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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第187号)
全国体力・運動能力等調査結果部分公開決定異議申立事案
(答申日 平成22年4月15日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないことと決定した部分のうち、次の部分については公開すべきである。
- 実技に関する調査(以下「実技調査」という。)について公開すべき部分
- (1)「実技調査」のうち、「区分」、「教育委員会番号」、「市町村教育委員会名」、「学校名」、「調査対象数」、各実技の調査(体力合計点を含む。)に係る「標本数」、「平均値」、「標準偏差」、「T得点(全国比)」及び「有意差」に係る数値等。(ただし、学校別の数値については、男女別の調査対象数及び標本数が3人以下であり、当該学校在籍数と一致する場合を除く。)
- (2)「実技調査」のうち、市町村教育委員会の「総合評価」に係る数値(ただし、参加した小学校又は中学校が1校のみの場合を除く。)
- 体格と肥満度に関する調査(以下「体格等調査」という。)について公開すべき部分
- (1)「体格等調査」のうち、「区分」、「教育委員会番号」、「市町村教育委員会名」、「学校名」、「調査対象数」及び各調査項目に係る「標本数」。
- (2)「体格等調査」のうち、市町村教育委員会の「身長」、「体重」及び「座高」に係る「平均値」、「標準偏差」、「T得点(全国比)」、「有意差」及び「肥満度傾向児・痩身傾向児の出現率」に係る数値(ただし、参加した小学校又は中学校が1校のみの場合を除く。)
- 実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成21年1月21日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「全国体力テスト 市町村別・学校別データ(実技調査の結果及び体格と肥満度に関する調査結果のみ)」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年2月4日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)行政文書の名称
- ア 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(実技調査)
小学校5年生男子 大阪府教育委員会 小学校調査 - イ 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(体格等調査)小学校5年生男子
大阪府教育委員会 小学校調査 - ウ 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(実技調査)
小学校5年生女子 大阪府教育委員会 小学校調査 - エ 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(体格等調査)小学校5年生女子
大阪府教育委員会 小学校調査 - オ 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(実技調査)
中学校2年生男子 大阪府教育委員会 中学校調査 - カ 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(体格等調査)中学校2年生男子
大阪府教育委員会 中学校調査 - キ 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(実技調査)
中学校2年生女子 大阪府教育委員会 中学校調査 - ク 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(体格等調査)中学校2年生女子
大阪府教育委員会 中学校調査
- ア 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(実技調査)
- (2)公開しないことと決定した部分
- ア 各市町村別教育委員会、各学校別の体力に関する調査結果
- イ 各市町村別教育委員会、各学校別の体格に関する調査結果
- (3)公開しない理由
条例第8条第1項第4号に該当する。
「平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」は、国が実施主体となり、市町村教育委員会がそれぞれの判断で参加することにより実施された調査であって、「平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査に関する実施要領」(文部科学省スポーツ・青少年局長通知)において、文部科学省は、調査結果については、過度な競争につながらないようにすること、及び体力は個人の発育発達の状況が大きく関わっていることなどに十分配慮して、適切に扱うものとし、都道府県教育委員会は域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこととしているものである。
また、文部科学省は、当該調査に係る実施要領において、市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねることとしており、実施機関において、各市町村教育委員会に対し、自主的な公表を要請しているところである。
そのため、本件行政文書(非公開部分)を公開すると、市町村教育委員会との信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
- (1)行政文書の名称
- 同年2月6日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全ての情報の公開を求める。
第四 異議申立ての主張要旨
異議申立人の主張は概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張要旨
(1)本件行政文書について
本件行政文書は、平成20年度に実施された全国調査の結果である。
調査内容は、小学校8種目と中学校8種目であり、実技調査と体格と肥満度に関する調査結果が市町村別・学校別に数値化され表記されている。
