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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第65号)
(答申第65号)安威川ダム用地買収土地台帳等部分公開事案(答申日 平成13年3月30日)
- 対象行政文書
安威川ダム用地買収に係る- 土地台帳(平成8年度、平成10年度、平成11年度、平成12年度)
- 補償台帳(平成11年度、平成12年度)
- 買戻し台帳(平成8年度、平成10年度、平成11年度)
- 実施機関の決定
- (1)実施機関
大阪府知事(担当課 土木部安威川ダム建設事務所) - (2)決定内容
部分公開決定- ア 非公開部分
- 平成10年度以前の土地台帳のうち、取得面積、取得単価、取得金額、土地売渡者及び支払金額の各欄に記載された情報
- 平成11年度以降の土地台帳のうち、取得面積、取得単価、取得金額、土地売渡者住所氏名及び支払金額の各欄に記載された情報(財産区に係る取得面積及び土地売渡者住所氏名の欄並びに取得面積の合計欄に記載された情報を除く。)
- 補償台帳のうち、補償額の内訳、契約金額計、所有者住所氏名及び支払金額の各欄に記載された情報(契約金額計及び支払金額の合計欄に記載された情報を除く。)
- 買戻し台帳(土地に係るもの)のうち、取得面積、取得単価、取得金額、買戻面積、買戻金額、内訳及び土地売渡者の各欄に記載された情報(財産区に係る取得面積、買戻面積及び土地売渡者の欄に記載された情報並びに金額が0のものを除く。)
- 買戻し台帳(補償に係るもの)のうち、氏名、契約金額、買戻金額及び内訳の各欄に記載された情報(金額が0のものを除く。)
- イ 公開しない理由
- 条例第8条第1号に該当する。
本件非公開部分には、法人が売却した土地、建物の金額等が記載されており、これらを公にすることにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。 - 条例第8条第4号に該当する。
本件非公開部分に記載された情報は、安威川ダム建設事業に係る用地買収事務に関する情報であって、これらを公にすると、土地所有者等が実施機関に対して不信や不快の念を抱くなどにより、今後、当該事務に対する理解や協力が得られなくなり、当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - 条例第9条第1号に該当する。
本件非公開部分には、個人が売却した土地、建物の金額等が記載されており、これらの情報は、個人の所得等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- 条例第8条第1号に該当する。
- ア 非公開部分
- (1)実施機関
- 異議申立て
- (1)申立ての趣旨
非公開(部分)決定処分を取り消すとの処分を求める。 - (2)理由(要旨)
- ア 条例8条1号及び条例9条1号に該当しないことついて
- (ア)取得単価について
大阪府は関係5地区代表と知事との間で締結された損失補償基準協定にもとづき地権者と契約し、用地等を取得している。
基準協定には、大阪府が買収するための基準となる単価と各土地の広さや形状など条件差による減価率などが取り決められている。基準協定は公表されているから、取得単価を秘密にすべき合理的理由はない。 - (イ)土地売渡者等の氏名・住所及び取得面積について
土地及び物件の「所在地」は公開されており、何人でも閲覧のできる土地・家屋登記簿記載の情報と照合し、氏名・住所・面積は容易に知ることができ、これらを秘密にすべき合理的理由はない。 - (ウ)取得金額等について
取得単価と取得面積を掛け合わせることによって取得金額は容易に知ることができ、これを秘密にすべき合理的理由はない(契約金額・買戻金額・支払金額についても同様。)。
また、本件取引は租税特別措置法の適用もあるため、非公開とされるはずであると誰しも期待するようなものではない。
- (ア)取得単価について
- イ 条例8条4号に該当しないことについて
協定書に合意した地元地権者が、将来の土地買収に際して協定書にも定められている個別的要因の差異を無視し、『取得金額等』と同一の価格条件を固執するとは到底考えられない。
また、実施機関は、『取得金額等』が判明するようであると地元地権者が取引しなくなると主張するが、協定書に合意した地元地権者がそのような行動に出るとは到底考えられない。
協定書の公開請求にたいし、大阪府は全面公開したが、その際地元からは「公開しないでほしい」との意見や要望はいっさい出されていない。
