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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第102号)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、「事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分」の部分を公開すべきである。

実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 本件異議申立てに至る経過

  1. 平成16年6月24日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「介護保険法第35条1項による介護事故報告書での事業者名別、事故種類別件数(平成12年度分より平成16年6月分まで)」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
  2. 平成16年7月8日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、「施設における介護事故報告(平成12年度、平成13年度、平成14年度、平成15年度)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、「事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分。事故の発生月日。事故の発生施設名。」を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して、異議申立人に通知した。
    (公開しない理由)
    大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
    本件行政文書(非公開部分)には個人の状況、既往疾患名、負傷の程度等に関する情報等が記載されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
  3. 平成16年7月15日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定を取り消し、本件行政文書中の介護事故の発生施設名及び事故内容の公開を求める。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

1 本件請求を求めるに至った経過

異議申立人は、介護事故の当事者家族として、種々陳情を行ってきたが、特に介護事故報告基準がないことが問題である。実施機関に両親の介護事故に関する苦情相談をしていたのにもかかわらず、介護保険法に従って事業者に介護事故報告書を速やかに提出させるよう調査及び指導しなくてはならないが、1年間報告がないことは実施機関としての対応に欠けていたと言わざるを得ない。

実施機関に事業者の実地指導についての質問を2003年6月にしている。実施機関と苦情相談のやりとりを行い、補足として平成13年度に何度か電話での相談もしている。そして8月14日に実施機関に出向いて事故報告書の提出及び実地指導をお願いした。その後の実施機関のコンプライアンスに欠けた指導ぶりや対応には問題があり、また速やかに事故報告書が提出できていない状況では、被害者としては裁判をするにしても証拠となるものがないに等しければ裁判にもならない。

このように時間の経過とともに利用者の権利擁護の観点からも速やかに記録の開示が重要となる。

2 情報公開の理由と主張及び反論

  • (1)評価基準の査定
  • (2)利用者が良い介護・悪い介護の事業所を選ぶ為の判断基準
  • (3)(品質保証)介護サービスの質の明示・大阪府の義務
  • (4)大阪府の責任
    • ア 事業所に認可を交付している責任
    • イ 府民の税金で施設建設費を補助している責任
    • ウ 保険料を適用している責任
    • エ 介護制度を運営している責任
  • (5)介護事業所名を公開することにより事故再発防止や事故未然防止システムの構築にも寄与する。
  • (6)介護事業所名を公開することにより生命及び身体の安全対策の向上が期待できる。
  • (7)医療事故や介護事故の公表及び情報公開は社会的要請でもある。

上記のように大阪府には責任や義務があるが、事業所名を公開しないことにより利用者が粗悪な事業所とは知らず選択して取り返しのつかない事故等が発生した場合は、大阪府はどのような責任を取るのか。

実施機関と介護事業所との癒着の構図ができており、事業所名の情報公開をすることが実施機関と介護事業所の立場や都合などで保身的な対応になり、実施機関は大阪府民の高齢被害者の立場を考えない無責任な実施機関と言わざるを得ない。

また、実施機関の主張に「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当である。」とあるが、これは逆に実施機関や介護事業所の立場や都合により、他人に知られたくないと望むことであり、また「府が公表する慣行もない。」としているが、これは府側の身勝手な判断であり、介護事故被害者はむしろ二度と介護事故のないようにと望み、情報公開することによって介護事故予防にもなり、異議申立人ら及び介護事故被害者や大阪府民は、介護事故発生事業所名と事故内容の公開を強く望んでいるものと思う。

情報を隠すことにより自己保身となり、責任の回避、府民の不信となり、対決、府及び事業所の自己防衛的リスク管理となり、介護事故は繰り返し起こる危険性がある。その証明として異議申立人らの事故があった事業所は、後々にも私の知る限り4~5回の事故が発生している。いかに実施機関の指導に問題があることの証明でもある。

3 法の判断

実施機関の不作為な仕事ぶりにより、異議申立人らが受けた被害は下記の法に抵触するものと思われる。

  • (1)民法709条 故意又は過失により他人の権利を侵害したる者は、これにより生じたる損害を賠償する責に任ず。
  • (2)民法719条 共同不法行為
  • (3)憲法17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。国家賠償法1条の1及び2条の1
  • (4)介護保険法35条の1項 事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な処置を講じなければならない。