文部科学省は、これまで抽出型の体力テストを続けてきたが、「こどもの体力が低下してきており、現状をきめ細かく把握、分析して改善に生かす必要」があるとして昨年、全員が対象の体力テストを導入した。
大阪府では、47都道府県のうち、小5で男子42位・女子47位、中2で男子42位・女子39位となった。
部活動への加入率や朝食や睡眠などの生活習慣と平均値との関連性も指摘されており、福井や秋田などの「全国学力テスト」の上位県と体力テストの上位県の一部が重なっていることも明らかとなっており「ある程度の関連性はうかがえる。体力にしても学力にしても、基本的な生活習慣の確立が非常に大事」(文部科学省)としている。
体力の向上(学力の向上)は、家庭における生活習慣の確立が必要不可欠であり学校だけの対応でなく、保護者や地域ごとにきめ細かい施策を行うことが必要である。
(2)条例第8条第1項第4号について
実施機関は、具体的理由を一切示さず、「本件行政文書を公開すると市町村教育委員会との信頼関係を損ない次年度以降の協力が得られない」と主張する。
しかし、早々と公開を決めている大阪市・堺市・神戸市・京都市では「公開によって過度な競争は生じない」としている。
体力テストの市町村別・学校別を公開によって「過度な競争は生じる」とすることは笑止千万であり、「公開することによって市町村教育委員会の協力が得られない」「事務に支障をきたす」とする実施機関の主張は首肯できない。
本件行政文書をすべからく公開し、行政・保護者・地域で将来を担う子どもたちの体力向上に資することこそ緊要である。
以上のとおり、部分公開決定は条例の解釈・運用を怠ったものであり、この処分を取り消し、本件分書の全面公開を求めて異議申立てに及んだ次第である。
2 反論書における主張要旨
(1)体力テストの実施と目的
国はこれまで、抽出形式の体力テストを続けてきたが「子どもの体力が低下しており、現状をきめ細かく把握、分析して改善に活かす必要がある」として、小5年・中2年の全員を対象に昨年4月から7月各校で調べたデータを集約した。この集約した文書の大阪府分が今回請求文書となっている。また、初回の参加率は国公立で約7割(私学は3割)の参加にとどまっており、全員参加の趣旨とは大きくかけ離れた結果となっており、初回の費用は1億8600万円とされている。
文部科学省の平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果について(概要版)によると、調査の目的は
- a子どもの体力が低下している状況にかんがみ、国が全国的な子どもの体力状況を把握・分析することにより、子どもの体力向上にかかる背策の成果と過大を検証し、その改善を図る。
- b教育委員会、学校が全国的な状況との関係において、自らの子どもの体力の向上に係る施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組みを通じて、子どもの体力の向上に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
- c各学校が各児童生徒の体力や生活習慣、食生活、運動習慣を把握し、学校における体育・健康に関する指導などの改善に役立てるとする。
体力テストの実技の項目については、a握力・b上体起こし・c長座体前屈・d反復横跳び・e20mシャトルラン・f50m走・g立ち幅跳び・h持久走・iハンドボール投げ(ソフトボール投げ)・j体力合計点(平均値含む)・k総合評価(茨木市の場合)について記載がある。
(2)茨木市の場合
平成21年2月4日、情報公開請求に対して茨木市は実技に関する平均値を公開した。なお、学校別は非公開となっており、現在異議申立を行っている。
これらの数値の公開によって、茨木市の学校教育や学校現場に支障が出ているといった報告は一切寄せられていないし、市町村の序列化や過度な競争が生じるとする主張は杞憂にすぎないことは明らかである。
なお、茨木市教育委員会によると、市の実技に関する平均値のみでなく、児童生徒の体力や生活習慣、食生活、運動習慣についての分析を近日中にホームページで公表するとしている。
3 実施要領との関係
実施機関は、文部科学省の実施要領に言及しているが、市町村名を明らかにした公表はしない旨の記述がある。条例には、「行政間で公表しない」とする条件の存するという理由に非公開とする規定は存在しない。本件決定の判断は「公にすることにより、同種の事務の公正な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」に該当するかによって判断すべきものであって、実施要領に公表しない旨が規定されていることをもって本件行政文書を非公開とすることはできない。
4 実施機関の主張に対する反論
実施機関は市町村名や学校名を開示することにより、(1)市町村の序列化や過度な競争が生じる、(2)市町村教育委員会の次年度の協力が得られない、(3)全国的な状況が把握できない、と主張する。
- (1)については、具体的内容は示されておらず極めて具体性に欠ける。また、実施機関の非公開としている理由は、本件調査の適正な執行に支障を及ぼすおそれであり、直接学校教育や学校現場に支障がでるというものではなく「序列化や過度な競争が生じる」ことと「調査事務等の公正かつ適切な執行に著しい支障をきたす」ことは直接関係なく、非公開の論拠になり得ない。
- (2)については、実施要領に公表しない旨が規定されていることをもって直ちに本件行政文書を非公開とすることはできない。本件行政文書が公開されることを前提に本件調査が実施された倍、本件調査への協力を躊躇する市町村や学校があって欠く自治体はそれぞれの情報公開に基づき保有する行政文書の公開・非公開を判断するのであるから、大阪府が公開することと市町村が協力しないこととは直接結びつかない。
- (3)については、全国的な状況が把握できないことを理由に「調査事務等の公正かつ適切な執行に著しい支障をきたす」とする実施機関の主張は非公開の論拠になり得ない。
以上、本件行政文書を公開することにより、「当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」があり、非公開とする実施機関の決定は条例の解釈を誤ったものであると言える。
5 結論
実施機関は、体力テストを公開してどのような問題があるのかを一切示さず、非公開の理由もおそれを繰り返すのみである。実施機関の非公開決定は、理由にならず、条例第8条第1項第4号に該当しない。
