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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第195号)
府営桃山台1丁住宅建設関係文書不存在非公開決定異議申立事案
(答申日 平成22年12月7日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成21年9月29日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「所在堺市南区桃山台1丁○○の府営桃山台1丁住宅建設に関する下記の文書(閉鎖土地登記簿に記載:原因及びその日付:昭和48年3月29日新住宅市街地開発法による工事完了:土地表示登記は大阪府)についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- (1)宅地造成等規制法に係る図面等(検査済証、造成図面、施工者等)
- (2)事業計画書及び工事設計要領書(設計図書を含む)
- (3)本件事業に関し認可その他の処分を証する文書
- 同年10月9日、実施機関(担当課:住宅まちづくり部タウン推進室)は、本件請求の1(1)に対応する行政文書(以下「本件行政文書」という。)を管理していないとして、条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して異議申立人に通知した。
- (公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
公開請求に係る行政文書については、文書の保存年限を経過しており、検索したところ現に保管していないため管理していない。
また、同年10月13日、実施機関(担当課:住宅まちづくり部住宅経営室)は、本件請求のうち、1(2)、(3)に対応する行政文書を管理していないとして、条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定を行い、次のとおり理由を付して異議申立人に通知した。 - (公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
公開請求に係る行政文書については、文書の保存年限を経過しており、検索したところ現に保管していないため管理していない。
- (公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
- 同年10月20日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立てを行った。
なお、本件請求のうち1(2)、(3)についての不存在による非公開決定に対しても異議申立てがなされたが、実施機関が請求内容について再度確認を行い、「大阪府営桃山台1丁住宅建設 排水配管平面図、給水配管平面図」、「大阪府営桃山台1丁住宅(1・2工区)屋外給水管改修工事」、「大阪府営桃山台1丁・2丁住宅造成工事(土量移動図)」、「泉北ニュータウンの建設」を情報提供した結果、異議申立ては取り下げられている。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
本件請求案件の所在堺市南区桃山台1丁○○(以下「当該地番」という。)の府営桃山台1丁住宅は、実施機関が公営住宅法に基づき建設大臣の許可を受けた国の補助金等による事業と思われる。そして、実施機関はこの事業の施行者として宅地造成、道路建設、上下水道管等を施行し、合計12棟(集会所1棟を含む)330戸の公営住宅の公の施設を施行した。その事業は各法律の認可、処分を受け府議会の議決を受けていると思われる。
さらに、現在もその建物は存在し、約1000名もの府民が生活する住まいになっている。
その賃貸建物の貸主は実施機関であるが、府営住宅の建設に関する文書が存在しないとすればそれは違法建築物なのであろうか。また、建物は宅地造成等規制法(以下「宅造法」という。)の区域内に建設されているが、造成検査を受けずに建築した耐震性のない建物なのであろうか。さらに近年、実施機関は1部屋増築の工事を行っているが、本件請求(1)の文書及び設計図面なしに増築工事を行ったのであろうか。
現在も府民が住むこの府営住宅はほんとうに安全と言えるのであろうか。それとも、保存期限が経過した建物だから、設計図書も必要としないのであろうか。
そして、この府営住宅には空室があり実施機関は賃貸の通年募集を行っている。申込みをする府民並びに現に住まいする府民が安心して住居できるためにもこの建物の耐震性、安全性、修繕の確保のため本件請求文書は必然に保管されなければならない。さらに、他所の府営住宅においては本件請求文書が存在しているのではなかろうか。そして、その文書の保管場所は決められているのではなかろうか。その場所を探索した形跡がない。大震災の場合にこれらの文書が必要である。万一、これらの文書を保管していないのであれば「危機管理意識の欠如」と言わざるを得まい。