実施機関の不作為な指導及び対応(速やかに事故報告がなされていない。)で損害が発生。

4 消費者基本法

保護の対象から権利の主体に全面的に改正された消費者基本法が平成16年6月2日に公布・施行された。その消費者の権利は、下記の6項目に整理できる。

  • 安全の権利
  • 選択の権利
  • 情報を得る権利
  • 消費者教育を受ける権利
  • 消費者の意見が反映される権利
  • 消費者被害が救済される権利

これらの消費者の権利を侵害せず、擁護することが、事業者や政府及び都道府県の責務となったのである。

また、特に事業者の責務として、次の5項目が法で定められている。

  • 消費者の安全及び消費者との取引における公正を確保すること。
  • 消費者に対して、必要な情報を明確かつ平易に提供すること。
  • 消費者との取引に際して、消費者の知識、経験、及び財産の状況等に配慮すること。
  • 消費者から寄せられた苦情を適切かつ迅速に処理するために、必要な体制の整備等に努め、当該の苦情を適切に処理すること。
  • 国又は地方公共団体が実施する消費者政策に協力すること。

また、事業者はその事業活動に関し、自ら遵守すべき行動基準を作成することなどにより、消費者の信頼を確保するように努めなければならないことも定められた。

異議申立人らの介護事故では、上記の安全・選択・情報・意見の反映・被害者の救済など、事業者や行政から、それらの擁護に欠けた対応をされ、また事業者や行政から侵害や損害を被られ、異議申立人らは今だにそのキズが癒されない。異議申立人らは不備不足があると行政も認められた介護制度や介護事故の対応についての陳情や提案を幾度となくしてきたが、しかしながら行政からは、現消費者基本法や介護保険法及び民法などのコンプライアンスに欠けた対応をされ、いわゆる悪代官が自分達の都合のいいように合法化して国民を苦しめる現状が続く限り、私達は自己防衛として選択できる情報を得て、せめて自分達で選別して判断して防衛するしか、なすすべがない社会状況でもある。

今年6月に新たに公布・施行された消費者基本法を遵守した情報公開を望む。

5 結論

以上のとおり、本件決定は実施機関の不作為により、大阪府民に対する損害の発生や不利益をもたらし、その過程における対応においても、不当及び不法な行為であると結論づけるものである。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張は、概ね次のとおりである。

1 事故報告書及び本件行政文書について

本件行政文書は、介護保険施設における事故報告に関するものであるため、まず大阪府における事故報告書及び本件行政文書について説明する。

(1)事故報告書について

ア 施設の種別

介護保険施設には、老人福祉法に規定する特別養護老人ホームであって、当該特別養護老人ホームに入所する要介護者に対して、施設サービス計画に基づいて入浴、排泄、食事の介護などを行うことを目的とするサービスを提供する「指定介護老人福祉施設」、病状が安定期にあり、入院治療する必要はないが、リハビリテーション、看護、介護を中心としたケアを必要とする要介護者が入所し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とするサービスを提供する「介護老人保健施設」、療養病床、老人性痴呆疾患療養病棟を有する病院又は診療所において、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護その他の世話及び機能訓練その他必要な医療を行うことを目的とするサービスを提供する「指定介護療養型医療施設」があり、各施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準がそれぞれの基準省令により定められている。

イ 事故報告書に記載されている内容
(ア)事故報告書の項目(各市町村で様式を定めている場合があり、項目は一律ではないが概ね下記の項目が記載されている。)

事故発生施設名、事故報告者名、事故報告日、事故発生年月日、事故発生時刻、事故当事者氏名、住所、連絡先、被保険者番号、家族氏名、家族住所、家族連絡先、事故発生に至るまでの状況及び経過、発見状況、応急処置状況、受診した医療機関名、診断結果、家族等への対応状況、家族の反応、損害賠償に関する経過、等

