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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第97号)
第一 審査会の結論
諮問実施機関の判断は妥当である。
第二 審査請求の経過
- 審査請求人は、平成16年4月7日、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、「1985年(昭和60年)6月又は7月ごろ私がひったくりの被害にあい、守口警察署へ提出した事件番号が付いた被害届及びこれに関する書類」についての公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 実施機関は、平成16年4月21日、本件請求のうち「1985年(昭和60年)6月又は7月ごろ私がひったくりの被害にあい、守口警察署へ提出した事件番号が付いた被害届」(以下「本件被害届」という。)に係る部分に対する決定として、非公開決定(以下「本件非公開決定」という。)を行い、公開しない理由を次のとおり付して審査請求人に通知した。
- (公開しない理由)
警察署に提出される被害届は、大阪府情報公開条例第40条に規定する、刑事訴訟法第53条の2の「訴訟に関する書類」に該当し、同条例の規定を適用しないこととされているものである。
また、実施機関は、同日、本件請求のうち「1985年(昭和60年)6月又は7月ごろ私がひったくりの被害にあい、守口警察署へ提出した事件番号が付いた被害届に関する書類」(以下「本件被害届に関する書類」という。)に係る部分に対する決定として、公開請求拒否決定(以下「本件請求拒否決定」という。)を行い、公開請求を拒否する理由を次のとおり付して審査請求人に通知した。 - (公開請求を拒否する理由)
本件請求は、特定の個人が、特定の事案において被害にあった内容の記載した文書の公開を求めるものである。本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、特定の個人に関して、特定の事案の被害を受けたという情報及び当該事案について警察に被害申告をしたという情報を明らかにするものであって、個人のプライバシーに関する情報を公にすることとなる。
したがって、大阪府情報公開条例第9条第1号及び第12条の規定により、当該行政文書の存在を明らかにしないで、当該公開請求を拒否する。
- (公開しない理由)
- 審査請求人は、平成16年6月3日、本件非公開決定及び本件請求拒否決定を不服として、大阪府公安委員会(以下「諮問実施機関」という。)に対し、行政不服審査法第5条の規定により、審査請求を行った。
第三 審査請求の趣旨
本件非公開決定及び本件請求拒否決定を取り消すとの裁決を求める。
第四 審査請求人の主張要旨
審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。
1 本件非公開決定についての主張
私本人は、被害届を提出した後、今日まで、一切訴訟をしていない。訴訟が行われたという情報も、一切警察から聞いていない。それでも、訴訟に関する書類に該当するのか。20年も前のことで訴訟を起こせるのか。
私本人は、訴訟が起こった事実を全く知らない。警察から何の連絡もなかった。だから、訴訟記録は存在しないものと思っている。
20年前のことで犯罪捜査に支障を及ぼすとは思えない。被害者本人の被害届の開示が公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすはずがない。
刑事訴訟法第47条の但し書に「但し、公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」とあるように、公判の開廷前でも訴訟に関する書類を公にしても良いと定められている。よって、公開を請求するものである。
素人の私が書類を閲覧しても、本物か偽物かの判断は出来ない。偽造書類を見せられてもわからないだろう。弁護士に相談するためにも、写しの交付を求める。
2 本件請求拒否決定についての主張
私本人は被害届を他人に知られてもかまわない。何らやましいところが無いからである。よって、条例第9条第1号は当てはまらない。条例第5条も当てはまらない。
条例第12条の規定は、あくまで実施機関が不正を行っていないと認められる時に当てはまるもので、本件請求拒否決定は、条例の前文にある「府民の府政への信頼を確保し、府民の生活と人権を守り、府民に説明する責務を全うすることを求める」に反していると思われる。
諮問実施機関は、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する」というが、本人が請求するものにおいては、当てはまらないと言える。
諮問実施機関は、「条例第12条に規定する存否応答拒否をしなければ、当該個人を被害者とする被害届に関する書類の有無を明らかにすることになる。」と主張するが、なぜ、警察が被害者に書類の有無を明らかにしないのか。疑問である。
~中略~
憲法第13条の「すべての国民は個人として尊重される。立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」、憲法第14条の「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は、社会的関係において、差別されない。」、そして、条例の趣旨「知る権利の保障と個人の尊厳の確保に資する」を考慮すれば、開示されるのが当然と思われる。
条例第10条第2項に「公安委員会又は警察本部長は、行政文書に次に掲げる情報が記録されている部分がある場合において、その部分を容易に、かつ、公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、その部分を除いて、当該行政文書を公開しなければならない。」とあるが、条例第10条第2項に規定されている条例第8条第2項各号と第9条各号のいずれかに該当する情報に本人の被害届は当てはまらないと言える。公にすることで公共の安全と秩序や、個人の生命、身体の保護に、支障をおよばさないし、他人に知られたくないものではないからである。よって、条例第10条第2項のとおり、情報の公開を請求するものである。
