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大阪府情報公開答申(大公審第174号)
新住宅市街地開発法関係文書不存在決定異議申立事案
(答申日 平成21年9月25日)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
1 行政文書の公開請求
異議申立人は、平成20年11月21日付けで、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、「堺市南区○○○○の新住宅市街地開発法の関係簿書(昭和48年3月29日工事完了:土地表示登記は大阪府)(1)事業地位置図及び事業地区域図(2)設計説明書及び設計図(道路、下水管その他を含む)(3)新住宅市街地開発事業に関し認可その他の処分を証する書類(4)丈量図(5)地積測量図」について行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 本件請求に係る決定及び通知
平成20年12月4日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書(以下「本件請求文書」という。)を管理していないとして、条例第13条第2項の規定により、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して異議申立人に通知した。
(公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
公開請求に係る行政文書については、文書の保存年限を経過しており、検索したところ現に保管していないため管理していない。
3 異議申立て
異議申立人は、平成20年12月16日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取消し、公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
本件請求に係る○○○○の土地は、大阪府が新住宅市街地開発法に基づく事業施行者として宅地造成、道路建設、上下水道管等を施設したものである。そして、その開発地区を日本住宅公団(現、独立行政法人都市再生機構(以下「都市再生機構」という。))に売却したものである。都市再生機構はその土地上に分譲団地300戸を建設した。そして、府民はその住宅に住まいし、共有施設を毎日使用している。請求した文書は、通常、民間の宅地開発なら堺市役所に行けば閲覧できる文書である。また、法務局に行けば地積測量図も閲覧できる。そして、新住宅市街地開発法を遵守していれば大阪府庁で閲覧できる文書であり、それらの文書は下記の法律からも破棄できないことは明らかである。
(1)新住宅市街地開発法第37条の備え付け義務違反
施行者(大阪府)は、国土交通省令で定めるところにより、新住宅市街地開発事業に関する簿書(開示請求文書)をその事務所に備え付けておかなければならない。
利害関係人(申立人)から前項の簿書の閲覧の請求があった場合においては、施行者(大阪府)は、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。
以上のことから保存期限の経過を理由として非公開とすることはできない。これらの文書を再収集し又は復元して事務所に備え付ける責務がある。
- ア 備付け期限の時効無し
同法には簿書保存の期限がないことから永久保存である。また、不動産登記法規定の保存期限では地図(公図)・地籍図等は永久保存となっている。 - イ 移管・移送確認の探索義務
今回、実施機関は水道管・下水道配管図は保存期限を経過しているから保管していないと説明しているが、そうすると、現在上下水道局には昭和40年代の配管図面がないことになり事実と明らかに矛盾する。よって実施機関は文書の探索を怠っていると言わざるを得ない。万一、他所に文書を移管しているのであれば移送等の措置を講じる責務があると言える。
(2)不動産登記法の特例
- ア 新住宅市街地開発法第49条の事業地内の土地及び建物の登記について、政令で不動産登記法の特例により地積測量図の提出を免責されている。
- イ 堺市の法務局には公図しかなく、地積測量図は存在していない。
- ウ しかし、実施機関は境界を確定して○○○△、○○○○を都市再生機構に売却した。その売買契約書には地積測量図を添付し、都市再生機構はその地積測量図又は丈量図の境界確定図面から300戸の建物を設計したものである。
(3)下水管所有権の混乱
○○○○の分譲地西側部分に約100mの汚水管が埋設されている。しかし、その汚水管の所有権は都市再生機構にあると35年後の平成20年11月29日に意思決定した。
昭和48年、分譲地において、日本住宅公団(現、都市再生機構)と泉北○○□□管理組合が締結した、「雨水排水管等の共同使用に関する契約に係る契約書」に添付の図面には、都市再生機構の○○○△敷地内に汚水管が埋設されていると記載されていたが、平成9年3月付け都市再生機構の汚水配管図面により、○○○○の分譲地内に埋設されていることが確認できた。そして都市再生機構も現地埋設位置を確認した。その汚水管は実施機関が施工したものである。新住宅市街地開発事業で行われた宅地造成工事の図面に記載されている汚水管である。その汚水管は○○○△に売買したのか、もしくは○○○○として売買したのか判明できない。
この混乱を解決するため、本件請求に係る文書が必要となる。
(4)大阪府公文書館に無い
教示された大阪府公文書館には該当する文書としては泉北丘陵基本計画概要書ぐらいしかなく、大阪府企業局が個人に分譲した文書は存在するが、都市再生機構に売買した土地の地積測量図及び住宅造成・上下水道管・道路等の計画文書は発見できなかった。
(5)固定資産課税台帳価格算出の資料
地方税法第348条(固定資産税の非課税の範囲)第1項及び第2項第32号の規定により、下記の固定資産税を課することができない。
- 第1項:大阪府に対しては、固定資産税を課することができない。
- 第2項第32号:都市再生機構に対しては固定資産税を課することができない。
「都市再生機構が独立行政法人都市再生機構法第18条第1項各号に定める工事に係る施設の用に供されるものとして取得した土地。」
- ア 以上の法令規定により、大阪府及び都市再生機構は○○○○の土地を所有していた期間中に固定資産税を支払っていない。
- イ しかし、○○○○に建設された区分所有建物300戸を購入した住人所有者らは毎年固定資産税を課せられ納税している。
- ウ その固定資産課税台帳価格は、地方税法第403条第1項の規定により、総務大臣が(昭和38年自治省告示第158条)告示した固定資産評価基準により堺市が決定している。
- エ そして、堺市は○○○○の宅地の評価において、固定資産評価基準の画地計算法の付表等のがけ地補正を行わなければならない。しかし堺市はがけ地補正を行っていなかった。
