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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第68号)
答申第68号 専修学校設置認可申請教職員名簿等部分公開決定事案(PDF:59KB)
専修学校設置認可申請教職員名簿等部分公開事案(答申日 平成13年11月12日)
1 対象行政文書
- A 学校設置認可申請書の添付資料のうち、教職員名簿及び就任承諾書(教員分)
2 実施機関の決定
(1)実施機関
大阪府知事(担当課 生活文化部私学課)
(2)決定内容
部分公開決定
ア 非公開部分
- 教職員名簿のうち、氏名、生年月日、現住所、最終学歴、免許取得年月日のうち月日、免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験(校長の氏名及び免許取得後の実務経験のうち公務員の履歴は除く。)
- 就任承諾書のうち、住所、氏名及び印影(校長の氏名は除く。)
イ 公開しない理由
- 条例第9条第1号に該当する。
本件非公開部分には、個人の学歴や住所など個人のプライバシーに関する情報が記載されており、これらの情報は、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
3 異議申立て
(1)申立ての趣旨
本件部分公開決定を取り消し、全部を公開するとの決定を求める。
(2)理由(要旨)
非公開とする理由がないことについて
本件専修学校が4月に開校すれば、全教員の氏名、住所等は開校後に作成、配布される本件専修学校の教員名簿に記載される。さらに、教員が、学会や論文等で医療現場での研究、経験を発表する際には、肩書きや勤務先学校名を付記するのが通常である。
さらに、教員名簿に記載されている教員のうち、理学療法士・作業療法士の資格を有する者の氏名は、勤務先学校名とともに、来年度の「全国理学療法士・作業療法士学校養成施設連絡協議会会員名簿」に記載される。この名簿は会員全員に配布されるものであるから、配布後は会員を通して容易に入手することができ、教員のうち理学療法士・作業療法士の資格を有する者の氏名を知ることができるようになる。
以上により、教員の氏名、住所は近いうちに一般に知ることが可能となる情報であるから、現段階で公開したところで教員らに格別不利益はない。よって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とはいえない。
免許取得年月日は個人識別が可能な情報とはいえず、生年月日は「一般に他人に知られたくないと望む」情報とはいえない。
最終学歴、免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験については、医療関係者が実務家として活動していく際には、自己の経験を他人に知らせなければならない場面も多いのであり、既に多数の人に知られている情報である。また、公開することで不利益も生じないのであるから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報には該当しない。
公開の必要性について
医療福祉関係の学校が増加しているのに対し、理学療法士、作業療法士として教員資格を有する者の絶対数は不足している。特に作業療法士の教員資格を有する者の数は圧倒的に不足している。このような現状の中で、実際には教員として勤務する意思も時間もない者が、学校設置許可を受けるために、教員名簿に自己の名前を載せることを了承する「名義貸し」が行われている疑いもある。
大阪府及び厚生労働省(厚生省)は、形式的な書面審査のみを行っているので、実質的には設立要件を満たさない学校にも設置許可が与えられる可能性があると考えられる。
本件専修学校においても、実際には教員として勤務することのできない者が教員として名簿に記載されている可能性があると思われる。
以上の実態を解明して、府政の公正な運営、大阪府の将来の医療水準の確保を図るためには、本件専修学校の教員名簿の全部を開示することが必要不可欠である。
4 大阪府情報公開審査会の答申
(1)審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、校長に就任する予定の者の「免許取得年月日の月日」及び「免許取得後の実務経験」の部分を公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
(2)理由(要旨)
- ア 教員、助手及び事務職員に就任する予定である者に関する情報について
- (ア)教職員名簿及び就任承諾書に記載された「氏名」及び「現住所」について
教職員名簿及び就任承諾書に記載された氏名については、直接特定の個人が識別され得る情報であり、現住所については、特定の個人が容易に識別され得る情報であることから、これらの情報は、公にすることにより、特定の個人が、本件専修学校設置後において、本件専修学校に教員、助手あるいは事務職員として就職する予定であることが明らかとなるものである。特に、本件行政文書に記載された個人においては、本件専修学校の設置認可が未だなされておらず、その開校予定時期が平成14年4月であることなどからすると、現在の勤務先やその関係者等に対し本件専修学校へ勤務する意思を有していることを知らせているとは、必ずしも考えにくいところであって、このことが明らかになることにより、本件専修学校への転職等において望まぬ干渉を受けるなど、何らかの不利益を被るおそれがあることを否定できない。
以上からすると、本項の情報は、「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」情報に該当すると認められるものである。 - (イ)教職員名簿に記載された「生年月日」「最終学歴」「免許取得年月日の月日」「免許取得後の実務経験」及び 「学校卒業後の実務経験」並びに就任承諾書に押印された個人の「印影」について
本件行政文書は、特定の個人が本件専修学校設置後、この学校に勤務する意思を有していることを明らかにするものであり、当該専修学校の認可や開設時期からすると、現時点においては、当該個人が現在の勤務先に対してその意思を明らかにしていない場合があることは容易に推測される。
これら各情報については、公にすることにより当該各情報のみによって直接特定の個人が識別され得るものとは言いがたいが、本件専修学校に教員等として就職を予定している個人の現在の勤務先やその関係者等においては、当該勤務先等が把握している当該個人の情報と結びつけることにより、本件行政文書に記載された特定の個人が誰であるかが識別でき、ひいては、誰が、本件専修学校に転職等を行う意思を有しているのかが明らかとなるものである。
そして、本件専修学校に今後転職や就職をする意思を有している個人にとっては、そのことが、現在の勤務先において明らかとなることにより、本件専修学校への転職等について望まぬ干渉を受けるなど、何らかの不利益を被るおそれがあることを否定できないものである。
以上からすると、本項の情報は、条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
- (ア)教職員名簿及び就任承諾書に記載された「氏名」及び「現住所」について
- イ 校長に就任する予定の者に関する情報について
本項の情報のうち、教職員名簿に記載された「生年月日」、「現住所」、及び「最終学歴」並びに就任承諾書に記載された「住所」及び「印影」については、本件専修学校に校長として就任する予定の者の氏名が既に公開されていることから、特定の個人が識別され得る情報であり、あくまでも当該校長就任予定者個人に専属する固有の情報であって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