また、当然にある文書を出さないのは、情報の公開をじゃまくさく思っているのではなかろうか。ネット検索でなく各所への探索を求める。
(結論)
以上のとおり、実施機関が保存年限経過したから不存在とする理由には合理性がない。また上記法令遵守義務から実施機関には文書の保管義務がある。府営住宅に住む府民及びその友人宅へ訪問する府民並びにこの府営住宅に申込みする府民の安全のため、実施機関は、その安全管理の責務を果たすためにも紛失・破棄した文書を収集し、また、本件住宅開発事業の設計者及び工事施工者らから保管している設計・施工図面等の文書を取寄せることもできる。よって、非公開決定を取消し、本件請求文書の公開を求める。
2 反論書及び口頭意見陳述における主張
(1)この府営住宅は違法建築物
当該地番の敷地3万2730.00平方メートル(約9900坪)の上には、府営桃山台1丁住宅が建設されている。集会所を含む合計12棟330戸の府営住宅が建設され、約1000名の府民がそこに居住し生活している。しかし、その府営住宅の宅地造成は、宅造法13条が規定する工事完了の検査を受けておらず、災害防止の安全が確認されていない造成宅地である。この未検査の土地の上に建築された建物は違法建築物と言わざるを得ない。
(2)許可があったものとみなす
宅造法11条の規定により、本件の宅地造成工事規制区域内において行う宅地造成に関する工事については、実施機関は大阪府知事との協議が成立することをもって、同法8条1項本文の許可があったものとみなした。
つまり、宅地造成の工事をするための許可は取れたものとみなした。
(3)新住宅市街地開発法の適用除外に非該当
しかし、この宅地の新住宅市街地開発事業においても、宅地造成の検査を行わなくてよいとする適用除外の規定はない。必ず安全確認のために例外なく宅地造成の検査を行わなくてはならない。
(4)工事完了の検査を受けていない。
実施機関が、宅造法13条1項の規定により、宅造法8条1項の宅地造成工事の許可を受けた者として、許可工事を完了した場合(昭和48年3月29日工事完了登記)、国土交通省令で定める工事が同法9条1項の規定に適合していると認められれば、大阪府知事は、国土交通省令で定める様式の検査済証を許可者(実施機関)に交付しなければならない。
しかし、実施機関はこの宅地造成の検査を受けておらず、その結果、検査番号及び検査の範囲を示した図面等の文書が存在しない。
さらに、申立人は、平成21年12月に堺市役所にて、宅地造成の検査を受けていないことを確認した。
そして、実施機関は、宅地造成の検査を行っていない違反について、何らの弁明及び説明をしていない。
(5)検査を受けない場合は使用禁止
- ア 当初、実施機関は、宅地造成工事の許可を取得したものとみなされ、造成工事図面、施工者等の文書を所有し ていた。
- イ しかし、実施機関は、宅造法9条の宅地造成の工事において、法令の基準を達成していないと思われる。1区画に各1本以上の上下水道の配管工事すべきを、2カ所の宅地造成区域で1本の配管のみを埋設工事している事実が判明した。
このような造成工事では、宅地造成の検査を受けられるはずがない。この土地の検査申請をすれば安全確保のため工事のやり直しを堺市に命じられるからである。 - ウ つまり、本件の宅地造成は、災害防止のための必要な措置が講じられておらずその瑕疵により、実施機関は故意に検査を受けていないと言わざるを得ない。
- エ 法律上、同法14条3項の規定により、大阪府知事は、同法13条1項の規定に違反して、同項の検査を受けていない宅地については、当該宅地の所有者、もしくは占有者又は当該造成主に対して、当該宅地の使用を禁止し、もしくは制限し、又は相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命じることができる。
- オ すなわち、大阪府知事は、本件土地の災害防止の安全確認ができないから、使用禁止に該当するとして、緊急に使用禁止を命じなければならない。
(6)事業完了後の利用
昭和48年3月29日付けの工事完了後も、実施機関は平成9年10月28日(確認番号第46号)から1部屋増築の工事を行った。その際にも、実施機関は、その増築部分に係る宅地造成部分の検査をも受けず建設工事を行った。そして同じく、その増築部分の宅地造成の安全確認は行われていない。よって、その建物群は安全確認が得られるまで使用禁止と言わざるを得ない。
(7)現用価値のないもの
以上のとおり、本件土地の上に建物の工事を行う場合には、その宅地造成が基準どおりに施工され、安全な施工であったか検査を受け、その基準に合格した証しとして、宅地造成の検査番号及び検査済証が発行される。増築する際、その書面及び番号が絶対に必要であることは明らかである。そうであるのに、実施機関が主張するように、本件請求文書は「利用予定もなく現用価値のないもの」であろうか。実施機関は、現在も、エレベーター設置の工事及び改修工事を進行中である。また安全検査を受けずに府民に知らせないのであろうか。
