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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第75号)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成13年10月29日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「新聞報道(2001年8月30日、産経新聞)された「平成12年度末には、退職金を割り増しする府の早期退職優遇制度で公立小中学校の教職員753人が退職、うち約2割が問題教員とみられるという。」「府教委集計150人が早期退職」との府教委調査に関する資料のすべて。その基礎となる資料を含む。」(以下「本件請求文書」という。)について、行政文書公開請求書の担当室・課(所)等の欄に「大阪府教育委員会教職員人事課」と記載した公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成13年11月12日、条例第13条第2項の規定により不存在による非公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、本件請求文書を管理していない理由を次の3のとおり付して異議申立人に通知した。
- 本件請求文書を管理していない理由
公開請求に係る行政文書は、作成又は取得していないため、管理していない。 - 異議申立人は、平成13年11月15日、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件非公開決定処分の取り消し、及び当該情報の全部公開。(その基礎となる資料を含む)ただし、個人の住所、電話番号、生年月日、個人を識別するための番号・記号、暗証番号、生育歴、学歴、及び本人の了解を得ていない個人(私人・公務執行中以外の公務員)の氏名を除く。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。
- 実施機関調査に関する新聞報道
実施機関は「実施機関の職員は、特段の基礎資料がないため、自己の記憶をもとに、「早期退職者のうち約2割が指導力不足等教員とみられる」旨の口頭回答を行った。」と説明しているが、このようなあいまいな「自己の記憶」をもとに「2割」と答えるのはどういうことだろうか。その根拠を問いたいと思う。
また、実施機関自身が「早期退職者中約2割が指導力不足等教員とみられる」と記者に算定の根拠を与えておきながら、「早期退職者数の753人と約2割といった割合をもって記者により算定されたもの」と新聞記者の責任に帰する無責任な態度に驚きを覚える。これが行政担当者の姿勢なのであろうか。なお、関連して、朝日新聞の記事でも、「府教委は「小中学では保護者や同僚教員との接触が高校より多く、問題のある教員自身が限界を感じて自主退職するケースが多いためではないか」と分析している」とあることから、府教委は早期退職者中の「指導力不足等教員」の割合の多さを強調したものと考えられる。 - 「複数」の地教委とはいくつか
実施機関は、早期退職者中の「問題教員」の割合の把握を以下のように説明している。すなわち、実施機関は、府費負担教職員の適正な人事行政が図られるよう、各市町村教育委員会が抱えている人事上の課題や対応方針等について、各市町村教育委員会の人事担当者から毎年度定期的に聞き取りを行っており、平成13年4月にもこのような聞き取りを行い、この中で複数の市町村との間で話題のひとつとして指導力不足等教員がのぼり、実施機関の担当者が参考程度に平成12年度末における早期退職教員数のうち指導力に自信をなくして自主退職した教員の割合を口頭で質問したところ、2割程度と答えた市町村が多かったものであること、「約2割が問題教員とみられる」ことについて、実施機関の担当者は各市町村教育委員会の人事担当者からの聞き取りの中で情報を得たものであり、その性質上これを記録し文書を作成することは特段必要性もなく、実際に行わなかったこと、また、「150人が早期退職」については早期退職者の753人と約2割といった割合をもって記者により算定されたものであり、実施機関が提供したものではなく、実施機関においてはこれを記載した文書は存在しないということである。
大阪府下(大阪市を除く)には43市町村教育委員会が存在するが、この聞き取り調査で、「平成12年度末における早期退職教員数のうち、指導力に自信をなくして自主退職した教員の割合」を尋ねた「複数」の市町村教委とは「いくつの教委」なのか、実施機関に聞きたい。また、そのうち「2割程度と答えた市町村が多かった」とあるが、「いくつの教委」が「2割程度」と答えたのかも聞きたい。さらに、その回答は大阪府全体の趨勢を表すものであるのかも尋ねたい。 - 大阪府教育委員会行政文書管理規則に違反
