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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第70号)

答申第70号 議会政務調査費関係文書不存在決定事案(PDF:46KB)(答申日 平成14年1月28日)

1 公開請求に係る行政文書(行政文書公開請求書の記載)

「99年度の府議会政務調査費の収支報告書及び領収書(全会派のもの)」

(担当課 総務部財政課、出納室)

2 実施機関の決定

(1)実施機関

大阪府知事(担当課 総務部財政課、出納室)

(2)決定内容

不存在による非公開決定

公開請求に係る行政文書を管理していない理由
4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について
  • (1)行政文書に該当する要件について
    • ア 本件処分は、本件請求文書に対応する行政文書を管理していないことを理由とする非公開決定処分であるので、当審査会として本件処分に係る具体的な判断を行うにあたっては、本件請求文書に対応する行政文書が存在するか否かについての検討を行う必要がある。
      本件請求文書に対応する文書は、上記のとおり、本件実績報告書及び本件領収書に分けられる。そこで、本件実績報告書については、先に述べたとおり、議会事務局において保管されていることが確認されたので、これが条例第2条第1項に規定する実施機関が管理する行政文書に該当するかどうかについて検討する。そして、本件領収書については、条例第2条第1項に該当するものが存在するかどうかについて検討する。
    • イ 条例において公開請求の対象となる行政文書は、条例第2条第1項により、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録」であって、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」である(条例第2条第1項但し書きに該当するものを除く。)。
    • ウ「実施機関」とは、独立して事務を管理執行する権限を有する機関をいい、自治法上の執行機関等を個別に条例に規定している。実施機関は、条例に基づく事務について、自らの判断と責任において、誠実に管理し、執行する義務を負うものであって、現在、条例に規定している実施機関は、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、公安委員会、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会、水道企業管理者及び警察本部長である。先に述べたとおり、議会は含まれていないが、議会における情報公開制度について定めた大阪府議会情報公開条例が別に存在する。そして、本件処分における実施機関は、知事である。
    • エ「実施機関の職員」とは、実施機関の指揮監督権限に属するすべての職員をいう。
    • オ「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
    • カ「組織的に用いる」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
    • キ「実施機関が管理しているもの」とは、実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が利用、保存している状態のものを意味する。
  • (2)本件実績報告書の行政文書該当性について
    • ア 実施機関の職員が職務上作成又は取得した文書であることについて
      実施機関である知事が管理する行政文書に該当する要件は、上記(1)で述べたとおり、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」であって、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が管理しているもの」である。そこで、まず、本件実績報告書が「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」に該当するかどうかについて検討する。
      既に述べたとおり、本件実績報告書は、補助事業が完了したときに補助事業者が知事に提出する補助事業実績報告書に該当するものであるから、本件実績報告書を取得したのは、知事から予算執行事務について委任を受けている議会事務局長である吏員ということとなる。そして、吏員とは、実施機関である知事の補助機関たる職員である。すなわち、議会事務局長は、実施機関である知事の補助機関たる職員の立場で本件実績報告書を取得したのであるから、「実施機関の職員が取得したもの」に該当する。
    • イ 実施機関が管理しているものであることについて
      次に、本件実績報告書が「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が管理しているもの」に該当するかどうかについて検討する。
      • (ア)予算執行事務を議会事務局長である吏員に委任していることについて
        予算執行権については、自治法上、実施機関である知事に専属することとされており、知事以外の執行機関及び議会はこれを有しない。しかし、知事、知事以外の執行機関及び議会がそれぞれの権限に基づき実施する事務に係る予算の執行については、当該事業の内容や執行状況等と表裏一体で密接不可分に関連しているため、各事務事業と切り離して当該予算執行の適否の判断等を行うことは困難であり、ひいては、適正な予算執行を行うことができなくなるおそれがある。このため、迅速で適正な予算執行を確保する観点から、大阪府においては、実施機関である知事が権限を有する支出命令など予算執行事務に関して、教育委員会など知事以外の執行機関に対しては自治法第180条の2及び財務規則第3条により委任し、議会に対しては自治法第153条及び財務規則第3条により議会事務局長である吏員に委任している。
        そして、議会事務局長は議長の命を受けて議会の庶務を掌理する(自治法第138条)立場にある議会事務局の職員であり、知事が議会事務局長を吏員に併任して予算執行事務を委任したことは、このことにより、議会事務局長が予算執行事務について、議長の権限に属する事務の執行と一体的に迅速かつ適正に行う趣旨であることが認められる。
        また、議会における予算執行事務について、知事が議会事務局長である吏員に対して補助執行させて知事の名で執行する形をとることも自治法上は可能であるが、議会事務局長である吏員に対して委任するという方法をとっているのは、上記の趣旨に加え、議会が執行機関とは独立した議決機関であることから、特に議会の所掌の事務事業に係る予算執行事務については、権限が知事に属することを前提としながらも、受任者である議会事務局長である吏員の権限と責任において予算執行事務を行うことにより、可能な限り議会の独立性について配慮して行うべきであるとする趣旨であることが認められる。
