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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第170号)
安威川ダム用地買収関係文書等部分公開・不存在決定異議申立事案
(答申日 平成21年6月23日)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件の行政文書公開請求に対応する行政文書として、別記文書を追加して特定し、この文書について、全部若しくは一部の公開又は非公開の決定を行うべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成20年1月18日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、条例第6条の規定により、次の行政文書についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
安威川総合開発事業(安威川ダム建設事業)に関し、茨木市○×、田、○○平方メートル、同所○△、田、××平方メートル、同所○□、田、△△平方メートル、同所●×-×、田、□□平方メートル、同所●×-△、田、●●平方メートル、同所●△、田、▲▲平方メートルに関し- (1)買収計画を進めていることの判る書面全て一切(以下「請求事項1」という。)
- (2)同買収にあたり、分筆を共有者が行うことを進めていることに関して協力していること、その内容、それに要する費用、担当部局がわかる書面全て一切(以下「請求事項2」という。)
- (3)同買収にあたり、ほとんどの地権者(共有者)が買収に応ずることを意思表示しているのに、共有持分の買収について進められているのかどうか判る書面一切(以下「請求事項3」という。)
- (4)持分買収が仮にできないとすると、その法的根拠、事実上の根拠、行政上の根拠について判る書面一切(以下「請求事項4」という。)
- (5)持分所有者の一名が買収に応じない場合に、他の共有者に対し買収手続として必要な手続を求めたことの有無、その内容の判る書面一切(以下「請求事項5」という。)
- 同年2月1日、実施機関は、請求事項1及び5に対応する行政文書として、(1)の行政文書(以下「本件部分公開文書」という。)を特定の上、条例第13条第1項の規定により、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件部分公開決定」という。)を行い、(3)のとおり理由を付して、異議申立人に通知した。
- (1)対象行政文書
- ア 平成18年12月5日付け「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会について(依頼)」に係る起案文及び添付書類
- イ 境界確定図(S1:250茨木市○×)
- ウ 境界確定図(S1:250茨木市○△)
- エ 境界確定図(S1:250茨木市○□)
- オ 境界確定図(S1:250茨木市●××、●×△)
- カ 境界確定図(S1:250茨木市●△)
- (2)公開しないことと決定した部分
(1)イからカまでの文書のうち、立会者(公務員を除く。)の印影並びに測量士の氏名、印影及び登録番号 - (3)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の氏名、印影等が記載されており、これらは、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- (1)対象行政文書
- 同日、実施機関は、請求事項2から4に対応する行政文書について、不存在による非公開決定を行い(以下「本件不存在決定」という。)、次のとおり理由を付して、異議申立人に通知した。
(公開請求に係る行政文書を管理していない理由)
公開請求に係る行政文書については、作成又は取得していないため、管理していない。 - 同年2月29日、異議申立人は、本件部分公開決定及び本件不存在決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
用地買収に当たって、買収交渉の内容を明快に、明確に公開することを求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 異議申立書における主張
大阪府が公共事業計画用地を買収するに就いて、買収交渉を、何時、誰と、どの様な交渉を行ったかを記録することは、大阪府の職員の職務上の義務であり、担当者は当然上司に報告する義務もあり、行政事務として当然に記録を保存する義務があるにも拘わらず不存在ということはあり得ないことである。
特に本件は、元権利者が17名であったものが相続などにより100名近く迄増加していたのを、元の17名の権利者に纏める交渉も同時になして来きた筈である。
また、買収予定土地について権利者の持分買収の方法を採らず、あえて用地の分割請求を持分権者にさせるよう指導し、その分割手続(分筆図作成を含む。)を府の負担でしているのであるから、この関係の手続及びその方法、公費負担の正当性について検討した文書がないというのは文書隠しと言える。
2 反論書における主張
実施機関は、「大阪府は買収を計画しているが、買収は進めていない」と言った理屈を述べている。しかし、
