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更新日:2024年5月28日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第173号)

〔全国学力・学習状況調査結果部分公開決定異議申立事案3〕

(答申日 平成21年8月3日)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において公開しないことと決定した部分のうち、異議申立人が公開を求めている市町村別結果に係る部分を全部公開すべきである。

第二 異議申立ての経過

1 平成20年9月2日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「全国学力・学習状況調査に係る大阪府内の市町村別成績に関する行政文書(平成19年度)」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 同年9月16日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として別表に掲げる行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、各表に掲げる公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して異議申立人に通知した。

(公開しない理由)

条例第8条第1項第4号に該当する。

「平成19年度全国学力・学習状況調査」の「小学校調査」及び「中学校調査」は、国が実施主体となり、市町村教育委員会がそれぞれの判断で参加することにより実施された調査であって、「平成19年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(文部科学省初等中等局長通知)において、文部科学省は、調査結果について、市町村名・学校名を明らかにした公表がされることになると、市町村間や学校間の序列化や過度な競争が生じるおそれがあり、都道府県教育委員会は域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこととしているものである。

また、文部科学省は、当該調査に係る実施要領において、市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねることとしており、府教育委員会において、各市町村教育委員会に対し、自主的な公表を要請しているところである。

そのため、本件行政文書(非公開部分)を公開すると、市町村教育委員会との信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

3 同年9月19日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

なお、当審査会が同年12月22日に行った口頭による意見聴取の際の異議申立人から聴取した結果に照らすと、異議申立人は、本件非公開部分に記録されている情報のうち学校別の情報については、公開を求めていないと認められた。

したがって、本件異議申立てに係る審査の対象とすべき部分(以下「本件係争部分」という。)は、本件非公開部分のうち、別表の小学校調査及び中学校調査のうち「16 実施概況 市町村教育委員会」及び「17 回答状況[学校質問紙]市町村教育委員会」を除く市町村別の数値が記録された部分のみである。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、全部公開を求める。

第四 異議申立ての主張要旨

異議申立人の主張は概ね次のとおりである。

実施機関は部分公開に至った理由として、条例第8条第1項第4号に該当するとの見解をとっているが、私は、公にすることにより、事務の目的が達成できなくなるとか、事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすとはとうてい考えられない。

実施機関は、非公開部分を公開すれば、それば序列化や競争を招くおそれがあり、ひいては、市町村と実施機関との信頼関係を損ねると主張しているが、根本的に、なぜ序列化や競争が良くないのか答えていない。

実施機関の主張によると、競争の弊害としての具体例として、広島県三次市、東京都足立区の事件をとり上げているが、私は、その原因は現場の教育関係者(教師、校長または広義として親や児童、生徒)の意識に有ると考える。

このことは、平成20年5月19日参議院の決算委員会での質疑でも取り上げられ、渡海文部科学大臣もこのような事件にならないよう現場をしっかり指導し、対応しなければならない、このように陥る原因が現場の意識に有る、と答弁されている。

したがって、上記のような事態にならないよう調査を実施するにあたって、実施機関が主導的立場に立って、この調査の意義を説明することが肝要かと思う。

この事件を取り上げて、だから競争は良くない、との主張には納得ゆかないし、過度な競争とも思わない。現場の教育関係者がおこした事件である。

教育において、動機付けのひとつとして、競争という概念も必要である。実際、私立学校と公立学校との競争や中高生による受験競争もある。なぜ、そのような競争が必要かといえば、むつかしい学問をする為のモチベーションを上げる一つの要素として必要だからこそ、競争という概念が存在するのだと思う。序列化に関しても、最高学府といわれる東京大学を筆頭に日本の大学はその優劣が序列化されている。私は、以上のような観点から、序列化や競争がかならずしも悪影響を及ぼすものではないと考えている。

もう一つ、私の率直な意見を言うと、実施機関が部分公開とした理由のひとつにあげた「平成20年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱について(通知)文部科学省初等中等教育局長」の内容の中に、都道府県教育委員会は調査結果を公表しないことと明記されていることを理由にあげているが、この通知が、法的な拘束力があるのか、ということである。私は、この通知は、準法律的行政行為であり、いわゆる行政機関の判断(この場合は文部科学省)であって、この判断に実施機関が拘束されるべきものでないと考える。

文部科学省から、教育行政の為に使用して欲しいとあずけられた行政文書をどのように扱うかは、一義的には、実施機関が判断すべきものであり、公開、非公開はその文書を保有する実施機関が主体的に決められるのではないか。