府や地元地権者は、『取得金額等』の推測がつくことを了解しており、「未買収地の土地所有者等が将来同程度の評価が得られると推測」したり、「一般に流布されることにより当該土地所有者に不確実な期待や不安を与える」などは全く考えられない。 - ウ 公開の必要性等
大阪府が府民の税金で取得した土地等であり、府民は知る権利がある。
本件と同一の情報は川崎市、横浜市、鎌倉市などで全面公開されており、行政に対する信頼が増したと評価されている。
土地開発公社が取得した土地の価格情報について『価格情報は、プライバシー保護の必要性よりも公開の必要性が優先する。』と全面開示した裁判例がある(横浜地裁平成11年1月25日判決、東京高裁同趣で確定。)。
安威川ダム事業にかかる税金は莫大であり、『取得金額等』の公開は必要不可欠である。(「公益上特に必要と認める情報」(条例第11条第1項)に該当する。)
- ア 条例8条1号及び条例9条1号に該当しないことついて
- (1)申立ての趣旨
- 大阪府情報公開審査会の答申
- (1)審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、別表に掲げる部分([1]本件取得金額等のうち財産区に係るもの、[2]土地売渡者並びに小屋、工作物、樹木等の物件及び耕作権について補償を受けた者の氏名又は名称、[3]本件取得面積等)を公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。 - (2)理由(要旨)
- ア 条例第8条第4号について
- (ア)本件取得金額等(土地台帳に記載された「取得単価」「取得金額」及び「支払金額」、補償台帳に記載された「契約金額」「支払金額」及び補償額の内訳、買戻し台帳に記載された「取得単価」「取得金額」「契約金額」「買戻金額」及びその内訳)について
本件安威川ダム建設事業に関する限り、本件取得金額等のうち個人や株式会社、宗教法人に係るものについては、これを公にすることにより、当該土地売渡者等に不快、不信の感情を抱かせ、あるいは、今後の用地取得交渉の相手先等に実施機関に対する不満や不信の念を抱く者が生じることは十分に予測されるところであり、その結果、実施機関が、改めて、こうした地元関係者の理解と協力を得るために多大な労力、時間、経費等を要することは避けられないものと考えられ、これを公にすることの公益性や必要性等を考慮したとしても、少なくとも現状においては、当該ダム建設事業における交渉、協議等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
一方、本件取得金額等のうち財産区に係るものについては、茨木市長を管理者とする地方自治法上の特別地方公共団体に関する情報であることから、支障は全く考えられないものであり、また、これが明らかになることにより近傍の土地等の評価額が類推され得ることがあるとしても、公共団体の保有する資産の評価として、本来公にされることが予定されている情報であることなどからすれば、これを公にすることにより、当該交渉、協議等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすとは認められない。 - (イ)本件土地売渡者等(所有地を売り渡した者及び耕作権、小屋、工作物、樹木等の物件について補償を受けた者)の氏名及び住所等について
土地売渡者の氏名及び名称については、既に土地登記簿において公示されており、その住所及び所在地についても同じ内容が登記されていることが認められることから、いずれも何人でも容易に知り得る情報であって、これを公にすることによる支障は考えられないというしかなく、条例第8条第4号に該当するとは認められない。
小屋、工作物、樹木等の物件について補償を受けた個人の氏名と法人の名称については、現に登記されている情報ではないものの、こうした外見上明らかな物件について、通常その所有者名までを秘匿することは考えられず、その移転等についても一見して明らかであり、また、公費の支出先として、本来、公にされるべき性格の情報であることなども併せ考慮すれば、地元自治会等の反対については、実施機関として理解と協力を求めるなどにより克服すべきものであるといえ、これを公にすることにより、今後の交渉等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障をおよぼすおそれがあるとは認められない。当該法人の所在地についても、その名称の公開を前提とすれば、商業登記簿等により何人でも容易に知り得るものであり、条例第8条第4号に該当するとは認められない。
耕作権について補償を受けた者の氏名についても、同様に、本来公にされるべき性格の情報であり、また、実施機関からの「第三者意見書提出機会通知書」に対し、公開に反対の意思「有」とする回答は提出されていないことなどから、今後の交渉等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障をおよぼすおそれがあるとは認められない。