- (1)地権者に分割訴訟までさせておきながら、訴訟は買収計画だと言うのですか、そして、訴訟にて、原告側に大阪府が作成した図面等の書類(座標求積図、平面図、平成20年4月10日付け報告書を添付。)を証拠書類として裁判所に提出している。これが正に情報公開で請求している書面の一部に該当しているものであり、これに要した費用についても公開すべきである。
存在しているにもかかわらず不存在とした理由はなになのか。特定地権者との密約の隠蔽工作をしていると思われる。 - (2)異議申立人に対しても、買収交渉のための書面が存在している(ファックスの写しを添付。)が、他の地権者には不存在であるはずではない。
- (3)(2)の交渉内容の記録までも不存在だとするならば、上司に対する報告義務違反であり、職務命令違反である。
- (4)分割訴訟の証拠書類として提出されている一部地権者の陳述書に記載されているとおり地権者が130人もいた早い時期に、大阪府に対しては「持分買収」を行えば早期買収が可能である旨、異議申立人が紹介した司法書士がアドバイスされた当時から15年も経った今日に至って、大阪府は法的根拠も示さずして持分買収はできないと身勝手な主張を繰り返している。
以上のとおり、存在しているものを不存在としたり、法的根拠も示さずして身勝手な主張をしたりしていて違法・不法不当な行為であり、全面公開すべきである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 安威川ダム事業と本件共有地の関係について
大阪の北摂、茨木市域を貫流して淀川に注ぐ安威川の中・下流部は、淀川や北摂山地からの流出土砂により形成されたという地理的条件から必然的に水に弱く、近年においてもたびたび水害を繰り返し、なかでも昭和42年に北摂を襲った豪雨は近隣地域に甚大な被害をもたらした。
大阪府では、このような水害から流域に暮らす人々の人命や財産を守るために、茨木市生保地区及び大門寺地先において、治水・利水の両機能を併せ持つ多目的ダムとして安威川ダム建設事業を進めているところである。
異議申立人が公開を求めている土地は17名(なお、このうち1名は既に死亡しているが、遺産分割が未了のため相続登記は済んでいない。)の共有地である。
この土地(以下「本件共有地」という。)は、安威川ダムの完成により水没することが予定されているため、大阪府では、現在、買収を計画しているが、異議申立人が本件共有地の分割に反対しているため買収は進んでいない。
そこで、平成○○年××月△△日、異議申立人を除く本件共有地の共有者(以下「原告ら」という。)は、異議申立人を相手取り、大阪地方裁判所に本件共有地の分割を求める訴訟を提起した(以下「分割訴訟」という。)。
2 本件部分公開文書について
請求事項1及び請求事項5に対応する行政文書は、いずれも、平成18年12月5日付け「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会について(依頼)」に係る起案文書及び添付書類並びに関係土地の境界確定図である。
(1)平成18年12月5日付け「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会について(依頼)」に係る起案文書及び添付書類について
安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会の依頼にかかる起案文書及び添付書類であり、「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会いについて(案)」、「共有地位置図」、「地籍図」、「立会い依頼者一覧表」、「平面図」、「丈量図」、「土地登記簿」からなる。
当該行政文書に、公開しないことと決定した部分はない。
(2)境界確定図について
当該行政文書は、関係土地の境界確定図面であり、「関係土地図面」、「関係土地の境界確定のために立ち会った者の住所・氏名及び印影、測量士の住所・氏名及び印影」等が記載されている。
このうち、本件部分公開決定においては、立会者(公務員を除く。)の印影並びに測量士の氏名、印影及び登録番号を非公開とした。
3 本件決定の適法性について
(1)本件部分公開決定について
ア 条例第9条第1号について
個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。
特に個人のプライバシーは一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護すること」を明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。
そして、条例第9条第1号においては「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該情報に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」とし、公開することを禁止するという基本原則が明確に定められている。
条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当であると認められる」情報判断については、個人を取り巻く背景や情報そのものの性質等を十分に考慮して行わなければならない。
イ 条例第9条第1号に該当することについて
本件非公開部分のうち、本号に該当するものとして非公開としたのは、公務員を除いた立会者の印影並び測量士の氏名、印影及び登録番号である。
これらの情報は、「個人のプライバシーに関する情報」であって「特定の個人が識別される情報」として、「一般に知られたくないと望むことが正当であると認められる」ものである。
以上から、これらの情報は条例第9条第1号に該当すると判断した。