        上記の趣旨を踏まえると、議会の所掌の事務事業に係る予算執行については、実施機関である知事は、議会事務局長である吏員に対し必要な指揮監督権を行使し得る(自治法第154条)ことを前提としながらも、議会の独立性を尊重し、また、予算執行事務が議長の権限に属する事務と表裏一体で密接不可分なものとして行われるものであるため、適正な予算執行を確保する観点から、予算執行上の特段の事情がない限り、実施機関である知事が直接文書を利用するなどの指揮監督権を行使しない趣旨であることが認められる。
        この点、実施機関である知事が、執行機関とは独立した議決機関である議会の議長の指揮監督下にある議会事務局長を吏員に併任して予算執行事務を委任している場合には、知事が教育委員会など他の執行機関に予算執行事務を委任している場合と比較しても委任先である議会の独立性をより尊重したものとなっているものと解されるべきであり、また、知事が府税事務所長や土木事務所長など自らの権限に服する機関の吏員に委任する場合とも異なるものである。
      • (イ)議会における文書管理及び情報公開について
        • a 議会における文書管理
          議会においては、議会事務局における事務の適正かつ能率的な遂行を図り、議会における公文書公開等の制度の円滑な運用に資するため、大阪府議会事務局公文書管理規程(以下「議会文書管理規程」という。)において公文書に関し必要な事項を定めて文書を管理している(平成13年6月以前は議会事務局規程)。議会文書管理規程によると、議会事務局の各課の課長をもって充てることとされる文書管理者が、課における公文書の適正な管理に関する事務を掌理する(第5条)こととされ、文書管理者は、公文書を合理的かつ系統的に整理するために、事務及び事業の性質、内容等を考慮して議会事務局総務課長が定めた文書分類表に基づき、公文書を分類しなければならない(第10条)こととされている。この文書分類表においては、複数の段階による公文書の分類の項目を設け、当該項目ごとに記号が定められて管理されている。
          議会においては、議会文書管理規程に基づき、議長の権限に属する事務に関わって作成・取得された文書のほか、実施機関である知事の権限に属する事務であって議会事務局長である吏員に委任されている予算執行事務に関わって作成・取得された文書がそれぞれ区分されることなく、一体的に保管されている。そして、本件実績報告書を含む政務調査研究費の支出に関する文書については、議長の権限に属する事務に関する文書とあわせた上で、D2-2「財務―収入・支出―支出」と分類され、議会事務局の文書保管庫において他の文書とともに保管されていることが確認された。
          このように、議会における予算執行事務については、これに係る文書の管理においても、事務の執行と同様に、議長の命を受けて行う議会の事務事業に関する文書と表裏一体で密接不可分なものであるため、議会事務局長である吏員が本件実績報告書など予算執行事務に係る証拠書類を管理することとされている側面を有するとはいえ、事務の執行や文書管理を迅速かつ適正に行っていくという観点から、現実には、議会において、議長の権限に属する事務に係る文書と一体的に管理されているものである。
        • b 議会における情報公開
          また、議会の情報公開制度については、「府議会の権限の適正な行使を確保し、府民に身近な府議会の実現及び府民の府政への参加をより一層推進するとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府議会への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与すること」を目的とし、議会のみを対象とする大阪府議会情報公開条例が議員提案されて議会で可決され、平成12年10月27日の公布を経て、平成13年7月1日から施行されている。
          大阪府議会情報公開条例が制定されるにあたっては、議長の権限に属する事務に係る文書及びこれらに係る予算執行に係る文書が表裏一体で密接不可分なものであることから、府民からの議会に関する文書の公開請求については、これを区別することなく、広く議会の責任において受け付け、公開・非公開等の判断を行うことにより、迅速で的確な情報公開を実施し、また府民にとってもわかりやすい情報公開制度としていくことが立法時の趣旨とされていたことが推察される。そして、大阪府議会情報公開条例は、議会事務局の職員が組織的に用いるものとして議長が管理している文書を公開請求の対象としており、施行以後の条例運用においては、議会における予算執行事務に係る証拠書類についても、現実に議会において議会文書管理規程に基づき管理されて利用、保存されている状態にあることから、大阪府議会情報公開条例の公開請求の対象文書として特定したうえで、公開・非公開等の決定が行われている。
      • (ウ)「実施機関が管理しているもの」について
        条例上の実施機関は、条例に基づく事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負うものであって、条例第13条の規定により公開請求に係る行政文書の公開決定等を速やかに行わなければならないのであるから、条例第2条第1項の「実施機関が管理しているもの」とは、単に実施機関が文書に対して権限を有していれば該当するというものではなく、現実に当該文書を利用、保存している状態であることが求められる。
        そして、本件実績報告書については、先に述べたように、議会事務局長である吏員が証拠書類として管理することとされている側面を有するとはいえ、現実には、議会において、議会文書管理規程に基づき、議長の権限に属する事務に係る文書と一体的に管理されて利用、保存されている状態にある文書である。また、実施機関である知事は、本件実績報告書に関して、予算執行上の特段の事情がない限り、直接文書を利用するなどの指揮監督権を行使していないものであり、本件実績報告書は、実施機関である知事が現実に利用、保存している状態にあるものとはいえず、知事が自らの責任と判断によって速やかに公開・非公開等の決定を行うこともできないのであるから、「実施機関が管理しているもの」に該当しない。
        さらに、本件実績報告書は、議会事務局長に提出された後に、財政課や出納室などに合議されたり写しが送付される定めもなく、また、こうした事実も認められなかった。
        したがって、本件実績報告書は、実施機関である知事が管理しているものであるとはいえず、条例第2条第1項の知事が管理する行政文書に該当しない。
  • (3)本件領収書の行政文書該当性について
    先に述べたとおり、各会派から議会事務局長に提出される政務調査研究費実績報告書及びこれに添付された政務調査研究費精算書には、領収書を添付すべきこととされている定めはなく、また、現に平成11年度の本件実績報告書に領収書が添付されたという事実は認められなかった。
    したがって、本件領収書について、実施機関の職員が作成し、又は取得したという事実はなく、実施機関が管理している行政文書に該当しないことは明らかである。
    以上のとおりであるから、実施機関の判断は妥当であり、「第一 審査会の結論」のとおり答申する。
総務部財政課分

