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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第99号)

第一 審査会の結論

実施機関の決定は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成16年3月15日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「医療法人A、他4医療法人の貸借対照表、損益計算書、財産目録以上平成14年以前3ヵ年分」の公開請求(以下「本件請求」という。)が行われた。
  2. 同年3月29日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書に第三者である異議申立人に関する情報が記録されていることから、条例第17条第1項の規定に基づき意見書提出の機会を付与するため、異議申立人に対して第三者意見書提出機会通知書を送付した。
  3. 同年4月7日、異議申立人から下記の内容で意見書が提出された。
    • (1)行政文書の公開についての反対の意思の有無 有
    • (2)行政文書の公開についての意見(概要)
      • ア 医療法人の決算書には、法人の事業に関する情報が記載されており、かつ非公開とされているもので法人運営上の秘密が記載されていることから、公開されると競争上の地位及び業務の正常な執行を害されるため、条例第8条に該当する。
      • イ(略)
      • ウ このような文書は医療行政に必要な範囲で使用することを前提としており、公開を前提としていないものであるべきだと考える。従って、公開する場合には慎重な配慮が必要であるものであり、公開により犯罪行為等が予測されるような場合には事前にそれを予防するためにも非公開とされるべきである。
  4. 同年4月13日、実施機関は、条例第13条第1項の規定により、本件請求のうち異議申立人に係る部分に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)の部分(以下「本件非公開部分」といい、これを除いた部分を以下「本件公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、本件請求をした者(以下「請求者」という。)に通知するとともに、条例第17条第3項の規定により、公開決定をした理由を(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
    • (1)行政文書の名称
      医療法人Aの財産目録、貸借対照表及び損益計算書(平成12年度、平成13年度、平成14年度)
    • (2)公開しないことと決定した部分
      法人の取引先名
    • (3)公開決定をした理由
      条例第8条第1項各号又は第9条各号に該当しないため。
  5. 同年4月23日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
    なお、本件決定については、同日、異議申立人が、実施機関に対して執行停止の申立てを行い、同月27日に実施機関が、本件決定の執行を停止することを決定して、その旨を異議申立人及び請求者に通知している。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、本件公開部分を非公開とすることを求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

1 情報公開の目的と医療法による提出義務文書の公開について

情報公開の目的は、条例の前文及び第1条に規定されているように、民主主義の実現という崇高な目的を達成するためのものである。

一方、民主主義の根底には、個人(法人にも人格権が認められるものであるから当然個人と同様に扱われるべきものである。)のプライバシーを最大限に保護することも不可欠である。

したがって、情報公開に当たっても、条例の前文に記載されているように、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」されるべきことは当然のことであって、法人についても同様に保護されるべきものである。

一般に情報公開は、民主主義に基づくものであるから、公開される文書は、本来府民が府政に参加するために必要な文書に限られるべきものであり、私人(私法人を含む。)が行政指導等によりやむなく行政機関に提出した文書を情報公開制度の目的との関係で公開の対象とするか否かを十分吟味すべきものである。そのことがなくしては、情報公開制度がその目的に反するばかりでなく府政に支障を来たすなど弊害が生じる恐れが大である。

医療法による提出義務のある文書は、はじめから公開が予定されているわけではない。仮に法律による提出義務により提出した文書が情報公開の対象とされる行政文書であるとしても、公開制度の目的から見て公開を必要とされる程度には差異があり得るものであるので、公開するか否かの判断を下す際には公開の必要性について十分に考慮されるべきものである。

行政文書は、府政が公正になされているか否かを知ることが出来る程度の高いもの程公開されるべきものであるが、その程度の低いと考えられるものについては出来る限り公開を回避されるべきものである。

その意味で、行政機関から補助金の交付を受けるために提出される文書は、その行政機関が補助金交付行為という行政行為を公正に行っているか否かを知るために必要な文書であるから公開の必要性も高くなるものであり、人格権ないしプライバシーの保護の面が相対的に低くなることも十分考えられるものである。

これに対して、特に行政機関に対して特定の行政行為を求めるものではなく法に基づき定期的に提出される文書は、行政の運営状況を知り得る程度が必ずしも高いとは言えないものであるから、公開の必要性も低くなり人格権ないしプライバシー保護という面が相対的に高くなるものである。

このように、行政文書を公開するか否かについての判断においては、その判断の根底に、その文書が行政の運営状況を知りうる程度が高いか否かという視点を取り入れておくことが重要である。

そのことは、情報公開制度が行政の運営が公正に行われているか否かを知らせることにあることから当然の帰結である。

2 医療法人が公益性の高い医療行為を行っていること、非営利法人であること及び医療法人の公益性と情報公開との関係について

医療法人が公益性の高い医療行為を行っていること及び非営利法人であるからと言って、その医療法人に関する情報がすべて公開の必要性が高いわけではなく、公開の必要性が高いか否かについてはその情報によって行政の運営状況を知り得る程度が高いか否かによって判断されるべきものである。