公金を投入して実施した調査である以上「府民の知る権利」は最大限保障されるべきであり、非公開理由に該当しない限り広く公開するのが条例の趣旨である。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(以下「本件調査」という。)について
(1)本件調査実施要領に関する国会審議等
本件調査の実施にあたっては、次のとおり、まず国会等で序列化や過度な競争につながらないよう配慮がなされるべきであるとする議論がおこなわれている。すなわち、平成20年3月27日国会の参議院文教科学委員会では、全国学力・学習状況調査でもあった、調査結果の取りまとめや分析、公表の際に指摘された問題、序列化の問題や過度の競争意識をあおることを心配する質問に対し、樋口修資文部科学省スポーツ・青少年局長は、「平成20年度から実施いたします本件調査は、私ども、あくまでも全国的な子どもの体力の状況を把握、分析することによって各学校、各地域における子どもの体力向上に関する継続的な検証を行い、改善サイクルを確立するということで、各学校における体育指導の改善に役立てることを目的として実施するものでございまして、過度な競争や序列化を招くことがないよう、公表に当たりましては、国としてしまして国全体の状況と国公私立学校別の状況あるいは都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模別の公立学校全体の状況のみを公表することとしておりまして、都道府県においては個々の市町村名や学校名を明らかにした公表は行わないということで、過度な競争や序列化につながらないような適切な配慮を考えているところでございます。」と答弁している。
また、平成21年1月23日塩谷立文部科学大臣が、記者会見の席上において過度な競争にならないよう実施要領で公表しないこととして実施しているので、そのようにお願いしたい旨の発言を行っている。
(2)調査の目的と調査対象・調査事項
本件調査は、子どもの体力が低下している状況にかんがみ、国が、全国的な子どもの体力の状況を把握・分析することにより、子どもの体力向上に係る施策の成果を検証し、その改善を図るとともに、各教育委員会、学校が全国的な状況との関係において自らの子どもの体力の向上に係施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取り組みを通じて、子どもの体力向上に関する継続的な検証改善サイクルを確立することを目的として、平成20年度に実施した調査である。
調査事項は、実技調査として小学校が、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げの8種目、中学校が、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、持久走、20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げ(持久走か20mシャトルランのどちらか選択)の8種目である。
(3)調査結果の取扱い
文部科学省は、本件調査を実施するにあたり「平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査に関する実施要領(文部科学省スポーツ・青少年局長通知)」(以下「実施要領」という。)を定めて都道府県教育委員会等に通知し、市町村教育委員会等は、この実施要領を前提として本件調査に参加している。
実施要領における、調査結果の取扱いなどの定めは、概ね以下のとおりである。
ア 調査結果の公表
文部科学省は、国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況、都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模等に応じたまとまり(大都市(政令指定都市及び東京23区)、中核市、その他の市、町村、または、へき地)における公立学校全体の状況を公表する。
イ 調査結果の提供
文部科学省は、都道府県教育委員会に対しては,その設置管理する各学校の状況に関する調査結果,当該都道府県における公立学校全体の状況,域内の各市町村における公立学校全体の状況及び市町村が設置する各学校全体の状況に関する調査結果を提供する。
また、市町村教育委員会に対しては,当該市町村における公立学校全体の状況及びその設置管理する各学校の状況に関する調査結果を提供する。
加えて、学校(国・公・私立)に対しては、当該学校全体の状況、各学級及び各児童生徒に関する調査結果を提供する。
そして、学校は、各児童生徒に対して当該児童生徒に関する調査結果を提供する。
ウ 調査結果の取扱いに関する配慮事項
調査結果については、過度の競争につながらないようにすること、及び体力は個人の発育発達の状況が大きく関わっていることなどに十分配慮して、適切に扱うものとされている。
公表する場合においては、本件調査の実施主体が国であることや、市町村教育委員会が基本的な参加主体であることなどにかんがみて、都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと、市町村教育委員会も、域内の学校の状況についての個々の学校名を明らかにした公表は行わないこととされている。
市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること、また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねることとされ、今後の教育活動の取組の状況や調査結果の分析を踏まえた改善方策等を併せて示し、過度な競争につながらない取組が必要とされた。また、都道府県教育委員会が、例えば、教育事務所単位で調査結果を公表するなど個々の市町村名が明らかとならない方法で公表することは可能とされた。
2 本件決定理由について
本件決定は、本件行政文書に記録された情報が条例第8条第1項第4号に該当することから、第二の2(2)公開しないことと決定した部分を除いて、公開することとしたものである。
(1)公開による弊害について
ア 調査事務の目的が達成できなくなるおそれ
国においては、本調査結果が一般的に公開されるとなると、過度な競争が生じるおそれや参加主体からの協力及び国民的理解が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり、これにより、全国的な状況を把握できなくなるなど調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるとして、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として、同法における不開示情報として取り扱うこととする旨を実施要領に明記している。
