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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第100号)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、別表に掲げる部分を公開すべきである。
実施機関のその余の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成13年5月18日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「児童・生徒の補導、逮捕について、府立学校から大阪府教育委員会に対して行われた報告等に関する資料、及びその基礎となる資料のすべて(1996年4月1日~2001年4月26日)」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年6月15日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として次の(1)の報告文書等を特定の上、これらの文書のうち、次の(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)本件請求に対応する行政文書の名称
- ア「恐喝事件について(報告)」
- イ「恐喝事件について(報告)」
- ウ「問題行動に関わった生徒について(報告)」
- エ「本校3年生(○○○○)の件について(報告)」
- オ「生徒の暴行事件について」
- カ「○○1年、○○の指導について」
- キ「傷害について(報告)」
- ク「2年生の刑事事件について(報告)」
- ケ「強盗致死及び強盗事件について」
- コ「本校1年生(○○○○)の件について(報告)」
- サ「本校3年生(○○○○)の件について(報告)」
- シ「本校1年生の件(強盗致傷)について(報告)」
- ス「本校3年生(○○○○)の件について(報告)」
- セ「本校1年生(○○○○)の件について(報告)」
- ソ「覚せい剤使用による逮捕について(報告)」
- タ「平成○年○月○日の件に関するその後の経過報告」
- チ「生徒の問題事象について」
- ツ「生徒の指導について(報告)」
- テ「生徒指導にかかる報告について(中間報告)」
- ト「傷害事件について(報告)」
- ナ「傷害事件について(報告)」
- ニ「生徒の事故について」
- ヌ「生徒の事故について」
- ネ「生徒の事象について(報告)」
- ノ「生徒の逮捕・拘留・措置について(報告)」
- ハ「iメールによる脅迫事件について(報告)」
- ヒ「ひったくり事件に係わる事象について(報告)」
- フ「本校生徒の逮捕・拘留について(報告)」
- ヘ「(恐喝未遂・傷害)について(報告)」
- ホ「生徒の非行(薬物使用)について」
- マ「非行(窃盗)嫌疑で家裁送致されたものの、審判で不処分とされた事例」
- ミ「平成○年○月○日(○)、○○市で起こった事件について(報告)」
- ム「○○○○高等学校第1学年○○○○に係わる事案の概要」
- メ「○○高校」
- モ「○○生徒○の件」
- (2)公開しないことと決定した部分
本件行政文書のうち、下記に関する情報の部分- ア 学校名、校長名、公印及びこれらを特定できる部分
- イ 事件発生日時及びその後の経過に係る月日、場所及びこれらを特定できる部分
- ウ 関係児童・生徒の氏名、生年月日、住所、電話番号、家族構成、学級、所属部活動名、履歴、関係機関名及び性状、心境や主張等に関する記述及びこれらを特定できる部分
- エ 保護者の氏名、住所、電話番号及び性状、心境や主張等に関する記述
- オ 関係教職員及び関係者の氏名、年齢、学級、受診病院名、被害の内容、勤務先、電話番号及び性状、心境や主張等に関する記述及びこれらを特定できる部分
- (3)公開しない理由
条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)に記録された情報は、関係者の氏名、住所、家族構成、心境等個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものである。
- (1)本件請求に対応する行政文書の名称
- 同年8月13日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定のうち、下記を除く部分の全部公開
- 関係児童・生徒の氏名・生年月日・住所・電話番号・家族構成・履歴・及び性状・心境・主張
- 保護者の氏名・住所・電話番号、及び性状・心境・主張
