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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第73号)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成13年11月7日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「公開条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「平成13年9月13日付け府情第1026号の原因となった請願書について、請願法上の『受理』について決裁した文書」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
  2. 同年11月20日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「広聴事案処理カード(伺い)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(2)のとおり付して、異議申立人あて通知を行った。
    • (1)公開しないことと決定した部分
      請願書の提出者の住所、氏名、電話番号及び印影並びにこれらを特定し得る部分
    • (2)公開しない理由
      公開条例第9条第1号に該当する。
      本件非公開部分には、請願書の提出者の住所、氏名等が記載されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものである。
  3. 同年11月28日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、本件処分を取り消し、本件行政文書の全部公開を求める異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件処分を取り消し、本件非公開部分の公開を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 異議申立ての理由

本件処分は、違法である。

実施機関は、本件非公開部分を「公開しない理由」として、「公開条例第9条第1号に該当する。本件非公開部分には、請願書の提出者の住所、氏名等が記載されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるものである。」とするが、公開条例の解釈を誤ったものであり、違法である。

公開条例により保護されるべき個人情報は、本件非公開部分が、公開請求人と対他的関係にある場合において意義があり、本件のように「請願書の提出者」が請求人本人であるのに、その部分情報が請求人本人に対して非開示とされるべき理由はない。

2 総論的意見

大阪府には、情報公開に関連して「大阪府情報公開条例」がある。

公開条例の前文及び第1条は、「府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。」と規定する。

しかし、この公開条例が、法律及び憲法とどのような関係にあるかについては、特に言及がない。

これについて、異議申立人は、この公開条例の憲法及び法律上の根拠は、それぞれ憲法第16条(請願権)及び請願法であると考える。また、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」は、この請願法の特別法であると考える。

本件異議申立てについては、公開条例の規定からしても、解釈運用に当たっては、個人のプライバシーの保護に最大限の配慮をしつつも、例外的取扱いの在り方について、再考する余地があると考えられる。

3 主位的意見

実施機関は、異議申立人が求める公文書上の自己情報について、公開条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であることを理由としている。

しかし、この「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」の「他人」は、公文書に記載のある請求者本人を含むとは考えられない。

しかるに、実施機関の「個人のプライバシーに関する情報を公開するか否かの判断に当たっては、請求者が当該個人情報に係る本人であるか否かによって、公開の判断が左右されるものではなく、その情報の内容や性質によって客観的に判断すべきものであり、その結論は誰からの請求であっても同じであるべきものである。」とする解釈運用は、請願法に反し違法であり、支持できない。

実施機関における公開条例と個人情報保護条例(以下「保護条例」という。)の現行解釈運用は、厚生労働省と農水省の狂牛病対策同様の縦割りの弊害を露呈している。

実施機関の「答弁書」は、「保護条例において、自己に関する個人情報の開示請求について定めている」として、本件非公開部分は、保護条例においては、公開決定されるものであることが想定される。

公開条例と保護条例の違いは、請求人の本人確認手続きの有無であり、公開条例にはそれが無いが、公開条例の手続き過程において、個人情報の非開示決定処分がされた場合は、保護条例の本人確認手続を準用してそれを条件として開示決定すべきであると考えられる。

4 予備的意見

仮に、主位的意見が認められない場合は、予備的意見を陳述する。

異議申立人が請求している自己情報は、次に述べる各号証で明らかなとおり、「○○○」は異議申立人の「通称」であるから、実施機関が理由とする公開条例第9条第1号の情報には当たらない。

(第1号証~第35号証 記載略)

5 結論

実施機関の行政文書公開請求制度に関する「個人のプライバシーに関する情報を公開するか否かの判断に当たっては、請求者が当該個人情報に係る本人であるか否かによって、公開の判断が左右されるものではなく、その情報の内容や性質によって客観的に判断すべきものであり、その結論は誰からの請求であっても同じであるべきものである。」とする解釈運用は、請願法に反し違法である。

故に、第一に主位的意見の認容を求めるが、仮にこれが認められない場合には、予備的意見の認容を求める。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 本件行政文書について

(1)本件行政文書の性格

平成13年7月、個人から実施機関あてに、次のa、bについて、それぞれ文書回答を求める内容の2件の請願書(以下「本件請願書」という。)が郵送により提出され、「府政に関する要望等の連絡調整に関すること」を所管する広報室府民情報課において、これを収受した。

