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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第171号)

硫酸ピッチ保管事案関係復命書部分公開決定異議申立事案

(答申日 平成21年7月15日)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成20年7月18日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「平成18年11月頃に作成された岸和田市○○における硫酸ピッチ保管事案に関する面談記録もしくは指導記録」についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
  2. 同年8月1日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「復命書(平成18年11月2日作成)」を特定の上、(1)の部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を(2)のとおり付して異議申立人に通知した。
    • (1)公開しないことと決定した部分
      • ア 聞き取り調査に係る対象者の氏名、住所、生年月日、職業及び写真
      • イ 調査結果のうち、関係する個人の氏名及び事業所の名称並びに聴取した内容の記述(検挙された事業所の名称及びその経営者の氏名を除く。)
    • (2)公開しない理由
      • ア 大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、産業廃棄物の処理に係る関係者に対する任意の聞き取り調査の結果が記載されており、これらの情報を公にすることにより、今後同種の調査において、関係者からの協力が得られにくくなり、事実の確認が困難になるなど、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
      • イ 大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
        本件行政文書(非公開部分)には、関係者の氏名、住所、生年月日などが記載されており、これらは、特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
  3. 異議申立人は、平成20年9月17日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定によって、復命書(平成18年11月2日作成)に記載された聞き取り調査の調査結果のうち、聴取した内容の記述が検挙された事業所の名称及びその経営者の氏名を除いて非公開とされた部分を取り消す旨の決定を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、多岐にわたっているが、異議申立書、反論書及び口頭意見陳述の内容を総合すると、概ね次のとおりである。

1 異議を申し立てる非公開部分と非公開理由について

本件非公開部分のうち、「聞き取り調査に係る対象者の氏名、住所、生年月日、職業及び写真」が条例第9条第1号に該当するとの理由をもって公開されないことに対して異議はない。

本件非公開部分のうち、「関係する個人の氏名及び事業所の名称」が、条例第9条第1号に該当する、又は条例第8条第1項第4号に該当するとの理由をもって公開されないことに対しても異議はない。

しかし、本件非公開部分のうち「聴取した内容の記述」(以下「本件係争部分」という。)が条例第8条第1項第4号に該当するとの理由をもって公開されないことに対しては異議を申し立てるものである。

2 本件係争部分に記録された情報を条例第8条第1項第4号に基づき該当しないことについて

(1)条例第8条第1項における「公開しないことができる。」の意義について

条例第8条第1項における「公開しないことができる」という規定は、第9条が「公開してはならない」という禁止規定とされていることと比較すれば明らかであるように、「公開しないことができる」が公開することもできるという、実施機関に対して情報公開に関する裁量権を認めた規定であって、実施機関が職務上の判断に基づいて情報公開の可否を決定しうるという規定である。しかるに本件決定においては、あたかも条例第8条第1項が禁止規定であるかのごとくに、本件係争部分が全面的に非公開とされているものであり、これは条例の運用としては多分に硬直的に過ぎ、著しく不当である。

たとえ本件行政文書が、条例第8条第1項第4号に該当する行政文書であったとしても、「公開しないことができる」との規定に基づいて非公開を決定することと全く同様に、条例第8条第1項の規定に基づいて実施機関が裁量権において公開を決定することに対しても、何らの条例上の制約は存在しないものと理解することができる。

条例第8条第1項の規定を上記のように理解することについては、『大阪府情報公開条例解釈運用基準(平成20年4月改正版)』(以下「解釈運用基準」という。)の第8条「公開しないことができる行政文書」の〔趣旨及び解説〕3においても、「本条各項各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書について、公開請求がある場合には、実施機関はこれを公開しないことができるが、これは、実施機関の公開義務を免除するだけであり、進んで非公開義務を課すものではない」と明記されていることから、この点について疑問の余地はありえないものと考える。

(2)条例第8条第1項第4号に規定する「おそれ」が認められないことについて

解釈運用基準第8条第1項第4号の〔解説〕6において、「本号における『おそれのあるもの』に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、『事務の目的が達成できなくなり』、又は『事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす』程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、また、それらの『おそれ』の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られる」と記されているというのに、本件決定の理由には、何ら「具体的かつ客観的な」事務に対する支障は示されておらず、「確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある」「おそれ」も明示されていないことから、解釈運用基準に定められた公開しない理由としての基本的な条件をそもそも満たしていないと考える。

あるいは「これらの情報を公にすることにより、今後同種の調査において、関係者からの協力が得られにくくなり、事実の確認が困難になるなど」が「具体的かつ客観的な」事務に対する支障であり、「確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある」「おそれ」であるとして挙げられているのかもしれないが、常識的に判断するならばおよそ具体的でも客観的でもない支障を前提とした、確率的な可能性に過ぎず、法的保護に値する蓋然性を有しない「公開しない理由」であることは言うまでもないと思われる。

さらに、本件係争部分は、聞き取り調査の調査結果であることから、解釈運用基準第8条第1項第4号の〔運用〕1の「本号に該当する『おそれ』のある情報の主なものについて類型化」された項目においては、(1)「検査、取締り、試験又は監査に係る事務に関し、正確な事実の把握を著しく困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を著しく助長し、若しくはその発見を著しく困難にするおそれのある情報」が適用されるかどうかが検討されることになると思われるが、本件係争部分を公開することによって「正確な事実の把握を著しく困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を著しく助長し、若しくはその発見を著しく困難にするおそれ」が生じるとは考えにくく、「『おそれ』のある情報」には当たらないと判断すべきである。

