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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第93号)
第一 審査会の結論
実施機関の決定は妥当である。
第二 本件異議申立てに至る経過
- 平成16年6月11日、異議申立人は、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「情報公開審査会委員就任承諾書(直近のもの)」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 平成16年6月16日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として「大阪府情報公開審査会委員就任承諾書(平成15年10月1日から平成18年9月30日までの任期の委員7名分)」(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、「委員の住所及び印影」を除いて公開するとの部分公開決定処分(以下「本件処分」という。)を行い、公開しないことと決定した部分についての公開しない理由を次のとおり付して、異議申立人に通知した。
〔公開しない理由〕
大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)には、個人の住所及び印影が記載されており、これらの情報は個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。 - 平成16年6月22日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、本件処分の取消しを求める異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件部分公開決定の取消及び審査会委員の印影の公開。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は、次のとおりである。
1 情報公開審査会委員就任の承諾について
川崎市においては、情報公開審査会委員の就任は、議会の承認を必要としている。議会に提出される文書には、個人の住所、経歴が記載されている。一般的な判断ではあるが、川崎市のほうが情報公開審査会の重要性について、認識があるように思える。役割が重くなればなるほど、情報公開審査会委員の業務遂行に必要と考えられる個人情報の開示の必要が高くなる。今回の異議申立てにおいて異議申立人は、情報公開審査会委員の住所の開示を求めていない。その理由は、大阪府においては、情報公開審査会の位置付けが、川崎市に比べて低いからである。
2 開示請求者の責任
入手した情報は、適切に活用することが求められている。不正に、不適切に利用されるおそれがあるような、入手した情報の取扱いは許されていない。社会的に認められるような使い方が開示請求者に求められている。開示請求して開示された情報を適切に活用して、問題は発生しないということを証明することこそが、開示請求者の利益になる。印影を広く一般に開示するということになるのかどうかが争点であるように思われる。この事例では、開示請求者が情報公開審査会委員の自発的意思を確認したいということになるわけであるが、開示請求者の意思は、最大限尊重されるべきであると思う。不正な、不適切な取扱いを開示請求者がするという前提での開示決定は、開示できる情報の質を低くし、情報公開事業の内容を貧困なものにしてしまうおそれがある。
3 印影の使用について
印影の使用については、情報公開審査会の先生は、適切な印章を使用している。可能性としては、印影の不正の利用は、開示請求者と同じ程度に、大阪府の職員であってもする可能性は、ある。そのために備えてということではないが、使用する印影は、不正使用されないように、単なる認印を使用していると考えられる。
4 自署、印影の開示について
愛知県安城市では、情報公開審査会委員の自署、印影は開示されている。印章は、弁護士が使用する印章が使用されている。大変重い、格式ある印章が使用され、それが開示されているということは、開示請求者の知る権利と情報公開審査会委員のどのような印章を使用しているのかを知られたくないという権利を比較検討した結果、開示請求者の権利を優先したと思われる。大阪府情報公開審査会の委員は、格式ある印章は使用されていないようである。使用している印章の値段等を知られたくないという程度であれば、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報ではない。
5 結論
情報公開の重要性を考えれば、川崎市と同様に個人の住所も開示すべきだと思うが、今回はそれを議論しないこととしている。情報公開審査会委員の積極的な参加を担保するため、情報公開の重要性を認識するために、印影を開示すべきだと思う。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 大阪府情報公開審査会について
