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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第178号)
府立学校教諭自己申告票非公開決定異議申立事案
(答申日 平成21年11月11日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった行政文書のうち、「学校名」、「氏名」、「職名」、「本府在職年数」、「現任校在校年数」、「所属学年」、「担任の有無」、「担当教科」、「校務分掌等」、「備考」及び「今年度の組織目標(自己の目標と関連する学校教育目標や学年・分掌・教科等の目標)」の各欄を公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 異議申立人は、平成20年9月14日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「2008年度教職員の評価・育成システムの大阪府立豊中高等学校の「教諭」職の職員全員の分の自己申告票(ただし、各1枚めのみ)」(以下「本件請求」という。)の公開請求を行った。
- 実施機関は、同年9月29日、本件請求に対応する行政文書として「平成20年度自己申告票(教諭用)」」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、条例第13条第2項の規定により、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり公開しない理由を付して、異議申立人に通知した。
(公開しない理由)- ア 大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。
自己申告票は、「教職員評価・育成システム」に基づき、被評価者である教職員から、評価者である校長に提出されるものであって、個々の職員の年間の取組目標等が記載されており、公開することとなれば、自己申告票の未提出者や病気休暇者等が特定される可能性があるとともに、個々の目標が他人に知られることになり、自己申告票を提出しない教職員が増加するおそれがあるなど、同システムの運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。
したがって、本件情報は、教職員の人事管理に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - イ 大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
自己申告票は、「教職員の評価・育成システム」に基づき、被評価者である教職員から、評価者である校長に提出されるものであって、個々の職員の年間の取組み目標等が記載されており、これらは、個人の勤務評価に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものに該当する。
- ア 大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。
- 異議申立人は、同年11月19日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、条例に基づき部分公開を求める。求める部分は、「年齢」、「設定目標」、「進捗状況」、「目標達成状況」を除く他の部分(「今年度の組織目標」等)。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね以下のとおりである。
1 異議申立書による主張
条例の規定は、公開が原則で、非公開は例外である。非公開の規定に当たるかどうかは一つ一つ慎重に検討し、その理由を明示・説明すべきだが、本件決定の「公開しない理由」の記述は一方的な断定で、慎重な検討をしたとは思えない。
本件行政文書は大阪府立豊中高等学校の教諭全員の分だが、この制度(教職員評価育成システム)の校長・教頭等管理職の同じ文書については、既に実施機関によって府立学校の全員の分が、「年齢」「設定目標」「進捗状況」「目標の達成状況」を除くほかの部分に限って、部分公開されている。
その公開が始まった時の大阪府情報公開審査会の答申(2007年5月1日付け大公審答申第136号)は、次のように書いている。(答申を受けた実施機関の決定(2007年5月25日)も同内容である。)
「このような情報は、実施機関における人事管理の一環として作成された情報ではあるものの、・・・・当該学校の生徒・保護者のみならず、受験生やその保護者、地域住民など広く府民の正当な関心の対象となるべき情報であり、これを公開することにより、地域社会に開かれた学校運営の推進に資するところがあると考えられる。」そして、続けて実施機関が当初主張していた全面非公開の理由意見を5点に分けて検討した上で、「これらを公開しても評価・育成システムの目標が達成できなくなり、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えず、条例第8条第1項第4号に該当しない。」