(2)本件不存在決定について
ア 請求事項2について
異議申立人の公開請求書に記載された内容の趣旨は、必ずしも明らかではないが、本件共有地について、大阪府が買収を計画していることに関し、以下の文書の公開を求めているものと考えられる。
- (ア)原告らが本件共有地の分割を進めていることに関して、大阪府が協力していることがわかる書面
- (イ)原告らが本件共有地の分割を進めていることに関して、大阪府が協力しているために要する費用がわかる書面
- (ウ)原告らが本件共有地の分割を行うことを進めていることに関して、協力している大阪府の担当部局がわかる書面
イ 上記第3の1で述べたとおり、本件共有地は、異議申立人が反対しているため買収することができず、大阪府では、現在、分割訴訟の推移を見守っているところである。
異議申立人は、このことに関し、大阪府が共有者に協力していることを前提にして、これを示す行政文書の開示を求める。しかし、大阪府は本件共有地の買収を計画しているところであるが、異義申立人が求める、原告らが分割を行うことを進めるに関して、大阪府が協力していることを示す、あるいはそういうことを記載した行政文書は存在しない。
また、異議申立人は、大阪府が本件共有地の分割を進めることに協力していることを前提に、支出した費用にかかる文書の開示を求めるが、そのような文書も存在しない。
本件共有地の用地買収を担当する部局は、安威川ダム建設事務所であるが、異議申立人の求める、共有者が本件共有地の分割を裁判所に求めることについて協力することを職務内容とする担当部局は存在しない。
なお、本件共有地の買収に向けた本格的な用地買収交渉は、分割訴訟の結果を待って行うこととなるが、大阪府では、この買収交渉に備えて、本件共有地が均等分割される場合の各々の共有持分に関し、分割図面を作成した。
この分割図面については、原告らが異議申立人を訴えるに当たり、証拠資料として裁判所に提出したいとの申し出があったので、原告代理人にこれを手交したところである。
ウ 請求事項3について
請求事項3については、請求の趣旨が不明であり、これに係る行政文書は存在しないと言わざるを得ない。その趣旨が、大阪府が共有地の持分買収を行っているか否かを問うものであると解すれば、これに対しては、次に述べるとおり、大阪府は原則として共有持分の買収は行っていないものである。
エ 請求事項4について
地方自治法第238条の4は「行政財産は、(次項から第4項までに定めるものを除くほか)これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。」と定め、大阪府公有財産規則第12条は「私権の設定されている財産を取得して公用又は公共の用に供しようとするときは、取得前に当該私権を排除する措置を講じなければならない。但し、当該私権が、当該財産を公用又は公共の用に供することについて支障とならない場合はこの限りではない。」と定めている。
大阪府では、この定めに従い、共有物については、分割されて私権の設定されない所有権とならない限り買収できないものと取り扱っているものである。
上記各法規は、一般に公開されており、誰にでも入手可能である。これ以外に共有持分買収をなしえない根拠を示す文書は存在しない。
4 結論
以上のとおり、本件部分公開決定及び本件不存在各決定は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、違法、不当な点はない。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書の公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件部分公開文書について
請求事項1及び請求事項5に対応する行政文書は、いずれも、平成18年12月5日付け「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会について(依頼)」に係る起案文書及び添付書類並びに関係土地の境界確定図5枚である。
(1)平成18年12月5日付け「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会について(依頼)」に係る起案文書及び添付書類について
当該行政文書は、安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会の依頼にかかる起案文書及び添付書類であり、「安威川ダム建設事業用地確定協議に伴う現地立会いについて(案)」、「共有地位置図」、「地籍図」、「立会い依頼者一覧表」、「平面図」、「丈量図」、「土地登記簿」からなる。
当該行政文書に、公開しないことと決定された部分はない。
(2)境界確定図について
当該行政文書は、関係土地の境界確定図面であり、「関係土地図面」、「関係土地の境界確定のために立ち会った者の住所・氏名及び印影、測量士の住所・氏名及び印影」等が記載されている。
本件部分公開決定においては、これらの情報のうち、立会者(公務員を除く。)の印影並びに測量士の氏名、印影及び登録番号が非公開とされた。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)本件部分公開決定における公開・非公開の判断の妥当性について
口頭による意見陳述の結果により、異議申立人は、本件部分公開決定における非公開部分のうち、立会者(公務員を除く。)及び測量士の印影については公開を求めないが、測量士の氏名及び登録番号については公開を求めていると認められるので、検討する。