しかしながら、「免許取得年月日の月日」については、当該校長就任予定者個人に専属する固有の情報ではあるものの、校長に就任する予定であるという側面やその公的性格を考慮すると、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とまでは認められないものである。
また、本件専修学校に校長として就任する予定の者の「免許取得後の実務経験(公務員の履歴を除く。)」については、当審査会において確認したところ、既に公にされていることが認められているので、本件決定において非公開にする必要性はない。 - ウ なお、異議申立人の主張のとおり、仮に、近い将来、開校後に作成される教員名簿等により、教員の氏名、 住所が一般に知られることがあり得るとしても、開校前の現時点においては、本件行政文書に記載された教員等の個人が本件専修学校に就任することが確定しているものとはいえず、現時点において、本件専修学校の設置に係る認可がなされておらず、開校予定時期についても平成14年4月であることを踏まえると、教員等の氏名及び住所については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報であると認められる。
大阪府情報公開審査会答申(全文)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、校長に就任する予定の者の「免許取得年月日の月日」及び「免許取得後の実務経験」の部分を公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成13年1月17日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「A学校の専修学校設置許可申請書添付書類中教員名簿及び教員就任承諾書」の公開請求(以下「本件請求」という。)をした。
- 同年2月15日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)に示す部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)本件行政文書
A学校設置認可申請書の添付資料のうち、教職員名簿及び就任承諾書(教員分) - (2)公開しないことと決定した部分
- 教職員名簿のうち、氏名、生年月日、現住所、最終学歴、免許取得年月日のうち月日、免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験(校長の氏名及び免許取得後の実務経験のうち公務員の履歴は除く。)
- 就任承諾書のうち、住所、氏名及び印影(校長の氏名は除く。)
- (3)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件非公開部分には、個人の学歴や住所など個人のプライバシーに関する情報が記載されており、これらの情報は、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- (1)本件行政文書
- 同年3月1日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、全部を公開するとの決定を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 非公開とする理由がないことについて
A学校(以下「本件専修学校」という。)が4月に開校すれば、全教員の氏名、住所等は開校後に作成、配布される本件専修学校の教員名簿に記載される。さらに、教員が、学会や論文等で医療現場での研究、経験を発表する際には、肩書きや勤務先学校名を付記するのが通常である。
さらに、教員名簿に記載されている教員のうち、理学療法士・作業療法士の資格を有する者の氏名は、勤務先学校名とともに、来年度の「全国理学療法士・作業療法士学校養成施設連絡協議会会員名簿」に記載される。この名簿は会員全員に配布されるから、配布後は会員を通して容易に入手することができ、教員のうち理学療法士・作業療法士の資格を有する者の氏名を知ることができるようになる。
以上により、教員の氏名、住所は近いうちに一般に知ることが可能となる情報であるから、現段階で公開したところで教員らに格別不利益はない。よって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とはいえない。
免許取得年月日は個人識別が可能な情報とはいえず、生年月日は「一般に他人に知られたくないと望む」情報とはいえない。
最終学歴、免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験については、医療関係者が実務家として活動していく際には、自己の経験を他人に知らせなければならない場面も多いのであり、既に多数の人に知られている情報である。また、公開することで不利益も生じないのであるから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報には該当しない。
2 公開の必要性について
昨今、高齢化社会、介護保険法の施行等の影響を受け、医療や福祉が見直され、全国的に医療福祉関係の学校が多数設立されている。これは、医療福祉現場における人員需要の増加に応えるものと思われる。しかし、一方では、それまで医療や福祉に何ら関わりのなかった個人や団体が、昨今の医療ブームに乗って、教員や受入施設の手配、教育要綱や教育施設の準備が不十分なまま、単に形式的に書面を整えて、大阪府、厚生労働省(厚生省)の認可を受けようとする例もあると聞き及んでいる。
医療福祉関係の学校が増加しているのに対し、理学療法士、作業療法士として教員資格を有する者の絶対数は不足している。特に作業療法士の教員資格を有する者の数は圧倒的に不足している。このような現状の中で、各学校が規定の教員数を確保できるはずはなく、実際には教員として勤務する意思も時間もない者が、学校設置許可を受けるために、教員名簿に自己の名前を載せることを了承する「名義貸し」が行われている疑いもある。
大阪府及び厚生労働省(厚生省)は、教員名簿に一定数の有資格者が記載されているかなど形式的な書面審査のみを行っているので、実質的には設立要件を満たさない学校にも設置許可が与えられる可能性があると考えられる。
教育体制が整わない学校で、不十分な教育を受けた多数の卒業生が社会に出ていくことは、将来の大阪の、さらには日本の医療福祉にとって大きなマイナスである。
本件専修学校においても、実際には教員として勤務することのできない者が教員として名簿に記載されている可能性があると思われる。
以上の実体を解明して、府政の公正な運営、大阪府の将来の医療水準の確保を図るためには、本件専修学校の教員名簿の全部を開示することが必要不可欠である。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 私立専修学校制度と設置認可の概要について
(1)制度の概要
専修学校とは、小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園以外の教育施設で、職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ることを目的として法に定める組織的な教育を行うものであり、学校教育法及び同法施行令、専修学校設置基準等の文部科学省令に定めがある。(学校教育法第82条の2)
専修学校は、国及び地方公共団体のほか、学校教育法に定める要件に該当するものでなければ、設置することができず、国が設置する専修学校を除き、専修学校の設置については、監督庁(私人の経営に係るものにあっては、「都道府県知事」。以下同じ。)の認可を受けなければならない。(同法第82条の5及び同条の8)