そもそも「これらの情報を公にすることにより、今後同種の調査において、関係者からの協力が得られにくくなり、事実の確認が困難になるなど」によって、「同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」「おそれ」が本件係争部分を「公開しない理由」として挙げられているのだが、「関係する個人の氏名及び事業所の名称」といった個人情報が公開されないのであれば、この「おそれ」は、やはり具体的でも客観的でもなければ、あくまで確率的な可能性に過ぎない、法的保護に値する蓋然性を有しないものであると考える他ないのであって、かえって非公開にすることの方がよほど「正確な事実の把握を著しく困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を著しく助長し、若しくはその発見を著しく困難にするおそれ」があるものと言わざるを得ないのではないだろうか。

また、解釈運用基準第8条第1項第4号〔運用〕2においては、「本号該当性については、当該情報を公にすることにより、当該事務又は同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることについて、具体的な事実に即して客観的に検討した上で、慎重に判断しなければならない」とされているが、本件決定においては「具体的な事実に即して客観的に検討した上で、慎重に判断」した根拠も過程もなんら明示されていないことからも、本件係争部分の非公開決定は全く不当であって取り消すべきである。

(3)当審査会答申第122号が本件係争部分を非公開とする例証とはならないことについて

実施機関が、条例第8条第1項第4号に該当するから非公開が妥当であるとの答申が出された事例として参照している審査会答申第122号は、対象となっている行政文書が、「教員の資質に関する諮問委員会関係文書」すなわち「『教員の資質に関する諮問委員会』議事録上記会議に提出された資料H13年からすべて」であって、非公開とされた部分は「教員の資質に関する諮問委員会への諮問に際して教員から提出された意見書及び校長から提出された反論書」である。あまりにも行政文書の性格が違いすぎるので、本件決定において条例第8条第1項第4号に該当するとして本件係争部分を全面的に非公開としたことを正当化する例証などとはおよそなりえない。

教員の勤務評定等を非公開決定にすることと、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)違反事件に関係した調査対象者の聞き取り調査に対する回答内容を非公開決定にすることとがどうして同列に扱われるものなのか、実施機関の主張はおよそ理解しがたいものである。加えて、答申第122号は異議申立てを一部認容している答申である上に、異議が申し立てられた部分公開決定も、「当該教諭は、■■■を退部しようとした女子生徒を説得する際、セクシュアル・ハラスメント発言をし、また■■■には同女子生徒に対し手紙とプレゼントを渡した。」と例示されているように、明らかに本件決定よりもはるかに公開されている。答申第122号から判断しても、本件決定における回答内容の事実上の全面的非公開決定がいかに異常なものであって、違法もしくは著しく不当であることがより明瞭になるだけであると思われる。

(4)事実解明のための調査の結果も公開が原則であることについて

実施機関は、「一般的に事実解明のために行う調査の場合、調査対象者の氏名やその回答内容の公表を前提とはせず、任意の協力を得て実施するものであり」と主張しているが、仮にも行政文書であるからには条例に従って情報公開請求の対象となることが前提とされていることは自明にして当然というものである。「事実解明のために行う調査の場合、その回答内容は公表されないものとする」等の規定が条例に存在するわけではないのだから、「一般的に」と一般論にすりかえようとしたところで、その一般性は実施機関の主張する一般性に過ぎず、広く社会に共有されている一般性であることを論証できるはずもないのであって、つまるところ「事実解明のために行う調査」が含まれた行政文書が情報公開請求の対象となった場合であっても、あくまで条例の規定に基づいて、どの部分が公開され、どの部分が非公開とされなければならないかが問題とされるだけである。

(5)廃棄物処理法違反事案関係者との信頼関係より住民への情報公開を重視すべきであることについて

実施機関は、「回答内容が公にされると、調査対象者に対する信頼を大きく裏切ることはもとより、今後、公開が前提となれば、同種の事案が発生し、同種の調査をした場合には必要な情報が得られにくくなる」などと本件決定の正当化が図られているが、廃棄物処理法違反事件に関係して不正に利益を貪った調査対象者との信頼関係を大切にするのもいいが、それをもって法を尊重する一般市民の信頼を裏切っていい理由にはならないし、ましてや公権力の行使を担う立場でありながら条例の精神と情報公開制度の理念を踏みにじってもいい理由にはまったくならない。

実施機関は、今後回答内容の公開が前提となった場合には、「調査対象者の意識として」、「検挙者等から報復等の危害」の可能性を考えさせてしまい、結果として「事務の目的が達成できなくなり、これらの事務の適切な執行に著しい支障を及ぼすことになる」から、条例第8条第1項第4号の要件に該当すると主張しているが、それはまったくの詭弁というものであって、実施機関が条例の趣旨を理解せず情報公開制度の理念を軽視していることに起因した筋違いの主張である。また、「調査対象者の意識として、回答内容から自分が推測され」などとの主張は、推測されない程度に非公開部分を十分に検討して部分公開しようという努力をしようともせずに、本件係争部分を全面的に非公開にしておきながら、何を白々しいことを言っているのかと反論せざるをえないものである。