実施機関も引用している厚生労働省の最終報告によっても、医療法人の決算書情報の開示については、医療法人の中でも行政とのかかわりの強い「公益性の高い特定医療法人、特別医療法人、国都道府県から運営費補助金を受けている医療法人」と異議申立人のような一般の医療法人とではその公開の必要性が大いに異なるものである。

更に、同報告書によると、医療法人の決算書情報の開示に関して「その余(上記運営費補助金を受けている医療法人等以外の医療法人と解される。)については、行政として自主的開示が促進されるための環境整備を行う。」とされているものであって、異議申立人のような一般の医療法人の決算書情報については、行政は、自主的開示が促進されるための環境整備を行うべきであるとされているものである。

そのことは、実施機関においても、一般医療法人の決算書情報をその意思を無視して一般人に公開すべきではなく自主的開示が促進されるための環境整備を行わなければならないと指摘しているものである。

実施機関がこのような環境整備を行わずして一般医療法人の意思を無視してその決算書情報を公開することは許されないものである。

実施機関は、医療法人の決算書等の情報公開の根拠として医療法を援用しているところ、同法第52条では債権者に対する閲覧を認めているが、それ以外の一般人の閲覧を認めていないものである。そのことも、前記厚生労働省の最終報告と考え合わせて、一般の医療法人の決算書情報を一般に公開しない根拠としうるものである。

医療法人のような非営利法人は、営利法人である株式会社と異なり、出資者及び配当がなく、行政の運営状況を知らせる必要性が高い場合以外にその情報を公開されるべきではない。

3 記載事項からの経営分析の困難性に対して

実施機関は「全国すべての医療法人の経営実態を調査・分析した統計資料のようなものは存在しない」ことを前提としている。

しかし、「全国のすべての医療法人の経営実態を調査・分析した統計資料」としては、全国のすべての医療機関を対象に医療経済実態の調査が2年に1度中央社会保健医療協議会によって実施されていることは周知の事実であり、その調査によって収集されたデータを分析した結果は医療経済実態調査「医療機関等調査」の概況(平成13年6月実施)として厚生労働省のホームページに公開されているものである。

その調査結果の中には、今回公開請求を受けている財産目録、貸借対照表及び損益計算書をもって経営につき比較分析できる項目が非常に多く含まれており、実施機関が公開しようとしているデータから異議申立人の経営分析は十分可能であり、このような経営分析によって、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害されるものである。

なお、実施機関が引用している東京高等裁判所及び最高裁判所の事例は、学校法人が施設整備費補助金の交付申請に際して行政機関へ提出した文書の公開(但し、財産目録の公開は除かれている)に関するものであるから、行政の運営状況を知らせるために公開される必要が非常に高い場合であるから、その学校法人の人格権ないしプライバシー保護が相対的に低くなるのものである。

その意味では、両判決の結論及び理由がそのまま本件の場合に適用されるべきものではない。

社団法人徳島新聞社が徳島県教育委員会に提出した事業年度報告書・決算書等に関する事例については、決算書等については「これらの情報を公開するときは、参加人(上記新聞社を指す)の経営規模、財務体質その他事業運営に関する事項の詳細が明らかにする結果となって、参加人に不利益を与えることが明らかである」としてそれらの情報を非公開とされているものである(徳島地方裁判所平成4年11月27日判決平成2年(行ウ)第10号 判例地方自治111号11頁)

また、上記学校法人の事例においても、「財産目録」の公開は行われていないものであり、本件の場合のように公開の必要性の低い場合には財産目録が公開されるべきではないことは当然のことである。

実施機関の主張は、患者による医療機関選択の心理を余りにも無視した真実でない「選択」を前提とする立論であって、誤りであることは明らかである。

一般に患者が医療機関を選択する際には、一般の患者がその医療機関の真実の医療水準のレベルを知ること及び伝手を頼ることはほとんど困難であること(特に医師と特別な関係にある人とか、医療機関に関して特に知識を得ることができるが立場にいる人とかを除き)、その上多くの患者が医療機関を訪れるのは風邪、胃腸病など一般的な病気であることが多いのであるから、特に医療水準レベルを気にするよりも、その医療機関のうわさ(経営姿勢、人など)がよいとか、その医療機関へ行きやすいとか、施設が見た目にきれいであるとかによって選択しているのが実態である。特に医師と特別な関係のある人でも一般の風邪などの病気で「医療水準のレベル」で医療機関を選択する人はほとんどいないものである。