専修学校は法令に定める基準に適合していなければならず、専修学校を設置しようとする者は、認可申請書にa 目的、b 名称、c 位置、d 学則、e 経費及び維持方法、f 開設の時期を記載した書類及び校地校舎等の図面を添えて、設置の認可の申請をしなければならない。(同法第82条の5から同条の8まで、同法施行規則第77条の8において準用する同施行規則第3条)
監督庁は、専修学校の設置の認可の申請があったときは、申請の内容が法令に定められた基準に該当するかどうかを審査した上で、認可に関する処分をしなければならない。(同法第82条の8)また、私立専修学校の認可を行う場合は、あらかじめ、私立学校審議会の意見を聴かなければならない。(私立学校法第64条第1項において準用する同法第8条)
(2)私立専修学校設置認可の手続の概要
私立専修学校の設置認可の手続は、大阪府私立専修学校・各種学校設置認可等に関する審査基準で標準処理期間等を定めており、その概要は次のとおりである。
- a 私立専修学校を設置しようとする者(以下「申請者」という。)は、開設年度の前々年度の11月30日までに、監督庁あて設置認可の申請を行う。但し、校舎の新築等を伴わない場合は、開設年度の前年度の6月30日までとする。
- b 監督庁は、適正な内容の申請書を受理後、関係法令及び監督庁が定める審査基準を適正に満たしているかなど、申請の内容を審査の上、大阪府私立学校審議会に第一次諮問を行う。
- c 監督庁は、審議会からの答申後10日以内に答申の内容を申請者に通知する。
- d 申請者は、申請の内容に問題なしとの答申を受けた後、速やかにその内容に沿って準備を行う。
- e 監督庁は、校舎竣工後或いは校舎の新築等を伴わない場合においては、改装工事等完成後、現地調査を行い、施設及び設備等について申請内容と相違ないことを確認し、大阪府私立学校審議会に第二次諮問を行う。
- f 監督庁は、eの諮問に対する審議会からの答申後、開設年度の前年度の3月31日までに当該申請について認可するかどうかを決定する。なお、その旨を速やかに申請者に通知する。
(3)私立専修学校の設置認可申請書の概要
前述のとおり、専修学校を設置しようとする者は、認可申請書にa 目的、b 名称、c 位置、d 学則、e 経費及び維持方法、f 開設の時期を記載した書類及び校地校舎等の図面を添えて、設置の認可の申請をしなければならない。(学校教育法施行規則第77条の8において準用する第3条)
監督庁である大阪府知事は、大阪府私立専修学校・各種学校等の設置認可に関する審査基準に基づき、認可申請書の様式及び申請の内容が法令に定められた基準に該当するかどうかを審査するために必要な添付書類とその様式を定めている。
私立専修学校設置認可申請書に添付すべき関係書類は、a 設置趣意書、b 設置要項(ア目的、イ名称、ウ課程、学科の名称、定員及び修業年限、エ位置、オ学則、カ経費及び維持方法、キ学校開設の時期を記載)、c 施設の概要、d 校地・校舎図面(付近状況図、配置図、各階平面図、立面図)、e 校具、教具、図書及び備品の明細表、f 学級編成表、g 教職員編成表、h 教職員名簿、i 校長採用届、j 収支予算書(設置後2年の収支予算書)、k 創設費及び財源の総括表、l 借入金償還計画書、m 財産目録、n 寄付行為、o 法人登記簿謄本、p 理事会(設立発起人会)、評議員会等の決議録、q 理事長(設立代表者)の履歴書、身分証明書、印鑑証明書、r その他知事が必要と認める書類である。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、平成12年11月30日付けで、第三者から監督庁である大阪府知事あて提出があったA学校設置認可申請書に添付された教職員名簿及びその添付書類である就任承諾書の教員分である。当該申請について、監督庁である大阪府知事は、同年12月19日の大阪府私立学校審議会に諮問し、申請のあった「計画内容に問題なし」の答申を受け、この旨を当該学校法人あて口頭にて通知した。本件専修学校の開設時期(予定)は平成14年4月であり、現在、当該学校法人は、校舎新築工事等申請内容に沿った準備を進めているところである。
(1)教職員名簿
本件専修学校に就任する予定の教職員の名簿である。
専修学校には、校長及び相当数の教員を置かなければならず、校長は、教育に関する識見を有し、かつ、教育、学術、又は文化に関する業務に従事した者でなければならず、教員は、その担当する教育に関し、専門的な知識、又は技能に関し、文部科学大臣の定める資格を有する者でなければならない。
この教職員名簿は、監督庁である大阪府知事が、本件専修学校に校長及び相当数の教職員が就任する予定であること、及び校長及び教員が前述の資格を有するものであることを審査するため、申請者に提出を求めているものであり、a 職名、b 氏名、c 専任・兼任の別、d 担当課程、e 性別、f 生年月日、g 現住所、h 最終学歴、i 免許の種類及び取得年月日、j 免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験が記載されている。
本件処分は、教員については、b 氏名、f 生年月日、g 現住所、h 最終学歴、i 免許取得「月日」、j 免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験を非公開とした。また、校長については、f 生年月日、g 現住所、h 最終学歴、i 免許取得「月日」、j 免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験のうち、公務員としての履歴等いわゆる公職歴を除く部分を非公開とした。
異議申立ては、本件処分を取り消し、その全部の公開を求めるものである。
(2)教員分の就任承諾書
(1)の教職員名簿に記載のある本件専修学校に就任する予定の者が、本件専修学校設置のうえは、本件専修学校の教員に就任することを承諾する旨を記載した書面で、a 担当科目(指定の様式にはない)、b 作成年月日、c 書面の宛名である学校法人理事長名、d 作成者の住所及び氏名が記載され、e 作成者の私印が押印されている。
本件処分は、教員については、d 作成者の住所及び氏名、e 作成者の私印の印影を非公開とした。また、校長については、d 作成者の住所、e 作成者の私印の印影を非公開とした。
異議申立ては、本件処分を取り消し、その全部の公開を求めるものである。
3 条例第9条第1号に該当することについて
個人のプライバシーは、個人の尊厳を確保し、基本的人権を尊重するため、最大限に保護されなければならない。個人のプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすおそれがあることから、条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつも、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」する旨を明記している。また、条例第5条において、「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当っては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公開することのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを規定している。さらに、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について、条例第9条第1号において、「a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、b 特定の個人が識別され得るもののうち、c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報が記録された行政文書については、「公開してはならない」と規定している。同号のc 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものとは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、「正当と認められるもの」か否かの判断にあたっては、客観的に明白である場合を除き、当該個人から意見を聴取するなどにより、条例第5条の規定の趣旨に十分配慮し、プライバシーの侵害のないよう特に慎重に取り扱うことが必要である。