- 関係教職員の学級・受診病院名、及び性状・心境・主張
- その他関係者の氏名・年齢・学級・受診病院名・勤務先・電話番号、及び性状・心境・主張
第四 異議申立人の主張
本件決定は条例前文、第1条、第3条の趣旨に反する。
1 「特定の個人が識別され得る情報」の範囲について
特定の個人が識別され得る情報とは、その個人(本件の場合は逮捕・補導された児童・生徒や当該案件の関係者)の関係者や地域と全く関わりがない一般府民であっても、ある情報を知ることによって容易にその個人を特定することができる高度の蓋然性がある情報であると解すべきであり、専門的な調査(公的機関、マスメディア、興信所等)をすれば特定できるかもしれないような情報は、この区分にはあてはまらない。なお、これと同様の見解は、2002年3月4日付け熊本県情報公開審査会答申においても示されているところである。
また、その個人の関係者や、地域の住民等、特にその個人に極めて近い環境にいる個人(同じクラス、同じ職場にいる人)にとっては、すでにある一定の情報を保有している場合が多いと一般的に認められ、一般府民が専門的な調査をしなければ入手できないような情報も、容易に入手できる可能性があるが、このような状況を想定して「特定の個人が識別され得る情報」の範囲を判断すれば、その公開の範囲は際限なく狭められる結果となり、条例の本来の趣旨に反することとなるのは明らかである。
以上にそって、本件非公開部分を検討すると、一般府民が学校名(所属名)等の情報から特定の個人を識別するためには、専門的な調査をしなければ、ほぼ不可能であると言うべきである。
よって、専門的な調査をすれば特定できる可能性があることをもって、非公開としたことは、条例第9条第1号を拡大解釈した不当なものである。
2 事故・事件再発防止の観点からの学校名(所属名)公開の必要性
学校とは、PTA、PTAOB会、同窓会や自治会、地域連合会、社会福祉協議会等、学区の地域社会という、極めて狭い社会の核となる存在として、全国的に根付いている。
その核とみなされる学校のネガティブイメージは、直接その地域のネガティブイメージにつながるとの意識から、これらの事実は、学校関係者はもちろん、地域関係者にとって精神的・物理的に排除したい事実であり、協力していわゆる「臭いものに蓋」という考え方をもとにとした行動に出る結果となっている。
このような学校・地域関係者の閉鎖的な体質は、学校関係者や教育委員会の関係者と共有しているところであり、本件で学校名を非公開としたことにも反映していると想像できる。
しかしながら、近年この流れに一石を投じる審査会答申や教育委員会の決定がなされている。例えば高等学校の中退者や懲戒件数に関する情報公開請求について、熊本県情報公開審査会は前出の答申において、「多数の中途退学や懲戒処分が存在することは、それ自体無視し得ない社会的問題であるから、実施機関としては、問題の根本的解決に努力すべきであって、現状を隠すことは許されない」として、これらの情報が学校名を含めて全部公開すべきであると判断している。
また、大阪府情報公開審査会は、1999年、2000年にそれぞれに同様の判断を示し、これらの情報が全部公開されている。さらに、兵庫県教育委員会にいたっては、異議申立てを経ずに、教育委員会としての独自判断で中退者数の全部公開に踏み切っているところである。さらにさいたま市教委においては、教職員処分関連文書のうち、学校名はすべて公開されている。
いずれの自治体も、これらの情報が公開されることにより、地域間格差などが助長されることを懸念しつつも、保護者や生徒に情報を積極的に公開していくことによって、よりよい教育環境を作ろうとする前向きな姿勢がある。学校はネガティブイメージを隠蔽するのではなく、むしろ積極的に公開していくことで、生徒・保護者・学校が協力して、その改善に当たっていくべきである。
さらに、市民は納税者として、公立学校の経費を最終的に負担する立場にあり、学校の状況を知る当然の権利があると言うべきである。
学校名が公開され、このような環境が整うことにより、管理職・現場教員・地域住民が緊張感を持ち、今後の同種同様の問題に対しての抑止力も期待できると考える。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 本件行政文書について
本件行政文書は、府立学校に在籍する児童・生徒の補導・逮捕について、実施機関内部において、府立学校から当該学校の主管課等に対して行われた報告である。この報告は、法令上その提出が義務づけられているものではなく、実施機関における当該主管課等が、発生した事象の事実関係を把握し、学校が児童・生徒や保護者に対してとるべき対応等に関して学校に指導助言する際の資料とするものであり、もともと外部に公表することが予定されていないものである。
