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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第186号)
全国知事会政権公約評価特別委員会へ提出した大阪府知事の評価文書部分公開決定異議申立事案
(答申日 平成22年3月30日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないこととした部分を公開すべきである。
第二 異議申立ての経過
- 平成21年8月24日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「全国知事会の政権公約評価で橋下知事の評価が分かる書類すべて」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年8月25日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として「全国知事会政権公約評価特別委員会への大阪府知事評価の提出について」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)公開しないことと決定した部分
採点欄 - (2)公開しない理由
条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、大阪府知事の各政党のマニフェストに対する項目ごとの評価(採点)が記載されており、これらを公にすると、政党各会派等との関係に混乱が生じ、今後の府政運営に著しい支障を及ぼすおそれがある。
- (1)公開しないことと決定した部分
- 同年9月1日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、全部公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
2008年1月の知事選で橋下知事に投票した有権者はもとより、一般府民の関心が非常に高い情報であることが第一の理由である。橋下知事は地方首長と結成した首長連合で、「民主党の地方分権策を支持する」と表明し、有権者にメッセージを送った。この経緯を踏まえても、橋下知事は、自身はどのように各政党の公約を評価したのか、有権者に対して説明を尽くす責任があると思われる。
非公開理由の中で、橋下知事は「政党各会派等との関係に混乱が生じ、今後の府政運営に著しい支障を及ぼす恐れがある」と述べているが、橋下知事は会見等ですでに「民主の方がいい」といった趣旨の発言を繰り返しており、今回の採点文書を非公開にするのは納得できない。
また、橋下知事が2008年1月の知事選で配布した『橋下とおるの基本政策』では、「情報公開の徹底した大阪」「全国自治体の情報公開ランキングでトップを目指す」ということを公約に掲げており、今回の決定は公約を裏切るものだと思われる。情報公開推進に尽力している普段の橋下知事の政治姿勢からも、かけ離れた判断だと指摘せざるを得ない。
2 その他の主張
本件決定の非公開理由は「これらを公にすると、政党各会派等との関係に混乱が生じ、今後の府政運営に著しい支障を及ぼす恐れがある」となっているが、具体的にどのような「今後の府政運営に著しい支障を及ぼす恐れ」があるのか説明がなく、納得できない。
また、実施機関は各知事個別の採点結果は公表しないことを前提に採点を行ったと主張するが、すでに自ら採点結果を公表している知事が複数存在する。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 全国知事会の政権公約評価について
全国知事会は、地方分権改革を各政党に強く働きかけることを目的として、実施機関を含む29知事(以下「各知事」という。)により構成される政権公約評価特別委員会(以下「特別委員会」という。)において、各知事個別の採点結果についてはこれを公表しないことを前提に、各政党のマニフェストを採点することとした。
これにより、各知事は、本件行政文書の様式に従って採点を行い、採点結果を特別委員会に提出し、特別委員会は、提出された採点結果を集計して各項目の平均点を算出した。
平成21年8月8日に、特別委員会委員長(佐賀県知事 古川康)は記者会見を行い、集計の結果、算出された平均点を全国知事会の一致した評価として、これを公表するとともに、各知事個別の採点結果については公表しない前提である旨を説明した。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、全国知事会が一致して各政党のマニフェストの評価を点数化するために、実施機関が特別委員会に提出した書類である。
本件行政文書に記載する内容は、
- 政党名
- 評価項目・視点
- 配点
- 採点
- 特に付言すべきコメント
となっている。
このうち、公開しないことと決定した部分は「採点」を記載した欄である。
3 本件決定の適法性について
(1)条例第8条第1項第4号について
条例第8条第1項第4号は、府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものに該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができると規定している。
(2)上記(1)の要件について
本件行政文書(非公開部分)には、実施機関が行った各政党のマニフェストに対する項目ごとの評価(採点結果)が記載されており、これらを公にすると、政党各会派等との関係に混乱が生じ、今後の府政運営に著しい支障を及ぼすおそれがある。したがって、上記の情報は、上記(1)の要件に該当する。
4 異議申立人の異議申立書における主張について
異議申立人は「橋下知事は地方首長と結成した首長連合で、「民主党の地方分権策を支持する」と表明し、有権者にメッセージを送った。この経緯を踏まえても、橋下知事は、自身はどのように各政党の公約を評価したのか、有権者に対して説明を尽くす責任があると思われる。」としている。