  • a 実施機関が認定した公共的団体の数、認定年月日、認定基準に関する事項等
  • b 大阪府営住宅条例に規定する共益費に関する事項等

その上で、本件請願書提出者に対する回答文書を広報室においてとりまとめるために、本件請願書の内容に関係する部局及び行政委員会に対して、本件請願書に対する回答を広報室あてに送付することを依頼したものである。本件行政文書は、収受印を押印した本件請願書を添付して、上記の依頼を行うことについて意思決定を行うために起案し、決裁された文書である。

なお、請願については、別に法律の定める場合を除いては、請願法の定めるところによることとされており、「請願法に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。」(請願法第5条)とされているものの、請願法において請願の具体的な処理の方法は規定されておらず、知事あての請願については、他の法令でも特段の規定は定められていない。

(2)本件行政文書の内容

本件行政文書を、個別にみると、起案文書、起案文書別紙、本件請願書及び郵送用封筒等から構成されている。このうち、起案文書については、大阪府行政文書管理規則様式第8号その1を使用し、本件請願書に対する回答の広報室への送付を依頼することについて起案・決裁をしているものである。次に、起案文書別紙は、「大阪府知事への提言等の要旨(官製はがき・封書)」の表題のもとに「番号」、「受付年月日」、「提言者の住所・氏名・年齢」、「提言要旨」、「関係部局」、「処理方法」及び「備考」の各欄が表形式で設けられており、「提言者の年齢」欄を除く各欄に本件請願書に係るそれぞれの事項が記載されている。また、本件請願書については、請願書の表題、年月日及び宛名並びに請願者の住所、郵便番号、氏名、印影及び請願内容が記載されており、大阪府の収受印が押印されている。さらに、郵送用封筒等については、無地の用紙に、本件請願書を郵送するために使用された封筒の現物が貼付されており、また、この用紙には収受印が押印されているとともに、大阪府の担当者がメモした本件請願書提出者の電話番号が記載されている。

(3)本件非公開部分について

本件行政文書のうち、本件非公開部分は、「請願書の提出者の住所、氏名、電話番号及び印影並びにこれらを特定し得る部分」であり、具体的には次の部分である。

  • ア 起案書別紙「大阪府知事への提言等の要旨(官製はがき・封書)」のうち、
    「提言者の住所」欄に記載された「都道府県名」
    「提言者の氏名」欄及び「備考」欄に記載された「氏名」
  • イ 本件請願書のうち、
    本件請願書提出者の「郵便番号」、「住所」、「氏名」及び「印影」
  • ウ 郵送用封筒等のうち、
    郵送用封筒に押印された「消印」
    貼付用紙に記載された「電話番号」

2 公開条例第9条第1号に該当する理由

(1)公開条例第9条第1号の趣旨について

公開条例においては、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を規定している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公開することのないように最大限の配慮をしなければならない旨規定している。このような趣旨を受けて、第9条第1号では、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」の情報が記録されている行政文書については、「公開してはならない」と規定している。

(2)本件非公開部分が公開条例第9条第1号に該当することについて

本件行政文書には、本件請願者提出者の住所、氏名等、本件請願書提出者が誰であるかが明らかになる情報とともに、実施機関に対する具体的な質問内容、請願理由等が記載されており、これらは個人の思想に関する情報である。

また、個人から実施機関に提出された請願の内容については、請願法上、公表する旨の規定がなく、現実の運用も、個人のプライバシーに関する情報としてこれを公にしていないものであることから、請願書の提出者は、通常、提出者が誰であるかが明らかにされることを前提として請願を行うものではなく、実施機関に対して本件請願書提出者が本件請願書を提出した事実については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

以上のことから、本件行政文書に記載された情報のうち、本件請願書提出者が識別され得る部分については、個人の思想に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報に該当する。

(3)公開・非公開の判断について

上記(2)のことから、公開・非公開の判断に当たっては、本件請願書提出者が誰であるかが特定され得る部分は、公開しないこととした。

ア 起案書別紙「大阪府知事への提言等の要旨(官製はがき・封書)」

「提言者の住所」欄に記載された「都道府県名」については、本件請願書の内容が具体性を持つものであることから、一定の住所が特定されれば、本件請願書提出者の日頃の活動内容等と結びつけることにより、個人が特定される可能性があること、及び、これらの情報が個人のプライバシー情報に当たることから最大限保護する必要があり、一旦プライバシーが侵害されると当該個人に回復困難な損害を及ぼすことから、公開しないこととしたものである。