また、条例第9条第1号の該当性については、
「そこには校長個人の考えや思いが反映されており、個人に関する情報としての側面は否定できないものの、基本的には公務員としての職務の遂行に関する情報であることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められず、第9条第1号に該当しない。」と書いてある。そして、学校名、氏名、校長在職年数、備考と、中期的な学校経営のビジョン、今年度の学校教育目標の各欄については、公開すべきである。
と結論を述べている。
本件決定についても、上記と同じ第8条第1項第4号と第9条第1号が「公開しない理由」になっている。それがなぜ誤りかは、上記の大公審答申第136号の指摘と全く同じだと思う。校長(管理職)と教諭職(一般教員)の違いはあっても、一人一人の教員が何を年間目標にして教育活動をしているかという本文書の内容の情報は「人事管理の一環として作成された情報ではあるものの、」「広く府民の正当な関心の対象となるべき情報であり、」「これを公開することにより、地域社会に開かれた学校運営の推進に資するところがあると考えられる。」
また、「個人の考えや思いが反映されており、個人に関する情報としての側面は否定できないものの、基本的には公務員としての職務の遂行に関する情報であることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ」ない。
本件決定の「公開しない理由」で、『第8条第1項第4号については、次の3点が書かれている。a自己申告票の未提出者が特定される可能性がある。b病気休暇者等が特定される可能性がある。(提出を求められないため)c個々の目標が他人に知られることになり、自己申告票を提出しない教職員が増加するおそれがある。しかし、aの未提出者については、既に本システムの年間評価結果の賃金(昇給と勤勉手当(ボーナス))への反映が強行され、不提出者は5段階の最低評価(D)として扱われるという大きな不利益の中でも本人の意志で出していないので、名前の公表によって今さら不利益はない。bの病休者等についても、学級休担任や授業担当者が交代するために常に保護者にも公表されているから、本件で名前がわかっても改めて不利益はない。cについては、本システムは校長に提出する本文書を、同僚教職員同士や保護者、市民にも自分から見せることを禁じてはいない。学校教育は、教職員が協力して一人一人の子どもを指導していくことで成立っているので、本文書を見せ合い相談し、保護者にも協力を求めていく努力が、むしろ必要である。他人に知られたら提出しなくなる、という理由は、教職員全体をばかにするものである
また、「公開しない理由」で、第9条第1号については、「個人の勤務評価に関する情報であって、・・・・一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものに該当する。」と書いている。これはcで述べた点に加えて、さらに条例の解釈としても誤っている。第9条第1号は「公開してはならない」公文書として、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」を列記しているが、「公開しない理由」が書いている「勤務評価に関する情報」は、ここには含まれていない。校長等の管理職員と同様に一般教員の本文書も公開が原則で、第9条第1号の例外規定には当たらない公文書である。
なお、最後に、もし、私の異議申立てが受け入れられない場合、仮に教職員一人一人の個人名等(名前、職名、各在職年数、所属学年、担当教科・科目、公務分掌等、の各欄)を非公開にしたとしても、学校名さえ公開になれば本文書を部分公開する市民にとっての意義はあるので、それも併せて申し立てる。
2 反論書による主張
実施機関は、「各教職員の自己申告票は、校長の自己申告票とは違い、自らの目標に応じた組織目標等を選択しているものであることから、本件情報を公開することとなれば、人事管理情報である設定目標等が類推されることとなることは明らかである。」としている。
しかし、具体的に見ると、各教職員の本欄は、「今年度の組織目標(自己の目標と関連する学校教育目標や学年・分掌・教科等の目標)」となっている。一方、既に公開されている校長等管理職員の該当欄は、「中期的な学校経営のビジョン」と「今年度の学校教育目標等」となっている。教職員も校長も、この両者は本質的に同じものだと思われる。
