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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第179号)
ダムに関する学識経験者からの知事ヒアリング概要公開決定(文書特定)異議申立事案
(答申日 平成22年1月8日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公開決定について、「平成20年7月8日の小沢福子府議に対する知事答弁の内、安威川ダムに関して、知事が会われた地域活動をしている方について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」の請求部分に対して、不存在による非公開決定を行うべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経緯
- 平成20年8月13日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「平成20年7月8日の小沢福子府議に対する知事答弁の内、安威川ダムに関して、知事が会われた反対派および、地域活動をしている方について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同月27日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「ダムに関する学識経験者からの知事ヒアリング 概要」(以下「本件公開文書」という。)を特定の上、全部公開するとの公開決定(以下「本件決定」という。)」を行い、異議申立人に通知した。
- 同年9月18日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、「文書不存在による非公開処分」とすることを求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 本件異議申立てを行った経緯
異議申立人は、これまで、およそ30年もの間、安威川ダム建設に反対する立場で地域活動に取り組んでいる。ダム建設については、長野県や熊本県でのダム建設中止の決定や淀川流域委員会での「ダム建設中止勧告」などダム建設の是非を問う大きな議論が生じる状況にある。
大阪府においては、橋下知事が7月府議会での府営安威川ダム建設についての質疑で、「(ダム建設については)一定の手続きを踏まえていますので、あとは直接いろんな方のご意見を伺うかどうかですが、僕も一生懸命反対派の意見も、学者さんの意見も聞きました。(略)地域活動をやってらっしゃるような方にも会ったんですけれども、(略)」と答弁している。
これまで建設反対に取り組んできた異議申立人は、橋下知事が立候補したときから何度も会見を要請してきた。しかし、「すべての会見要請に応えられないからすべての要請を断っている」としていまだに会見は実現していない。
そんな状況下で、前記知事答弁を耳にして、一体どこの反対派と話し合われたのかを知りたくなり、会談相手等に関する情報提供をこれまで同様に申し入れたが、受け入れられなかった。そこで、公開請求に至った次第であるが、請求趣旨と異なる処分が出されたので、本件異議申立てを行った。
2 開示された文書は、請求趣旨に該当しない
異議申立人が公開請求した文書は、「安威川ダムに関して、知事が会われた反対派および地域活動している方について、会見された相手方と日時場所がわかる資料一式」である。
異議申立人の請求に対し実施機関が公開決定した文書は、「ダムに関する学識経験者からの知事ヒアリング概要」のみであった。つまり、実施機関が保有している文書は、「学識経験者」に関するもののみである。
知事がヒアリングされた学識経験者は、ダム建設より堤防補強を優先すべきという見解を述べているが、決して「ダム建設反対」と意見表明されていない。
今回、実施機関が開示した文書は、「学識経験者」とのヒアリングであり、反対派との会談を行ったとの根拠とはなりえない。また、「学識経験者」は「地域活動している方」ではないし、「反対派」でもない。
実施機関の保有する文書が開示された文書のみであるとすれば、「反対派および地域活動している方」と「一生懸命聞いた」という知事答弁を裏付ける文書は存在していないことになる。
つまり、開示された文書は、異議申立人の請求趣旨には該当しない文書であることは明らかである。
よって、本件処分を取り消し、「文書不存在による非公開決定処分」とすることを求める。
3 開示された文書は、本来情報公開請求の対象とはならない文書であり、実施機関は条例の趣旨を逸脱した処分を行った
条例の第19条および第32条によれば、公開決定された文書は、公開請求の手続きによることなく「情報提供制度」により、すみやかに開示されるべきものとなっている。
「情報提供制度」では、府民等が求める文書が「直ちに公開できる文書」である場合は、これを閲覧に供することとしている。
実施機関が本件請求によって開示した文書は、異議申立人が「情報提供制度」により過去に提供されている文書であり、公開請求しなければならない類の文書ではない。
大阪府の「情報提供の実施に関する要領」の「2 府の責務」において「(2)担当室等の長は、条例第18条第1項の規定により公開した行政文書に記録された情報について提供の求めがあった場合は、特に事情の変更がない限り、行政文書公開請求の手続によることなく、当該情報を提供するものとする。」と規定している。