条例第11条には、第8条の規定にかかわらず、公益上必要であれば、公開できるとの規定がある。

先日、大阪府知事は教育非常事態宣言を発令した。

理由は、大阪府が2年連続して正答率が、全国45位と低迷し、知事は「府民あげて学力向上に努めなければならない」と発言していた。

学力向上をめざす為にも、府民あげての学力向上の為にも、当該行政文書の公開は必要である。

私は、市町村レベルの公開が現在すすむ中、実施機関にも、全国平均正答率が45位という結果について、説明責任があると考えており、結果公表をもって市町村との信頼関係がくずれるとの主張は、そうであれば、要請でなく、自ら実施機関が各市町村担当者と会い、公開することがこれからの教育行政にとって必要である、と説明し、説得することが大切だと思う。

したがって、公益性という点から当該行政文書の公開を検討されたく、切に望むものである。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 全国学力・学習状況調査について

(1)調査の目的と調査対象・調査事項

全国学力・学習状況調査(以下「本件調査」という。)は、国が、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図るとともに、各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策成果と課題を把握し、その改善を図ること、児童生徒一人一人の指導の改善につなげることなどを目的として、平成19年度から始まった調査である。

対象は国・公・私立学校の小学校6年、中学校3年の原則として全児童生徒であり、教科は小学校6年が国語・算数、中学校3年が国語・数学である。

(2)調査結果の取扱い

文部科学省は、本件調査を実施するにあたり「平成19年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領(文部科学事務次官通知)」(以下「実施要領」という。)を定めて都道府県教育委員会等に通知しており、市町村教育委員会等は、この実施要領を前提として本件調査に参加している。

実施要領における、調査結果の取扱いなどの概要については、以下の通りである。

ア 調査結果の公表

文部科学省は、国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況、都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模等に応じたまとまり(大都市(政令指定都市及び東京23区)、中核市、その他の市、町村、または、へき地)における公立学校全体の状況を公表する。

イ 調査結果の提供

文部科学省は、都道府県教育委員会に対しては、その設置管理する各学校の状況に関する調査結果,当該都道府県における公立学校全体の状況、域内の各市町村における公立学校全体の状況及び市町村が設置する各学校全体の状況に関する調査結果を提供する。

また、市町村教育委員会に対しては、当該市町村における公立学校全体の状況及びその設置管理する各学校の状況に関する調査結果を提供する。くわえて、学校に対しては、当該学校全体の状況,各学級及び各児童生徒に関する調査結果を提供する。そして、学校は、各児童生徒に対して当該児童生徒に関する調査結果を提供する。

ウ 調査結果の取扱いに関する配慮事項

調査結果を公表する場合においては、本件調査の実施主体が国であることや、市町村教育委員会が基本的な参加主体であることなどにかんがみて、都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。市町村教育委員会も、域内の学校の状況についての個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと。

市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。

ただし、本件調査により測定できる学力は特定の一部分であることや、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善策等を併せて示すなど、序列化につながらない取組みが必要と考えられること。

都道府県教育委員会が、例えば、教育事務所単位で調査結果を公表するなど個々の市町村名が明らかとならない方法で公表することは可能であること、などとしている。

(3)本件調査実施要領に関する国会審議

本件調査の実施について、国会で度々取り上げられ質疑が交わされたが、平成18年3月1日予算委員会では、各自治体や学校間の競争の激化を心配する質問に対し、小坂文部科学大臣(当時)は、「過去にあった学力調査における意見として、自校の成績を上げるために学力の差のある生徒に対して受けさせないというような事例が生じたりという弊害が過去指摘をされたこともあります。そういったことに十分配慮をいたしまして、それぞれに積極的にお取り組みいただけるようにするためには、調査の趣旨や、それから私どもが考えている配慮を十分にお伝えして、理解を得て、そして自主的に、積極的に参加していただく、そういう環境づくりが非常に重要だと思っています。」と答弁している。

平成19年4月20日衆議院の教育再生特別委員会では、「情報公開の一環として結果を公表する必要があるとの声があるが。」との質問に対して、安倍内閣総理大臣(当時)が、国や都道府県の状況については、公表するが、個々の市町村、学校の名前を明らかにした公表は行わない旨を答弁している。

また、平成19年度本件調査実施後の平成19年4月26日参議院の文教科学委員会では、伊吹文部科学大臣(当時)が、各々の市町村、学校の名前を明らかにする公表はしないと国と都道府県教育委員会とで約束が行われて、このことを平成18年6月の事務次官通知に明記している。そして、この取扱いを前提として各市町村教育委員会は参加したとし、仮に情報公開請求が行われたときには、国と都道府県との合意の内容である実施要領が公開を断る有力な資料になるといった内容の答弁をしている。

2 本件決定理由について

本件決定は、本件行政文書に記録された情報が条例第8条第1項第4号に該当することから、別表に掲げる公開しないことと決定した部分を除いて、公開することとしたものであるが、以下において、部分公開にとどめた理由を述べる。