公開請求に係る行政文書については、作成・取得していないので、管理していない。

出納室分

公開請求に係る行政文書については、作成又は取得していないため、管理していない。

3 異議申立て

(1)申立ての趣旨

本件処分を取り消し、行政文書として公開するとの決定を求める。

(2)理由(要旨)

政務調査費の支出責任者は知事であり、知事には政務調査費が適正に使われているかどうかを厳密にチェックする権限と責任がある。

収支報告書の取得・管理は、便宜上、議会事務局長に権限委任しているようだが、本来的には知事に取得・管理する権限と責任がある。したがって、知事が便宜上、取得・管理していないからといって、非公開にする理由はない。

領収書は、収支報告書の裏付けになるもので、収支報告書と切り離せないものである。収支報告書だけでは、個別・具体的な使途が分からず、政務調査費が適正に使われているかどうかも分からない。

4 大阪府情報公開審査会の答申

(1)審査会の結論

実施機関の判断は妥当である。

(2)理由(要旨)

本件実績報告書(政務調査研究費実績報告書及び添付の精算書)について

本件実績報告書は、補助事業が完了したときに補助事業者が知事に提出する補助事業実績報告書に該当するものであるから、本件実績報告書を取得したのは、知事から予算執行事務について委任を受けている議会事務局長である吏員ということとなる。そして、吏員とは、実施機関である知事の補助機関たる職員である。すなわち、議会事務局長は、実施機関である知事の補助機関たる職員の立場で本件実績報告書を取得したのであるから、「実施機関の職員が取得したもの」に該当する。

本件実績報告書については、議会事務局長である吏員が証拠書類として管理することとされている側面を有するとはいえ、現実には、議会において、議会文書管理規程に基づき、議長の権限に属する事務に係る文書と一体的に管理されて利用、保存されている状態にある文書である。また、実施機関である知事は、本件実績報告書に関して、予算執行上の特段の事情がない限り、直接文書を利用するなどの指揮監督権を行使していないものであり、本件実績報告書は、実施機関である知事が現実に利用、保存している状態にあるものとはいえず、知事が自らの責任と判断によって速やかに公開・非公開等の決定を行うこともできないのであるから、「実施機関が管理しているもの」に該当しない。

さらに、本件実績報告書は、議会事務局長に提出された後に、財政課や出納室などに合議されたり写しが送付される定めもなく、また、こうした事実も認められなかった。

したがって、本件実績報告書は、実施機関である知事が管理しているものであるとはいえず、条例第2条第1項の知事が管理する行政文書に該当しない。

領収書について

各会派から議会事務局長に提出される政務調査研究費実績報告書及びこれに添付された政務調査研究費精算書には、領収書を添付すべきこととされている定めはなく、また、現に平成11年度の本件実績報告書に領収書が添付されたという事実は認められなかった。

したがって、本件領収書について、実施機関の職員が作成し、又は取得したという事実はなく、実施機関が管理している行政文書に該当しないことは明らかである。

大阪府情報公開審査会答申(全文)

第一 審査会の結論

実施機関の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成13年1月4日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「99年度の府議会政務調査費の収支報告書及び領収書(全会派のもの)」(以下「本件請求文書」という。)について、行政文書公開請求書の担当室・課(所)等の欄に「財政課」と記載した公開請求及び同欄に「出納室」と記載した公開請求を行った。
  2. 実施機関は、平成13年1月18日、条例第13条第2項の規定により不存在による非公開決定(以下、財政課分を「本件処分1」、出納室分を「本件処分2」という。)を行い、本件請求文書を管理していない理由を次の3のとおり付して異議申立人に通知した。
  3. 本件請求文書を管理していない理由
    • (1)本件処分1における本件請求文書を管理していない理由
      公開請求に係る行政文書については、作成・取得していないので、管理していない。
    • (2)本件処分2における本件請求文書を管理していない理由
      公開請求に係る行政文書については、作成又は取得していないため、管理していない。
  4. 異議申立人は、平成13年2月19日、本件処分1及び本件処分2(以下「本件処分」という。)を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、本件処分において不存在による非公開とした本件請求文書の公開を求める異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件処分を取り消し、行政文書として公開するとの決定を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

  1. 府議会各会派への政務調査費は、府の公費(税金)から支出されており、それがどのように使われているのか、収支報告書や領収書が行政文書として納税者に公開されなければならないものである。
  2. 各会派は、公職者である議員で構成されており、政務調査費は公的活動に使われるものであることからも、使途が公開されなければならないのは当然である。
  3. 政務調査費の支出責任者は知事であり、知事には政務調査費が適正に使われているかどうかを厳密にチェックする権限と責任がある。
  4. 収支報告書の取得・管理は、便宜上、議会事務局長に権限委任しているようだが、本来的には知事に取得・管理する権限と責任がある。したがって、知事が便宜上、取得・管理していないからといって、非公開にする理由はない。
  5. 領収書は、収支報告書の裏付けになるもので、収支報告書と切り離せないものである。収支報告書だけでは、個別・具体的な使途が分からず、政務調査費が適正に使われているかどうかも分からない。
  6. 知事は弁明書で「調査研究費の交付に関する事務は、知事から委任を受けた議会事務局長が自らの権限と責任において行うもの」「知事は、本件請求文書を取得する権限を失っており、何ら関与していない。」としているが、公金の支出責任者として、責任逃れの言い訳だ。
  7. もし仮に、調査研究費が不正に使われていたとして,それを放置していた管理責任と賠償責任が問われた場合、その法的な責任は議会事務局長ではなく知事にあるのではないか。
  8. 調査研究費が適正に使われているかどうかをチェックする権限と責任は、最終的に知事にあると考えるので、知事の権限と責任において本件請求文書を公開するよう求める。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張を総合すると、概ね次のとおりである。