- オ がけ地補正するための資料を大阪府は堺市に交付していなかった。
- カ 納税義務者は、審査申出を行うために2万0323平方メートル08(約6147坪)の敷地内に存在するがけ地面積の資料を提出する必要がある。
- キ がけ地面積を知るためには、大阪府の宅地造成工事図面が必要である。
- ク よって、大阪府は納税者に固定資産税を適正に納税させるために、宅地造成工事図面を保有する責務がある。
- ケ 図面等を保管していないのであれば、地方税法第401条の固定資産の評価に係る大阪府知事の任務の規定を遵守していることから、実施機関は、堺市長に対し同条1項1号ないし5号の援助を行う職務専念義務から文書類を保管しているはずである。
(6)登録免許税・不動産取得税の超過課税
○○○○の固定資産課税台帳価格のがけ地補正をしないと登録免許税及び不動産取得税は超過課税になる。
そして、すでに超過納税している納税者(区分所有者)が存在する。実施機関はこれを知っていながら放置することはできない。実施機関が放置することは故意に超過課税させることになり法律違反になる。
(7)結論
以上のとおり、実施機関が保存年限を経過したから不存在とする理由には合理性がない。また、上記法令遵守義務から実施機関には文書の保管義務がある。その責務を果たすため、分散した文書を収集し、本件新住宅市街地開発事業の設計者及び工事施工者らから保管している施工図面等の文書を取り寄せることもできる。
よって、本件決定を取り消し、本件請求文書の公開を求める。
2 反論書における主張
(1)十分な検索をしていない。
- ア 実施機関は単に検索したと主張するだけであり、昭和48年3月28日に工事完了公告した本件新住宅市街地開発事業を担当する部所を探索していない。また、組織改正等により移管した保管場所を明示しておらず、移管部署を含めて詳細に探索した等の行政手続法8条の理由提示がない。
- イ 泉北ニュータウン内の土地建物を分譲した企業局は廃止され、タウン推進室に移管されているが、移管した文書等の一覧表等の情報を開示していない。
- ウ 本件文書には資金計画書を含むことから議会の決議が必要であり、府議会提出資料として保管されている蓋然性があるが探索されていない。
- エ 実施機関は、過去の保管部所及び検索部署を明示していない。
(2)保存期間
大阪府行政文書管理規則(以下「文書規則」という。)第17条の規定による本件文書の保存期間は、別表1項の
- ア 公有財産の管理、処分等に関する起案文書
- イ 土地収用に関する起案文書
- ウ 竣工図等で重要な行政文書
であることから「長期間」となっており10年間ではない。
(3)文書破棄の判断
文書規則第18条の規定により本件文書の管理者は誰であるのか。また、文書破棄の権限は誰か。破棄した期日はいつか。破棄理由は何か。これらの文書が存在して初めて本件文書を破棄したと主張できるものであり、破棄されたとする確認が取れておらず非公開理由の提示にならない。
(4)保存期間が不明の場合
実施機関が主張するように作成当時の保存期間が不明である場合は、都市計画法第47条第5項(開発登録簿)の規定を準用し、実施機関は常に公衆の閲覧の供するように保管し、請求があったときは写しを交付しなければならない。なぜなら、当該土地建物が新住宅市街地開発事業地内の土地建物か、又は開発許可を受けていない土地建物か公共施設かを府民は知る権利を持つ。
(5)工事完了公告後の文書備付義務はないか。
- ア 工事完了の公告
新住宅市街地開発法第27条第2項(工事完了の公告)の規定により、施行者である実施機関は、工事が施行計画に適合していると認め、工事が完了した旨の公告を昭和48年3月28日付け大阪府公報で行った。 - イ 図書の送付
新住宅市街地開発法第34条第1項(図書の備置き等)の規定により、施行者である実施機関は、省令で定める区域を表示した図書を堺市長に送付した。そうすると、実施機関は文書原本を堺市長に送付して本件文書を保管していないのか。 - ウ 新住宅市街地開発法第34条第2項の規定により、堺市長は公告した昭和48年3月28日から10年間備え置いて関係人の請求があったときは閲覧させなければならない。関係人は実施機関には閲覧請求できなかったのか。
- エ 新住宅市街地開発法第34条第3項の規定により、実施機関は公告をした翌日から10年間、事業地内の見やすい場所に、標識を設置しなければならない。そうすると期間内にその標識が除去された場合、実施機関は事業地図面がないため再設置できず、関係者は標識を確認できない。
- オ 事業完了後の保管義務
新住宅市街地開発法第33条第4項(買戻権)の規定により、施行者である実施機関は、買い戻した土地を処分計画の趣旨に従って再処分しなければならない。そうすると、同法12条の処分計画の図書を破棄することはできず、事業完了10年後においても保管する必要があり義務が生じる。 - カ 現用価値
本件請求文書は現用価値がないものと判断した部署はどこか。また誰か。また、不動産登記法の特例により、法務局に本件の地積測量図は存在しない。新住宅市街地開発法第34条の2(測量のための標識の設置)の規定により、同法施行規則第21条の2標識の表示杭は施行者の名称を表示したものとなっており「大阪府」と記載された杭が設置される。しかし、当該土地においては、「大阪府」と記載された杭は無く、「住」と記載された杭が設置されている。つまり、日本住宅公団(現、都市再生機構)の杭である。そうすると、当該土地は新住宅市街地開発事業区域内か都市再生機構が開発した区域か判明できず、地積測量の根拠となる図書が必要となる。元売主の実施機関は必要でないと判断するが、そこに居住する府民には唯一の図書であり35年後の現在も必要とするものである。
(6)結論
実施機関の非公開とする理由は、ネット検索で存在しなかったという理由だけであり、実施機関が系列的に詳細に探索すれば、存在する文書であると思慮する。よって、本件決定を取り消し本件請求文書の公開を求める。
3 追加反論書での主張
(1)本件新住宅市街地開発事業の経過説明
- ア 昭和48年2月8日(203戸売却)
都市再生機構は大阪府農林会館講堂において売買した203戸(未契約97戸)の買主に土地建物を引渡した。
さらに、同管理組合の創立総会を開催し管理規約を決議した。(買戻権は譲渡日の2月8日から10年間を買戻し特約の期間と登記簿に記載) - イ 昭和48年3月28日(実施機関告示)
大阪府公報第6827号昭和48年3月28日付け大阪府告示第486号に記載- 新住宅市街地開発法に基づく開発事業に関する工事は次のとおり完了した。
- 事業の名称:堺都市計画泉北丘陵新住宅市街地開発事業
- 施行者の名称:大阪府(実施機関)
- 事業地(工区):堺市○○○の一部
(I住区第4工区、I住区第5工区、I住区第7工区)
*本件土地の○○○○がどの工区かは確認できない。
- 新住宅市街地開発法に基づく開発事業に関する工事は次のとおり完了した。
- ウ 昭和48年3月28日の公告説明