物件又は耕作権について補償を受けた個人の住所については、登記簿等で公示されている情報ではなく、その氏名の公開を前提とした場合、当該個人の私的な生活の本拠を明らかにするものとして通常公にされることを望まない場合が多いと考えられ、公費の支出先に関する情報であること等を考慮したとしても、そのこと自体が正当でないとはいえず、これを公開することにより、当該個人等が実施機関に対して不満や不信の念を抱き、その結果、今後、当該安威川ダム建設事業に係る交渉や協議等に応じなくなるなど、当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。 - (ウ)本件取得面積等について
本件安威川ダム建設事業の特殊性、特に、本件用地買収等により生活基盤を失うこととなる者等の意向に配慮したとしても、本件取得面積等は、外見上も明らかに確定した公有地の実測面積であり、本来、何人でも容易に知り得べきものであって、各土地の「取得単価」が公にされない以上、その実測面積から直ちに取得金額等が算定できるものではないことなども併せ考慮すれば、これを公にすることにより、地元関係者等が、今後当該事業に係る協議、交渉等に応じなくなるなどの事態は想定できないというしかなく、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、条例第8条第4号に該当しない。
- (ア)本件取得金額等(土地台帳に記載された「取得単価」「取得金額」及び「支払金額」、補償台帳に記載された「契約金額」「支払金額」及び補償額の内訳、買戻し台帳に記載された「取得単価」「取得金額」「契約金額」「買戻金額」及びその内訳)について
- イ その余の条号について
実施機関が条例第8条第1号又は第9条第1号に該当すると主張する「本件取得金額等」の部分(財産区に係るものを除く。)については、全て条例第8条第4号に該当し、公開しないことができる情報であると認められるので、その余の条号の該当性については判断するまでもない。
- ア 条例第8条第4号について
- (1)審査会の結論
大阪府情報公開審査会答申(全文)
第一 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、別表に掲げる部分を公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成12年9月13日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、「安威川ダム用地・補償台帳」の公開請求(以下「本件請求」という。)をした。
- 同年10月12日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)に示す部分(以下「本件非公開部分」という。)を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
- (1)本件行政文書
- 平成8年度土地台帳
- 平成10年度土地台帳
- 平成11年度土地台帳
- 平成12年度土地台帳
- 平成11年度補償台帳
- 平成12年度補償台帳
- 平成8年度買戻し台帳
- 平成10年度買戻し台帳
- 平成11年度買戻し台帳
- (2)公開しないことと決定した部分
- 平成10年度以前の土地台帳のうち、取得面積、取得単価、取得金額、土地売渡者及び支払金額の各欄に記載された情報
- 平成11年度以降の土地台帳のうち、取得面積、取得単価、取得金額、土地売渡者住所氏名及び支払金額の各欄に記載された情報(財産区に係る取得面積及び土地売渡者住所氏名の欄並びに取得面積の合計欄に記載された情報を除く。)
- 補償台帳のうち、補償額の内訳、契約金額計、所有者住所氏名及び支払金額の各欄に記載された情報(契約金額計及び支払金額の合計欄に記載された情報を除く。)
- 買戻し台帳(土地に係るもの)のうち、取得面積、取得単価、取得金額、買戻面積、買戻金額、内訳及び土地売渡者の各欄に記載された情報(財産区に係る取得面積、買戻面積及び土地売渡者の欄に記載された情報並びに金額が0のものを除く。)
- 買戻し台帳(補償に係るもの)のうち、氏名、契約金額、買戻金額及び内訳の各欄に記載された情報(金額が0のものを除く。)
- (3)公開しない理由
- 条例第8条第1号に該当する。
本件非公開部分には、法人が売却した土地、建物の金額等が記載されており、これらを公にすることにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。 - 条例第8条第4号に該当する。