仮に重大な病気であっても一般の患者は、「医療水準のレベル」によってではなく平素行きなれた医療機関に行くことになるものである

それらの一般の患者の来院が医療機関の経営に大きく影響するものである。

したがって、医療機関が競争を有利にするためには、患者間でのうわさ(経営姿勢、人など)・患者との信頼関係が重要なものである。

4 本件公開請求は、権利の濫用であるから、認められるべきではない。

財産目録及び損益決算書、貸借対照表の各種データは、異議申立人の最も機密性の高い情報である上に、この数字だけから異議申立人の実態は掴めない面もあるから、異議申立人の実態が誤解される恐れもあり、これが悪意を持った第三者により悪用され、患者や従業員に多大な悪影響を及ぼすものである。その結果患者数の減少、従業員の離職等の不利益を被る可能性が高い。

情報公開制度の目的は民主主義(国民主権)という崇高な目的の実現にあるものであり、そのために情報の関係者の人格権ないしプライバシーの侵害を容認するものであるから、情報公開請求権者は、その目的に沿った制度の利用を行うべきものである。

その情報公開を請求する者がその目的に反する利用を行うために情報公開請求権を行使しているかまたはその恐れが認められる場合には、一般法規の原則に則り、権利の濫用の理論を適用すべきものである。

情報公開請求権の行使が権利の濫用に該当するのは、その者が請求する目的が行政の運営状況を知るためではなく、もっぱら他の目的例えばその情報を悪用する等を目的としているかその恐れが認められる場合であり、その文書によって行政の運営状況を知りうる程度が低い場合にはその請求には別の目的が含まれることが推測されるものである。

情報公開請求権が権利の濫用と認められる以上、直ちにその請求は拒否されるべきものであって、権利の濫用によって情報の関係者に具体的な損害が発生することまで認定される必要はない。

そのことも、一般の権利の濫用の場合と同様である。

(中略)

なお、実施機関は、損害が生じた場合には事後的な損害賠償請求をすれば良いという無責任な主張をしている。そもそも法律は第1次的にその法律が認める人格権等の権利を直接保護することを目的としているものであって事後的救済は止むを得ない第2次的なものと考えられているものである。

また、実施機関は、医療法第52条があるから本件請求に対して非公開としても異議申立人が危惧している事態を回避できるわけではないとか悪意の者は債権者を通じて情報を得ることを理由として本件請求に対して非公開にしても意味がないから公開に応じるような主張をしている。

この主張も本末転倒の主張であって、本件請求を認めるか否かについての判断を回避しようとする理不尽な主張である。

5 結論

以上、本件決定の取り消しを求める。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は概ね次のとおりである。

1 医療法人の財産目録、貸借対照表及び損益計算書について

これらの書類は、医療法第51条第1項において、医療法人が毎会計年度終了後2ヵ月以内に都道府県知事に届け出ることが義務づけられている決算に関する書類であり、かつ、これらは同条第2項並びに医療法施行規則第33条及び第36条で提出することが規定されている書類である。医療法人の会計処理については、病院を開設する医療法人にあっては、その財政状態と経営成績の適切な把握を行うことを目的として、「病院会計準則」(昭和58年8月22日医発第824号厚生省医務局長通知)が定められ、これに基づき処理されている。

財産目録には、基本財産目録及び普通財産目録として、当該医療法人が保有する全ての資産(土地、建物、医療機械器具、現金及び預金等)の金額が記載されている。

貸借対照表には、当該医療法人の資産勘定として流動資産、固定資産、繰延資産及び資産合計の金額、負債勘定として流動負債、固定負債及び負債合計の金額、資本合計の金額並びに負債・資本合計の金額が記載されている。

損益計算書には、その損益として、医業収益、医業外収益、特別利益、医業費用、医業外費用、特別損失、医業利益、経常利益及び税引前純利益の金額等が記載されている。

なお、これらの文書に関し、異議申立人は、本来私人(法人)の文書であり、行政指導等によりやむなく行政機関に提出したものであって、異議申立人としても当該文書が情報公開の対象となるとは提出時において予想しておらず、公開の対象とすべきでない旨主張する。

しかしながら、条例第2条第1項は、公開対象となる「行政文書」とは、「実施機関の職員が職務上‥取得した文書‥であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものをいう」と規定しているところ、本件行政文書は、上述のとおり、医療法上提出が義務付けられている文書であり、本府の職員が同法に基づき職務上取得した文書であって、組織的に用いるものとして管理しているのであるから、行政文書として公開対象となることは明らかであり、異議申立人の主張には理由がない。

2 医療法人について

医療法人は、医療法の規定によって、設立される社団又は財団であり、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設の開設を目的とするものである(医療法第39条)。

