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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第183号)
都市再生機構職員の官職氏名記載行政文書不存在決定異議申立事案
(答申日 平成22年3月19日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成21年2月23日、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「吹田操車場跡地土地区画整理事業の事業計画について土地区画整理法第71条の3第6項に基づき国土交通大臣に送付した資料一切と、持参した都市再生機構の職員の官職氏名」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成21年2月27日、本件請求に対応する行政文書として、「吹田操車場跡地土地区画整理事業の事業計画について土地区画整理法第71条の3第6項に基づき国土交通大臣に送付した資料一切」の部分について、「平成21年2月16日付け、市整第2058号 北部大阪都市計画事業吹田操車場跡地土地区画整理事業の施工規定及び事業計画に対する意見書について」(以下「市整第2058号文書」という。)を特定し、部分公開決定を行った。
一方、実施機関は、「持参した都市再生機構の職員の官職氏名」の部分について、条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して異議申立人に通知した。
(公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
作成又は取得しておらず、保有していないため。 - 異議申立人は、平成21年3月9日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立てを行った。
第三 異議申立の趣旨
本件決定を取消し、公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張について、異議申立書、反論書及び口頭意見陳述を総合すると、概ね次のとおりである。
- 異議申立人は、吹田操車場跡地土地区画整理事業についての意見書を実施機関に提出した。実施機関は意見書を大阪府都市計画審議会に提出し、同審議会において意見書「不採択」の結論がなされた。
実施機関は同審議会の結論について市整第2058号文書を作成し、国土交通大臣あてに送付しているが、大阪府知事名で国土交通大臣あてに送付した市整第2058号文書について、送付日、送付の方法等を記録した公文書がないとは考えられない。
第三者である独立行政法人都市再生機構(以下「都市再生機構」という。)の職員が市整第2058号文書を送付したため、実施機関には送付の記録がないというのであれば、公文書の管理方法の杜撰さを暴露したことになる。 - 実施機関は弁明書において、市整第2058号文書は土地区画整理法第71条の3第6項の規定に基づき国土交通大臣に送付することを決定したが、同法には送付方法や手段についての規定はないことから都市再生機構を通じて送付したと述べている。しかしながら、送付方法や手段の規定がないのは、実施機関の直接送付を前提としていることから当然のことであり、第三者を通じての送付は想定になく異例のことである。実施機関では、各省への送付の方法や手段について規定が無い場合、第三者への送付依頼を日常的に行っているのか。
また、実施機関は、同法においては送付の記録を作成することは義務付けられていないことから記録を作成していないと述べているが、公文書を送付する場合には規定の有無に関わらず記録を作成することは当然のことである。
さらに、実施機関は文書の送付について、郵送における郵便料金の支出や旅費を伴う場合には記録が存在することを認めているが、市整第2058号文書を送付したのは大阪府の職員ではなく都市再生機構の職員であるから行政文書は存在しないと述べている。しかしながら、都市再生機構という第三者に異例の送付依頼を行えば、その職員の官職氏名を明記することは当然のことである。
これら実施機関の非常識な弁明は公務員の責務を放棄したものと言わざるを得ない。 - 実施機関は弁明書において、吹田操車場跡地土地区画整理事業について都市再生機構と相互協力を定めた協定を締結したと述べているが、これは、大阪府における同事業推進の立場を明記したものであり、大阪府と都市再生機構は同事業において利害関係が一致していることを示している。
そして、異議申立人が実施機関に提出した意見書の取り扱いについても、実施機関は故意に添付資料を割愛し、意見書を勝手に要約して都市再生機構に示し、それに対する見解を文書にして大阪府都市計画審議会の資料にしている。何故、実施機関は意見書と別添資料の全てを都市再生機構に示して見解を聞かなかったのか。同審議会の決定文書を国土交通大臣に送付するまで、実施機関において都市再生機構の立場に立った不可解な対応がなされたと言わざるを得ない。