現在、いくつかの府内市町村教育委員会が既にデータを公表する方針を出しているが、これは市町村自らの分析と併せたデータの公表であり、本件調査の実施要領において、「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。」として認められていることに従った取り扱いに基づくものである。
実施要領において、都道府県教育委員会は域内の市町村教育委員会に対して、指導・助言・連絡等をするなど調査に協力するという役割が与えられており、府教育委員会において、府内市町村教育委員会に対し、文部科学省が定める実施要領に基づき自主的な公表を要請したところである。
この要請を受けて、公表する方針を決めた市町村であっても、実施種目のデータ分析に加え、各市町村や学校の教育活動の取組の状況、調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策等もあわせて示すこととなるため、未だほとんどの市町村が分析中であり、公表に至っていないところがほとんどである。また、参加校数の少ない市町村や規模が小さいため学校が特定されないような工夫をした公表を検討している市町村もあり、実施機関としては、それぞれの市町村の実態や課題に併せた公表がなされるものと考えている。
したがって、本件行政文書を公開することは、都道府県教育委員会が、市町村や学校個々のデータを公表しないという、本件調査の前提を崩す重大な約束違反となり、大阪府のみならず、他の都道府県や市町村に与える影響は極めて甚大である。
また、実施要領は、国会での審議も踏まえた上で定められたものであるがゆえに、本件調査の実施方法に対する国民の信頼が損なわれる場合、次年度以降、全国各地の市町村教育委員会や学校において、協力が得られなくなる可能性があり、全国的な状況が把握できなくなるなど、本件調査の目的である体力向上に関する継続的な検証改善サイクルを確立できなくなるおそれがある。
大阪府の場合でも、実施機関の要請を受けた市町村教育委員会の自主的な分析及び公表並びに取組を待たず、実施機関が本件行政文書を公開することは、府内市町村教育委員会の信頼を大きく損ない、本件調査の今後の適切な実施に著しい不信を抱かせることは明らかであり、次年度以降に市町村教育委員会が調査実施に協力せず、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況との関係において、自らの状況を把握し、子どもの体力向上に向けた取組を促すとした本件調査の目的が果たせなくなるおそれがある。
イ 序列化や過度な競争等調査事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ
国は、実施要領において、調査結果の取扱いについて、過度な競争につながらないようにすること、及び体力は個人の発育発達の状況が大きく関わっていることなどに十分配慮して、適切に取り扱うことなどの慎重な対応をするよう要請している。
しかしながら、国が公表した全国調査の都道府県ごとの結果は、既に一部のマスコミ報道において都道府県が序列化されている状況となっている。大阪府など比較的下位に順位付けされた都道府県においては、体力・運動能力調査の結果が体力・運動能力の一部を表すものにとどまるにも拘わらず、当該都道府県の体力全てが低く評価されてしまう傾向があり、住民の不安や不信感をいたずらにあおる結果が危惧されている。
また、個々の状況分析や今後の個別具体的改善サイクルの確立の実施主体ではない都道府県教育委員会が公開することは、実施機関による各市町村や各学校の調査結果の数値の羅列のみの公開になってしまい、過度な競争につながらないような十分な配慮が不可能であることから、序列が低位の市町村や学校で学ぶ児童生徒が劣等感を抱くというような弊害が生じることが危惧される。
さらに、児童生徒の体力の状況は、学校教育によるところもあるものの、それのみで決まるものではなく、家庭や地域の教育環境などの様々な要因に影響される。本件
調査結果から体力と運動習慣には高い相関関係があるとともに、体力と朝食摂取率や睡眠などの生活習慣も高い相関関係を示すことが明らかになった。子どもの生活習慣は、家庭の生育環境の影響を受けることが指摘されており、本件調査結果を公開すれば地域格差の助長を招くおそれがある。
調査結果の数値のみが公開され、ある市町村や学校の体力合計点が全国や大阪府全体の体力合計点より低かった場合、その原因が当該市町村、地域がどのような環境であるか、保護者の経済力がいかなるものか等の地域の教育環境の問題だけに帰せられたり、「あそこの児童生徒は能力的に劣る。」といった安易な評価がされやすいとの弊害に陥る危険性も憂慮される。
大阪の公立小中学校には校区があり、地域社会で生活する児童生徒には基本的に小中学校を選択することはできない。その中で、序列が低位の市町村や学校で学ぶ児童生徒は、不公平感や劣等感を抱いたり、当該地域や学校に反感や不信感を抱いたりするなど、学習そのものへの悪影響が予想され、他の地域からの恣意的な評価・格付けによるいわれなき差別を受けるおそれもある。
また、本調査で測れる体力は、子どもの体力の特定の一部分にしか過ぎないものであるため、本件調査の結果のみで学校や市町村等の評価などが行われることは適切ではなく、仮に公開する場合においても、説明責任を有する市町村教育委員会ないし各学校が、本調査結果を分析し明らかになった課題やその改善に向けた取組方策を調査結果と合わせて示し、それも含めた活動について、地域や保護者の理解を得ていくために行われることが適切である。
都道府県教育委員会による公開では、このようなきめ細かい配慮ができず、上記のような要素を考慮できない一方的な公開となってしまう。仮に公開に応じれば、一面的な体力に関する数値のみで市町村や学校の教育活動全般が評価されたり、序列化が行われたりすることも予想され、その結果、数値をあげるため特定の種目を重視した偏った指導が行われたり、それら特定の種目に慣れさせるためのスポーツテストを事前に頻繁に実施されたり、又は体力・運動能力の低い児童・生徒にテストを受けさせないなど過度な競争につながることが考えられ、児童生徒の心身のバランスのとれた教育や公正な調査に支障をきたすおそれがある。