本件土地○○○○の新住宅市街地開発法第27条2項の「工事完了の公告」は、同法施行令第14条の公告方法により昭和48年3月28日付け大阪府公報と推測。 - エ 昭和48年3月29日(表示登記:原因及びその日付)
本件土地登記簿謄本の表題部に「新住宅市街地開発法による工事完了」と記載がある。この表示登記の法務局申請日は、昭和48年4月26日である。- 新住宅市街地開発法等による不動産登記に関する政令第6条(造成宅地等の表題登記)
施行者である実施機関は、工事完了公告日の翌日に遅滞なく土地建物の表題登記をしなければならないとの規定である。
- 新住宅市街地開発法等による不動産登記に関する政令第6条(造成宅地等の表題登記)
- オ 昭和48年4月26日(表示登記日)
実施機関は、開発事業地○○○○の表題部の表示登記を同日法務局に申請した。後日、実施機関は、土地建物を都市再生機構に譲渡し「大阪府」表示を抹消した。 - カ 昭和48年5月21日(保存登記日)
都市再生機構は、本件土地建物の所有権の保存登記をした。- 新住宅市街地開発法等による不動産登記に関する政令第9条(譲渡不動産の所有権の登記)
実施機関は、土地建物の所有権の移転登記をしなければならない。
- 新住宅市街地開発法等による不動産登記に関する政令第9条(譲渡不動産の所有権の登記)
(2)真の所有者の権限
開発事業の施行者である実施機関は、新住宅市街地開発法第39条資金の融通等により国の資金援助を受け、道路、公園、緑地、下水道等の公共施設を設置した。
そして、実施機関は工事完了後に同法第30条の造成施設等の処分の規定により、都市再生機構に譲渡した。(事実は工事完了前に譲渡した。)
都市再生機構は、実施機関の処分計画の認可のとおり分譲用300戸の共同住宅を建築し、203戸を同年2月8日に売買した。未契約97戸。
しかし、実施機関が工事完了公告日の3月28日以前において、本件土地建物を真に所有していた者は203戸の区分所有者らでもある。
よって、実施機関は、工事完了公告日の翌日以降に、事業地を取得していた300戸の真の区分所有者らへの関係簿書を引渡さなければならない。
(3)保存すべき理由
○○○○の所在地名は新しい地名である。それ以前の旧地名群を合筆して実施機関が新しい地名を名付けたものである。言わば、新しい土地の戸籍を作成するものである。その土地の戸籍原本とも言うべき地図・地籍図等を唯一保存していたのが実施機関である。にもかかわらず、実施機関は保存すべき理由がないとして廃棄したという。そして、マイクロフィルム化もせず工区と地番がどの区域の事業地であったかわからなくなってしまった。わずか35年後に郷土の泉北ニュータウン創立の歴史が消されてしまった。
(4)下水道配管図の移送
本件の上下水道管の公共施設は、国の補助金を受けて工事されたものである。その配管図は当然に、工事を管轄する上・下水道が保有していたとの蓋然性がある。また、工事完了後は堺市に移管していることから、その配管図は堺市並びに大阪府上・下水道局に移管したものと思われる。よって、移送していないとの確認書面がないことから、実施機関は上下水道管を管轄する各行政機関に文書の保有を確認すべきである。
(5)汚水管は事業地ごとに設置する。
本件新住宅市街地開発事業において、下水道施設工事は、国の補助金を受けて一事業地ごとに公共施設として設置される。しかし実施機関は○○○△、○○○○の二事業地の下水道施設を1本の共同管として埋設した。工事完了公告日の3月29日までは実施機関が施行者である。実施機関は、昭和48年2月8日に売買引渡された203戸の区分所有者に下水道管の図面を閲覧させる責務がある。
(6)がけ地補正に必要
4月1日、堺市南区固定資産税課に出向き、本件土地のがけ地補正を聞くと、「がけ地の現況調査は目視で行う。現地測量は行わない。簡易図面はあるが正確でないため目視にてがけ地面積を算出する。そして本件土地を算出したがけ地面積メモは処分して無い。」とのことである。なお、本件土地地積は2万0323.08平方メートルあり、一辺が約150mある。地形は階段状の傾斜地である。隣地は、すでにがけ地補正をうけた評価額である。国民は憲法に基づき公正な納税を行うため、また合理性のある補正を請願するため宅地造成工事図面が必要である。また、この図面によりがけ地補正面積を算出し、堺市へ過去20年間過払いした固定資産税の還付が請求できる。審査申出の際、証拠として宅地造成工事図面は必要である。
(7)登録免許税及び不動産取得税の過払い
北側公道に面する本件土地は、がけ地のため他人地を通らないと公道に出入りすることができない。その場合、無道路地補正を行う基準になっている。しかし、本件土地は無道路補正されておらず、明らかに徴収誤りがある。そうすると納税者は、現況のがけの高さ(接面100m、高さ1から4m他。)を測量し補正請求をするため、審査申出を行う必要性から宅地造成工事図面が必要である。登録免許税及び不動産取得税の還付の是非は、個別の範囲であるが、公正な納税義務のため憲法を遵守し、実施機関は、請求権がないと勝手に判断することなく公正な納税のために真摯にこの図面を公開しなければならない。
(8)買戻し期間は2月28日から
203戸の買戻期間は、昭和48年2月8日から10年以内と土地登記簿謄本に記載されている。しかし、本件新住宅開発事業完了公告日は同年3月28日であるが、実施機関は工事完了日以前に都市再生機構に譲渡している。そうすると、本件事業地と公告の事業地が同一かを確認するため関係簿書が必要となる。なお、実施機関は保存スペースの有効活用からマイクロフィルム化しており、泉北ニュータウン創立の歴史価値からも廃棄すべき合理性はない。
(9)架空事業
大事業であるにもかかわらず、実施機関は設計者及び工事施工者が不明であると主張するが、実際の工事を行ったのが都市再生機構だとすれば、実施機関は図面等を保有していないのではないか。現に工事完了公告日3月28日以前に都市再生機構は宅地造成して300戸の共同住宅を建設した。そして2月8日には203戸を分譲した。実施機関は公共施設の工事費を国から援助を受けながら粗造成工事しかせず、公共施設工事を都市再生機構にさせた疑いがある。そうすると、都市再生機構が実施機関に関係簿書を送付していなければ図面等は元から無く探しようがない。これらの事実確認を求める。
(10)提出させる権限
実施機関は設計者及び施工者に税金から支払っており、その図面の著作権は実施機関に存在することから各業者に図面を提出させる権限を保有している。提出するための費用負担は別問題である。
(11)保管場所
本件新住宅市街地開発事業は、当時建設大臣の許可及び同意並びに必要な措置を得ており、一般分譲は企業局の管轄であろうが、個々の事業認可は別部署と考えられる。住宅まちづくり部タウン推進室管理課は平成18年に設置されたばかりであり以前の部署を明示していない。組織改正以前の部署を探索したとの主張はない。
(12)非公開理由
