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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審第67号)

答申第67号 社会福祉施設国庫協議書等部分公開決定事案(PDF:87KB)

(答申第67号)社会福祉施設整備国庫協議書等文書部分公開事案(答申日 平成13年6月29日)

1 対象行政文書

第1号事案

仮称Aの法人設立に係る事前協議書類

「審査総括表、社会福祉法人概要書及び法人役員一覧表」

第2号事案

B障害者施設整備計画協議書

「社会福祉施設等施設整備費国庫協議書」

2 実施機関の決定

(1)実施機関

大阪府知事(担当課 健康福祉部障害保健福祉室施設課)

(2)決定内容

第1号事案

部分公開決定

ア 非公開部分
  • a 役員の年齢、生年月日、住所(法人の代表者を除く。)、職業(法人の代表職名及び医師を除く。)、現在までの主な経歴、兼務法人名及び家族関係がわかる部分
  • b 寄附者からの寄附金額
イ 公開しない理由
  • a 条例第8条第1号に該当する。
    本件行政文書1(非公開部分)には、法人の経営に関する情報が記載されており、これを公開することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
  • b 条例第9条第1号に該当する。
    本件行政文書1(非公開部分)には、個人の生年月日、年齢、職業等に関する情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
第2号事案

部分公開決定

ア 非公開部分
  • a 社会福祉法人調書のうち役員の年齢、住所(法人の代表者を除く。)、職歴、兼務法人名
  • b 法人の贈与金額
  • c 法人の確定申告書
  • d 法人の残高証明書
  • e 設備見積書のうち担当者の氏名
  • f 履歴書
  • g 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別される部分
  • h 個人及び団体の代表者の印影
イ 公開しない理由
  • a 条例第8条第1号に該当する。
    本件行政文書2(非公開部分)には、団体の代表者の印影や法人の経営状況等に関する情報が記載されており、これらを公開することにより、取引の安全を害するなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
  • b 条例第9条第1号に該当する。
    本件行政文書2(非公開部分)には、個人の年齢、住所、印影等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

3 異議申立て

(1)申立ての趣旨

第1号事案

本件処分1のうち、寄附者からの寄附金額を公開しないこととした処分を取消すとの決定を求める。

第2号事案

本件処分2のうち、次の部分を公開しないこととした処分を取消すとの決定を求める。

  • a 法人の贈与金額
  • b 法人の確定申告書
  • c 法人の残高証明書
  • d 法人の代表者の履歴書
  • e 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別される部分

(2)理由(要旨)

ア 条例第8条第1号に該当しないことについて

「競争上の地位を害すると認められる」とは、生産上のノウハウ、技術上のノウハウ、販売上のノウハウなどで公開によりその者の事業活動が損なわれると認められる場合をいうと解すべきである。

条例第8条第1号と同旨の東京都旧条例の規定を限定的に解釈した判例(東京地判平成6年11月15日)からしても、単に競争上の地位等が損なわれる可能性があるというだけでは該当せず、開示するとこれらの地位が損なわれることが客観的に明白な場合でなければならないというべきである。

たとえ、本来提出が義務付けられていない書類であっても、公開が原則である。

(ア)法人の贈与契約について

商法上の開示義務がなくても、いったん行政機関に提出され、行政文書となって、府が保有する情報になった以上、条例により原則として公開されなければならないのであって、当該行政情報をどの範囲で明らかにするかは、当該法人の選択に委ねるべき性質のものとは到底言えない。

また、社会福祉法人「A」に対し、整備資金又は運転資金として誰からいくら寄附がなされたかという情報が公開されても、当該法人が、その事業活動を損なわれるとは到底認められない。

「当該営利法人の経営方針、財務状況が推し量られる」というが、単にそれだけの理由で、当該法人の競争上の地位が損なわれることが客観的に明白な場合にはあたらない。

「A」に意見照会を行った結果、「法人の経営等に支障を来たすと思われる部分についても配慮」を求める意見書が提出されているというが、このような意見聴取結果を重視するのは不適切である。

(イ)法人の確定申告書、残高証明書について

いったん行政機関に提出された以上、商法、有限会社法等の法令上の開示義務の有無や公表を前提として提出されたか否かは、公開の可否を判断する根拠とはなり得ず、また、「不正確な情報を流布し、誤った認識を抱かせる可能性」という程度では、当該営利法人の競争上の地位が損なわれることが客観的に明白な場合にあたらない。

イ 条例第9条第1号に該当しないことについて
(ア)「A」代表者の履歴書について

「履歴書」であるからと言って、当然にその記載情報すべてが非公開とされるのは不適切であり、「履歴書においては、個別の情報ではなく、特定の個人の履歴として集約された情報が閲覧できる」としても、本号に該当するか否かについては、個々の情報ごとに判断すべきである。

また、「参考資料として添付」されたものであることや「公表を前提として実施機関に提出したものではない」ことは根拠にならない。

(イ)地元対応経緯のうち個人名が識別される部分について

異議申立人は、「A」が地元対応経緯としてどのようなことを行ったと府に対し報告しているのかを知ることにより、D地区住民と「A」との間に、手続を巡る見解の相違を解決する糸口を見出そうとしているのである。

実施機関の主張を許すと、およそ紛争が起きている事柄については、事実関係を確認できる行政文書の公開を求めることが不可能になる。

ウ 公益上の公開の必要性について

設立に際し社会福祉法人に対し、その整備資金又は運転資金として誰からいくら寄附がなされているかという情報は、認可が適正であったかどうかを判断するに際し、重要な事実である。認可の適否を判断するには、単に贈与者と贈与金額の合計額だけでなく、個別の贈与金額まで知る必要がある。

地元対応経緯についても、見解の相違があるからこそ、虚偽の報告がなされていないか等を、府の認可の適否を判断するに際して、確認しておく必要がある。個人の名前を知ることができなければ、実際にそのような地元対応が行われたのか否かを確認することすらできない。

4 大阪府情報公開審査会の答申

(1)審査会の結論

第1号事案については、実施機関の判断は妥当である。

第2号事案については、実施機関は、異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、社会福祉法人の理事長に就任する者に係る履歴書に記載された「氏名」、「住所」及び「他の法人への就任状況」の部分を公開すべきである。実施機関のその余の判断は妥当である。

(2)理由(要旨)

ア 条例第8条第1号について
  • (ア)本件寄附金額について
    本件寄附金額は、営利法人6法人が今後その財産の一部を本件団体に対しその運転資金や施設整備等の資金として贈与することと決定した個別具体的かつ詳細な金額であり、これらの法人の経営そのものに関する情報であるとともに、各法人にとっては団体としての自治に関わる各法人内部の情報であって、法令上公にすることを求められているものではない。本件行政文書の提出者の意思に反し、これらの個別具体的な寄附金額を公にすることは、これら6法人の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当する。
  • (イ)本件確定申告書について
    本件確定申告書に記載された情報は、当該有限会社(同社からの贈与金を本件団体の社会福祉・医療事業団からの借入金の償還財源の一部に充てることとされていた。)の経営に関する情報であって、その財務状況そのものを詳細に表す情報であり、法人内部の情報であって、そもそも公にすることが予定されている情報ではない。本件確定申告書は、一般に公にすることにより、当該法人の当該年度の経営状況や財務状況の詳細が他の競争相手等に容易に推測され、ひいては、当該法人の事業活動に何らかの不利益を及ぼすことを否定できない。
  • (ウ)本件残高証明書について
    本件残高証明書は、各法人による資金贈与の確実性を証する書面として本件団体が実施機関に提出したもので、資金贈与を行う法人の特定の日における預金残高について、金融機関の名称、預金の種類、金額が個別具体的に記載されている。
  • 本件残高証明書に記載された情報は、資金贈与を予定している営利法人6法人の取引先や資産状況そのものを具体的に表す情報であり、法人内部の情報であって、公にすることが予定されている情報ではない。一般に公にすることにより、これらの法人が特定の金融機関に対し預金している具体的な金額が、その取引先、預金の種類とともに、他の競争相手等に容易に推測され、ひいては、これらの法人の事業活動に何らかの不利益を及ぼすことを否定することはできない。

  • (エ)本件非公開部分が本件団体に係る社会福祉法人の認可手続に関する情報であることを考慮しても、本件 非公開部分について、条例第11条第1項の「公益上特に必要があると認められ」、公開すべき情報に該当する特段の事情、必要性が現に存すると認めることはできない。
イ 条例第9条第1号について
  • (ア)本件履歴書について
    本件履歴書に記載された情報のうち、理事長就任予定者の氏名及び住所並びに他の法人への就任状況については、その内容が有限会社の代表取締役であることから、商業登記簿等に記載されるなどにより既に公にされている情報である。
    一方、当該理事長就任予定者の生年月日や年齢、性別、電話番号及び学歴については、その職務と密接に関連しているものでもなく、その職務を遂行していく上でも公にされることが予定されている情報でもない。あくまでも当該理事長予定者個人に専属する固有の情報であって、その職務や公的性格を考慮したとしても、公にすることが求められているとまでは考えられない。
    また、当該理事長就任予定者の印影についても、その氏名を公にすることから、「特定の個人が識別され得る」情報であって、当該個人固有の情報であり、公開することにより、当該個人が何らかの不利益を被るおそれが生ずることを否定できない。
  • (イ)地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分について
    地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分は、本件団体が行ったとされる行為の相手方である特定の個人の具体的な名前及びこれが識別され得る情報であって、その記載が義務づけられているものではなく、あくまでも本件団体が任意に記載したものであり、当該個人にとっては、本件知的障害者更生施設の整備に関し本件団体が行った行為の相手方となったことやその内容について広く知られることを予測すべきであるとは言えないものであること、当該個人がどのような立場において本件団体の行為の相手方となったかどうかを判断する明確な情報が見当たらないことなどからすると、条例の基本原則である「個人のプライバシーの最大限保護」の考え方を踏まえれば、条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
  • (ウ)本件地元対応経緯における非公開部分について、異議申立人の地元の状況等に関する主張を考慮して も、本号の保護法益を上回る公益上の必要性は見当たらない。

