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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第94号)
第一 審査会の結論
実施機関の判断は、妥当である。
第二 本件異議申立てに至る経過
- 平成16年3月3日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「大阪府社会福祉審議会専問部会議事状況(2002年度中に開催された会議の日時、開催場所、出席者一覧)」についての公開請求(以下「本件請求」という。)をした。
- 平成16年3月17日、実施機関は、本件請求に対して、不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、「公開請求に係る行政文書については、作成していないため、管理していない。」との理由を付して、異議申立人に通知した。
- 平成16年4月9日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定を取り消し、本件請求に係る行政文書について開示を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 本件請求に対応する行政文書が不存在とされたことについての主張
「身体障害者福祉法第15条第1項の申請があった場合、同法施行令において、その障害が法別表に該当しないと認めるには、地方社会福祉審議会に諮問しなければならない」としている。したがって、請求した文書が「作成していないため管理していない」など有り得ない事態である。裁判所に裁判記録がないかのごとき本件決定はとうてい受け入れ難い。
「~、作成していないため、管理していない。」だから公開できないとは、その限りにおいては当たりまえのことである。しかし、身体障害者福祉法施行令第2条に「都道府県知事は、法第15条第1項の申請があった場合において、その障害が法別表に掲げるものに該当しないと認めるには、地方社会福祉審議会(以下「審議会」という。)に諮問しなければならない」とあるように、身体障害者手帳の交付申請を却下する場合、「諮問」は、法令に定められた、必ず行わなければならない行為である。ところが、異議申立人が別途行った「身体障害者福祉法第15条に基づく申請を、障害が法別表に該当しないと認め、『審議会』に諮問した状況」についての行政文書公開請求にも、「~、作成していないから管理していない」と通知してきた。法令に定められた行為についての経過を作成していないから管理していないとは信じられないことである。これでは、裁判所に判決文を求め、そんなものはありませんと言われたのと同じである。結局府は、法令に違反して「諮問」してこなかったのである。
実施機関は、この間の事情を「身体障害者福祉専門分科会に審査部会を設けるものとする(社会福祉法施行令第3条第1項)及び「『審議会』が身体障害者の障害程度に関して諮問を受けたときは、審査部会の決議をもって地方社会福祉審議会の決議とすることができる。」(同第3項)を根拠に、審査部会で調査審議しているため、法令に適っていると主張している。しかしこの条項で「地方(大阪)審議会が~諮問を受けたときは審査部会の決議を持って地方「審議会」の決議とすることができる」とあるように、あくまで審議会が「諮問」を受けることが必要であり、かつ審査部会が「決議」することが必要である。審議会に「諮問」していないことは府も認めているところである。
審査部会の決議については、実施機関は、例えば心臓疾患の場合、「内部障害審査部会(委員16名)、を設置し、医学的・専門的判断が必要な場合については、審査部会委員による審査を行い、法別表に掲げるものに該当しないものについては、この審査をもって法施行令第5条に規定する諮問を行っているものと位置づけているところである。」と弁明している。さらに、審査方法について、「内部障害審査委員16名の内4名が心臓機能障害専門分野で、この場合、委員を2名ずつに分けて審査を行い、2名の審査結果が一致したときはその結果をもって審査部会答申とし、一致しない場合は残り2名が続いて審査を行い、最終的に多数となった審査結果を審査部会答申としている。」と弁明している。16名の委員のうち2~4名で審査し、それがなぜ「決議」したことになったり、審査部会答申になるのか。「審査部会提出調書」なるものを公開されたが、これはどう強弁しても審査部会答申なるものとは到底いえない。持ち回りで審査を行ったというが、いつ、何処で行ったかも記録にない審査で、どうして「決議」できるのか。判決文を求めているのに、警察か検事の取り調べ調書が示されたようなものである。それも日付けも、取り調べ場所もない。