本件非公開部分に記載された情報は、安威川ダム建設事業に係る用地買収事務に関する情報であって、これらを公にすると、土地所有者等が実施機関に対して不信や不快の念を抱くなどにより、今後、当該事務に対する理解や協力が得られなくなり、当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - 条例第9条第1号に該当する。
本件非公開部分には、個人が売却した土地、建物の金額等が記載されており、これらの情報は、個人の所得等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- 条例第8条第1号に該当する。
- (1)本件行政文書
- 同年10月25日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。
第三 異議申立ての趣旨
非公開(部分)決定処分を取り消すとの処分を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 異議申立ての経過
[記載略]
2 異議申立ての理由
(1)非公開の不当性について
1999年3月、安威川ダム関係5地区(生保、大岩、車作、桑原、大門寺)地元代表と大阪府知事の間で安威川総合開発事業(安威川ダム建設)に伴う損失補償基準協定(以下第四の2において「基準協定」という。)が締結された。
基準協定には、水没や関連道路などで立ち退きを余儀無くされる69戸を含む180人の地権者の土地約143ヘクタールについて、大阪府が買収するための基準となる単価と各土地の広さや形状など条件差による減価率などが取り決められている。
- ア 取得単価について
本件は、安威川ダム建設に伴い、損失補償基準法にもとづき大阪府と安威川ダム関係地区代表が「大阪府が買収するための規準となる単価と各土地の広さや形状など条件差による減価率などを取り決めた」ものであり、大阪府は基準協定にもとづき地権者と契約し、用地等を取得している。
基準協定は公表されており、取得単価を秘密にすべき合理的理由はない。 - イ 土地売渡者等の氏名・住所及び取得面積について
土地及び物件の「所在地」は公開されており、何人でも閲覧のできる土地・家屋登記簿記載の情報と照合し、氏名・住所・面積は容易に知ることができ、これらを秘密にすべき合理的理由はない。 - ウ 取得金額について
公表されている取得単価と取得面積を掛け合わせることによって取得金額は容易に知ることができ、これらを秘密にすべき合理的理由はない。(契約金額・買戻金額・支払金額についても同様。)
(2)公開の必要性について
- ア 本件は、大阪府が府民の税金で取得した土地等であり、府民は公共事業用地の土地情報等について知る権利がある。また、府民が「土地等の取得が適正に行われたか」「税金の支出が適法に行われたか」をチェックするためにも、また「公共事業の透明性を担保」する上からも公開は不可欠である。
- イ 本件は、取得単価と土地売渡者等の氏名・住所及び取得面積が公表されており、取得金額は公開された情報から容易に知りえるものであり、これらの情報を公開することにより、個人・法人のプライバシーを侵害し、行政の事業執行に著しい支障を及ぼすとはとうてい考えられない。
- ウ 本件と同一の情報は川崎市、横浜市、鎌倉市などで全面公開されており公開によって税金が適正に執行されたか―市民のチェックが可能となり、公共事業の透明性が高まり、行政に対する信頼が増した評価されている。
- エ 『市や公社による公有地の取得価格は、公示価格を規準に一律に決定される性格の強いものであり(公有地の拡大推進に関する法律第7条)、私人間の自由な交渉のように当事者の個別的事情に基づく交渉結果が売買価格に反映される要素は少ないため、ある程度譲渡価格は見当つくものであり、公開されてもプライバシーの侵害の程度は少ない。』(横浜地裁平成11年1月25日判決、東京高裁同趣で確定。)と判示し、土地開発公社の価格情報について『価格情報は、プライバシー保護の必要性よりも公開の必要性が優先する。』と全面開示した。
- オ 今回の非公開決定は、「事業の必要性の検証」「事業の透明性の確保」「税金の使途の明確化」など公共事業の情報公開の流れに逆行するものであり、納税者たる府民の合意を得るためにも、安威川ダム事業(本件情報を含む)の全面的な情報公開は不可欠である。
3 非公開処分に対する弁明書への反論
(1)反論の趣旨と目的
大阪府の弁明書記載の趣旨・理由には根拠がない。したがって、「実施機関の決定は妥当ではない」「公開せよ」との答申を求める。
(2)反論書を提出する経過と理由
1997年建設省は、ダム計画の中止6箇所・休止12箇所・凍結70箇所、98年には19ダムの中止・休止を決定した。