また、実施機関の送付の方法の是非について国土交通省に確認したところ、都道府県の公文書は都道府県が直接送付すべきものであり、第三者に送付を依頼することは不適切であり、今後は直接送付をするよう勧告を行った旨の回答を受けている。しかも今回実施機関が送付を依頼した都市再生機構は、同事業の施行者であることから、同事業について全くの第三者ではなく利害関係がある。そして、都市再生機構は意見書提出者に対しても利害関係があるのである。
このような理由から、実施機関の送付方法は極めて不適切であると言わざるを得ない。 - 市整第2058号文書の送付の経緯について、都市再生機構の職員に確認したところ、職員は「国土交通省へ持参した職員は複数であること。」「氏名については大阪府に情報公開請求が出ているので勘弁してほしい。」と述べており、実施機関は都市再生機構に対して口止めとも取れる行為を行っているのではないか。
実施機関が公文書の送付の記録を作成することは当然のことであり、記録は存在するはずである。なぜ実施機関は都市再生機構の職員の官職氏名を公開することができないのか。
実施機関における今回の杜撰な公文書の送付方法に対する責任を明らかとし、二度とこのようなことをしてもらいたくはないという思いから異議申立てを行うものであり、記録を隠蔽する理由について大阪府情報公開審査会は詳しく調査を行い、合理的な判断をされたい。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 吹田操車場跡地土地区画整理事業について
吹田操車場跡地土地区画整理事業は、JR東海道線の岸辺駅北側に位置する面積約22.1ヘクタールについて、大阪府、地元市、都市再生機構等の間で相互協力を定めた協定を締結し、平成20年11月28日に、都市再生機構から、国土交通大臣あて事業計画の認可申請が行われた。
同事業について、土地区画整理法第71条の3第6項「都道府県知事は、(利害関係者から)意見書の提出があった場合においては、遅滞なく、当該意見書について都道府県都市計画審議会の意見を聴き、その意見を付して、これを国土交通大臣に送付しなければならない。」の規定に基づき、実施機関に対し意見書が提出されたことから、実施機関は、大阪府都市計画審議会に意見照会を行い、同審議会の意見を付した市整第2058号文書を、都市再生機構を通じて国土交通大臣あて送付した。
2 本件決定について
市整第2058号文書は、土地区画整理法第71条の3第6項の規定に基づき、適切な事務手続きを経て国土交通大臣に送付することを決定したものであるが、その際に送付の方法や手段まで定めておらず、誰が届けたのかなどを記した行政文書の作成は義務付けられていないので、本件請求のうち「持参した都市再生機構の職員の官職氏名」にかかる行政文書は実施機関において作成していない。
なお、一般的に大阪府の行政文書の送付に当たって、郵送による郵便料金の支出や出張旅費を伴うものは、経費の支出に関する記録として存在する場合もあるが、本件請求の対象となっているのは、大阪府の職員ではなく都市再生機構の職員の官職氏名であり、実施機関においては存在しないものである。
3 実施機関の結論
以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を促進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下であっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 実施機関における市整第2058号文書の送付の経緯について
実施機関及び異議申立人が行った説明などにより、以下のことが認められる。
市整第2058号文書は、吹田操車場土地区画整理事業に関して、実施機関が都市再生機構を通じて国土交通大臣に送付した文書である。
吹田操車場跡地土地区画整理事業は、JR東海道線の岸辺駅北側に位置する面積約22.1ヘクタールについて、大阪府、地元市、都市再生機構等の間で相互協力を定めた協定を締結し、施行主体となる都市再生機構において、平成20年11月28日、国土交通大臣に事業計画の認可申請が行われた土地区画整理事業である。
異議申立人は、同事業について、土地区画整理法第71条の3第5項に定められた、「利害関係者は、前項の規定により縦覧に供された施行規定及び事業計画について意見がある場合においては、縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までに、都道府県知事に意見書を提出することができる」との規定に基づき、平成21年1月7日付の意見書を実施機関に提出した。
実施機関は、提出された意見書について、土地区画整理法第71条の3第6項に定められた、「都道府県知事は、前項の規定により意見書の提出があった場合においては、遅滞なく、当該意見書について都道府県都市計画審議会の意見を聴き、その意見を付して、これを国土交通大臣に送付しなければならない」との規定に基づき、平成21年2月9日、大阪府都市計画審議会に意見照会を行い、「本意見書に係る意見を採択すべきでない」との審議会の意見を付した市整第2058号文書を作成し、都市再生機構を通じて国土交通大臣へ送付した。