また、報告の形式やその記載内容は統一されたものではなく、報告者や案件の内容によって異なるが、概ね、「学校名、校長名」、「当該生徒について」、「発生日時、場所」、「事件の内容」、「事件の経過」、「学校の対応・措置」、「その他参考となる事項」等で構成されている。
- ア 学校名、校長名
補導・逮捕に係る事件に係わる児童・生徒が在籍する府立学校名、文書作成者である校長名及びその印影が記載されている。 - イ 当該生徒について
事件に係わる児童・生徒の氏名、生年月日、住所、電話番号、家族構成、学級、所属部活動名、履歴、被害の内容、関係機関名、性状、心境や主張等に関する記述が記載されている。 - ウ 発生日時、場所
事件の発生した日時、場所が記載されている。 - エ 事件の内容
補導・逮捕の対象となった事件の内容が記載されている。 - オ 事件の経過
事件発生に至る経緯及び事件発生後の経過に係る記述であり、学校が事実関係を知るに至った経過も記載されている。具体的には、日時、場所、関係者(教職員を含む。)の氏名、年齢、被害の内容、勤務先、電話番号及び性状や主張に関する記述等、事件に係る詳細な情報が記載されている。 - カ 学校の対応・措置
事件の発生を学校が知ってから、当該児童・生徒はもとより、保護者や警察をはじめとする関係機関との連携を含めて、学校がどのような対応をとったかが記載されている。「事件の経過」と同様、日時、場所、関係者(教職員を含む。)の氏名及び性状や主張に関する記述等、事件に係る詳細な情報が記載されている。 - キ その他参考となる事項
事件に係わる児童・生徒の家族構成、履歴、性状、心境や主張等に関する事項及び保護者、関係者に係わる事項が記載されている。
2 条例第9条第1号に該当することについて
(1)条例第9条第1号について
本号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものが記録された行政文書を公開してはならない旨を規定している。
(2)(1)アの要件について
本件行政文書には、警察によって補導・逮捕された児童・生徒の事件の個別具体的な内容とその事件に至る経過や事後措置の内容並びに関係者の被害内容や保護者の性状等が、児童・生徒や保護者、関係教職員及び関係者個人の氏名や住所等に関する情報とともに詳細に記載されている。報告の形式やその記載内容は多様であるが、これらは、個人の一身に専属する情報であるから、本号にいう「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」の要件に該当する。
(3)(1)イの要件について
本件行政文書には、成長過程にある未成熟な高校生等、児童・生徒の一身に属する情報が含まれており、これら情報が公にされることにより、当該児童・生徒が特定されれば、当該児童・生徒に対して回復困難なダメージを与えることになるから、子どもの健全育成を第一とする実施機関としては、特に、児童・生徒の特定につながるおそれのある情報の公開は、絶対に避けなければならないところである。
一般に、特定の個人が識別され得る情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別され得る場合に加えて、一般に他人が容易に入手し得る他の情報を結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合も含むと解されるものである。
異議申立人が公開を求める「学校名、校長名、公印」、「事件の発生日時及びその後の経過に係る月日、場所」、「関係児童・生徒の学級、所属部活動名、関係機関名」、「関係教職員の氏名、年齢、被害の内容、勤務先、電話番号」、「関係者の被害の内容」及びこれらを特定し得る部分については、たとえ児童・生徒の氏名、生年月日、住所等が除かれていても、本件決定において、事件の概要が公開されることが前提とすれば、当該児童・生徒の友人、保護者又は事件を知る関係者であれば、他の関連情報と照合し、あるいは相互に組み合わせることによって、当該児童・生徒や被害にあった関係者等個人を容易に識別される可能性がある。
また、一般人についてみても、当該学校に関する情報など比較的容易に入手し得る情報等を照合または組み合わせることにより、当該児童・生徒や被害にあった関係者等を特定し得るおそれがあることを否定できない。
そして、本件行政文書に記載された情報の性格等を考え併せると、異議申立人が公開を求める部分については、特定の個人が識別され得る情報に該当するものである。
(4)(1)ウの要件について