次に、「提言者の氏名」欄及び「備考」欄に記載された「氏名」については、直接、本件請願書提出者が明らかになる情報であることから、公開しないこととしたものである。

イ 本件請願書

本件請願書提出者の「郵便番号」については、本件請願書提出者の住所のうち、市区町村内の町域名まで明らかになる情報であり、上記アの「提言者の住所」欄について述べた理由と同様の理由により、公開しないこととしたものである。

次に、「住所」、「氏名」については、直接、本件請願書提出者が明らかになる情報であり、「印影」についても氏名が判読されるものであったため、公開しないこととしたものである。

ウ 郵送用封筒等

郵送用封筒の「消印」については、取扱郵便局名が明らかになるものであり、通常、郵便を投函する地域は、住所、勤務先の周辺など投函者の生活圏内であることから、本件請願書提出者の日頃の活動内容等と結びつけることにより、個人が特定される可能性があること、及び、これらの情報が個人のプライバシー情報に当たることから最大限保護する必要があり、一旦プライバシーが侵害されると当該個人に回復困難な損害を及ぼすことから、公開しないこととしたものである。

次に、貼付用紙に記載された「電話番号」については、通常、電話番号簿等により本人が特定され得る情報であるとともに、本人の電話番号を把握している関係者も多いと考えられ、個人を特定し得る情報であることから、公開しないこととしたものである。

3 本人からの情報公開請求について

異議申立人は、「公開条例により保護されるべき個人情報は、当該行政文書(非公開部分)が、公開請求人と対他的関係にある場合において意義があり、本件のように『請願書の提出者』が請求人本人であるのに、その部分情報が請求人本人に対して非公開とされるべき理由はない。」と主張しているので、この点について、以下で述べる。

公開条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

情報公開制度は、このような理念に基づき、何人に対しても、請求の目的の如何を問わず公開請求を認める制度であり、府民が自己に関する情報を行政機関から得るための制度ではない。このことは、公開条例において、本人からの公開請求があった場合について特段の規定を設けておらず、一方で、保護条例において、自己に関する個人情報の開示請求について定めていることからも明らかである。

したがって、公開条例に基づく行政文書公開請求に対し、個人のプライバシーに関する情報を公開するか否かの判断に当たっては、請求者が当該個人情報に係る本人であるか否かによって、公開の可否の判断が左右されるものではなく、その情報の内容や性質によって客観的に判断すべきものであり、その結論は誰からの請求であっても同じであるべきものである。

以上のことから、実施機関としては、本件請求者が誰であるかは考慮せず、公開条例に基づき公開・非公開の判断を行い、本件処分を行ったものである。

4 結論

以上のとおり、本件処分は、公開条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 公開条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての公開条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、公開条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、公開条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が公開条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 知事に提出された請願書に関する事務について

本件行政文書は、大阪府知事あてに提出された請願書に対する処理方法について、実施機関において意思決定した文書であるため、知事に対する請願に関する事務について調査したところ、次のことが確認された。

請願法において、「請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。」(請願法第1条)と定められているところ、知事に対する請願については、請願法以外の法令に特段の規定はないことから、請願法の定めるところによるものである。請願法においては、「請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。」(同法第2条)、「請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。」(同法第3条第1項)とされており、本件請願書はこれらの規定に基づき提出された請願書であると認められる。また、提出された請願書に対しては、「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。」(同法第5条)と定められているところであるが、受理の方法やその後の処理方法については、請願法では具体的に規定されていない。

実施機関においては、請願法に基づく請願書の提出があった際は、当該請願書に係る請願の事項を所管する部署において収受し、これに対する処理方法を意思決定することとされている。本件請願書については、実施機関に対して、請願書に記載された具体的な質問事項に対する回答を求めることを請願の事項として提出されたものであるが、内容が複数部局の所管に係るものであったため、「府政に関する要望等の連絡調整に関すること。」を所管する広報室において収受したものである。その上で、本件請願書に対する処理方法として、広報室から関係各部局あてに本件請願書の写しを送付するとともに、質問事項に対する回答をとりまとめるために関係部局ごとの回答を広報室あて提出するよう依頼することを意思決定しているものである。そして、後日、広報室から本件請願書提出者あてに、文書により本件請願書に対する回答がされている。