ア 条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- (ア)個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- (イ)特定の個人が識別され得るもののうち、
- (ウ)一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
イ 測量士の氏名及び登録番号の条例第9条第1号該当性について
測量士の氏名及び登録番号は、特定の個人の職業に関する情報であり、ア(ア)及び(イ)の要件に該当することは明らかである。
次に、これらの情報が、ア(ウ)の要件に該当するかどうか検討するに、本件行政文書における測量士の氏名等は、所属する測量会社の名称等と合わせて記載されており、既に測量会社の名称等が公開されていることから、公開することにより、特定の測量士の勤務先が明らかとなる情報として、一般的には、社会通念上、他人に知られることを望まない情報である。
また、測量士については、国土地理院に備え置かれる測量士名簿に「氏名及び生年月日」、「登録年月日」及び「登録番号」等を登録することとされている(測量法第49条第1項及び第2項並びに同法施行令第10条及び第11条)が、この測量士名簿を一般の閲覧に供する旨の規定はない。
さらに、測量法第55条の12第1項第1号の規定に基づき、測量業者登録簿とともに一般の閲覧に供される書類として、測量業者登録申請書の添付書類である「測量業者が営業所ごとに測量士を一人以上置いている旨を誓約する書面」があるが、当該書面には各営業所に勤務する測量士のうち1名以上の氏名とその登録番号、登録年月日等が記載すれば足りることとされており、各営業所に所属する測量士全員の氏名、登録番号等が記載されているわけではない。
以上のことを総合して判断すると、本件部分公開文書に記載されている測量士の氏名及び登録番号については、特定の個人の職業及び勤務先が明らかとなる情報として、社会通念上、他人に知られたくないと望むものであり、上記ア(ウ)の要件にも該当すると認められ、条例第9条第1号の規定により公開することができない。
(2)請求事項1~5に対応する本件部分公開文書以外の行政文書の存否について
異議申立書及び反論書の内容等により、異議申立人は、本件異議申立てにおいて、本件部分公開文書以外にも各請求事項に対応する行政文書があるとして、その公開を求めているものと解される。このため、審査会において、本件部分公開文書以外に請求事項1~5に対応する行政文書があるかどうか検討したところ、以下のとおりである。
ア 請求事項1に該当する行政文書について
請求事項1は、本件共有地に関し「買収計画を進めていることの判る書面全て一切」である。これに対応する行政文書が、本件部分公開文書以外に存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
本件共有地の買収については、事業用地確定のための協議は行ったが、共有物の分割ができていないため、買収すべき個々の土地が確定しておらず、補償金額の提示を初めとする用地交渉には入れていない。このため、事業用地確定協議に伴う立会依頼に係る起案文書及び添付書類とこの立会協議により作成された関係土地の境界確定図面である本件部分公開文書以外には、該当する行政文書は存在しない。
上記の説明については、本件共有地に係る買収手続の状況からすると、基本的には、不自然なものではないが、審査会において、さらに実施機関に事情を聴取し調査したところ、実施機関においては、本件共有地の買収に向けた準備のため、時間の経過により複雑化した相続関係の整理を行っており、その成果物として、別記1の行政文書が存在していることが判明した。また、本件共有地に係る共有物分割訴訟において共有地をどういう形で分割をするのか示すようにとの裁判所の意向を受けた原告側代理人から府の考えを聞かれたため、実施機関において分割を想定した座標求積図を作成し、原告代理人に手交しており、この際に作成された文書である別記2~7の行政文書が存在していることも判明した。
これら別記1~7の行政文書は、いずれも、間接的ではあるものの、本件共有地の買収を進めるために作成されていると考えられることから、本件共有地に関し「買収計画を進めていることの判る書面一切」に該当すると認められる。
イ 請求事項2に該当する行政文書について
請求事項2は、本件共有地の「買収にあたり、分筆を共有者が行うことを進めていることに関して協力していること、その内容、それに要する費用、担当部局がわかる書面全て一切」である。これに対応する行政文書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
府は、本件共有地の買収を計画しているが、共有者が共有物分割を進めることについて、府が協力していることを示す文書、その内容を記載した文書、それに要する費用を記載した行政文書は作成していない。また、本件共有地の買収を担当する部署は、安威川ダム建設事務所であるが、共有者が本件共有地の分割を行うことについて協力することを職務内容とする部署は存在しないから、このような担当部署がわかる行政文書も存在しない。
上記の説明については、本件共有地に係る買収手続の状況からすると、特段、不自然な点はなく、また、他に、請求事項2に該当する行政文書は確認することもできなかった。
ウ 請求事項3に該当する行政文書について