都道府県教育委員会が公開することは、府内のみならず全国の市町村、小中学校への多大な影響が考えられるものである。
以上のように、市町村間、学校間の序列化や過度な競争が生じることによって、それらの事態を危惧する市町村教育委員会の次年度以降の協力が得られなくなれば、児童・生徒の体力・運動能力に係る正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
ウ 条例第8条第1項第4号の該当性について
異議申立人は、「公開を決めている大阪市・堺市・神戸市・京都市では『公開によって過度な競争は生じない』としている」とし、また、「公開によって『過度な競争が生じる』とすることは笑止千万」と主張している。しかし、これまで、述べたとおり、本件調査及び実施要領が序列化や過度な競争を避ける目的で設計されている以上、その規定に反し実施機関が情報を公開することは、公正かつ適切な調査に支障を及ぼすことにつながる。また、本件調査の実施に当たっての約束事ともいうべき実施要領に反することで、府内及び全国の市町村教育委員会等との本調査の実施方法に関する信頼が損なわれ、結果として、次年度以降に市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなる。そうなれば、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれが極めて高いと判断できる。
そのほか、実施機関が実施要領に違反して、公開した場合には、文部科学省が次年度以降、実施機関に調査結果の提供に制限を加える可能性もある。そうなれば、今後の実施機関の行う事務においても支障が生じることになる。
よって、今回危惧される事務支障は、単なる確率的な可能性でなく、極めて蓋然性の高いものと考えられるため、異議申立人の主張は失当である。
情報公開制度が求めている透明性の確保や住民への説明責任を果たすべきとの要請については充分理解するものであるが、情報公開制度の要請と本件調査の結果の公開に係る弊害とを充分斟酌していただき、賢明なご判断をお願いするものである。
本件調査が市町村の信頼を失い、府内における参加が減少するような結果になれば、府の子どもたちに対する学習条件の整備や体力向上に向けた取組みに大いなる齟齬をきたすこととなり、実施機関としては、そうした結果が惹起されることを最も怖れるものである。
3 結論
以上のとおり、実施機関による本件決定処分、条例に基づき適正に行われたものであり、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 全国体力・運動能力・運動習慣等調査について
本件調査は、文部科学省が平成20年度に実施した調査である。その目的は、(1)国が、全国的な子どもの体力の状況を把握・分析することにより、子どもの体力向上に係る施策の成果と課題を検証し、その改善を図る、(2)各教育委員会、学校が全国的な状況との関係において自らの子どもの体力向上に係る施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、子どもの体力の向上に関する継続的な検証改善サイクルを確立する、(3)各学校が各児童生徒の体力や生活習慣、食習慣、運動習慣を把握し、学校における体育・健康に関する指導などの改善に役立てる、とされている。
調査対象は国・公・私立学校の小学5年生、中学2年生の原則として全児童・生徒であり、調査項目は、実技調査として小学校が、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げの8種目、中学校が、握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、持久走又は20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げの8種目。そのほか、生活習慣、食習慣、運動習慣に関する質問紙調査が行われている。
また、体格等調査として、小学校及び中学校ともに身長、体重、座高の調査が行われている。
本件調査は、実施主体である文部科学省が、小・中学校の設置管理者である市町村教育委員会等の協力を得て実施するものであり、都道府県教育委員会は、主に、域内の市町村教育委員会に対して、必要な指導・助言・連絡等をするなど調査に協力することとされている。
3 本件調査に係る調査結果の公表等の状況
本件調査に係る調査結果の公表に関し、実施要領では、文部科学省は、(1)国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況と都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模等に応じたまとまり(大都市、中核市、その他の市、町村、へき地)における公立学校全体の状況」を公表する、(2)都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと、(3)市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること、(4)学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること、と定めている。
また、文部科学省は、公表する内容を除く調査結果について公開請求があった場合の対応について、実施要領には、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠に不開示情報として取り扱うとするとともに、教育委員会等においても、それぞれの地方公共団体が定める情報公開条例に基づく同様の規定を根拠に、調査の適正な遂行に支障を及ぼすことのないよう、適切に対応する必要があるとの留意事項を定めている。
一方、実施機関は、平成21年2月に、平成20年度の本件調査の調査結果について、府内の各市町村教育委員会に対し、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村の公立学校全体の結果を自主的に公表するよう要請を行ったこともあり、府内の約5割に当たる20市町村教育委員会が、実技調査の種目別平均値や運動習慣等の調査結果とを合わせた分析を行うなど、それぞれ工夫を凝らしながら、公表している。
4 本件行政文書について