大阪府情報公開審査会答申(全文)

第一 審査会の結論

  1. 第1号事案については、実施機関の判断は妥当である。
  2. 第2号事案については、実施機関は、異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、社会福祉法人の理事長に就任する者に係る履歴書に記載された「氏名」、「住所」及び「他の法人への就任状況」の部分を公開すべきである。実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

この答申が対象とする2件の異議申立て事案の経過は、次のとおりである。

1 行政文書公開請求及び請求に対する決定

(1)第1号事案

  • ア 平成12年8月10日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「仮称Aの法人設立に係る事前協議書類」の公開請求(以下「本件請求1」という。)をした。
  • イ 同年9月8日、実施機関は、本件請求1に対応する行政文書として、「審査総括表、社会福祉法人概要書及び法人役員一覧表」(以下「本件行政文書1」という。)を特定の上、次の(ア)に示す部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分1」という。)を行い、公開しない理由を次の(イ)のとおり付して異議申立人に通知した。
    • (ア)公開しないことと決定した部分
      • a 役員の年齢、生年月日、住所(法人の代表者を除く。)、職業(法人の代表職名及び医師を除く。)、現在までの主な経歴、兼務法人名及び家族関係がわかる部分
      • b 寄附者からの寄附金額
    • (イ)公開しない理由
      • a 条例第8条第1号に該当する。
        本件行政文書1(非公開部分)には、法人の経営に関する情報が記載されており、これを公開することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
      • b 条例第9条第1号に該当する。
        本件行政文書1(非公開部分)には、個人の生年月日、年齢、職業等に関する情報が記載されており、これらは個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

(2)第2号事案

  • ア 平成12年8月10日、異議申立人は、条例第6条の規定に基づき、実施機関に対し、「「B」障害者施設整備計画協議書」の公開請求(以下「本件請求2」という。)をした。
  • イ 同年9月8日、実施機関は、本件請求2に対応する行政文書として、「社会福祉施設等施設整備費国庫協議書」(以下「本件行政文書2」という。)を特定の上、次の(ア)に示す部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分2」という。)を行い、公開しない理由を次の(イ)のとおり付して異議申立人に通知した。
    • (ア)公開しないことと決定した部分
      • a 社会福祉法人調書のうち役員の年齢、住所(法人の代表者を除く。)、職歴、兼務法人名
      • b 法人の贈与金額
      • c 法人の確定申告書
      • d 法人の残高証明書
      • e 設備見積書のうち担当者の氏名
      • f 履歴書
      • g 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別される部分
      • h 個人及び団体の代表者の印影
    • (イ)公開しない理由
      • a 条例第8条第1号に該当する。
        本件行政文書2(非公開部分)には、団体の代表者の印影や法人の経営状況等に関する情報が記載されており、これらを公開することにより、取引の安全を害するなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
      • b 条例第9条第1号に該当する。
        本件行政文書2(非公開部分)には、個人の年齢、住所、印影等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。

2 異議申立ての提起

平成12年11月7日、異議申立人は、本件処分1及び本件処分2を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

  1. 本件処分1のうち、寄附者からの寄附金額を公開しないこととした処分を取消すとの決定を求める。
  2. 本件処分2のうち、次の部分を公開しないこととした処分を取消すとの決定を求める。
    • (異議申立ての対象とする部分)
    • (1)法人の贈与金額
    • (2)法人の確定申告書
    • (3)法人の残高証明書
    • (4)法人の代表者の履歴書
    • (5)地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別される部分

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 条例第8条第1号に該当するとの主張に対する反論

  • (1)条例第8条第1号は、「公にすることにより、当該法人等・・・の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」と定めるが、そもそもこのような事業情報(企業情報、法人等情報)を非公開とする規定の趣旨は、自由経済社会においては、法人等の事業活動の自由を保障する必要があることから、法人等の事業情報が公開されることにより、これらのものの正当な利益が害されることを防止しようとするものであって、そうであるとするならば、「競争上の地位を害すると認められる」とは、生産上のノウハウ、技術上のノウハウ、販売上のノウハウなどで公開されることによりその者の事業活動が損なわれると認められる場合をいうと解するべきである。
    そして、法人情報について、本条例と同旨の東京都旧条例第9条第3号本文を「競争上等の地位が当該情報の開示によって具体的に侵害されることが客観的に明白な場合を意味する」と限定的に解釈した判例(東京地判平成6年11月15日)からしても、単に競争上の地位等が損なわれる可能性があるという漠然としたおそれだけではこれに該当せず、開示するとこれらの地位が損なわれることが客観的に明白な場合でなければならないというべきである。
  • (2)次に、処分庁は、今回、本件処分2において非公開にした行政文書は、「補助金交付申請の正式な手続のために提出された書類ではないのだから、当然にそのすべての情報が公開されるべきものとはいえず、個々の情報についてその公開の妥当性を検討、判断すべきもの」としている。
    しかし、条例前文で宣言されているとおり、「府が保有する情報は、本来は府民のものであり」、「府の保有する情報は公開を原則」とするのであって、府が保有する情報である以上、「補助金交付申請の正式な手続のために提出された書類ではない」からといって、公開が原則であることに変わりはないはずである。
    たとえ、本来提出が義務付けられていない書類であっても、それが、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」(条例第2条第1項)である以上、「行政文書」であって、公開が原則である。
  • (3)法人の贈与契約について
    処分庁は、Cほか5社は、全て営利を目的とする法人であって、その利益配当等の処分方法については、各社の取締役会等の決定によりなされるものであって、当該法人の株主等には開示されるべきものではあるが、これらの者以外の者に対する開示義務を定める法令等の規定はないから、「当該情報を誰に対し、どの範囲で明らかにするかは、本来、Cほか5社の選択に委ねるべき性質のものである」とする。
    しかし、商法上の開示義務がないからといって、それがいったん行政機関に提出され、行政文書となって、府が保有する情報になった以上、条例により原則として公開されなければならないのであって、当該行政情報をどの範囲で明らかにするかは、当該法人の選択に委ねるべき性質のものであるとは到底言えない。
    また、本件において社会福祉法人「A」に対し、その整備資金又は運転資金として誰からいくら寄附がなされているかという情報が公開されたとしても、これによって、本件社会福祉法人が、その事業活動を損なわれるものとは到底認められない。
    「当該営利法人の経営方針、財務状況が推し量られることにもなる」というが、単にそれだけの理由で、これらの情報の公開により、当該営利法人の競争上の地位が損なわれることが客観的に明白な場合にはあたらないというべきである。
    さらに、処分庁は、「A」に対し第三者に対する意見照会を行った結果、「法人の経営等に支障を来たすと思われる部分についても配慮」を求める意見書が提出されていることを非公開処分の根拠としているが、明確な根拠のないこのような意見聴取の結果を重視するのは不適切である。
  • (4)法人の確定申告書、残高証明書について
    前述のとおり、これらがいったん行政機関に提出され、行政文書として、府が保有する情報になった以上、商法、有限会社法等の法令上の開示義務の有無や公表を前提として提出されたか否かは、公開の可否を判断する根拠とはなり得ず、また、「不正確な情報を流布し、誤った認識を抱かせる可能性」という程度では、当該営利法人の競争上の地位が損なわれることが客観的に明白な場合にあたらないのは言うまでもないことである。

2 条例第9条第1号に該当するとの主張に対する反論

(1)「A」代表者の履歴書について

まず、処分庁は、「そもそも履歴書は、特定の個人のプライバシーに関する情報が当該個人の履歴として集約して記載されたものであり、条例第9条第1号の趣旨からすると、履歴書そのものの取扱いについては最大限の配慮が必要である」と弁明する。

この点、「個人のプライバシーの最大限の保護」が重要であることは言うまでもないが、形式上、「履歴書」であるからと言って、当然にその記載情報すべてが非公開とされるのは不適切であり、「履歴書においては、個別の情報ではなく、特定の個人の履歴として集約された情報が閲覧できる」としても、本号に該当するか否かについては、個々の情報ごとに判断すべきである。

また、「参考資料として添付」されたものであることや「公表を前提として実施機関に提出したものではない」ことが根拠にならないのは前述のとおりである。

(2)地元対応経緯のうち個人名が識別される部分について

処分庁は、「現在、D地区住民とAとの間に、これらの手続を巡って見解の相違があることを考えると、これらの人々がその氏名を公にしたくないと望むことは当然である」とし、「A」に対する意見照会の結果、「新たな物議が発生する恐れがあり、当事者においても迷惑をかける恐れが予測される」と述べられていることをもって、「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当すると弁明するが、異議申立人としては、「A」が地元対応経緯としてどのようなことを行ったと府に対し報告しているのかを知ることにより、D地区住民と「A」との間に、手続を巡る見解の相違を解決する糸口を見出そうとしているのであって、上記のような「新たな物議が発生する」つもりも「当事者においても迷惑をかける」つもりもまったくない。