(1)公開による弊害について

ア 調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ

過去の学力調査において、序列化から過度な競争が生じた事例がある。

本件調査の実施については、序列化や過度な競争をあおるおそれがあることや児童生徒の個人情報保護の観点から、国会や審議会、各自治体等において激しい議論が行われてきた。

そのような経緯をふまえ、文部科学省は、実施方法、公表方法について、学校の序列化・過度の競争につながらない配慮をする旨を説明し、調査結果の公表は、国全体、都道府県、教育事務所単位等での公表のみとし、市町村別や学校別などの結果は、情報公開法に基づく請求がされても不開示とする旨を実施要領に明記するなどして、各方面の理解を得たところである。

現在、いくつかの府内市町村教育委員会が既にデータを公表する方針を出しているが、これは市町村自らの分析と併せたデータの公表であり、本件調査の実施要領において、「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。」と認められていることに従った取り扱いに基づくものである。

実施要領において、都道府県教育委員会は域内の市町村教育委員会に対して、指導・助言・連絡等をするなど調査に協力するという役割が与えられており、それに沿って、情報公開制度が予定する、透明性の確保や説明責任を果たすべき要請については、府教育委員会は各市町村教育委員会に対し、文部科学省が定める実施要領において予定する自主的な公表を要請したところである。

この要請を受けて、公表を行った市町村においては、平均正答率等の数値データに加えて、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策等も併せた公表を行っているところである。その他、現在分析中の市町村や全体の平均正答率は出さずに設問別平均正答率を公表する方針を決めた市町村、また規模が小さいため学校が特定されないような工夫をした公表を決めた市町村等もあり、それぞれの市町村の実態や課題にあわせた公表がなされるものと考えている。

そもそも、市町村立小中学校の教育については、地方教育行政の組織及び運営に関する法律において、設置者である市町村の教育委員会が管理運営するものとされている。今回の全国調査の結果等の公表等については、所管の学校の状況や地域の特性を熟知している市町村教育委員会の責任において、その自主的な判断と必要な配慮をもって実施するべきものであり、また、このことを予定して実施要領が定められている。

したがって、都道府県教育委員会が、市町村や学校個々のデータを保有していたとしても、それらを公表すること等によって各市町村・学校の教育に直接かかわることは、前述した法令上の位置づけから予定されておらず、また、都道府県教育委員会においては市町村の実情に応じて必要とされる個々の状況判断や個別のきめ細やかな配慮が困難なことから、都道府県教育委員会における一律の公表は適切ではない。

今回の調査にかかる実施要領に定められている結果公表についての様々な配慮事項も、このような法律上の位置づけ等を踏まえた上で制定されたものと考えられる。

このような状況の中で、府教育委員会が本件行政文書を公開することは、市町村教育委員会の信頼を大きく損ない、本件調査の今後の適切な実施に著しい不信を抱かせることは明らかであり、次年度以降に各市町村教育委員会が調査実施に協力せず正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握し、教育力向上に向けた取り組みを促すとした本件調査の目的が果たせなくなるおそれがある。

また、「平成19年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて」(平成19年8月23日付文部科学省初等中等教育局長通知)及び「平成20年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて」(平成20年8月22日付文部科学省初等中等教育局長通知)では、調査結果の公表についての留意事項として、市町村教育委員会、学校がそれぞれの判断で自らの結果を公表した後においても、都道府県教育委員会は個々の市町村名・学校名を明らかにした公表を行わないこととしており、現在まで、全国的にも、都道府県教育委員会が、市町村名や学校名を明らかにして数値を公表した事実はない。これは、前述したような関連法令上の都道府県教育委員会と市町村教育委員会の役割分担を斟酌したものである。

このような中、本件行政文書を公開することは、都道府県が市町村や学校のデータを公表しないという、この調査の前提を崩す重大な約束違反であり、大阪府のみならず、他の都道府県や市町村に与える影響は極めて甚大である。

また、本件調査の実施方法に対する国民の信頼が損なわれることは、次年度以降、全国各地の市町村教育委員会や学校において、協力が得られなくなる可能性があり、全国的な状況が把握できなくなるなど、本件調査の目的である、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立できなくなるおそれがある。

さらに今回、本件行政文書を公開することは、次年度以降予定されている同調査においても、文部科学省より提供される市町村別・学校別データを公表することにつながるため、文部科学省が実施要領等に定める同調査における結果公表の原則を遵守できないこととなるため、文部科学省は府教育委員会などの都道府県教育委員会に対して市町村別・学校別データの提供を行わない可能性が極めて高い。このことにより、都道府県教育委員会では、次年度以降、域内の市町村別・学校別の状況の把握を行うことができなくなってしまうことから、本件調査の目的である、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立できなくなるおそれがあり、同調査の事務執行に著しい支障をきたすこととなる。