そして、このまま宅地造成の未検査を放置することは、府営住宅を管理する実施機関の怠慢な言い訳であり、故意に、そこに居住する府民及び出入りする府民の災害防止のための安全を確保しない不作為であると言わざるを得ない。
(8)事実確認の探索をしていない
実施機関は単に検索したと言い訳をするだけであり、昭和48年3月28日付けで公告した本件新住宅市街地開発事業の本件宅地造成について、その違反及び指導を担当する部所である建築指導室安全課を探索していない。
(9)結論
現在も建築工事が行われており、文書は実在すると思慮する。
また、実施機関の非公開とする理由は、単に検索して存在しなかったという理由だけであり、この区画では現在も増築工事が行われている。万一、宅地造成の検査を受けていないとすれば、その区画は、谷を盛土し、池・沼地を埋め立てた土地なのであるから、地中の水脈を通し空洞化されていないか心配である。
今、まさに、府民の生命に迫る重大な危険から避難すべきかを、実施機関は事実に基づき詳細に公表すべきものである。
よって、非公開決定処分の取り消しと本件請求文書の公開を求める。
また、実施機関に検査を受けることができない理由があり、そもそも検査を受けておらず、検査済証がないということであれば、不存在とする理由が事実と異なるのではなかろうか。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 本件請求に対応する行政文書が不存在であることについて
本件行政文書は、昭和48年に新住宅市街地開発法第27条第2項に基づく工事完了公告がなされた新住宅市街地開発事業に係る土地の宅地造成に関する文書であり、昭和48年以前に実施機関が作成し、又は入手した文書である。
本件行政文書の保存期間については、作成当時の保存期間は不明であるが、大阪府行政文書管理規則に基づく現在の規定では、長期保存とされている。
この長期とは、10年を超える保存期間とされており、長期保存の文書については、10年を超えた時点で保存期間の見直しを行い、新たに設定した保存期間が満了すれば、廃棄の決定を行うこととされている。
本件行政文書は、新住宅市街地開発事業の完了後長期間経過した文書であり、事業完了後に実施機関が利用する予定はなく、また、新住宅市街地開発法、宅造法、公営住宅法などの法令等からも特段の保存の必要性が認められないことから、現用価値のないものと判断して廃棄処分されたと考えられ、現に管理していない。
2 異議申立人の主張について
- (1)異議申立人は、実施機関が情報公開の手間を惜しまず、ネット検索のほか、各所への探索をするべきである旨主張する。
しかしながら、本件行政文書の有無については、単に大阪府行政文書管理システムにより文書検索しただけでなく、本件行政文書を作成し、又は入手した旧企業局から泉北ニュータウン関係の業務を引き継いでいる住宅まちづくり部タウン推進室管理課の書庫を複数の職員が十分に時間をかけて探したが発見されなかった。 - (2)異議申立人は、実施機関には、法令順守義務から本件行政文書の保管義務がある旨主張する。
しかしながら、新住宅市街地開発や宅造法等の法令上、本件行政文書を現在も保存しておかなければならないとの規定はない。 - (3)異議申立人は、紛失・破棄した文書を収集し、関係する設計者及び工事施工者らから保管している設計・施工図面等の文書を取り寄せることもできる旨主張する。
しかしながら、条例に基づく行政文書公開制度は、公開請求時に実施機関が現に保有している行政文書を公開する制度であり、現に保有していない行政文書の復元、取り寄せ等の求めに応じる規定はない。 - (4)本件行政文書について、新住宅市街地開発事業の完了後長期間経過し、大阪府行政文書管理規則による保存期間も経過しており、現用価値のないものと判断して廃棄処分され、現に管理していないことについて、何ら違法又は不当な点はない。
3 結論
以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、府営桃山台1丁住宅が建築されている当該地番の宅地造成工事がなされた際に、実施機関が宅地造成工事完了後、宅造法に基づく検査を受け、適合が認められた場合に交付される宅地検査済証等である。
3 本件決定の妥当性について
実施機関は、本件行政文書について、「文書の保存年限を経過しており、検索したところ現に保管していないため管理していない。」として本件決定を行っており、異議申立人は口頭意見陳述等において、「府営桃山台1丁住宅は、宅造法に規定する検査を受けていない違法な建築物であって、検査済証はそもそも存在しておらず、よって本件決定の不存在とする理由が事実と異なるのではないか。」と主張しているので、以下検討する。
(1)宅造法に基づく文書の保存について
宅造法に基づく文書保存義務等について、実施機関は次のとおり説明する。