(1)大阪府情報公開審査会について
大阪府情報公開審査会(以下「審査会」という。)は、大阪府附属機関条例(昭和27年条例第39号)第2条の規定に基づき設置が根拠づけられており、審査会の実際の手続等については、条例第3章(第20条から第30条まで)に定められている。
条例第6条の規定による公開請求に係る行政文書の全部又は一部の公開(条例第13条第1項)及び全部非公開(同条第2項)の決定について、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)に基づく不服申立てがあった場合、当該不服申立てに対する決定又は裁決をすべき実施機関は、遅滞なく、審査会に諮問しなければならない(条例第20条)。諮問を受けた審査会は、不服申立てに係る調査審議を行い、諮問した実施機関に対して答申を行う。諮問した実施機関は、審査会の答申を尊重して、速やかに、当該答申に係る不服申立てに対する決定又は裁決をしなければならない旨が規定されている(条例第29条第3項)。
(2)委員委嘱事務について
(1)で述べた審査会の委員は、大阪府情報公開審査会規則(昭和59年規則第66号)第2条に次のように規定されている。
「(組織)
第2条 審査会は、委員7人以内で組織する。
2 委員は、学識経験のある者から、知事が任命する。
3 委員の任期は3年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。」
実施機関(審査会事務局、知事公室広報室府民情報課)は、平成15年9月30日付けで審査会委員の任期が終了することから、次期任期の委員の委嘱事務を行った。すなわち、岡村周一、小松茂久、曽和俊文、塚本美彌子、福井逸治、松井茂記、松田聰子の各氏に次期委員就任を依頼することを決定し、平成15年9月11日付け府情第1482号「大阪府情報公開審査会委員の委嘱について(依頼)」を委員就任承諾書を同封した上で送付した。氏名及び住所が記入され、印影が押印された委員就任承諾書が上記7名全員から提出されたので、実施機関は、平成15年10月1日付けで大阪府情報公開審査会委員に委嘱したものである。なお、現委員の任期は、平成15年10月1日から平成18年9月30日までの3年間である。
2 本件行政文書について
(1)委員就任承諾書について
本件行政文書は、あらかじめ審査会事務局が用意した形式の文書であり、標題「承諾書」、日付「平成 年 月 日」、名宛人「大阪府知事 太田房江 様」、本文「大阪府情報公開審査会委員として就任することを承諾します。」、そして委員の「住所」記載欄、「氏名」記載欄及び押印欄から構成されている。就任を承諾した審査会の各委員は、「住所」欄に自宅住所を、「氏名」欄に委員の氏名を記入し、氏名の後の押印欄に委員の印章を押捺している。なお、「住所」欄に自宅住所以外の勤務地等の住所を記載していた承諾書はなかった。
本件行政文書のうち非公開部分は、委員が記載した自宅住所及び委員の印影である。
3 本件処分の適法性について
(1)条例第9条第1号について
条例第9条第1号においては、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの
に該当する情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨が規定されている。
(2)個人の印影が条例第9条第1号に該当することについて
本件行政文書に記載されている個人の住所については、異議申立人が異議申立ての対象から除外しているので、ここでは委員個人の印影が条例第9条第1号に該当することを説明する。
個人の印章は、その使用者である個人が、当該印章が押捺された文書の作成等が自らの意思に基づくものであることを証するために、押捺されるものである。このため、使用者である個人は、印章が不正使用されることのないよう、常に身近に置くなど安全な場所で厳重に管理するとともに、その印影についても、不要な場所への押捺を避けるなど、その意に反して流通することのないよう、細心の注意を払うものである。
また、文書の真正に対する信用を保護するために、印章の偽造については刑事罰が科せられることとされているが、みだりに印影を公にすると、印章偽造等の不正使用の可能性も増大する。
以上のことから、個人の印影については、広く一般の閲覧に供されることが予定されている文書に押捺された場合や単純な記名の代わりに押捺されていることが明らかな場合など特段の事情がない限り、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当すると解すべきである。
これを本件印影についてみると、本件印影は、情報公開審査会という重要な公職への就任を承諾する意思を、実施機関に対し公式に表明するという重要な文書に押捺されたものであり、委員個人が自ら使用する印章の中から、当該文書に相応しい印章を使用して押捺したものであって、上記特段の事情は認められず、本件印影は、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当するものである.