不存在の理由を推測で述べているだけであり詳細事実の説明をしていない。実施機関は、過去に本件請求文書が存在していた事実を認めていることから、不存在理由を棄損、廃棄、移管、紛失等と詳細な理由を説明する責務を負う。
(13)企業局文書移管
実施機関が主張する文書は、住宅まちづくり部タウン推進室が必要とする文書であって、企業局が保有していた全ての文書を移管したと主張していない。
(14)府議会議決事項
実施機関は税金を支出していることから、予算及び決算の委員会議決を経ているとの蓋然性がある。
(15)存在した文書
移管文書の一覧表がないからとして、開発事業の全ての文書を廃棄したのか説明していない。保存すべきでない文書の説明を求める。
(16)10年以上の保有文書は不存在
実施機関は誤っている。本件請求文書は永年保存とすべき文書である。
(17)勝手に廃棄
平成18年度設立時にタウン推進室管理課で文書がないのであれば、17年度以前は本件文書の保管場所がどこであったか部署の説明をしていない。また、廃棄の起案文書、廃棄期日及び理由が明らかでないのは、この課で廃棄されていない証拠である。他所の探索を求める。
(18)泉北ニュータウンの歴史的価値
泉北ニュータウンは、大阪府が行った最大の開発事業地であるにもかかわらず本件新住宅市街地開発事業の文書が無く、登記簿を閲覧すればよいと主張する。これは歴史的事業の保存価値を失わせるものである。また、税金使途の目的検証からも必要である。このままでは偉業を後世に伝えず、成果の蓄積ない無益な税金の使い放しとなる。実施機関に、この歴史的遺産を残すためにも文書の探索を求める。
(19)実施機関の責務
実施機関は、宅地造成を全て行ったのか、粗造成をした土地を都市再生機構に売却し、都市再生機構が団地建設のために宅地造成工事を行ったか不明であると主張するが、実施機関は、工事完了公告日の40日以前の2月8日に203戸を売却している事実を熟知していた。それは、都市再生機構が宅地造成工事を行ったとしても、本件新住宅市街地開発事業の施行者は実施機関であることから、実施機関は、昭和48年3月28日の工事完了公告までの全ての宅地造成工事図面等の文書を保有する責務がある。そして、実施機関が主張するように譲受人たる203戸の所有者に渡さなければならない。さらに、実施機関は、堺市及び区分所有者に同法第34条第1項の関係簿書(造成施設等の区域、位置、形状及び種別を表示した平面図)を送付していない。
(20)結論
以上のとおり、本件請求文書は、権利関係確認の公文書として、また歴史的遺産価値もあり、現在に至るも公開すべき文書である。万一、紛失または廃棄したのであれば、これを復元する責務がある。そして、実施機関は非公開とする詳細な理由を説明していない。
よって本件決定を取り消し、本件請求文書の公開を求める。
第五 実施機関の主張要旨
1 本件請求に対応する行政文書が不存在であることについて
本件請求文書は、昭和48年に新住宅市街地開発法第27条第2項に基づく工事完了公告がなされた新住宅市街地開発事業に関する文書であり、昭和48年以前に実施機関が作成した文書である。
本件請求文書の保存期間については、作成当時の保存期間は不明であるが、文書規則に基づく現在の規定では、10年及び10年を超える長期保存とされている。
本件請求文書は、事業完了後長期間経過した文書であり、事業完了後に実施機関が利用する予定はなく、新住宅市街地開発法及び他の法令等からも特段の保存の必要性が認められないことから、現用価値のないものと判断して廃棄処分されたと考えられ、現に管理していない。
2 異議申立人の主張に対する反論について
(1)新住宅市街地開発法第37条第1項について
異議申立人は、新住宅市街地開発法第37条第1項に「施行者は、国土交通省令で定めるところにより、新住宅市街地開発事業に関する簿書をその事務所に備え付けておかなければならない。」と定められていることを根拠に、実施機関には文書の備え付け義務がある旨主張する。
しかしながら、同項の規定は、新住宅市街地開発事業が関係人の利害に多くの影響を及ぼすことにかんがみ、施行者に本事業に関する簿書の備付けの義務を課するとともに、利害関係人の図書閲覧権を担保することにより事業施行全体の過程における制限等に対し利害関係人を保護する趣旨のものであり、事業継続中は常備しなければならないが、事業完了後は新住宅市街地開発法に基づく文書の備付け義務はない。
したがって、事業完了後長期間経過し、文書規則による保存期間も経過しており、現用価値がないものと判断して廃棄処分され、現に管理していないことについて、何ら違法又は不当な点はない。
(2)不動産登記法について
異議申立人は、不動産登記法の規定上、地図(公図)・地籍図等は永久保存となっていることを理由に、本件請求文書も永久保存しなければならない旨主張する。
しかしながら、不動産登記規則第28条各号に定められた保存期間は、登記所における保存期間を定めたものである。新住宅市街地開発法に不動産登記法の特例が定められているからといって、新住宅市街地開発事業の事業者が、登記所に成り代わり、関係文書を保存しなければならないということはなく、実施機関がこの保存期間を準用すべき理由はない。
(3)条例第16条第1項の移送について
異議申立人は、水道管・下水道管配管図は上下水道局に存在するはずであり、他所に文書を移管しているのであれば、移送等の措置を講じる責務がある旨主張する。
しかしながら、条例第16条第1項において事案を移送できると定めているのは、「公開請求に係る行政文書が他の実施機関又は実施法人により作成されたものであるとき」であって、他所に文書を移管している場合ではない。
(4)汚水管の売却先について
異議申立人は、汚水管は○○○△に売買したのか、○○○○として売買したのか判明できず、この混乱を解決するために本件請求文書が必要である旨主張する。
しかしながら、異議申立書に添付された図面により、汚水管が堺市南区○○○△と○○○○にまたがって存在していることは明らかである。
また、堺市南区○○○△及び○○○○は、共に新住宅市街地開発事業により施行され、昭和48年5月21日に都市再生機構が所有権保存登記を行った土地であるため、汚水管は元々都市再生機構敷地内に存在したものと考えられるが、その他のことは不明である。
(5)固定資産税のがけ地補正との関係について
異議申立人は、固定資産税のがけ地補正を行うべきであり、そのために宅地造成工事図面が必要である旨主張する。
しかしながら、実施機関の職員が堺市理財局税務部資産税管理課に問い合わせたところ、がけ地補正の適用を受けるために必ずしもそのがけ地面積を示す資料を要するということではなく、まず堺市南市税事務所に相談してもらえれば、必要に応じて現地を調査し、がけ地面積を算定することも可能である旨回答があった。また、がけ地補正を行うには、現況がどうなっているかということが問題であり、35年以上前の宅地造成図面は、直接は役に立たないのではないかとの見解であった。
また、異議申立人は、地方税法第401条第1項第1号及び第5号の援助を行う職務専念義務から実施機関が文書類を保有しているはずである旨主張する。