本件行政文書に記載された情報のうち、事件を起こした児童・生徒に関する情報については、補導・逮捕された当該児童・生徒にとっては、過去の過ちに係わる事実や心身の状況等が明らかになることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものである。
さらに、これらが公になると、当該児童・生徒にとっては当該学校での生活への影響はもとより、今後社会生活を送る上で、不測の不利益を被るなど、当該児童・生徒に回復困難な損害を及ぼし、人権に対する極めて重大な侵害となるおそれがあるものである。
また、実施機関は、子どもを守り育てるという健全育成を教育の第一義的目的としており、その観点からも、当該児童・生徒の不利益となるおそれのある情報については厳密に保護しなければならないことは言うまでもない。
一方、関係者の被害の内容等に関する情報についても、事件との関わりや被害の具体的な内容等が記載されていることから、これらは、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
したがって、異議申立人が公開を求める部分に記載された情報は、条例第9条第1号に該当する。
3 結論
以上のとおり、本件処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)本件行政文書について
本件行政文書は、実施機関が各府立学校から受領した児童生徒の補導・逮捕事案についての報告書である。
児童生徒の補導・逮捕事案についての実施機関への報告は、法令等により義務づけられているものではなく、報告書を提出するかどうかは、各学校長の裁量に委ねられている。このため、様式についての定めもなく、その形式や記載内容は報告者や案件によって様々であるが、概ね、次の事項が記載されている。
- ア 報告者名等
通常、補導・逮捕に係る事件に関係する児童生徒が在籍する府立学校の名称及び報告者である学校長等の氏名が、報告年月日とともに記載されており、一部には、学校長の公印等報告者の印影が記録されているものもある。 - イ 当該児童生徒について
補導・逮捕された児童生徒の氏名、生年月日、住所等のほか、所属学級、所属部活動名等が記載されている。 - ウ 事件の概要
事件の発生した日時、場所、被害者の被害の状況等、補導・逮捕の対象となった事件の内容が、事件の発生に至る経緯及びその後の経過を含め具体的に記載されている。 - エ 学校の対応・措置
事件の発生を把握した後に、学校が事件に関してとった対応や措置について、日時、場所、関係機関名、関係者の氏名等が具体的に記載されている。 - オ その他参考事項
事件に関係する児童生徒の家族構成、履歴、性状、心境や主張等に関する事項及び保護者、関係者に関する事項が記載されている。
(2)本件係争部分について
本件行政文書のうち、本件決定において公開しないことと決定された部分は次のとおりである。
- 学校名、校長名、公印及びこれらを特定できる部分
- 事件発生日時及びその後の経過に係る月日、場所及びこれらを特定できる部分
- 関係児童生徒の氏名、生年月日、住所、電話番号、家族構成、学級、所属部活動名、履歴、関係機関名及び性状、心境や主張等に関する記述及びこれらを特定できる部分
- 保護者の氏名、住所、電話番号及び性状、心境や主張等に関する記述
- 関係教職員及び関係者の氏名、年齢、学級、受診病院名、被害の内容、勤務先、電話番号及び性状、心境や主張等に関する記述及びこれらを特定できる部分
一方、異議申立人は、本件異議申立てにおいて、下記の情報が記録された部分については、公開を求めていない。 - 関係児童生徒の氏名、生年月日・住所・電話番号・家族構成・履歴、及び性状・心境・主張
- 保護者の氏名・住所・電話番号、及び性状・心境・主張
- 関係教職員の学級・受診病院名、及び性状・心境・主張
- その他関係者の氏名・年齢・学級・受診病院名・勤務先・電話番号、及び性状・心境・主張
以上のことから、本件において争われている部分(以下、「本件係争部分」という。)に記録されている情報を整理すると、次のとおりである。
- ア 報告者等に関する情報
学校名、校長等報告者の氏名及び印影、報告の月日、「その他」等の記載項目の説明文 - イ 児童生徒の所属に関する情報
課程の種別、学科、学年、学級、部活動 - ウ 事件に関する情報
発生日時、発生場所(所在地の地名、施設等の名称)、行為・被害の内容、逮捕など事件の経過に関する日時、関係機関(警察署、裁判所、鑑別所、少年院等)の名称、関係機関の職員の氏名 - エ 学校の対応に関する情報
対応の日時、場所、内容、関係機関(警察署、裁判所、鑑別所、少年院等)の名称、関係教職員の氏名