本件行政文書は、文部科学省が実施要領で平成20年4月から7月末までの期間に実施するよう定め、府内の小学5年生及び中学2年生に対して実施した全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果として、文部科学省から実施機関に提供された資料の一部である。本件行政文書となった「実技調査」及び「体格等調査」について、その非公開部分に記録されている情報を整理すると、以下のとおりである。
(1)市町村教育委員会名、学校名、区分及び教育委員会番号
「実技調査」及び「体格等調査」における参加した市町村名、学校名及びそれぞれの区分番号、所属する教育委員会番号が記されている。
(2)「実技調査」及び「体格等調査」におけるa.調査対象数、b.標本数、c.平均値、d.標準偏差、e.T得点(全国比)及びf有意差
aの「調査対象数」には、平成20年度の本件調査を実施した市町村教育委員会名及び学校名ごと、調査種目ごと、小学校及び中学校の男女別に、調査の対象となった児童・生徒数が記録されている。
ただし、本件調査に参加したのは、大阪府全体で、小学校が49.8%、中学校が59.5%であり、全市町村、全小中学校が参加したものではない。そのため、市町村によっては、全小中学校が参加した教育委員会もあるが、小学校又は中学校の参加が全くなかった市町村もある。
bの「標本数」には、各調査に参加した児童・生徒数が記録されているが、調査によっては、参加しなかった児童・生徒があるため人数が異なっている場合がある。
cの「平均値」は各市町村教育委員会及び各学校の平均の値、dの「標準偏差」は平均値とそれぞれのばらつき度合いを現し、「平均値±標準偏差」の範囲内に68%が入る。
eの「T得点(全国比)」は、全国と比較した相対的位置を示し、単位や標準偏差が異なるテスト成績を比較することができる。
fの「有意差」は、全国平均値に対する都道府県平均値、市町村平均値、学校平均値の統計的有意差を示もの。有意水準は5%で判定しており、星印が付いているものは、95%の確率で差があると言えることを示している。
実技調査種目は、小学校が、「握力」、「上体起こし」、「長座体前屈」、「反復横とび」、「20mシャトルラン」、「50m走」、「立ち幅とび」及び「ソフトボール投げ」の8種目、中学校が、「握力」、「上体起こし」、「長座体前屈」、「反復横とび」、「持久走」又は「20mシャトルラン」、「50m走」、「立ち幅とび」及び「ソフトボール投げ」の8種目を基に、「体力合計点」についてbからfの数値が記録されている。
(3)「実技調査」における「総合評価」
「総合評価」は、各市町村教育委員会及び学校ごとに、AからEの5段階評価に分けた児童・生徒の割合が記録されている。
(4)「体格等調査」における「肥満傾向児・痩身傾向児の出現率」
「肥満傾向児・痩身傾向児の出現率」は、「高度やせ(-30%以下)」、「やせ(-20から―29.9%)」、「正常(-19.9から19.9%)」、「軽度肥満(20から29.9%)」、「中等度肥満(30から49.9%)」、「高度肥満(50%以上)」に分類し、各市町村教育委員会及び学校ごとに、それぞれの出現率が記録されている。
5 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件非公開部分に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、検討する。
(1)条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達せられなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
また、本号における「事務の目的が達成できなくなる」とは、事務の性質上、当該情報を公開すれば、事務事業を実施しても期待どおりの結果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいい、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」とは、公開することにより、事務事業の実施時期が大幅に遅れるなど、当該事務事業の質を著しく損なうこと、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力を得ることが著しく困難になることなどをいうものと解すべきであり、本号における「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られると解される。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
本件行政文書は、文部科学省が都道府県教育委員会の協力と市町村教育委員会の参加を得て実施した本件調査の結果をとりまとめ、実施機関に提供した資料の一部であることから、本件非公開部分に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う調査研究に関する情報」として、(1)アの要件に該当することは明らかである。
次に、本件非公開部分に記録された情報が(1)イの要件に該当するか否かについて項目ごとに検討する。
ア 市町村教育委員会名、学校名、区分、教育委員会番号、調査対象数及び標本数
本件調査に参加した市町村名、学校名、それぞれの区分番号がわかるだけであり、府又は国等の事務に著しい支障があるとは認められない。
また、本件調査の集計対象となった児童又は生徒の人数は、男女別、市町村別及び学校別の「調査対象数」並びに調査種目別の「標本数」として記録されているが、これらの情報のうち、文部科学省が大阪府全体の情報については公表しており、その他の情報は公表されていないものの、これらを公開しても、市町村ごと、学校ごと、男女ごと、調査種目ごと、に参加した児童・生徒数がわかるだけであるので、本項の情報は、府又は国等の事務に著しい支障があるとは認められず、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。
イ 「実技調査」におけるa.平均値、b.標準偏差、c.T得点(全国比)及びd.有意差
実技調査における情報は、小学校が握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げの8種目、中学校が握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、持久走又は20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げの8種目の実技に関する結果の平均値等の数値である。