しかしながら、都道府県知事が同項第1号の規定により固定資産評価基準について助言すること、及び同項第5号の規定により固定資産の価格の決定について助言をすることと、本件請求文書を保存することは直接関係がない。仮に大阪府知事が堺市長から固定資産の評価に関して援助を求められたならば、35年以上も前の宅地造成図面を活用するよりも、税務行政の立場から現況を調査し、助言を行うことは可能である。
(6)登録免許税及び不動産取得税との関係について
異議申立人は、固定資産課税台帳価格のがけ地補正をしないと登録免許税及び不動産取得税は超過課税になる旨主張する。
一般に超過課税といえば、地方税法第1条第1項第5号の標準税率によることなく、地方公共団体の判断により、標準税率以上の税率により課税することを指し、国税である登録免許税には、そもそも超過課税という概念はなく、また、実施機関において、過去に不?産取得税の超過課税を行った事実はないが、異議申立人はがけ地補正をしなければ、課税標準額が過大となり、結果として登録免許税及び不動産取得税において、過納金が発生することを指しているものと解される。
しかしながら、(5)で述べたとおり、本件請求文書の保存とがけ地補正の適用とは関係がない。
なお、登録免許税については、登録免許税法第31条第2項の規定により、登録免許税の過誤納があるときは、登記を受けた日から1年を経過する日までにその旨を登記機関に申し出て、同条第1項により過大に納付された税額を登記機関から所轄税務署長に通知すべき旨の請求をすることができるとされている。また、不動産取得税については、地方税法第17条の5第2項の規定により、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日までは、税額を減少させる更正、賦課決定等をすることができるとされている。しかしながら、異議申立人が、5年以上前に堺市南区○○○○の土地の共有持分を取得し、登録免許税及び不動産取得税を支払っていたとすれば、仮にがけ地補正の適用により、固定資産課税台帳価格が変更されたとしても、異議申立人が既に支払っている登録免許税額及び不動産取得税額を減少させ、税の還付を受けることはできない。
(7)保存年限経過により廃棄することの合理性について
異議申立人は、保存年限が経過したから不存在とする理由には合理性がない旨主張する。
しかしながら、事業完了公告の日の翌日から起算して10年を経過する日までは、新住宅市街地開発法第32条第1項の規定により、所有権移転等について都道府県知事の承認が必要であり、また、同法第33条第1項の規定により、買戻しの特約を付けなければならないため、関係文書を保存する必要性があるが、その期間を経過すれば、新住宅市街地開発事業の事業者として本件請求文書を保存する必要性はない。また、土地売却後一定期間が経過すれば、もはや売主として関係文書を保存する必要はなく、売却後は買主がその責任において関係文書を保存すべきである。
そして、現用価値のなくなった不必要な文書をいたずらに保存しておくことは、文書の効率的管理と保存スペースの有効活用という面から適切でなく、真に活用すべき文書の利用を阻害する一因ともなりかねないため、上記理由により、現用価値がないものと判断して、本件請求文書を廃棄したことには合理性がある。
(8)本件請求文書の取り寄せについて
異議申立人は、その責務を果たすため、分散した文書を収集し、事業の設計者及び工事施行者らから保管している施工図面等を取り寄せることもできる旨主張する。
しかしながら、本件請求文書が不存在であるため、事業の設計者及び工事施工者も不明であり、仮に判明したとしても、当時の古い文書を保管している可能性は低く、更に、仮に保管していたとしても、実施機関がこれら施工図面等を提出させる権限は一切ないことから、異議申立人の主張は非現実的であるといわざるを得ない。
また、条例は、公開請求に係る行政文書が分散した場合、これを収集した上で、公開することを求めているものではない。
(9)本件新住宅市街地開発事業を担当する部署の探索について
異議申立人は、本件新住宅市街地開発事業を担当する部署を探索していない旨主張する。
しかしながら、現在、旧企業局の泉北ニュータウン関係の業務を引き継いでいるのは、住宅まちづくり部タウン推進室管理課であり、もしも関係文書が残っているとすれば、管理課の書庫以外には考えられないが、本件請求を受けて、実施機関の複数の職員が十分に時間をかけて管理課の書庫を探したが、本件請求文書は発見されなかった。
(10)理由提示について
異議申立人は、行政手続法第8条の理由提示がない旨主張するが、文書が存在しない以上、非公開とせざるを得ず、非公開の理由は、「不存在」と明確に示している。
(11)タウン推進室に移管した文書等の一覧表等について
異議申立人は、タウン推進室に移管した文書等の一覧表等の情報を開示していない旨主張する。
しかしながら、旧企業局の後継組織として、平成18年度、住宅まちづくり部にタウン推進室が新たに設置され、旧企業局の残業務や保存すべき文書等はそのまますべてタウン推進室に引き継がれたもので、移管文書の一覧表のようなものは存在しない。
(12)議会議決との関係について
異議申立人は、本件請求文書には、資金計画書を含むことから議会の議決が必要であり、府議会提出資料として保管されている蓋然性がある旨主張するが、資金計画書を含むからといって、本件請求文書は地方自治法第96条第1項各号に定める議会が議決する事件には該当せず、異議申立人の主張には理由がない。
(13)過去の保管部署及び検索部署の明示について
異議申立人は、過去の保管部署及び検索部署を明示していない旨主張するが、(11)で述べたとおり、平成18年度、住宅まちづくり部にタウン推進室が新たに設置され、旧企業局の残業務や保存すべき文書等はそのまますべてタウン推進室に引き継がれたため、タウン推進室管理課の書庫を検索・探索した。
(14)本件請求文書の保存期間について
異議申立人は、本件請求文書の保存期間は長期間であり、10年間ではない旨主張する。
しかしながら、本件請求文書は、文書規則に基づく現在の規定に照らして判断すれば、10年保存の文書と長期保存の文書である。
具体的には、本件請求文書のうち(1)事業地位置図及び事業地区域図、(2)設計説明書及び設計図、(3)新住宅市街地開発事業に関し認可その他の処分を証する書類については長期保存、(4)丈量図、(5)地積測量図については10年保存とされている。
なお、実施機関における文書保存期間の定めに関して、かつては永年保存という区分もあったが、平成5年に文書の保存期間の基準等が改正され、保存期間の区分としては、長期、10年、5年、3年、2年、1年の6区分となった。
この保存期間の基準等の改正の施行期日は、平成5年4月1日であるが、施行期日において、現に保存している文書については、遡って適用することとされ、過去から保存している文書で、この基準に照らして保存期間等を変更する必要があるものは、再度設定し直すこととされており、現在、実施機関において永年保存と定められている文書はない。