首長連合とは、橋下知事が政治家個人として参加している自治体首長有志の政治グループである。首長連合は、平成21年8月11日に、各政党の政権公約評価を公表したが、これについても、全国知事会の政権公約評価と同様、あくまで首長連合という団体としての評価を公表したものであり、首長連合を構成する各首長個別の評価を明らかにするものではない。
また、異議申立人は「非公開理由の中で、橋下知事は「政党各会派等との関係に混乱が生じ、今後の府政運営に著しい支障を及ぼす恐れがある」と述べているが、橋下知事は会見等ですでに「民主の方がいい」といった趣旨の発言を繰り返しており、今回の採点文書を非公開にするのは納得できない。」としている。しかし、これらの発言は、実施機関として個別の評価を述べたものではなく、首長連合が行った評価について述べたものである。
実施機関が、各政党の政権公約をどのように評価したかについては、全国知事会、首長連合のいずれの政権公約評価に際しても、一貫して公表していない。
さらに、異議申立人は「情報公開推進に尽力している普段の橋下知事の政治姿勢からも、かけ離れた判断だと指摘せざるを得ない。」としているが、本件については、本件部分公開決定通知書の「公開しない理由」に記載した理由により、部分公開決定を行ったものである。
5「府政運営に著しい支障を及ぼすおそれ」の具体性について
本件行政文書(非公開部分)には、実施機関が行った自由民主党・公明党・民主党(以下「各政党」という。)のマニフェストに対する項目ごとの評価(採点結果)が記載されており、これらを公にすると、政党各会派等との関係に混乱が生じ、具体的には今後の議会運営等に著しい支障を及ぼすおそれがある。
実施機関による各政党のマニフェストの評価・採点という文書の性格上、他の行政文書と比べて、より直接的に政党各会派等との関係に混乱を生じるおそれがあり、また、橋下知事の全国的な知名度の高さを鑑みると、本件行政文書の評価・採点結果がメディア等において過度にクローズアップされる蓋然性が高く、混乱に拍車をかけることも考えられる。
なお、本件行政文書による評価・採点が第45回衆議院議員総選挙を睨んだ政治状況下で行われ、同選挙が平成21年8月30日に投開票を終えていることを踏まえて、すでに非公開とする理由はないとの反論も考えられるが、本件行政文書を全部公開することによる府政運営への支障は、橋下知事が在職している限りは生じうるものである。したがって、衆院選後であることは本件行政文書を全部公開する理由にはならない。
6 一部の知事が評価を公表していることについて
全国知事会は、地方分権改革を各政党に強く働きかけることを目的として、各知事により構成される特別委員会において、各政党のマニフェストを採点することとした。平成21年8月8日に、特別委員会委員長(佐賀県知事 古川康)は記者会見を行い、集計の結果、算出された平均点を全国知事会の一致した評価として、これを公表するとともに、各知事個別の採点結果については公表しない前提である旨を説明した。
その後、埼玉県・神奈川県・三重県・兵庫県の各知事が、定例会見等で個別の採点結果(点数)を公表したが、これは特別委員会の方針に反するものであり、特別委員会としては、個別の採点結果(点数)の公表はしていないところである。
個別の採点結果(点数)を公表した県では、「著しい支障」が生じていないとの反論も考えられるが、先述のとおり、橋下知事の全国的な知名度の高さを鑑みると、大阪府でこれらの県と同様に著しい支障が生じないとは言えない。
7 結論
以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、かつ部分非公開とするに足る十分な理由があり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、地方分権改革を各政党に強く働きかけることを目的として、全国知事会が一致して各政党のマニフェストの評価を点数化するために、実施機関が特別委員会に提出した書類であり、「政党名、評価項目・視点、配点、採点、特に付言すべきコメント」が記載されている。本件行政文書のうち、公開しないことと決定した部分は「採点欄」である。
特別委員会は、各知事から提出された採点結果を集計して各項目の平均点を算出し、算出された平均点を全国知事会の一致した評価として公表した。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
異議申立人は本件行政文書の全部公開を求め、実施機関は本件非公開部分が条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。
(1)条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。
同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
本件非公開部分が上記(1)ア及びイの要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。
本件行政文書は、実施機関が特別委員会に提出するために職務上作成し、保管している文書であるから、本件非公開部分に記載された情報は(1)アに該当する。
次に、本件非公開部分が(1)イの要件に該当するかどうかについて検討する。
実施機関は、本件非公開部分(採点欄)を公開すると「政党各会派等との関係に混乱が生じ、今後の府政運営に著しい支障を及ぼすおそれがある」と主張するが、異議申立人は「今後の府政運営に著しい支障を及ぼす恐れ」には具体性がないと主張する。
本件非公開部分を公開した結果、仮に大阪府議会の運営事務において多少のやりにくさが生じたとしても、「今後の府政運営に著しい支障を及ぼす」とまでは認められない。本件非公開部分に記載されている情報は公人としての具体的な政策に対する評価であり、このような情報は公開した上で、支障が起こらないよう説明を尽くすべきである。
また、本件非公開部分は各政党のマニフェストのうち分権についての評価に過ぎず、個人の支持政党を表明したものではないことからも、説明を尽くせば著しい支障が生じるとまでは認められない。
したがって、本件非公開部分は(1)イの要件に該当するとは認められず、公開すべきである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
鈴木秀美、松田聰子、山口孝司、細見三英子