そもそも行政文書が情報公開されることによって調査対象者に対して報復の可能性があるから、個人識別情報のみならず、事実上全面的に非公開とするなどとは、そんな詭弁が認められるならば、あらゆる複数犯はその証言によって報復の可能性があるのであって、刑事事件の取調べにおいて報復の可能性があるから共犯については供述しなくていいとか、刑事裁判において刑事被告人が共犯について証言する際には報復の可能性があるから傍聴を禁止して非公開にしなければならないとか、そんな論理が通用するはずがないように、それは法治国家において法の統治が実現されるために個々の国民に対してなされる当然の要請なのであって、実際マスメディアにおいても容疑者の誰それは「共犯者の誰それが犯行を主導した」と証言しているなどと、普通に報じられていることである。報復云々については、被害者側に対して加害者側からなされるそれについて配慮されるというのであればまったくもっともなことであるが、実施機関においてはそれが法に触れた疑いの強い調査対象者と同じく被疑者とも言うべきその関係者間の報復等に拡大解釈されており、完全に誤った論理の飛躍であって、何らの正当性も持ち合わせていない主張である。

情報公開の問題など無かったとしても、実施機関が監督官庁の職務として調査対象者の関係者を調査すれば、「あいつが喋ったんだろう」となることは、あらゆる捜査、検査、調査の局面で当たり前に発生する現象であって、調査対象者が何らかの供述を行ない、ことに関係者を名指しまでするに至っては、その時点において既にその関係者に調査の手が伸びて調査対象者が喋ったことが相手に分かるかもしれないこと程度は考慮して、報復等の可能性くらいは織り込み済みの上で調査に応じているはずである。何よりも実施機関の主張が根本的に成り立ちえないのは、調査対象者が報復されることをそんなに心配しているのであれば、任意の聞き取り調査を拒否するなり黙秘するなりすればいいわけであって、この点においても論理的に完全に破綻していると言わざるをえない。また、調査対象者が報復されることを実施機関がそこまで心配するのであれば、調査対象者の供述に基づいてさらに関係者を追及することなど到底できなくなるわけで、そんな心配をしていることを公言すること自体が、実施機関が監督官庁としての職務の放棄を宣言しているに等しいことを自覚するべきである。

(6)本件係争部分に記録された情報を公開することの公益性について

本件行政文書は大阪府警によって摘発された硫酸ピッチ違法保管事件に関係して行われた大阪府による関係者に対する聞き取り調査の結果を記載したものであって、硫酸ピッチは廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号)第15条に規定された指定有害廃棄物であり、生活環境の保全上の支障となる有害物質として行政代執行によって公費による除去等の措置がとられることもあるほどの有害物質であるとともに、そもそも不正軽油の製造という地方税法違反の犯罪行為の副産物として発生するためにそれ自体が地方税法違反事件の物的証拠となる廃棄物である。

現に本件行政文書の現場となっている貸倉庫においても、平成18年9月末から10月初旬にかけて大阪府が公費を投じた行政代執行によって硫酸ピッチの撤去作業が行われており、またとりわけ考慮されるべき点としては、当該貸倉庫の賃借人であり、本件行政文書の聞き取り調査の対象となっている人物(以下「本件調査対象者」という。)から硫酸ピッチの処分を委託された者(以下「行為者」という。)は、硫酸ピッチの違法保管による廃棄物処理法違反その他の罪状によって実刑判決が確定、現在も服役中である犯罪者であり、本件調査対象者もまた犯罪行為に加担した疑いが濃厚であることは、部分公開された僅かな箇所からも容易に推察されることである。

このように本件行政文書は、生活環境の保全上の支障となる有害物質に関する情報であることに加えて、大阪府に少なからぬ公費負担を強いた行政代執行によって撤去された硫酸ピッチの仲介者とされる人物に対する聞き取り調査の記録であり、さらに既に有罪が確定している犯罪行為に関係したものであって、生活環境の保全上の支障が発生する可能性が法令によっても明示されているような悪質な環境犯罪であるばかりか大阪府による公費支出まで伴っているような場合については、知る権利が最大限に優先されてしかるべきであるにもかかわらず、本件係争部分を全面的に非開示にする方向性で裁量権を最大限に行使するなどという本件決定は、およそ条例の趣旨から逸脱した不当な判断であると言わざるをえない。

条例前文においても、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上を目指す基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。府が保有する情報は本来府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることが求められている。このような精神のもとに、府の保有する情報は公開を原則とし、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護しつつ、行政文書等の公開を求める権利を明らかにし、併せて府が自ら進んで情報の公開を推進することにより、『知る権利』の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与するため、この条例を制定する」と記されているというのに、「府民の生活と人権」にとっても「豊かな地域社会の形成」にとっても明らかな脅威以外の何物でもない反社会的行為、悪質な環境犯罪であって、軽油取引税を脱税した上に撤去においてさらに公費を支出せしめる硫酸ピッチ違法保管事件の具体的な状況を知るために必要である本件係争部分を、非公開という方向性で裁量権を最大限に行使するなどとは、条例の精神を全く踏みにじった不当極まる決定である。

本件決定のような「府民の生活と人権」と「豊かな地域社会の形成」にとってとりわけ脅威となるような環境犯罪、ましてや公費まで投入するような事態に陥った事件に関係した情報は、「これを共有すること」に対する要請が、通常の行政文書の場合よりもことさらに切実なものであるはずであって、従って通常の場合よりも情報を公開するという方向性で裁量権を行使することが常識的な行政判断というものであるはずである。