実施機関は「会議を開催しない方法によって審査部会答申を求めている理由について」、(1)審査を求める件数が膨大であること、(2)審査に要する日数を可能な限り短縮し迅速な手帳交付に結び付けたいこと、(3)会議開催のための委員の日程調整が困難であること、をあげている。何よりも法令を遵守しなければならない府が、審査件数が膨大だとして、法令を軽視したり、無視してはならないのは自明であろう。府は身体障害者福祉法なり、同法施行令の解釈を誤っているのではないか。身体障害認定のための診断書を作成し、申請する障害程度(等級)を判定するのは各都道府県の「審議会」の認定を受けた指定医である。基本的には、この判定を信頼し、手帳交付を行えばいいのであるが、それでも指定医の判断にばらつきがあったり、ときには誤りがないともいえない。そこで法別表や府の身体障害認定基準に照らし、その認否を決定するのであるが、決定するのはあくまで府である。判断が難しいケースについては、審査部会の委員に特別に審査を求めたり意見を聴取することは、一向に構わない、いや、専門医の意見を聴くことは重要なことである。しかし法が求めているのはそのことではない。申請を「却下」する場合には「審議会」(審査部会)の決議による答申が必要だということである。
(2)は、府の担当者が何度も強調していたことであるが、「善意」で不法な方法で却下を急がれては、申請者はたまったものではない。
(3)については、審査部会の委員は、いずれも、学識と実績において、わが国の医学界を代表する方々であることに加えて、臨床も行っているため会議の日程調整は至難な状況にあるということだが、全くそのとおりだと思われる。しかし、委員就任が強制的に行われたわけではない。ご本人が納得されており、わずかばかりとはいえ、府民の税金も支払われているはずである。数年間「会議」開催されたことがないなど異常である。どうしてもだめだと言うのならば、知事の人選の責任が問われる。
一切持ち回りはだめだと言っているのではない。審査部会(内部障害審査部会の場合ならば16名)の委員がたとえ持ち回りでも会議を開き、規則どおり多数決で「決議」するべきであり、当然その記録は作成しなければならない。
今回の異議申立てについて実施機関と折衝する過程で更に驚くべき事態が判明した。それは実施機関が「身体障害認定基準」をもっていないということである。「何を基準に認否の判断しているのか」との問に対し「国のガイドライン」とのことである。しかし、これは誤りである。身体障害者手帳の交付は言うまでもなく、身体障害者福祉法、同法施行令及びこれに基づく条例、規則、基準等によらなくてはならない。国のガイドライン(技術的助言)は条例や規則、基準を制定するための参考指針に過ぎない。大阪府の身体障害認定基準すら制定しないで(他の都道府県は制定している)、交付申請の認否の判断をしてきたのは、府の行政怠慢でありかつ違法である。なお、この件については平成15年4月から11月までは、手続が遅れたことは、府も認めている。しかし実は平成12年の手帳交付事務が従来の機関委任事務から都道府県の自治事務に法改正が行われて以来、3年以上も放置されてきたのである。
そもそも府は、地方自治の本旨について、理解しているのか。機関委任事務と自治事務の根本的違いを知っているのか。今回の事態は、従来ながらの国の下請け的行政執行に甘んじる「府の自主性のなさ」が招いたことではないか。
2 異議申立てで求めること
本件の経過を通じ、府が法施行令第5条に違反し、障害手帳申請者に長期にわたり損害を与えてきたことは明らかである。このことは、地方自治法第2条第16項(地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。~)及び17項(前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする)に該当する重大な不法行為である。府はかかる事態をもたらした行政怠慢と、法令無視の態度を早急に改めるとともに、多大の迷惑と損害をかけた障害手帳申請者(却下者)に、謝罪と権利回復を行うこと、また存在しないとする行政文書については、可能な限り調査し、作成につとめ、公開することを求める。
第五 実施機関の主張要旨
1 身体障害者手帳交付事務について
(1)身体障害者手帳の概要について
身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)によると、身体障害者とは「身体障害者手帳の交付を受けたもの」と規定されている(第4条)。全国で身体障害者手帳交付台帳に登載されている者は、約437万人(厚生労働省福祉行政報告例)を数える。
身体障害者手帳の交付事務は、都道府県、指定都市、中核市の自治事務となっており、これらの自治体において、身体に障害のある者から身体障害者手帳の交付申請があった際には、別表に掲げる障害に該当すると認めた場合は、身体障害者福祉法施行規則(昭和25年厚生省令第15号)の別表第5号(身体障害者障害程度等級表)に基づいて等級を決定し、申請者を身体障害者として認定するとともに、身体障害者手帳の交付を行う仕組みとなっている。