よって、本件印影は、条例第9条第1号に該当し、公開してはならない情報に当たるので、本件決定において本件印影を非公開としたことは、妥当であると考える。
第六 審査会の判断
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び条例第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 大阪府情報公開審査会と本件行政文書について
実施機関の説明及び審査会において本件行政文書を見分した結果を総合すると、次のことが認められる。
(1)大阪府情報公開審査会及び審査会委員就任について
審査会は、大阪府附属機関条例第1条の規定により設置されており、行政文書の公開決定等の不服申立てに対する決定又は裁決について、実施機関から諮問を受け、調査・審議を行う合議体の機関であり(条例第20条)、諮問実施機関は、審査会が行う答申を尊重して、決定又は裁決をしなければならない(条例第29条第3項)とされている。
審査会委員は、現在7名から構成されており、学識経験のある者から知事が任命することとされている(情報公開審査会規則第2条第1項及び第2項)。その任期は3年間で、現任委員の任期は平成15年10月1日から平成18年9月30日までとなっている(情報公開審査会第2条第3項)。
(2)本件行政文書について
本件行政文書は、平成15年10月1日の委員改選に際して、各委員が委員就任承諾の意思表示として、実施機関が委員就任依頼文とともに送付した用紙に自宅住所を記入の上、自署し、印章を押捺したものを実施機関に返送、提出したものである。その記載項目及び内容は次の通りである。
- ア 標題「承諾書」と記載されている。
- イ 日付「平成 年 月 日」と記載されており、委員が具体的な日付を記入している。
- ウ 名宛人「大阪府知事 太田房江 様」と任命者が記載されている。
- エ 本文「大阪府情報公開審査会委員として就任することを承諾します。」と記載されている。
- オ 住所「住所」と記載されており、その右側に委員の自宅住所が記載されている。
- カ 氏名「氏名」と記載されており、その右側に委員の氏名と印影が記録されている。
本件行政文書のうち、本件処分において公開しないことと決定した部分は、上記オの委員の自宅住所及びカの委員個人の印影であるが、異議申立人が公開を求めているのは、カの委員個人の印影部分である。
3 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件行政文書に記録された審査会委員就任者の印影(以下「本件印影」という。)について、条例第9条第1号に該当すると主張するので、この点について検討したところ、以下のとおりである。
(1)条例第9条第1号の趣旨について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定している。
このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記載された行政文書については、公開してはならないと定めている。
(2)本件印影の条例第9条第1号該当性について
本件印影は、審査会委員への就任を要請された特定の個人が、これを承諾する旨を公式に表明した文書において、当該文書が自らの意思に基づいて真正に作成されたものであることを確認するために記名とともに押捺されたものである。本件印影には、承諾者である個人の姓が記録されており、上記(1)ア及びイの要件に該当することは明らかである。
次に、本件印影が、上記(1)ウの要件に該当するか否かについて検討するに、個人が使用する印章は、押捺する文書の性質やその流通範囲などを考慮して、当該個人自らが、その保有する印章の中から適切な印章を選択するものであり、自らが、どのような文書にどの印章を使用しているかという情報は、通常、みだりに他人に知られないように努めるものであることからすると、特定の文書に押捺された個人の印影については、特段の事情のない限り、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」情報と認められるものである。
そして、本件行政文書については、審査会委員という重要な公職への就任承諾という重要な意思表示を行う文書であり、それに相応しい印章を選択して作成されているものであること、本件行政文書は、委員に就任する前の時点で個人としての意思を明らかにする書面であり、その作成自体は、個人としての行為であって、委員としての職務行為ではないこと、また、本件行政文書が、法令等の規定により何人も閲覧することができたり、慣行上公表していたりするものではないことからすると、本件印影については、特段の事情は認められず、上記(1)ウの要件にも該当する。
以上のことから、本件印影は、条例第9条第1号の規定により、公開してはならない情報であると認められる。
なお、異議申立人は、「社会的に認められるような使い方が開示請求者に求められている。・・・不正な、不適切な取扱いを開示請求者がするという前提での開示決定は、開示できる情報の質を低く・・・してしまうおそれがある」と主張している。しかしながら、本件印影については、特定の個人が識別され得る情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であることから、非公開が妥当と判断するのであり、請求者が不正又は不適切な取扱いをするということを前提としたものではない。情報公開制度は、何人も公開請求を行うことができる制度であって、請求者の意思の如何によって公開・非公開の決定が変わるものではないのである。
また、異議申立人は、「情報公開審査会委員・・・は、不正使用されないように、単なる認印を使用していると考えられる。」と主張しているが、認印といっても様々な態様や用法のものがあり、個人の印影の公開の可否の判断にあたっては、当該印影が実印(登録印)であるか、その他の認印であるかどうかにかかわらず、前述のように使用されている文書の性質や流通範囲などを含めて総合的に判断する必要があるものである。
さらに、異議申立人は、「愛知県安城市では、情報公開審査会委員の自署、印影は開示されている。」と主張しているが、地方公共団体における情報公開は、地方公共団体ごとに異なる条例に基づき自治事務として実施されているものであるから、他の地方公共団体で同種の情報が公開されているからといって、本件印影を公開すべきであるということにもならないものである。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり、答申するものである。