- (ア)市町村別の「実技調査」における平均値等について
市町村別の実技調査の数値のうちa.平均値ないしc.T得点(全国比)の数値については、これらを公開することにより、市町村の序列をつけることは容易ではあるが、体力テストにおいては、実技調査の結果を公開することによって、過度の競争につながり、児童・生徒の不公平感や劣等感によって学習活動への著しい悪影響が生じるおそれがあるとは言い難い。むしろ、広く地域住民が、地域の教育環境や学校教育の在り方等について、関心を持ち、保護者や地域全体で学校を支援することにより、運動習慣の改善に向けた健康づくりや体力づくり等に取組んでいくことが期待され、過度にならない程度の競争であれば、児童・生徒の健康増進に繋がっていくという側面もある。
なお、小中学校の設置者である市町村教育委員会は、住民に対する説明責任を果たすため、自らの調査結果を公表することは文部科学省の要領でも容認されており、実際に、約半数の市町村教育委員会が本件調査結果の分析や概要について、工夫を凝らしてホームページなどで公表している。
また、d.有意差に星印が付されていることによって、当該市町村が全国平均より上位又は下位に有意差があることが明らかになるが、これによって、各児童・生徒が劣等感を持つ可能性はあまり大きくない。
以上のことから総合的に判断すると、市町村別の「実技調査」におけるa.平均値、b.標準偏差、c.T得点(全国比)及びd.有意差については、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、(1)イの要件に該当するとまでは言えない。 - (イ)学校別の「実技調査」における平均値等について
学校別の実技調査のうちa.平均値ないしc.T得点(全国比)の数値については、これらを公開することにより、学校別の序列をつけることは容易ではあるが、学力テストとは異なり、体力テストにおいては、本項の情報の公開によって、過度の競争につながり、児童・生徒の不公平感や劣等感によって学習活動への著しい悪影響が生じるおそれがあるとは言い難い。むしろ、広く地域住民が、地域の教育環境や学校教育の在り方等について、関心を持ち、保護者や地域全体で学校を支援することにより、運動習慣の改善に向けた健康づくりや体力づくり等に取組んでいくことが期待され、過度にならない程度の競争であれば、児童・生徒の健康増進に繋がっていくという側面もある。
また、d.有意差に星印が付されていることによって、当該学校が全国平均より上位又は下位に有意差があることが明らかになるが、これによって各児童・生徒が劣等感を持つ可能性はあまり大きくない。
本件調査は、実施初年度であったことから、全国的にも参加率が低く、小学校又は中学校が1校しか参加していない市町村も多いため、標本数が少ない学校もあるが、標本数が一定数以上ある場合には、実技調査のa.平均値、b.標準偏差、c.T得点(全国比)及びd.有意差から、特定の児童・生徒の数値が識別され得ることはない。
以上のことから総合的に判断すると、学校別の「実技調査」におけるa.平均値、b.標準偏差、c.T得点(全国比)及びd.有意差については、標本数が一定数以上ある場合には、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、(1)イの要件に該当するとまでは言えない。
ただし、学校別の調査対象数が3人以下など極端に少ないものについては、当該学校の在籍児童・生徒数と一致すれば、特定の個人の実技調査の数値が明らかになるおそれがある。また、本来の在籍児童・生徒数は多いが、本件調査に参加した調査対象者数が少なくなった場合を除き、調査対象数及び標本数が3人以下の場合は、実技調査の結果自体は平均値であったとしても、標準偏差の数値によっては個人の調査結果が類推できるおそれがある。
このように、学校別の数値については、調査対象数及び標本数が一定数以上ある場合については、特定の個人を識別できないが、調査対象数及び標本数が3人以下と極端に少ない場合には、特定の個人を識別し得る可能性が非常に高くなり、そのため、本件実技調査を受けたくないという児童・生徒が現れ、本件調査や今後同種の調査実施が著しく困難になるおそれが高いと考えられる。
以上のことから、本来の在籍児童・生徒数が3人以下である学校別の「実技調査」におけるa.平均値、b.標準偏差、c.T得点(全国比)及びd.有意差については(1)イの要件に該当し、公開しないことができる。
また、このように特定の個人が識別され得る場合には、本項の情報は、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めた条例第9条第1号の「特定の個人が識別され得るプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」にも該当すると認められることから、公開してはならない情報と判断できる。
ウ 「実技調査」における「総合評価」
実技調査における「総合評価」に関する情報は、市町村別及び学校別に、AからEの5段階評価に分け、それぞれの児童・生徒の割合が記録されているものである。
- (ア)市町村別の「実技調査」における「総合評価」について
市町村別の「総合評価」は、市町村全体の調査対象数及び標本数であるため、一定の人数があり、学校も特定されないことから個人が識別され得る可能性は低い。また、実技調査の種目別の結果と同様に、これを公開することにより、広く地域住民が、地域の教育環境や学校教育の在り方等について、関心を持ち、保護者や地域全体で学校を支援することにより、運動習慣の改善に向けた健康づくりや体力づくり等に取組んでいくことが期待され、過度にならない程度の競争であれば、児童・生徒の健康増進に繋がっていくという側面もある。
この市町村別の「総合評価」は、学校別の「総合評価」のように直接、児童・生徒が属する集団のものではないことから、これを公開することによって、児童・生徒に対し劣等感を与えたり、学習活動への著しい悪影響を生じさせるおそれがあるとは言い難い。
以上のことから、市町村別の「実技調査」における「総合評価」については、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、(1)イの要件に該当するとまでは言えない。 - (イ)学校別の「実技調査」における「総合評価」について