(イ)事故報告書に記載されている事故内容(例示)
  • どのような状況下で、どの部位をどの程度負傷したか
    (排便時や入浴時に転倒して、どの部位を骨折した、何針縫合したなど)
  • どのような状況下で、どのように自殺していたか
    (深夜や昼間部屋で一人居るところ、こういった物を使用し縊死した、何階から飛び降りたなど)
  • 事故発生前後における事故当事者の様子、状況
    (事故発生前からの当事者の言動、行動(深夜徘徊、妄想)、痴呆疾患の有無、うつ状態の有無、発見時に当事者は意識があったのか、発見時の倒れていた様子など)
  • 事故発生直後における施設職員の対応
    (他の職員への連絡、本人に対しての応急処置、救急車要請など)

等が詳細に記されている。

ウ 事故発生時の届出

事故発生時の対応については、それぞれ指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第36条、指定介護療養型医療施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第41号)第34条により定められている。

各条文では「(前略)・・・サービスの提供により事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者(入院患者)の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。」と規定されているため、大阪府としては施設に対し、事故が発生した場合は家族や市町村に対し連絡するよう指導している。

なお、事故についての都道府県への届出については、何ら規定されておらず、施設は大阪府に対し報告義務はない。

しかしながら、大阪府は施設に対して、事故発生後利用者との間にトラブルが発生した場合や生じる可能性がある場合には大阪府に報告するよう指導しており、また市町村に対しても、事故の内容が施設と利用者の間のトラブルに発展する可能性のあるものや、施設の運営上重大な問題があると考えられる場合には、大阪府に情報提供をするよう連絡している。

そのため、施設における死亡又はそれに類する重大な事故については、概ね市又は施設から大阪府に報告されている。

(2)本件行政文書について

本件行政文書は、都道府県への届出が規定されていない中で、市又は施設から情報提供として事故の詳細内容を記した事故報告書が提出されたものを取りまとめた一覧表であり、これについて部分公開決定したものである。

ア 本件行政文書(施設における介護事故報告(平成12年度から平成15年度分))の記載内容
  • 事故報告受付年月日
  • 事故の種別(転倒・転落、誤嚥、入浴事故、その他)
  • 施設種別(特養(指定介護老人福祉施設)、老健(介護老人保健施設))、療養型(指定介護療養型医療施設))
  • 施設名(事故発生施設名)
  • 報告者(市、施設、家族)
  • 事故発生日(事故発生年月日)
  • 内容(事故の発生状況及び負傷の程度並びにこれらを特定しうる部分、発見時の倒れていた状況、発生後の処置並びに結果)
  • 分類(骨折、縫合、誤嚥、死亡、打撲、表皮剥離、その他)
  • 対応(大阪府としての対応方法(事故報告書受理、改善報告受理・確認など))
イ 本件行政文書と事故報告書の関連部分

本件行政文書は、事故報告書に記載されている項目のうち事故報告者(施設名)、事故発生年月日、事故報告年月日、事故発生に至るまでの状況及び経過、発見状況、応急処置状況、診断結果について抽出し集約したものであり、事故当事者に係る情報というその性質は事故報告書と何ら変わるところはない。

2 施設名及び事業所名並びに事故内容を非公開とすることについて

条例は、第5条において、「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」として、個人のプライバシーに関する情報の取扱いについて実施機関の責務を定めている。

また、条例第9条第1号において、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」は公開してはならないと定めている。

(1)事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分を公開しないことについて

異議申立人が公開を求めている事故内容の非公開部分については、当事者がどのような状況で自殺や負傷をしていたか、またどの部位をどの程度負傷したのかといった、事故の発生状況や事故当事者個人の負傷の程度に関する情報等、個人の身体的特徴、健康状態に該当するものが記載されており、これを公表する慣行もないため、こうした情報は特定の個人が識別され得る個人情報のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、条例第9条第1号に該当することから、実施機関は公開することができないものである。

(2)事故発生施設名を公開しないことについて

事故発生施設名については、それらの情報を開示することにより、施設が特定され、発生年及び報告年月日については既に公開済みであることから、その施設で誰がどのような状況で自殺や負傷をしていたか、またどの部位をどの程度負傷したのかといった、事故の発生状況、負傷の程度等を容易に特定できるものとなることや、これら断片的な情報であっても関係者であれば容易に個人を特定できること及びこれを公表する慣行もないため、条例第9条第1号に該当することから実施機関は公開することができないものである。