請求事項3は、本件共有地の「買収にあたり、ほとんどの地権者(共有者)が買収に応ずることを意思表示しているのに、共有持分の買収について進められているのかどうか判る書面一切」である。これに対応する行政文書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
本件請求時に、直接確認できなかったこともあり、請求の趣旨が不明であるが、その趣旨が、「府が本件共有地の持分買収を行っているか否か判る文書」と解するならば、府は、本件共有地の持分買収を行っておらず、該当する行政文書も存在しない。
上記の説明については、本件請求時の状況及び本件共有地に係る買収手続の状況からすると、特段、不自然な点はなく、また、他に請求事項3に該当する行政文書を確認することもできなかった。
エ 請求事項4に該当する行政文書について
請求事項4は、本件共有地に関し「持分買収が仮にできないとすると、その法的根拠、事実上の根拠、行政上の根拠について判る書面一切」である。これに対応する行政文書が存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
大阪府では、地方自治法第238条の4及び大阪府公有財産規則第12条の定めに従い、共有物については、分割されて私権の設定されない所有権とならない限り買収できないものとして取り扱っているものである。上記各法規は、一般に公表されており、誰でも入手可能であることから、条例第2条第1項但書により、公開請求の対象となる行政文書には該当せず、他に請求事項4に該当する行政文書もない。
上記の説明については、実施機関の法令解釈を前提とすれば、特段、不自然な点はなく、また、他に該当する行政文書を確認することもできなかった。
オ 請求事項5に該当する行政文書について
請求事項5は、本件共有地に関し「持分所有者の一名が買収に応じない場合に、他の共有者に対し買収手続として必要な手続を求めたことの有無、その内容の判る書面一切」である。これに対応する行政文書が、本件部分公開文書以外に存在しないことについての実施機関の説明は、概ね次のとおりである。
本件共有地の買収については、アで述べたとおり、事業用地確定のための協議は行ったが、共有物の分割ができていないため、買収すべき個々の土地が確定しておらず、補償金額の提示を初めとする用地交渉には入れていない。このため、他の共有者に対し買収手続として必要な手続を求めた内容としては、事業用地確定協議に伴う立会依頼しかなく、本件部分公開文書以外に、請求事項5に該当する行政文書は存在しない。
上記の説明については、本件共有地に係る買収手続の状況からすると、特段、不自然な点はなく、また、他に該当する行政文書を確認することもできなかった。
カ 異議申立人が本件請求に対応する行政文書であるとして指摘している文書について
異議申立人は、平成17年5月7日付けの大阪府安威川ダム建設事務所長から異議申立人にあてたファクシミリによる通信文の写しを審査会に提出し、他の共有者に関しても不存在のはずがないと主張しているが、実施機関から事情を聴取したところ、このような簡易な通信文書は、1年の保存の後、既に廃棄しており、現在、実施機関は保有していないとのことであった。以上の説明については、実施機関における事務の現状からすると、特段、不自然な点はなく、異議申立人が指摘する通信文は、行政文書としては現存しないと認められるから、この点についての異議申立人の主張は採用することができない。
また、異議申立人は、本件共有地の共有物分割訴訟において原告側が大阪府が作成して裁判所に提出したとする図面等の写しを提出し、これら図面等及びこれらに要した費用がわかる文書についても公開すべきであると主張しているので、実施機関から事情を聴取して検討したところ、異議申立人が指摘する文書のうち、座標求積図については、アで述べたところにより、実施機関が、裁判所の意向を受けて原告代理人に手交した別記2~7の行政文書の一部であると認められた。別記2~7の行政文書については、原告側代理人に手交したものであるものの、裁判所の意向を受けて作成したものであることからすると、府として他の共有者に協力したものとは言えず、別記2~7の行政文書及びその作成に要した費用がわかる行政文書については、請求事項2には該当しないと認められるから、この点についての異議申立人の主張もまた採用することができない。
以上のことから、実施機関は、本件請求のうち請求事項1に対応する行政文書として、本件部分公開文書以外に、別記1~7の行政文書を特定すべきであったと認められ、実施機関は、別記1~7の行政文書について、全部若しくは一部の公開又は非公開の決定を行う必要がある。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、本件請求のうち請求事項1に対応する行政文書の特定に関する部分について理由があり、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に別記文書を追加して特定し、この文書について、全部若しくは一部の公開又は非公開の決定を行うべきであるので、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
岡村周一、福井逸治、松田聰子、山口孝司
別記
- 本件共有地の各被相続人に係る相続関係説明図及び添付資料(戸籍謄本及び住民票)
- 座標求積図(○×A1、○×A2に係るもの)
- 座標求積図(○△A1、○△A2に係るもの)
- 座標求積図(○□A1、○□A2に係るもの)
- 座標求積図(●×-×A1、●×-×A2に係るもの)
- 座標求積図(●×-△A1、●×-△A2に係るもの)
- 座標求積図(●△A1、●△A2に係るもの)