しかるに上記のような弁明を許すと、およそ紛争が起きている事柄については、事実関係を確認できる行政文書の公開を求めることが不可能になるのであって、有益な文書ほど開示されず、開示されるのは無益なものばかりという結果になりかねないのであって、このような主張を許すべきではない。

3 公益上の必要性について

  • (1)仮に上記情報が、条例第8条第1号に該当するとしても、設立に際し府の認可を受ける社会福祉法人に対し、その整備資金又は運転資金として誰からいくら寄附がなされているかという情報は、認可が適正であったと言えるかどうかを判断するに際し、重要な事実であり、その開示は、「公益上特に必要があると認め」られるのであって、条例第11条第1項に該当し、府は、請求者に対し、非公開部分を公開しなければならないものである。
    そして、上記の認可の適否を判断するには、単に贈与者と贈与金額の合計額だけでなく、個別の贈与金額まで知る必要があるのであって、公開情報のみでは不十分というべきである。
  • (2)また、地元対応経緯についても、処分庁は、「Aが説明会前に個別に接触した相手に過ぎず、それぞれの場で具体的な施設建設に当たっての取決めを行ったものでもない」とし、「却って現在D地区住民とAとの間に、これらの手続等を巡って見解の相違があることを考えると、これらの住民がその氏名の公開を望まないことは当然である」として、保護法益を上回る公益上の必要性があるとは認められないとするが、見解の相違があるからこそ、本来、認可の際の重要な資料となる地元対応経緯として虚偽の報告がなされていないか等を、府の認可の適否を判断するに際して、確認しておく必要があるのであって、個人の名前を知ることができなければ、実際にそのような地元対応が行われたのか否かを確認することすらできないのである。
    したがって、この情報を公開する公益上の必要性は高いというべきである。

4 結論

以上のように、処分庁の弁明にはいずれも合理的な理由がなく、本件公開拒否処分は、本条例に違反する違法な処分である。

したがって、異議申立人としては、その取消しを求めるため、本異議申立てに及んだ次第である。

第五 実施機関の主張要旨

1 第1号事案に関する実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

(1)社会福祉法人の意義について

社会福祉法人(以下「法人」という。)とは、社会福祉事業を行うことを目的として社会福祉法(昭和26年法律第45号)の定めるところにより設立される公益法人であって、多様な福祉サービスがその利用者の意向を尊重して総合的に提供されるよう創意工夫することにより、個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを目的としている。法人の認可については、社会福祉法(以下「法」という。)及び社会福祉法施行令において定められており、その概要は以下のとおりである。

ア 法人認可に係る審査について

法人の認可手続きにおいては、平成9年3月28日付け社援企第68号厚生省1部長3局長連名通知(以下「通知」という。)により、「施設整備の必要性から離れて独自の判断による審査を行わなければならず、このため、施設整備担当課以外の関係課、部局を加えた庁内審査会を設置するなど、内部牽制機能を確保した合議制による審査体制により、的確な審査を行わなければならない。」としている。

併せて社会福祉施設を整備しようとする者が国庫補助協議を行うに当たっては、通知の定めるところにより、当該審査を経ていることが前提条件となる。

新たに法人を設立し、社会福祉施設を整備する場合は、上記施設整備に係る国庫補助協議後、厚生省から国庫補助金の内示があった後に、具体的に法人認可申請を行うことが可能となる。

イ 設立

法人の設立は、定款の作成及び申請、所轄庁の認可、設立の登記の3つの手続きを完了することによってなされることになる。

  • (ア)定款の作成
    設立に当たって最も基本となるものは、法人の根本法である「定款」を作成することである。
    定款に記載する事項については、必要的記載事項と任意的記載事項とがあり、必要的記載事項については、次のとおりであって(法第31条)、その一を欠いても定款は無効となる。
    a 目的、b 名称、c 社会福祉事業の種類、d 事務所の所在地、e 役員に関する事項、f 会議に関する事項、g 資産に関する事項、h 会計に関する事項、i 評議員を置く場合には、これに関する事項、j 公益事業を行う場合には、その種類、k 収益事業を行う場合には、その種類、l 解散に関する事項、m 定款の変更に関する事項、n 公告の方法
    定款には以上の他、任意的記載事項を定めることを妨げない。任意的記載事項も定款に記載された以上は、必要的記載事項との効力の差はなく、その変更は、同じく定款変更の手続きによらなければならない。
  • (イ)所轄庁の認可
    法人の定款は、社会福祉法施行規則の定める手続きにより、所轄庁の認可を受けなければならないことになっている(法第31条第1項)。所轄庁は認可申請があったときは、当該法人の資産がその目的とする社会福祉事業を行う必要を満たすものであるかどうか、その定款の内容及び設立の手続きが法令の規定に違反していないかどうか等を審査し、当該認可の決定をしなければならない(法第32条)。
  • (ウ)設立の登記
    法人は、その認可のあった日から2週間以内に、その主たる事務所の所在地において設立の登記を行うことによって成立し(法第34条)、それ以後当該法人は正式に法人格を取得し、又、寄附財産は当該法人に帰属することとなる。
(2)本件行政文書について

本件行政文書は、法人を設立しようとする「A」が、法人認可を受ける上で施設整備に係る国庫補助金を得るべく(1)のアでいう庁内審査会である社会福祉法人設立認可等審査会に上程した書類一式と建築費用の一部を社会福祉・医療事業団からの融資を受けるべく、資金借入申込に関する知事の意見書の交付を申請した際に添付された役員一覧表であって、次のとおり区別される。

[以下各文書の内容は記載略(別表1参照)]

  • ア 国庫協議を行うために開催した、社会福祉法人設立認可等審査会に上程した事前協議書類
    • a 審査総括表
    • b 社会福祉法人概要書
  • イ 社会福祉・医療事業団からの融資を受けるべく、資金借入申込に関する知事の意見書の交付願を申請する際に提出した書類
    法人役員一覧表
(3)条例第8条第1号に該当することについて

府は、許認可、補助、調査等の事務事業を通じて、事業を営む者の情報を収集しており、これらの情報は、事業を営む者から収集したものであっても、原則として公開する。

しかしながら、事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

本号に該当するかについては、情報の内容のみではなく、事業を営む者の性格、事業活動における当該情報の位置付け等に十分留意することに加え、客観的に明白なものを除き、当該事業を営む者から意見を聴取するなどにより、公開した場合において侵害される利益の有無、程度等についての客観的な判断を行う必要がある。

本件処分1において、本号に該当する情報として非公開としたものは、社会福祉法人概要書に記載された寄附者からの寄附金額であり、法人を設立するに際して、基本財産たる土地及び建物を自己所有する必要があることから整備資金計画として記載されている。

社会福祉法人概要書には、「A」設立代表者が経営に関与するC(株)、(有)E、(有)F、(有)G、(有)H、(有)I(以下「Cほか5社」という。)が「A」に対し、建設自己資金及び経営資金として贈与予定の個別の金額が記載されており、これらの情報は、特定の法人が「A」に対し、贈与を予定している金額であることから、条例第8条第1号の「法人等に関する情報」に該当する。

次にこれらの情報が条例第8条第1号の「公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当する理由について述べる。

Cほか5社は、全て営利を目的とする法人であって、その利益配当等の処分方法については、各社の意思決定機関たる取締役会等の決議事項であることから(商法第260条第2項等)、当該贈与については、営利法人内の経営方針により当該贈与が行われるものと解される。そしてこれらの情報は、Cほか5社の株主等には開示されるべきものではあるが、これ以外の者に対する開示義務を定める法令等の規定はないから、当該情報を誰に対し、どの範囲で明らかにするかは、本来、Cほか5社の選択に委ねるべき性質のものである。

そして、営利法人が贈与を行う場合、贈与の事実、その対象、個々の金額等が公開されることにより、当該法人の経営方針、財務状況が推し量られることから、これらの情報の公開は、当該法人にとっては、「競争上の地位その他正当な利益を害するものと認められる」情報に該当する。

従って、これらの情報を公開するかどうかの判断に当たっては、当該情報に関わる第三者「A」から意見を聴取するなどして慎重に取り扱う必要がある。

なお、本件処分1に先立ち実施機関は、条例第17条第1項の規定により第三者「A」に意見を提出する機会を与え、公開に対する意見を聴取したところ、「法人の経営等に支障を来すと思われる部分について配慮」を求める意見書が、第三者「A」から実施機関あて提出されている。

以上により、寄附金額については、上記に述べた記載情報の性質、第三者意見書による意思を勘案し、「当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ものと判断し、当該部分を非公開としたものである。

(4)異議申立人の主張について

異議申立人は、条例第8条第1号の「公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を 害すると認められるもの」とは、「生産上のノウハウ、技術上のノウハウ、販売上のノウハウなどで公開されることによりその者の事業活動が損なわれると認められる場合をいうと解するべきである。」と主張し、これらの書類が公開されたとしても、これによって「A」がその事業活動を損なわれるものとは到底認められず、その他に公開によって害される正当な利益が存するとも認められない、と主張する。

確かに異議申立人が主張のとおり、贈与金額等本件書面に記載された情報は「生産上のノウハウ」等には当たらないが、前記(3)記載のとおり事業を営む者の「その他正当な利益を害する」もので条例第8条第1号に該当する。

さらに、異議申立人は、仮に公開を求める当該情報が条例第8条第1号に該当するとしても、設立に際し、実施機関の認可を受ける法人に対し、その整備資金又は運転資金として誰からいくら寄附がなされているかという情報は、認可が適正であったかどうかを判断するに際し、重要な情報であり、その開示は、「公益上特に必要があると認め」られるのであって、条例第11条第1項に該当すると主張する。