校長の場合の、「中期的な(数年にわたる)学校経営ビジョン」は、学校内のどの場でも討議が義務づけられていないから、校長の意志での「選択」そのものであり、非公開部分である「設定目標等が類推される」可能性はある。また「今年度の学校教育目標等」の方も、職員会議で全教職員で討議決定されたその年度の学校教育計画そのものを転記するのではなく「・・・・等」であり、校長の「選択」が働く結果、「設定目標等が類推される」可能性はある。事実、公開されている府立学校の全校長の本欄を見ると、どう考えても全教職員に知らされ討議されたとは思えない、教育目標としては極端な記入事例が多数ある(その一つが、本件文書の当該校の物である。)。
「設定目標等が類推される」可能性があるとしても、逆にだからこそ教育情報として、部分でも公開する意味がある。それは、各教職員の本欄も全く同じである。本欄は公務員である教員の校務についての「組織目標」である以上、校長と同じ意味で教育情報として公開すべきである。
実施機関は、「組織目標等を公開することで、教職員個人が何を重点的な目標としたか、他人に知られることになる。」「各教職員の自己申告票については、公開を前提としていないことから、公開することにより、自己申告票を提出しない、または、形式的な記述をする教職員が増加するおそれがあり、システムの運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。」としている。
しかし、この前半の部分は、事実として間違っている。各教職員だけでなく校長も含めて、教職員評価育成システム制度と、その各文書(本件の「自己申告票」を含めて)は、「公開を前提とする」とは書かれていないが、逆に「非公開を前提とする」とも一切書かれていない。むしろ、公文書である以上、明記されていないということは、「公開が前提」になる。
現実に学校現場では、記入し提出している教職員の中でも数多くの者が、同じ学年を初め職場の同僚と相談し、見せ合い、一緒に記入したり、また勤務校の保護者をはじめ市民にも公開して理解と協力を求めたりしている。それはもちろん全く自由で、公開することが服務規律違反とされたような例は一切ない。
「公開することにより、・・・形式的な記述をする教職員が増加するおそれがあり、システムの運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。」の部分が、実施機関が非公開とする最大の理由であろう。
しかし、公教育の柱は、地域性と公開性である。全国一律の教科書(教材)で、教員がロボットのように同じ言葉で講義し、学力テストをくり返せば子どもの成績が伸びる、ということはありえない。いろいろな地域・校区の違い、保護者の生活の違いの中で登校する子どもを迎え、地域・保護者と協力していくこと。また、学習の意欲を持てない厳しい条件の子ども、指導がむつかしい子どもに対して、教職員が校長も含めて協力して対していけるお互いの公開性。それらが、子どもが育っていくために、学校でぜひ必要なことである。
本件の教職員評価育成システムは、教育委員会自身の手による公教育の破壊という問題をはらんでいる。それが強行実施されている現状で、本件文書の教育情報としての市民への公開は、最低限で必要なことである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 教職員の評価・育成システムについて
- (1)実施機関は、平成14年7月、「教職員の資質向上に関する検討委員会」から、「教職員全般の資質向上方策」について最終報告を受けた。この最終報告の中で、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として提言されたのが「教職員の評価・育成システム」(以下「システム」という。)であり、試行実施を経て、平成16年4月16日に開催された大阪府教育委員会会議で、府立学校に勤務する教職員を対象とした「府立の高等専門学校、高等学校等の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」(平成16年大阪府教育委員会規則第12号)(以下、「システム実施規則」という。)を新たに制定し、平成16年度以降は、これら規則に基づいて実施している。
地方公務員法第40条第1項には「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」とあり、実施機関においては、平成16年度以降、システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務評定として実施している。
評価結果の給与への反映については、平成18年度の評価結果を平成19年度の昇給及び勤勉手当における勤務成績の判定に活用することとし、職員の給与に関する条例、府人事委員会規則の改正や実施機関による「勤務成績に応じた昇給の取扱いに関する要領」等を制定するなど必要な規定整備を行い、各府立学校長に通知し、全ての教職員に周知している。 - (2)システムは、システム実施規則に基づき、自己申告と面談を基本に実施しており、府立学校における教諭の評価者については、1次評価者は教頭、2次評価者は校長としている。
