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更新日:2024年5月28日

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連載コラム「大阪のだし」 第12回 (平成25年2月14日)

「イタリア料理と“昆布水”」 お話いただいた方:山根 大助 さん

素材の旨みを引き出す昆布水

―山根さんが作られるイタリア料理は、国内外から非常に高く評価されておられますが、そのお料理に、“昆布水(こぶすい)”を使っておられるとお聞きしました。
野菜、肉、魚、甲殻類など多くの料理に、昆布水を使っていますね。ただし、今までの、このコラムで書かれているような“だし”とは全く違う考え方で、昆布水を使っています。“だし”は、だしの味を、魚や野菜やコナモンに加えるものですよね。だしの味を付けている。でも、僕は、昆布水を、味を付けるためではなく、素材の味をより際立たせるために使っているんです。
―そもそも、昆布水とはどのようなものなんですか?
1Lの水に25gほどの昆布を入れ、冷蔵庫で12時間ほど置いて、昆布のアミノ酸やミネラルなどを引き出したものです。加熱すると、昆布の風味が強くなるし、粘りが出るので、冷水を使うんです。例えば、野菜を、この昆布水で蒸し煮にすると、昆布水のアミノ酸と野菜のアミノ酸が合わさって、野菜の味がくっきり引き立つんですよ。味の輪郭がはっきりする。色も際立ちますね。
―昆布の味が隠し味になっている?
隠し味というより、昆布の味はなくていいんです。素材そのものの味が、昆布によって引き立つ。しかも味が濁らない。肉でもそうですが、特に野菜でそれを感じますね。
僕は、素材が持つ旨みを、できるだけピュアに引き出したいんです。
旨みというのは足し算をしていけば美味しくなっていくんです。例えば、家でなべをやったときに、最後に残ったスープってすごく美味しくなってますよね。でも、味は濁ってる。洋食のコンソメやブイヨンも、確かに美味しいけれど、味としては濁っている。だから、野菜に、コンソメやブイヨンを使うと、野菜本来の旨みに、いろんなものがのっかってくることになるので、野菜の味がぼやけるんです。僕は、もっとピュアさや、キレを出したいんですよね。20年ほど前に、昆布水を少量使うと、素材の味がくっきりすることがわかったんです。それからずっと、ほとんどの料理に使ってます。
―以前、ポンテベッキオでいただいたアスパラガスのお料理が本当に美味しかったのですが、それは、よい材料を使っておられるからだと思っていました。
もちろん、よい野菜を選ぶことも大切ですが、野菜の味や香りを逃がさないことが大事です。僕は、基本的に野菜は茹でません。あくが強いものとか、瞬間的に火を入れる必要がある場合は茹でますが、それ以外は、昆布水を使って蒸し煮にします。味が混ざらないように別々に蒸し煮にするので、温野菜のサラダを作るときとか、大変ですよ。
―そうなんですか。もし、よろしければ、そのアスパラガスを蒸し煮にするやり方を具体的に教えていただけませんか?
アスパラガスは、基本的に皮は剥きません。皮の部分に、香りやアスパラギン酸という旨みがたくさんあるんですよ。フライパンでも鍋でもいいので、オリーブオイル、塩、そしてほんの少量、水気を補う程度に昆布水を加えて、蓋をして弱火で加熱します。途中、水分が無くなったら焦げないように、また少量の昆布水を加え、常に鍋のなかに蒸気が充満している状態にします。アスパラガスが柔らかくなったら、ふたを取って水分を飛ばします。これだけで、味も色もくっきりして、こんなに美味しいのか、と思うような、アスパラガスになりますよ。根元の硬い部分も刻んで一緒に入れれば、そこからも旨みが出るので、より美味しくなります。
―家でもできそうですね。
簡単にできると思いますよ。ぜひ試してください。僕は、野菜だけでなく、魚、肉、甲殻類などの旨みを引き立てるために、昆布水を使います。肉のブイヨンを取るときなんかには、昆布を他の材料と一緒に煮込んだりもします。そうすると、昆布の粘り成分が他の材料から出るアクを吸着して、スープが澄むんです。鶏のスープなんかも澄んで、昆布から出るアミノ酸の相乗効果で、旨みも増します。

車のデザインを通して生まれたイタリアへの憧れ

―昆布というと、日本料理のイメージが強いですが、そんな使い方があったんですね。ところで、山根さんは、なぜイタリア料理の道を目指したのですか?
僕は、車が好きなんですが、特に車のデザインが好きで、子どものときに、雑誌でイタリアの車を見て、そのデザインの素晴らしさに圧倒されたんです。その時から、イタリアという国に興味を持ちました。それと、やはり小さい頃から料理が好きで、山菜を摘んできて料理したり、麺を打ったりと、いろいろやっていました。食べ物に関する興味が強くて、当時、自分が知らない食べ物、例えば、腸詰のウインナーだとかフォアグラなんて言葉が本に出てくると、どんなものなのか、知りたくて知りたくてたまりませんでしたね。
ですから、早い時期から、車のデザイナーか料理人になろうと決めていたのです。でも、車のデザイナーになる方法がわからなかったし、おやじのアドバイスもあって、料理人の道を選びました。だから、料理人としてのデビューは早いですよ。18歳のときだから。今51歳ですから、既に33年のキャリアになります。