さらに、公開についての禁止規定である条例第9条第1号においてすら、「事業に関する情報」はその公共性に鑑みて公開が禁止される個人識別情報から除外されるというのに、本件決定では、極めて公共的な意味合いが強い事件であるにもかかわらず、「聴取した内容の記述」における関係者の業種等、最低限の事業に関する情報について、禁止規定でもない条例第8条第1項第4号を恣意的に拡大解釈することによって、実質的には全面的な非公開処分に等しいものにしており、違法若しくは著しく不当である。

(7)本件廃棄物処理法違反事案に関する情報の公開に対する実施機関の姿勢について

実施機関は、「実施機関における開き取り調査や、警察当局による捜査等も実施される可能性がある」から「『聴取した内容の記述』が公開されてしまうと、調査対象者は自分に不利になることを回答しなくなり、また報復等の危害が加わることを懸念して真実を回答しなくなるなど、事実解明が困難となる」と主張しているが、この事案において問題となっている硫酸ピッチの違法委託、違法受託に関する廃棄物処理法違反については公訴時効が5年であって、調査対象者や関係者に対する刑事責任の追及は、最大限に見積もっても平成21年の年末には公訴時効となり、同時に警察当局による捜査を論じること自体が無意味になってしまう。また、本件行政文書は既に2年近くも以前に作成されたものであるというのに、それ以後監督官庁である実施機関はなんらの成果もあげていないどころか、監督官庁として事実解明のための最低限の努力をしたふしすらうかがえない。実施機関が監督官庁として職責を果たしているか否かを検証するためにも、本件係争部分が公開されることは必要不可欠である。

そもそも、関係者の氏名や業者の名称を出したわけでもないのに名誉毀損などで訴えられるというが、たとえ刑法第230条違反で刑事告訴されたにしても、そのような訴えは公訴権の乱用もいいところであって、立件、起訴されるはずもないのであるし、民事損害賠償請求訴訟を伴っていたとしても、それはまったく不当な要求であるから民事裁判で堂々と争えばいいことであって、どうせ原告の請求を斥けるとの判決が出されることは目に見えている。まったく実施機関は何をそう戦々兢々として怯え慄き、条例と情報公開制度の意義と理念を斥けてまで、本件行政文書における聞き取り調査の回答内容を全面的に非公開にしようとしているのであろうか。廃棄物処理法違反事件を引き起こすような犯罪者達は、行政側にとってはそれほどまでに恐ろしいというのであろうか。

最近の事故米事件やメラミン混入事件など食料汚染の問題等においても、消費者保護、一般市民の生活と安全の保護、社会全般における安心感の確保のためには、落ち度の無い流通業者の事業所名がマスメディアにおいて公表されるというような流れも出てきているというのに、本件決定に関しての、あたかも犯罪者側に加担するかのごとき様相を呈している実施機関の態度は、まったく情報公開の流れに逆行するものであって、このような実施機関による恣意的と言ってもよいほどの安易な非公開決定を許すならば、実施機関によって実施機関に都合の悪いあらゆる情報の隠蔽が可能となる前例を作ることとなってしまう。調査対象者とその関係者を過度に保護しておいて、回答の内容を公開する前例を作ると事務に支障云々の極めて蓋然性の乏しいおそれを危倶することよりも、そちらのおそれの方が社会にとってよほど危険であり深刻な問題と言うべきであろう。

異議申立人が、神戸市に情報公開請求をした結果、本件廃棄物処理法違反事案に関係する神戸の業者が硫酸ピッチを入れたことも判明した。神戸の業者は書類送検されているので、本件の調査対象者とは一概に同列には論じられないとは思うが、大阪府と違って個人情報だけを非開示としており、これが普通の情報公開であると思う。

さらに、本件請求は、形の上では、平成20年7月18日に行ったことになっているが、実際には、平成20年3月末から公開を求めて相談してきた。しかし、実施機関からは、「まずは、文書を探す」という理由で、本来は15日くらいで出るものを、請求まで3か月以上も延ばされている。資料4枚を探すのにこれほど時間はかからないと思う。時効の問題もあるので、遅れるほどよいと思っているのかも知れない。

5 結論

以上に論証した通り、本件決定は実施機関が条例第8条第1項第4号を曲解し、基準における条例第8条第1項第4号の〔解説〕6を十分に理解できていない、または理解しようとしないことに起因する、違法もしくは著しく不当なものである。

実施機関の主張は、調査対象者が自由意思に基づいて任意の聞き取り調査に対して回答しているという前提が存在しているにもかかわらず、個人識別情報以外の回答内容が公開されると、関係者によって調査対象者が推測される「かもしれない」と調査対象者が心配して、報復をおそれる「かもしれない」ことによって、実施機関の事務に支障が出る「かもしれない」などというような、極めて根拠の薄弱な推測を積み重ねることに立脚した、いわゆる砂上の楼閣に類するものである。それは実質的には、実施機関が公開しないと判断したからには理由の如何を問わずに妥当なのであり、行政の裁量権とはそういうものであって当然のことであると主張しているのも同然であって、旧態依然たる「民は知らしむべからず、これを以って依らしむべし」的な発想がうかがえるものであって、およそ条例と情報公開制度が存在する意義を軽視しているとしか思えない。