なお、知事あてに提出された請願書については、公表を予定した手続が請願法上も他の法令上も定められているものではなく、実施機関における現実の運用においても、これを公表する取扱いは行っていないことから、一般に、大阪府知事に対する請願書提出者は、公表されることを前提として請願書を提出するものではないと認められる。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、先に述べたとおり、本件請願書に対する処理方法を意思決定した起案文書であり、「起案文書」、「起案文書別紙」、「請願書」及び「用紙に貼付された郵送用封筒」で構成されている。それぞれの文書の概要及び本件処分において公開しないことと決定された部分は次のとおりである。

a「起案文書」

「広聴事案処理カード(伺い)」と題された文書であり、郵送のあった請願書に対して、別紙の「起案文書別紙」に記載された内容のとおり処理することを伺うとともに、決裁権者が押印することにより当該内容を意思決定した文書である。

この文書には、本件処分において公開しないことと決定された部分は存在しない。

b「起案文書別紙」

郵送のあった請願書に対する具体的な処理方法を意思決定するために、実施機関の職員が作成した文書であり、「大阪府知事への提言等の要旨(官製はがき・封書)」の表題の下に、郵送のあった請願書の概要(受付年月日、提言等の区分、提言者の住所・氏名・年齢及び提言要旨)、具体的な処理方法の案(関係部局、処理方法)及び備考が表形式で記載された文書である。

この文書に記録された請願書提出者の「住所(都道府県名)」及び「氏名」は、本件処分において公開しないことと決定されている。

c「請願書」

郵送のあった2枚の請願書の現物であり、それぞれに収受印が押印されている。この文書には、本件請願書提出者の「郵便番号」、「住所」、「氏名」及び「印影」とともに、請願において実施機関に求める内容、請願の趣旨、原因及び理由が具体的に記載されている。

この文書に記録された本件請願書提出者の「郵便番号」、「住所」、「氏名」及び「印影」は、本件処分において公開しないことと決定されている。

d「用紙に貼付された郵送用封筒」

本件請願書を郵送するために使用された封筒が、無地の用紙に貼付されており、当該用紙には収受印が押印されるとともに、本件請願書提出者の電話番号が記載されている。実施機関の説明によると、当該電話番号は本件請願書に関して請願書提出者から電話連絡があった際に、実施機関の職員が聴取して記録したものである。