本件処分における非公開部分は、条例第9条第1号に該当する情報として非公開としたものであり、以下、同号に該当すると判断した理由を述べる。
(1)教職員に関する情報について
ア 条例第9条第1号の「個人の職業、学歴、住所及び経歴等に関する情報」に該当すること
本件において非公開とした部分、すなわち、先に述べた教職員名簿のb 氏名、f 生年月日、g 現住所、h 最終学歴、i 免許の取得「月日」、j 免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験、並びに教員就任承諾書のd 作成者の住所及び氏名、e 作成者の私印の印影は、本件専修学校設置後に就任する予定の個々の教職員に関する情報であることから、これらの情報はいずれも同号の「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、所属団体、財産等に関する情報」である。
イ 「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当すること
次に、これらの情報が、条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当することについて述べる。
- (ア)氏名及び印影
教職員名簿及び教員就任承諾書に記載された氏名及び印影は、本件請求が特定の専修学校の名称を示し行われたものであることから、これを公開することにより、本件行政文書に記載された特定の個人が本件専修学校設置後、当該校に教員として勤務する予定であることが具体的に明らかになる情報そのものであり、条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得る」情報に該当する。
そして、これは当該個人の社会的活動や職業等に関する情報であって、こうした情報については、既に公にされている場合等を除き、当該個人本人が同意している場合、あるいは直接認識できる相手方等に対して本人自身が明らかにする場合などを除けば、通常公にすることが予定されている情報とは認められず、条例第9条第1号に「個人の職業等」と具体的に例示されていることからしても、明らかに「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。 - (イ)生年月日、現住所、最終学歴、免許取得月日、免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験
教職員名簿及び教員就任承諾書に記載された教員の生年月日、現住所、最終学歴、免許取得月日、免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験は、本件請求が特定の専修学校の名称を示し行われたものであること及び本件処分において、既に、職名、専・兼任の別、担当課程、性別、免許の種類及び取得年、担当科目を公開としたことから、これらを公にすることにより既に公開された情報や他の情報と結びつけることにより、本件行政文書に記載された特定の個人が識別され、ひいてはその個人が本件専修学校設置後に教員として勤務する予定であることが明らかになる情報である。そして、当該特定の個人が特定の学校に勤務することに関する情報は、当該個人の社会的活動や職業等に関する情報であって、先に述べたとおり、条例第9条第1号に該当することは明らかであることから、これらの情報についても「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
なお、免許の取得月日については、公開とした本件専修学校の教職員名簿の免許の種類欄には、厚生労働省の医療・福祉関係資格をはじめ、英検、博士・修士号など種々の免許や取得資格の具体的な記載があるため、免許の取得月日までを明らかにすることにより、当該免許の登録名簿等の情報と結び付けることにより「特定の個人が識別され得る」ものと判断した。 - (ウ)留意事項
さて、本件処分において非公開とした情報から知りうる「個人の職業に関する情報」については、当該個人の過去あるいは現在の勤務先等の情報のみならず、本件専修学校設置後にその教職員に就任する予定であるという将来の就職先に関する情報でもある点に留意する必要がある。本件行政文書に記載されている個人の多くは、現在何らかの職業に就き、特定の医療機関、福祉施設、学校その他に勤務している。当該個人が、現在の勤務先で、1年以上先の転職及び将来の勤務先について明らかにしていない可能性は高く、また、1年以上先の退職等を予め明らかにしておかなければならない義務もない。したがって、実施機関が本件処分において非公開とした情報を現時点で公開することは、合理的な理由なく個人のプライバシーを侵害することとなるばかりでなく、将来の就職先に関する情報が知られることにより、当該個人が将来の退職及び就職に関して望まぬ干渉を受けるおそれがあり、個人の職業選択の自由を阻害する可能性もある。こうしたことから、本件処分において非公開とした情報については、プライバシーの侵害のないように、より一層慎重に取り扱うべきものである。
なお、本件行政文書は、前述のとおり、監督庁である大阪府知事が、本件専修学校の設置認可にあたって申請の内容が法令等の基準を満たすものであるか否かを審査するために申請者に提出を求めているものであり、記載された情報を公にすることを前提として作成されたものではなく、当然、当該個人も自らの情報が公になることに同意しているものでない。実施機関は、条例第17条第1項の規定に基づき、第三者である当該学校法人に意見を聴取したうえで、本件処分を決定したところである。
(2)校長に関する情報について
本件処分においては、校長に関する情報については、教職員名簿及び教員就任承諾書の「氏名」及び「免許取得後の実務経験のうち、公務員としての履歴等いわゆる公職歴」を公開としており、非公開としたのは、生年月日、現住所、最終学歴、免許取得月日、公職歴を除く免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験、印影の部分である。
ア 生年月日、現住所、最終学歴、免許取得月日、公職歴を除く免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験、印影について
本件においては、本件処分において校長の氏名や免許の種類等が既に公開されたものであることから、教職員名簿に記載された校長の生年月日、現住所、最終学歴、免許取得月日、公職歴を除く免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験並びに教員就任承諾書に記載された校長の住所、印影については、いずれも条例第9条第1号の「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、住所、所属団体、財産、所得等」に関する情報であり、「特定の個人が識別され得る情報」に該当する。