本項の「公益上特に必要があると認められるとき」とは、条例第8条各号に定める個々の適用除外規定によって保護される利益と公益上の必要性とを個別具体的に比較衡量し、公益上特に必要があると認められる場合をいうものである。

本項の適用に当たっては、条例第8条各号の保護法益を不当に侵害してはならないのであって、「公益上特に必要があると認められるとき」とは、公開することに優越的な公益が認められる場合をいうのである。異議申立人は、「寄附金額の公開は認可が適正であったかを判断するに際し、重要な情報」として公益上の必要性を主張するが、Cほか5社の寄附金額は、法的な義務に基づくものではなく、「A」の資金計画を支援、協力する意図のもとに自主的に寄附されるものである。

個々の寄附者の寄附金額が公開されないからといって「法人認可の適正性」が担保できないものではなく、法人の資金計画が寄付金を含めて適正に確保されていることが判明すれば申立人の主張は満たされるものである。

よって、法人概要書の整備資金計画において、寄付金の合計額及び他資金計画についてで十分に識別できることから、異議申立人の主張は当を得ないものである。

なお、施設整備費に係る国庫補助協議には、当然公的財源が充てられており、「A」が実施しようとする事業が公益的な性格を有するものであるとしても、前述のとおり条例の趣旨を踏まえると、寄附者の「競争上の地位その他正当な利益」に係る情報については、保護されるべきである。

(5)結論

以上のとおり、本件処分1は条例の趣旨を踏まえて行ったものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

2 第2号事案に関する実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

(1)社会福祉施設等に対する助成制度について

障害者施設を始めとする社会福祉施設等の整備に当たっては、施設利用者の福祉の向上を図るため、「社会福祉施設等整備費国庫負担(補助)及び社会福祉施設等設備整備費国庫負担(補助)金交付要綱」(厚生省)により、都道府県(政令指定都市・中核都市)が当該整備費用の3/4を補助(負担)することとされている。また、このうち、2/3については国が負担する(間接補助)こととされている。

なお、社会福祉施設は、その公共性から、国、都道府県、市町村又は社会福祉法人が設置することとされている(運営についても原則として、同様である。)。

(2)社会福祉施設等整備補助に係る手続

前記(1)記載のとおり、社会福祉施設等の整備に当たっては、国及び都道府県が補助(負担)を行うこととなっていることから、大阪府においては、社会福祉法人から社会福祉施設である障害者施設整備の申し出があった場合、下記の手順で手続を進める。

  • ア 社会福祉法人からの申し出を受けて、府は、資金及び用地の確保、地元市町村との調整、地元説明の状況等について確認しながら、国、府、市町村の障害者計画、施設種別、地域のニーズ、地域バランス等を勘案して法人を指導し、法人はそれを受けて当該施設の運営内容、施設配置や設備の概要等整備計画を固めていく。
  • イ 毎年9月頃、府は、障害者施設整備予定法人に対し、府の次年度の予算措置及び国補助金申請の事前手続である国庫補助協議に向けての事前協議のため、施設整備計画の概要を明らかにする書面及びこれらの根拠・詳細等を明らかにする関係書面等の作成・提出を求める。事前協議において、施設整備基準への適合性、資金計画等その内容について精査・確認した上で、府は、国庫補助協議を行う施設を決定する。
  • ウ 府との事前協議終了後、法人は国庫補助協議書及び関係書面を府に提出し、府は、当該国庫補助協議書等に当該施設の整備が必要である旨を証する書面等必要書類を作成・添付して、厚生省に対して翌年度分の施設整備に関する国庫補助協議を行う(毎年1月から2月頃)。
    なお、新たに社会福祉法人を設立して社会福祉施設を整備しようとする場合は、国庫補助協議に先立ち、府の社会福祉法人設立認可等審査会の審査を経ておくこととされているので、施設整備の検討とは並行して当該法人の設立認可について、審査が進められる。法人認可の具体的手続は、国庫補助協議を受けて、後記オ記載の補助金の内示(国庫内示)があった後に行われる。
  • エ 府の協議する施設整備案件について、厚生省は、施設整備の妥当性、整備基準との適合性等について審査を行い、必要と認めたものについて翌年度の予算措置を行う。
  • オ 翌年度5月から6月頃に、整備が必要と認められた施設について、府に補助金交付の内示があり、これを受けて府から法人に内示を行う。
  • カ 内示後、法人は事業に着手するとともに、府に対して補助金の交付を申請し、府は審査の上、交付決定を行う。また、府は国に対し、補助金の交付申請を行う。
  • キ 補助事業完了後、府は法人からの報告を受けて、金額を確定した上補助金を交付する(事業が2年度にわたる場合は、初年度は当該年度分について年度末に交付する。)。
(3)本件行政文書について

本件行政文書は、府が、厚生省と障害者施設整備に係る国庫補助協議を行うために障害者施設整備予定法人である「A」に提出させた書面、及び府が作成・添付した書面であり、下記のとおり構成されている。これら協議のための書面の種類、様式、部数等は、概ね厚生省の「社会福祉施設等整備計画協議要綱」(以下、「協議要綱」という。)において定められている。

[以下各文書の内容は記載略(別表2参照)]

  • ア 障害者施設整備協議提出書類一覧表
  • イ 障害者施設整備計画協議書
  • ウ 事業計画書
  • エ 平成12年度スプリンクラー設備整備計画協議総括表及び平成12年度スプリンクラー設備整備計画協議書
  • オ 社会福祉法人調書
  • カ 法人審査結果報告書
  • キ 新設法人調べ
  • ク 施設の配置図・平面図
  • ケ 事業工程表
  • コ 工事費概算見積書・設備費見積書
  • サ 各室面積表
  • シ 社会福祉・医療事業団に対する償還計画等調
  • ス 贈与契約書
  • セ 社会福祉法人「A」定款
  • ソ 社会福祉法人「A」設立発起人会議事録
  • タ 地元対応経緯
  • チ 誓約書
  • ツ 施設建設予定地の土地登記簿謄本
  • テ 河内長野市の意見書
(4)条例第8条第1号に該当することについて

本号は、府が許認可、補助、調査等の事務事業を通じて事業を営む者から収集した情報は原則として公開されるが、事業を営む者の適正な活動は社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができることをその趣旨とする。

したがって、公開請求の対象である情報が本号に該当するか否かについては、当該情報の内容だけでなく、事業を営む者の性格、事業活動における当該情報の位置付け等を勘案することに加え、客観的に明白なものを除き、当該事業を営む者から意見を聴取するなどにより、公開した場合において侵害される利益の有無、程度等について客観的に判断する必要がある。

ア 本件処分2において本号に該当する情報として非公開としたものは、下記のとおりである。
  • a 法人の贈与金額
  • b 法人の確定申告書
  • c 法人の残高証明書
  • d 団体の代表者の印影

本件行政文書は、補助金交付に向けての協議の過程において、「A」から提出された書面等であることから、上記非公開部分は条例第8条第1号の「法人等に関する情報」に該当することは明らかである。そして、これらの書面は、補助金交付申請の正式な手続のために提出された書類ではないのであるから、当然にそのすべての情報が公開されるべきものとはいえず、個々の情報についてその公開の妥当性を検討、判断すべきものである。

そこで、上記非公開部分のうち、d 団体の代表者の印影は、本件異議申立ての対象から除外されているので、これを除く部分について、以下本号に該当する理由を述べることとする。

イ 法人の贈与金額について

[第1号事案と同趣旨のため記載略]

ウ 法人の確定申告書について

社会福祉法人は、その公共性・公益性から原則として市中金融機関から借入れを行うことはできないこととされており、事業団が、社会福祉施設建設等に要する経費について融資制度を設けている。

本件確定申告書は、前記(3)シ記載のとおり、「A」の事業団借入金返済に(有)Iからの贈与金が充てられる予定であったため、同社の贈与契約履行の確実性を証するための添付書類として提出されたものであるから、その性格からすれば、公表を前提として提出されたものではないことは明らかである。

また、本件書面には所得金額(欠損金額)、翌期への繰越金、法人税額等が記載されており、確かにこれらの情報は、異議申立人主張のとおり、直接生産技術上又は営業上のノウハウに当たるものではないが、本件書面が公開されると具体的に同社の所得(欠損)金額等の財務・経理内容の詳細が明らかになるものであり、条例第8条第1号の、当該法人の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報」に該当する。

さらに、同社のような有限会社については、法令等によりこれらの情報の開示義務が定められているものではなく、本件書面に記載された情報は、平成10年11月1日から同11年10月31日の期間の収支に基づくもので、同社の経理状況について限られた期間の一部の情報のみが記載されており、記載された情報についての根拠を説明する添付書類等も省略されているのであるから、本件書面のみを公開することにより、却って同社の経理状況について不正確な情報を流布し、誤った認識を抱かせる可能性も否定できない。

なお、本件決定に先立ち実施機関は、本件書面の提出者である「A」に対し第三者に対する意見照会を行ったが、これについての同会の意見書においても「法人の経営等に支障を来たすと思われる部分についても配慮」を求める意見書が提出されている。

以上により、実施機関は、本件確定申告書記載の情報は条例第8条第1号に該当するものであると判断し、本件確定申告書を非公開とする本件処分2を行ったものである。

エ 法人の残高証明書について

本件書面は、金融機関が発行したGほか5社の残高証明書であり、それぞれ平成12年1月下旬現在の当該6社の取引金融機関名、預金残高及び預金の種類が具体的に記載されている。「A」が建築自己資金の一部にGほか5社からの贈与金を充てることとしており、府が、これら贈与契約履行の確実性を証する書面を求めたことからこれら残高証明書が提出されたものである。