学校別の「総合評価」は、学校毎に総合評価の5段階のうち、「A」が多い学校、「E」が多い学校等が明らかになるものであり、学校の評価に繋がりかねず、このことが直ちに当該学校に属する児童・生徒の評価と捉えられかねない。特に調査対象数及び標本数が少ない学校では、どの評価に何人が属しているかの推定が容易であり、特定の個人が識別され得る可能性が非常に高くなるものである。
また、学校別の「総合評価」は、直接、児童・生徒が属する集団の評価であり、公開することによって、児童・生徒に対して無用の劣等感を与えたり、学習活動への著しい悪影響を生じさせるおそれや、いじめに繋がる可能性も否定できない。ひいては実技調査を受けたくないという児童・生徒が現れ、本件調査や今後同種の調査の実施が著しく困難となるおそれが高いと考えられる。
以上のことから、学校別の「実技調査」における「総合評価」については、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、著しい支障を及ぼすおそれがあるため、(1)イの要件に該当し、公開しないことができる。 - (ウ)参加した学校が1校のみの市町村別「実技調査」における「総合評価」について
実技調査に参加した市町村で、小学校又は中学校がそれぞれ1校のみの市町村は、小学校で8市町、中学校で10市町村ある。これらは、市町村別の数値と学校別の数値とが完全に一致することになるため、上述したように児童・生徒への影響が大きいことを勘案すると、(1)イの要件に該当し、公開しないことができると判断することが妥当である。
エ 「体格等調査」における身長、体重及び座高のa.平均値、b.標準偏差、c.T得点(全国比)、d.有意差並びにe肥満傾向児・痩身傾向児の出現率
体格等調査における情報は、身長、体重、座高、肥満傾向児・痩身傾向児の出現率といった児童・生徒の身体的特徴である体格に関するセンシティブな情報であることから、他人に知られたくないプライバシー情報になり得る情報である。特に、小規模の学校の場合には、調査対象数及び標本数が少なく、個人を特定し得る可能性が極めて高い。なかでも、「肥満傾向児・痩身傾向児の出現率」については、「高度やせ(-30%以下)」から「高度肥満(50%以上)」までの6区分に分類され、それぞれの出現率が記録されているため、調査対象数から積算すると、どの区分に何人該当するかが算出でき、調査対象数が少ない場合には、ある区分に属するのが誰であるかを推定できる情報である。
- (ア)市町村別の「体格等調査」について
市町村別の「体格等調査」の数値は、調査対象数及び標本数が一定数あり、特定の個人が識別され得る可能性は低い。また、これらを公開することにより、保護者や地域全体で学校を支援する健康づくりや体力づくりに取り組んでいくことが期待され、家庭における生活習慣の改善、健康増進へのより良い取組みを促すことに繋げていくという側面もある。
市町村別の「体格等調査」の数値は、学校別の数値のように直接、児童・生徒が属する集団のものではないことから、これを公開することによって、児童・生徒に対し劣等感を与えたり、学習活動への著しい悪影響を生じさせるおそれがあるとは言い難い。
以上のことから、市町村別の「体格等調査」の数値については、児童生徒が直接所属する学校別の情報とは異なり、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでは認められず、(1)イの要件に該当するとまでは言えない。 - (イ)学校別の「体格等調査」について
学校別の「体格等調査」の情報については、児童・生徒の身体的特徴である体格に関するセンシティブな情報であり、上述したように、これらが公開されると、「肥満傾向児・痩身傾向児の出現率」の「高度やせ(-30%以下)」、「やせ(-20から―29.9%)」、「正常(-19.9から19.9%)」、「軽度肥満(20から29.9%)」、「中等度肥満(30から49.9%)」、「高度肥満(50%以上)」までの6区分の分類のうち、どの区分に何人が属しているかが推定できることにより、特定の個人が識別され得る可能性が高くなること、また、学校によって、どの分類が多いか少ないかについて明らかになることから、いじめ等に繋がるおそれがあり、児童・生徒への影響、教育活動への支障が生じるおそれは著しく高いと考えられ、これら学校別の数値が公開されると、この体格等調査を受けたくないという児童・生徒が現れ、本件調査や今後同種の調査の実施が著しく困難となるおそれが高いと考えられる。
以上のことから、学校別の「体格等調査」の数値については、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、著しい支障を及ぼすおそれがあると認められ(1)イの要件に該当し、公開しないことができる。 - (ウ)参加した学校が1校のみである市町村別の数値について
小学校又は中学校がそれぞれ1校しか参加していない市町村については、市町村別の数値と学校別の数値とが完全に一致することになるため、上述したように児童・生徒への影響が大きいことから、(1)イの要件に該当し、公開しないことができる。
そのほか、実施機関は、「本件調査結果の数値のみが公開され、ある市町村や学校の体力合計点が全国や大阪府全体の体力合計点より低かった場合、その原因が当該市町村、地域がどのような環境であるか、家庭の状況がいかなるものか等の子どもをとり巻く環境の問題だけに帰せられたり、「あそこの児童生徒は能力的に劣る。」といった安易な評価がされやすい。」「本件調査で測れる体力は、子どもの体力の特定の一部分にしか過ぎず、一面的な体力に関する数値のみで市町村や学校の教育活動全般が評価されたり、序列化が行われたりする結果、数値をあげるため特定の種目を重視した偏った指導が行われたり、特定の種目に慣れさせるためのスポーツテストを事前に頻繁に実施されたり、体力・運動能力の低い児童・生徒にテストを受けさせないなど過度な競争につながることが考えられる。」などと主張しているが、このような支障は、現に実施機関や多くの市町村教育委員会が行っているように、府民に対して、本件調査の意義や限界を正確に説明し、質問紙調査を含めた調査結果を的確に分析した情報を公表するとともに、学校や教職員に対する適切な指導を徹底することにより、相当程度防止できるものである。
6 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件非公開部分のうち公開を求める部分について理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
鈴木秀美、岩本洋子、大和正史、野呂充