1 予算執行の事務について

大阪府議会(以下「議会」という。)における予算執行の事務については、大阪府財務規則(以下「財務規則」という。)第3条の規定により、知事が、吏員である議会事務局長に対して、その所掌に係るものの範囲内において歳入の徴収や支出の命令など8項目の事務を委任している。

ここで言う「委任」とは、普通地方公共団体の長がその権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任することを規定した地方自治法(以下「自治法」という。)第153条に基づく「委任」であり、普通地方公共団体の長が自己の権限の一部を受任者に移し、それを受任者の権限として行わしめることをいうものである。この場合においては、当該事務は受任者たる吏員の職務権限となり、その事務については、受任者がもっぱら自己の責任において処理するものであって、委任をした普通地方公共団体の長においては自らこれを処理する権限を失うこととなる。(長野士郎著「逐条地方自治法第12次改訂新版450頁」)。

このように、議会における予算執行の事務は、受任者である議会事務局長の職務権限となり、議会事務局長が自己の権限と責任において処理しているものである。

2 本件請求文書について

異議申立人が公開を求めている本件請求文書は、平成11年度に議会において、議会各会派に対して交付された政務調査研究費(以下「調査研究費」という。)の予算執行に関する文書である。本件請求文書のうち、「収支報告書」は、交付された調査研究費の額の確定(精算)に際して、交付を受けた各会派が議会事務局長あてに提出する実績報告書に添付される精算書の収支内容である。また、「領収書」は、精算報告書に記載された金額の積算根拠となる会派での会計処理上の書類のひとつである。

また、調査研究費の交付に関する事務は、議会における予算執行に係る事務として、知事から委任を受けた議会事務局長が自らの権限と責任において行われたものである。

3 本件請求文書が行政文書に該当しないことについて

  • (1)本件請求文書が条例第2条第1項に規定する「行政文書」に該当するためには、条例第2条第2項に規定している知事を実施機関として、その文書等について、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した」ものであり、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」という要件が満たされる必要がある。
    ところが、調査研究費の交付に関する事務は、先に述べたとおり、知事から予算執行に係る事務の委任を受けた議会事務局長が自らの権限と責任において行うものであり、委任者たる知事は、これらを処理する権限を失っている。
    このため、調査研究費の交付に関して各会派から本件請求文書を取得した場合は、予算執行に係る事務の受任者たる議会事務局長が有する権限に基づき取得したことになるものであって、委任者たる知事は、これらを取得する権限を失っており、何ら関与していないのである。
    したがって、本件請求文書は、実施機関としての知事が「職務上作成し、又は取得した」ものの要件を満たすものではない。
    また、財務規則第174条第2項により、支出の証拠書類は、同規則第3条により支出の命令に関する事務を委任された支出命令者が管理することとされており、本件請求文書が議会事務局長に証拠書類として提出された場合があったとしても、条例の実施機関でない議会において、議会が定めた大阪府議会公文書管理規程に基づき、管理されることとなっているものであり、本件請求文書は、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」の要件を満たすものではない。
    なお、議会と知事は、それぞれ地方自治法上の議決機関と執行機関であって、互いに独立した機関であり、また、議会に係る情報公開に関しては、平成12年10月に「大阪府議会情報公開条例」が制定されている(平成13年7月1日施行)ことからしても、議会が条例に規定する実施機関である知事に含まれると解釈する余地はない。
    以上のとおり、本件請求文書の取得については、議会事務局長が有する権限と責任において行われるものであり、さらに、その管理についても、知事が定めた大阪府行政文書管理規則ではなく、議会が定めた大阪府議会公文書管理規程に基づき議会において管理されるものであって、知事は全く関与しないものであるから、知事は、本件請求文書を取得しておらず、また、現に管理もしていない。また、言うまでもなく、知事は、本件請求文書を作成もしていない。
    したがって、知事は、これらの文書を作成又は取得しておらず、管理もしていないことから、本件請求文書は条例第2条第1項の行政文書に該当しないものである。
  • (2)なお、仮に知事の指揮監督権が予算執行事務に関して議会事務局長である吏員に及ぶとしても、以下の理由から、本件請求文書は行政文書に該当しない。
    • ア 議会事務局長に対する指揮監督権と文書管理について
      議会事務局長が行う事務は、議長の命を受けた議会の事務及びこれに係る知事から委任を受けた予算執行事務である。そして、自治法上、議会は知事等の執行機関とは独立した議決機関である。なお、知事から他の執行機関に対して予算執行事務を委任しているが、これについて知事は指揮監督権を有しないものと解される。
      知事が「議長の命を受け議会の庶務を掌理する(自治法第138条)」立場にある議会事務局長に対し、吏員に併任していることは、議会事務局長が予算執行事務について議会の事務事業と一体的に迅速かつ適正に執行するためのものである。そして、自治法上、他の執行機関と比較してもより独立性の高い議会に対しては、知事は、補助執行ではなく委任により、受任者である議会事務局長の名と責任において予算執行事務を行っているのである。
      また、議会における事務には、議長の権限に属する事務と知事から委任を受けた事務が渾然一体となっており、表裏一体で密接不可分なものであり、事務の執行や文書管理を迅速かつ適正に行う観点から、議会における文書は一体的に作成、管理されているのである。
      このため、仮に知事の指揮監督権が議会事務局長である吏員に対して及ぶとしても、予算執行が適正に行われている限り、知事が指揮監督権を行使して文書の利用等を行うことはなく、また現に行っていないのである。
    • イ 条例の「実施機関」及び「実施機関が管理しているもの」の趣旨
      条例上、実施機関は、この条例に基づく事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負うものであり、さらに、条例第13条では、公開請求を受けた実施機関は速やかに公開、非公開の決定を行う義務があることとされている。そして、実施機関は、公開請求の対象になる文書について、利用、保存している状態にし、かつ、自らの判断で公開、非公開の決定を行うことができることが前提である。仮に、そのような状態にない場合は、公開請求のあった文書の有無、その文書の公開・非公開の決定を的確かつ迅速に行うことができないこととなる。
      しかも、議会における予算執行関係文書は、議長と知事の権限が重複し、渾然一体となっており、その管理は、過去から議会において議会の規程により行われているものである。
      知事の権限の行使により、文書を利用、保存している状態にすることは可能であるが、権限を有することのみをもって「当該実施機関が管理しているもの」とまではいえないし、知事のみの判断で公開、非公開の決定を行うことは不可能であるから、議会の判断に委ねるべきものである。
      以上のことから、議会における予算執行関係文書について、仮に知事が権限を有するとしても、現に利用、保存している文書とはいえず、知事が管理している文書には該当しないものである。