医療法人は、実施している医療行為の公益性に鑑み、その経営基盤の安定を図る必要性から、業務を行うに必要な資産を有すること、並びにその自己資本比率を一定以上に保つことが義務づけられている(医療法第41条及び医療法施行規則30条の34)。

また、事業によって生じた剰余金の配当が禁止されている(医療法第54条)など、医療法上、非営利的法人としての性格が規定されている。

3 本件係争部分が条例第8条第1項各号及び第9条各号に該当しないことについて

(1)条例における公開原則について

条例においては、その前文及び第1条にあるように、「府の保有する情報は公開を原則」、「個人のプライバシー情報の最大限の保護」、「府が自ら進んで情報の公開を推進」を制度運営の基本的姿勢としている。

よって、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものである。

本件異議申立てにおいては、異議申立人が本件係争部分を公開しないことを求めているため、当該情報が条例第8条及び第9条各号に該当しないことについて、以下において説明する。

(2)条例第8条第1項第1号に該当しないことについて

ア 医療法人の公益性

医療法人は、医業の非営利性を損なうことなく法人格を取得することにより、資金の集積を容易にし、医療機関の経営に永続性を付与し、私人の医療機関経営の困難を緩和する制度として、昭和25年の医療法改正により導入された制度である。その根幹をなすのは、非営利性の徹底であり、株式会社のような営利法人と異なり、医療の非営利性を担保するため、剰余金の配当を禁止し(医療法第54条)、法人が行うことのできる付帯事業も特別医療法人を除いては、本来の医業に支障のない範囲で、医療関係者の養成・再教育業務や、医学に関する研究所の設置、第2種社会福祉事業等の公益的な事業に限定されており、収益事業が禁止されているなど、その公益性は高い。

このような医療法人の公益性にかんがみ、医療法は医療法人の経営状況の開示義務を定め、医療法人は財産目録、貸借対照表及び損益計算書を常に各事務所に備え付け、医療法人の債権者の閲覧に供することを規定している(医療法第52条)。

なお、医療法第52条は、これらの書類の閲覧を求めることができる者を当該医療法人の債権者としているが、この規定は、地方公共団体が情報公開制度により債権者以外の者に対してこれらの書類を公開することを禁止する趣旨ではないと解され、むしろ、近年の情報公開の広がりの中で、厚生労働省は「これからの医業経営のあり方に関する検討会」最終報告(平成15年3月26日)のなかで、医療法人の決算書情報の開示について、「公益性の高い特定医療法人や特別医療法人、国、都道府県から運営費補助金を受けている医療法人に対しては、積極的開示を要請すべきである」とし、「その余については、行政として自主的開示が促進されるための環境整備を行う」としている。

イ 記載事項からの経営分析の困難性

医療法人の財産目録、貸借対照表及び損益計算書に記載されている項目は、1に述べたとおり、項目ごとの総額を記載しているに過ぎず、その細目を示すより詳細な財務資料は添付されていない。

また、全国のすべての医療法人の経営実態を調査・分析した統計資料のようなものは存在しない。

以上からすれば、財産目録、貸借対照表及び損益計算書に記載されている項目ごとの金額から、当該医療法人の経営規模はどの程度か、収入と支出とのバランスがとれているかなど、当該医療法人のおおよその経営内容の分析や把握は可能であったとしても、より正確かつ詳細な経営分析を行うためには、一般的・平均的な医療法人の経理データとの比較や、より詳細な細目的資料の提出や法人の経理担当者からのヒアリングを受けない限り困難であり、当該医療法人の経営上の秘密やノウハウに属するような情報は得られないと考えられる。

以上のような医療法人の有する公益的性質及び財産目録、貸借対照表及び損益計算書の記載事項の概括性からして、実施機関としては、これらの情報を具体的な取引先名等を除いて公開しても、当該医療法人の競争上の地位その他正当な利益を害するまでの支障は生じないと判断して、部分公開する取り扱いを行ってきたものであり、本件行政文書についても、同様の判断を行ったものである。

なお、判例(帝京大学事件)においても、最高裁判所平成13年11月27日は、「本件情報から得られる分析内容からは、上告人の競争上の地位を害するような上告人独自の経営上のノウハウ等を看取することは困難であり、本件情報の内容は、客観的にみて、上告人の学校運営等を阻害したり、その信用又は社会的評価を害するものということはできない。また、本件情報は経理に関する情報であることから、直ちに上告人が本件情報を管理することに正当な利益を有するということはできず、そのような利益を認めるに足りる特段の事情が存するともいえない。」と判示し、学校法人側の上告を棄却している。

この最高裁判決は、学校法人が県に提出した貸借対照表等の公開を正当と是認したものとして重要な意義を有し、医療法人が本府に提出した貸借対照表等の公開についても、同様に妥当するものと考えられる。