そして、教職員名簿に記載された校長の生年月日、現住所、最終学歴、免許取得月日、公職歴を除く免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験並びに教員就任承諾書に記載された校長の住所は、当該特定の個人について、当該個人に固有の私的な情報を具体的に明らかにするものである。
生年月日、最終学歴、免許取得月日、公職歴を除く免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験については、その生年月日、卒業した学校名、学部学科、特定の免許等の取得月日、過去において勤務していた先の名称等が個別具体的に記載されているものであり、学歴や過去の経歴を具体的に示す情報である。こうした情報は、当該個人の私的な履歴事項として、通常公にされることのないものであるとともに、当該個人の様々な事情や感情により秘密にしておきたいと考える種類の情報である。
また、現住所は、これを公開することにより、住居の位置や状況、さらには家族状況をも窺い知ることができる可能性があり、通常、当該個人の様々な事情や感情により秘密にしておきたいと考える種類の情報であるとともに、他人に知られることによって悪用の危険性や無用の不利益や危害を受けるおそれもある。
さらに、就任承諾書の印影については、校長に関しては、氏名を公開していることから、印影の公開により氏名が明らかになるという点はもはや問題ないとしても、当該印影を使用する目的、範囲や相手方を管理することは、当該個人の私的な領域に属する事項であり、安易に公にすることにより、当該個人の私生活上の取引の安全などの正当な利益を害するおそれもある。
したがって、これらの情報は、当該個人本人が同意している場合、あるいは直接認識できる相手方等に対して本人自身が自ら明らかにする場合などを除けば通常公にすることが予定されている情報とは認められず、たとえ校長の学校運営の責任者としての職責等の公益性を考慮したとしても公にすることが求められているとまでは言えないことから、いずれも条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
イ 氏名及び公職歴を公開したことについて
校長は、教育内容、教職員の人事管理、生徒の管理等校務についての学校現場の最高責任者であり、校長については届出義務があるほか、監督庁が作成する『大阪府私立専修学校・各種学校一覧』に記載し、一般に公表しているものであるとともに、設置に先立つ広報等で予め明らかにされることが一般的であるなど、一般の教職員とは異なり、その職責上より公益性が高い立場にある存在である。
したがって、校長の氏名については、学校運営の責任者である職責等の公益性を考慮し、同号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」には該当しないと考え、本件処分において公開としたものである。
このような判断から氏名を公開としたことに伴い、当該個人の公職歴についても、一般的に、既に公にされているか、あるいは公にされることが予定されている情報であるため、免許取得後の実務経験、学校卒業後の実務経験のうち、公務員としての履歴等いわゆる公職歴については、本件処分において公開とした。
4 異議申立人の主張について
(1)学校教員名簿への記載について
異議申立人は、「全教員の氏名、住所等は開校後に作成、配付される教員名簿に記載される。」ため、「近いうちに一般に知ることが可能となる情報であるから、現段階で公開したところで教員らに格段不利益はない。」ことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものとはいえない。」と主張する。
しかし、学校教育法施行規則第77条の11で準用される同規則第15条第1項が「学校において備えなければならない表簿は、概ね次のとおりとする」として、第4号で「職員の名簿、履歴書」(第4号)と定めているが、この規定の文言からも明らかなように、学校に備えつけるべきものとされているにとどまり、これらの表簿を配付するなど、公にすることまでは求められているものではない。また、学校教育法等関係法令には、教職員の氏名を掲示すべき義務等の定めもない。
学校によっては、住所等を記載した教職員名簿等が配付されている場合もありうるが、校内の業務用であったり、所属教職員にのみ配付されるものであったりするのが一般的であると考えられる。また、教職員名等を記載した学校案内を作成する私立専修学校もあるが、教職員名は必ず記載されるべきものではなく、記載する場合は該当教職員の同意を得た上で作成されているものである。
したがって、全教員の氏名、住所等の情報が近いうちに一般に知られることが予定されているわけでは必ずしもないし、さらに、前述のとおり、将来の就職先に関する情報が公にされることにより当該個人が受ける影響にも留意する必要があることも含めて考えると、「近いうちに知ることが可能となる情報」であることを以て「現段階で公開したところで教員らに格段不利益はない。」とは判断しがたく、異議申立人の主張は妥当とは考えられない。
(2)学会や論文等での研究発表での勤務先名等の公表について
異議申立人は、「教員が学会や論文等での研究、経験を発表する際には、肩書きや勤務先学校名を付記するのが通常である。」ことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものとはいえない。」と主張する。
しかし、学会や論文等での研究発表は全ての教員が行うとは限らない上、そうした場での勤務先名等の公表は、当然ながら、本人の同意の上で行われるものであるし、通常、現職でない将来予定されている勤務先名まで明らかにされるものではない。
したがって、異議申立人の主張は妥当とは考えられない。
(3)「理学療法士・作業療法士学校養成施設連絡協議会名簿」について
異議申立人は、教員名簿記載の者のうち、「理学療法士・作業療法士の資格を有する者の氏名は、勤務先学校名とともに、来年度の『全国理学療法士・作業療法士学校養成施設連絡協議会会員名簿』に記載され」、全会員に配布されることから、配布後は会員を通じて容易にこれを入手し、その氏名を知ることができるため、「近いうちに一般に知ることが可能となる情報であるから、現段階で公開したところで教員らに格段不利益はない。」ことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものとはいえない。」と主張する。
異議申立人の主張にある、全国理学療法士・作業療法士学校養成施設連絡協議会は、「理学療法士又は作業療法士にかかる学校又は養成施設の教育養成に関する共通事項について連絡協議を行い、相互に連携して、その発展を図ることを目的」とし、相互の連絡、教育・研究の振興などの事業を行うために、平成元年に設立された任意団体で、会員は学校及び養成施設である。この協議会が作成している名簿には、確かに、会員である学校・養成施設名、学科、入学定員、学校長・施設長名、所在地・電話番号、設置者、開設年月日、学科長、教員氏名が記載されている。
仮に、現実には、全国の学校・養成施設の全てが会員となっているとしても、法令等に会員とならなければならない規定があるわけではなく、会員となるか否かは各々の学校・養成施設の判断に委ねられている。また、学校・養成施設開設と同時に会員となる例ばかりではなく、開設後期間をおいてから会員となるものもあるとのことである。したがって、本件専修学校が開設後速やかに、当該協議会の会員となることを前提にはできない。