また微力な一般市民に対しては、そのような独善的かつ高圧的な態度で臨んでおきながら、他方では、事実上違法行為によって不正な利益を貪った調査対象者及びその関係者に対しては異常なまでに気を配り、監督官庁でありながら取り締まるべき違法行為を目前にして、被疑者相手に御機嫌伺いをしているかのごとき本末転倒ぶりであって、実施機関はそこまで犯罪者と関わりあいになるのが恐ろしいのか、それとも調査対象者の保護を言訳にして行政における秘密主義を既得権として手放したくないのか、あるいはその両方ともが理由であるのか、いずれにせよ本件決定が認められるならば、行政の透明性も検証可能性も成り立ちえず、行政による不作為も不正行為も追及されえず、情報公開制度それ自体を否定するにも等しい暴挙であって、違法もしくは著しく不当な決定であることは明らかであるから、従って、本件係争部分は原則的に公開されるべきである 。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 聞き取り調査に至る経緯等について

平成16年頃から岸和田市○○にある倉庫をはじめとする2箇所の倉庫(以下「2箇所の倉庫」という。)に、硫酸ピッチ等の廃棄物を保管していた事案(以下「本件事案」という。)に関し、実施機関では、行為者に対して、硫酸ピッチ等の撤去などを指導するとともに、2箇所の倉庫に保管されるまでの経緯などを調査していたところ、行為者以外にも本件事案に関与した疑いのある人物である本件調査対象者の名前が出てきたため、同人に対して聞き取り調査することとした。

その当時、本件調査対象者とは、連絡が取れなかったが、その後居所が判明し、本件調査対象者と連絡が取れたことから、平成18年11月に聞き取り調査(以下「本件調査」という。)を実施した。

なお、本件事案については、2箇所の倉庫に硫酸ピッチ等を保管した行為者が廃棄物処理法違反の容疑で平成18年5月に逮捕された。その後、2箇所の倉庫に放置された硫酸ピッチについて、生活環境の保全上支障が生ずるおそれが出てきたため、平成18年7月から10月にかけて行政代執行による撤去を行った。

(参考)硫酸ピッチについて

本件事案に係る硫酸ピッチとは、「不正軽油(A重油と灯油を混和させて軽油として使用・販売するものであり、軽油引取税を脱税しているものをいう。)を密造する際に、A重油及び灯油に含まれている識別剤クマリンを除去する目的で、濃硫酸による処理を行う際に発生する、廃硫酸と廃炭化水素油との混合物」である。

また、廃棄物処理法第16条の3の規定により「法令で定める適切な処理方法によらない限り、人の健康又は生活環境に係る重大な被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物として保管、収集、運搬又は処分をしてはならない」とされている「指定有害廃棄物」で、当該規定に違反した場合には、廃棄物処理法第25条による罰則が適用される。

2 本件行政文書の基本的性格及び記載されていた内容について

(1)「復命書」の基本的性格について

復命書は、大阪府処務規程第31条の規定に基づき、同規程第30条の規定に基づいて出張した職員が、その用務を終えた際に作成するものである。

(2)「復命書」に記載されていた内容について

今回の部分公開対象となった「復命書」については、出張したことに係る復命に加えて、硫酸ピッチが2箇所の倉庫に保管されるまでに関係のあったとされる人物の氏名や業者の名称、その流れ等、本件調査対象者から聴取した内容が記載されていた。

3 本件非公開部分の妥当性について

(1)本件行政文書の公開について

前記2のとおり、本件行政文書は、出張した職員がその用務を終えた際に作成するものであり、今回の場合、本件調査の実施状況だけでなく、本件調査対象者から得た情報が詳細に記載されている。

本件行政文書の公開について、「他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報」(条例第9条第1号に該当)及び「公にすることにより、今後同種の調査において、関係者からの協力が得られにくくなり、事実の確認が困難になるなど、同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報」(条例第8条第1項第4号に該当)が含まれたものであるとして、「復命書」を部分公開としたものである。

(2)条例第9条第1号該当性について

本号に該当する部分を非公開としたことについては、異議申立てがないので割愛する。

(3)条例第8条第1項第4号該当性について
ア 本号は、
  • (ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業管理等の事務に関する情報であって、
  • (イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの

が記録された行政文書については、公開しないことができると規定している。

そして、上記(ア)に列挙された事務は例示であり、これらに類する事務に関する情報についても、(イ)の要件を満たす場合には、公開しないことができるものである。(大阪府情報公開審査会答申第122号参照)

また、(イ)の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものとは、公開することにより、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力が得にくくなるおそれがあるものなどをいうものである。(同答申参照)

これを、本件行政文書に記録されている情報について検討する。

イ ア(ア)の要件について

本件行政文書である「復命書」については、前記2(2)にあるように、本件調査対象者に対し本件事案の事実を明らかにするために本件調査を実施し、本件事案に関係のあったとされる人物の氏名や業者の名称、その流れ等、実施機関が産業廃棄物の不適正な処理の指導・取締り等の事務を実施していくために情報収集した結果を記載したものである。このことから、ア(ア)の要件に該当する。