なお、上記の最高裁判決の事例は、学校法人会計基準(昭和46年4月1日文部省令第187号)の規定に基づく学校法人会計基準による「大科目」の公開が争点となった事案であり、当該基準による「小科目」の公開の是非については判断されておらず、これをもって「大科目」は公開だが「小科目」については非公開と理解するのは早計である。

むしろ、最高裁判決は、法人の経理情報というだけでは非公開にはできず、公開された情報から得られる分析内容から当該法人の競争上の地位を害するような独自の経営上のノウハウ等を看取することが困難であり、客観的に見て当該法人の運営や信用、社会的評価を害すると認められない限りは公開すべきであることを判示しているのである。

医療法人の場合には、その目的が医療機関の開設に限定されており、付帯事業が厳しく制限されていることから、「医業外収入」の占める比率は極めて低く、「医療収入」についても「診療収入」が中心となることはどの医療法人についてもほぼ同様であり、その収支比率等による経営分析も、医療の受け手である一般人にとっては、受診する医療機関の選択に際してあまり有意義な情報ではない。

なぜなら、患者やその家族が医療機関を選択するに際して、最も重要視する要因は、その医療機関が提供する医療や看護の質、すなわち「医療水準のレベル」がメインである。これは、学校と異なり、医療機関において患者が負担する診療報酬は、診療報酬基準表により全国一律にどの医療機関で受診しても、同一の診療行為であれば同一の金額であることから、患者にとっては、医療機関を経営する医療法人の経営状況にはあまり関心がなく、むしろ、「医療水準のレベル」がどうかが主たる関心事であるからである。そして、「医療水準のレベル」は、医療機関を開設する医療法人の経営状況に直接左右されるものではなく、むしろ、従事する医師の知識、経験、医療技術の高低、看護師その他の医療スタッフの水準の高低等マンパワーによるところが大きいというべきである。

以上述べたところにより、本件係争部分の記載事項については、公開しても異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。

(3)その他の適用除外事項に該当しないことについて

本件係争部分に記載されている情報が条例第8条及び第9条に規定する他の適用除外事項に該当するかについて、実施機関において再検討したが、本件係争部分には、個人のプライバシーに関する情報や法令の規定により公にすることができない情報等も含まれておらず、本件係争部分が条例第8条第1項各号及び第9条各号に規定する適用除外事項に該当しないことは明らかである。

4 異議申立人の主張について

異議申立人は、本件行政文書を公開できない特段の事情を主張するが、本件係争部分に記載された情報の公開が、異議申立人の客観的な競争上の地位その他正当な利益を害するものでないことは前述のとおりであるから、仮に本件情報を基に第三者から批判、批評を受けるおそれがあるとしても、それは異議申立人の医療機関運営を阻害する関係になるものとは必ずしもいえない。

(中略)

そもそも、本件条例は、府の説明責務を全うするため、府の保有する情報の原則公開及び「知る権利」の保障に資することを目的として情報公開制度を創設し、何人も目的の如何を問わずに行政文書の公開を請求できることとしたのであるから、公開請求に係る行政文書が悪用される抽象的な可能性があることだけで、公開を拒否することはできない。また、一度公開決定された行政文書は、その後公開請求を経ずに何人にも情報提供される運用とされているのであるから、他の医療法人の貸借対照表等でも、一度公開決定された後に、当該法人が訴訟等の紛争にかかわる事態になることは可能性としてはあり得るが、そのことをもって非公開とされることがあり得ないことを考慮すれば、本件のような情報は将来にわたって公開に支障がないことが他の医療法人についても判断されているともいえる。

さらに、条例第4条は、利用者の責務として、行政文書の公開を受けたものは、それによって得た情報を第1条の目的に則して適正に用いなければならないことを規定しているのであって、利用者の利用目的違反については別途、当該情報を有する者と公開により得た情報を悪用した者との間に損害賠償等民事上の関係が生じることはあっても、それは公開請求された行政文書を条例の非公開事由に照らして公開するか非公開とするかの判断とは別個の問題であって、抽象的に悪用のおそれがあることをもって、非公開とすべき特段の事情があるとはいえない。

本件行政文書と同一の文書は、医療法第52条の規定によりその債権者であれば閲覧できるのであるから、本件条例に基づく公開請求を非公開としても異議申立人が危惧している事態が回避できるわけではなく、悪意の者は債権者を通じて同一の情報を入手し、これを悪用することも可能なわけであるから、異議申立人が現在仮処分決定を得ているという状況が本件行政文書を非公開とすべき特段の事情となるものではない。

また、異議申立人は、法人にも人格権が認められ、当然個人と同様にプライバシーが保護されるべきであるから、個人情報の最大限の保護を規定した条例第5条の規定からも、法人のプライバシー情報として非公開とされるべきであると主張する。