- (1)大阪府教育委員会行政文書管理規則(以下「規則」という。)第3条及び第14条では、行政事務は原則として文書によるべきことを規定する。そして、行政職員は規則に従って事務を行う義務を負うのであるから、行政上の実態調査もまた文書による照会と文書による回答という形式で行われなければならない。例外的に軽微な事案については文書を作成しないことも認められるが(第14条第2項)、本件は先に出された弁明書によれば軽微な事案には当らないから(注、指導力不足等教員問題の重要性)、原則に従い文書により行われるべき事務にあたる。
とすれば、実施機関が市町村に照会した文書の控え、及び回答文書が存在しなければならず、弁明書のとおり聞き取り調査によったとすれば、かかる行為は規則に違反する。
よって、聞き取り調査によったから文書が存在しないとする実施機関の主張は失当である。 - (2)仮に、実施機関の弁明のとおり指導力不足等教員の実態調査が規則に違反して、聞き取り調査によって行われたとしても、その結果としてなんらかの形で文書が作成されねばならず、また、規則第14条第2項によれば、「事後に文書を作成しなければならない」のであり、規則により保管管理すべきものである。それゆえ、文書作成をしなかったとする実施機関の主張は規則に違反する違法がある。
よって、文書が存在しないとする実施機関の主張は失当である。 - (3)条例により住民の知る権利が保障され、その権利が文書管理に依存する以上、規則に違反した文書不作成は住民の知る権利を侵害する違法な行為であり、文書作成義務があるにもかかわらず作成しなかった不作為と言うべきである。
また、公務員はその職務上内部規則を遵守する義務があり、その違反は地方公務員法「職務に専念する義務」(第35条)に違反し、違法となる。さらに、住民の信頼を裏切るから信義則「権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス」(民法第1条第2項)にも違反する。
- (1)大阪府教育委員会行政文書管理規則(以下「規則」という。)第3条及び第14条では、行政事務は原則として文書によるべきことを規定する。そして、行政職員は規則に従って事務を行う義務を負うのであるから、行政上の実態調査もまた文書による照会と文書による回答という形式で行われなければならない。例外的に軽微な事案については文書を作成しないことも認められるが(第14条第2項)、本件は先に出された弁明書によれば軽微な事案には当らないから(注、指導力不足等教員問題の重要性)、原則に従い文書により行われるべき事務にあたる。
- 以上の観点から、本件処分は違法であり、その取消を求めるものである。よって、実施機関の「早期退職者中約2割(150人)が問題教員」との新聞発表に関わるすべての文書の公開を求めるものである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 新聞報道の根拠となる情報の把握に係る経過について
(1)新聞報道の記事について
本件請求は、平成13年8月30日に新聞報道された記事をもとに行われたものであるが、当該記事は、「問題教員1.7% 408人」、「府教委集計150人が早期退職」の見出しの下に、大阪府内の市町村立小・中学校(大阪市を除く)の教員に占めるいわゆる「問題教員」の比率及び人数、平成12年度末に早期退職した「問題教員」の早期退職者全体に占める割合及び人数、並びにそれらに関連する記述によって成り立っている。
当該新聞報道に先立ち、実施機関が平成13年夏に行った聞き取り調査である「公立小・中学校の指導力不足等教員の実態把握」調査に関する取材が行われたが、実施機関は、平成13年12月10日付け教委職人第423号の弁明書(以下「平成13年12月10日付け弁明書」という。)で述べたとおり、当該調査の結果として、指導力不足等教員(大阪市を除く)の総人数、小・中学校別の人数、割合、主な事例及び今後の対応等を記載した「大阪府公立小・中学校(大阪市を除く)における指導力不足等教員の実態について」(以下「本件情報提供文書1」という。)並びに指導力不足等教員(大阪市を除く)の総人数、小・中学校別、分類別の人数及び割合等を記載した「小・中学校における指導力不足等教員の実態把握」(以下「本件情報提供文書2」という。)を作成しており、当該取材においては、これらにより情報提供を行ったものである。
なお、当該取材の際に記者から早期勧奨退職制度により退職した教員に占める指導力不足等教員の割合がいくらであるかを問う内容の質問があったが、実施機関の職員は、特段の基礎資料がないため、自己の記憶をもとに、「早期退職者のうち約2割が指導力不足等教員とみられる」旨の口頭回答を行ったものである。
本件新聞記事に関連して実施機関から報道機関に対して提供した情報は、これら以外には見当たらない。
本件請求のもとになった「平成12年度末には、退職金を割り増しする府の早期退職優遇制度で公立小中学校の教員753人が退職、うち約2割が問題教員とみられるという。」及び「府教委集計150人が早期退職」という記事は、記者からの質問に対し、実施機関の職員が自己の記憶をもとに、口頭で行った回答に基づくものであると考えられることから、以下においては、当該回答の根拠となる情報を、実施機関の職員が得ることとなった経過を説明する。