本件書面を公開することによりGほか5社の取引金融機関名、当該時期の当該金融機関におけるGほか5社名義預金の種類、預金残高が具体的に明らかになるが、これらは当該法人の詳細かつ具体にわたる財政状況や経営状況に関わる情報であり、どの金融機関にどれだけの資産を預け入れるかということは、これら法人のいわゆる内部管理事項として各法人はそれぞれみだりに他に開示、公表されない利益を有しているというべきである。

また、本件書面記載の金額は、当該書面発行時の当該金融機関における預金残高にすぎず、これらを公開することは、却って6社の経理状況について不正確な情報を流布し、誤った認識を抱かせる可能性も否定できない。

さらに、本件情報は、法令等により開示を義務付けられたものではなく、Gほか5社は公表を前提として本件書面を提出したものでもない。本件処分2に先立ち実施機関は、本件書面の提出者である「A」に対し第三者に対する意見照会を行ったが、これについての同会の意見書においても「法人の経営等に支障を来たすと思われる部分についても配慮」を求める意見書が提出されている。

以上により、実施機関は、本件書面記載の情報は条例第8条第1号に該当するものであると判断し、本件残高証明書を非公開とする本件処分2を行ったものである。

(5)条例第9条第1号に該当することについて

個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならないものである。特に、プライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすこととなるから、条例はその前文において「個人のプライバシーの最大限の保護」を明記するとともに、条例第5条においても「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。

これらの趣旨を受けて、本号は「個人の思想、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則を明確に定めている。

本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、「正当と認められるもの」かどうかについては、客観的に明白である場合を除き、当該個人から意見を聴取するなどにより、条例第5条の趣旨に十分配慮し、プライバシーを侵害することのないよう慎重な取扱いと客観的な判断を行うことが求められている。

ア 本件処分2において、本号に該当する情報として非公開としたものは、下記のとおりである。
  • a 社会福祉法人調書のうち役員の年齢、住所(法人の代表者を除く。)、職歴、兼務法人名
  • b 設備見積書のうち担当者の氏名
  • c 履歴書
  • d 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別される部分
  • e 個人の印影

このうちa 社会福祉法人調書のうち役員の年齢、住所(法人の代表者を除く。)、職歴、兼務法人名、b 設備見積書のうち担当者の氏名、c 履歴書(「A」の代表者に係るものを除く。)、及びe 個人の印影は、本件申立てから除外されているので、これを除く部分について、以下本号に該当する理由を述べることとする。

イ「A」代表者の履歴書について

本件履歴書には、「A」代表者の氏名、生年月日、年齢、電話番号、学歴及び職歴等が、個々具体的に記載されている。そもそも履歴書は、特定の個人のプライバシーに関する情報が当該個人の履歴として集約して記載されているものであり、条例第9条第1号の趣旨からすると、履歴書そのものの取扱いについては最大限の配慮が必要である。

本件履歴書記載事項のうち、まず生年月日及び年齢については、「A」の代表者の氏名が既に公開されているのであるから、これを公表することにより、同人の年齢が具体的に明らかになる情報であり、条例第9条第1号の個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であり、本号に該当する。

電話番号及び学歴についても同様に、同人の氏名が公開されているのであるから、これを公表することにより、同人の自宅の電話番号及び最終学歴が具体的に明らかになることとなり、上記と同様、本号に該当する。

同人の職歴については、法人の役員であることから、これらの個別の情報は法令の規定により何人でも閲覧できる情報ではあるが、履歴書においては、個別の情報ではなく、特定の個人の履歴として集約された情報が閲覧できることとなり、同人の職業に関する詳細な情報が明らかとなることから、これら職歴に関する情報についても、上記と同様、本号に該当する。

また、本件処分2に先立ち実施機関は、本件書面の提出者である「A」に対し第三者に対する意見照会を行ったが、これについてのAの意見書においても「個人のプライバシーに支障を来たすと思われる部分についても配慮」を求める意見書が提出されている。

さらに、社会福祉法人の設立認可については、別途並行して審査手続がなされることから、当該法人の役員の履歴書は、国庫補助協議の必要書類とはされておらず、本件履歴書は「A」が参考資料として添付してきたものにすぎず、また、同人が公開を前提として実施機関に提出したものではない。

以上により、実施機関は、本件履歴書記載の情報は、条例第9条第1号に該当すると判断し、本件履歴書を非公開とする本件処分2を行ったものである。

ウ 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別される部分について

地元対応経緯については、施設が開設後、地域社会の一員として円滑な運営を進めていくためには、地元に対する説明、理解を求める取組みが必要であるとの認識から、府は、「地元への説明・理解の状況」等を把握するために、これを記載する書面の提出を求めており、本件書面は、これに対し「A」が作成し、提出したものである。

本件書面には、平成11年10月18日から12月10日までの間に、「A」が4回にわたり地元の主だったメンバーと協議し、同年12月23日にD地区自治会役員に対する説明会を開催するに至った経過が記載されており、「A」が接触した地元住民の氏名が記載されている。本件処分2においては、これらの「氏名が識別され得る部分」のうち、議員、自治会役員などの公職あるいはこれに準ずる役職にある者以外の氏名について非公開としたものである。

即ち、上記の氏名を非公開とした住民らは、すべて地元地域の住民であることからすれば、これらが公開されると、それによって容易に個人を特定することができるのであるから、これら氏名は、条例第9条第1号に定める個人に関する情報であって、「特定の個人が識別され得るもの」に該当する。

ところで、上記「A」と地元住民の協議の場は、地元住民全体、あるいは代表者を対象として行われた正式の説明会ではなく、「A」が説明会を開くに先立って、地元住民の考え方を知るために行ったものと考えられ、地元への正式な説明の場として持たれたものではないにもかかわらず、現在、D地区住民と「A」との間に、これらの手続等を巡って見解の相違があることを考えると、これらの人々がその氏名を公にしたくないと望むことは当然であると考えられる。

このことは、本件処分2に先立ち実施機関が本件書面の作成者である「A」に対し行った第三者に対する意見照会についてのAの意見書においても、個人の氏名が明らかになると「新たな物議が発生する恐れがあり、当事者においても迷惑をかける恐れが予測される」と述べられていることからも、十分予測されるものである。

以上により、実施機関は、本件「氏名が識別され得る部分」の情報は、条例第9条第1号に定める「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当するものであると判断し、本件情報を非公開とする本件処分2を行ったものである。

(6)異議申立人の主張について
ア 法人の贈与金額、法人の確定申告書及び法人の残高証明書について

異議申立人は、条例第8条第1号の「公にすることにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、「生産上のノウハウ、技術上のノウハウ、販売上のノウハウなどで公開されることによりその者の事業活動が損なわれると認められる場合をいうと解するべきである」と主張し、これらの書面が公開されたとしても、これによって「A」がその事業活動を損なわれるものとは到底認められず、その他に公開によって害される正当な利益が存するとも認められない、と主張する。

確かに異議申立人主張のとおり、贈与金額等本件処分2が非公開とした情報は、「生産上のノウハウ」等には当たらないが、前記(4)記載のとおり「取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害するもの」で、条例第8条第1号に該当するものである。

また、実施機関は、これらの書面に記載された情報が、「A」ではなくGほか5社に関する情報であり、公にすることにより、Gほか5社の競争上の地位その他正当な利益を害するものであることから、条例第8条第1号に該当すると判断したからである。

さらに、異議申立人は、仮に異議申立人が公開を求める情報が条例第8条第1号に該当するとしても、設立に際し府の認可を受ける社会福祉法人に対しその整備資金、設立資金等として、誰からいくら贈与がなされているかという情報、及び確定申告書、残高証明書から知り得る法人の収支、財務状況に関する情報は、大阪府の認可が適正であったといえるかどうかを判断するに際し必要な情報であり、その開示は「公益上必要があると認め」られるのであって、条例第11条第1項に該当すると主張する。

本項の「公益上必要があると認めるとき」とは、条例第8条各号に定める個々の適用除外規定によって保護される利益と公益上の必要性とを個別具体的に比較衡量し、公益上特に必要があると認められる場合をいうものである。

確かに、社会福祉法人は設立時に行政の認可を必要とする公益性の高い法人であり、設立後においても行政による一定の監督下に置かれるものではあるが、Gほか5社は社会福祉法人ではなく営利法人であり、本件処分2において非公開とした法人の贈与金額、法人の確定申告書及び法人の残高証明書は、いずれも条例第8条第1号に該当する情報を記載した書面であることは、前記(4)イないしエ記載のとおりであるから、本項の運用に当たっては、同号の保護法益を不当に侵害しないよう十分に留意しなければならないものである。

これを踏まえて、異議申立人が公開を求める各情報をみると、先ずGほか5社は、法的な義務に基づくものではなく、「A」の資金計画を支援し、協力する意図の下に自主的に行われたものである。さらに、「A」が整備する「B」の整備資金等の確保については、既に公開した情報により贈与者は明らかとなっており、贈与金額の合計額も公開されているのである。

また、本件残高証明書については、上記贈与履行の確実性を確認するための添付書類であるから、資金確保についての府の判断の妥当性を検討するためには、上記の既に公開された情報をもって足りるというべきであり、さらに条例第8条第1号に該当するGほか5社の個別の贈与金額、預金残高まで公開する公益上の必要性は認められない。