~中略~
第五 諮問実施機関の主張要旨
諮問実施機関の主張は、概ね、次のとおりである。
1 実施機関の意見等
(1)意見の趣旨
「実施機関の決定は妥当である。」との裁決を求める。
(2)実施機関の意見
ア 本件請求のうち、被害届に係る分についての意見
(ア)訴訟に関する書類について
刑事訴訟に関する書類及び押収物については、刑事司法手続の一環として、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)等により規律されることが適当であることから、情報公開法の制定に際し調整措置として改正された刑事訴訟法第53条の2にのっとり、条例の適用対象から除外するのが条例第40条の趣旨である。
刑事訴訟法においては、訴訟に関する書類とは、被疑事件又は被告事件に関し作成された書類をいい、種類及び保管者を問わないと解されており、裁判所・裁判官の保管する書類に限らず、検察官、司法警察職員、弁護人等の保管している書類、また、未だ送致・送付を行っていない書類についても訴訟に関する書類である。
刑事訴訟法は、裁判の適正の確保、訴訟関係人の権利保護等の観点から、公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合を除いて、「訴訟に関する書類」を公判の開廷前に公開することを禁止している(刑事訴訟法第47条)。
他方で、刑事訴訟法第53条等において、一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認めているように、その保有する情報について、公開・非公開の要件及び手続等が完結的に定められている。
これらの書類は、秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、公開により犯罪捜査、公訴の維持、その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであることから、「訴訟に関する書類」の情報公開については、司法統制の下にある独自の制度に委ねられるべきものとして、条例の適用を除外されたものである。
(イ)被害届について
本件対象文書である被害届は、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員規則第2号)第61条第1項に「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。」と定められており、また、捜査の端緒として最も一般的かつ重要なもので、捜査の目的で作成される文書であり、審査請求人が自己の犯罪被害について警察に申告し作成したとする本件被害届が、刑事訴訟法における訴訟に関する書類であることは明白である。
イ 本件請求のうち、被害届に関する書類に係る分についての意見
(ア)条例第9条第1号に該当することについて
個人の尊厳の確保、個人的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特に個人のプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。
そして、条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則が明確に定められている。
本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、一般に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当と認められるもの」の判断に当たっては、客観的に明白である場合を除き、条例第5条の規定の趣旨に十分配慮し、プライバシーの侵害のないよう特に慎重に取り扱うことが要請されている。
以下、本号に該当する理由を述べる。
本件請求は、特定の個人が、特定の事案において被害にあった内容の記載した文書の公開を求めるものである。特定の個人に関して、特定の事案の被害を受けたという情報及び当該事案について警察に被害申告をしたという情報は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるため、条例第9条第1号に該当する。
(イ)条例第12条に該当することについて
条例第12条は、公開請求に対し、当該公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、第10条第1項各号又は第2項各号に掲げる情報を公開することとなるときは、実施機関は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該公開請求を拒否することができると定めている。
これは、公開請求に係る行政文書の存在を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができるという趣旨である。
「公開請求に係る行政文書の存在を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合」とは、公開請求に係る行政文書が具体的にあるかないかに関わらず、公開請求された行政文書の存否について回答すれば、不開示情報を開示することとなる場合をいう。
公開請求に含まれている情報と不開示情報該当性とが結合することにより、当該行政文書の存否を回答することができない場合もある。
例えば、特定の個人の名を挙げて、この病歴情報が記録された文書の開示請求があった場合、当該行政文書に記録されている情報は非公開情報に該当するので、非公開であると答えるだけで、当該個人の病歴の存在が明らかになってしまう。
このような特定の者又は特定の事項を名指しした探索的請求は、条例第8条及び第9条の不開示情報のすべてについて生じると認められる。
以下、本号に該当する理由を述べる。
本件公開請求についてみると、「特定の個人に関して、特定の事案の被害を受けたという情報及び当該事案について警察に被害申告をしたという情報」という条例第9条第1号に規定する個人のプライバシー情報について、当該個人の行政文書が存在しない場合で「不存在」と答えると、当該個人を被害者とする被害届に関する書類がないことが分かる。