(2)早期勧奨退職制度による退職者数の把握について
早期勧奨退職制度は、人事の刷新、公務能率の向上及び財政負担の軽減を図るとともに、職員のライフプランの支援を図るため、平成10年度から、適用年齢45歳以上で加算率の引上げによる退職手当の優遇措置を実施しているものである。
平成13年12月20日付け弁明書で述べたとおり、市町村立学校職員給与負担法第1条及び第2条に規定する職員(以下「府費負担教職員」という。)の任免その他の進退は、市町村教育委員会の内申に基づき実施機関が行っている。つまり、平成12年度末に早期勧奨退職制度により退職した教職員についても、市町村教育委員会の内申により実施機関が退職辞令を行っており、その退職辞令の対象となった教員数は753人であったものである。
以上のとおり、早期勧奨退職制度により公立小中学校の教員753人が退職したことについて、実施機関は、通常の業務の中で把握したのであり、特段の調査を行ったものではない。
なお、「約2割が問題教員とみられる」及び「150人が早期退職」については、早期勧奨退職制度が、指導力不足等教員対策のための制度ではなく、また、具体の退職の理由を申し出ることを要件としているものでもないため、当該制度に係る文書から得られる情報ではない。
(3)早期退職した教職員に占める「問題教員」の割合の把握等について
実施機関は、府費負担教職員の適正な人事行政が図られるよう、各市町村教育委員会が抱えている人事上の課題や対応方針等について、各市町村教育委員会の人事担当者から毎年度定期的に聞き取りを行っている。
平成13年4月にもこのような聞き取りを行っており、この中で、複数の市町村との間で、話題の一つとして指導力不足等教員がのぼり、実施機関の担当者が参考程度に、平成12年度末における早期退職教員数のうち、指導力に自信をなくして自主退職した教員の割合を口頭で質問したところ、2割程度と答えた市町村が多かったものである。
以上のとおり、「約2割が問題教員とみられる」ことについて、実施機関の担当者は、各市町村教育委員会の人事担当者からの聞き取りの中で情報を得たものであり、その性質上、これを記録し文書を作成することは特段行う必要性もなく、また、実際に行わなかった。
次に、「150人が早期退職」については、早期退職者数の753人と約2割といった割合をもって記者により算定されたものであり、実施機関が提供したものではない。したがって、実施機関においては、これを記載した文書は存在しない。
(4)本件請求に関する実施機関の調査資料の有無について
実施機関においては、前述の(2)及び(3)のほかに調査等は行っていないため、本件請求に対応する文書は存在しない。なお、(1)でふれた「公立小・中学校の指導力不足等教員の実態把握」調査については、その目的が、平成13年12月20日付け弁明書で述べたとおり、府内の公立小・中学校(大阪市を除く)全体としての指導力不足等教員の人数規模とその主な態様を把握することであり、早期退職者の状況を把握するものではなかったことから、その成果として作成した本件情報提供文書1及び本件情報提供文書2には、本件請求に係る情報は全く記載されていない。
2 実施機関が本件請求に係る行政文書を管理していない理由について
条例第2条第1項の規定によれば、行政文書とは「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」である。
本件請求は、「新聞報道(2001年8月30日、産経新聞)された「平成12年度末には、退職金を割り増しする府の早期退職優遇制度で公立小中学校の教職員753人が退職、うち約2割が問題教員とみられるという。」「府教委集計150人が早期退職」との府教委調査に関する資料のすべて。その基礎となる資料を含む。」であるが、上記1で述べたとおり、「早期退職優遇制度で公立小中学校の教職員753人が退職、うち約2割が問題教員とみられる」こと及び「150人が早期退職」したことを把握するために、実施機関が特段の調査等を行ったことはなく、また、これらの情報が記載された既存の調査結果等もないことから、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理している」文書は存在しない。
3 結論
以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
また、条例においては、不存在による非公開決定に対する不服申立てについても、実施機関は、原則として当審査会に諮問しなければならないこととしている。こうした諮問が行われた場合も、当審査会は、条例第23条に規定する調査権限を適切に行使して調査審議を行い、公正かつ簡易・迅速な救済の実現に努めることとなる。
2 本件請求文書について
- (1)特別退職措置及びこれに伴う優遇措置(早期勧奨退職制度)について