(3)本件係争部分の条例第9条第1号該当性について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
一方、条例は、第10条において、行政文書の部分公開を実施機関に義務づけており、実施機関は、公開請求に係る行政文書に条例第8条各項各号及び第9条各号に該当する情報が記録されている部分がある場合においても、その部分を容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならないと定めている。
これらを本件係争部分に記録されている情報について検討したところ、以下のとおりである。
本件行政文書は、児童生徒の補導・逮捕に関する報告書であるから、当該補導・逮捕の対象となった児童生徒や当該補導・逮捕の対象となった行為による被害者等の個人に関する情報として、上記アの要件に該当することは、明らかである。
また、特定の児童生徒が補導・逮捕されたという情報は、当該児童生徒の不名誉な経歴に係る情報であり、児童生徒が未だ思春期等の人間形成の過程にあることを考慮すると、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであって、上記ウの要件に該当することが明らかである。当該情報を特定の関係者がそれぞれの立場において知り得る場合は別として、このような情報が、当該児童生徒を特定し得る形で公になることは、決してあってはならないものであり、上記イの要件を満たす限りは、条例第9条第1号の規定に該当し、公開してはならないものである。
さらに、当該補導・逮捕の対象となった行為による被害者にとっても、当該被害を受けたということは、決して名誉とは言えない情報であり、事の性質上、当該被害者の私生活上の機微にわたる情報であることが多いから、上記ウの要件に該当する。当該情報を特定の関係者がそれぞれの立場において知り得る場合は別として、このような情報が、当該被害者を特定し得る形で公になることは、決してあってはならないものであり、上記イの要件を満たす限りは、条例第9条第1号の規定に該当し、公開してはならないものである。
以上のような観点から、本件係争部分に記録されている情報について、部分公開が可能かどうか検討したところ、以下のとおりである。
ア 報告者等に関する情報
「学校名」については、これを公開することにより、補導・逮捕された児童生徒の所属する学校が特定される情報である。本件決定においては、「事件に関する情報」及び「学校の対応に関する情報」の相当部分が公開されており、これらの公開されている情報と学校名とを照らし合わせることにより、当該学校の他の児童生徒や保護者など一定の関係者には、容易に当該児童生徒を特定することができると認められる。特定の児童生徒が逮捕されたという情報は、通常、当該学校の他の児童生徒や保護者などにも積極的に明らかにされることはないものであることからすると、「学校名」は、部分公開することはできない。ただし、「学校名」のうち学校設置者を示す部分については、本件行政文書に関する限り、これを公開しても、当該児童生徒を特定し得ないことは明らかであるから、部分公開すべきである。
次に、「校長等報告者の氏名」については、通常何人にも公表又は公開されている各府立学校の校長及び教職員の名簿と照らし合わせることにより、容易に学校が特定される情報であり、これを公開すると、「学校名」の公開と同じ結果を生ずることになるから、部分公開することはできない。
さらに、「校長等報告者の印影」についても、そこから「学校名」を読み取ることができる情報であり、これを公開すると、「学校名」の公開と同じ結果を生ずることになるから、部分公開することはできない。
なお、「報告の月日」及び「曜日」については、事件の発生日時及び事件後に学校が行った対応や措置に係る日時と必ずしも相関関係があるとはいえず、実施機関内部の関係者以外の者が、当該情報のみによって、容易に事件を特定することはできないから、部分公開すべきである。
また、「その他」等の記載項目の説明文については、当該箇所にどのような情報が記載されているかを示す情報に過ぎず、当該情報のみによって当該児童生徒等関係者を特定し得る特別な事情のない限り、部分公開すべきである。
イ 児童生徒の所属に関する情報
「学科」、「学級」、「部活動」については、それぞれに該当する府立学校の数を考慮すると、これを公開することにより、補導・逮捕された児童生徒の所属する学校が特定される場合があり、「学校名」の公開と同じ結果を生ずるおそれがあるから、部分公開することはできない。