また、当該個人の行政文書が存在する場合で「部分公開」とすると、内容は不明であるが、当該個人を被害者とする被害届に関する書類が存在することが分かる。
よって、条例第12条に規定する存否応答拒否をしなければ、当該個人を被害者とする被害届に関する書類の有無が明らかになる。
(3)審査請求人の主張について
審査請求人は、「交番の警察官が被害届を代筆し、右手のひとさし指を署名の下に押したが、なぜ、右手のひとさし指なのか疑問に思うので。」、「そのとき、見せられた代筆の被害届をきちんと読まなかったので。」、「家の前を通る小学生、おばさんがドロボーと言って通っていくので。」旨主張している。
審査請求人に係る被害届及びこれに関する書類が、訴訟に関する書類に該当し、又は存否応答拒否をすべき行政文書に該当することは、前述のとおりであり、その主張は是認できない。
なお、自己情報開示請求については、
- ア 情報公開制度は、何人に対しても、開示請求を認める制度であり、開示・非開示の判断に当たり、開示請求者が誰であるかは考慮されず、条例等においても、本人開示に関し、特段の規定を設けておらず、請求手続規定もないこと。
- イ 個人情報保護条例の施行に伴い、旧条例にかつて定めていた本人開示規定を削除したという改正経緯から、現行の条例は、実質的に本人開示を明示的に否定する趣旨と解されること。
- ウ 公安委員会及び警察本部長にのみ本人開示を認めた場合、開示・非開示の判断が他の実施機関と異なることなど条例の適用に当たって、混乱が生じるおそれがある。
などを勘案すると、条例は、自己情報の開示請求権を保障したものとは解することはできず、本人に対する自己情報の開示は認めることができないと認められる。
(4)実施機関の結論
以上のとおり、本件各決定は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
2 諮問実施機関のまとめ
本件請求のうち、本件被害届に係る分については、条例第40条に規定する刑事訴訟法第53条の2の訴訟に関する書類に該当し、条例適用除外になり、かつ、本件被害届に関する書類に係る分については、行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することになるものと考えるところである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けるとともに、刑事訴訟法第53条の2の訴訟に関する書類及び押収物について、別途、条例の適用除外とする旨の規定をおいている。実施機関は、請求された情報がこれらの適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならないのである。
2 本件非公開決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件請求に係る行政文書のうち本件被害届は、「刑事訴訟法第53条の2の訴訟に関する書類」に該当し、条例第40条の規定により、条例の規定が適用されないと主張しているので、検討したところ、次のとおりである。
(1)条例第40条について
刑事訴訟に関する書類及び押収物については、ア 刑事司法手続の一環である捜査・公判の過程において作成・取得されるものであるが、捜査・公判に関する国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべきであること、イ 裁判の公正の確保、訴訟関係人の権利保護等の観点から、刑事訴訟法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する一方、事件終結後においては、刑事訴訟法第53条及び刑事確定訴訟記録法に基づき、一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき裁判所に対する準抗告の手続によることとされるなど、刑事訴訟法(第40条、第47条、第53条、第299条等)及び刑事確定訴訟記録法により、その取扱い、開示・非開示の要件及び開示手続等が自己完結的に定められていること、ウ 類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであることから、刑事訴訟法第53条の2の規定により、国の情報公開法の適用除外とされている(総務省行政管理局「詳解情報公開法」)。
本条は、この刑事訴訟法第53条の2の規定を受けて、府としても、刑事訴訟に関する書類等を保管している警察等の業務の全国的な斉一性を確保し、刑事司法秩序の維持に資する観点から設けられたものであり、「この条例の規定は、刑事訴訟法第53条の2の訴訟に関する書類及び押収物については、適用しない。」と規定している。
そして、刑事訴訟法上、「訴訟に関する書類」とは、裁判所が事件記録として編てつした「訴訟記録」だけではなく、刑事司法手続における被疑事件・被告事件に関して作成又は取得された書類(意思表示的書類(起訴状など)、報告的書類(鑑定書、証人尋問調書など)、手続関係書類(弁護人選任届など)、証拠書類(捜査報告書、供述録取書、実況見分調書など)を含む。)であれば、不起訴になった事件に関するものも含むと解されていることが認められ、本条の「訴訟に関する書類」についても、同様に解すべきである。
(2)本件被害届の条例第40条該当性について
本件請求に係る行政文書のうち本件非公開決定の対象となっているのは、審査請求人が、警察署に提出した特定の事案についての被害届である。このように警察の機関に提出される被害届は、刑事事件の捜査に資するため、被害者が、犯罪による自らの被害を届け出るものであって、刑事事件に係る捜査の端緒として最も一般的なものであり、当該事案が起訴に至った場合には、刑事訴訟における重要な証拠書類ともなりうるものでもある。
以上のことからすると、本件被害届は、実施機関が刑事事件に係る捜査のために取得する文書であり、(1)で述べたところによると、その事件が刑事事件として起訴に至ったか否かにかかわらず、「刑事訴訟法第53条の2の訴訟に関する書類」に該当すると認められる。
したがって、本件被害届については、条例第40条の規定により、条例の規定が適用されないから、本件非公開決定は妥当である。