この文書に記録された郵送用封筒の「消印」及び「電話番号」は、本件処分において公開しないことと決定されている。

4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由

  • (1)実施機関は、本件非公開部部分に記録された情報が公開条例第9条第1号に該当すると主張するので、以下において、これらの情報が公開条例第9条第1号に該当するか否かを判断する。
    公開条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限に配慮しなければならない旨規定している。
    このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが公開条例第9条第1号である。
    同号は、
    • ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
    • イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
    • ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
    情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
  • (2)これを、本件非公開部分について検討する。
    • ア 本件行政文書には、先に述べたとおり、請願書提出者の住所、氏名等特定の個人が識別され得る情報とともに、請願において実施機関に求める内容、請願の趣旨、原因及び理由が具体的に記載されており、これらの情報は、個人の一身に専属する情報であり、個人の思想・信条等に関する情報であると認められる。また、これらの情報は、先に述べたとおり、大阪府知事あての請願については、請願法にも他の法令にも公表を予定した具体的な手続は規定されておらず、現実の運用においても、これを公表する取扱いは行っていないことから、公にされることを前提とした情報ではないと認められるものであり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報である。
    • イ そこで、以下では、本件非公開部分に記載された情報について、「特定の個人が識別され得る」情報に該当するか否かを検討する。
      一般に、「特定の個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって、直接特定の個人が識別され得る場合に加えて、一般人が容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって、特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。また、照合すべき他の情報の範囲については、当該情報が公開されることによって生じるプライバシー侵害の内容や程度、あるいは侵害が発生する蓋然性の程度等に照らし、総合的に検討されるべきである。とりわけ、本件請願書に記載された情報が個人の思想・信条等に関する情報であり、いわゆるセンシティブ情報に当たるものであることからすると、検討に当たっては、個人の権利利益が不当に侵害されることのないよう、特段の配慮が求められる。
      まず、本件請願書提出者の「氏名」、「住所」及び「電話番号」は、当該情報から直接特定の個人が識別され得るものであり、本件請願書に押印された「印影」についても、本件請願書提出者の氏名が判読されることから、当該情報から直接特定の個人が識別され得るものである。
      次に、本件請願書提出者の住所にかかる「都道府県名」及び「郵便番号」並びに本件請願書郵送用封筒に押印された「消印」は、これらの情報のみから、直接特定の個人が識別され得るとは考えられない。しかしながら、本件請願書には、請願の趣旨としての具体的な質問内容、請願の原因及び請願の理由など請願書提出者の思想・信条等が記載されており、これらの部分は既に公開決定されて誰もが容易に知り得るものとなっている。そして、「都道府県名」、「郵便番号」及び本件請願書郵送用封筒に押印された「消印」に記載された情報については、本件請願書提出者の日ごろの活動内容等と結びつけることにより、当該個人が識別され得るおそれがあることは、否定できないものであり、先に述べた本件請願書に記載された情報の性格等を併せ考慮すると、「特定の個人が識別され得るもの」であると認められる。
    • ウ なお、異議申立人は、本件請願書提出者の氏名は個人の通称であることから、公開条例第9条第1号には当たらない旨主張しており、これについて当審査会が異議申立人に確認したところ、当該氏名は個人の通称であり、団体名あるいは団体の代表者としての氏名ではないとの主張であった。
      一般に、通称とは個人が社会生活において氏名を他人に対して名乗る際に日常的に使用するものであり、さらに本件の場合にあっては、実施機関が当該氏名を宛名として本件請願書提出者に郵送した本件請願書に対する回答文書が到達していることからも、「特定の個人が識別され得る」ものであるといえる。また、当該氏名が通称の場合であっても、本件行政文書に記載された情報が、「個人の思想に関する情報であって」、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報であることについて、上記と異なるところがないことは明らかである。したがって、仮に本件請願書提出者の氏名が通称であったとしても、本件行政文書に記載された情報は、公開条例第9条第1号に該当すると認められるものである。
  • (3)次に、異議申立人は、「公開条例には本人確認手続はないものの、その手続過程において個人情報の非開示決定処分がなされた場合には、保護条例の本人確認手続を準用してそれを条件として開示決定するべきである。」旨、主張するので、これについて以下で検討する。
    公開条例は、「府民の府政への参加をより一層推進し、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与することを目的とする。」(公開条例第1条)と定めている。一方、保護条例は、「実施機関が保有する個人情報の開示、訂正及び削除を請求する権利を明らかにするとともに、個人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定めることにより、個人の権利利益の保護を図り、もって基本的人権の擁護に資することを目的とする。」(保護条例第1条)と定めており、両条例は、その趣旨・目的が明らかに異なるものである。
    また、保護条例では、「何人も、実施機関に対し、当該実施機関が現に保有している自己に関する個人情報であって、検索し得るものの開示を請求することができる。」(保護条例第12条第1項)として自己に関する個人情報開示に関する規定を置き、さらに、「開示請求をしようとする者は、自己が当該開示請求に係る個人情報の本人又はその法定代理人であることを証明するために必要な資料で実施機関の定めるものを実施機関に提出し、又は提示しなければならない。」(同第17条第2項)として本人等の確認の手続が規定されている。他方、公開条例においては、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(公開条例第6条)と規定して請求者を区別することなく、何人も請求できることとしているが、自己に関する個人情報開示や本人等の確認手続については、公開条例上全く規定されていない。個人のプライバシーは一旦侵害されると当該個人に回復困難な損害を及ぼすものであり、自己に関する個人情報の開示は、記録された情報の本人又はその法定代理人に対してのみ行われるものであるから、本人等の確認は、保護条例の規定に基づき厳格に行うことが不可欠であることは言うまでもない。
    さらに、大阪府における情報公開制度と個人情報保護制度に係る条例の制定・改正の経緯をみると、昭和59年に制定された大阪府公文書公開等条例においては、一般の公文書公開請求に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(第17条)が、平成8年に保護条例が制定される際に、大阪府公文書公開等条例が一部改正されて公文書の本人開示に係る規定が削除され、新たに保護条例に自己に関する個人情報開示の規定が設けられている。こうしたことからしても、現在の公開条例の行政文書公開請求の手続においては、自己に関する個人情報の開示は全く対象とされていないことは明らかである。
    また、先に述べたとおり、公開条例と保護条例の趣旨・目的は異なるものであり、公開条例において、保護条例の自己に関する個人情報の開示請求に係る規定を準用する規定も存在しないところである。このような事情のもとで、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護するという公開条例の趣旨に照らせば、公開条例において保護条例の当該規定を準用することはできないものといわざるを得ない。

以上のことから、公開条例に基づく行政文書公開請求に対して行った本件処分においては、請求者が当該個人情報に係る本人であるか否かについて考慮することなく、公開・非公開等を判断すべきものである。

5 結論

以上のとおりであるから、本件行政文書のうち、本件非公開部分を公開しないこととした実施機関の判断は妥当であり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

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