4 財政課及び出納室と本件請求文書との関係

3で述べたように、知事は、本件請求文書を作成、取得しておらず、管理もしていないが、行政文書公開請求書において、担当室・課(所)等として財政課及び出納室が記載されているため、財政課及び出納室とこれらの文書の関係について述べる。

財政課においては、予算の執行等に関する書類の合議事項を定め、各執行機関等が予算執行を行う際には、合議事項の範囲内で、各執行機関等から事前に合議を受けることになっている。

調査研究費の執行についても、合議事項の一つであるが、既に述べたとおり、これは予算が執行される前に財政課に合議を行うということであって、本件請求文書のように予算執行が行われた後に議会事務局長が取得し、議会において管理されるものについて、財政課が関与することは全くない。

一方、出納室においては、本庁及び指定出先機関における支出命令の審査及び支払いの事務を行っているが、これは、支出命令者(調査研究費については議会事務局長)から支出の命令を受けたとき、当該支出命令に係る支出負担行為が、法令又は予算に違反していないか、当該支出負担行為に係る債務が確定しているかなどを審査した上、債権者に対し支払いを行っているものである。そして、支出に関する証拠書類の管理については、先に述べたとおり、支出命令者(本件の場合は議会事務局長)が管理することとされており、出納室において支出に関する証拠書類の管理は行っていない。

以上のとおり、異議申立人が公開を求めている文書は、いずれも知事が管理しているものではないことから、条例第2条第1項に規定する行政文書に該当しないものとして、条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定を行ったものである。

5 結論

以上のとおり、本件処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

また、条例においては、不存在による非公開決定に対する不服申立てについても、実施機関は、原則として当審査会に諮問しなければならないこととしている。こうした諮問が行われた場合も、当審査会は、条例第23条に規定する調査権限を適切に行使して調査審議を行い、公正かつ簡易・迅速な救済の実現に努めることとなる。

2 政務調査研究費の支出事務について

本件請求文書は、大阪府議会(以下「議会」という)において作成・取得され、管理されている文書と密接に関連するものであることから、当審査会は、実施機関から説明及び資料の提示等を求めるにとどまらず、議会事務局に対しても本件請求文書の作成・取得及び管理の状況等について説明を求め、また、関連する文書の提示を求める等により、調査審議を行った。

(1)大阪府における予算執行に関する事務

大阪府における予算執行に関する事務については、具体的には、大阪府財務規則(以下「財務規則」という。)等に定められている。

実施機関である知事は、財務規則第3条により、議会事務局長である吏員に対してその所掌に係るものの範囲内において、支出の命令に関する事務など予算執行に係る事務(以下「予算執行事務」という。)を委任している。また、実施機関である知事は、教育委員会、警察本部長、人事委員会事務局長及び監査委員事務局長に対しても、その所掌の範囲内において予算執行事務を委任している。具体的な内容は、議会事務局長である吏員については、財務規則別表第一下欄において「通知を受けた予算の額の範囲内において、支出負担行為(物品の購入又は修理に係る支出負担行為を除く。)をすること」、「配当を受けた歳出予算の額の範囲内において、支出の命令をすること」など8項目が記載されている。

(2)政務調査研究費の交付に関する事務

平成11年度においては、議会における各会派の府政に関する調査研究の推進に資することを目的として、大阪府補助金交付規則(以下「補助金交付規則」という。)及び大阪府議会各会派政務調査研究要綱(以下「政務調査研究要綱」という。)に基づく政務調査研究費(以下「政務調査研究費」という。)が交付されている。

補助金交付規則は、大阪府が大阪府以外の者に対して交付する補助金の交付の申請、決定等に関する事項その他補助金に係る予算の執行に関する基本的事項を規定している。そして、「補助金に関しては、補助金交付規則及びこの規則を実施するため個々の補助金ごとに定められる要綱等があわせて適用されるものである(昭和45年10月1日総務部長「大阪府補助金交付規則の施行について(通知)」)」こととされており、政務調査研究要綱は、この個々の補助金ごとに定められる要綱に対応するものであると認められる。(なお、補助金交付規則及び政務調査研究要綱に基づく政務調査研究費の交付は、平成12年度をもって廃止され、平成13年度からは、「大阪府政務調査費の交付に関する条例」に基づき、府議会議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、議会の会派及び議員に対し、政務調査費が交付されている。)

