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更新日:2009年8月5日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第92号)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった公開請求拒否決定を取り消し、改めて当該公開請求に係る行政文書を特定した上で、全部若しくは一部の公開又は非公開の決定を行うべきである。

第二 本件異議申立てに至る経過

  1. 平成14年10月4日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、「A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した問題に関連する以下の資料、及びその基礎となる資料のすべて 1.B教委から府教委への事故の報告に関する資料 2.同校校長ら○名が○○されたことに関する資料」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
  2. 同年10月18日、実施機関は、本件請求について、公開請求を拒否する旨の決定(以下「本件決定」という。)を行い、下記のとおり理由を付して異議申立人に通知した。
    (公開請求を拒否する理由)
    本件公開請求は、特定の学校において生徒の事故があったこと等が明らかになる行政文書の公開を求めるものであり、当該公開請求に係る行政文書が存在するか否かを答えるだけで、大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する情報を公開することとなるため。
  3. 同年12月16日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件決定の取り消し、及び当該情報の全部公開を求める。

ただし、個人の住所、電話番号、生年月日、個人を識別するための番号・記号、暗証番号、生育歴、学歴、及び本人の了解を得ていない個人(私人・公務執行中以外の公務員)の氏名を除く。

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

  1. 本件決定は条例前文、第1条、第3条の趣旨に反する。
    本件請求は、○年○月○日にB教育委員会に対して異議申立人が行った情報公開請求により既に部分公開されている資料であり、もはや実施機関が請求拒否をしなければならない理由は失われているというべきである。
    本件請求をする際に、実施機関の担当者に対してはこの旨を説明していたにもかかわらず、かかる決定がなされたことは極めて遺憾である。

第五 実施機関の主張要旨

実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。

1 小中学校における事故の報告について

小中学校は、教育活動を行うにあたっては、児童生徒の生命・身体の安全確保のために最大の注意を払うとともに、事故の防止に必要な措置を十分講じている。しかし、不幸にして事故が発生した場合には、小中学校長は適切な応急措置を行うとともに、事実関係の正確な把握に努め、各市町村で定められている「小学校及び中学校の管理運営に関する規則」に基づき報告書を作成し、市町村教育委員会へ報告しなければならないことになっている。ちなみに、旧文部省は、「何々市(町村)立小学校及び中学校の管理運営に関する規則(準則)」(昭和32年10月1日 教委総第528号)を示しており、同準則第11条で伝染病等発生の報告として「学校内及び通学区域内に伝染病が発生したときは、校長は、すみやかに教育委員会に報告しなければならない。職員及び生徒等に、中毒その他の集団的疾病、傷病、死亡等の事故が発生したときも、同様とする。」と校長の死亡等事故の報告義務を定めるよう市町村教育委員会に対して指導しているところである。大阪府内の全ての市町村教育委員会においては、各教育委員会の規則において、校長の市町村教育委員会への事故報告義務が規定されている。

校長から報告を受けた市町村教育委員会は、事故等の状況を客観的に把握し、教育委員会のもつ経験・知識を生かした指導・助言により校長の対応を支援していく。

また、実施機関は、市町村教育委員会に対し、生徒の傷害、事故などによる死亡等が発生したときには、速やかに実施機関に報告するよう指導している。

事故報告書について、実施機関で様式等を定めてはおらず、一般的には次の項目が記載されることが多い。

  • (1)事故に遭った本人の氏名、性別、年齢、学年
  • (2)事故発生の日時及び場所
  • (3)事故の種類又は死因
  • (4)事故発生の原因及び状況概要
  • (5)学校の事故確認の方法
  • (6)本人の事故発生後の経過
  • (7)学校のとった措置
  • (8)その他参考となる事項

2 ○○に関する報告について

教職員がいわゆる○○された場合、校長がその事実を市町村教育委員会に報告する義務は、法令等で規定されていない。しかしながら、上記の事故報告書の中で、○○についても言及される可能性はあり、同様に市町村教育委員会から実施機関への報告の中で○○の事実に触れている可能性はある。

3 本件決定の妥当性について

本件請求に係る行政文書は、A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した問題に関連する以下の資料、及びその基礎となる資料のすべて 1.B教委から府教委への事故の報告に関する資料 2.同校校長ら○名が○○されたことに関する資料」である。これらの文書は、当該中学校の生徒が○○により突然死したことを前提として作成又は取得されるものであることから、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えることは、当該中学校の生徒が○○により突然死した事実の有無を答えることと同様の結果が生じることとなる。

本件請求に係る行政文書公開請求書の「行政文書の名称、ファイル名等」欄には、事故に遭った生徒の中学校名、学年、性別、事故発生に係る年月・授業科目・死亡原因が記載されている。ここでは生徒の個人名は直接には特定されていないが、当該事故が発生している場合には、これらの情報を他の関連情報と照合し、あるいは相互に組み合わせることによって、事故に遭った生徒を特定することが可能である。このため、本件請求に係る行政文書が存在している場合には、そのことを答えるだけで特定の生徒が当該事故に遭ったことが明らかになる。そして、特定の生徒が○○で突然死した事実の有無は、個人の心身等に関する情報であって、一般的に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものであり、条例第9条第1号に該当するから、本件請求は、特定の個人名を示してプライバシーに関わる情報を請求したものと同じことになる。

