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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第184号)
特定個人の事件記録公開請求拒否決定審査請求事案
(答申日 平成22年3月29日)
第一 審査会の結論
諮問実施機関(大阪府公安委員会)の判断は妥当である。
第二 審査請求の経過
- 審査請求人は、平成21年6月19日、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、請求内容を「平成○年○月○日か○日○○頃に大阪府A警察署に容疑者と一緒に出頭したのである。被害事件は申請人に対する強制わいせつである。」とする行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成21年6月25日、本件請求に対し、条例第13条第2項の規定により、本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否する旨の公開請求拒否決定(以下「本件決定」という。)を行い、次のとおり理由を付して審査請求人に通知した。
(公開請求を拒否する理由)
本件請求は特定個人の事件に関する文書の公開を求めるものである。
本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、特定の個人が特定の事件に関係したか否かという情報を明らかにするものであって、個人のプライバシーに関する情報を公にすることになる。
したがって、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるため、同条例第12条の規定により、当該行政文書の存否を明らかにしないで、本件公開請求を拒否する。 - 審査請求人は、平成21年8月20日、本件決定を不服として、大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定により、審査請求を行った。
第三 審査請求の趣旨
本件決定を取り消し、加害者の個人情報の開示を求める。
第四 審査請求人の主張要旨
審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。
1 審査請求書における主張要旨
本件請求を行った主旨は加害者に対しての民事的な損害賠償を請求するためであり、審査請求人は被害を受けた本人であることは、A警察署に出頭していることで明確に証明できる事実である。
加害者の個人情報を知ることについては当然の権利であると考えられる。また、民事上の損害賠償の請求についての時効は、加害者のことを知ってから3年間と法律に定められているのである。この期間に請求できなければ審査請求人は大きな損害を被ることになる。
審査請求人は被害者である。加害者の情報を教えてもらうのは当然の権利であり大切なことだと認識している。加害者の情報を何故そこまで守ろうとするのかが審査請求人には納得できないのである。審査請求人は被害者であるのに加害者の情報を公開してもらえないことについて、加害者は自己に有利になり、単なる逃げ得だと考慮できうる事実である。本件決定を見る限りでは、被害者は泣き寝入りをしろと言っているのではないかと思われるのである。
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)第4条(利用目的の明示)第1号に「人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要があるとき」、同条第4号に「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められるとき」と定められており、審査請求人は利用目的の明示を明確にしているのである。
審査請求人は被害者であり加害者の個人情報を公開するのは当然であると考えており、また、利用目的の明示について明確に意思表示しており、情報公開がされなければ審査請求人は大きな損害を被るのである。また、重複するが、身体及び財産に対しての利害が生ずることを明確にしているのも事実である。
以上の事実をもう一度精査して頂き、加害者の情報を開示していただけるよう審査請求する。
2 意見書における主張要旨
- (1)「実施機関の決定は不当である。」との裁決を求める。
- (2)審査請求人は被害者であって加害者の住所などの個人情報を知ることは当然の権利だと考えている。
実施機関は理由説明書において、条例第9条第1号に規定されている、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるということ及び、社会通念上望ましくないということを本件決定の理由としているが、審査請求人は被害者であって、実施機関が社会通念上として加害者を保護することに対して理解することは難しいと考えられる。
社会通念上加害者を保護する必要は無いと審査請求人は解釈している。これに伴い、実施機関の該当性は明らかに矛盾しており、不当な意見である。また、今回の被害事件については犯罪被害者の権利利益の保護に関する法律では、強制わいせつ等の被害に関しては裁判所が被害救済の手続きを代替しているものであるが、それについては加害者が公の場で刑事裁判を受けなければならないため、審査請求人は加害者の利害関係のことも考えて、今回、審査請求人の配慮で個人的に請求するほうが加害者の為にもなると考えたのである。
確かに条例に関する立証を、実施機関は意見として理由説明書に明記しているが、今一度考えて頂きたいのは、被害者の受けた精神的苦痛などを考慮すると、その損害賠償の請求先は加害者であって、その個人情報の公開を拒否されることで被害者の精神的苦痛はさらに増していくものであると自負している。何故加害者の個人情報がここまで守られるのかが審査請求人は理解に苦しむ点であり、こういった内容について実施機関の意見を求めるものである。 - (3)実施機関は条例だけで妥当性を主張して、法律に対しての妥当性、正当性を立証せず、明確に審査請求人が陳述している主張に対しての実施機関の違法性を立証してもらいたいのであって、このように実施機関の違法性、不当は明確であって加害者の個人情報を公開するのが妥当である。
- (4)本件請求に係る情報は、行政機関個人情報保護法第4条第1号及び第4号に該当しており、実施機関の保有している加害者の個人情報を開示するのが妥当であると認識している。また、条例だけで審査請求人に対して公開請求権を棄却することは明らかに違法性があり、不当であるため、審査請求において公開する旨の裁決を望む所存である。
第五 諮問実施機関の主張要旨
諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 実施機関の意見
(1)本件決定の妥当性について
ア 条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような規定を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- (ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- (イ)特定の個人が識別され得るもののうち、
- (ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報」とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
イ 条例第12条について
本条は、公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨規定している。
本条による公開請求の拒否は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。
ウ 本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第9条第1号該当性について