平成11年度における政務調査研究費の交付に関する事務について当審査会で確認したところ、概ね以下のとおり行われていることが認められた。

ア 交付の対象

政務調査研究費の交付の対象は、議会の各会派である(政務調査研究要綱第1条)。そして、政務調査研究費は、予算の範囲内で毎年度知事が議長と協議して各会派に属する議員の数に応じて定める額を限度として交付するものとし、議員に対しては交付しないものとされている(政務調査研究要綱第2条)。

イ 交付申請

政務調査研究費の交付申請は、政務調査研究要綱第3条の規定に基づき、各会派の代表者が、議会事務局長あてに「政務調査研究費交付金申請書」を提出することにより行う。

ウ 交付決定

議会事務局においては、議会事務局長あての政務調査研究費交付金申請書の提出をうけ、当該申請の内容を審査し、政務調査研究費交付金の交付決定及びこれに伴う経費の支出について意思決定を行うため、支出の内容(支出金額・支出科目・支出の方法など)が記載された起案文及びこれに政務調査研究費交付金の交付指令の案文等を添付した起案文書が作成される。この起案文書については、議会事務局長が決裁を行うが、併せて、「予算執行に係る合議事項(財政課長通知)」に基づく総務部財政課長の合議、また、「予算執行に係る事前合議制度について(出納長通知)」に基づく出納長の合議をそれぞれ経て、意思決定がされる。なお、政務調査研究費の交付決定にあたっては、概算払により交付したうえで事業完了後(当該年度終了後)に精算する旨の意思決定が併せて行われている。

そして、政務調査研究費交付金の交付決定の意思決定を経て、各会派の代表者あてに、交付決定の指令書が、議会事務局長名で通知される。この指令書には、政務調査研究費交付金の交付決定の旨及び交付決定額等が記載される。

エ 支出命令・支出審査・支払い

交付決定の指令書を受けた各会派においては、各会派代表者が?政務調査研究費交付金概算払交付請求書」により、議会事務局長あてに交付金の請求を行う。

上記請求をうけ、当該請求書に記載された請求額についての支出命令の決裁が議会事務局において行われ、出納室における支出審査及び支払処理を経て、当該請求に係る交付金が、各会派が予め指定した銀行口座に振り込まれる。

オ 精算(実績報告・確認)

政務調査研究費の交付を受けた各会派の代表者は、当該年度終了後、「政務調査研究費実績報告書」を議会事務局長に提出する。当該報告書においては、交付決定額、概算払で既に受けとった額及び精算額が記載されている。また、併せて当該年度の「政務調査研究費精算書」が添付され、経費の使用明細が収入・支出の別にそれぞれ費用の区分を設けて金額が記載されている。

議会事務局においては、政務調査研究費実績報告書の提出をうけて、その内容の検査を行ったうえで交付金の額を確定し、その旨の通知を各会派代表者にあてて議会事務局長名で送付している。また、既に概算で支払った額が、確定した交付金の額を上回り、剰余金が生じている場合には、補助金交付規則第16条第2項の規定により、交付金額確定の通知において、会派の代表者に対して剰余金の返還を求めている。なお、この交付金の確定の決裁は、財政課や出納室等の合議を伴うことはなく、議会事務局内のみにおいて行われている。

カ 証拠書類の管理

財務規則第174条第2項及び第3項において、支出命令者(支出命令に関する事務を委任された者をいう。以下同じ。)が管理する証拠書類として、「支出命令伺書」(第2項第1号)、「精算書」(第2項第6号)及び「負担金、補助金及び交付金に関する申請書及び指令書」(第2項第9号)等を列挙し、併せて、これらの証拠書類には、その算定の根拠となる書類その他必要な書類を添付しておかなければならない(第3項)旨が規定されている。

そして、起案文書、支出命令伺書、政務調査研究費実績報告書及び政務調査研究費精算書など政務調査研究費支出に係る一連の文書は、議会事務局の文書保管庫において保管されていることが認められた。

3 本件請求文書について

本件請求文書は、「99年度の府議会政務調査費の収支報告書及び領収書(全会派のもの)」であり、これは、「99年度の府議会政務調査費の収支報告書(全会派のもの)」及び「99年度の府議会政務調査費の領収書(全会派のもの)」に分けられる。

(1)府議会政務調査費の収支報告書(全会派のもの)

上記2の政務調査研究費の支出事務に照らすと、本件請求文書のうち、「99年度の府議会政務調査費の収支報告書(全会派のもの)」に対応する文書としては、上記2(2)のとおり、平成11年度に政務調査研究費の交付を受けた議会各会派の代表者が、当該年度終了後、議会事務局長あてに提出した政務調査研究費実績報告書及びこれに添付された政務調査研究費精算書(これらを併せて以下「本件実績報告書」という。)であることが認められる。

補助金交付規則第12条において、補助事業者(補助事業を行う者をいう。以下同じ。)は補助事業(補助金の交付の対象となる事務または事業をいう。以下同じ。)が完了したときは、補助事業の成果を記載した補助事業実績報告書に知事の定める書類を添えて知事に報告しなければならない旨が規定されているが、本件実績報告書は、この補助事業実績報告書に該当するものである。

また、本件実績報告書は、財務規則第174条第2項及び第3項の規定により、支出命令者が管理することとされている証拠書類(証拠書類に添付しなければならない算定の根拠となる書類その他必要な書類を含む。以下同じ。)であることが認められた。

そして、本件実績報告書は、現に議会事務局の文書保管庫において保管されていることが認められた。

(2)府議会政務調査費の領収書(全会派のもの)