実施機関は、異議申立人の公開請求時に、公開請求ではなくすぐさま情報提供すべきであった。しかるべき対応をせず当該開示文書を本件請求に対する開示文書として取り扱ったことは、この要項に反する行為を実施したことになる。
よって、本件請求に該当する文書は存在していないと解すべきであるので、「文書不存在による非公開処分」にされるべきである。
4 なぜ実施機関は、公開決定処分に固執するのか
知事がヒアリングした学識経験者は、「地域活動している方」ではない。この「学識経験者」は、ダム建設より堤防補強を優先すべきという見解を述べている。決して「ダム反対」とは意見表明していない。ゆえに今回、実施機関が開示した文書は、反対派との会談を行ったとの根拠とはなりえない。
にもかかわらず、本件請求に対して、明らかに請求趣旨に該当しない本件公開文書をもって、あえて「公開決定」処分としたことは、条例の運用を誤ったというレベルを超えた悪意ある意図がうかがえる。
つまり、知事が7月府議会で答弁した内容を裏付ける根拠が存在しないことが明白となることを隠蔽するために、あえて出された悪意ある処分といわざるを得ない。
本件決定は、知事の府議会答弁を裏付ける根拠が存在しないことを隠蔽するために、条例の趣旨を著しく逸脱して出された悪意ある処分である。知事は、「無い物は無い」と回答すべきである。そして、なぜそのような答弁をしたのかを、あらためて府民に説明すべきではなかろうか。
条例前文には、「府が保有する情報は、本来府民のものであり、(中略)、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることが求められている。」と記されている。この条例趣旨が成就される答申を審査会から出されんことを期待している。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 本件公開文書について
本件公開文書は、ダムに関する学識経験者と知事とのヒアリングの内容を記したものであり、ヒアリングの日時、場所、出席者及びヒアリング概要を記載している。
本件公開文書の中で、安威川ダムについて次のような学識経験者の説明概要を記載している。
- 洪水に対して効果はあるが、ダムができても水害はなくならない。
- 昭和42年の災害では、支川が溢れた。ダムより支川堤防の強化をすべき。
- 府の水源確保量は、国の示す利水安全度で割増しているが国の政策で根拠に乏しい。
- 日最大取水量と水利権量の差や府臨海工業用水の転用を有効活用すれば、安威川ダムの1万立方メートル/日は不要。
- 危機回避として淀川以外の水源を持つことは良いが、市町村は自己水源を持っており、市町村間の連結管を整備して緊急時に対応するなど、ダム以外の水源開発としてやれることはある。
また、本件公開文書は、実施機関の職員が職務上作成した文書であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものであり、条例第2条に定める行政文書に該当するものである。
2 本件決定について
本件請求に対して、条例13条第1項の規定により、本件公開文書の全部を公開した。
本件公開文書は、本件請求にある「知事が会われた反対派について、会見された相手方と日時場所が分かる資料」に該当する。
また、本件公開文書の他に本件請求の内容を充たす行政文書は存在しない。
以上のことから、本件決定は適正なものである。
3 異議申立人の主張について
異議申立人の異議申立ての理由は、
- 本件請求に対し実施機関は、「ダムに関する学識経験者からの知事ヒアリング概要」を公開決定する通知をしてきた。
- しかしながら、本件公開文書は異議申立人がすでに本年7月に都市整備部河川室から情報提供により公開入手した文書と同一であった。
- 実施機関は本件請求に対し、本件公開文書しか開示していない。
- したがって、本件公開文書は上記事情から本件請求に対する公開文書には該当しない。
- そして、実施機関が本文書の文書以外を開示していないのであるから、本件請求に対する処分が公開処分に該当するものでないことは明らかである。
- したがって、今回実施機関が開示した文書以外に請求該当文書が存在しないと解するのが自然であり、本件請求についての文書は「文書不存在」と解すべきであり、本件公開処分は誤っている。
というものである。
しかしながら、条例第6条の規定による公開請求に対する行政文書の公開決定にあたっては、請求者が同一の行政文書を過去に請求して入手しているか否かは考慮しないものであり、本件決定は条例の規定に基づき適正に行われたものである。
本件決定に対し、異議申立人の主張には条例上の根拠がない。
4 結論
以上のとおり、本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このような理念の下に実施されている行政文書公開制度の対象となる「行政文書」の範囲については、条例第2条第1項において、(1)「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図面、写真及びスライド(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)並びに電磁的記録」であって、(2)「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいうと規定されており、実施機関は、請求に係る情報が上記の各要件を満たす「行政文書」に記録されている場合には、当該情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除き、その行政文書を公開しなければならない。