さらに、この名簿は、当該協議会の運営上の必要のため会員に配布されているものであり、広く一般に公にすることを前提として作成しているものではなく、異議申立人の主張にあるように「会員を通じて容易に入手することができ」るものとまでは言えない。
したがって、異議申立人の主張は妥当とは考えられない。
(4)公開の必要性について
異議申立人は、「教員や受入施設の手配、教育要項や教育施設の準備が不十分なまま、単に形式的に書面を整えて、大阪府、厚生労働省の認可を受けようとする例もあると聞き及んでいる。」とし、「理学療法士、作業療法士として教員資格を有する者の絶対数が不足している。特に作業療法士の教員資格を有する者の数は圧倒的に不足している。」現状のもとで、「各学校が規定教員数を確保できるはずはなく、実際には教員として勤務する意思も時間もない者が、学校設置認可を受けるために、教員名簿に自分の名前を載せる事を了承する『名義貸し』が行われている疑いもある。」と述べ、「大阪府や厚生労働省は、教員名簿に一定数の有資格者が記載されているかなど形式的な書面審査のみを行っているので、実質的に設立要件を満たさない学校にも設置認可が与えられる可能性が」あり、本件専修学校においても同様の可能性があるので、こうした「実体を解明して、府政の公正な運営、大阪府の将来の医療水準の確保を図るためには、当該学校の教員名簿の全部を公開すべきである。」旨を主張している。
本件専修学校は、理学療法士又は作業療法士国家試験の受験資格の取得を教育目的とするため、私立専修学校の認可とともに、理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則に基づき、厚生労働大臣から当該学校として指定を受ける必要があり、そのために必要な手続を併せて進めているところである。学校教育法に定める私立専修学校の認可と、特定の国家資格等の取得のための関係規則に基づく学校又は養成施設としての指定は、異なる法令を根拠として、各々の所轄・監督庁が行う異なる処分であるが、本件専修学校のように、特定の国家資格等の取得を教育目的とする場合は、関係規則に基づく学校としての指定を受けることなくしては、所期の教育目的を達成することが不可能なため、専修学校の設置認可を行うにあたって、厚生労働省の審査状況を把握しつつ、審査を行うこととしている。
監督庁である大阪府が私立専修学校の設置認可に関わって行う教職員についての審査は、異議申立人の主張にあるとおり、提出があった申請書類及びその添付書類により行っている。一方、厚生労働省が定める基準に則って行われる同規則に基づく指定に関する審査では、教職員について、申請書類により内容を審査するとともに、厚生労働省職員による教員就任予定者からのヒアリング調査も行っているとのことである。私立専修学校の教員の必要数及び教員資格は比較的緩やかな基準に拠っており、適宜、厚生労働省の審査状況も把握していること、また、他の都道府県においても同様の手続をとっている。
確かに、本件専修学校の教育は、在学する被教育者に対して継続的に教育サービスを提供するという面でも、また、将来の医療福祉を担う専門技術者を養成するという面でも、公益性の高いものであるから、異議申立人の主張にあるように、設置認可には公正さが求められる。
私立専修学校については、個々の特定の教職員の存在の有無が直接認可の可否に結びつくわけではなく、教職員等の人的要素と校地、校舎等の物的要素からなる教育施設が総体として、一定の基準を満たしていれば良く、監督庁である大阪府は、学校教育法等関係法令に則って基準に適合しているか否かについて公正に審査を行っているところであり、一般の教職員については逐次の変更の届出も義務づけられていないもとで、条例の「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」するという基本原則を踏まえた場合、この原則に優先してまで教員名簿の全部公開をする必要性はないと判断した。
したがって、異議申立人の主張は妥当とは考えられない。
5 結論
以上のとおり、本件についての実施機関の決定は、条例の趣旨を踏まえた適法かつ適切な判断であり、異議申立人の申立理由にある主張は妥当とは考えられない旨、弁明するものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 専修学校の設置認可制度について
(1)専修学校について
専修学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園以外の教育施設で、「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ることを目的として」学校教育法(以下「法」という。)に定める組織的な教育を行うものをいい(法第82条の2)、高等課程、専門課程又は一般課程を置くこととされている(法第82条の3)。
(2)専修学校の認可手続について
専修学校の認可手続については、法及び同法施行規則に定められており、私立の専修学校を設立しようとするものは、法第82条の8及び同法施行規則第3条の規定に基づき、監督庁である都道府県知事に認可の申請を行う。申請を受けた都道府県知事は、認可基準に適合するかどうかを審査した上で、認可に関する処分をしなければならないこととされている(法第82条の8)。
専修学校の認可基準は、法第82条の2(専修学校の目的)、第82条の3(課程)、第82条の5(設置者)、第82条の6(基準)及び第82条の7(校長・教員)にそれぞれ定められているが、本件処分は、本件専修学校に係る設置認可申請書のうち教職員名簿及び就任承諾書(教員分)を対象とするものであるため、法第82条の7に規定する教員に関する基準について、以下述べることとする。
(3)専修学校の教員の資格について
専修学校の教員は、その担当する教育に関する専門的な知識又は技能に関し、文部科学大臣の定める資格を有する者でなければならず(法第82条の7)、この「文部科学大臣の定める資格」について、専修学校設置基準(昭和51年文部省令第2号)(以下「設置基準」という。)第18条は、専門課程の教員の資格を次のように定めている。
第18条 専修学校の専門課程の教員は、次の各号の一に該当する者でその担当する教育に関し、専門的な知識、技術、技能等を有するものでなければならない。
- (1)専修学校の専門課程を修了した後、学校、専修学校、各種学校、研究所、病院、工場等(以下「学校、研究所等」という。)においてその担当する教育に関する教育、研究又は技術に関する業務に従事した者であって、当該専門課程の修業年限と当該業務に従事した期間とを通算して6年以上となる者
- (2)学士の学位を有する者にあっては2年以上、準学士の称号を有する者にあっては4年以上、学校、研究所等においてその担当する教育に関する教育、研究所又は技術に関する業務に従事した者
- (3)高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)において2年以上教諭の経験のある者
- (4)修士の学位を有する者
- (5)特定の分野について、特に優れた知識、技術、技能及び経験を有する者
- (6)その他前各号に掲げる者と同等以上の能力があると認められる者
3 本件行政文書について
本件行政文書は、専門課程を置く私立の専修学校の設立認可を受けようとする学校法人であるB(以下「本件法人」という。)が、法第82条の8及び同法施行規則第3条の規定に基づき、実施機関に提出した申請書に添付された書類の一部であって、a 教職員名簿及びb 就任承諾書の2種類に分類される。
これら教職員名簿及び就任承諾書については、実施機関が定めた「大阪府私立専修学校・各種学校設置認可等に関する審査基準」において、申請者が認可申請書に添えて実施機関に申請することとされており、その様式は、別に定められている。