イ 序列化や過度な競争が生じるおそれ

国は本件調査の実施要領における調査結果の取扱いについて、本件調査により測定できるのは学力の一部分であることや、学校における教育活動の一側面に過ぎないことなどを踏まえるとともに、序列化や過度な競争につながらないよう十分に配慮して適切に取り扱うことなどの慎重な対応をするよう要請している。

しかしながら、国が公表した全国調査の都道府県ごとの結果は、既に一部のマスコミ報道において都道府県が序列化されている状況となっている。大阪府など比較的下位に順位付けされた都道府県においては、学力調査の結果が学力の一部を表すものにとどまるにも拘わらず、当該都道府県の教育全体が低く評価されてしまう傾向があり、住民の不安や不信感をいたずらにあおる結果が危惧されている。

また、本件請求による公開では、府教育委員会による各市町村や各学校の調査結果の数値の羅列のみの公表になってしまい、序列化や過度な競争につながらないような十分な配慮が不可能であることから、保護者の過剰な受け止めによる、越境通学などの事態を招くことや序列が低位の市町村や学校で学ぶ児童生徒が劣等感を抱くというような弊害が生じることが危惧される。

さらに、児童生徒の学力や学習状況は、学校教育によるところが大きいものの、それのみで決まるものではなく、保護者の教育に対する関心や経済力、地域の教育環境などの様々な要因に影響されることはよく知られているところである。

調査結果の数値のみが公表され、ある市町村や学校の平均正答率が全国や大阪府全体の平均正答率より低かった場合、その原因が当該市町村、地域がどのような環境であるか、保護者の経済力がいかなるものか等の地域の教育環境の問題だけに帰せられたり、「あの市町村や学校の教員が悪い。」とか「児童生徒は能力的に劣る。」といった安易な評価がされやすいとの弊に陥る危険性も憂慮される。

大阪の公立小中学校には校区があり、地域社会で生活する児童生徒には基本的に小中学校を選択することはできない。その中で、序列が低位の市町村や学校で学ぶ児童生徒は、不公平感や劣等感を抱いたり、当該地域や学校に反感や不信感を抱いたりするなど、学習そのものへの悪影響が予想され、他の地域からの恣意的な評価・格付けによるいわれなき差別を受けるおそれもある。

その結果、経済的ゆとりのある家庭は学力低位の地域・学校を避け、学力高位の地域・学校に移ることも考えられ、所得格差が社会問題となっている中、所得格差からくる教育格差、地域格差をさらに助長することになり、市町村間や学校間の序列化から新たな差別を生み出すことにつながりかねない。

また、本件調査で測ることができる学力は、国語・算数、数学に関する学力の特定の一部分であり、学校の教育活動の一側面にしか過ぎないものであるため、本件調査の結果のみで学校や市町村等の評価などが行われることは適切ではなく、仮に公表する場合においても、説明責任を有する主体が、本件調査結果を分析し明らかになった課題やその改善に向けた取り組みを調査結果と合わせて示し、それも含めた活動について、地域や保護者の理解を得ていくために行われることが適切である。

本件請求による公開は、このような配慮に至らず、諸条件を全く考慮しない一方的な公開であり、仮に公開に応じれば、一面的な学力に関する数値のみで市町村や学校の教育活動全般が評価されたり、序列化が行われたりすることも予想され、その結果、平均正答率をあげるために特定の教科力を重視した偏った指導が行われたり、それら特定の力に慣れさせるためのテストや過去のテストを事前に頻繁に実施したりするなどが考えられ、児童生徒の心身のバランスのとれた教育や公正な調査に支障をきたすおそれがある。

これらのことから、府教育委員会が本件行政文書を公開することは、府内市町村、小中学校への多大な影響が考えられ、ひいては府民が不利益を被ることになるおそれが十分にある。 

以上のように、市町村間や学校間の序列化や過度な競争が生じることによって、市町村教育委員会などとの信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

(2)過度な競争の実際の例について

行政文書非開示決定処分取消訴訟控訴事件盛岡地裁判決文(平成19年12月20日)によると、

 広島県三次市の平成17年度に実施した学力テストで、ある中学校の教員が途中退席した生徒の答案用紙の未解答部分に答えを書き込んだり、ある小学校では、校長が児童の約半数の答案用紙に誤答を正答に書き換えた。

 東京都足立区教育委員会では、学力テストの調査結果について学校別の結果を公表していたが、同区教育委員会が実施した平成18年度の学力テストにおいて、障害のある児童3人を採点から外した小学校や試験中に校長と教員が児童の答案を指さして誤答に気づかせたり、前年の問題を不正にコピーし、児童に繰り返し練習させたりし、そのため、前年は区内小学校72校中44位であったが、平成18年度には1位になった学校があったことが大きく報道され、同区教育委員会は、「序列に注目するような公表方法は改め、今後は順位を出さないようにしたい。」との見解を示した。なお、同区教育委員会が学校別の調査結果を公表するようになったのは、東京23区の中で足立区の成績が最下位となったことが理由であった。