しかしながら、「全日制」又は「定時制」の「課程の種別」の記載については、それぞれに該当する府立学校の数を考慮すると、当該情報のみによって、容易に学校を特定することはできないから、部分公開すべきである。
また、「学年」については、これを公開したとしても、「全日制」又は「定時制」の「課程の種別」がわかる場合があるに過ぎず、容易に学校を特定することはできず、また、「学年」から直接に、当該児童生徒個人を特定することも困難であるから、部分公開すべきである。
ウ 事件に関する情報
(ア)事件の発生日時等
「事件の発生日時」のうち「月日」及び「曜日」については、これを公開すると、本件決定において公開されている情報などと照らし合わせることにより、当該事件の場に居合わせた者など一定の関係者にとっては、容易に事件を特定することができるおそれがあると認められる。児童生徒の補導・逮捕に係る事案に関しては、当該児童生徒のその後の処遇や学校の対応などは、通常、当該事件の場に居合わせた者などには明らかになっていないものであることからすると、部分公開することはできない。
しかしながら、「事件の発生日時」のうち「年」、「時刻」及び「時間帯」並びに逮捕などの「事件の経過」に係る「年」、「時刻」及び「時間帯」については、当該事件の場に居合わせた者などにとっても、これらの情報のみによって、事件を特定することが困難であるから、部分公開すべきである。
(イ)事件の発生場所
「事件の発生場所」について、具体的な町丁名や施設の固有名称などが記載されている場合は、これを公開すると、本件決定において公開されている情報などと照らし合わせることにより、当該施設の関係者や当該事件の場に居合わせた者など一定の関係者にとっては、容易に事件を特定することができることとなるおそれがあるから、「事件の発生日時」のうち「月日」及び「曜日」と同様に部分公開することはできない。
しかしながら、施設の一般的な種類名や発生場所の地名のうち都道府県名、市区町村名については、事件の発生場所が必ずしも当該児童生徒の所属する学校や居住地付近であるとは限らず、これらの情報のみによって学校や居住地を特定することが困難であること、また、当該施設の関係者や当該事件の場に居合わせた者などにとっても、これらの情報のみによって、事件を特定することは困難であることから、特に、前後の記載などと照らし合わせることにより具体的な発生場所や学校名などを容易に特定し得る特別な事情がある場合を除いて、部分公開すべきである。
(ウ)被害の内容等
財産的被害における「被害の金額」や身体的被害における「傷害を受けた部位の損傷の程度」等の具体的な被害の内容に関する情報については、当該被害者など一定の関係者にとっては、容易に事件を特定し得る情報である。児童生徒の逮捕・補導に係る事案に関しては、当該児童生徒のその後の処遇や学校の対応などは、当該事件の被害者等にも、必ずしも明らかになっていないものであることからすると、これらの情報を部分公開することはできない。
また、これらの情報は、補導・逮捕された児童生徒個人の情報である以上に、被害者の個人情報であり、被害者の立場に立っても、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められる情報であり、被害の具体的な内容は、当該被害者が被害にあったことを知っている関係者にも明らかにされていないことが考えられるので、その意味でも部分公開することはできない。
しかしながら、財産的な被害における「現金」、「単車」等の財物の種類や身体的被害における「死亡」、「傷害」等の抽象的な記載は、当該被害者等の関係者にとっても、当該情報のみによって、容易に事件を特定することができない情報であり、部分公開すべきである。
また、盗んだ金品の使途については、具体的な記載があった場合にも、通常その内容を知り得るものは、当該補導・逮捕の対象となった児童生徒自身など、通常当該事件の詳細を知り得る者に限られるから、特に、前後の記載などと照らし合わせることにより、通常当該事件の詳細を知り得ない者によって容易に事件が特定され得る特別な事情のない限り、部分公開すべきである。
(エ)関係機関の名称等
関係機関に関する情報のうち、警察署、裁判所及び鑑別所など事件が発生した地域(市区町村等)により管轄が決まる機関の名称については、事件発生場所の市区町村名と同様に、当該事件が関係者個人の自宅や学校で発生するなど、前後の記載などと照らし合わせることにより、関係者の住所や学校名などを特定し得る場合を除き、部分公開すべきである。また、当該関係機関を特定し得るため非公開とされている警察署員の氏名(警部補相当職以下のものを除く。)についても、同様に部分公開すべきである。