ウ ア(イ)の要件について

本件行政文書の「復命書」に記載された内容については、前記イにもあるように、本件調査対象者から本件事案の事実を明らかにするために本件調査を実施し、本件事案に関係のあったとされる人物の氏名や業者の名称、その流れ等、本件調査対象者から聴取した内容が記載されている。

これは、一般的に事実解明のために行う調査の場合、調査対象者の氏名やその回答内容の公表を前提とはせず、任意の協力を得て実施するものであり、その回答内容が公にされると、調査対象者に対する信頼を大きく裏切ることはもとより、今後、公開が前提となれば、同種の事案が発生し、同種の調査をした場合には、必要な情報が得られにくくなる。例えば、調査対象者から得た情報を基にして法令違反により検挙者が出た事例において、当該情報について条例に基づき公開請求がなされた場合に、調査対象者の氏名など条例第9条第1号で非公開にしなければならない情報以外の情報を開示する旨の部分公開決定をすることになれば、調査対象者の意識として、回答内容から自分が推測され、検挙者等から報復等の危害を加えられる可能性を考えてしまい、必要な情報を得られなくなる可能性がある。それによって、実施機関としては事務の目的が達成できなくなり、これらの事務の適切な執行に著しい支障をおよぼすことになる。このことから、ア(イ)の要件に該当する。

(4)異議申立人が本件調査で聴取した内容の記述の公開を求めていることについて

異議申立人が本件調査で聴取した内容の記述に係る非公開決定が、違法もしくは著しく不当なものであると主張している。その主張の理由については、a 条例第8条第1項が公開の禁止規定であるかのごとく「聴取した内容の記述」が全面的に非公開とされていることが著しく不当である、b 条例第8条第1項第4号の規定にある「おそれ」の具体的かつ客観的な明示がなく、確率的な可能性に過ぎず、法的保護に値する蓋然性を有しないことが不当である、c 硫酸ピッチを違法に保管した犯罪に関連した情報である「聴取した内容の記述」を、「知る権利」に優先して非公開とされたことが正当な理由とは考えられない、というおおよそ3点に集約されると解しており、その3点に対する実施機関としての反論は以下のとおりである。

ア aに対する実施機関の考えについて

「聴取した内容の記述」を非公開とした理由は、「公にすることにより、今後同種の調査において、関係者からの協力が得られにくくなる」というものである。これは、調査で聴取した内容のうち条例第9条第1号により氏名等の公開できない情報のみを非公開にしたとしても、それ以外を公開すれば、聴取した内容から調査対象者である関係者のことを知り得る可能性は高く、特に調査が必要な事案に関わる人物であれば、その内容から関係者が推測されるからである。そうなると、関係者は自分の証言により検挙者等から報復等の危害を加えられると考え、必要な情報を得られなくなる可能性が高いことからも、「同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある」のは明白である。

このように、適切な理由をもって当該記述部分を非公開としており、異議申立人が不当な理由としているように当該記述部分の非公開を禁止規定であるかのごとく取り扱ったことはない。

イ bに対する実施機関の考えについて
  • (ア)「おそれ」の具体的かつ客観的な明示について
    産業廃棄物の不法投棄等の不適正処理行為を行った者やその関与者が、刑罰を受けるケースも多く、調査に係る記録が情報公開されることになれば、報復として危害を受ける心配がある等の理由から調査対象者の協力を得られにくくなり、実施機関が指導・取締りの事務に必要な情報を入手できなくなるというおそれは大きく、これは具体的かつ客観的な支障である。
  • (イ)「おそれ」の蓋然性について
    まず、当該支障が容易に認められることがある。
    次に、不法投棄等の不適正処理物にはコンクリートのがれきや木くず等の建設廃棄物が多いが、建設業界特有の下請重層構造により他の業界に比べて関係事業者数が多い等の理由から、違う事案であっても同じ人物が関係しているケースが多く、何度も調査対象者となる人物が多いこともある。
    さらに、本件事案に関しては、硫酸ピッチについては行政代執行で撤去したものの、指導・取締りの事務は終わっておらず調査は継続すること等から、蓋然性は極めて高いものである。
ウ cに対する実施機関の考えについて​​​​​

「知る権利」については当然の権利であり、これに基づき「府の保有する情報は公開を原則」として条例が定められている。条例には個人情報を保護する観点や事務の公正かつ適切な執行を確保する観点等から「公開してはならない情報」及び「公開しないことができる情報」という規定が設けられており、この条例の規定及び答申の内容に基づき、「聴取した内容の記述」の部分を検討した結果、非公開が妥当であると判断したものである。

以上のとおり、異議申立人が本件決定の取消しの決定を求めている本件行政文書(非公開部分)は、条例第8条第1項第4号に該当する。したがって、本件決定において、非公開としたことは、妥当である。

4 その他の主張について

本件事案については逮捕者が出て、一見決着したように思われるが、あくまで硫酸ピッチを不法に保管したことだけが逮捕理由で、それ以外の硫酸ピッチの生成から保管に至るまでの行為は、何ら解明がされていない。今後も本件事案については、新たな事実が判明などすれば、調査対象者以外も含めて、実施機関における聞き取り調査や、警察当局により捜査等も実施される可能性がある。その場合に、本件調査において「聴取した内容の記述」が公開されてしまうと、調査対象者は、自分に不利になることを回答しなくなり、また報復等の危害が加わることを懸念して真実を回答しなくなるなど、事実解明が困難となる。