それぞれの文書に記載されている主な情報等は、以下のとおりである。
(1)教職員名簿について
教職員名簿は、本件法人が設立認可を受けようとしている私立の専修学校(以下「本件専修学校」という。)において、校長、副校長、教員、助手又は事務職員として就任することが予定されている個人の情報について、本件法人が定められた様式に基づき作成し、実施機関に提出したものであり、各個人に関する情報が、「職名」、「氏名」、「専兼の別」、「担当課程」、「性別」、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「免許の種類」、「免許取得年月日」、「免許取得後の実務経験」、「学校卒業後の実務経験」及び「備考」の各項目別に、それぞれ表形式で記載されている。
なお、教職員名簿には、職種別にみると、校長1名、教員(副校長を含む。)96名、助手1名及び事務職員8名の情報が記載されていることが認められる。
(2)就任承諾書について
就任承諾書は、本件法人が設立認可を受けようとしている私立の専修学校において、校長、あるいは教員(副校長を含む。以下同じ。)として就任することが予定されている者が、就任を承諾する旨を表すために定められた様式に基づき作成して本件法人に提出し、本件法人が申請書の添付書類として実施機関に提出したものであって、本件専修学校設置のうえは当該個人が校長又は教員に就任することを承諾する旨が「学科名」、「担当科目」、「勤務形態」と併せて記載されている。さらに、当該個人の「氏名」及び「住所」が記載され、当該個人の「印影」が押印されている。
(3)本件非公開部分について
本件非公開部分は、以下のとおりである。
ア 教員、助手及び事務職員に就任する予定である者に関する情報について
- a 教職員名簿に記載された情報のうち、「氏名」、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「免許取得年月日の月日」、「免許取得後の実務経験」及び「学校卒業後の実務経験」の各部分
- b 就任承諾書に記載された情報のうち、「氏名」、「住所」及び「印影」の各部分
イ 校長に就任する予定である者に関する情報について
- a 教職員名簿に記載された情報のうち、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「免許取得年月日の月日」、「免許取得後の実務経験(公務員の履歴を除く。)」及び「学校卒業後の実務経験」の各部分
- b 就任承諾書に記載された情報のうち、「住所」及び「印影」の各部分
(4)本件法人に係る認可等の状況について
当審査会において確認したところ、現時点においては、本件法人は、法第82条の8に基づく知事の認可を受けておらず、本件専修学校が設立された事実は見当たらない。また、本件専修学校の開設予定時期は平成14年4月であり、現時点においては、本件法人が本件専修学校について広報活動や生徒募集活動を行っておらず、教員、助手及び事務職員に就任する予定の者が識別され得る情報を明らかにしていないことが認められた。
4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由
実施機関は、本件非公開部分に記録された情報が条例第9条第1号に該当すると主張するので、以下検討する。
- (1)条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限に配慮しなければならない旨規定している。
このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、- a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- b 特定の個人が識別され得るもののうち、
- c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
- (2)これを本件非公開部分に記録された情報について検討する。
- ア 本件行政文書は、本件専修学校を設置しようとする本件法人が、実施機関に設置認可の申請をなすに当たり、法令等に基づき、提出した文書であって、教職員名簿には、本件専修学校に校長や教員等として就任する予定の者の氏名、住所等の情報が表形式により記載されており、就任承諾書は、本件専修学校に校長又は教員として就任する予定の者が就任を承諾する旨を表すために作成した文書である。
そして、本件非公開部分は、先に述べたとおり、教職員名簿のうち「氏名(校長を除く。)」、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「免許取得年月日の月日」、「免許取得後の実務経験(校長の公務員の履歴を除く。)」及び「学校卒業後の実務経験」並びに就任承諾書のうち「住所」、「氏名(校長を除く。)」及び「印影」であるが、これらの情報は、いずれも条例第9条第1号の個人の職業、学歴、経歴等に関する情報であることが認められる。
そこで、これらの情報について、条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもの」であり、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当するかどうか検討する。 - イ ところで、当審査会において確認したところ、本件行政文書に記載された生年月日や免許取得年月日、さらに免許取得後の実務経験や学校卒業後の実務経験の内容からすると、教員、助手又は事務職員として当該専修学校に就職する予定者は、現在、他の医療機関や福祉施設、学校などに勤務している者が多いことが推測される。
特に、教員として本件専修学校に就職する予定である者については、本件専修学校が専門課程のみを置くものであり、先に述べたとおり、専門課程の教員については、設置基準第18条により、一定の実務経験が要求されていることからすると、現在、医療機関、福祉施設、学校等に勤務していることが多いことが容易に推測されるところである。
そして、本件専修学校の設置に係る認可が未だなされておらず、その開校予定時期についても平成14年4月であることからすると、現時点においては、教員、助手又は事務職員として本件専修学校に就職する予定である者が、本件専修学校に就職する予定である旨を現在の勤務先に対して明らかにしていない者がいることも同様に推測されるところである。
こうしたことからすると、本件専修学校に就職する予定である個人に関する情報について、「特定の個人が識別され得るもの」であって、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」ものに該当するかどうかを判断するに当たっては、本件専修学校に就職する予定である個人が、当該個人の現在の勤務先の関係者等において知られることとなり得るかどうかについても、十分に留意する必要がある。 - ウ そこで、こうした見地から本件各非公開部分について検討する。
- (ア)教員、助手及び事務職員に就任する予定である者に関する情報について
- (a)教職員名簿及び就任承諾書に記載された「氏名」及び「現住所」について
まず、本件非公開部分のうち、教職員名簿及び就任承諾書に記載された氏名及び現住所について検討する。