しかしながら、少年院については、事件の内容等に応じて送致先が決められているものであり、その具体的な送致先を知る者は、通常、関係者の中でもごく限られていることから、その名称を部分公開することはできない。
(オ)事件の態様や経過
本件係争部分には、事件の発生や発覚に至る具体的な経過や事件そのものの詳細な内容、関係機関による措置の具体的な内容等も記載されているが、これらの情報は、当該児童生徒等関係者の個人の情報の中でもとりわけ機微にわたるものである。本件決定においては、事件に関する情報の相当部分が公開されており、他の関係者により、事件が特定される場合がないとはいえないので、このような情報を部分公開することはできない。
しかしながら、事件や補導・逮捕に係る基本的な事実関係の記述については、これらの情報のみによって、事件を特定することは困難であるから、関係機関の職員の説明の形で記述されている場合を含めて、部分公開すべきである。
エ 学校の対応に関する情報
(ア)日時
事件後に学校が行った対応や措置に係る日時の情報については、事件の発生日時と一連の経過をなすものであり、これを公開すると、事件の発生時期が推定され、一定の関係者にとっては、当該補導・逮捕された児童生徒を特定し得ることとなる。本件決定において公開されている情報については、関係者においても、必ずしも、知られていないものがあることから、これらの日時に関する情報については、部分公開することができない。
(イ)場所
事件後に学校が行った対応に係る場所の情報については、所轄警察署など関係機関に係る記載がほとんどであり、これらの情報については、ウ(イ)及び(エ)で述べたとおり、特に、前後の記載などと照らし合わせることにより具体的な発生場所や学校名などを特定し得る特別な事情がある場合を除いて、部分公開すべきである。
(ウ)対応の内容等
本件係争部分には、学校の対応の具体的内容及びその際の状況を記載した部分も含まれているが、これらの情報は、当該児童生徒等関係者の個人の情報の中でもとりわけ機微にわたるものである。本件決定においては、事件や学校の対応に関する情報の相当部分が公開されており、他の関係者により、事件が特定され得るおそれがあると認められるので、このような情報を部分公開することはできない。
ただし、対応の内容のうち、学校が関係機関に提供した情報の項目を示したに過ぎない部分については、個人に関する具体的な情報が含まれていないから、部分公開すべきである。
なお、対応に当たった教職員の氏名については、報告者である校長等の氏名と同様に、通常何人にも公表又は公開されている各府立学校の教職員の名簿と照らし合わせることにより、容易に学校が特定され得る情報であり、これを公開すると、「学校名」の公開と同じ結果を生ずることになるから、部分公開することはできない。
以上のことを踏まえ、本件係争部分に記録されている情報を精査した結果、別表の「公開すべき部分」に記載されている情報については、これを公開するべきであるが、その余の情報については、条例第9条第1号の規定により、公開してはならないと認められる。
(4)異議申立人の主張について
- ア 異議申立人は、「特にその個人に極めて近い環境にある個人(同じクラス、同じ職場にいる人)にとっては、すでにある一定の情報を保有している場合が多」く、「一般府民が専門的な調査をしなければ入手できないような情報も容易に入手できる可能性がある」。「このような状況を想定して『特定個人が識別され得る情報』の範囲を判断すれば、その公開の範囲は際限なく狭められる」。「一般府民が学校名(所属名)等の情報から特定の個人を識別するためには、専門的な調査をしなければほぼ不可能である」と主張する。
しかしながら、条例第9条第1号のもとで非公開となる情報については、「特定の個人が識別され得る」情報であって、さらに「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」ものであることを要するところ、この「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」ものの中には、情報の種類や性質によって、たとえ一般人によっては特定の個人を識別することができないとしても、当該特定の個人と一定の関係にある関係者によっては特定の個人を識別するおそれがあり、そのような関係者によって特定の個人が識別され得る場合にも、他人に知られたくないと望むことが社会通念上正当であると認められるものがあり得る。そのような情報の場合、「特定の個人が識別され得る」かどうかは、当該関係者を基準として判断されることも許されると解されるのである。