しかしながら、公開してはならない個人情報を規定した本件条例第9条第1号が「身体的特徴、健康状態、家族構成」など自然人しか有しない項目を挙げていること、一方、個人に関する情報であっても、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、本件条例第8条第1項第1号の法人等情報として保護していることをみれば、本件条例は、法人に関する情報については、すべて事業活動に関する情報として第8条第1項第1号の規定により保護しようとしていることは明らかであり、法人に関する情報を個人のプライバシー情報として非公開を求めている異議申立人の主張は、失当である。

5 結論

以上のとおり、本件決定は条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。

2 本件行政文書について

(1)医療法人制度について

ア 医療法人の性格について

医療法人は、医療法の規定に基づき、都道府県知事又は厚生労働大臣の認可を受けて設立される社団又は財団であり、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設の開設を目的とするものである。

医療法人制度の趣旨は、医療事業の経営主体が医療の非営利性を損なうことなく法人格を取得する途を開くことにより、(ア)資金の集積を容易にするとともに、(イ)医療機関の経営に永続性を付与し、もって私人による医療機関の経営困難を緩和することにあったとされている。

このため、医療法人については、営利性は否定されており、医療法第54条の規定により、剰余金の配当は禁止されている。附帯業務についても、医療法第42条第1項の規定により、医療に関連する特定の業務以外は行うことができないこととされているが、同条第2項に規定する要件を充たす「特別医療法人」については、定款又は寄附行為の定めるところにより、その開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の経営に充てることを目的として、一定の収益業務を行うことができることとされている。

なお、医療法人は、法人税法上、株式会社等の営利法人と同一の税率による法人税を課せられるが、医療法人のうち、租税特別措置法第67条の2の規定に基づく国税庁長官の承認を得た「特定医療法人」については、軽減税率が適用されている。

イ 医療法人の財務諸表について

医療法人は、毎会計年度の終了後2月以内に、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作り、常に各事務所に備えて置いて(医療法第52条第1項)、執務時間内いつでも債権者の閲覧の求めに応じる(医療法第52条第2項)とともに、これらの書類を都道府県知事に提出することにより、決算の届出をしなければならない(医療法第51条、医療法施行規則第33条、同第36条)こととされている。

なお、異議申立人のような病院を開設する医療法人の会計処理については、「病院会計準則」(昭和58年8月22日付け厚生省医務局長通知)に従って処理することとされている(病院会計準則第2条第2項)。

(2)本件行政文書について

本件行政文書は、異議申立人が大阪府知事あてに提出した平成12年度、平成13年度、平成14年度の財産目録、貸借対照表、損益計算書であり、その記載内容等はそれぞれ次のとおりである。

ア 財産目録

財産目録には、基本財産目録及び普通財産目録として、当該医療法人が保有する全ての資産(土地、建物、医療機械器具、現金及び預金等)の金額が記載されている。

イ 貸借対照表

貸借対照表には、当該医療法人の資産勘定として流動資産、固定資産、繰延資産及び資産合計の金額、負債勘定として流動負債、固定負債及び負債合計の金額、資本合計の金額並びに負債・資本合計の金額が記載されている。

ウ 損益計算書

損益計算書には、その損益として、医業収益、医業外収益、特別利益、医業費用、医業外費用、特別損失、医業利益、経常利益及び税引前純利益の金額等が記載されている。

本件行政文書のうち本件決定において公開しないこととされたのは、法人の取引先名のみであり、その他の部分については、公開することとされたが、異議申立人の申立てを受けて実施機関が執行を停止しており、現時点において、公開は実施されていない。

3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由

異議申立人は、本件係争部分に記録されている情報が条例第8条第1項第1号に該当すると主張するので、検討したところ、以下のとおりである。

(1)条例第8条第1項第1号について

事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが本号本文の趣旨である。

同号は、

  • ア 法人(国及び地方公共団体その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、
  • イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(人の生命、身体若しくは健康に対し危害を及ぼすおそれのある事業活動又は人の生活若しくは財産に対し重大な影響を及ぼす違法な若しくは著しく不当な事業活動に関する情報(以下「例外公開情報」という。)を除く。)

が記録された行政文書は、公開しないことができる旨定めている。

本号の「競争上の地位を害すると認められるもの」とは、生産技術上又は営業上のノウハウや取引上、金融上、経営上の秘密等公開されることにより、公正な競争の原理に反する結果となると認められるものをいい、「その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、公開されることにより、事業を営む者に対する名誉侵害や不当な社会的評価の低下となる情報及び団体の自治に対する不当な干渉となる情報等必ずしも競争の概念でとらえられないものをいうと解されるが、これらの具体的な判断に当たっては、当該情報の内容のみでなく、当該事業を営む者の性格や事業活動における当該情報の位置づけ等も考慮して、総合的に判断すべきものである。