との具体例が報道機関の報道において指摘されている。

(3)学校質問紙、児童生徒質問紙の調査結果の公開の弊害について

児童生徒質問紙についての調査結果には、「朝食の摂取状況」「起床時間、就寝時間」など、児童生徒の生活状況や家庭環境にかかわる様々な情報があり、学校質問紙についての調査結果には、「就学援助を受けている児童生徒の割合」「日本語指導が必要な児童生徒の割合」「通常学級に在籍している児童のうち、発達障害により学習上や生活上で困難を抱えている児童生徒の数」などの情報が含まれている。

本件請求の行政文書は、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策等も併せた情報ではなく、本件行政文書を公開することは数値のみの公開になり、児童生徒の生活状況や家庭環境などが市町村別に序列され、「第3の2(1)2序列化や過度な競争が生じるおそれ」の中で述べた府内市町村、小中学校への影響のように、恣意的な評価、格付けがなされるおそれが考えられ、教育格差、地域格差をさらに助長することになり、新たな差別を生み出すことにつながりかねない。

また、学校質問紙の中には、「児童生徒の勉強への熱意」「児童生徒の授業中の学習状況」「児童生徒の礼儀正しさ」「PTAや地域の人が学校の諸活動にボランティアとして参加の状況」などがあり、学校による児童生徒やPTA、地域への見立てについての調査の数値もあり、これも数値のみが公開されることになると、学校は、児童生徒やPTA、地域への公正な見立てを避けるようになり、正確な情報が得られなくなるおそれも十分に考えられる。

以上のことにより、市町村間や学校間の序列化や過度な競争が生じるおそれや、市町村教育委員会などとの信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。


3.異議申立人の主張について

実施要領では、「本件調査の実施主体が国であることや、市町村教育委員会が基本的な参加主体であることなどにかんがみて、都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。」「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。ただし、本件調査により測定できる学力は特定の一部分であることや、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善策等を併せて示すなど、序列化につながらない取組みが必要と考えられること。」としている。

このように、都道府県教育委員会は、自らの結果の公表の判断をゆだねられている市町村教育委員会及び学校とは、本件調査における位置づけが大きく違っている。

市町村教育委員会や学校の自主的な公表であっても、本件調査により測定できる学力は特定の一部分であることや、学校の教育活動の取組みの状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善策等を併せた公表が求められている。これは、本件調査を実施するにあたっての国会審議にあるように、本件調査の実施要領は、国が実施した43年前の全国調査における序列化や過度な競争による教育現場の混乱が再び起こることのないように配慮して作成されており、もし、実施要領に沿った配慮がなく、本件請求のような数値のみの羅列である公開が実施されると、過去の調査のような市町村間や学校間の序列化や過度な競争に陥るおそれは十分にあると考えられる。

さらに、10月16日に大阪府知事が行った開示にあたっても、一部市町村から不安や心配の声が上がっており、来年度の本件調査参加の再検討を考えるような動きもある。

そのような状況の中で、府の教育行政の主たる担い手である府教育委員会が実施要領に反する行為を行った場合には、府教育委員会と市町村教育委員会との信頼関係が損なわれるおそれは、非常に高い状況にある。

そのような中で府教育委員会が情報を公開することは、結果として、市町村教育委員会や文部科学省との信頼関係を損ない、次年度以降に各市町村教育委員会からの協力が得られなくなるなど、正確な情報が得られなくなり、全国的な状況を把握できなくなるとともに、国から市町村別・学校別データの提供が受けられなくなるなど、当該又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。

情報公開制度が求めている透明性の確保や住民への説明責任を果たすべきとの要請については充分理解するものであるが、異議申立人における請求要請の意図を含め審理をつくしていただき、情報公開制度の要請と本件、全国学力・学習状況調査の結果の公表にかかる弊害を充分斟酌していただき賢明なご判断をお願いするものである。

全国学力・学習状況調査が市町村の信頼を失い、府内における参加が減少するような結果になれば、府の子どもたちに対する学習条件の整備や学力向上に向けた取り組みに大いなる齟齬をきたすものであり、府教育委員会としては、そうした結果が惹起されることを最も怖れるものである。

大阪の子どもたちの学力向上に向けた取り組みは、ひとえに府教育委員会と、これと連携すべき市町村教育委員会が担っているものであり、また、この両者が担わざるを得ないものであることをご理解いただきたいと考える。

 

4 結論

以上のとおり、府教育委員会による本件部分公開にかかる決定処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 全国学力・学習状況調査について