これを本件についてみると、本件係争部分には、児童生徒の補導・逮捕に係る事件に関する情報が記載されているが、このような情報は個人の決して名誉とは言えない心身の状況に関する情報であって、当該児童生徒が未だ思春期等の人間形成の過程にあることからすると、個人のプライバシーに関する情報の中でもとりわけ機微にわたるものであり、たとえ一般人によっては当該個人を識別することができないとしても、当該個人と一定の関係にある関係者によって当該個人が識別され得る場合にも、当該情報が他人に知られたくないと望むことが社会通念上正当と認められる情報である場合には、条例第9条第1号に該当し、公開してはならないものである。
したがって、本件係争部分に記録されている情報が「特定の個人が識別され得る」かどうかについては、補導・逮捕された児童生徒と一定の関係にある者をも基準として判断すべきであり、この点についての異議申立人の主張は採用できない。 - イ また、異議申立人は、「事故・事件の再発を防止する観点」から「学校はネガティブイメージを隠蔽するのではなく、むしろ積極的に公開していくことで、生徒・保護者・学校が協力して、その改善にあたっていくべき」であり、「学校名が公開され、このような環境が整うことにより、管理職・現場職員・地域住民が緊張感を持ち、今後同種同様の問題に対しての抑止力も期待できる」として、学校名を公開することの意義を強調している。
しかしながら、既に述べたとおり、学校名を公開すると、特定?個人が識別され得ることとなり、特定の児童生徒が補導・逮捕の対象となったという不名誉な経歴等の個人のプライバシー情報を明らかにする結果となるから、条例第9条第1号に該当し、公開することができないのはやむを得ないものである。
なお、異議申立人が引用する学校別の中退者数等の公開を巡る当審査会の答申事例は、学校名を公開したとしても、関係者個人のプライバシー情報を公開することとならない事例であり、本件とは明らかに事情が異なる。また、他の地方公共団体の事例についても、それぞれ本件とは異なる種類の文書について、異なる条例と事情の下に学校名が公開されているのであり、これらの事例があることをもって直ちに、本件においても学校名を公開すべきであるということにはならない。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てのうち、別表の「公開すべき部分」の公開を求める部分については理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
別表
行政文書の名称 | 公開すべき部分 | |
---|---|---|
ア |
「恐喝事件について(報告)」 |
|
イ |
「恐喝事件について(報告)」 |
|
ウ |
「問題行動に関わった生徒について(報告)」 |
|
エ |
「本校3年生(○○○○)の件について(報告)」 |
|
オ |
「生徒の暴行事件について」 |
|
カ |
「○○1年、○○の指導について」 |
|
キ |
「傷害について(報告)」 |
|
ク |
「2年生の刑事事件について(報告)」 |
|
ケ |
「強盗致死及び強盗事件について」 |
|
コ |
「本校1年生(○○○○)の件について(報告)」 |
|
サ |
「本校3年生(○○○○)の件について(報告)」 |
|
シ |
「本校1年生の件(強盗致傷)について(報告)」 |
|
ス |
「本校3年生(○○○○)の件について(報告)」 |
|
セ |
「本校1年生(○○○○)の件について(報告)」 |
|
ソ |
「覚せい剤使用による逮捕について(報告)」 |
|
タ |
「平成○年○月○日の件に関するその後の経過報告」 |
|
チ |
「生徒の問題事象について」 |
|
ツ |
「生徒の指導について(報告)」 |
|
テ |
「生徒指導にかかる報告について(中間報告)」 |
|
ト |
「傷害事件について(報告)」 |
|
ナ |
「傷害事件について(報告)」 |
|
ニ |
「生徒の事故について」 |
|
ヌ |
「生徒の事故について」 |
|
ネ |
「生徒の事象について(報告)」 |
|
ノ |
「生徒の逮捕・拘留・措置について(報告)」 |
|
ハ |
「iメールによる脅迫事件について(報告)」 |
|
ヒ |
「ひったくり事件に係わる事象について(報告)」 |
|
フ |
「本校生徒の逮捕・拘留について(報告)」 |
|
ヘ |
「(恐喝未遂・傷害)について(報告)」 |
|
ホ |
「生徒の非行(薬物使用)について」 |
|
マ |
「非行(窃盗)嫌疑で家裁送致されたものの、審判で不処分とされた事例」 |
|
ミ |
「平成○年○月○日(○)、○○市で起こった事件について(報告)」 |
|
ム |
「○○○○高等学校第1学年○○○○に係わる事案の概要」 |
|
モ |
「○○生徒○の件」 |
|