今年(平成12年)に入って、吉野川可動堰・中海干拓・細川内ダムの中止、雑賀崎(和歌山)の開発見直し、びわ湖空港(滋賀県)の凍結、大仏ダム(長野県)の中止など大型公共事業の見直しが相次いでいる。
長野県の浅川ダムは、用地買収を終えているが、新たに就任した田中知事が住民との話し合いを優先、一時中止の決定をおこなった。
このような見直しの背景には、地元の粘り強い反対運動に加え、税金を垂れ流し、事業効果の薄い大型公共事業が住民の信頼を得ていないことがあげられる。地元住民だけでなく、(税金を出す)住民との信頼関係や同意が今日問われており、信頼関係や同意がないダムが、軒並み中止に追い込まれているのは当然の結果である。
大阪府営安威川ダムは総事業費1000億円(周辺整備を含め1300億円)で、これまで用地の先行取得、付替道路の整備、調査費などに多額の税金が支出されてきた。安威川ダムも計画から33年を経ているが、いまだ用地買収も完了していない。茨木北部丘陵地域の自然を守る市民会議(以下「市民会議」という。)では、この機にもう一度立ち止まりその必要性や安全性について、話し合いを大阪府に要望してきたが、かたくなに拒否している。
弁明書は、安威川ダム事業の進捗や地元との信頼関係、地元の意向など大阪府や地元地権者に都合のいい主張に終始し、(税金を出す)府民との信頼関係には全く触れていない。
このような態度が、行政に対する不信を一層助長する要因となっている。
必要性や安全性の検証が不十分であったり、十分な話し合いや住民の不信を解消する手立てを講じることなく、「まずダムありき」で強引に事業を押し進めてきた大阪府の姿勢こそ問題である。
今日、大阪府は3兆円を超える借金を抱え、赤字再建団体(準用団体)寸前の状況となっており、税金の使途に府民の眼はことのほか厳しい。
安威川ダム事業も府民の信頼を得ているとは言えず、(税金を出す)大阪府民の信頼や同意をえるためにも、本件の情報開示は必要不可欠である。
また、本件文書は「税金が適正に執行されたか」を知る上で必要不可欠な文書であり、「公共事業の透明性」の観点から是非とも公開すべき文書である。
(以下第四において「条例」とは大阪府情報公開条例を言う。)
(3)反論の内容及び理由
- ア 条例第9条第1号について
- (ア)非公開部分
- [1]土地に関する情報
取得単価、取得金額、支払金額、買戻金額及びその内訳 - [2]補償に関する情報
補償費の内訳、契約金額、支払金額、買戻金額及びその内訳
([1]・[2]を、以下第四において『取得金額等』という)
- [1]土地に関する情報
- (イ)損失補償基準協定書について
本件土地の買収にあたっては、各地区の地権者(車作、大岩、生保、大門寺、桑原)と大阪府との間で締結した「安威川総合開発事業(安威川ダム建設)に伴う損失補償基準協定書」(以下第四において「協定書」という)に基づいている。
水没や関連道路などで立ち退きを余儀無くされている69戸を含む180人の土地約143ヘクタールが対象となる。
協定書は公開されており、主として土地や移転を必要とする物件等の補償を記載したものであり、協定書に基づき各地権者との交渉→合意→契約締結→買収が行われている。
大阪府では買収後、土地・補償・買戻台帳にわけてコンピューターに入力して電磁的記録として保管している。また、一定期間ごと台帳を打ち出して文書で保管している。
協定書では、第1章-総則(補償の対象、補償の方法)、第2章-土地の取得に係る補償(土地取得価格)、第3章-通常生じる損失の補償(物件補償等)そして個別的要因基準表が加えられている。
特に、第2章では、各地区ごとに宅地、農地、林地に区分し、かつ土地の等級別に価格(以下第四において『等級別価格』という)が決められている。又各土地の広さや形状など条件差による減価率などが個別的要因基準表に示されている。 - (ウ)条例第9条第1号該当性について
- [1]『取得金額等』は個人の資産の全部ではなく一取引のものである。
- [2]『等級別価格』は地元地権者と大阪府が合意した金額であり、公表されている。
- [3]『等級別価格』と何人に閲覧できる登記簿に記載されている面積とを掛け合わせると、ある程度取得金額の見当がつくので、プライバシーの侵害の程度は極めて低いものと言える。
- [4]又、本件取引は租税特別措置法の適用もあるため、非公開とされるはずであると誰しも期待するようなものではない。
- (ア)非公開部分
- イ 条例第8条第1号について
- (ア)非公開部分
『取得金額等』 - (イ)条例第8条第1号該当性について
- [1]『取得金額等』は、法人等の資産の全部ではなく一取引のものである。
- [2]『等級別価格』は地元地権者と大阪府が合意した金額であり、公表されている。
- [3]『等級別価格』に基づいて取得したものであり、当該法人の財産運営状況や経営状況等の特殊性が推測されるおそれは少ない。