実施機関は、人事の刷新、公務能率の向上及び財政負担の軽減並びに職員のライフプランへの支援を図るため、「特別退職措置及びこれに伴う優遇措置要綱」(以下「要綱」という。)に基づき職員の特別退職措置及びこれに伴う退職手当等の優遇措置(以下「特別退職措置」という。)を実施している。要綱の2によると、特別退職措置は、大阪府立の高等専門学校、高等学校、盲学校、ろう学校及び養護学校の教職員並びに府費負担教職員であって、「定年年齢が60歳である職員の場合は、45歳以上59歳以下の者」、「定年年齢が63歳である職員の場合は、53歳以上62歳以下の者」又は「定年年齢が65歳である職員の場合は、55歳以上64歳以下の者」のうちから要綱の規定による特別退職の勧奨に応じた者(以下「特別退職者」という。)を対象として実施されている。また、要綱の3によると、特別退職措置の実施手続は、ア「所属学校長は特別退職者を募る」、イ「特別退職者は、退職願を所属学校長に提出し、所属学校長は府教育委員会(府費負担教職員については市町村の教育委員会)に副申するものとする」及びウ「市町村の教育委員会は、府教育委員会にこの要綱の適用について内申するものとする」とされている。 - (2)府費負担教職員の任免について
地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)第37条第1項において、府費負担教職員の任命権は、都道府県教育委員会に属することが、また、同法第43条第1項において、府費負担教職員の服務監督権は、市町村教育委員会に属することが、それぞれ明記されている。
そして、地教行法第38条第1項では、都道府県教育委員会は、市町村教育委員会の内申をまって、府費負担教職員の任免その他の進退を行う旨が、また、同法第48条第1項では、都道府県教育委員会は市町村に対し、市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言又は援助を行うことができる旨が、それぞれ規定されており、都道府県教育委員会と市町村教育委員会は、互いに連携しつつ、府費負担教職員に関する任命権、又は服務監督権を行使するものであることが認められる。
すなわち、実施機関は、市町村教育委員会(大阪市教育委員会を除く。以下同じ。)の内申に基づき、府費負担教職員(大阪市の府費負担教職員を除く。以下同じ。)に係る任免その他の進退に関する事務をその業務の一環として行っていることが認められる。 - (3)府費負担教職員の人事に関するヒアリングについて
実施機関は、府費負担教職員の適正な人事行政が図られるよう、毎年度定期的に府費負担教職員の人事に関する聞き取り調査を実施している。 - (4)指導力不足等教員について
平成12年6月28日、実施機関の下に学識経験者、学校関係者等で構成される「教職員の資質向上に関する検討委員会」(以下「検討委員会」という。)が設置され、教職員の資質向上方策についての検討が行われている。そして、平成13年3月29日、指導力不足等教員の資質向上方策が「教職員の資質向上に関する検討委員会 中間報告」(以下「中間報告」という。)としてとりまとめられ、公表されているが、中間報告では、「指導力不足等教員の範囲」が次のように区分されている。- ア 指導力に関し支援を要する教員
- (ア)結果が明確に表れてはいないが、その取組む姿勢は評価できる者
- (イ)環境の変化等による一時的な指導力不足とみられ、学校内の協力により回復可能と考えられる者
- イ 指導力不足教員
専門性・社会性に欠けるなど教員としての指導力が不足している者 - ウ 適格性を欠く教員
勤務態度・服務上の著しい問題があるなど教員としての資質に欠ける者 - エ 疾病等により指導力が発揮できない教員
疾病等(特に精神的な疾患)が原因と考えられるが、受診・治療をしないまま、指導力が発揮できない状態の者や休職を繰り返し、復職後も指導力が発揮できない状態の者
- ア 指導力に関し支援を要する教員
- (5)本件調査に係る新聞報道について
本件請求文書の中で引用されている平成13年8月30日付け産経新聞の記事には、「問題教員1.7%408人」及び「府教委集計150人が早期退職」の見出しがあり、「大阪府内の市町村立小・中学校(大阪市を除く)に本年度在籍する教員の1.7%、408人が、教員としての適格性や指導力を欠くなどの問題教員であることが29日、府教委のまとめで分かった。今年3月末には、150人前後の問題教員が早期退職していたことも判明。(略)一方、平成12年度末には、退職金を割り増しする府の早期退職優遇制度により公立小中学校の教員753人が退職、うち約2割が問題教員とみられるという。(略)」といった内容の記事が掲載されている。 - (6)上記及び異議申立人の主張を総合すると、本件請求文書は、平成12年度末に府の特別退職措置により退職した公立小中学校の教員のうち、指導力不足等教員の割合又は人数に係る実施機関の調査に関する文書であると認められる。
3 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について