本件請求文書のうち、「99年度の府議会政務調査費の領収書(全会派のもの)」に対応する文書は、上記2の政務調査研究費の支出事務及び行政文書公開請求書の記載内容に照らすと、平成11年度に政務調査研究費の交付を受けた各会派が当該交付金を支出した際に、支出の相手方から発行される領収書(以下「本件領収書」という。)であり、本件実績報告書の政務調査研究費精算書に記載された金額の根拠となるものであることが認められる。

なお、各会派から議会事務局長に提出される政務調査研究費実績報告書及びこれに添付された政務調査研究費精算書に領収書を添付すべきこととされている定めはなく、また、現に平成11年度の本件実績報告書に領収書は添付されていないことが認められた。

4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について

(1)行政文書に該当する要件について
  • ア 本件処分は、本件請求文書に対応する行政文書を管理していないことを理由とする非公開決定処分であるので、当審査会として本件処分に係る具体的な判断を行うにあたっては、本件請求文書に対応する行政文書が存在するか否かについての検討を行う必要がある。
    本件請求文書に対応する文書は、上記のとおり、本件実績報告書及び本件領収書に分けられる。そこで、本件実績報告書については、先に述べたとおり、議会事務局において保管されていることが確認されたので、これが条例第2条第1項に規定する実施機関が管理する行政文書に該当するかどうかについて検討する。そして、本件領収書については、条例第2条第1項に該当するものが存在するかどうかについて検討する。
  • イ 条例において公開請求の対象となる行政文書は、条例第2条第1項により、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録」であって、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」である(条例第2条第1項但し書きに該当するものを除く。)。
  • ウ「実施機関」とは、独立して事務を管理執行する権限を有する機関をいい、自治法上の執行機関等を個別に条例に規定している。実施機関は、条例に基づく事務について、自らの判断と責任において、誠実に管理し、執行する義務を負うものであって、現在、条例に規定している実施機関は、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、公安委員会、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会、水道企業管理者及び警察本部長である。先に述べたとおり、議会は含まれていないが、議会における情報公開制度について定めた大阪府議会情報公開条例が別に存在する。そして、本件処分における実施機関は、知事である。
  • エ「実施機関の職員」とは、実施機関の指揮監督権限に属するすべての職員をいう。
  • オ「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
  • カ「組織的に用いる」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
  • キ「実施機関が管理しているもの」とは、実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が利用、保存している状態のものを意味する。
(2)本件実績報告書の行政文書該当性につ
ア 実施機関の職員が職務上作成又は取得した文書であることについて

実施機関である知事が管理する行政文書に該当する要件は、上記(1)で述べたとおり、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」であって、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が管理しているもの」である。そこで、まず、本件実績報告書が「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」に該当するかどうかについて検討する。
既に述べたとおり、本件実績報告書は、補助事業が完了したときに補助事業者が知事に提出する補助事業実績報告書に該当するものであるから、本件実績報告書を取得したのは、知事から予算執行事務について委任を受けている議会事務局長である吏員ということとなる。そして、吏員とは、実施機関である知事の補助機関たる職員である。すなわち、議会事務局長は、実施機関である知事の補助機関たる職員の立場で本件実績報告書を取得したのであるから、「実施機関の職員が取得したもの」に該当する。

イ 実施機関が管理しているものであることについて

次に、本件実績報告書が「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が管理しているもの」に該当するかどうかについて検討する。