- 以上、非公開部分の『取得金額等』は、条例第8条第1号にいう「法人等情報」に該当しない。
- (ア)非公開部分
- ウ 条例第8条第4号について
- (ア)非公開部分
- [1]土地に関する情報
土地売渡者の氏名・住所・取得面積、買戻面積 - [2]補償に関する情報
所有者の氏名・住所
([1]・[2]を、以下第四において『氏名等』という) - [3]『取得金額等』
- [1]土地に関する情報
- (イ)相手方との信頼関係について
安威川ダム事業地の『等級別価格』は、大阪府と地元地権者との合意に基づき決定されたものであり、公開されている。又、租税特別措置の優遇を受けるなど全く非公開とされると期待するのは社会通念に反する。
『取得金額等』が知られることがあるかも知れないと考えるのがむしろ常識であり、公開することによって協定書に合意した地元地権者との信頼関係を損なうとはとうてい考えられない。 - (ウ)用地買収上の支障について
- [1]安威川ダム事業地の等級別価格は、大阪府と地元地権者との合意に基づき決定されたものであり、公開されている。
当該土地について価格が判明しても近隣地権者の取得価格が同額になるものではない。なぜなら、協定では各土地の広さや形状等条件差による減価率を個別的要因基準表に定めており、『取得金額等』に差異が生じるのは当然である。
協定書に合意した地元地権者は、このことを十分承知している。 - [2]協定書に合意した地元地権者が、将来の土地買収に際してそのような個別的要因の差異を無視し、『取得金額等』と同一の価格条件を固執するとは到底考えられない。
「『取得金額等』が判明するようだと手の内を見せてしまい将来の同種事業を進めることの支障になる」との主張も価格の違いを無視したものであり、協定書に合意した地元地権者がそのような主張をするとは到底考えられない。 - [3]「『取得金額等』が判明するような取引であると地元地権者が取引しなくなる」と主張するが、協定書に合意した地元地権者がそのような行動にでるとは到底考えられない。
特に、租税特別措置が施され租税負担が通常より低いという「動機付け」がある以上、完全に非公開でないと交渉に応じないのではないかとの懸念は、必ずしも現実的なものではない。 - [4]安威川ダム事業は継続事業であり用地買収に不測の事態や推測・期待・不安等が生じないように各地区ごとに協定を締結し、各地権者も『等級別価格』などに合意し、地元市長も立ち会い、大阪府と地元地権者の代表が協定書を締結している。
具体的には、継続事業の性質上、将来地価が下がっても、年数が経過しても、協定書の『等級別価格』はそのまま据え置かれ(通常の公共事業では時点修正が行われる。)、地元地権者に有利な内容となっている。市民会議の行った協定書の公開請求にたいし、大阪府は全面公開したが、その際地元からは「公開しないでほしい」との意見や要望はいっさい出されていない。
したがって、大阪府や地元地権者は、公開によって『取得金額等』の推測がつくことを了解しており、「未買収地の土地所有者等が将来同程度の評価が得られると推測」したり、「一般に流布されることにより当該土地所有者に不確実な期待や不安を与える」などは全く考えられない。
- [1]安威川ダム事業地の等級別価格は、大阪府と地元地権者との合意に基づき決定されたものであり、公開されている。
- (エ)『氏名等』-何人も閲覧できる情報について
市民会議は、大阪府の100%出資団体である大阪府土地開発公社(以下第四において「公社」という)に対しても「土地台帳・補償台帳」を10月4日に公開請求した。
公社は取得地(公示価格を基準に買収)のうち安威川ダム事業地をのぞいて、法務局で何人も閲覧できる『氏名等』の情報は公開、『取得金額等』は非公開とした。
公社取得地と安威川ダム事業地との取り扱いに齟齬があることについて、「ダム事業地は地元地権者から大阪府に公開しないでほしいとの強い要請があり、大阪府の指示に従い『氏名等』も非公開とした。」(11月10日-公社担当者)と回答している。
条例によると、非公開事由に該当しない限り情報は公開されるものであり、「地元地権者の意向」の強弱で公開・非公開が決定されるものではない。
このような恣意的運用が許されるのなら、実施機関に都合の悪い文書は全て公開しなくてよくなり、情報公開制度は根底から崩れ去る。
「地元の意向」は斟酌すべき要件でなく、「何人も閲覧できる情報」については速やかに公開すべきである。 - (オ)公開による支障について
情報公開その他の機会に公有地の『取得金額等』を公開した鎌倉市、川崎市、綾瀬市において「公開により以後」の用地買収に支障を来すなどの弊害は一切生じていない。