次に確定申告書については、事業団からの借入金の総額及びその返済計画も公開されており、また、借入れに関する事業団への申請手続は、施設整備手続と別途並行して行われ、当該手続において返済の確実性を証する書面が求められることとなるのであるから、府の判断の妥当性を検討するためには上記の公開情報をもって足りるというべきであり、さらに条例第8条第1号に該当する(有)Iの確定申告書まで公開する公益上の必要性は認められない。

イ 法人の代表者に係る履歴書及び地元対応経緯について

異議申立人は、設立に際し府の認可を受ける社会福祉法人の代表者の履歴書記載の情報は、法人の役員となるべきものの適格性、ひいては府による設立の認可の適正を知る上で不可欠な情報である、また、地元対応経緯のうちの個人名についても、地元対応として、誰を相手にいかなる協議がなされたかは、設立の認可の適正を知る上で不可欠な情報であるから、これらの情報の開示は「公益上特に必要があると認め」られ、条例第11条第2項に該当すると主張する。

本項の「公益上特に必要があると認めるとき」とは、条例第9条各号に定める個々の適用除外規定によって保護される利益と公益上の必要性とを個別具体的に比較衡量し、公益上特に必要があると認められる場合をいうものであり、実施機関が公開することの公益性を判断するに当たっては、とりわけ個人のプライバシーに関する情報は一旦公開されると当該個人に回復困難な損害を及ぼすことを十分配慮し、個人の権利利益を不当に侵害することのないよう、特に慎重に取り扱う責務が課されているものである。

これを踏まえて、異議申立人が公開を求める各情報をみると、先ず、「A」代表者の履歴書については、これを公開しなくとも、前記(3)オの社会福祉法人調書において代表者についての情報の公開し得る部分が記載されており、同ソの第1回社会福祉法人「A」設立発起人会議事録にも代表者選出の経緯が記載されているのであるから、これらの公開情報をもって十分府の判断の適否について検討が可能であるというべきであるから、本件情報について条例第9条第1号による保護法益を上回る公益上の必要性があるとは認められない。

なお、社会福祉法人の設立認可については、前記(2)ウ記載のとおり、別途法令に基づく正規の申請が行われるものである。

次に、地元対応経緯については、本件書面記載の地元住民は、前記(5)ウ記載のとおり、「A」が説明会前に個別に接触した相手に過ぎず、それぞれの場で具体的な施設建設に当たっての取決めを行ったものでもないのであるから、ここから特定される個人の氏名を公開することが府の判断の適否を検討するために、「公益上特に必要がある」ものとは考えられず、前記のとおり、却って現在D地区住民と「A」との間に、これらの手続等を巡って見解の相違があることを考えると、これらの住民がその「氏名」の公開を望まないことは当然であると考えられるのであるから、本件情報について条例第9条第1号による保護法益を上回る公益上の必要性があるとは認められない。

(7)結論

以上のとおり、本件処分2は条例の趣旨を十分踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 社会福祉法人の認可及び社会福祉施設の整備等について

(1)社会福祉法人について

社会福祉法人とは、社会福祉法(以下「法」という。)において「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律に定めるところにより設立された法人」(法第22条)と定義された法人であって、社会福祉法人を設立しようとする者は、法第31条第1項に基づき、定款をもって少なくとも同項に掲げる事項を定め、厚生労働省令に定める手続に従い、当該定款について所轄庁(原則として都道府県知事)の認可を受けなければならないこととされている。

そして、ここにいう社会福祉事業とは、法第2条においてその定義がなされ、知的障害者福祉法に規定する知的障害者更生施設を経営する事業をはじめとする第一種社会福祉事業及び知的障害者デイサービス事業を経営する事業をはじめとする第二種社会福祉事業の2種類に大別されており、第一種社会福祉事業については、その公共性の高さから、「国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする」(法第60条)とされている。つまり、国、地方公共団体以外のものが第一種社会福祉事業、例えば知的障害者福祉法に規定する知的障害者更生施設を整備し、その経営を行おうとする場合は、社会福祉法人であるか、あるいは法に基づき、社会福祉法人の定款について都道府県知事の認可を受け、社会福祉法人を設立しなければならないのである。

(2)社会福祉法人の認可手続について

社会福祉法人の認可手続等については、法及び社会福祉法施行規則等に定められており、社会福祉法人を設立しようとするものは、法第31条に基づき、所轄庁に法人の定款について認可の申請を行う。申請を受けた所轄庁は、「当該申請に係る社会福祉法人の資産が第25条の要件に該当しているかどうか、その定款の内容及び設立の手続が、法令の規定に違反していないかどうか等を審査した上で、当該定款の認可を決定しなければならない」(法第32条)こととされ、当該認可を受けた後、「社会福祉法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する」(法第34条)こととされている。

一方、法人の認可手続の運用に当たっては、平成9年3月28日付け社援企第68号厚生省大臣官房障害保健福祉部長ほか3局長連名による通知文「社会福祉法人の認可等の適正化並びに社会福祉法人及び社会福祉施設に対する指導監督の徹底について」(以下「通知」という。)において次の内容が示されたことにより、大阪府においては、上記認可手続に至るまでに、「社会福祉法人設立認可等審査会要綱」によって設置され、関係課の職員及び学識経験者等で構成された「社会福祉法人設立認可等審査会」(以下「設立認可等審査会」という。)が、社会福祉法人の設立及び社会福祉施設の整備等について事前に審査を行うこととされている。

通知の内容

法人の審査に当たっては、施設整備を優先するあまり法人認可の審査が疎かになることはあってはならず、施設整備の必要性から離れて独自の判断による審査を行うよう留意されたいこと。このため、施設整備担当以外の関係課、部局を加えた庁内審査会を設置するなど、内部牽制機能を確保した合議制による審査体制により、的確な審査を行われたいこと。

なお、施設整備に係る国庫補助協議に当たっては、当該審査を経ていることを条件とするものであること。

(3)社会福祉施設の施設整備等に係る助成について

知的障害者更生施設を始めとする社会福祉施設の施設整備等については、施設利用者の福祉の向上を図るため厚生省が定めた「社会福祉施設等整備費及び社会福祉施設等設備整備費国庫負担(補助)金交付要綱」(平成3年11月25日付け厚生省社第409号厚生省事務次官通知)に基づき、当該施設整備等を行おうとする社会福祉法人等に対し、都道府県(政令指定都市・中核市)が当該整備に要する費用の4分の3を補助(負担)することとされており、この補助(負担)のうち3分の2については国が負担(国庫補助)することとされている。

そして、大阪府においては、社会福祉施設を整備しようとするものからその申出があった場合は、概ね次の手順で国庫補助金の交付等の手続を行うこととされている。

ア 事前協議書の提出

毎年9月頃、府は、知的障害者更生施設等の社会福祉施設を整備しようとしているもの(以下「整備予定者」という。)に対し、国庫補助金申請の事前手続として位置付けられている府と厚生労働省との国庫補助協議に向けて、府と整備予定者が事前協議を行うため、施設整備計画の概要を明らかにする書面及びこれらの根拠や詳細等を明らかにする関係書面の作成及び提出を求める。

イ 府と整備予定者の事前協議

アで提出された書面をもとに、府と整備予定者が事前協議を行い、府は、施設整備基準への適合性、資金計画等書面に記載された内容について精査・確認した上で、国庫補助協議を行う施設を決定する。

ウ 社会福祉法人設立認可等審査会の事前審査

新たに社会福祉法人を設立して社会福祉施設を整備しようとする場合においては、上記(2)に述べたとおり、次のエに述べる国庫補助協議に先立ち、「設立認可等審査会」において、施設整備の検討と並行して当該法人の設立について審査手続が進められる。

エ 国庫補助協議書の提出及び国庫補助協議の実施

整備予定者は、府との事前協議終了後、府と厚生労働省が国庫補助協議を行う際に必要な書面を府に提出する。府は、整備予定者から提出された書面にその意見等を加筆し、当該施設の整備が必要である旨を証する書面等国庫補助協議に必要な書面を作成、添付した上で、これらの書面を「国庫補助協議書」として厚生労働省に提出し、これらの書面に基づき、同省に対して次年度分の施設整備に関する国庫補助協議を行う。

なお、法第31条等に基づく社会福祉法人の定款に係る認可手続は、この国庫補助協議が終了し、次のオに述べる国庫補助金の内示があった後に行うものとされている。

オ 国庫補助金交付の内示

厚生労働省は、国庫補助協議を行った後、当該社会福祉施設整備の妥当性、整備基準との適合性等について審査を行い、必要と認めたものについて次年度の予算措置を行い、次年度の5月から6月頃に、整備が必要と認められた社会福祉施設について、府に対し、補助金交付の内示を行う。府は、この内示を受けて整備予定者に対し補助金交付の内示を行うこととなる。

カ 補助金の申請

国庫補助金の内示がなされた後、整備予定者は社会福祉施設の整備に着手するとともに、府に対して補助金の交付を申請する。府は、当該補助金申請を審査した上、補助金の交付決定を行い、国に対し、国庫補助金の交付申請を行う。

