することとなっている。また、異議申立人は、本件用地に係る当該事業の資金の借入金調達先でもある。
その後、平成14年2月20日に開催された学識経験者、関係市町村の助役で構成する選考委員会による選考結果を受け、実施機関においては、同日、A社を本件用地の譲受人とする決定を行った。そして、同年6月14日には、A社と大阪府等との間で本件用地に係る土地売買契約が締結されている。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、分譲要綱に基づき、本件用地の分譲を希望する者にその意思及び事業計画等を表明させるため、分譲希望者から実施機関に対して提出された分譲申込書及び添付書類である。具体的には、次のとおりである。
(1)分譲申込書
本件用地の分譲を希望するもの(代表企業、構成企業)が、本件用地の分譲について実施機関等に申し込むことを示す書類であって、代表企業及び構成企業の各企業の名称、所在地、代表者等が記載され、各法人において代表権を有する者の実印が押印されている。
本件処分において公開しないことと決定されたのは、法人の代表者の印影のみであり、この部分を除き、既に公開が実施されている。
(2)確約書
本件土地の分譲について、グループで申し込む場合、代表企業及び構成企業が共同して事業を実施することを確約するための書類であって、確約内容とともに、各企業の名称、所在地、代表者の名称が記載され、各企業の代表者の印影が押印されている。
本件処分において公開しないことと決定されたのは、法人の代表者の印影のみであり、この部分を除き、既に公開が実施されている。
(3)申込者(代表企業及び構成企業)の概要
本件土地の分譲の申込者(代表企業及び構成企業)の事業実施能力を審査するための書類であって、各企業の主たる業種、資本金、従業員数、株式上場の有無、平成13年度の売上高、経常利益並びに担当責任者の氏名、所属、電話番号及びファクシミリ番号が記載されている。
本件処分において公開しないことと決定されたのは、代表企業及び構成企業の担当責任者の氏名の部分である。
また、この文書に記載された情報のうち、構成企業である異議申立人の担当責任者の「所属等」欄、「TEL」欄及び「FAX」欄に記載されている情報は、本件非公開請求部分であり、異議申立人からの執行停止の申立てを受けて実施機関が執行を停止し、公開を実施していない部分である。
この文書については、本件処分において公開しないこととした部分及び執行停止を行った部分を除き、既に公開が実施されている。
(4)事業計画書
本件用地に係る事業計画を明らかにするために作成された書類であって、事業の目的・コンセプト、事業の内容(代表企業及び構成企業の名称とその関係がわかるフローチャート)、施設計画のコンセプト(施設・フロアー構成、駐車場計画の考え方等)、事業展開にあたっての工夫、施設の概要、工程スケジュール、事業実績が記載されている。
この文書については、本件処分において公開しないことと決定された部分はなく、既に公開が実施されている。
(5)経営計画書
本件土地の事業に係る経営計画を明らかにするために土地所有者、事業者ごとに作成された書類であって、資金計画、事業展開の形態、収支計画(営業開始時期から10年間)、主な収益事業の内容と割合が記載されている。
資金計画の内容としては、土地所有者と事業者の資金の調達予定の内容(自己資金、借入金、その他ごとの金額)、資金の調達先の名称、所在地、担当者の所属、役職、電話番号が記載されている。
この文書のうち、本件処分において公開しないことと決定されたのは、a 資金計画の金額、収支計画の金額及び損益見通し並びに主な収益事業の割合が記載された部分及びb 資金の調達先の担当者の氏名である。
また、この文書に記載された情報のうち、土地所有者及び事業者の資金の調達先の「担当者(所属・役職)」欄及び「TEL」欄に記載された情報(担当者氏名を除く。)は、本件非公開請求部分であり、異議申立人からの執行停止の申立てを受けて実施機関が執行を停止し、公開を実施していない部分である。
この文書については、本件処分において公開しないこととした部分及び執行停止を行った部分を除き、既に公開が実施されている。
(6)配置計画図・動線計画図
建物の各階(1、2階)ごとの配置計画や車や歩行者の動線が分かる平面図である。
この文書については、本件処分において公開しないことと決定された部分はなく、既に公開が実施されている。
(7)平面図
建物の各階(1~3階、R階)ごとの配置が分かる平面図である。
この文書については、本件処分において公開しないことと決定された部分はなく、既に公開が実施されている。
(8)主要断面図
建物の断面からのイメージが明らかとなる断面図である。
この文書については、本件処分において公開しないことと決定された部分はなく、既に公開が実施されている。
(9)施設イメージ
施設の完成イメージが予想できるファサード、Light Terrace、エントランスのイメージ図である。
この文書については、本件処分において公開しないことと決定された部分はなく、既に公開が実施されている。
(10)事業実績が明らかとなる資料
建物運営企業の事業実績を明らかにする4つの事業の写真である。
この文書については、本件処分において公開しないことと決定された部分はなく、既に公開が実施されている。
3 本件処分に係る具体的な判断及びその理由
異議申立人は、本件異議申立てにおいて、本件行政文書のうち、次のa及びbが明らかになる部分を非公開とすることを求めている。
- a「(3)申込者の概要」のうち、異議申立人の担当責任者の「所属等」欄、「TEL」欄及び「FAX」欄に記載された情報
- b「(5)経営計画書」のうち、資金調達先である異議申立人の「担当者(所属・役職)」欄及び「TEL」欄に記載された情報(担当者氏名を除く。)
実施機関は、上記a及びbの本件非公開請求部分について、条例第8条第1項第1号をはじめとする適用除外事項のいずれにも該当しないと主張するので、以下、本件非公開請求部分が条例の適用除外事項に該当するかどうかを検討する。
(1)条例第8条第1項第1号への該当性について
- ア 事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが、条例第8条第1項1号の趣旨である。