  • (ア)予算執行事務を議会事務局長である吏員に委任していることについて
    予算執行権については、自治法上、実施機関である知事に専属することとされており、知事以外の執行機関及び議会はこれを有しない。しかし、知事、知事以外の執行機関及び議会がそれぞれの権限に基づき実施する事務に係る予算の執行については、当該事業の内容や執行状況等と表裏一体で密接不可分に関連しているため、各事務事業と切り離して当該予算執行の適否の判断等を行うことは困難であり、ひいては、適正な予算執行を行うことができなくなるおそれがある。このため、迅速で適正な予算執行を確保する観点から、大阪府においては、実施機関である知事が権限を有する支出命令など予算執行事務に関して、教育委員会など知事以外の執行機関に対しては自治法第180条の2及び財務規則第3条により委任し、議会に対しては自治法第153条及び財務規則第3条により議会事務局長である吏員に委任している。
    そして、議会事務局長は議長の命を受けて議会の庶務を掌理する(自治法第138条)立場にある議会事務局の職員であり、知事が議会事務局長を吏員に併任して予算執行事務を委任したことは、このことにより、議会事務局長が予算執行事務について、議長の権限に属する事務の執行と一体的に迅速かつ適正に行う趣旨であることが認められる。
    また、議会における予算執行事務について、知事が議会事務局長である吏員に対して補助執行させて知事の名で執行する形をとることも自治法上は可能であるが、議会事務局長である吏員に対して委任するという方法をとっているのは、上記の趣旨に加え、議会が執行機関とは独立した議決機関であることから、特に議会の所掌の事務事業に係る予算執行事務については、権限が知事に属することを前提としながらも、受任者である議会事務局長である吏員の権限と責任において予算執行事務を行うことにより、可能な限り議会の独立性について配慮して行うべきであるとする趣旨であることが認められる。
    上記の趣旨を踏まえると、議会の所掌の事務事業に係る予算執行については、実施機関である知事は、議会事務局長である吏員に対し必要な指揮監督権を行使し得る(自治法第154条)ことを前提としながらも、議会の独立性を尊重し、また、予算執行事務が議長の権限に属する事務と表裏一体で密接不可分なものとして行われるものであるため、適正な予算執行を確保する観点から、予算執行上の特段の事情がない限り、実施機関である知事が直接文書を利用するなどの指揮監督権を行使しない趣旨であることが認められる。
    この点、実施機関である知事が、執行機関とは独立した議決機関である議会の議長の指揮監督下にある議会事務局長を吏員に併任して予算執行事務を委任している場合には、知事が教育委員会など他の執行機関に予算執行事務を委任している場合と比較しても委任先である議会の独立性をより尊重したものとなっているものと解されるべきであり、また、知事が府税事務所長や土木事務所長など自らの権限に服する機関の吏員に委任する場合とも異なるものである。
  • (イ)議会における文書管理及び情報公開について
    • a 議会における文書管理
      議会においては、議会事務局における事務の適正かつ能率的な遂行を図り、議会における公文書公開等の制度の円滑な運用に資するため、大阪府議会事務局公文書管理規程(以下「議会文書管理規程」という。)において公文書に関し必要な事項を定めて文書を管理している(平成13年6月以前は議会事務局規程)。議会文書管理規程によると、議会事務局の各課の課長をもって充てることとされる文書管理者が、課における公文書の適正な管理に関する事務を掌理する(第5条)こととされ、文書管理者は、公文書を合理的かつ系統的に整理するために、事務及び事業の性質、内容等を考慮して議会事務局総務課長が定めた文書分類表に基づき、公文書を分類しなければならない(第10条)こととされている。この文書分類表においては、複数の段階による公文書の分類の項目を設け、当該項目ごとに記号が定められて管理されている。
      議会においては、議会文書管理規程に基づき、議長の権限に属する事務に関わって作成・取得された文書のほか、実施機関である知事の権限に属する事務であって議会事務局長である吏員に委任されている予算執行事務に関わって作成・取得された文書がそれぞれ区分されることなく、一体的に保管されている。そして、本件実績報告書を含む政務調査研究費の支出に関する文書については、議長の権限に属する事務に関する文書とあわせた上で、D2-2「財務―収入・支出―支出」と分類され、議会事務局の文書保管庫において他の文書とともに保管されていることが確認された。
      このように、議会における予算執行事務については、これに係る文書の管理においても、事務の執行と同様に、議長の命を受けて行う議会の事務事業に関する文書と表裏一体で密接不可分なものであるため、議会事務局長である吏員が本件実績報告書など予算執行事務に係る証拠書類を管理することとされている側面を有するとはいえ、事務の執行や文書管理を迅速かつ適正に行っていくという観点から、現実には、議会において、議長の権限に属する事務に係る文書と一体的に管理されているものである。
    • b 議会における情報公開
      また、議会の情報公開制度については、「府議会の権限の適正な行使を確保し、府民に身近な府議会の実現及び府民の府政への参加をより一層推進するとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府議会への信頼を深め、府民の福祉の増進に寄与すること」を目的とし、議会のみを対象とする大阪府議会情報公開条例が議員提案されて議会で可決され、平成12年10月27日の公布を経て、平成13年7月1日から施行されている。
      大阪府議会情報公開条例が制定されるにあたっては、議長の権限に属する事務に係る文書及びこれらに係る予算執行に係る文書が表裏一体で密接不可分なものであることから、府民からの議会に関する文書の公開請求については、これを区別することなく、広く議会の責任において受け付け、公開・非公開等の判断を行うことにより、迅速で的確な情報公開を実施し、また府民にとってもわかりやすい情報公開制度としていくことが立法時の趣旨とされていたことが推察される。そして、大阪府議会情報公開条例は、議会事務局の職員が組織的に用いるものとして議長が管理している文書を公開請求の対象としており、施行以後の条例運用においては、議会における予算執行事務に係る証拠書類についても、現実に議会において議会文書管理規程に基づき管理されて利用、保存されている状態にあることから、大阪府議会情報公開条例の公開請求の対象文書として特定したうえで、公開・非公開等の決定が行われている。
  • (ウ)「実施機関が管理しているもの」について
    条例上の実施機関は、条例に基づく事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負うものであって、条例第13条の規定により公開請求に係る行政文書の公開決定等を速やかに行わなければならないのであるから、条例第2条第1項の「実施機関が管理しているもの」とは、単に実施機関が文書に対して権限を有していれば該当するというものではなく、現実に当該文書を利用、保存している状態であることが求められる。
    そして、本件実績報告書については、先に述べたように、議会事務局長である吏員が証拠書類として管理することとされている側面を有するとはいえ、現実には、議会において、議会文書管理規程に基づき、議長の権限に属する事務に係る文書と一体的に管理されて利用、保存されている状態にある文書である。また、実施機関である知事は、本件実績報告書に関して、予算執行上の特段の事情がない限り、直接文書を利用するなどの指揮監督権を行使していないものであり、本件実績報告書は、実施機関である知事が現実に利用、保存している状態にあるものとはいえず、知事が自らの責任と判断によって速やかに公開・非公開等の決定を行うこともできないのであるから、「実施機関が管理しているもの」に該当しない。
    さらに、本件実績報告書は、議会事務局長に提出された後に、財政課や出納室などに合議されたり写しが送付される定めもなく、また、こうした事実も認められなかった。
    したがって、本件実績報告書は、実施機関である知事が管理しているものであるとはいえず、条例第2条第1項の知事が管理する行政文書に該当しない。
(3)本件領収書の行政文書該当性について

先に述べたとおり、各会派から議会事務局長に提出される政務調査研究費実績報告書及びこれに添付された政務調査研究費精算書には、領収書を添付すべきこととされている定めはなく、また、現に平成11年度の本件実績報告書に領収書が添付されたという事実は認められなかった。
したがって、本件領収書について、実施機関の職員が作成し、又は取得したという事実はなく、実施機関が管理している行政文書に該当しないことは明らかである。
以上のとおりであるから、実施機関の判断は妥当であり、「第一 審査会の結論」のとおり答申する。

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