教職員名簿及び就任承諾書に記載された氏名については、直接特定の個人が識別され得る情報であり、現住所については、特定の個人が容易に識別され得る情報であることから、これらの情報は、公にすることにより、特定の個人が、本件専修学校設置後において、本件専修学校に教員、助手あるいは事務職員として就職する予定であることが明らかとなるものである。言い換えれば、これらは、公にすると、特定の個人が、本件専修学校設置後においてこの専修学校に勤務する意思をその内心において有していることを広く具体的に明らかにする情報である。そして、特定の個人が今後、どの勤務先を選択しようとしているのか、あるいはどの勤務先に転職しようとしているかに関する情報については、通常公にすることが予定されている情報とは認められない。また、特に、本件行政文書に記載された個人においては、本件専修学校の設置認可が未だなされておらず、その開校予定時期が平成14年4月であることなどからすると、現在の勤務先やその関係者等に対し本件専修学校へ勤務する意思を有していることを知らせているとは、必ずしも考えにくいところであって、このことが明らかになることにより、本件専修学校への転職等において望まぬ干渉を受けるなど、何らかの不利益を被るおそれがあることを否定できないものである。
以上からすると、教職員名簿及び就任承諾書に記載された氏名及び住所は、公にすることにより、特定の個人が本件専修学校へ転職あるいは就職をする意思を有していることが広く明らかとなる情報であって、「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」情報に該当すると認められるものである。 - (b)教職員名簿に記載された「生年月日」、「最終学歴」、「免許取得年月日の月日」、「免許取得後の実務経験」及び「学校卒業後の実務経験」並びに就任承諾書に押印された個人の「印影」について
次に、教職員名簿に記載された生年月日、最終学歴、免許取得年月日の月日、免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験並びに就任承諾書に押印された個人の印影について検討する。
先に述べたとおり、本件行政文書は、特定の個人が本件専修学校設置後、この学校に勤務する意思を有していることを明らかにするものであり、当該専修学校の認可や開設時期からすると、現時点においては、当該個人が現在の勤務先に対してその意思を明らかにしていない場合があることは容易に推測されるところである。
このような状況のもと、本件非公開部分のうち、これら各情報については、公にすることにより当該各情報のみによって直接特定の個人が識別され得るものとは言いがたいが、本件専修学校に教員等として就職を予定している個人の現在の勤務先やその関係者等においては、当該勤務先等が把握している当該個人の情報と結びつけることにより、本件行政文書に記載された特定の個人が誰であるかが識別でき、ひいては、誰が、本件専修学校に転職等を行う意思を有しているのかが明らかとなるものである。
そして、本件専修学校に今後転職や就職をする意思を有している個人にとっては、そのことが、現在の勤務先において明らかとなることにより、本件専修学校への転職等について望まぬ干渉を受けるなど、何らかの不利益を被るおそれがあることを否定できないものである。
以上からすると、教職員名簿に記載された生年月日、最終学歴、免許取得年月日の月日、免許取得後の実務経験及び学校卒業後の実務経験並びに就任承諾書に記載された印影は、条例の「個人のプライバシーの最大限保護」の基本原則を踏まえると、条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
- (a)教職員名簿及び就任承諾書に記載された「氏名」及び「現住所」について
- (イ)校長に就任する予定の者に関する情報について
続いて、本件専修学校に校長として就任する予定の者に係る情報について検討する。
本件非公開部分のうち、本件専修学校に校長として就任する予定の者に係る部分は、教職員名簿に記載された「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「免許取得年月日の月日」及び「免許取得後の実務経験(公務員の履歴を除く。)」並びに就任承諾書に記載された「住所」及び「印影」である。
これらの情報のうち、教職員名簿に記載された「生年月日」、「現住所」、及び「最終学歴」並びに就任承諾書に記載された「住所」及び「印影」については、本件専修学校に校長として就任する予定の者の氏名が本件処分において既に公開されていることから、特定の個人が識別され得る情報であり、あくまでも当該校長就任予定者個人に専属する固有の情報であって、校長に就任する予定であるという側面やその公的性格を考慮したとしても、これらの情報を公にすることが求められているとまでは考えられないことから、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
しかしながら、本件非公開部分のうち、本件専修学校に校長として就任する予定の者に係る「免許取得年月日の月日」については、既にその氏名が公にされていることから、特定の個人が識別され得る情報である。そして、これらの情報は、当該校長就任予定者個人に専属する固有の情報ではあるものの、校長に就任する予定であるという側面やその公的性格を考慮すると、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」とまでは認められないものである。
また、本件専修学校に校長として就任する予定の者の「免許取得後の実務経験(公務員の履歴を除く。)」については、当審査会において確認したところ、既に公にされていることが認められているので、本件処分において非公開にする必要性はない。 - (ウ)以上のとおり、本件非公開部分については、教職員名簿のうち、「氏名(校長を除く。)」、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「免許取得年月日の月日(校長を除く。)」、「免許取得後の実務経験(校長の公務員の履歴を除く。)」及び「学校卒業後の実務経験」並びに就任承諾書のうち「住所」、「氏名(校長を除く。)」及び「印影」については、条例第9条第1号に該当すると認められるが、本件専修学校に校長として就任する予定の者に係る「免許取得年月日の月日」及び「免許取得後の実務経験」については、条例第9条第1号に該当するとは認められない。
- (ア)教員、助手及び事務職員に就任する予定である者に関する情報について
- エ なお、異議申立人は、教員の氏名、住所については、専修学校開校後に作成される教員名簿等により、近いうちに一般に知ることが可能となる情報であるから、現段階で公開したところで教員らに格段不利益はないと主張するが、その主張のとおり、仮に、近い将来、開校後に作成される教員名簿等により、教員の氏名、住所が一般に知られることがあり得るとしても、開校前の現時点においては、本件行政文書に記載された教員等の個人が本件専修学校に就任することが確定しているものとはいえず、現時点において、本件専修学校の設置に係る認可がなされておらず、開校予定時期についても平成14年4月であることを踏まえると、先に述べたとおり、教員等の氏名及び住所については、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である情報であると認められるというべきであり、異議申立人の主張は認められない。
- ア 本件行政文書は、本件専修学校を設置しようとする本件法人が、実施機関に設置認可の申請をなすに当たり、法令等に基づき、提出した文書であって、教職員名簿には、本件専修学校に校長や教員等として就任する予定の者の氏名、住所等の情報が表形式により記載されており、就任承諾書は、本件専修学校に校長又は教員として就任する予定の者が就任を承諾する旨を表すために作成した文書である。
5 結論
以上のとおりであるから、本件非公開部分のうち、校長に就任する予定である者の「免許取得月日」及び「免許取得後の実務経験」の部分については、本件異議申立てには理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。