また、このような情報を公開することは、関係者の氏名や業者の名称を出さないまでも、関係者が特定される可能性は高く、それらの関係者も逮捕等された事実がないことから実施機関が名誉毀損などで訴えられる可能性もあり、その点についても十分審査いただきたいと考える。

5 結論

以上のとおり、本件決定は、条例の非公開事由の要件に該当するものを非公開としたものであり、何らの違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書の公開について、条例は、その前文に、「府が保有する情報は、本来府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務を全うすることが求められる。」との精神を掲げている。この精神のもとに、「府の保有する情報は公開を原則とし、個人のプライバシーに関する情報は最大限保護しつつ、行政文書等の公開を求める権利を明らかにし、併せて府が自ら進んで情報の公開を推進することにより、「知る権利」の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与する」ことを規定している。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 指定有害廃棄物の違法な保管等の防止に係る業務について

廃棄物処理法は、「人の健康又は生活環境に係る重大な被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物として政令で定めるもの(以下「指定有害廃棄物」という。)」(廃棄物処理法第16条の3)の保管、収集、運搬又は処分について、同条各号に規定する場合を除き、これを禁止しており、違反者には「5年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」に課す旨の罰則が定められている(廃棄物処理法第25条)。

また、産業廃棄物処理基準に適合しない処分が行われた場合で、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事が、処分を行った者等に支障の除去等の措置を講ずべきことを命じ(廃棄物処理法第19条の5)、又は、これがなされない場合等においては自ら措置を講ずる(廃棄物処理法第19条の8)ことができるとされている。

一方、都道府県知事又は市町村長には、廃棄物処理法の施行に必要な限度において、事業者、一般廃棄物若しくは産業廃棄物若しくはこれらであることの疑いのある物の収集、運搬若しくは処分を業とする者等に対し、廃棄物若しくは廃棄物であることの疑いのある物の保管、収集、運搬若しくは処分等に関し、必要な報告を求める権限(廃棄物処理法第18条)、及び職員に事業者若しくは一般廃棄物若しくは産業廃棄物若しくはこれらであることの疑いのある物の収集、運搬若しくは処分を業とする者の事務所若しくは事業場等に立ち入り、廃棄物若しくは廃棄物であることの疑いのある物の保管、収集、運搬若しくは処分等に関し、帳簿書類その他の物件を検査させ、又は試験の用に供するのに必要な限度において廃棄物若しくは廃棄物であることの疑いのある物を無償で収去させる権限が付与されている(廃棄物処理法第19条)。

硫酸ピッチは、不正軽油(軽油引取税を脱税するため、A重油と灯油を混和させて軽油として使用・販売するもの。)を密造する際に、A重油及び灯油に含まれている識別剤クマリンを除去する目的で、濃硫酸による処理を行う際に発生する、廃硫酸と廃炭化水素油との混合物である。著しい腐食性や有毒ガス発生など、健康又は生活環境に著しい被害を生ずるおそれがある性状を有する物質であることから、廃棄物処理法施行令第15条の規定により、廃棄物処理法第16条の3に規定する指定有害廃棄物に指定されており、平成19年度までに全国で276件、69,457本(ドラム缶換算数)の不適正処理が発生するなど、大きな社会問題となっている。

このため、実施機関においては、住民からの通報やパトロールを通じて、硫酸ピッチ等の違法保管を把握した場合、現地や関係する事業場への立入検査、関係する事業者からの報告徴収、土地所有者、周辺住民、関係者からの任意の事情聴取などを通じて、事実の解明に努めており、その結果に基づいて、かかる行為を行った者や土地所有者に対する指導を行うとともに、必要に応じて、支障の除去等の命令や代執行、刑事告発等を行うこととしている。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、本件事案の調査業務において、実施機関が、本件調査対象者に対して、平成18年11月2日に聞き取り調査を行った際の復命書である。

記録されている事項は、聞き取り日時、聞き取り場所、本件調査対象者を特定する事項(氏名、年齢、住居、職業)、調査に至った経緯、調査結果及び今後の対応方針並びに本件調査対象者の肖像を撮影した写真であり、このうち、調査結果としては、当該職員が本件調査対象者から聴取した内容として、次の項目に係る情報が記録されている。

  • 人物(本件調査対象者自身、行為者及びその他の者)について
  • 行為者が借りていた倉庫等について
  • 岸和田市○○の倉庫で処理の依頼を受けたドラム缶や一斗缶について
  • 業者について
  • 硫酸ピッチについて
  • その他
  • 今後の対応について

なお、本件決定において公開しないこととされた部分(本件非公開部分)は、「聞き取り調査に係る対象者の氏名、住所、生年月日、職業及び写真」及び「調査結果のうち、関係する個人の氏名及び事業所の名称並びに聴取した内容の記述(検挙された事業所の名称及びその経営者の氏名を除く。)」であるが、異議申立人は、異議申立書において、「聞き取り調査に係る対象者の氏名、住所、生年月日、職業及び写真」及び「関係する個人の氏名及び事業所の名称」が非公開とされたことについては、異議を申し立てないとしている。

したがって、異議申立人が、本件異議申立てにおいて、公開を求めているのは、「調査結果のうち、聴取した内容の記述」(本件係争部分)のみである。

4 本件決定に係る具体的な判断及びその理由

本件係争部分に記録されている情報について、実施機関は、条例第8条第1項第4号に該当すると主張し、異議申立人は、同号に該当しないと主張しているので、検討したところ、以下のとおりである。