本件請求は、特定個人が被害に遭った強制わいせつ事件に関する文書の公開を求めるものであり、該当する文書があるとして公開あるいは非公開の決定を行うだけで、特定の個人が強制わいせつ事件の被害に遭ったか否かという情報を明らかにすることとなる。
このような特定個人の犯罪被害に関する情報は、前記アの(ア)及び(イ)の要件に該当することが明らかであり、また、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、社会通念上、他人に知られることを望まないものであることから、前記アの(ウ)の要件にも該当する。
以上により、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなると認められるため、条例第12条の規定に基づき、当該行政文書の存否を明らかにしないで本件請求を拒否したものである。
なお、審査請求人が主張する「加害者の個人情報」については、本件請求に係る行政文書の存在を前提とする情報であることから、当該行政文書の存否を明らかにしないで本件請求を拒否した本件決定に包括されているものである。
(2)審査請求人の主張に対する反論について
審査請求人は、「申請人は被害者であり加害者の個人情報を公開するのは当然である」旨主張するので、行政文書の公開請求権について以下検討する。
情報公開請求の請求者については、
- ア 条例第6条で、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が誰であるかという特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続きも定めていない。
- イ 大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていたが、平成8年に個人情報保護条例が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯がある。
これらのことから、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、公開請求に係る行政文書が請求者に関係する情報を記録したものであるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。
(3)実施機関の結論
以上のとおり、本件決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
2 諮問実施機関の意見
本件請求に係る情報は、条例第9条第1号に該当する情報であり、条例第12条の規定に基づいて行った本件決定に違法、不当はないものと考える。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を促進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下であっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けるとともに、第12条において、公開請求に係る文書の存否を答えるだけで、これら適用除外事項に該当する情報を明らかにすることになる場合には、当該公開請求を拒否することができる旨を定めているのであり、実施機関は、請求された情報がこれらの規定に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件請求に係る行政文書があるかどうかを答えるだけで条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるため、条例第12条の規定を適用したと主張しているので検討したところ、次のとおりである。
(1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
(2)条例第12条について
本条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めたものである。
本条は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かも明らかにしないというものであり、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねないが、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによる権利利益の侵害や事務執行の支障等が、具体的かつ客観的に認められる場合には、本条によって公開請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく公開請求を拒否することができるものである。
(3)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報と条例第9条第1号の該当性について
本件請求は、特定の個人が強制わいせつ事件の被害に遭ったことを前提として行われたものであり、本件請求に該当する行政文書が存在するとして公開あるいは非公開の決定を行う、または、存在しないとして不存在による非公開の決定を行うだけで、特定の個人が強制わいせつ事件の被害に遭ったか否かということが明らかとなる。
このような特定個人の犯罪被害に関する情報は、前記(1)ア及びイの各要件に該当することは明らかであり、また、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであり、社会通念上、他人に知られることを望まない情報であると認められることから、前記(1)ウの要件にも該当する。
以上のことから、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなると認められることから、実施機関が、条例第12条の規定により、本件請求に係る行政文書の存否を明らかにすることなく本件請求を拒否したことは妥当である。
3 審査請求人の主張について
審査請求人は、犯罪被害者が加害者の住所などの個人情報を知ることは当然の権利であり、本件請求の目的は加害者に対する損害賠償請求をするためであると主張している。
しかしながら、条例は、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(条例第6条)と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合や犯罪の被害者である場合、あるいは請求の目的等で特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続も定めていない。また、大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(同条例第17条)が、平成8年に個人情報保護条例(平成8年大阪府条例第2号)が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯もある。
これらのことからすると、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかや、請求の目的によって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、請求者が犯罪被害者であることや、請求の目的が加害者に対する損害賠償請求であるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。
また、審査請求人は行政機関個人情報保護法第4条第1号及び第4号を根拠として公開を求めているが、同法は国の行政機関のみを対象としており、実施機関には適用されない。
以上のことから、上記の審査請求人の主張は、いずれも採用することはできない。
4 結論
以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議に関与した委員
鈴木秀美、岩本洋子、大和正史、野呂充