同号は、情報が記録された行政文書を公開しないことができる。- a 法人(国及び地方公共団体その他の公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該情報に関する情報であって、
- b 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法若しくは著しく不当な事業活動に関する情報を除く。)
- イ これを本件非公開請求部分に記録された情報について検討する。
- (ア)本件非公開請求部分は、公にすることにより、異議申立人が本件土地に係る事業を行うにあたり、その担当者又は担当責任者の所属、役職、電話番号、ファクシミリ番号が具体的に明らかになる情報であり、言い換えれば、異議申立人が当該事業を行うにあたり、その組織において、どの所属の役職の者が当該事業を担当するのかを明らかとする情報である。よって、条例第8条第1項第1号に規定する「法人等に関する情報」に該当する。
- (イ)次に、本件非公開請求部分を公開することによって、異議申立人の「競争上の地位その他正当な利益を害する」かどうかについて検討する。
ところで、条例第8条第1項第1号の法人等に関する情報であって、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものに加え、「その他正当な利益を害すると認められるもの」、すなわち、公にすることにより、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものも含むものである。
こうした見地から本件非公開請求部分について検討する。
異議申立人は、本件非公開請求部分が公開されれば、当該事業における異議申立人の取引先の新規出店により顧客数や利益率が減少した取引先等から異議申立人に対し苦情の申出や取引の打ち切り等がなされることが予想され、異議申立人が不利益を被ることが予見され、さらに、当該事業の進捗遅延、中止のおそれもあると主張している。
そこで、当審査会においては、異議申立人の組織における当該事業の担当者の所属や役職及び連絡先が、公にすることにより、条例第8条第1項第1号の「法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当するか否かを検討する。
異議申立人が、本件用地に係る事業において、本件用地の分譲を申し込むグループの構成企業として、建物を所有し、当該事業の資金の借入金を調達するという役割を担う意思を有していることは、本件行政文書である分譲申込書、確約書、申込書(代表企業及び構成企業)の概要、事業計画書、経営計画書等に明確に記載されており、これらの文書に記載された異議申立人の名称、所在地、代表者の名称については、異議申立人も公開しないことを求めているものではなく、既に公開が実施されているところである。
確かに、当該事業における異議申立人の取引先の新規出店に際し、近隣にその同業種の取引先の店舗が既にある場合には、異議申立人における当該事業の担当者の所属や役職が公にされると、異議申立人の取引先等から、利益相反行為として異議申立人に対し苦情の申出や取引の見直し、打ち切りといったことが起こりうる可能性が全くないということはない。
しかしながら、先に述べたとおり、当該事業における異議申立人の役割については、公開が実施された本件行政文書で既に公にされており、異議申立人も認めているとおり、不動産登記簿においても、その内容は一定の範囲で明らかになるものである。すなわち、当該事業において、異議申立人の名称は公にすることが前提とされている情報であるといえる。そして、当審査会において審査したところ、既に当該事業において異議申立人が担う役割が公になっているもとにおいては、近隣事業者において当該事業における異議申立人の担当者の所属、役職等が全く類推し得ないというものではない。そうすると、異議申立人が、当該事業に参加し、先に述べた役割を担うかどうかの決定を行うに当たっては、異議申立人の名称は公になることを前提として、当該事業における担当者の所属や役職が近隣の同業種の取引先の知るところとなった場合に異議申立人が被る不利益との比較考量など、当該事業への参加にあたっての近隣の同業種の取引先との関係等を充分踏まえた上で、その判断を行っているものと考えるべきである。したがって、本件非公開請求部分を公にすることにより、仮に異議申立人の主張するような事情が発生し、異議申立人に何らかの不利益が生じたとしても、それは、社会通念上相当の範囲においては、当該事業への参加に附随する事情として、異議申立人において予見し、解決していくべきものである。
そして、当審査会において審査したところ、異議申立人の組織内部においてどの所属の役職の者が当該事業の担当者になるのかを公開することによって、異議申立人が、その処理すべき社会通念上相当の範囲を超えて不利益を被るなどの特段の事情は見受けられなかった。したがって、条例の「原則公開」の考え方を踏まえると、本件非公開請求部分が「法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報には該当しないと言わざるをえない。
以上のとおりであるから、本件非公開請求部分は、条例第8条第1項第1号に該当するとは認められない。
(2)条例第8条第1項第1号以外の適用除外事項への該当性について
続いて、本件非公開請求部分に記録された情報が、条例第8条第1項第1号以外の適用除外事項に該当するかを検討する。
本件非公開請求部分には、異議申立人の担当責任者・担当者の所属、役職、電話番号及びファクシミリ番号が記載されているが、これらは、「特定の個人が識別され得る情報」ということはできないことから、条例第9条第1号に該当しないものである。
そして、本件非公開請求部分に記載された情報を具体的に明らかにすることを禁じた法令も見当たらないことから、条例第9条第2号にも該当しない。
さらに、条例第8条第1項のその他の適用除外事項に該当しないことも明らかである。
以上のことから、本件執行停止部分は、条例第8条第1項及び第9条のいずれの適用除外事項にも該当しないことが認められる。
6 結論
以上のとおりであるから、本件非公開請求部分については、異議申立てに理由がないので、実施機関の判断は妥当なものであり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。