(1)条例第8条第1項第4号について

行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の実施後であっても、公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。

このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。

同号は、

  • ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
  • イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれら事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

が記録された行政文書を公開しないことができる旨定めている。

また、「事務の目的が達成できなくなる」とは、立入検査、交渉等事務の性質上、それらの情報を公開すれば、事務事業を実施しても期待どおりの結果が得られず、実施する意味を失う場合などをいい、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」とは、公開することにより、事務事業実施のために必要な情報又は関係者の理解、協力を得ることが著しく困難となることなどをいうと解される。

さらに、本号における「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」、又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、また、それらの「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られるものと解すべきである。

(2)本件係争部分に記録されている情報の条例第8条第1項第4号該当性について

本件行政文書は、実施機関が、廃棄物処理法に基づく指導取締業務の一環として行った調査の記録であることから、本件係争部分に記録された情報が、(1)アの要件に該当することは、明らかである。

次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するかどうか検討するに、本件事案のような硫酸ピッチの違法保管事案は、住民の生活環境に重大な影響を及ぼすおそれのある事案であり、違反行為に関する客観的な事実や違反行為者等に対する実施機関の指導や行政処分の内容等の情報は、可能な限り、公開されるべきものであるが、本件係争部分に記録されている情報は、本件事案への関与が疑われた本件調査対象者から、実施機関の職員が任意で事情聴取した内容そのものである。

このような任意の事情聴取は、実施機関において、廃棄物処理法違反が疑われる事案の解明を進める際に、一般的な手段として用いられているものであり、調査対象者が、自発的に事実を明らかにすることを期待して行われるものであるところ、本件係争部分に記録されている情報を公開すると、事案関係者から容易に本件調査対象者が特定され、今後、本件調査対象者が、調査に協力しなくなる、積極的に情報を提供しなくなるなど、本件事案の全貌解明のために必要な情報を得ることが困難となるおそれがあるとともに、同種の他の事案に係る調査においても、関係者から必要な情報を得ることが困難となるおそれがあると認められる。

また、聴取内容は、本件調査対象者が述べた内容を要約して記録したもので、必ずしも、実施機関において、客観的な事実として確認したものではない。他の関係者からの事情聴取の結果など他の資料と突き合わせながら、客観的な事実の解明を図る必要があるが、その際に当該他の関係者があらかじめ本件係争部分に記録されている情報を知ることになると、故意に話を合わせ、又は虚偽の情報を提供するなど、正確な情報を得ることが困難となることも懸念されるところである。

なお、異議申立人は、「関係する個人の氏名及び事業所の名称」といった情報が公開されないのであれば、「おそれ」は、やはり具体的でも客観的でもなければ、あくまで確率的な可能性に過ぎない、法的保護に値する蓋然性を有しないと主張している。しかしながら、確かに、一般府民からは、調査対象者が容易に特定されるとは言えないものの、調査対象者にとっては、事案関係者から見て、自らが特定されるかどうかが重要な意味を持つものであり、審査会において本件係争部分を見分し検討したところ、本件係争部分に記録されている情報を公開すると、事案関係者から見ると、調査対象者が容易に特定されると認められたところである。

以上のことから、本件係争部分に記録されている情報は、1(イ)の要件にも該当すると認められ、条例第8条第1項第4号の規定に基づき、公開しないことができる。

(3)実施機関の裁量に基づき公開すべきとの異議申立人の主張について

異議申立人は、本件係争部分に記録されている情報が、条例第8条第1項第4号に該当するとしても、非公開とする義務が課されているものではなく、実施機関の裁量によって公開することができるとして、本件調査に係る事案の公共性から、本件係争部分に記録されている情報は公開すべきであると主張するものと解されるので、検討する。

条例第8条は、第9条とともに行政文書公開制度における公開原則の例外を定めているが、第9条が「・・・行政文書を公開してはならない。」と規定し、該当する情報の公開を明確に禁止しているのに対し、「・・・行政文書を公開しないことができる。」とより緩やかな文言で規定しており、条例第8条第1項は、該当する情報について、実施機関の公開義務を解除するだけであり、進んで非公開義務を課すものではないと解されるところである。

また、本件事案のような硫酸ピッチの違法保管事案は、住民の生活環境に大きな影響を及ぼすおそれのある社会問題であって、このような本件事案に関する情報を公開することに公益性があることは言うまでもないところである。

しかしながら、本件事案のような硫酸ピッチの違法保管事案について、事案の全貌を解明し、適切な指導や行政処分を行っていくことにも高い公益性がある。本件係争部分を公開すると、今後、本件事案の全貌解明のために必要な情報を得ることが困難となるおそれがあるとともに、同種の他の事案に係る調査においても、関係者から必要な情報を得ることが困難となるおそれがあると認められることは、上述したとおりであるから、この点についての異議申立人の主張は、採用することができない。

以上のことから、本件係争部分に記録されている情報について、条例第8条第1項第4号に該当し、公開しないこととした実施機関の決定は妥当であると認められる。

5 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審議会の結論」のとおり答申するものである。

主に調査審議に関与した委員

岡村周一、鈴木秀美、岩本洋子、大和正史

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