本件調査は、文部科学省が、平成19年度から、実施している調査であり、その目的は、

 国が、全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図ること、

 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立すること、

 各学校が、各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てること、

とされている。

調査対象は国・公・私立学校の小学校6年、中学校3年の原則として全児童・生徒であり、学力調査として、小学校6年が国語・算数、中学校3年が国語・数学についての筆記テスト、学習状況調査として、児童・生徒及び学校を対象とする質問紙調査が行われている。

また、本件調査は、実施主体である文部科学省が、小・中学校の設置管理者である市町村教育委員会等の協力を得て実施するものであり、都道府県教育委員会は、主に、域内の市町村教育委員会に対して、指導・助言・連絡等をするなど調査に協力することとされている。

3 本件調査に係る調査結果の公表等の状況

本件調査に係る調査結果の公表に関し、各年度の実施要領では、文部科学省が、「国全体の状況及び国・公・私立学校別の状況と都道府県ごとの公立学校全体の状況、地域の規模等に応じたまとまり(大都市、中核市、その他の市、町村、へき地)における公立学校全体の状況」を公表する一方、都道府県教育委員会に関しては、「域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと」、「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること」、「学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること」と定めている。

また、文部科学省は、公表する内容を除く調査結果について公開請求があった場合の対応について、各年度の実施要領において、文部科学省が開示請求を受けた場合、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠に不開示情報として取り扱うとするとともに、教育委員会等においても、それぞれの地方公共団体が定める情報公開条例に基づく同様の規定を根拠に、調査の適正な遂行に支障を及ぼすことのないよう、適切に対応する必要があるとの留意事項を定めている。

一方、大阪府においては、平成20年度の本件調査の調査結果について、実施機関が、府内の?市町村教育委員会に対し、平成20年9月に、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村の公立学校全体の結果を自主的に公表するよう要請を行ったこともあり、府内の約8割に当たる市町村教育委員会が、教科区分ごとの平均正答率などの情報を、設問ごとの平均正答率や質問紙調査の結果を合わせた分析を行うなど、それぞれ工夫を凝らしながら、公表している。

また、平成20年度の本件調査の市町村別結果のうち、教科区分ごとの平均正答率と質問紙調査の結果の抜粋を実施機関が取りまとめ知事に提供した資料について、知事に対する公開請求があり、知事は、平成20年10月16日に、その時点で、市町村教育委員会が、調査結果の公表について検討中又は非公表とする決定を行っていた、吹田市など8市町の小・中学校と太子町など3町村の中学校に係る数値を除いて公開を行っている。

さらに、全国的にみると、秋田県において、知事が市町村別の平均正答率を県のホームページに掲載して公表している例がある。また、市町村レベルでは、東京都墨田区が区内公立学校のホームページにリンクする形で、学校別の平均正答率等を公表しているほか、相当数の市町村において、当該市町村の公立学校全体の平均正答率等の情報を、ホームページや広報紙などに掲載して公表している状況にある。

4 本件行政文書について

本件行政文書は、文部科学省が、平成19年4月24日に、全国の国・公・私立学校の小学6年生及び中学3年生に対して実施した全国学力・学習状況調査の結果について、文部科学省から実施機関に提供された資料のうち市町村別の結果を記録した資料であり、その概要は、以下のとおりである。

(1)調査結果概況

国語A、国語B、算数A及び算数B(中学校については数学A及び数学B)の教科区分(以下「教科区分」という。)ごとに、本件調査に参加した児童・生徒の数、平均正答数、平均正答率、中央値、標準偏差並びに正答数ごとの児童・生徒の数及び割合と、これらを基に正答数と割合を棒グラフにしたヒストグラムが記録されている。

(2)設問別調査結果

教科区分ごとに、参加した児童・生徒の数、平均正答率、設問別の正答率及び無解答率が記録されている。

設問別の正答率及び無解答率については、設問の分類及び区分別の集計結果と設問別の集計結果の数値が記録されている。設問別の集計結果には、各設問の概要、出題の趣旨も記載されており、各設問が「学習指導要領の領域」、「評価の観点」及び「問題形式」の分類のうち、いずれの区分に該当するのかがわかるようになっている。

(3)類型別調査結果

教科区分ごとに、参加した児童・生徒の数と各設問の解答類型別の解答の割合が記録され、(2)と同様に各設問の概要、出題の趣旨も記載されており、正答である解答類型の解答の割合は設問別の正答率と一致する。

(4)回答結果集計(児童質問紙)(中学校調査については生徒質問紙)(表)

本件調査に参加した児童・生徒の数と各質問の選択肢別に回答した児童・生徒の数及び割合が記録されている。

なお、質問項目は、小学校調査においては99問、中学校調査においては101問あり、主に生活状況、学習時間、学校生活等に関する項目について、参加した全児童・生徒が回答するものとなっている。