各教職員は、学校や校内組織の目標達成に向け、各自が年間を通じて取り組む目標を設定し、自己申告票(設定目標等)を作成して育成(評価)者である校長に提出する。教職員の設定目標は、自己申告票をもとに、育成(評価)者との面談によって決定される。
教職員から提出された自己申告票に対して、育成(評価)者は、面談を実施し、児童生徒や保護者、同僚教職員などの意見も参考にしながら評価を行う。
評価では教職員の自己申告を踏まえ、設定された個人目標の達成状況を判断して「業績評価」として評価し、また、職務全般の取組みを対象に、教職員の日常の業務の遂行を通じて発揮された能力を「能力評価」として評価する。その上でこれらの評価をもとに「総合評価」が行われる。
評価は、いずれもA・B・Cの3段階を基本にS・Dを加えた5段階(S・A・B・C・D)の絶対評価でなされ、その結果は年度末に本人に開示される。 - (3)自己申告票における教職員の目標については、学校や校務分掌・学年など校内組織における自己の役割を踏まえ、目標達成に向けて各自が取り組みを進めるために設定するものであることから、まさに、自己申告における組織目標・方針・設定目標等は、教職員が意欲的に取組みたいと考えていることについて記載されたものであって、評価者である校長の評価を受けるために設定される人事管理上の情報である。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、各教職員が、システム実施規則に基づき、教職員個人の評価のために各教職員の1次評価者である教頭を経由して、2次評価者である校長に提出するために作成されたものである。
本件行政文書の内容としては、(1)「本人に関する部分」(2)「今年度の組織目標・方針等」(3)「設定目標」、(4)「進捗状況」、(5)「目標の達成状況」の項目がある。
3 本件決定理由について
本件決定は、本件行政文書に記載された情報が条例第8条第1項第4号及び第9条第1号に該当することから、非公開としたものであるが、以下において、その理由を述べることとする。
(1)条例第8条第1項第4号の該当性について
本件情報は、地方公務員法第40条の規程に基づき、実施する職員の勤務評定として実施する「教職員の評価・育成システム」において、被評価者として、年間を通じて意欲的に取組みたいと考える方針や、目標を記載し、評価者である校長に提出する人事管理上の情報である。
校長は、各教職員から提出されたこの自己申告票の内容や、様々な機会を通じて把握した具体的な取り組みなどを参考に評価することとなる。
特に、各教職員の自己申告票は、校長の自己申告票とは違い、自らの教職員の目標に応じた組織目標等選択しているものであることから、本件情報を公開することとなれば、人事管理情報である設定目標が類推されることとなることは明らかである。
また、本件情報が公開されることとなれば、その学校での未提出者や病気休暇者等が特定される可能性があるとともに、各教職員の目標が組織目標等を公開することで、他人に知られることになる。
また、各教職員の自己申告票については、公開を前提としていないことから、公開することにより、自己申告票を提出しない、または、形式的な記述をする教職員が増加するおそれがあり、システムの運用に著しい支障を及ぼすおそれがある。
このように、本件情報は、教職員の人事管理に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報に該当する。
(2)条例第9条第1号の該当性について
本件情報は、被評価者である教職員から評価者である校長に提出されるものであり、教職員の勤務評価に関する情報である。
本件情報が公になれば、各教職員自らの意思に基づいて設定した、組織目標や方針が明らかになることとなり、その結果、自らが設定した個人目標等が類推されるなど、個人のプライバシーに関する情報であって、教職員個人にとっては、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報に該当するものである。
4 結論
以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、何ら違法又は不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 評価・育成システムについて
実施機関は、教職員の意欲と資質能力を高め、教育活動をはじめとする学校の様々な活動を充実し、学校を活性化する方策として、教職員の自己申告による個人目標の設定(自己申告票の作成)や上司との面談等を内容とする評価・育成システムを2年間にわたる試験的実施と試行実施を経て、平成16年度から本格的に実施している。