なお、この基準の具体的な運用に関しては、身体障害者手帳が全国的な統一基準によって運用されることを目的に地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言(ガイドライン)として、国から各都道府県等に対して、平成15年1月10日付けで「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害者認定基準)について」、「身体障害認定基準の取扱い(身体障害者認定要領)について」、「身体障害認定基準等の取扱いに関する疑義について」等の関係諸通知が発出され、平成15年4月1日から運用されている。
(2)身体障害者福祉専門分科会審査部会について
身体障害者手帳交付にかかる手続きについては、身体障害者福祉法施行令(昭和25年政令第78号)に定められているが、同施行令第5条において、都道府県知事は、申請者の障害が「法別表に掲げるものに該当しないと認めるには、地方社会福祉審議会に諮問しなければならない」とされている。
地方社会福祉審議会は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)において、「社会福祉に関する事項を調査審議するため」都道府県等に置くものとされている合議制の機関であって(社会福祉法第7条)、同審議会には、特に、「身体障害者の福祉に関する事項を調査審議するため、身体障害者福祉専門分科会を置く」(社会福祉法第11条)とされている。
さらに、身体障害者の障害程度の審査に関する調査審議については、「身体障害者福祉専門分科会に審査部会を設けるものとする」(社会福祉法施行令(昭和33年政令第185号)第3条第1項)とされており、「地方社会福祉審議会が身体障害者の障害程度に関して諮問を受けたときは、審査部会の決議をもって地方社会福祉審議会の決議とすることができる」(社会福祉法施行令第3条第3項)とされている。
大阪府では、大阪府社会福祉審議会条例(平成12年条例第9号)に基づき大阪府社会福祉審議会の設置を、大阪府社会福祉審議会規則(平成12年規則第136号)に基づき身体障害者福祉専門分科会の設置を規定している。また、大阪府社会福祉審議会内規(平成12年4月1日委員長決定)により、身体障害者福祉専門分科会に、障害認定並びに法15条に規定する医師の指定等に関する事項等を審査するため、審査部会(肢体不自由審査部会、聴覚障害審査部会、視覚障害審査部会、内部障害審査部会)等を設置している。
2 本件請求に対応する行政文書が存在しないことについて
大阪府では、身体障害者手帳交付申請書を受理したときは、例えば、「両眼の視力の和が0.05以上、0.08以下のもの」「両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの(耳介に接しなければ大声語を理解し得ないもの)」「両上肢のおや指及びひとさし指を欠くもの」など、身体障害認定基準に照らして、医学的かつ専門的判断を要せず、または裁量の余地もなく判断可能なものについては、交付決定の手続き後、即座に手帳の作成事務を行っているところである。
一方、医学的・専門的判断が必要と思われる場合、具体的には、
- (1)障害が永続する状態であるか否かについて医学的・専門的判断が必要な場合
- (2)身体障害認定基準による等級と身体障害者診断書・意見書の意見等級とが一致しないため医学的・専門的判断が必要な場合
- (3)3歳未満の児童のため、医学的・専門的判断が必要な場合
- (4)精神障害等との合併症状があり、医学的・専門的判断が必要な場合
- (5)「身体障害者診断書・意見書」の意見等級が7級または該当しないと記載されている場合
については、審査部会委員による審査を行っており、審査部会委員による審査において法別表に掲げるものに該当しないものとされたものについては、この審査をもって法施行令第5条に規定する諮問を行っているものと位置づけているところである。
審査部会は、障害種別ごとに肢体不自由審査部会、聴覚障害審査部会、視覚障害審査部会、内部障害審査部会(本件に関わるもの以外を除く)が設置されており、委員数はそれぞれ6名、3名、2名、16名となっている。なお、内部障害審査部会委員16名の専門分野別内訳は、心臓機能障害4名、呼吸器機能障害2名、じん臓機能障害3名、ぼうこう又は直腸機能障害4名、小腸機能障害2名、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害1名となっている。