(15)廃棄の経緯、時期、理由等について
異議申立人は、本件請求文書の管理者、文書破棄の権限を持つ者、破棄の期日、理由を問うており、破棄されたという確認が取れていなければ、非公開理由の提示にならない旨主張する。
本件請求文書は不存在であるが、タウン推進室管理課で保存しているとすれば、文書規則第5条の規定による文書管理者は、タウン推進室長となる。また、同規則第6条の規定により、タウン推進室管理課総括課長補佐が文書管理担当者となり、文書管理者の指揮を受け、担当事務に係る行政文書の適正な管理に関する事務を処理することとされている。そして、タウン推進室管理課における文書廃棄に係る決裁権者は、この管理課総括課長補佐となる。
文書の廃棄については、その起案文書が残っていないため、廃棄の期日・理由とも明らかではない。
これは、文書廃棄決定の起案文書の保存期間が5年間とされているため、平成14年度以前に本件請求文書の廃棄決定がなされている場合は、その廃棄決定の起案文書も既に残っておらず、やむを得ないものと考える。
(16)都市計画法第47条の準用について
異議申立人は、都市計画法第47条の開発登録簿の規定を準用し、常に公衆の閲覧に供するべきである旨主張するが、同法の規定を準用すべき理由はない。仮に同様の規定が必要であるならば、新住宅市街地開発法に同様の規定を設けるか、都市計画法の規定を準用する旨の規定が設けられているはずである。
また、異議申立人は、その理由として、土地建物が新住宅市街地開発事業地内の土地建物か又は開発許可を受けていない土地建物か公共施設かを府民は知る権利を持つ旨主張する。
しかしながら、新住宅市街地開発事業地内の土地建物かどうかは、その土地の登記簿を見れば明らかであり、都市計画法を準用すべき理由に当たらない。
(17)新住宅市街地開発法に基づく関係人の閲覧請求について
異議申立人は、新住宅市街地開発法第34条第1項の規定により、省令で定める区域を表示した図書を堺市長に送付しており、実施機関はその文書を保管していないのか、また、堺市長は10年間備え置いて関係人の請求があったときは閲覧させなければならないが、関係人は実施機関には閲覧請求できなかったのかと疑問を呈している。
当時の状況を示す書類は残されておらず、実態は定かではないが、堺市長に図書を送付し、堺市長において10年間備え置く義務があるのであれば、その間は同様の図書を実施機関においても保存していたものと推察される。
ただし、関係人の閲覧請求が認められるのは、堺市長に対してであり、実施機関に対しては、新住宅市街地開発法に基づく閲覧請求はできず、実施機関の文書を閲覧しようと思えば、大阪府公文書公開条例に基づく情報公開請求による必要があったものと考えられる。
(18)新住宅市街地開発法第34条第3項の標識設置義務との関係について
異議申立人は、新住宅市街地開発法第34条第3項の標識設置義務を理由に、事業地図面を保存しておくべきであると主張する。
しかしながら、事業完了の公告の日の翌日から起算して10年間は、関係文書を保存していたものと推察されるが、保存すべき法令上の義務はない。
(19)新住宅市街地開発法第33条第4項の買戻権との関係について
異議申立人は、新住宅市街地開発法第33条第4項の買戻権の規定を理由に、事業完了10年後においても文書を保管する必要がある旨主張する。
しかしながら、買戻特約を付している10年間は、関係文書を保存していたものと推察されるが、保存すべき法令上の義務はない。
(20)本件請求文書に現用価値がないと判断した部署等について
異議申立人は、本件文書は現用価値がないものと判断した部所はどこか、また誰かと改めて問うているが、本件文書を廃棄した時期が不明であり、旧企業局であることは確かであるが、当時の担当部署及び当時の決裁権者が誰であるかの詳細は不明である。
(21)新住宅市街地開発法第34条の2に規定する測量のための標識設置との関係について
異議申立人は、新住宅市街地開発法第34条の2に規定する測量のための標識の設置を理由に、大阪府と記載された杭が設置されているはずであるにもかかわらず、日本住宅公団(現、都市再生機構)の杭しか存在しておらず、当該土地が新住宅市街地開発事業区域内か都市再生機構が開発した区域か判明できないため、地積測量図等が必要である旨主張する。
しかしながら、そもそも同条の規定は、事業の施行の準備又は必要な測量に際し、他人の土地であっても強制的に標識を設置する権限を施行者に与える規定であり、この規定をもって、事業区域内の一部土地の境界に大阪府と記載された杭が設置されているはずだという主張には理由がない。
そして、堺市南区○○○△及び○○○○の土地は、いずれも間違いなく新住宅市街地開発事業区域内の土地である。ただし、施行者である実施機関が宅地造成をすべて行ったのか、実施機関が粗造成をした土地を都市再生機構に売却し、都市再生機構において、団地建設のための宅地造成工事を行ったのかどうかは不明である。
また、通常実施機関は、土地処分に際しては、隣接地との境界を明らかにし、必要書類は譲受人に渡している。そして、土地譲渡後の必要書類の管理については、新しい土地所有者たる譲受人の責務であるといわざるを得ない。
3 結論
本件決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を促進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下であっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件決定の妥当性について
本件請求に係る公開請求書の記載等によると、本件請求文書は、昭和48年3月29日に工事完了がなされ、大阪府名義で表示登記がなされた堺市南区○○○○の土地に関する新住宅市街地開発法に基づく手続の関係簿書のうち、(1)事業地位置図及び事業地区域図、(2)道路、下水管その他を含む設計説明書及び設計図、(3)新住宅市街地開発事業に関し認可その他の処分を証する書類、(4)丈量図及び(5)地積測量図である。
実施機関は、本件請求文書の全てについて、「文書の保存年限を経過しており、検索したところ現に保管していないため管理していない。」として、本件決定を行っているので、以下検討する。
(1)実施機関における行政文書の保存及び廃棄に関する規則等について
実施機関における行政文書の管理については、文書規則及びその細目を定める大阪府行政文書管理規程により定められている。
文書規則においては、本庁の室課及び出先機関に、文書管理者を置くこととされている。本庁の室課にあっては、室課の長、出先機関にあっては、出先機関の長を充てることとされており、文書管理者は、室課又は出先機関における行政文書の適正な管理に関する事務を掌理することとされており(文書規則第5条)、行政文書の保存は文書管理者が行うこととされている。