教職員の評価・育成システムは、システム実施規則に基づき実施しており、自己申告と面談を基本にしている。教職員からの評価は、教頭(1次評価者)、校長(2次評価者)との面談や教職員の自己申告票、児童生徒や保護者、同僚教職員等の意見も参考にしながら、業績評価、能力評価及び総合評価が行われており、実施機関においては、評価・育成システムの評価結果をもって地方公務員法第40条第1項に規定する勤務成績の評定としている。平成18年度の評価結果から、次年度の昇給や勤勉手当の支給割合にも反映されている。
3 本件行政文書について
本件行政文書は、実施機関が、評価・育成システムの一環として、教職員に提出させている「自己申告票」のうち、平成20年度の府立豊中高等学校の「教諭」職の職員全員の分の1枚目の部分であり、その記載内容は、以下のとおりである。
(1)本人に関する項目
「学校名」、「氏名」、「職名」、「年齢」、「本府在職年数」及び「現任校在校年数」、「所属学年」、「担任の有無」、「担当教科」及び「校務分掌等」が4月1日現在で記入されている。また、「備考」には、年度途中から担任をした場合など、本人に関する事項で留意すべき点があれば記入することとされている。
(2)「今年度の組織目標等」
「今年度の組織目標等(自己の目標と関連する学校教育目標や学年・分掌・教科の目標)」には、今年度、学校全体として重点的に取り組むべき目標を記入することとされている。
(3)設定目標
「今年度の組織目標(学校教育目標や学年・分掌・教科等の目標等)」を踏まえ、職種ごと、目標設定区分ごとに重点的に取り組むべき目標を設定することとされている。
「目標設定区分」欄には、教諭の場合は、「学ぶ力の育成」「自立・自己実現の支援」「学校運営」の3つの目標設定区分名を記入し、「内容・実施計画」欄に、目標設定区分ごとの目標の内容を具体的に記入するとともに、目標を実現するための実施計画を記入することとされている。
なお、目標の設定にあたっては、目標ごとに到達点と目標を実現するための具体的な取り組み(実施計画)が明確であることが大切とされている。
(4)進捗状況
設定目標の進捗状況についての目標ごと及び全体の自己評価の結果を、「計画以上に進んでいる」、「概ね計画どおり進んでいる」、「計画どおり進んでいない」のいずれかにチェックして記入するとともに、具体的な「進捗状況及び課題」を記入することとされている。
(5)目標の達成状況
設定目標の達成状況については、目標ごと及び全体の自己評価の結果を、「上回っている」、「概ね達成している」、「達していない」のいずれかにチェックして記入するとともに、具体的な「達成状況」と「今後の課題」を記入することとされている。
4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)条例第8条第1項第4号該当性について
実施機関は、本件行政文書に記録された情報について、条例第8条第1項第4号に該当すると主張するので、この点について検討する。
また、公開の可否の検討に当たっては、条例第10条第1項の趣旨を踏まえ、部分公開の可否を含めて検討することとする。
ア 条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが条例第8条第1項第4号の趣旨である。
同号は、
- (ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- (イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
イ 条例第8条第1項第4号該当性について
本件行政文書に記録されている情報が上記ア(ア)、(イ)の要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。
本件行政文書は、府立学校の教諭が、実施規則に基づき、教諭の評価者である学校長に対して提出するために作成されたものであり、学校長が当該学校の教諭の勤務評価を行うための資料であることから、本件行政文書に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う人事管理等の事務に関する情報」として、ア(ア)の要件に該当する。
次に、本件行政文書に記録された情報がア(イ)の要件に該当するかどうかについて検討したところ、以下のとおりである。
- (ア)本人に関する項目の各欄に記録されている情報について
本項の情報は、各年度4月1日現在の「学校名」、「氏名」、「年齢」、「本府在職年数」、「現任校在校年数」、「所属学年」、「担任の有無」、「担当教科・科目」、「校務分掌」及び「備考」欄に記録されている情報である。公務員の職務の遂行に関する行政文書の公開請求に対しては、個人のプライバシー情報を非公開とするために必要な場合や当該公務員の生命、身体財産等の保護に支障を及ぼすおそれがある場合など特別の事情のない限り、当該公務員の氏名、所属、職名等の情報は公開すべきものである。これらの情報は、人事管理に係る本件行政文書である自己申告票に記載されているものの、当該情報自体は、個人のプラバシーに関する情報には該当しない。