(2)本件係争部分の条例第8条第1項第1号該当性について

本件行政文書は、医療法人である異議申立人の財務諸表であるから、その一部である本件係争部分に記録された情報が(1)アの要件に該当することは明らかである。

次に、本件係争部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するどうか検討する。

まず、本件係争部分に記録されている情報については、財務諸表という文書の性質上、異議申立人の全般的な財務状況を把握することが可能な情報であることが認められる。本件係争部分に記録されている数値からは、様々な財務指標を算出することが可能であり、異議申立人の経営規模、資産構成、収支バランス等全般的な財務状況が把握できるほか、厚生労働省が実施する「医療経済実態調査」の公表資料(平成14年7月31日中央社会保険医療協議会公表)の数値などと照らし合わせることにより、異議申立人の財務状況や経営の特徴について一定の相対的な分析を行うことも可能と考えられる。

しかしながら、本件決定においては、「法人の取引先名」が非公開とされており、本件係争部分に記録されている情報は、財産の種別ごとの総額と貸借対照表及び損益計算書の勘定科目ごとの総額に限られている。異議申立人の医療行為や取引行為に関する具体的な情報は記録されておらず、審査会において、本件行政文書を見分したところによっても、本件係争部分を公開することにより、異議申立人の営業上、技術上のノウハウや取引上、経営上の秘密が具体的に明らかとなるような情報は含まれていないことが認められた。

さらに、異議申立人は、医療という人の生命、身体の安全に関わる公益性が高い事業を行う非営利法人(医療法人)であり、その収入の基本的な部分が、国民皆保険制度の下における健康保険という公共性の高い資金によって賄われているものであることからすると、その全般的な財務状況に関する情報は、府民の正当な関心の対象となるべきものである。また、本件行政文書は、医療法第52条第2項の規定に基づき、異議申立人自らが、債権者の閲覧に供しなければならないものでもある。

以上のことを総合して判断するに、本件係争部分に記録されている情報は、異議申立人の全般的な財務状況がわかる情報ではあるものの、その営業上、技術上のノウハウや取引上、経営上の秘密が具体的にわかる情報とは言えない。このような情報については、異議申立人の医療法人という性格を考慮すれば、これを公開することにより公正な競争の原理に反する結果となるとまで言?べきものではなく、異議申立人に対する名誉侵害や社会的評価の低下をきたす情報又は団体の自治に対する不当な干渉となる情報であるとも言えないものである。

したがって、本件係争部分に記録されている情報については、これを公開しても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するものではなく、条例第8条第1項第1号には該当しないと認められる。

なお、この点に関して、異議申立人は、「厚生労働省の最終報告によっても、医療法人の決算書情報の開示については、医療法人の中でも行政とのかかわりの強い『公益性の高い特定医療法人、特別医療法人、国、都道府県から運営費補助金を受けている医療法人』と異議申立人のような一般の医療法人とでは、その公開の必要性が大いに異なるものである。」として、一般の医療法人の決算書情報である本件係争部分は公開すべきでない旨主張している。

しかしながら、異議申立人が指摘する厚生労働省の最終報告は、主務官庁として、医療法人自らが決算書情報を開示するよう指導すべき対象について検討したものであり、実施機関が提出を受けた財務諸表を情報公開条例に基づいて公開することの可否が問題となっている本件とは観点が異なる。当審査会としても、特定医療法人、特別医療法人、国、都道府県から運営費補助金を受けている医療法人の公益性・公共性の程度が高いことを認めるものであるが、上述した医療という事業の公益性や収入の基本的な部分を健康保険によっているという事情は、異議申立人のような一般の医療法人にも共通のものであるから、この点についての主張は当を得ないものである。

また、異議申立人は、「医療法第52条では債権者に対する閲覧を認めているが、それ以外の一般人の閲覧を認めていないものである。」として、本件係争部分の一般への公開はすべきでないと主張している。

しかしながら、この規定は、債権者の利益の保護のため、医療法人自らが行わなければならない財務諸表の開示について規定したものであり、実施機関において提出を受けた財務諸表を条例に基づいて公開することを禁ずるものではないから、この点についての主張もまた当を得ないものである。

さらに、異議申立人は、社団法人の財務諸表等の公開の可否が争われた徳島地方裁判所平成4年11月27日判決を引用しているが、その後、平成8年9月20日に閣議決定された「公益法人の設立認可及び指導監督基準」により、公益法人のア 定款または寄付行為、イ 役員名簿、ウ 社団法人の場合の社員名簿、エ 事業報告書、オ 収支計算書、カ 正味財産増減計画書、キ 貸借対照表、ク 財産目録、ケ 事業計画書、コ 収支予算書については、これを主たる事務所に備え置き、一般の閲覧に供するとともに、所管官庁においても、同一の資料を備え置き、閲覧の請求があった場合には、これを閲覧させることとされている。現在、公益法人の財務諸表については、当該法人が補助金を受けているか否かにかかわらず、広く公開されているものである。