また、行政文書の保存期間については、文書規則別表に定める基準に従い、文書管理者が定めることとされており(文書規則第17条第1項)、保存期間が満了するときは、あらかじめ、文書管理者が廃棄の決定を行った上で、保存期間満了後速やかに処分することとされている(文書規則第18条第1項及び第2項)が、法務課長(平成21年度からは、府政情報室長。)が歴史的文化的価値を有すると認める文書については、別途、大阪府公文書館に引き継がれて保存され、所定の基準に従って、一般の閲覧又は利用に供される(文書規則第18条、大阪府歴史的文書資料類の収集及び保存に関する規程第4条及び第8条)。
なお、現行の文書規則では、行政文書の保存期間については長期、10年、5年、3年、2年、1年の6つの区分が定められている。長期とは10年を超える保存期間とされており、長期保存の文書については、10年を超えた時点で保存期間の見直しを行い、新たに設定した保存期間が満了すれば廃棄の決定を行うこととされている。以前は、永年保存という区分があったが、平成5年4月1日の改正の際に廃止され、現に保有していた行政文書(当時は「行政文書」よりは狭く決裁又は供覧等の手続を経た文書を指す「公文書」の概念が用いられていた。)にも新しい基準を遡って適用して保存期間の見直しを行ったため、現在、永年保存の行政文書は存在しない。
(2)新住宅市街地開発法に基づく文書保存義務等について
異議申立人が主張する新住宅市街地開発法に基づく文書保存義務等について、実施機関は次のとおり説明する。
ア 新住宅市街地開発法第37条の規定について
新住宅市街地開発法第37条第1項の規定により、新住宅市街地開発事業の「施行者は、国土交通省令で定めるところにより、新住宅市街地開発事業に関する簿書をその事務所に備え付けておかねばならない」こととされている。
異議申立人は本項の規定により、施行者である実施機関には本件請求文書を保存する義務があると主張しているが、実施機関は、本項の規定について、「本条は、新住宅市街地開発事業が関係人の利害に多くの影響を及ぼすことにかんがみ、施行者に本事業に関する簿書の備付けの義務を課するとともに、利害関係人の図書閲覧権を担保している。法第三十四条が、工事完了後の諸制限との関係において、関係簿書を市町村に備え付けておかなければならないこととしているのに対し、本条は、事業全体の過程における制限等に対し利害関係人を保護する趣旨のものであり、したがって、事業継続中は常備すべきである(建設省計画局宅地部宅地開発課編『新訂 解説 新住宅市街地開発法 New Residential Site Development Projects Act』昭和45年 大成出版社発行 第163頁)」との解釈に基づき、本項を理由とした本件請求文書の保存義務は事業継続中に限られると説明する。
イ 新住宅市街地開発法第32条及び第33条の規定について
実施機関によると、本件新住宅市街地開発事業は昭和48年に工事完了公告がなされている。
実施機関は、新住宅市街地開発事業の施行者は、新住宅市街地開発法第32条第1項の規定により、工事完了公告の翌日から起算して10年を経過するまでは、所有権移転等について承認する必要があり、また、同法第33条第1項の規定により、10年間の買戻特約を付けなければならないため、この10年の期間が経過するまでは、本件請求文書を保存する必要があるが、この10年の期間が経過すれば、施行者として本件請求文書を保存する必要はないと説明する。
そして、異議申立人の、同法第33条第4項の規定により実施機関は買戻した土地を処分計画の趣旨に沿って再処分する必要があり、本件請求文書の保存義務があるとの主張についても、実施機関は同法第33条第1項による買戻特約を付した10年の期間についての義務規定であると説明する。
さらに実施機関は、土地を売却等する際には、本件請求文書を含む関係書類を買主に引渡していることから、買戻特約を付した10年が経過すれば、売主として関係書類を保存する義務は無く、以後は買主が土地所有者として関係書類を管理することになると説明する。
ウ 新住宅市街地開発法第34条及び同法第34条の2の規定について
異議申立人は、同法第34条第1項及び第2項において、国土交通省令で定める造成施設等の存する区域を表示した図書の市町村長への送付義務及び、市町村における工事完了公告の翌日から10年間の閲覧義務が規定されていることから、実施機関には市町村に送付した後の保存義務が無いため、関係人等は実施機関に閲覧請求等をすることができないのか問うている。
この問いに対して実施機関は、イで述べたとおり市町村に図書を送付した後も、同法の規定により工事完了公告の翌日から10年間の保存義務が定められており、その間情報公開請求に応じることは可能であり、また同項に定める図書の閲覧請求は市町村に対し行う規定であると説明する。
また、異議申立人は、地積測量図に現用価値があるとして、同法第34条第3項に規定する標識設置義務及び同法第34条の2に規定する測量のための標識の設置権限に基づく保存義務があると主張する。
この主張に対して実施機関は、同法第34条第3項の規定は工事完了公告の翌日から起算して10年間の義務規定であり、同法34条の2の規定は新住宅市街地開発事業の施行の準備又は施工に必要な測量を行う際、他人の土地であっても強制的に標識を設置する権限を施行者に与える規定であり、事業完了公告の翌日から10年を越えて本件請求文書を保存する義務を定めた規定ではないと説明する。
以上の新住宅市街地開発法に関する実施機関の説明について、特段不自然不合理な点は認められない。
(3)都市計画法第47条第5項の規定準用の適否について
都市計画法第47条第5項には、「都道府県知事は、登録簿を常に公衆の閲覧に供するように保管し、かつ、請求があったときはその写しを交付しなければならない。」と規定されているが、異議申立人は、本件請求文書について保存期間が不明であれば同項の規定を準用し、常に公衆の閲覧に供するよう保管し、請求があった場合には写しを交付しなければならないと主張する。
しかしながら、実施機関も追加弁明書で述べているように、新住宅市街地開発法には同項の規定を準用する定めは無く、都市計画法においても準用規定は無いことから、同項を理由とした異議申立人の主張は認められない。
(4)本件新住宅市街地開発事業の行政文書がタウン推進室管理課に引き継がれたことについて
異議申立人は、平成18年度に旧企業局の後継組織として住宅まちづくり部にタウン推進室が設置され、旧企業局の業務及び保存すべき文書等を全てタウン推進室が引き継いだとの実施機関の説明に対し、タウン推進室が保存すべきでないと判断した文書がどこに引継がれたのか実施機関は説明しておらず、他の部署を検索すべきであると主張している。
しかしながら、実施機関が説明するとおり、旧企業局の業務全てをタウン推進室が引き継いだのであれば、業務に係る文書等についてもタウン推進室が全て保存するべきとして引き継いだものと判断することが相当であり、また、本件新住宅市街地開発事業を引き継いだのはタウン推進室管理課であることから、本件新住宅市街地開発事業の行政文書はタウン推進室管理課に引き継がれたものと認められる。