また、これらの情報を公開することにより、特定の教職員が自己申告票を提出したか否かについて、わかることになるが、本件行政文書である「府立豊中高等学校」の「教諭職全員」の「平成20年度の自己申告票」については、システム実施規則に基づき全員が提出しており、未提出者がいないため、これを公開しても未提出者が特定されたり、未提出理由が個人のプライバシー等に関わることを考慮して非公開にする理由が存在しない。
以上のことから、本項の情報は、公にすることにより人事管理等の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは言えず、ア(イ)の要件に該当しない。 - (イ)「今年度の組織目標(自己の目標と関連する学校目標や学年・分掌・教科等の目標)」の欄に記録されている情報について
本項の情報は、学校教育目標等の組織目標について、当該年度に教諭自身が担当学年や校務分掌・強化などの構内組織における役割を踏まえ、目標達成に向けて取り組むべき目標を簡潔にまとめたものである。
本項の情報を審査会において見分したところ、毎年度、作成され、広く公表されている府立豊中高等学校の「学校教育計画」に掲げられている重点課題に関する情報を中心とした目標が、簡潔に記載されていることが、ほとんどの教諭の本件行政文書において認められた。
このような情報は、実施機関における人事管理の一環として作成された教諭個人の情報ではあるものの、「教職員の評価・育成システム手引き」において、「学校教育の目標等の組織目標を記入する」こととされている項目であることを考慮すると、府立豊中高等学校としての目標に係る情報として、生徒・保護者など広く府民の正当な関心の対象となるべき情報である。学校運営の最高責任者である学校長と一般教諭とはその責任度合いにおいて異なるものの、「組織目標」である限りは、教職員の個人的な目標とは異なり、これを当該学校の生徒、保護者、受験生、地域住民などに公開することにより、教育活動に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは言えない。
これに対し、実施機関は、本項の情報は「自己申告における今年度の組織目標・設定目標等は、教職員自身が意欲的に取組みたいと考えていることについて記載されたものであって、その記載された内容に基づき、評価者である校長の評価を受けるために設定される人事管理上の情報である。」として、ア(イ)の要件に該当すると主張しているものと解される。
しかし、本項の情報は、人事管理等の事務に関する情報ではあるものの、上述したように「組織目標」でもあることから、これを公開しても評価・育成システムの目的が達成できなくなり、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えずア(イ)の要件に該当しない。 - (ウ)「設定目標」、「進捗状況」及び「目標の達成状況」の各欄に記録されている情報について
本項の情報を審査会において見分したところ、教諭が「学ぶ力の育成(学習指導)」、「自立・自己実現の支援(児童生徒指導)」、「学校運営」について取り組みたいと考えている事項に係る個別の目標や実施計画の内容、その達成状況の自己評価等、職務に関しての自己の課題や次年度の構想、生徒への学習指導及び生活指導、研修等自己研鑽等について、具体的かつ比較的詳細に記載されていることが認められ、また、本件行政文書が校長に提出されたものであることから、面談において、当該教諭の設定目標等に関連してヒアリングした内容について、学校長が手書きでメモした箇所も多数認められた。
これらの情報は、目標管理の手法による教職員の評価・育成を目的とする評価・育成システムにおいて、教職員が、学校教育目標等を達成するため、個人として設定した具体的な目標及びその進捗状況や達成状況を評価者である学校長に申告する自己評価そのものの情報である。また、この自己評価を踏まえて、学校長が、教職員の勤務評価を行っており、その結果は、教職員個人に対する指導・育成や人事異動等に活用されており、18年度分からは、教職員個人の給与にも反映されているものである。
このような個人の勤務評価に係る具体的な情報については、通常、府民や他の教職員に明らかにされるような情報ではなく、また、これらの情報が公になると、教職員が他の教職員や保護者等に内容を知られることを慮って、自らの目標や評価等を率直に記述しなくなるおそれがあり、その結果、実施機関においては、人事評価に必要な情報を十分に得ることができず、適正な勤務評価を行うことが困難となるおそれがある。さらに、評価結果を活用して実施する校長の指導・育成等の学校教育に関する事務や人事異動、昇給等の事務にも支障をきたすなど、今後、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められることから、本項の情報は、ア(イ)の要件に該当する。