ア 宅造法について
宅造法は、宅地造成に伴う崖崩れ又は土砂の流出による災害の防止のため必要な規制を行うことにより、国民の生命及び財産の保護を図り、もって公共の福祉に寄与することを目的に制定され(宅造法第1条)、宅地造成工事規制区域内において宅地造成に関する工事を行うにあたっては、造成主は、当該工事に着手する前に都道府県知事の許可を受けなければならない(宅造法第8条第1項)。国又は都道府県が工事を行う際には、都道府県知事との協議が成立することをもって、宅造法第8条第1項の許可があったものとみなす(宅造法第11条)。また宅地造成に関する工事を完了した場合においては、その工事が宅造法第9条第1項の規定に適合しているかどうかについて、都道府県知事の検査を受け、都道府県知事は検査に適合していると認めた場合には検査済証を交付しなければならず(宅造法第13条)、さらに、都道府県知事は、許可を受けないで宅地造成に関する工事が施行された宅地の使用を禁止し、又は宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ずることができる(宅造法第14条第3項)と規定されている。
イ 宅造法に係る検査済証等の文書の保管について
当該地番は、宅地造成工事規制区域内にあるため、実施機関が宅地造成を行うにあたっては、宅造法の許可等にかかる事務を大阪府から移譲された堺市と工事に関する協議を行い、工事完了後は堺市の検査を受け、検査済証が実施機関に交付されたと考えられる。
また、実施機関の担当課は、当該地番を含む泉北ニュータウンの造成を行った旧企業局から業務を引き継いでいる住宅まちづくり部タウン推進室であるが、旧企業局が造成を行った土地に府営住宅を建築する場合は、会計手続上、特別会計により事業を実施している旧企業局から一般会計部局にまず土地を有償移管し、府営住宅建設の関係部署において建設に係る諸手続きが実施されることとなっている。
異議申立人が主張するように、宅造法に基づく検査済証が府営住宅の建設にあたって必要な書類であれば、実施機関の担当課から府営住宅建設の関係部署に引き継がれているものと考えられることから、府営住宅施策の企画、立案や管理等を行う住宅まちづくり部の住宅経営室及び府営住宅の設計、工事等を行う住宅まちづくり部公共建築室(以下、「府営住宅建築関係部署」という。)へも書類の確認をしたが、現に保管しておらず管理していないとのことである。
本件文書が存在しないことについて、新住宅市街地開発事業の完了後長期間経過した文書であり、事業完了後に実施機関が利用する予定はなく、また、新住宅市街地開発法、宅造法、公営住宅法などの法令等において保存の義務もないことから、現用価値のないものと判断して廃棄処分されたと考えられる。ちなみに、現在の文書保存は大阪府行政文書管理規則により長期保存とし、10年を超えた時点で保存期間の見直しを行い、新たに設定した保存期間が満了すれば、廃棄の決定を行うこととしているとのことである。
(2)宅造法の完了検査受検の有無について
異議申立人は、「本件土地の上に建物の工事を行う場合には、その宅地造成が基準どおりに施工され、安全な施工であったか検査を受け、その基準に合格した証しとして、宅地造成の検査番号及び検査済証が発行され」、「増築する際にはその書面及び番号が絶対に必要なはず」、「エレベータ設置の工事及び改修工事を進行中であるにもかかわらず、安全検査を受けずに府民に知らせないことは、そこに居住する府民の災害防止のための安全を確保していないと言わざるを得ない」と主張する。
この点について、審査会が府営住宅建築関係部署へ確認したところ、次のような説明があった。
住宅の建築等については建築基準法(以下、「建基法」という。)上、都道府県は工事に着手する前にその計画を建築主事に通知し、通知を受けた建築主事は、建築基準関係規定に適合する場合には確認済証を交付しなければならない(建基法第18条第2項、第3項)。また、工事が完了した場合も、同様に建築主事に通知をし、建築基準関係規定に適合すれば、建築主事は検査済証を交付しなければならない(建基法第18条第14項及び第16項)とされている。また、建築物を新築する場合又はこれらの建築物の増築等をする場合においては、仮使用の承認をしたとき等を除き、検査済証の交付を受けた後でなければ、当該建築物を使用させてはならない(建基法第18条第22項)。と規定されている。
そのため、当該地番の府営住宅の建設に際しては、住宅建築関係部署が堺市に工事の計画の確認を受け、工事を行い、工事完了後の検査を受けてはじめて、当該建築物の使用が認められる。建基法第18条の建築基準関係規定には、宅造法も含まれており、当該地番の府営住宅が使用できていることをもって、宅造法の規定に適合していたと考えるのが相当ではないか。
また、異議申立人が主張するとおり、当該地番には、昭和47年に府営住宅を新築し、その後平成9~11年に一部屋増築工事、平成19年にエレベータ増築工事を実施している。これらの工事に係る建基法の規定による「新築工事の確認済証(昭和47年)」及び「一部屋増築第1~3期の確認済証(平成9年)」、「エレベータ増築7~9号棟の検査済証(平成19年)」は府営住宅建築関係部署で確認できている。
