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更新日:2024年5月28日

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連載コラム「大阪のだし」 第15回 (平成25年4月4日掲載)

「大阪のあられ・関西の煎餅」 お話いただいた方:豊洲 牧子 さん

近畿圏に住む40代以上の人なら、「あられはやっぱり、とよす」のキャッチフレーズを知らない(歌えない)人はいないだろう。

大阪府池田市で、あられの製造販売を行っている「とよす株式会社」は、今年で創業111年目を迎える。明治35年に大阪市内で創業。あられ・おかきの製造を行っていたが、太平洋戦争が始まると、鉄製機材の供出をしたため、操業を中止。戦争が終わり、原料となる米が安定して手に入るようになった昭和25年、池田の地であられづくりを再開したのが、とよす二代目の豊洲六郎さんである。

「祖父の六郎は、おかきよりあられのほうが新しい時代に合うだろうと考えて、あられ屋として再出発したんだそうです。そして、これからのあられは、きっと口当たりのソフトなものが好まれるだろうと考えて、サクサクしたあられを開発したんです。」

そう話してくれたのは、とよす株式会社広報部長の豊洲牧子さんだ。六郎さんの孫にあたる。

戦前のあられ、おかきは硬く歯ごたえのあるものが上物だとされていたそうで、六郎さんが開発したソフトなあられを売り出した当初は、「こんなもの、あられではない。」とお客さんからお叱りを受けたこともあったという。

「また、六郎は、ひとつの袋でいろんな味が楽しめるようにと、数種類のあられをミックスしたものを考え出しました。昭和40年頃、ひなあられにチョコレートがけのあられを入れることを思いついたのも六郎で、神戸の洋菓子屋さんまで、チョコレートがけの方法を習いに行ったそうです。」

新しい感覚のとよすのあられは、次第に人気となり、牧子さんの父が流した、「あられはやっぱり、とよす」というCMによって、抜群の知名度を誇るようになった。

ところで、米菓には、おかきとあられ、そして煎餅という呼び名があるが、どのように使い分けているのだろうか。

「昔から関西では、米菓のことを、おかきやあられと呼んできました。どちらも基本的には同じもので、原料はもち米です。お餅を『かいて』、つまり削って作るから『おかき』。おかきのうち、比較的小さいものを『あられ』と呼んでいます。」

「あられという呼び名は、あられの原料となる小さく切ったお餅を釜で炒るときの音や、餅が白くはぜて飛び上がる様子が、「あられたばしる」の霰のようだからだと、母から聞きました。」

炎の赤。暗い釜のなかではじける餅の白。バラバラという乾いた音。お餅の焼ける甘い匂い。牧子さんの話を聞いているだけで、美しい情景が浮かびあがる。

「『煎餅』というのは、もともと中国から入った言葉です。中国では、粉を水で練って薄く焼いた、クレープのようなものを指すそうですが、日本の煎餅は、米や小麦粉、でんぷんなど、いろんなものを原料に使って、硬く焼いたものを指します。」

関西で煎餅といえば、小麦粉に砂糖や卵を入れて焼いた「甘味煎餅」を思い浮かべる人が多いはずだが、愛知なら、でんぷんと海老を原料とした「海老煎餅」、東北では、小麦粉と塩を原料にした「南部煎餅」といったふうに、地方によって「煎餅」と聞いたときに思い浮かべるものが違うという。

「そして、関東では、『煎餅』といえば、米菓のことを指すのが普通です。『草加煎餅』が代表的です。同じ米菓でも、関西のものと違って、草加煎餅の原料はうるち米。関東の美味しい醤油を味わうため、表面にたっぷり濃口醤油を塗ってあるものが多いのが特徴です。」

「でも、関西のおかきやあられは、表面の味付けを楽しむより、もち米の風味を楽しむものなんですよ。なので、薄味で味付けするんです。」

特に、あられは小粒なので濃い味にすると辛くなりすぎる。さらに、あられは、可愛らしい桜や梅、もみじなどの型抜きをしたり、エビや海苔などを生地に混ぜ込んで作ったりもする。そんなあられの形や色、味を楽しむためには、上に塗る醤油は淡い色でないといけないという。