この内部障害審査部会を例に、委員による審査方法を説明する。まず、当該専門分野の委員が2名のみの場合は、委員2名が持ち回りにより順次審査を行い、両名の審査結果が一致したときに、これを審査部会答申とし、審査結果が不一致のときには、委員間で調整を行い、その結果をもって審査部会答申としている。次に、委員の数が3名の場合は内2名による審査を行い、両名の審査結果が一致したときは審査部会の答申とし、審査結果が一致しない場合、残りの1名の委員も審査を行って最終的に多数となった審査結果を審査部会答申としている。また、委員の数が4名の場合は、2名ずつに分けて審査を行っており、2名の審査結果が一致したときはその結果をもって審査部会答申とし、一致しない場合は残りの2名が続いて審査を行い、最終的に多数となった審査結果を審査部会答申としている。
以上説明のとおり、大阪府社会福祉審議会身体障害者専門分科会の各審査部会は、持ち回りにより審査を行っており、平成14年度中に開催された会議はなかったことから、本件請求に対応する行政文書は作成していない。
なお、審査部会委員の審査結果については、審査にあたった委員が署名、押印の上、大阪府知事あて「審査部会提出調書」として答申の提出がなされており、この文書を実施機関において保有しているところである。本件決定に先立って異議申立人にこの文書について説明して確認したところ、請求内容に合致しないとのことであったので、本件請求に対応する行政文書として特定を行わなかったものである。
3 会議を開催しない方法によって審査部会答申を求めている理由について
委員の審査を持ち回りにより求めているのは、一つには審査部会委員の審査を求める件数が膨大であること、二つには審査に要する日数を可能な限り短縮し迅速な手帳交付に結び付けたいこと、三つ目は会議開催のため委員の日程調整が至難であることによる。
まず、身体障害者手帳の交付申請件数は、平成13年度が18,526件、平成14年度が20,136件で、平成14年度の件数は、平成9年度の17,256件と比べ、途中に堺市の中核市への移行により手帳交付事務が委譲されたにもかかわらず1.2倍となっている。
また、このうち審査部会委員に審査を求めた件数については、平成13年度は、1,805件、平成14年度は2,580件で、平成14年度の件数は、平成9年度の1,055件の2.5倍となっている。
二つ目の審査に要する日数についてであるが、身体障害者手帳の交付事務における最大の課題は、常にその日数が長期にわたり、府民福祉を損なうことになっているということである。平成10年には、手帳の申請者から近畿管区行政監察局に、大阪府の交付事務の是正要望があり、実地調査が行われ、事務の適正化・迅速化の指導を受けたところである。
三つ目の会議開催のための日程調整についてであるが、審査部会の委員はいずれも、学識と実績において、わが国の医学界を代表する方々であることに加えて、臨床も行っているため会議の日程調整は至難な状況にある。
こうした厳しい制約条件のもと、最大限可能な方法は何かということで、やむなくかかる方法を取っているところである。なお、かかる方法は大阪府のみならず他県においても取られているところである。
審査部会は、最高度の専門的な学識経験を必要とする事項について、第三者の立場からの意見を求めるため、社会福祉審議会の中に位置付けられたもので、持ち回りによってはいるものの、実質のところは損なっていないと考えている。
4 結論
以上のとおり、公開請求に係る行政文書については作成していないため、管理していない。したがって、本件決定は妥当なものである。
第六 審査会の判断
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに、府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このような理念の下に実施されている行政文書公開制度の対象となる「行政文書」の範囲については、条例第2条第1項において、1.「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)並びに電磁的記録」であって、2.「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」をいうと規定されており、実施機関は、請求に係る情報が上記の各要件を満たす「行政文書」に記録されている場合には、当該情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除き、その行政文書を公開しなければならないのである。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)本件請求の趣旨について
行政文書の公開請求は、請求権の行使であり、請求内容を明確にして手続を進める必要がある。このため、行政文書の公開請求は、行政文書公開請求書を提出するなどの方法により行わなければならないこととされており(条例第7条)、実施機関は、当該請求書等の記載内容に即して公開請求の趣旨を判断すべきものである。