「新築工事」と「一部屋増築工事」の各検査済証がないことについて、平成15年度以降は行政文書管理システムにより長期保存としているものの、それ以前は行政文書管理システムによる簿冊管理をしておらず、昭和47年の新築工事の検査済証については、工事完了後35年以上経過、一部屋増築工事は最終工期の完了後9年以上経過している文書であり、現に保管していないという説明である。また、建て替え等により宅地造成を伴う場合には、改めて宅造法に基づく協議を行うとのことである。
(3)堺市における宅造法関係書類の保存について
異議申立人は、「実施機関は単に検索したと言い訳をするだけであり、昭和48年3月28日付けで公告した本件新住宅市街地開発事業の本件宅地造成について、その違反及び指導を担当する部署である建築指導室安全課を探索していない」と主張する。しかしながら、当時、宅地造成許可等に係る事務は、大阪府から堺市へ委譲されているため、違反及び指導を担当する部署は堺市となる。
したがって、異議申立人が堺市へ確認するべきところであるが、「既に堺市を訪れ、宅地造成の検査を受けていないことを確認した」という主張であったため、審査会として堺市の宅造法に係る許可事務等を行う堺市建築都市局へ書類について確認したところ、次のような説明があった。
宅造法の宅地造成に係る手続きは、申請前の調整の段階で現場を訪れ、造成工事を過去にした形跡があるか、劣化等を含め確認し、違法な状況であれば、法に適合するものとなるよう指導するとのことである。また、宅造法に係る申請書類については、検査を完了した案件については3年で廃棄、手続が保留となっている案件については保存しているが、当該地番に係る申請書類については、現に保有しておらず、管理していないとのことである。
また、宅造法の検査を完了した案件については、「宅地造成等規制法許可台帳」と市民閲覧用に地域毎に台帳から転記して作成する「宅地造成等規制法整理カード」を保存しており、内容は下記のとおりである。
「宅地造成等規制法許可台帳」には、「申請受付年月日、受付番号」、「造成主」、「造成主住所」、「造成場所」、「許可年月日、番号」、「完了届受理年月日、検査済証発行年月日、番号」等が記載されており、昭和48年前後の台帳を見分したところ、実施機関が申請したものとして当該地番を記載したものはないが、堺市栂地区(I住区)と称するものが見受けられる。
「宅地造成等規制法整理カード」には、「造成場所」、「造成主」、「許可年月日、番号」、「検査済証発行年月日」、「備考」等が記載されており、当該地番については、「備考欄」に「支障なし H9.7.10」と記録されている。この備考欄の記録は、時期的なものからすると、おそらく一部屋増築工事の建築確認の審査を行う際に、本件増築工事については、造成工事は伴わないという判断がなされたものではないかと推測されるとのことである。
このほか、「宅地造成等規制法整理カード」とともに参照できる図面には、検査済みとされる部分には色が塗られているとのことであるが、当該地番には色が塗られていない。しかしながら、地図の空きスペースには、「実施の状況」とする表があり、「実施年月日」、「実施済区域」として昭和47年7月20日、桃山台一丁1~23街区との記載が見受けられるが、この実施区域がどこにあたるのか、また実施済区域が何を意味するのか、現在においてはよくわからないとのことである。
上記調査内容を踏まえ、宅地造成等規制法許可台帳に見受けられたI住区について実施機関に確認したところ、当該地番を含む現在の桃山台の地域は、新住宅市街地開発法の施行者であった旧企業局が、I住区として開発したとのことである。
(4)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、「府営住宅の安全管理の責任を果たすためにも紛失・廃棄した文書を収集し、関係する設計者及び工事施工者らから文書を取り寄せることもできる」と主張する。
しかしながら、条例に基づく行政文書公開制度は、公開請求時に実施機関が現に保有している行政文書を公開する制度であり、現に保有していない行政文書の取り寄せ等を求めるものではない。
以上(1)~(3)の実施機関等の説明を総合すると、本件行政文書については、宅造法及び建基法の規定ならびに当該地番の府営住宅に係る建基法に基づく文書等から、当該地番に係る宅造法に関する検査が堺市において実施され、検査済証が実施機関に発行されていたと推測されるが、保存期間の関係で廃棄されたと考えることが合理的であり、本件不存在決定の対象となった行政文書は存在しないと認められ、本件決定は妥当である。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議に関与した委員
松田聰子、山口孝司、鈴木秀美、細見三英子