したがって、当該判決は、現在は先例としての価値を失っているものであり、参考にすることはできない。

(3)その他の異議申立人の主張について

ア 情報公開制度の目的と医療法による提出義務文書の公開について

異議申立人は、「一般に情報公開は、民主主義に基づくものであるから、公開される文書は、本来府民が府政に参加するために必要な文書に限られるべきものであり、私人(私法人を含む。)が行政指導等によりやむなく行政機関に提出した文書を情報公開制度の目的との関係で公開の対象とするか否かを十分吟味すべきものである。」、「医療法による提出義務のある文書は、はじめから公開が予定されているわけではない。仮に法律による提出義務により提出した文書が情報公開の対象とされる行政文書であるとしても、公開制度の目的から見て公開を必要とされる程度には差異があり得るものであるので、公開するか否かの判断を下す際には公開の必要性について十分に考慮されるべきものである。」、「行政機関から補助金の交付を受けるために提出される文書は、その行政機関が補助金交付行為という行政行為を公正に行っているか否かを知るために必要な文書であるから公開の必要性も高くなるものであり、人格権ないしプライバシーの保護の面が相対的に低くなることも十分考えられるものである。」のに対して、「特に行政機関に対して特定の行政行為を求めるものではなく法に基づき定期的に提出される文書は、行政の運営状況を知り得る程度が必ずしも高いとは言えないものであるから、公開の必要性も低くなり人格権ないしプライバシー保護という面が相対的に高くなるものである。」などとして、補助金を受けていない医療法人である異議申立人が医療法による提出義務文書として提出した本件行政文書は、公開の対象とすべきでない旨主張している。

しかしながら、本府の情報公開制度の目的については、条例の前文で「府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきもの」とされ、第1条で「府民の府政への参加をより一層推進し、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図る」として明らかにされているとおり、必ずしも府民の府政への参加の推進にとどまるものではなく、府が保有する情報を公開することによって、府民の生活の保護及び利便の増進を図ることも含まれる。また、本件行政文書は、医療法人の適正な運営の確保のため、医療法の規定により、実施機関への提出が義務づけられているものであり、そのような医療法人に対する監督行政が適切に行われているかどうかを府民が監視するために必要な文書ということもできるのである。

条例は、こうした意味での情報公開制度の目的を達成するため、実施機関において、職員が組織的に用いるものとして、管理している文書については、第2条第1項の規定により、実施機関の職員が職務上作成したものだけでなく、本件行政文書のように職務上取得したものも含めて全てを公開請求の対象とするとともに、本件における異議申立人のような第三者の利益保護との調和を図るため、第8条第1項第1号(法人等の正当な利益の保護)及び第9条第1号(個人のプライバシーの保護)の適用除外事項を置き、第17条に公開決定等に際しての意見聴取の機会の付与について規定するなどの配慮をしているのである。

以上のことからすると、本件行政文書の公開の可否については、これらの条例の規定を適正に解釈し適用すれば足りるのであり、本件行政文書が、補助金を受けていない医療法人からの医療法による定期的な提出義務文書であるからといって、これを公開の対象とすべきでないとは言えないから、この点についての異議申立人の主張は、当を得ないものである。

なお、異議申立人は、「『個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護』されるべきことは当然のことであって、法人についても同様に保護されるべきものである」旨主張しているが、条例は、法人の利益については、第8条第1項第1号によって保護しているのであり、第5条及び第9条第1号によって保護を図っている個人のプライバシーと同様に保護すべきであるとする主張は、明らかに当を得ないものである。

イ 異議申立人の特殊事情と権利の濫用について

異議申立人は、その置かれている状況の特殊性を種々摘示し、本件係争部分に記録されている情報が公開されると悪用のおそれがあり、本件請求は権利の濫用に当たる旨主張しているが、本件係争部分に記録されている情報は、異議申立人の全般的な財務状況に関する客観的な情報であり、これが公開されること自体により、異議申立人の名誉や社会的評価が不当に損なわれる性質のものではない。したがって、異議申立人が主張する懸念は、情報の公開そのものに起因するものではなく、本件係争部分を非公開とすることによって、排除し得るものではない。

また、審査会において、異議申立人が主張する特殊事情と実施機関から聴取した本件請求に係る経過を突き合わせたところによっても、本件請求については、権利の濫用に当たるような事情は何ら見出せなかった。

したがって、この点についての主張もまた、当を得ないものである。

4 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

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