本件異議申立ては、上記新聞報道がなされるまでの間に、平成12年度末に府の特別退職措置により退職した公立小中学校の教員のうち、指導力不足等教員の割合又は人数に係る実施機関の調査に関する文書について、実施機関の職員が作成又は取得しているはずであり、その公開を求めるというものである。そこで、当審査会として本件処分に係る具体的な判断を行うに当たっては、本件請求文書に対応する行政文書が存在するのか否かについて検討する必要がある。このため、当審査会においては、実施機関の説明や提示された資料、異議申立人の主張内容などをもとに、本件記事が掲載されるまでの過程について調査し、実施機関が本件記事の根拠となった文書を作成し、又は取得したかについて検討し、文書が存在する場合には、その文書の行政文書該当性について検討することとした。
(1)行政文書に該当する要件について
行政文書に該当する要件は、次のとおりである。
- ア 条例において公開請求の対象となる行政文書は、条例第2条第1項により、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録」であって、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」である(条例第2条第1項但し書きに該当するものを除く。)。
- イ 「実施機関」とは、独立して事務を管理執行する権限を有する機関をいい、地方自治法上の執行機関等を個別に条例に規定している。実施機関は、条例に基づく事務について、自らの判断と責任において、誠実に管理し、執行する義務を負うものであって、現在、条例に規定している実施機関は、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、公安委員会、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会、水道企業管理者及び警察本部長である。
- ウ 「実施機関の職員」とは、実施機関の指揮監督権限に服する全ての職員をいう。
- エ 「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
- オ 「組織的に用いる」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
- カ 「実施機関が管理しているもの」とは、実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が利用、保存している状態のものを意味する。
(2)本件請求文書に対応する行政文書について
当審査会で調査したところ、上記2(5)で述べた新聞報道がなされるまでには、概ね次の過程を経ていることが認められた。すなわち、ア「実施機関が、特別退職措置により退職した府費負担教職員の人数を把握していること」、イ「実施機関が、特別退職措置により退職した府費負担教職員に占める指導力不足等教員の割合又は人数を把握していること」及びウ「報道機関からの取材に対し、実施機関の職員が応答したこと」である。
ア 実施機関が、特別退職措置により退職した府費負担教職員の人数を把握していることについて
実施機関の説明によると、実施機関は、市町村教育委員会からの内申に基づき、府費負担教職員に係る任免その他の進退に関する事務を行っており、特別退職措置により退職した府費負担教職員についても、市町村教育委員会からの内申に基づいて、退職辞令を行っているものである。すなわち、実施機関は、自己が行う通常の事務の範囲において、特別退職措置によって退職した府費負担教職員の人数を把握することができたものであり、特段の調査を行う必要はなかったというものである。
当審査会において調査したが、特別退職措置によって退職した府費負担教職員の人数を把握するために調査を行ったことに関連する文書が実施機関に存在することについて確認することはできなかった。
そして、実施機関においては、特別退職措置により退職した府費負担教職員について、市町村教育委員会からの内申に基づき退職辞令を行っているのであるから、実施機関の通常の業務において特別退職措置により退職した府費負担教職員の人数を容易に把握できることは明らかであり、特別な調査を行っていないことについては、特段不自然・不合理な点は認められない。
イ 実施機関が、特別退職措置により退職した府費負担教職員に占める指導力不足等教員の割合又は人数を把握したことについて
実施機関の説明によると、府費負担教職員の適正な人事行政が図られるよう、各市町村教育委員会が抱えている人事上の課題や対応方針等について、各市町村教育委員会の人事担当者から毎年度定期的に聞き取り調査を行っている。そして、平成13年4月に実施機関が行った聞き取り調査において、複数の市町村との間で、話題の一つとして指導力不足等教員がのぼり、実施機関の職員が参考程度に、平成12年度末における早期退職教員数のうち、指導力に自信をなくして自主退職した教員の割合を口頭で質問したところ、2割程度と答えた市町村が多かったというものである。また、「約2割が問題教員とみられる」ことについては、その性質上、これを記録し文書を作成することは特段行う必要性もなく、現に記録しなかったというものである。