以上のことから、本件請求に係る行政文書が存在している否かを答えるだけで、当該中学校の特定の生徒が○○で突然死した事実の有無という、条例第9条第1号に該当し公開が禁止されている個人のプライバシーに関する情報を公開することになるので、条例第12条の規定により本件請求を拒否したものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより、「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けるとともに、公開請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する情報を公開することとなる場合には、実施機関は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該公開請求を拒否することができる旨定めており、実施機関は、請求された情報がこれらの規定に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について

実施機関は、本件請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、条例第9条第1号に該当する情報を公開することになると主張するので、以下検討する。

(1)条例第9条第1号について

条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨規定している。

本号は、このような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。

同号は、

  • ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
  • イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
  • ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる

情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。

そして、「特定個人が識別され得る」情報とは、当該情報のみによって直接特定の個人が識別される場合に加えて、容易に入手し得る他の情報と結びつけることによって特定の個人が識別され得る場合を含むと解される。

また、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、社会通念上、他人に知られることを望まないものをいうと解される。

(2)条例第12条について

本条は、公開請求に係る行政文書の存否を明らかにするだけで第8条及び第9条に規定する適用除外事項によって保護される利益が害されることとなる場合には、例外的に公開請求に係る行政文書の存否自体を明らかにしないで公開請求を拒否することができる旨を定めたものである。

本条は、公開請求に係る行政文書が存在するか否かを答えるだけで適用除外事項に該当する情報を公開することとなる場合にのみ例外的に適用できるのであって、安易な運用は行政文書公開制度の趣旨を損なうことになりかねない。本条の運用にあたっては、公開請求に係る行政文書の存否が明らかになることによって生じる権利利益の侵害や事務執行の支障等を各適用除外事項に照らして具体的かつ客観的に判断する必要があると解されるところである。

(3)本件請求に係る行政文書の存否を答えることにより明らかとなる情報の条例第9条第1号該当性について

本件請求に係る行政文書は、「A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した問題に関連する以下の資料、及びその基礎となる資料のすべて 1.B教委から府教委への事故の報告に関する資料 2.同校校長ら○名が○○されたことに関する資料」である。

これらの行政文書は、いずれも「A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した」事故の発生を前提として実施機関において作成又は収受されるものであり、実施機関が本件請求に係る行政文書があるとして公開・非公開の決定を行うだけで、「A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した」事故が発生したこと、さらには、当該事故に関して「B教育委員会から実施機関への事故の報告」があったこと、「同校校長ら○名が○○されたこと」を確認することができることとなる。また、これら本件請求に係る行政文書の存在を答えることにより明らかとなる情報のうち、「A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した」事故が発生したという情報については、生徒が死亡した状況という個人のプライバシーに関する情報であり、生徒の氏名は含まれていないものの、学校名、学年、性別、発生年月等の情報を含んでいることから、容易に生徒個人が特定され得る情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当と認められ、特段の事情のない限り、条例第9条第1号に該当すると認められる。

しかしながら、審査会において調査したところ、本件事故については、関係者が○○された○年○月の時点で、一般に広く購読されている新聞の多くが、学校名、事故の発生時期、生徒の学年、性別及び年齢、事故の内容並びに○○された教職員の年齢などを報道していることが確認されており、「A中学校○年男子が○年○月、○○により突然死した」事故が発生したことについては、平成14年10月の本件請求時においても、図書館での閲覧等を通じて、一般人が容易に知り得る状況にあったと認められる。

このような事情を踏まえると、本件請求に係る行政文書の存否を答えたとしても、新たに条例第9条第1号に該当する情報を公開することにはならないものであり、本件請求に対しては、条例第12条に基づき、公開請求を拒否することはできない。

なお、異議申立人は、本件請求に係る行政文書は、「B教育委員会に対して異議申立人が行った情報公開請求により既に部分公開されている資料であり、もはや実施機関が請求拒否をしなければならない理由は失われている。」と主張するが、地方公共団体の情報公開制度は、それぞれ異なる条例に基づいて自律的に実施される(ちなみに、B情報公開条例には、府条例第12条に相当する規定がない。)ものであり、他の地方公共団体で公開請求拒否決定が行われなかったからといって、直ちに府条例に基づく公開請求拒否決定について、違法、不当な決定とみるべきものではない。

3 結論

以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由があり、実施機関は、本件決定を取り消し、改めて本件請求に係る行政文書を特定した上で、当該行政文書について、全部若しくは一部の公開又は非公開の決定を行うべきであると判断されるので、「第一 審査会の結論」のとおり、答申するものである。

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