(5)回答結果集計(児童質問紙)(中学校調査については生徒質問紙)(グラフ)

(4)の結果を基に、各質問の質問番号・質問事項と選択肢別の回答割合が数値と帯グラフで記録されている。

(6)回答結果集計(学校質問紙)(表)

本件調査に参加した市町村教育委員会ごとに、学校数と各質問の選択肢別に回答した学校数及び割合が記録されている。

質問項目は、小学校調査及び中学校調査とも105問あり、学校の児童数・生徒数、学級数、教員数、児童・生徒に対する評価、教科指導の方法、保護者や地域との関係、教員の研修等に関する項目について、校長が回答することとなっている。

(7)クロス集計表(児童質問紙-教科)(中学校については生徒質問紙-教科)

本件調査に参加した全国の児童・生徒を学力調査における教科区分ごとの正答数の多い順に4等分したA~Dの各階層に該当する児童・生徒の数及び割合を縦軸とし、児童質問紙調査の各質問に対する選択肢別の回答の児童・生徒の数及び割合を横軸とするクロス集計表であり、児童・生徒の生活状況や学習状況等と教科区分別の学力調査の結果との相関関係を見ることができるものである。

5 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件係争部分に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当するとして非公開としているので、検討する。

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達せられなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、

イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

は、公開しないことができる旨を定めている。

また、本号における「事務の目的が達成できなくなる」とは、事務の性質上、当該情報を公開すれば、事務事業を実施しても期待どおりの結果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいい、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」とは、公開することにより、事務事業の実施時期が大幅に遅れるなど、当該事務事業の質の著しく損なうこと、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力を得ることが著しく困難になることなどをいうものと解すべきであり、本号における「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られると解される。

(2)条例第8条第1項第4号該当性について

本件行政文書は、文部科学省が都道府県教育委員会の協力と市町村教育委員会等の参加を得て実施した本件調査の結果をとりまとめ実施機関に提供した資料の一部であることから、本件非公開部分に記録されている情報は、「府の機関又は国等の機関が行う調査研究に関する情報」として、(1)アの要件に該当することは明らかである。

次に、本件非公開部分に記録された情報が(1)イの要件に該当するか否かについて検討する。

ア 学校数

平成19年度の実施期日である平成19年4月24日に本件調査を実施した学校数が4(6)に記録されている。この情報は、文部科学省において公表されている情報ではないものの、これを公開しても、各市町村の設置した学校数と比べると、学校行事等のため、この日に実施できなかった学校数がわかるだけのことであり、府又は国等の事務に著しい支障があるとは認められないから、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

イ 児童数又は生徒数

4(1)~4(4)及び4(7)において、本件調査に参加した児童・生徒の数が記録されている。これらの情報は、文部科学省において公表されている情報ではないものの、これを公開しても、各市町村の在籍児童数又は生徒数と比べると、当日、欠席や遅刻、早退などにより、各調査の集計対象とならなかった児童・生徒の数がわかるだけのことであり、府又は国等の事務に著しい支障があるとは認められないから、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

ウ 学力調査における解答の状況に関する情報

4(1)などに記録されている教科区分別の平均正答数、平均正答率、中央値、標準偏差並びに正答数ごとの児童・生徒の数及び割合、4(2)に記録されている設問別の正答率及び無解答率、4(3)に記録されている各設問の解答類型別の回答の割合、4(7)に記録されている学力調査の結果による階層別、児童・生徒質問紙の選択肢別の児童・生徒の数及び割合が該当する。

これらの情報は、公開することにより、広く地域住民が、地域の教育環境や学校教育の在り方等について、関心を持ち、地域全体で学校を支援することが期待されるという側面がある一方、学力調査の結果を端的に表す数値であり、市町村に序列をつけることが容易なため、序列化に伴う過剰反応の弊害が懸念されるところであり、例えば、数値の高い市町村への越境入学や転居が起きるなど過剰反応の弊害が生ずるおそれがないとは言えない。しかしながら、市町村は、児童・生徒が直接所属する集団ではないことから、児童・生徒の学習に及ぼす影響は比較的小さい上、審査会において、本件行政文書を見分したところによれば、府内における平均正答率の市町村別の数値のばらつきは、都道府県別の数値と同様で、平均正答率の最上位と最下位とで見て、概ね10~20ポイント程度である。また、小中学校の設置者である市町村教育委員会として、住民に対する説明責任を果たすため、市町村別の結果を公表することは、各年度の実施要領でも容認されており、平成19年度の本件調査結果については公表がされていないものの、平成20年度の本件調査については、実際に府内の多くの市町村教育委員会が教科区分別、設問別等の平均正答率等を公表している。さらに、府内市町村の中には、小学校又は中学校が1校のところがあるが、学校別の数値が公開されなければ、学校間の序列化は生じず、市町村間の数値のばらつきも、比較的小さいことから、市町村の数値と同様に考えるべきである。