当審査会において調査したところ、実施機関が各市町村教育委員会に対して行った聞き取り調査において市町村が回答した上記教員の割合や人数について記録した文書が実施機関に存在することについて確認することはできなかった。また、上記教員の割合や人数について各市町村教育委員会に対して文書で照会し、回答を求めたことについても確認することはできなかった。
上記聞き取り調査が行われたのは平成13年4月であるが、前述のとおり、平成13年3月29日に公表された中間報告において、指導力不足等教員の対応策の具体化について、実施機関から市町村における早期の取り組みの支援をしていくべき旨の内容が記載されており、両者の時期が近接していることから、上記聞き取り調査において、本題とは別に、実施機関の担当者が、今後の指導力不足等教員の調査や対応策を検討するにあたっての参考として、上記教員の割合について口頭で質問することは十分に理解し得るところである。また、上記教員の割合については、上記調査の本題とも異なるものであり、参考に複数の市町村に対して質問したものであるという性格からすると、市町村が回答した上記教員の割合や人数について記録した文書が作成されていないことについて、特段不自然・不合理な点も認められない。
ウ 報道機関からの取材に対し、実施機関の担当者が応答したことについて
実施機関の説明によると、実施機関の担当者は、報道機関からの特別退職措置により退職した府費負担教職員の人数及び当該人数に占める指導力不足等教員の割合がいくらであるかを問う内容の質問に対し、特段の基礎資料がないため、自己の記憶をもとに「早期退職者のうち約2割が指導力不足等教員とみられる。」旨の口頭回答を行ったというものである。
当審査会において調査したところ、実施機関の担当者が報道機関からの取材に応答するにあたり、特別退職措置により退職した府費負担教職員に占める指導力不足等職員の割合や人数を記載した文書が実施機関に存在することについて、確認することはできなかった。
そして、一般に、報道機関からの取材に対して実施機関の職員が口頭で応答する場合において、その応答の内容の全てについて根拠となる文書・資料が存在するとは考えられず、本件においても、実施機関の職員が上記イの聞き取り調査における自己の記憶をもとに、口頭で応答したとしても、それをもって、特段不自然・不合理な点が認められるとはいえない。
以上を総合すると、本件請求文書について対応する行政文書が実施機関に存在することについて確認することができず、また、これについて実施機関に特段不自然・不合理な点は認められない。
(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、指導力不足等教員の実態調査が聞き取り調査によって行われたことは、規則第3条及び第14条の規定にそれぞれ反すること、すなわち、行政職員は規則に従って事務を行う義務を負うのであるから、行政上の実態調査もまた文書による照会と文書による回答という形式で行われなければならず、例外的に軽微な事案については文書を作成しないことも認められるが、本件は軽微な事案には当たらず、原則に従い文書により行われるべき事務に当たり、実施機関が市町村に照会した文書の控え及び回答文書が存在しなければならず、聞き取り調査によったとすれば、かかる行為は規則に違反するのであり、聞き取り調査によったから文書が存在しないとする実施機関の主張は失当であると主張する。そこで、この点について検討する。
規則第3条第1項は「事務は、原則として文書により処理しなければならない」ことを、同第14条第1項は「意思決定に当たっては文書を作成して行うこと並びに事務及び事業の実績について文書を作成することを原則とする」ことを、また、同条第2項は「意思決定と同時に文書を作成することが困難な場合及び処理に係る事案が軽微なものである場合は、文書の作成を要しないものとする。ただし、意思決定と同時に文書を作成することが困難な場合にあっては、事後に文書を作成しなければならない」ことを、それぞれ定めているが、これは、実施機関が行う事務の全ての過程において文書の作成を義務づけている趣旨ではないことは明らかである。
また、上記で述べたとおり、実施機関の職員が把握した、特別退職措置により退職した府費負担教職員に占める指導力不足等教員の割合は、実施機関が毎年度定期的に行っている聞き取り調査において本題とは別に話題の一つとして参考に質問したものであることからすると、その内容を記録した文書が実施機関において作成されていないことについて、規則の趣旨に照らして特段不自然・不合理な点は認められない。
4 結論
以上のとおり、本件請求文書に対応する行政文書の存在を確認することはできず、また、これについて実施機関に特段不自然・不合理である点も認められないのであるから、実施機関が行った不存在による非公開決定は妥当である。
よって、「第一 審査会の結論」のとおり答申する。