大阪らしいイタリアンを目指して

―山根さんは、お料理を作られるだけでなく、「大阪の食」を盛り上げていくために、いろいろなところで活動されておられますね。
食で大阪を活性化していこうというのに大賛成なんです。大阪商工会議所が中心となってやっている「食の都・大阪グランプリ」事業の審査員なんかもやらせていただいています。「食の都・大阪グランプリ」は、和洋中ジャンルを問わず“大阪らしい料理”を競うコンテストなんですが、“大阪らしい料理”というのに、はっきりした答えがあるわけじゃないんです。この事業を通じて、答えが見えてくるだろうという考え方でやっています。
僕も、イタリアンで大阪らしさを表現していきたいんです。イタリアに対する敬意と感謝、愛があるので、イタリア料理の看板は下ろさない。だけど、ポンテベッキオのイタリアンは、大阪らしいね!と言われたいと思ってます。
ですから、食材も、大阪を中心に関西のものをたくさん使っています。今の季節なら、ふぐ、鹿、いのししなどを使いますし、春になれば、竹の子、菜の花なども使います。昆布も、やはり、大阪ですから、真昆布にこだわっています。
大阪の料理は、飾り気がなくて、純粋に美味しさを求めているところがありますよね。美味しかったらなりふり構わない、みたいな、美味しさに対する集中力があると思いますね。
―お店も大阪でしか展開されておられませんものね。
お話はいろいろあるんですけど、ポンテベッキオは、大阪のイタリアンを目指しています。
大阪は、その時代時代で、先端を目指してきたまちだと思うんです。古いものを大事にするというよりは、新しいものを積極的に取り込もうとする。
だから、僕の店も、モダンを目指しました。それが大阪的だと思って。食器も自分でデザインして、基本は全てモダンデザイン。モダンデザインというのは、機能美に徹しているんですよね。飾り気がないが、機能のなかに美しさがある。
椅子なんかも、店舗ごとに、食事するため、デザートを食べるためと、目的にあわせて全部作ってます。照明も、料理やワイン、そして、例えば女性の顔までも美しく見えるよう、いろいろ考えました。
本町に一番最初の「ポンテベッキオ」を出したのが、28年前。その後、天満橋を経て、今の北浜が本店としては3店舗目になります。自分で一応納得できる店にするためには、やっぱり20年くらいはかかりますね。経験がないと配慮できませんから。
そして、ひとつの店では全てをやることができないから、コンセプトを変えた店を出してるんです。
―山根さんのお話をお聞きして、「モダンなお店でいただく、素材のピュアな味を引き出したイタリアン」がとても大阪的に思えてきました。
今日は、本当にありがとうございました。

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山根 大助 さんのプロフィール

山根大助さん

山根 大助(やまね・だいすけ)
1961年大阪府 生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、神戸やイタリア各地のレストランにて、イタリア料理の修行を積む。1986年に帰国し、大阪本町に「リストランテ ポンテベッキオ」をOPEN。その後次々と店舗を増やし、現在は、大阪市内に5店舗を展開するほか、オリジナルイタリアン惣菜、オリジナルスイーツを販売する通販サイトを運営。

その料理は、国内外で高く評価されており、2004年には、イタリア文化の日本への普及に貢献があったとして、イタリア政府より「CAVALIERE カヴァリエーレ」章を叙勲。(ORDINE DELLA STELLA DELLA SOLIDARIETA' ITARIANA イタリア連帯の星褒章)。

辻調グループ校 コンピトゥム 会長、「食の都・大阪」推進会議主催の「食の都・大阪グランプリ」審査委員、関西食文化研究会コアメンバーなどに就任。

著書に、「PONTE VECCHIO」、「素材を生かす山根流イタリア料理100」
NHK「きょうの料理」などテレビ出演も多数。

ポンテベッキオ公式ホームページ
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山根大助オフィシャルブログ
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Dolce PONTEVECCHI0
(ドルチェ ポンテベッキオ)
大阪市北区梅田3-1-3 JR大阪三越伊勢丹 10F 06-6485-7676

うにのスープ
海水漬けウニのジュレ寄せを浮かべたアミノ酸スープ

グリーンアスパラガスのニョッキ
「たっぷりグリーンアスパラガスのニョッキ トリュフ風味」

竹の子と河内鴨のタリオリーニ
「筍と河内鴨の軽い煮込みのタリオリーニ木の芽とオレンジの香り」

ポンテベッキオ本店
大人のくつろぎの時間を演出するポンテベッキオ本店のモダニズム

モード ディ ポンテベッキオ
結婚式にも対応できる大空間のモード ディ ポンテベッキオ

文=日下部貴美子 写真=「ポンテベッキオ」提供

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