なお、異議申立人が異議申立理由において述べている大阪府の責任、義務等については、大阪府が介護保険法に基づき介護保険施設に対する実地指導を行っており、また事故についても施設に対し市町村及び入所者(入院患者)の家族等に連絡するよう指導を行っているところである。

3 結論

以上のとおり、本件処分は条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

(1)本件行政文書について

介護保険施設で事故が起きた場合、施設は、その種別毎に厚生労働省の省令で定められた基準により市町村及び入所者(入院患者)の家族等に連絡しなければならないこととされている。実施機関は、これらの事故のうち、事故発生後利用者との間にトラブルが生じたものや生じるおそれがあるもの、施設の運営上重大な問題があると考えられるものについて、施設及び市町村に対して事故に関する情報提供を求めている。

本件行政文書は、実施機関における事故の参考資料として、市町村又は施設から提出された事故報告書の概要を、年度毎の一覧表にまとめたものであり、その記載項目及び内容は次のとおりである。

  • ア 受付年月日 実施機関に報告が提出された年月日が記載されている。
  • イ 事故の種別 事故を「転倒・転落」「(誤飲・)誤嚥」「入浴事故」「無断外出」「その他」に区分して、該当するものが記載されている。
  • ウ 種別 上記イの事故種類に対応する数字が記載されている。
  • エ 施設種別 介護保険施設の種別である「介護老人保健施設」、「指定介護老人福祉施設」及び「指定介護療養型医療施設」のうち該当するものが略号で記載されている。
  • オ 施設名 事故が発生した施設の名称が記載されている。
  • カ 報告者 市町村、施設及び家族の中から、事故の報告を行ったものが記載されている。
  • キ 事故発生日 事故が発生した年月日が記載されている。
  • ク 内容 事故の発生状況、負傷の程度、処置状況など10文字から80文字程度の短文で記載されている。
  • ケ 分類 打撲、縫合、骨折、死亡など事故被害者の症状・状態が記載されている。
  • コ 対応 実施機関が取った対応策が記載されている(たとえば、「事故報告書受理」、「改善策について口頭確認」、「書面指導」など。)。

本件行政文書のうち、本件決定において公開しないことと決定した部分は、オの「事故の発生施設名」、キの「事故発生月日」及びクに記録されている「事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分」である。これらのうち、異議申立人が公開を求めているのは、「事故の発生施設名(施設名及び事業者名)」及び「事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分(事故内容)」(以下両者併せて「本件係争部分」という。)である。

(2)本件係争部分の条例第9条第1号該当性について

ア 条例第9条第1号の趣旨について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条においては、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定している。

このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。同号は、

  • a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
  • b 特定の個人が識別され得るもののうち、
  • c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの

に該当する情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨が規定されている。

また、条例は第10条において、行政文書の部分公開を実施機関に義務づけており、実施機関は、公開請求に係る文書に条例第8条各項各号及び条例第9条各号に該当する情報が記録されている部分がある場合においても、その部分を容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなくてはならないと定めている。

イ 本件係争部分の条例第9条第1号該当性について

これらを本件行政文書に記録されている情報について検討するに、本件行政文書は介護保険施設における個別の介護事故に関する情報を記録したものであるから、上記aの要件に該当することは明らかである。

そして、本号のもとで非公開とするには、さらにb及びcに該当するものであることを要するところ、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」ものの中には、情報の種類や性質によって、たとえ一般人によっては特定の個人を識別することができないとしても、当該特定の個人と一定の関係にある関係者にとっては特定の個人を識別するおそれがあり、そのような関係者によって特定の個人が識別され得る場合にも、他人に知られたくないと望むことが社会通念上正当であると認められるものがあり得る。そのような情報の場合、「特定の個人が識別され得る」かどうかは、当該関係者を基準として判断することも許されると解される。このような観点も含めて、本件係争部分に記録されている情報が上記b及びcの要件に該当するかどうか、また、部分公開できるかどうか検討したところ、以下のとおりである。

(ア)事故の発生施設名

本項の情報は、本件行政文書の「施設名」欄に記載されている事故が発生した具体的な施設の名称である。一方、本件行政文書のうち、「事故報告受付年月日」、「事故の種別」、「報告者」、「事故発生日」及び「分類」の欄の全てと「内容」及び「対応」の欄の一部については、本件決定に基づいて公開されている。