したがって、行政文書公開請求の趣旨は、第一義的には、当該請求書等の記載内容から判断すべきものであるが、当該公開請求に至る経過や受付に際しての面談における請求者の発言内容等により当該請求書等の記載内容を補充する明確な意思を表明したものと認められる場合には、このような事情をも考慮して、行政文書公開請求の趣旨を把握することができるものである。
これを本件請求についてみるに、本件請求に係る行政文書公開請求書(以下「本件請求書」という。)の「公開請求に係る行政文書」の欄には、「大阪府社会福祉審議会専問部会議事状況(2000年度中に開催された会議の日時、開催場所、出席者一覧)」と記載されているが、ここに記載されている「専問部会」とは、「大阪府社会福祉審議会」の「身体障害者専門分科会」に設置されている各専門分野ごとの「審査部会」を指していることについては、実施機関と異議申立人双方の間に争いがない。また、異議申立人は、本件請求に先立って、「身体障害者福祉法第15条に基づく申請を、障害が法別表に該当しないと認め、『審議会』諮問した状況」についての公開請求を行い、これに対して、実施機関は「審査部会提出調書」を当該公開請求に対応する行政文書として特定の上、条例第9条第1号に該当する情報を除いて公開するとの部分公開決定を行い、異議申立人に対して公開を実施しているが、にもかかわらず、本件請求がなされた経過からすると、「審査部会提出調書」は本件請求における「公開請求に係る行政文書」には含まれていなかったと認められる。このことは、本件異議申立ての理由において、異議申立人が「審査部会提出調書なるものを公開されたが、これはどう強弁しても審査部会答申なるものとは到底いえない。持ち回りで審査を行ったというが、いつ、何処で行ったかも記録にない審査で、どうして『決議』できるのか。判決文を求めているのに、警察か検事の取り調べ調書が示されたようなものである。それも日付けも、取り調べ場所もない。」と主張していることからも伺える。
以上のことから、本件請求は、「『大阪府社会福祉審議会』の『身体障害者専門分科会』に設置されている各専門分野ごとの『審査部会』の『議事状況(2000年度中に開催された会議の日時、開催場所、出席者一覧)』を記録した行政文書(既に公開の実施を受けた『審査部会提出調書』を除く。)」の公開を求める趣旨であったと解される。
(2)大阪府社会福祉審議会身体障害者専門分科会審査部会における審査の実情について
実施機関の説明及び審査会において調査した結果により、以下のとおり認められる。
大阪府社会福祉審議会は、社会福祉に関する事項(精神障害者福祉に関する事項を除く。)を調査審議するため、知事の下に設置された合議制の附属機関であり(社会福祉法第7条、大阪府社会福祉審議会条例(平成12年条例第9号)第1条及び第2条)、同審議会には、身体障害者の福祉に関する事項を調査審議するため、身体障害者福祉専門分科会が設置されている(社会福祉法第11条第1項)。同専門分科会には、身体障害者の障害程度の審査に関する調査審議及び身体障害者福祉法第15条第1項に規定する医師の指定等に関する事項の審査のため、審査部会(肢体不自由審査部会、聴覚障害審査部会、視覚障害審査部会、内部障害審査部会、更生医療審査部会)が設置されており、大阪府社会福祉審議会は、身体障害者の障害程度に関して諮問を受けたときは、各審査部会の決議をもって審議会の決議としているところである(社会福祉法施行令第3条第1項及び第3項、大阪府社会福祉審議会内規第3条第1項)。
一方、身体障害者手帳の交付事務は、都道府県、指定都市、中核市の自治事務であり、都道府県知事等は、身体に障害のある者からの交付申請に基づいて審査を行い、身体障害者福祉法別表に掲げる障害に該当すると認めた場合は、申請者に対して、障害の名称及び障害の級別(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)等を記載した身体障害者手帳を交付しなければならないこととされている(身体障害者福祉法第15条、身体障害者福祉法施行規則第5条)。これに対して、その障害が身体障害者福祉法別表に掲げるものに該当しないと認めるには、地方社会福祉審議会に諮問しなければならないこととされており(身体障害者福祉法施行令第5条)、大阪府の場合、その審査は、大阪府社会福祉審議会身体障害者福祉専門分科会に設置された各審査部会で行われている。大阪府においては、身体障害者手帳の交付申請に基づく審査に際し、医学的・専門的判断が必要と思われる場合、具体的には、
- ア 障害が永続する状態であるか否かについて医学的・専門的判断が必要な場合
- イ 身体障害認定基準による等級と身体障害者診断書・意見書の意見等級とが一致しないため医学的・専門的判断が必要な場合