以上のことから、本件行政文書に記載されている情報のうち、(ウ)「設定目標」、「進捗状況」及び「目標の達成状況」の各欄に記録されている情報については、条例第8条第1項第4号?該当し、公開しないことができるが、(ア)本人に関する情報の各欄並びに(イ)「今年度の組織目標(自己の目標と関連する学校教育目標や学年・分掌・教科等の目標)」の欄に記録されている情報については、同号には該当しない。
(2)条例第9条第1号該当性について
本件行政文書に記録された情報は教諭個人に係る情報でもあることから、(1)で条例第8条第1項第4号に該当しないと判断した本人に関する情報の各欄並びに「今年度の組織目標(自己の目標と関連する学校教育目標や学年・分掌・教科等の目標)」の欄に記録されている情報が、条例第9条第1号に該当するか否かについて検討する。
ア 条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- (ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- (イ)特定の個人が識別され得るもののうち、
- (ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならない旨定めている。
イ 条例第9条第1号該当性について
- (ア)本人に関する情報の各欄に記録されている情報について
本項の情報は、いずれも教諭本人の属性に関する情報であり、学校名及び氏名により、特定個人が識別されるから、ア(ア)及び(イ)の要件に該当することは明らかである。
次に、ア(ウ)の要件に該当するか否かについて、項目ごとに検討する。- a「学校名」、「氏名」、「本府在職年数」、「現任校在校年数」、「所属学年」、「担任の有無」、「担当教科・科目」、「校務分掌」及び「備考」欄に記録されている情報について
これらの情報については、いずれも個人に関する情報ではあるものの、公務員の職又はその職務の遂行に関する情報であり、これらの情報そのものは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められず、ア(ウ)の要件には該当しない。 - b「年齢」について
「年齢」については、個人に固有の属性に関する情報であり、公務員としての職務に関する情報ではなく、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、ア(ウ)の要件に該当する。
- a「学校名」、「氏名」、「本府在職年数」、「現任校在校年数」、「所属学年」、「担任の有無」、「担当教科・科目」、「校務分掌」及び「備考」欄に記録されている情報について
- (イ)「今年度の組織目標(自己の目標と関連する学校教育目標や学年・分掌・教科等の目標)」の欄に記録されている情報について
本項の情報は、学校教育目標等の組織目標について、当該年度に教諭自身が担当学年や校務分掌・教科などの校内組織における役割を踏まえ、目標達成に向けて取り組むべき目標を簡潔にまとめたものであり、4(1)イ(イ)で述べたとおり、府立豊中高等学校の「学校教育計画」の「本年度の重点課題」に該当する情報を中心とした、組織としての目標が簡潔に記載されていることが認められ、教諭本人の個人的な事情が反映されている目標は見受けられなかった。
したがって、本項の情報は、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められず、ア(ウ)の要件には該当しない。
以上のことから、(1)において条例第8条第1項第4号に該当しないと認められた情報のうち、「年齢」については、条例第9条第1号に該当し公開してはならないが、「学校名」、「氏名」、「本府在職年数」、「現任校在職年数」、「所属学年」「担任の有無」「担当教科・科目」「校務分掌等」及び「備考」、「今年度の学校教育目標等」の各欄に記録されている情報については、条例第9条第1号にも該当せず、公開すべきである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、「学校名」、「氏名」、「本府在職年数」、「現任校在校年数」、「所属学年」「担任の有無」「担当教科・科目」「校務分掌等」、「備考」及び「今年度の学校教育目標等」の各欄の公開を求める部分について、理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
鈴木秀美、岩本洋子、大和正史、岡村周一