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【寄稿】春菊と時間栄養学
春に花を咲かせることからこの名がついたといわれる春菊。関西では「菊菜」とも呼ばれていますが、原産地は地中海沿岸地方。中国経由で日本にやってきたと言われています。ヨーロッパでは菊の香りを食用として好まないので、観賞用として栽培され、食用としているのは日本や中国、韓国などの東アジア地域だけです。
この菊菜には沢山の栄養素が含まれていて、特有の香りは「αピネン」と「ペリルアルデヒド」など10種類の成分からなっています。特にこの2つの香りは体をリラックスさせてくれる副交感神経に作用し、胃腸の働きを整え、食欲の増進などの働きがある他、痰を切って咳を鎮めるなどの作用があります。ビタミンCも豊富に含まれていて、昔から「食べる風邪薬」ともいわれているほど。
カルシウムや鉄も多く含んでいて、最近の研究では骨粗しょう症や貧血の予防に効果的と言われています。β-カロテンも豊富で、皮膚や粘膜を保護し、抗酸化物質として免疫力をUpする、がんの予防、生活習慣病予防などに効果を発揮します。
β-カロテンは体内でビタミンAに変換されるのですが、菊菜のビタミンAは緑黄色野菜でもトップクラスの含有量。2分の1束(約100g)で1日に必要な量を摂ることが出来る程優秀です。抗生物質を飲みすぎて腸内細菌のバランスが乱れてしまった方が欠乏しやすいビタミンKに関しては、同量の春菊をゆでた場合だとしても成人が1日に必要な摂取量の約3日分が取れるなど栄養価が豊富に含まれていますので、2分の1束程度量を意識して食べるとよいでしょう。
このように、栄養素豊富な春菊ですが、せっかく摂るのであれば効率的に体の栄養にしたいですよね。食べ物はいつ食べるかによって体の中への吸収・利用度合いが変わってきます。この考え方を「時間栄養学」といいます。そのもとになるのが「体内時計」なのです。
体内時計は皆さん誰しもが持っている体の機能です。朝起きる、夜眠くなる、おなかがすくなどは全て体内時計によって調整されています。最近の研究で、この体内時計の働きに合わせて食事を摂ることでより吸収のよい時間帯に食べ物を食べようという「時間栄養学的食事の摂り方」が話題になっているのです。体内時計を整えるための食事術も注目されて、食べ物を適切な時間に摂ることで夜型の生活を抜け出すこともできます。体内時計が正常に働くと、がんや糖尿病などの生活習慣病が予防できることも分かっています。
さて、春菊に豊富に含まれるビタミンAやビタミンKはいつ摂るのが良いのでしょうか?これらのビタミンは夜寝ている時に酷使した体の機能を修復するときに必要な栄養素。ということは、夜ご飯に食べるとよいということが言えます。油に溶けやすい性質を持つので、油と一緒に摂ると吸収がUpします。体をリラックスさせる香り成分も含まれるので、良質の睡眠もプラスされて体内時計が整いやすくなるでしょう。
最後に菊菜の食べ方についてお話ししたいと思います。菊菜はクセのある香りからアクが強いと思われがちですが、アクはほとんどないので下茹での必要はないと言われています。特に苦みは、茎に無く、葉を加熱した際に出てくるものなのです。苦みが苦手な方はサラダにしてオイルを含んだドレッシングを食べるか、加熱する際はさっと湯通しする調理法が良いでしょう。さらに関西の菊菜は関東の春菊に比べてえぐみが少なく、食べやすいと言われています。ビタミンなどの栄養素も加熱により損なわれることが多いので、色々な観点から考えても生菊菜がオススメです!
時間栄養学を基にした菊菜の食べ方をマスターして、皆さんがより良い健康を手に入れられることを心から願っております。
(古谷彰子/博士(理学)管理栄養士早稲田大学時間栄養学研究所招聘研究員愛国学園短期大学非常勤講師アスリートフードマイスター専任講師Chronomanage代表)