これらを総合的に考慮すると、本項の情報については、公開することにより、府又は国等の教育施策の推進や市町村立学校の教育活動に対し、公開の社会的な要請を上回るような著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、(1)イの要件に該当するとまでは言えない。

なお、この点に関し、実施機関は、本件非公開部分を公開することにより、「次年度以降に市町村教育委員会が調査実施に協力せず正確な情報が得られなくなる。」、「文部科学省は府教育委員会などの都道府県教育委員会に対して市町村別・学校別データの提供を行わない可能性が極めて高い。」などと主張しているが、3で述べたとおり、平成20年度の市町村別の平均正答率に関し、大阪府知事が、自ら公表した市町村の平均正答率を一覧できる形で公開し、秋田県知事が、県内市町村別平均正答率の一覧を公表した例があるにもかかわらず、平成21年度の本件調査については、従来、唯一参加していなかった愛知県犬山市も参加し、全国の全ての市町村が参加して実施された。また、本件調査の平成21年度の実施要領においては、都道府県教育委員会に対して市町村別・学校別データの提供を行わない場合がある旨の規定は置かれていない。これらのことからすると、少なくとも、市町村別の数値については、多くの市町村が本件調査に参加せず、本件調査の目的が達成されなくなるような状況が起こる可能性は小さいと考えられる。

また、実施機関は、「調査結果の数値のみが公表され、ある市町村や学校の平均正答率が全国や大阪府全体の平均正答率より低かった場合、その原因が地域の教育環境の問題だけに帰せられたり、教員の質や児童生徒の能力に対する安易な評価がされやすい。」、「本件調査で測れる学力は、学校の教育活動の一側面にしか過ぎず、一面的な学力に関する数値のみで市町村や学校の教育活動全般が評価されたり、序列化が行われたりする結果、平均正答率をあげるために偏った指導が行われることが考えられる。」などと主張しているが、このような支障は、現に平成20年度の本件調査結果について、実施機関や多くの市町村教育委員会が行っているように、府民に対して、本件調査の意義や限界を正確に説明し、質問紙調査を含めた調査結果を的確に分析した情報を公表するとともに、学校や教職員に対する適切な指導を徹底することにより、相当程度防止できるものである。

以上のことからすると、本項の情報については、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

エ 児童質問紙(中学校については生徒質問紙)調査への回答の状況に関する情報

4(4)、(5)及び(7)に記録されている各質問の選択肢別の回答の数及び割合(学力調査の結果による階層別の数値を含む。)が該当する。本項の情報には、当該市町村の地域特性が反映されるものが含まれており、数値データであることから過度の序列化による弊害が懸念されないわけではないが、本件調査の目的に即して、各市町村教育委員会が自らの教育施策の成果と課題を検証し、継続的な改善に取り組む上で、広く住民と共有すべき情報である。また、特定の児童・生徒が識別される情報ではなく、平成19年度の本件調査結果については公表されていないものの、平成20年度の本件調査結果については、既に相当数の市町村において学力調査の結果との関係等の分析を行い、公表されているところである。

以上のことからすると、本項の情報については、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

オ 学校質問紙調査への回答の状況に関する情報

4(6)に記録されている各質問の選択肢別の回答の数及び割合が該当する。

本項の調査項目には、学校の状況について客観的な事実の回答を求めるもののほか、「就学援助を受けている割合」、「日本語指導が必要な割合」等の児童・生徒の状況について問うものがあるが、いずれも特定の児童・生徒を識別し得る情報ではなく、市町村のような一定の広がりのある地域特性に関わる情報は、例えば、生活保護受給率といった情報も含めて、通常公開される情報である。

また、府内市町村の中には、小学校又は中学校が1校ないし2校と少数のところがあり、このような市町村にあっては、市町村別の集計結果を公開することにより、特定の校長が回答した内容が特定され、校長が回答するに当たって多少答えにくくなる面がないとは言えないが、本項の調査結果は、特定の児童・生徒が識別される情報ではないこと、概括的な選択肢から回答を選ぶ方式であり具体的な記述を求めるものではないこと、学校を代表する校長としての回答が求められていることからすると、公にすることによって、当該学校の教育活動や今後の本件調査の公正かつ適切な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えない。

以上のことからすると、本項の情報については、(1)イの要件に該当せず、公開すべきである。

6 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由があり、本件非公開部分のうち市町村別の数値(グラフ化されたものを含む。)を記録した部分を全て公開すべきであるので、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(主に調査審議を行った委員の氏名)

岡村周一、鈴木秀美、岩本洋子、大和正史

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