「だから、とよすでは、多くの製品に白醤油を使っています。でも白醤油だけでは旨みが薄いので、昆布やかつお節の『だし』を足して、味に広がりや厚みをもたせているんです。」

なんとなんと。おかきやあられは、呼び名ばかりか、味付けも「薄口文化」、「だし文化」という関西文化圏生まれだったのだ。庶民的に見えて、実は由緒正しい上方のお菓子だったのか、と見直してしまう。

「でも、最近は、だしの旨みより、油の旨みを好む人が多くなり、醤油と油、つまり醤油ドレッシングのようなものをかけたサラダ味が人気ですね。」

それはちょっと残念。だし醤油ドレッシングをかければ、更に美味しくなるような気がするが、どうなんだろうか。

大阪人のあられに対する好みについて、牧子さんに教えていただいた話も面白い。

「大阪の人は、食いしん坊だからか、ミックスあられが大好きなんですよ。一袋で、あれもこれも楽しめますからね。」

「それと、もうひとつ。とよすでは、二十年以上も前から、『お八つ』という商品を作っているんです。これは、小さな個袋に、8種類のあられが入っているものなんですが、組み合わせるあられの種類を、今まで何度か変えてきました。それでわかったことは、大阪のお客さんは、おぼろ昆布と海苔のあられがないと納得されない、ということ。この二つは、絶対に外せませんねぇ。」

ご進物用のあられには、おぼろ昆布が必須とは、いかにも大阪らしい。

あられは、出来上がるまで7日、梅雨どきなら10日以上もかかるそうである。もち米を一晩水に漬けることから始まり、蒸す、練る、杵でつく、型にはめて冷蔵冷却する。その後、切断、乾燥を経て、焼いて、味付けして、乾燥して、最後にのりや昆布を巻く。なんとも、大変手間のかかるお菓子である。

「地味なんですが、乾燥が一番大事な作業なんですよ。」

なのだそうである。そして、とよすでは、伝統の技を守りながらも、常に新しいことにチャレンジを続けている。

「平成23年に日本初の柿の種専門店として、大阪の百貨店にオープンしたのが、『かきたねキッチン』です。それまでとよすでは、柿の種を作っていなかったのですが、とよすのあられづくりの技を活かし、新発想で作り上げた柿の種なんです。いろんな味付けをして、それぞれに凝った名前を付けました。大きさも、一個ずつ指で摘まみやすいように大きめの形にして、販売方法も、計量販売という昔ながらのやり方にこだわったんですよ。『これ、どんな味?』とか、『ちょっと多めに入れときました!』『いつもと一緒やん!うまいこと言うなぁ。』なんて、お客様に販売員との会話を楽しんでいただきたいと思ってるんです。」

おお、「会話」だ。カウンター割烹、たこ焼に続いて、あられも、であったか。どうやら、大阪の美味しさには、「だし」と「楽しい会話」が必須であるらしい。

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豊洲 牧子 さんのプロフィール

豊洲牧子さんの写真

豊洲 牧子(とよす まきこ)

大阪生まれ。平成2年とよすへ入社。営業部、商品開発部を経て、平成23年度より広報部部長。創業者豊洲卯三郎さんの曾孫にあたる。

先達が積み上げてきたあられへの想い、あられの歴史を製品とともに伝える一方、お客様に、美味しいあられを楽しみながら味わっていただけるよう、常に職人や販売員たちと議論を重ねている。

とよす株式会社のロゴ
とよす株式会社(外部サイトへリンク)

ハイサラダ
昭和30年代に発売し、大人気となった商品の復刻版。

おこのみあられ
大阪の人は、幾つものあられをミックスした「お好みあられ」が大好き。

おやつの中身
二十年以上前から販売している「お八つ」に入っているあられ。あられの種類は入れ替える場合もあるが、海苔とおぼろ昆布のあられだけは、絶対に外せないという。

かきたねキッチンのディスペンサー
「かきたねキッチン」では、いろんな味の柿の種の中から、自分で選んだものを容器に詰めてもらえる。

かきたねキッチン
かきたねキッチン(外部サイトへリンク)

文=日下部貴美子 写真=「とよす株式会社」提供

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