なお、審査請求人は、刑事訴訟法第47条の但し書に「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」と規定されていることを根拠に、公開を請求する旨の主張もしていると解されるが、刑事訴訟法第47条但し書に基づく公開は、条例に基づく行政文書の公開とは、全く別の手続であり、行政文書の公開に関する本件審査請求において、この主張を審査することはできないものである。
3 本件請求拒否決定に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件請求に係る行政文書のうち本件被害届に関する書類は、当該文書があるかどうかを答えるだけで条例第9条第1号に該当する情報を公開することになり、条例第12条に該当すると主張しているので、検討したところ、次のとおりである。
(1)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号は、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
同号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
そして、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」とは、個人のプライバシーに関する情報を例示したものであり、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。
また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。
(2)条例第12条について
本条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めたものである。
本条は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かを答えるだけで適用除外事項に該当する情報を公開することとなる場合にのみ例外的に適用できるのであって、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねない。本条の運用にあたっては、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによって生じる権利利益の侵害や事務執行の支障等を各適用除外事項に照らして具体的かつ客観的に判断する必要があると解されるところである。
(3)本件被害届に関する書類の存否を答えることにより明らかとなる情報とその条例第9条第1号該当性について
本件被害届に関する書類(「1985年(昭和60年)6月又は7月ごろ私がひったくりの被害にあい、守口警察署へ提出した事件番号が付いた被害届に関する書類」)は、「特定の個人がひったくりの被害にあったこと」及び「当該個人がその旨を警察署に届け出たこと」を前提として実施機関において作成又は取得されるものであり、実施機関が該当する行政文書があるとして公開・非公開の決定を行うだけで、「特定の個人がひったくりの被害にあったこと」及び「当該個人がその旨を警察署に届け出たこと」を明らかにすることとなる。
これら本件被害届に関する書類の存否を答えることにより明らかとなる情報は、(1)ア及びイの要件に該当することが明らかであり、その内容が犯罪被害歴やその警察への届出歴という私生活上の機微にわたる事項に関するものであることからすると、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められるから、(1)ウの要件にも該当する。
したがって、本件被害届に関する書類は、その存否を答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるものであり、本件請求拒否決定は妥当である。
4 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は、本件審査請求において、本件請求に係る行政文書が審査請求人自身に係る文書であること、また、本件請求に係る被害届の内容や体裁、作成された際の経過、その後の管理等に関して種々疑義があることを主張して、本件請求に係る行政文書の開示、とりわけ、写しの交付を強く求めている。
しかしながら、条例においては、「何人も、実施機関に対して、行政文書の公開を請求することができる。」(条例第6条)と規定して請求者を何ら区別することなく行政文書の公開を請求する権利を付与しており、第8条及び第9条に規定する公開・非公開の基準においても、請求者が本人である場合について特則を設けず、個人情報の本人開示に不可欠な本人確認の手続も定めていない。また、大阪府では、昭和59年に制定された公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)においては、一般の公文書の公開に加えて、公文書の本人開示に係る規定が置かれていた(同条例第17条)が、平成8年に個人情報保護条例(平成8年大阪府条例第2号)が制定され、同条例に自己に関する個人情報の開示の規定が設けられたことから、公文書公開等条例の公文書の本人開示に係る規定が削除された経緯もある。
これらのことからすると、条例に基づく行政文書公開制度においては、請求者が誰であるかによって、公開・非公開等の決定内容に差異を設けることはできないのであり、その公開請求に係る行政文書が請求者の個人情報を記録したものであるからといって、他の請求者と異なる公開決定を行うことはできない。
なお、本件請求に係る行政文書については、警察本部長が大阪府個人情報保護条例の実施機関になっていないため、同条例に基づく自己に関する個人情報の開示の規定は適用されないが、実施機関においては、その文書の作成又は取得及びその後の管理の状況等について可能な範囲で説明するなど、審査請求人が主張する疑義の解消に、引き続き努力されることを期待するものである。
5 結論
以上のとおりであるから、本件審査請求には理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。