- ウ 3歳未満の児童のため、医学的・専門的判断が必要な場合
- エ 精神障害等との合併症状があり、医学的・専門的判断が必要な場合
- オ 「身体障害者診断書・意見書」の意見等級が7級または該当しないと記載されている場合
について、審査部会委員による審査を行っている。審査部会委員による審査において法別表に掲げるものに該当しないものとされたものについては、この審査部会委員による審査をもって身体障害者福祉法施行令第5条に規定する諮問を行っているものと位置づけているのである。
また、この審査部会委員による審査については、審査部会委員の日程調整が困難である等の事情により、各審査部会の委員が一堂に会する方式ではなく、事務局職員による「持ち回り」の方式で実施されている(大阪府社会福祉審議会内規第5条第2項の規定により、審査部会の議決は、原則として、出席した委員等の過半数で決することとされているが、同条第5項の規定により、会長が必要と認めるとき又はやむを得ない事情があるときは、当該審査部会に属する委員等の意見を聴取できる場合に限り、第2項の規定にかかわらず、議決を行うことができることとされている。)。具体的には、各審査部会の委員数又は各審査部会内での専門分野別の委員数によって定まる数の委員のもとへ、事務局職員が順次、申請書類一式を持参し、その場又は一定期間書類を預けて審査をしてもらい、審査を行った委員の一致した意見又は多数となった意見をもって審査部会の意見とすることを基本としている。その結果は、審査を行った委員が連署し押印した表紙に事案ごとの各委員の判断を記載した調書を添付した「審査部会提出調書」として、実施機関に提出されており、同調書に基づいて、以後の身体障害者手帳の交付に関する事務が処理されているところである。
(3)本件決定の妥当性について
本件請求に対応する行政文書が存しないことについての実施機関の説明は、概ね、
- ア 大阪府社会福祉審議会身体障害者専門分科会の審査部会は、持ち回りにより審査を行っており、平成14年度中に委員が一堂に会する形で開催された会議はなかった。
- イ 審査部会委員の審査に際しては、申請書類一式を、事務局職員が委員のもとへ持参し、その場又は一定期間書類を預けて審査をしてもらっており、それ以外に、特別に諮問書等は作成していない。
- ウ 審査結果については、審査にあたった委員が署名、押印の上、実施機関あての「審査部会提出調書」として提出されており、これを実施機関が保有しているところであるが、本件決定に先立って異議申立人にこの文書について説明して確認したところ、請求内容に合致しないとのことであったので、本件請求に対応する行政文書として特定を行わなかった。
というものであった。これらの説明については、(1)で述べた本件請求の趣旨及び(2)で述べた審査部会の審査の実情からすると、特段、不自然、不合理な点は認められなかった。
以上のことから、本件決定は妥当であったと認められる。
なお、異議申立人は、身体障害者福祉法施行令第5条が「都道府県知事は、法第15条第1項の申請があった場合において、その障害が法別表に掲げるものに該当しないと認めるには、地方社会福祉審議会に諮問しなければならない。」と規定していることに着目し、「本件請求に対応する文書が『作成していないため管理していない』など有り得ない事態である。」、「審査部会提出調書なるものを公開されたが、これはどう強弁しても審査部会答申なるものとは到底いえない。持ち回りで審査を行ったというが、いつ、何処で行ったかも記録にない審査で、どうして『決議』できるのか。」などと、審査部会の審査状況を記録した文書の不備について種々主張しているが、審査会において調査したところによれば、審査部会の審査に関しては、「持ち回り」方式による審査の記録として「審査部会提出調書」が作成されているものであることが認められた。その体裁や記載事項は、通常の審議会等における諮問・答申の文書や議事録とは相当異なるものの、他に審査の状況を記録した行政文書を確認することはできなかったから、本件請求の趣旨からすれば、本件決定は妥当であると言わざるを得ない。
また、異議申立人は、「存在しないとする行政文書については、可能な限り調査し、作成につとめ、公開すること」を求めているが、行政文書公開制度は、実施機関が現に管理している行政文書を公開する制度であり、行政文書公開請求により、新たに、行政文書を作成することを求めることはできないものである。
さらに、異議申立人は、大阪府の身体障害者手帳交付事務に関し、審査が適正に行われていない旨種々主張しているが、行政文書公開請求に対する公開決定等についての異議申立ての審査において、当該公開請求に係る行政文書の作成又は取得の原因である事務の執行方法の適否を審査することはできないものである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。