キ 補助金の交付

府は、補助事業が完了した後、整備予定者からの報告を受けて、国庫補助金の金額を確定した上で、整備予定者に補助金を交付する。

3 本件行政文書1及び本件行政文書2について

  • (1)本件行政文書1は、府内に知的障害者福祉法に規定する知的障害者更生施設を整備し、これを経営する事業を行おうとする「A」(以下「本件団体」という。)が、当該事業が法に定める第一種社会福祉事業に該当し、本件団体が社会福祉法人を設立する必要があることから、実施機関が、本件団体に係る社会福祉法人の設立認可に係る手続として、上記2(2)の設立認可等審査会において事前審査を行うため、本件団体に作成、提出を求め、設立認可等審査会に提出した文書等である。その分類及びそれぞれの文書に記載されている主な情報等は、別表1のとおりである。
  • (2)また、本件行政文書2は、本件団体が行おうとしている知的障害者更生施設の施設整備等に要する費用に係る国庫補助金の交付手続の一環として、府と厚生労働省が上記2(3)エの国庫補助協議を行うために、実施機関が本件団体に作成、提出を求め、実施機関がその意見等を加筆し、当該施設の整備が必要である旨を証する書面等国庫補助協議に必要な書面を作成、添付した「国庫補助協議書」であって、その分類及びそれぞれの文書に記載されている主な情報等は、別表2のとおりである。
  • (3)本件団体に係る認可等の状況について
    当審査会において確認したところ、現時点においては、本件団体から法第31条に基づく社会福祉法人の定款に係る申請は行われておらず、本件団体が社会福祉法人として設立された事実は見当たらない。

4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由

本件処分1及び本件処分2(以下「本件処分」という。)において非公開とした部分のうち、本件異議申立ての対象となるのは、次のa からe に記載された部分(以下「本件非公開部分」という。)である。

  • a 法人の寄附(贈与)金額(以下「本件寄附金額」という。)
  • b 法人の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)
  • c 法人の残高証明書(以下「本件残高証明書」という。)
  • d 本件団体の代表者の履歴書(以下「本件履歴書」という。)
  • e 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分