また、審査会において調査したところ、本件行政文書を作成する際の基礎資料となった介護保険施設又は市町村からの事故報告書の一部(平成12年度及び13年度報告分)についても、別途、平成14年8月29日付けの行政文書公開請求に対する平成14年9月27日付けの部分公開決定により公開が実施されていることが確認されている。この部分公開決定では、「事故当事者の個人の氏名」や「事故発生施設名」、「事故発生月日」等は非公開とされる一方、「事故報告年月日」「事故発生年」が公開されており、介護事故の状況や要因、施設の対応等の内容が文章として記述されている部分についても、文章の一部が非公開となっているが、公開されているところだけを読んでも介護事故の詳細な内容が把握できるようになっている(これは、「個人名」、「施設名」等を非公開としているため、介護事故の内容を詳細に読み取ることができても、「個人が識別し得」ないと判断しているためである。)ことが認められる。

このような状況の下で事故の発生施設名を公開すると、本件行政文書の公開部分である「事故の種別」、「事故の発生日」、「分類」の各欄及び「内容」欄の一部等に記載されている情報と照らし合わせることにより、当該施設の入所者等関係者にとっては、容易に当該事故に係る個人を特定し得ることになるとともに、事故報告書の公開部分に記載されている当該介護事故に係る状況や要因、施設の対応等の内容等という詳細な情報を個人が識別される形で公開するのと同じ結果となるおそれがある。

このような介護事故の詳細な内容に係る情報については、当事者及びその家族、事故に関わった施設職員等は当然知り得る立場にあるが、それ以外の当該施設の入所関係者にとっては、必ずしも知っているとは限らないものであり、また当該情報が要介護状態における事故という個人情報の中でも、とりわけ機微にわたるものであることからすると、本項の情報は上記b及びcに該当するものであり、条例第9条第1号の規定により、これを公開することはできない。

なお、異議申立人は、利用者が良い介護保険施設、悪い介護保険施設を判断・選択するための判断基準になる、また事故再発防止や事故未然発生防止システムの構築に寄与する、生命及び身体の安全対策の向上が期待できるという理由で事故発生施設名の公開を主張している。

確かに、介護保険施設の中で事故が生じた場合、事実をきちんと把握して、今後同じような事故を防止するための対応策を考えることの必要性からいうと、一般に事故に関する情報を公開することの公益性は高いと言える。

しかしながら、前述のように施設名を公開すると特定の個人が識別され得ることとなり、特定の個人が介護施設で事故に遭ったという個人のプライバシー情報を明らかにする結果となるから、条例第9条第1号に該当し、事故に関する情報のうち施設名については、公開することができないのは止むを得ないものである。

(イ)事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分

本項の情報は、発見された際の被害者の状態、負傷の部位や大きさ、死亡原因、負傷に至る経過、事故の際の症状及び事故発生の時間などに関する簡潔な記述であり、いずれも、本件行政文書の「内容」欄に記載されているものである。

そして、審査会において見分したところ、「内容」欄には、事故の発生状況、負傷の程度、処置状況など事故の概要が10文字から80文字程度で簡潔に記載されているに過ぎないものであり、事故の当事者個人の氏名はもちろんのこと、当事者に固有の具体的な特徴に関する記載もないこと、また、本項の非公開部分に記録されている情報の中には既に公開されている「内容」欄の一部や「分類」欄の記載から概ね推測できる情報も少なくないことが認められた。

以上のことからすると、本項の情報については、当該情報のみによっては、当該施設の入所者等関係者を含めて第三者が容易に当該事故に係る個人を特定することは困難なものであり、上記bに該当しないから、条例第9条第1号に該当しないと認められる。そして、本項の情報が記録されている「内容」欄は、他の非公開とすべき部分と容易に分離することが可能であると認められるから、これを公開すべきである。

3 結論

以上のとおりであり、本件異議申立てのうち、「事故の当事者の状況、既往疾患名及び負傷の程度並びにこれらを特定し得る部分」の公開を求める部分については理由があるから、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。

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