2 本件公開文書について
異議申立人の本件請求に対して、実施機関は、本件公開文書を特定し、全部を公開する決定を行った。
本件公開文書は、ダムに関する学識経験者と知事とのヒアリングの内容を記したものであり、安威川ダムについて、「ダムができても水害はなくならない」、「ダムより支川堤防の強化をすべき」、「府臨海工業用水の転用を有効活用等すれば、安威川ダムの1万立方メートル/日は不要」といった学識経験者の否定的な見解が記載されている。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由
(1)本件請求に対して本件公開文書を特定したことについて
本件請求は、「知事が会われた『反対派』について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」と「知事が会われた『地域活動をしている方』について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」の2つの内容に分けられる。
ア 本件請求のうち、「反対派」の部分について
「知事が会われた『反対派』について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」という請求に対して、実施機関が本件公開文書のみを特定したということは、本件公開文書以外に「反対派」と会った記録は存在しないということであり、実施機関もそのように主張している。
ここで「反対派とは何を指すか」が問題になるが、当審査会は、当該学識経験者が「反対派」であるかどうかを決定する場ではない。
本来、情報公開請求に対しては、請求者の請求権を制限しないよう、請求対象となる可能性がある文書については、広義に解釈して文書特定すべきものであり、実施機関が本件公開文書を特定したことは、不合理とはいえない。
したがって、実施機関の判断は妥当である。
イ 本件請求のうち、「地域活動をしている方」の部分について
「知事が会われた『地域活動をしている方』について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」の請求に対しては、実施機関は何ら決定を行っていないので、何らかの決定を行うべきである。
実施機関の主張によると、本件公開文書は「知事が会われた反対派について、会見された相手方と日時場所が分かる資料」に該当し、本件公開文書以外に本件請求に対応する行政文書は存在しないことについて実施機関と異議申立人との間に争いはないことから、実施機関は、当該請求に対して不存在による非公開決定を行うべきである。
(2)実施機関が本件開示文書を情報提供せず本件決定を行ったことについて
異議申立人は、「実施機関は、異議申立人の公開請求時に、公開請求ではなくすぐさま情報提供すべきであった」と主張するので、以下検討する。
過去に情報提供された時に、異議申立人から提出された行政文書等複写申出書の記載内容は「知事と学識経験者との意見交換会」に関するものであり、本件請求とは内容が異なっている。
本件請求に対する文書を検索した結果、過去に提供したものと一致することは通常起こり得ると考えられる。過去に提供したものと一致したことが判明した時点で、情報公開請求を取り下げた上で行政文書等複写申出書を提出する旨を伝えるため請求者に連絡を取るという方法は考えられるが、一旦情報公開請求がなされた以上、当該請求が取り下げられない限り、実施機関は条例第14条に基づき15日以内に決定を行わなければならず、実施機関が本件決定を行ったことに特に不合理な点は認められない。
また、情報提供は任意のやり取りであり、行政処分ではない。一度情報提供した文書や公開又は部分公開決定された文書に対して別の者から情報公開請求があった場合、あるいは処分に対する異議申立期間経過後に再度同じ情報公開請求があった場合に情報提供しか行わないとすると、当該請求に対して決定(行政処分)がされないということになり、後から情報公開請求した者は当該文書の存否や公開・非公開について争えなくなってしまうことから考えても、一度情報提供した文書や情報公開請求された文書について、再度公開又は部分公開決定を行うことは可能であると解するべきである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件決定は、本件請求のうち、「平成20年7月8日の小沢福子府議に対する知事答弁の内、安威川ダムに関して、知事が会われた地域活動をしている方について、会見された相手方と日時場所が分かる資料一式」の部分について、決定がなされておらず、実施機関の主張によると、この部分に対応する行政文書は存在しないとのことであるため、同部分について不存在による非公開決定を行う必要がある。
すでに公開決定した「ダムに関する学識経験者からの知事ヒアリング概要」については、実施機関の判断は妥当である。
よって、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、松田聰子、山口孝司