実施機関は、本件非公開部分に記録された情報が条例第8条第1号及び条例第9条第1号に該当すると主張するので、以下第8条第1号、第9条第1号の順に検討する。

(1)条例第8条第1号について
  • ア 事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが同号の趣旨である。
    したがって、公にすることにより法人等事業を営む者(以下「事業者」という。)の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報は、同号に該当し、公開しないことができるのであって、事業者から直接収集し、あるいは提供された情報に限定されるものではない。
  • イ 本件非公開部分のうち条例第8条第1号に該当するとして非公開とした部分は、上記a 本件寄附金額、b 本件確定申告書、c 本件残高証明書であり、府内に知的障害者更生施設を整備し、その経営を行おうとしている本件団体について、実施機関が、a 社会福祉法人の認可、b 当該知的障害者更生施設の施設整備等に要する費用に係る国庫補助金の交付に関する手続の一環として、本件団体に提出を求め、本件団体から提出された文書に記載されたものであって、本件団体が社会福祉法人の認可を受けた場合において、有限会社5社及び株式会社1社の計6法人が当該社会福祉法人に対しその運転資金及び知的障害者更生施設の施設整備等の資金として贈与を行う予定の金額あるいはこれらの法人に関する財務状況、預金状況に関するものであることから、条例第8条第1号に規定する「法人等に関する情報」に該当すると認められる。
    そこで、これらの部分を公にすることによって、法人等の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」かどうかについて検討する。
  • ウ ところで、条例第8条第1号の法人等に関する情報であって、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理を侵害すると認められるものに加え、「その他正当な利益を害すると認められるもの」、すなわち、公にすることにより、事業を営む者に対する名誉侵害、社会的評価の低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものも含むものである。
    社会福祉法人は、社会福祉事業の実施主体であることから、これが社会において果たすべき役割は重要であり、その公益性は極めて高いものである。そして、法が「社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない」(第24条)と定め、認可を受けた社会福祉法人に対し事業経営の透明性の確保を法律上要請していることからしても、社会福祉法人に関する情報は、できる限り積極的に公開していくことが求められている。
    一方、本件処分において非公開とした上記a 本件寄附金額は、本件団体が社会福祉法人の認可を受けた場合において、有限会社及び株式会社計6法人が本件団体に対し贈与を行う予定の金額であることから、将来社会福祉法人の認可を受けることが予定されている本件団体に関する情報であると同時に、本件団体に対し贈与を行う予定である6法人に関する情報でもある。また、本件処分において非公開とした上記b 本件確定申告書及びc 本件残高証明書は、本件団体が社会福祉法人の認可を受けた場合において、本件団体に対し贈与を行う予定の有限会社及び株式会社の確定申告書及び残高証明書であることから、これらの法人に関する情報そのものである。
    したがって、本件非公開部分の公開・非公開の判断を行うに当たっては、社会福祉法人の意義や本件寄付金額等の性格とともに、これら6法人の性格及びその事業活動における本件非公開部分の位置付け及び先に述べた本件団体の認可に関する状況等を総合的に考慮し、本号に該当するかどうかを個別具体的に検討する必要がある。
  • エ 次に、こうした見地から、本件非公開部分について検討する。
    • (ア)本件寄附金額について
      本件寄付金額は、本件団体が社会福祉法人の認可を受けた場合において、6法人が本件団体に対し贈与を行う予定の金額であり、贈与を行う予定の法人は、有限会社5法人及び株式会社1法人の計6法人であって、全て営利を目的とする法人である。本件行政文書1及び本件行政文書2(以下「本件行政文書」という。)に記載された本件寄附金額は、これら6法人が、それぞれ各法人内部の意思決定機関において、本件団体が社会福祉法人としての認可を受け、知的障害者更生施設を整備するに当たり、その運転資金又は施設整備等の資金として贈与を行うこと及びその具体的な金額を決定したことを明らかにするものである。そして、本件寄附金額、すなわち、これら6法人がいくら贈与を行う予定であるかについての具体的な金額は、これらの法人にとっては、その経営に関する情報であって、今後の事業計画や財産の処分に関する具体的かつ詳細な情報そのものであり、同時に、各法人の団体としての自治に関する情報であるともいえる。
      また、これらの法人が贈与を行う予定の寄付金額については、有限会社及び株式会社の設立根拠法である有限会社法及び商法において、広く公にすることが義務づけられているものではない。
      なお、実施機関が本件各処分を行うに当たり、本件団体に対し、条例第17条第1項の規定に基づき、その意見を書面により提出する機会を与えたところ、本件行政文書の公開について反対の意思有りと表示した上で、「法人の経営等に支障をきたすと思われる部分についても配慮」を求める意見書が提出されているところである。
      さらに、当審査会において確認したところ、本件非公開部分には、これらの法人6社が本件団体に対し贈与を予定している寄付金額が、法人ごとに、それぞれ個別具体的に記載されていることが認められた。
      以上のとおり、本件寄附金額は、これら6法人が今後その財産の一部を本件団体に対しその運転資金や施設整備等の資金として贈与することと決定した個別具体的かつ詳細な金額であり、これらの法人の経営そのものに関する情報であるとともに、各法人にとっては団体としての自治に関わる各法人内部の情報であって、法令上公にすることを求められているものではない。そして、法令上公にされることが予定されていない営利法人の経営や団体自治に関する詳細な内部情報については、これを公にされないという当該法人の利益の存在を全く否定することができないことは言うまでもない。(また、現在、本件団体が未だ社会福祉法人としての認可を受けた段階には至っていないことは先に述べたとおりである。)
      以上を総合すると、本件寄附金額は、各6法人の経営及び団体自治に関する詳細かつ具体的な法人内部の情報であり、たとえ社会福祉法人の設立に関する情報であることを考慮したとしても、本件行政文書の提出者の意思に反し、これらの個別具体的な寄附金額を公にすることは、これら6法人の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当する。
    • (イ)本件確定申告書について
      本件確定申告書は、本件団体が知的障害者更生施設の施設整備に当たり、その費用の一部を社会福祉・医療事業団から借入れることについて、有限会社1社からの贈与金をその償還財源の一部に充てることとされていたことから、償還財源の確認書類の一つとして本件団体から実施機関に提出されたものであって、当該有限会社の平成10年11月1日から平成11年10月31日までの事業年度分の法人税の確定申告書の写しである。
      当審査会において確認したところ、本件確定申告書には、法人の名称とともに、「所得金額又は欠損金額」、「法人税額計」、「控除税額の計算」など法人税に係る所定の確定申告書の各欄に個別具体的な金額が記載されていることが認められる。
      本件確定申告書に記載された情報は、営利法人である当該有限会社の経営に関する情報であって、その財務状況そのものを詳細に表す情報であり、法人内部の情報であって、そもそも公にすることが予定されている情報でないことは言うまでもない。そして、本件確定申告書は、一般に公にすることにより、当該法人の当該年度の経営状況や財務状況の詳細が他の競争相手等に容易に推測され、ひいては、当該法人の事業活動に何らかの不利益を及ぼすことを否定することはできない。
      したがって、本件確定申告書は、当該有限会社の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当する。
    • (ウ)本件残高証明書について
      本件残高証明書は、本件団体が社会福祉法人の認可を受けた場合において、有限会社5社及び株式会社1社の計6法人が本件団体に対し、これが知的障害者更生施設の施設整備を行うに当たりその資金として贈与する予定であることから、資金の贈与の確実性を証する書面として本件団体が実施機関に提出したものであって、各法人の金融機関における残高について当該金融機関が各法人ごとに発行した証明書である。
      当審査会において確認したところ、本件残高証明書には、先に述べた有限会社及び株式会社の名称とともに、特定の日における金融機関の名称、預金の種類、残高の金額が個別具体的に記載されていることが認められる。
      本件残高証明書に記載された情報は、営利法人であるこれら6法人の取引先や資産状況そのものを具体的に表す情報であり、法人内部の情報であって、先の確定申告書と同様に、そもそも公にすることが予定されている情報でないことは言うまでもない。そして、本件残高証明書は、一般に公にすることにより、これら6法人の取引先、預金の種類とともに、これらの法人が特定の金融機関に対し預金している具体的な金額が他の競争相手等に容易に推測され、ひいては、これらの法人の事業活動に何らかの不利益を及ぼすことを否定することはできない。
      したがって、本件残高証明書は、これら6法人の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当する。
  • オ なお、異議申立て人は、条例第8条第1号の解釈について、「競争上の地位を害すると認められる」とは、生産上のノウハウ、技術上のノウハウ、販売上のノウハウなどで公開されることによりその者の事業活動が損なわれると認められる場合をいうと解するべきであると主張するが、同号の解釈がそのように限定的に解されるものではなく、公にされることにより、法人等の社会的評価の低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものも含むものであることは、既に述べたとおりである。また、異議申立人は、府が保有する情報をどの範囲で明らかにするかは当該法人の選択に委ねるべき性質のものでないこと、本件寄附金額を公にすることにより、本件団体の事業活動が損なわれるものとは認められず、当該営利法人の競争上の地位が損なわれることが客観的に明白な場合に当たらないこと、商法や有限会社法等の法令上の開示義務の有無などは府が保有する情報の公開の可否を判断する根拠とはなり得ないことなどを主張しているが、本件非公開部分を判断するに当たっては、これらが本件団体に贈与を行う予定の法人に関する情報でもあることから、社会福祉法人の意義や同法人における本件非公開部分の性格及び贈与を行う予定の法人の性格及びその事業活動における本件非公開部分の位置付けなどを総合的に考慮し、個別具体的に行うべきことは、既に述べたとおりであり、異議申立人の主張は認めることはできない。
    さらに、異議申立人は、仮に本件非公開部分が条例第8条第1号に該当するとしても、設立に際し府の認可を受ける社会福祉法人に対し、その整備資金又は運転資金として誰からいくら寄附がなされているかという情報などの本件非公開部分は、認可が適正であったと言えるかどうかを判断するに際し、重要な事実であり、その開示は、「公益上特に必要がある」と認められるのであって、条例第11条第1項に該当し、公開すべきであると主張する。
    しかしながら、当審査会において審査したところ、本件非公開部分が本件団体に係る社会福祉法人の認可手続に関する情報であることを考慮しても、本件非公開部分について、条例第11条第1項の「公益上特に必要があると認められ」、公開すべき情報に該当する特段の事情、必要性が現に存すると認めることはできないと言わざるを得ず、異議申立人の主張は認めることはできない。
(2)条例第9条第1号について
  • ア 条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限に配慮をしなければならない旨規定している。
    このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
    同号は、
    • a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
    • b 特定の個人が識別され得るもののうち、
    • c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
    情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
  • イ 本件非公開部分のうち、条例第9条第1号に該当するとして非公開とされたのは、4の冒頭で述べたd 本件団体の代表者の履歴書及びe 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分であるが、d 本件履歴書は、本件団体の代表者で、本件団体が社会福祉法人として設立された場合にはその理事長に就任する予定の個人に関する履歴書であり、e 地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分は、地元対応経緯と題された書面に記載された個人が本件団体が行ったとされる行為の相手方となったことを明らかとする情報であることから、これらは、いずれも条例第9条第1号の「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」であることが認められる。
    次に、これらの情報について、「特定の個人が識別され得るもの」であり、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当するかどうか検討する。
    • (ア)本件履歴書について
      まず、本件履歴書について検討する。
      本件履歴書は、本件団体の代表者であり、本件団体が社会福祉法人として設立された場合にその理事長に就任することが予定されている者に関する履歴書であって、当該理事長就任予定者について、その氏名とともに、生年月日、年齢、性別、住所、電話番号、学歴(卒業年月及び卒業学校名)及び他の法人への就任状況等が具体的に記載され、当該個人の印影が押印されている。
      そして、当審査会において確認したところ、本件履歴書に記載された情報のうち、氏名及び住所並びに他の法人への就任状況については、その内容が有限会社の代表取締役であることから、商業登記簿等に記載されるなどにより既に公にされている情報であることが認められる。
      一方、本件履歴書に記載されたその他の情報のうち、当該理事長就任予定者の生年月日、年齢、性別、電話番号及び学歴については、既に当該理事長就任予定者の氏名が公にされていることから、「特定の個人が識別され得る」情報であり、公開することにより、当該理事長就任予定者の生年月日、年齢、性別、電話番号及び学歴が具体的に明らかになる情報である。
      本件履歴書は、本件団体が社会福祉法人として設立された場合に理事長に就任することが予定されている個人に関し作成されたものであるが、社会福祉法人が社会において重要な役割を果たすものであって、その理事長についてもその担う職務及び職責が重要なものであることは言うまでもない。しかしながら、当該理事長就任予定者の生年月日や年齢、性別、電話番号及び学歴については、その職務と密接に関連しているものでもなく、その職務を遂行していく上でも公にされることが予定されている情報でもないことは明らかである。そして、これらの情報は、あくまでも当該理事長予定者個人に専属する固有の情報であって、その職務や公的性格を考慮したとしても、これらの情報を公にすることが求められているとまでは考えられない。
      また、当該理事長就任予定者の印影についても、その氏名を公にすることから、「特定の個人が識別され得る」情報であって、当該個人固有の情報であり、公開することにより、当該個人が何らかの不利益を被るおそれが生ずることを否定できないことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
      したがって、本件履歴書に記載された情報のうち、氏名、住所及び他の法人への就任状況の部分については、条例第9条第1号に該当するとは認められないが、その他の生年月日、年齢、性別、電話番号、学歴及び印影については、同号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
    • (イ)地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分について
      次に、地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分について検討する。
      本件地元対応経緯は、本件団体が行おうとしている知的障害者更生施設の施設整備等に要する費用に係る国庫補助金の交付手続の一環として、府が厚生労働省と事前協議を行うために、実施機関が同省に提出した国庫補助協議書の一部であって、実施機関が知的障害者更生施設の整備について地元の状況を把握するために本件団体に提出を求め、本件団体が作成し、実施機関に提出した書面である。
      当審査会において確認したところ、実施機関は、一般に、社会福祉施設の整備を計画しているものに対し、本件地元対応経緯に相当する文書の作成及び提出を求めるに当たっては、社会福祉施設の整備に係る地元への説明経過を時系列にまとめたものの提出を求めているにすぎず、このような文書について実施機関が統一的な様式を定めたり、説明等の相手方の具体的な氏名の記載を義務づけているものではなく、本件行政文書について提出を求めた際についても同様であることが認められた。
      当審査会において審査したところ、本件地元対応経緯には、本件団体が行ったとされる協議等の行為の内容が、時系列にその年月日、場所及び相手方の名前とともに具体的かつ詳細に記載されており、本件地元対応経緯における非公開部分は、本件団体が行ったとされる行為の相手方である個人の名前及びこれが識別され得る部分であって、当該個人にとっては、公にすることにより、本件地元対応経緯に記載された行為の相手方となったこと及びその行為の内容が広く明らかとされるものである。したがって、本件地元対応経緯における非公開部分は、条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもの」に該当すると認められる。なお、本件団体関係者及び自治会役員等の氏名については、本件処分において既に公開されている。
      また、本件地元対応経緯における非公開部分に記載された個人の名前は、その一部に「地元有力者」という形容がなされているものの、その全てについて地元との関係に関する説明等が明確に記載されているものではなく、当該個人がどのような立場において本件団体の行為の相手方となっているのかについて明確な情報は見当たらず、本件非公開部分は、あくまでも特定の「個人」に関する情報として理解するしかない。
      本件非公開部分に記載された情報は、先に述べたように、本件団体が行った行為の相手方として、本件団体が任意に記載した特定の個人の具体的な名前等である。そして、当該個人にとっては、本件団体がその計画している知的障害者更生施設の整備の地元説明等として行ったとされる行為の相手方となったことが明らかになる情報であり、広く公にされることが予定されている情報であるとはいえず、当該個人が広く公にされることを前提として当該行為の相手方となったと考えることもできない。
      以上を総合すると、地元対応経緯のうち個人名(団体役員等を除く。)が識別され得る部分は、本件団体が行ったとされる行為の相手方である特定の個人の具体的な名前及びこれが識別され得る情報であって、その記載が義務づけられているものではなく、あくまでも本件団体が任意に記載したものであり、当該個人にとっては、本件知的障害者更生施設の整備に関し本件団体が行った行為の相手方となったことやその内容について広く知られることを予測すべきであるとは言えないものであること、当該個人がどのような立場において本件団体の行為の相手方となったかどうかを判断する明確な情報が見当たらないことなどからすると、条例の基本原則である「個人のプライバシーの最大限保護」の考え方を踏まえれば、条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
  • ウ なお、異議申立人は、本件地元対応経緯における非公開部分について、公開する公益上の必要性は高いと主張するが、本件地元対応経緯における非公開部分が条例第9条第1号に該当することは先に述べたとおりであり、当審査会において審査したところ、異議申立人の地元の状況等に関する主張を考慮しても、この非公開部分について本号の保護法益を上回る公益上の必要性は見当たらないと言わざるを得ないことから、異議申立人の主張を認めることはできない。

5 結論

以上のとおりであるから、本件非公開部分のうち、本件団体の代表者の履歴書に記載された「氏名」、「住所」及び「他の法人への就任状況」の部分については、本件異議申立てには理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

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