3 本件決定の妥当性について
(1)実施機関における行政文書の送付の方法及び記録の実情について
実施機関が行った説明により、以下のことが認められる。
実施機関においては、行政文書の送付の方法について具体的に定めた規定は無く、送付の方法については、各職員に任されているのが実情である。
また、行政文書の送付の記録についても、これを直接義務付けた規定は定められていないが、郵送による郵便料金を支出する場合や出張旅費を伴う場合には、経費の支出に関する記録により、送付者や送付日等が間接的に記録されることとなる。しかしながら、経費の支出を伴わない場合には、文書送付の記録は報告書を別途作成している場合を除き存在せず、このような報告書の作成を義務付けた規定は定められていない。
(2)市整第2058号文書の送付を都市再生機構に依頼した実情について
実施機関が行った説明により、以下のことが認められる。
土地区画整理法では、実施機関に提出された意見書について、都道府県都市計画審議会の意見を付して国土交通大臣に送付することを定めているが、送付の方法までは具体的に定められていない。
また、吹田操車場跡地土地区画整理事業については、大阪府、吹田市、摂津市、都市再生機構、鉄道・運輸機構、JR貨物の六者の間で協定を締結し、相互協力として「本地区整備の円滑な推進に努める」ことを約束しており、都市再生機構は国土交通省との間で文書の授受等の業務連絡を頻繁に行っている。
さらに、実施機関は過去においても、国土交通大臣へ送付する文書について都市再生機構に送付の依頼を行っている。
以上の理由により、実施機関の担当職員は、都市再生機構に対して市整第2058号文書の送付を依頼した。依頼の方法は、担当職員が会議に出席した際に、同席した都市再生機構の職員に口頭で依頼している。
担当職員は都市再生機構に送付を依頼した後、国土交通省に電話で文書の到達を確認しているが、これらの経緯について記録は作成しておらず存在しない。また、会議の出席には出張旅費を伴わなかったことから、経費の支出に関する記録についても存在しない。
担当職員は文書の到達については上司に報告したが、送付の経緯については上司に報告をしておらず、記録も作成していなかったため、実施機関においては本件異議申立があった後に担当職員に確認し、初めて送付の経緯が明らかとなったのが実情である。
(3)市整第2058号文書を送付した都市再生機構の職員の官職氏名を記録した行政文書が存在するか否かについて
本項に該当する行政文書が存在しないことについて、実施機関は、担当職員は都市再生機構の職員に口頭で市整第2058号文書の送付を依頼しており、依頼の際には出張旅費を伴わなかったことから経費の支出に関する記録は存在せず、さらに、担当職員は別途記録を作成していないことから、本項に該当する行政文書は存在しないと説明する。
これらの実施機関の説明について検討すると、国土交通大臣への送付の方法についての是非はともかくとして、(1)で述べた実施機関における行政文書の送付の方法についての実情や、(2)で述べた実施機関におけるこれまでの国土交通大臣への送付の実情などからすると、担当職員が都市再生機構の職員に送付を依頼したという説明には、特段、不自然な点は認められない。
そして、都市再生機構への送付の依頼には経費の支出は発生していないことから、経費の支出に関する記録は存在しないと認められ、送付の記録を作成していないという説明についても、(1)で述べた実施機関における文書の送付の記録についての実情からすると、特段、不自然な点は認められず、本項の行政文書は存在しないと認められる。
以上(1)~(3)で述べたところにより、本件決定は妥当であると認められる。
4 文書送付の方法と記録の作成について
本件決定の適否についての審査会の判断は以上のとおりであるが、行政文書の送付の方法と記録の作成について要望を付け加える。
実施機関は市整第2058号文書を国土交通大臣に直接送付すべきであり、また、今回のように第三者に送付を依頼した場合には送付の記録を作成しておくべきであったと考える。
確かに実施機関が主張するとおり、土地区画整理法や実施機関の規定等において、文書送付の方法や記録の作成については定められていない。
しかしながら、市整第2058号文書のように法律の規定に基づき送付する文書である以上、実施機関が直接送付することは文書管理上当然のことであると考える。
また、法律の規定に基づき文書を送付する場合には最低限の記録は作成するべきであり、経費の支出に関する記録が存在しない場合や今回のように第三者へ送付を依頼する場合などには、別途報告書等の記録を作成し、送付の経緯を明らかにしておくことが府民への説明責任を果たす上で必要な事務手続きであると考える。
今後は、実施機関において適正な文書管理を図るとともに、行政文書の送付の方法と記録の作成について十分配慮されるよう望むものである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議に関与した委員
鈴木秀美、松田聡子、山口孝司、細見三英子