(5)本件請求文書が議会提出資料に含まれているか否かについて
異議申立人は、本件新住宅市街地開発事業は資金計画を含むことから議会の議決が必要であり、議会への提出資料として本件請求文書が保管されている蓋然性があると主張している。
新住宅市街地開発事業に関する議会提出資料について、実施機関の説明によると、事業全体の予算については議会の議決事項であり、議会に資料を提出することとなるが、提出するのはあくまでも事業全体の予算に関する資料であり、事業地内における個々の土地の処分等については議決事項ではなく資料として提出することはないとのことであり、本件請求文書は議会の提出資料には含まれていないと認められる。
(6)実施機関において本件請求文書を保存しているか否かについて
本件請求文書について、設定されていた保存期間は不明であるが、(1)で述べた文書規則等の内容、(4)で述べた業務の引継ぎの経緯及び(5)で述べた議会提出資料についての検討等からすると、本件請求文書を保存している可能性のある部署は、本件請求文書の保存期間の如何にかかわらず、文書を作成した旧企業局の本件新住宅市街地開発事業に関する業務を引き継いでいるタウン推進室管理課、廃棄決定がされる文書について歴史的文化的価値があると認めた場合に引き継いで保存することがある大阪府公文書館のいずれかに限られる。
このうち、タウン推進室管理課に本件請求文書が現存しないことについて、実施機関は、本件請求を受けてタウン推進室管理課の書庫内を確認したが、本件請求文書を発見することはできなかった。本件請求文書は、事業完了後長期間経過した文書であり、事業完了後に実施機関が利用する予定はなく、新住宅市街地開発法の規定内容からも10年を超えて保存する必要性が認められないことから、現用価値のないものと判断して廃棄されたと考えられると説明している。これらの説明については、(1)で述べた保存期間の定めの変遷及び(2)で述べた新住宅市街地開発事業法の内容からすると、特段不自然なところはなく、本件請求文書は、住宅まちづくり部タウン推進室管理課には、現存しないと認められる。
また、大阪府公文書館については、異議申立人が調査に行き、本件請求文書を閲覧することができなかったとのことであるが、審査会においても調査を行ったが、本件請求文書を確認することはできなかった。
(7)本件新住宅市街地開発事業に関する行政文書の廃棄等の記録について
実施機関の説明により、本件新住宅市街地開発事業に関する行政文書の廃棄の記録として平成17年度及び平成18年度分の廃棄決定に係る起案文書が保存されていることが判明したので、その内容を審査会で確認したところ、平成17年度は旧企業局の企業管理課、平成18年度はタウン推進室管理課が起案を行い、文書題名がいずれも「行政文書の廃棄の決定及び公文書館への引渡しについて(伺い)」となっていることから、本件新住宅市街地開発事業に関する行政文書の廃棄を行うと共に、法務課長から歴史的文化的価値があると回答のあった文書については、公文書館に引き継ぐ手続を行ったことが確認された。これらの起案文書には、「文書廃棄票」が添付されており、同票には廃棄決定を行った行政文書を綴った簿冊の表題が記載されているが、本件請求文書がどの簿冊に綴られていたのかが不明であるため、本件請求文書を含む簿冊がこれらの時期に廃棄されたことを特定することはできなかった。
また、実施機関においては、廃棄決定等の起案文書の保存期間が5年と定められていることから、平成14年度以前に作成した廃棄決定に係る起案文書は全て廃棄されており、同年以前に廃棄された簿冊を確認することができなかった。
さらに、実施機関の説明から、実施機関が「公文書館保存文書他」と題する簿冊について、作成の時期及び経緯は不明であるが保有していることが確認された。この簿冊には、新住宅市街地開発事業に係る行政文書を廃棄または公文書館に引き継いだ記録として、文書題名、文書作成課及び文書管理課が記載されているが、本件新住宅市街地開発事業に関する全ての文書題名が記載されているかどうかは不明であり、廃棄または公文書館へ引継いだ時期についても記載されておらず不明であった。実施機関によると、本件新住宅市街地開発事業において○○はI住区、○○○は泉北I-3工区となり、同簿冊には本件請求文書に該当する可能性がある情報として、「泉北I-3工区宅地整備その他工事について」等の泉北I-3工区を含む文書題名が記載されていることが確認できた。しかしながら、(6)のとおり、住宅まちづくり部タウン推進室管理課及び公文書館には、本件請求文書は保存されていなかった。
(8)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、実施機関は本件請求文書を廃棄しているのであれば、復元するか、関係者等から取寄せて公開しなければならないと主張する。しかしながら、条例に基づく行政文書公開制度は、公開請求時に実施機関が現に保有している行政文書を公開する制度であり、現に保有していない行政文書の復元、取り寄せ等を求めることはできない。
また、異議申立人は、自らにとっての本件請求文書の重要性や必要性、本件新住宅市街地開発事業の歴史的価値等種々の主張をするが、いずれも本件請求文書の存否についての当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。
以上(1)から(8)で述べたところを総合すると、本件請求文書については、廃棄された時期等が不明ではあるものの、現在、実施機関においては保有していないと認められることから、本件決定は妥当である。
3 文書廃棄の記録の保存について
本件決定の適否についての審査会の判断は以上のとおりであるが、文書廃棄の記録の保存に関して要望を付け加える。
実施機関が保有する文書廃棄の記録については、廃棄決定に係る決裁文書が該当するが、現在、この決裁文書の保存期間は5年とされている。
このため、本件請求への対応に際して、実施機関は、平成14年以前の文書廃棄の状況を確認することができなかったが、仮に文書廃棄の記録が保存されていれば、保存期間や廃棄の状況について、事実を確認したうえで、異議申立人に説明することも可能であったと考えられる。
また、現在、実施機関においては、保存期間の定めのある行政文書の保存や廃棄に関する情報は電子化されており、これらを保存することは従前より容易になっていると考えられる。
条例は、第3条において、実施機関の責務として、「行政文書・・・の適切な保存と迅速な検索に資するため行政文書・・・の管理体制の整備を図らなければならない。」と定めている。
審査会としては、府民の情報公開を求める権利を十分に保障するため、行政文書の廃棄に係る記録の保存について、改善を望むものである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議に関与した委員
岡村委員、福井委員、松田委員、山口委員