したがって、『取得金額等』を公開することにより「当該もしくは同種の事務の目的が達成できなくなり又、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある」とは認められない。
以上、非公開部分の『取得金額等』は、条例第8条第4号(事務執行支障情報)にはあたらない。
仮にあたるとしても、安威川ダム事業にかかる税金は莫大であり、「税金の使途の明確化」「事業の透明性の確保」には『取得金額等』の公開は必要不可欠である。(「公益上特に必要と認める情報」(条例第11条第1項)に該当する。)
- (ア)非公開部分
(4)結論
本件情報は、条例第9条第1号、条例第8条第1号、条例第8条第4号のいずれの非公開理由にも該当しない。
公共事業に国民、府民の批判が集中している時、本件情報を公開す?ことによって、大阪府の「公共事業の透明性」が高まり、かつ府政への信頼が増大するものと考える。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張を総合すると概ね次のとおりである。
1 安威川ダム建設事業
(1)安威川ダム建設事業の概要
[記載略]
(2)関係地区等との協議経過
安威川は、昭和42年の北摂豪雨以降も昭和58年9月の出水期に溢水寸前の水位に達したことや近年では平成11年6月にも摂津市、吹田市の内水区域で水害が発生したこと等から流域各市もダム建設の必要性を認識し、昭和60年12月及び平成7年12月に流域5市の各市長から府に対し建設促進の要望書が提出されている。なお、平成11年8月、摂津市議会において、早期建設の推進に関する要望決議がなされたところである。
さらに流域5市は、建設省に対しても、毎年予算の確保に関する要望活動を行い、ダム下流市民の生命・財産を守る安威川ダムの早期完成について、一丸となって取り組んでいる。
一方、関係地区住民との関わりについては、ダム構想が立案されてから今日に至るまで33年の年月を経過しており、ダム建設のための調査について説明を始めた昭和44年から30年を経過した。この長い歴史の中で、当初、水没予定地では激しい反対運動も展開されたが、以来、実施機関は地元関係地区とダム建設に関する協議を誠意と熱意をもって鋭意進め、信頼関係の構築に努めてきた。
その結果、技術調査の実施が実現し、続いてダム建設に関する基本合意である「基本協定」を平成7年3月に生保地区と締結したのを皮切りとして、平成10年10月の桑原地区を最後に、関係5地区(車作、大岩、生保、大門寺、桑原)と締結するに至った。「基本協定」は、生活再建対策、補償の原則、地域整備計画等事業推進上での基本原則を定め、事業の実施にあたっては相互についてその立場を尊重し、理解と信頼に基づいて事業の円滑な推進を図ることを目的としたものである。
平成11年3月に関係5地区と締結した「安威川総合開発(安威川ダム建設)に伴う損失補償基準協定書」(以下第五において「損失補償基準」という。)はこの「基本協定」に基づくものであり、安威川ダム建設事業の施行に必要な土地の取得並びにこれに伴って通常生じる損失の補償についての基準を示したものである。この「損失補償基準」の締結により、地元と実施機関との信頼関係に立っての交渉協議を基本として、同年3月から本格的な用地買収を開始したところであり、現在、事業用地全体の約4分の1を取得済である。また、水没することとなる居宅や農地及び付替府道に支障となる居宅のために、車作、生保、大門寺、桑原の4地区(3か所)で代替宅地、代替農地を造成しており、現在、粗造成を終え、整造成工事を行っているところであり、また、付替府道の工事にも一部着手している。これらの代替地が完成すれば、宅地及び農地の移転のための用地買収交渉が本格化し、ダム事業は大きく進展することとなる。
安威川流域は、市街化が進んだことに伴い、氾濫区域の人口も約26万人に及ぶものと推定されるため、実施機関としては、安威川の治水対策に万全を期すべく、一刻も早くダムを完成させる必要があるが、今後も地元の理解と信頼に基づき、事業の円滑な推進を図る必要がある。
(3)安威川ダム建設事業と用地事務
安威川ダム建設事業では、「損失補償基準」の締結により、平成11年度から本格的に用地買収を開始したところであるが、平成12年10月現在、事業用地全体約1.43平方キロメートルのうちの4分の1の買収を終えている。用地買収はこれからが正念場であり、ダム建設もいよいよ本格化してくるが、現在に至るまで長い時間をかけて徐々に構築されてきた実施機関と地元との信頼関係があればこそ、ここまで事業推進が図れた訳であり、今後、この関係が崩れるようなことがあれば、安威川ダム建設事業の推進に大きな支障となるのである。
ダム建設事業により直接影響を受ける地元住民等は、ダムによって自らの土地、家屋、農地等の生活基盤を広く喪失することになるため、生活再建についての不安は極めて大きく、かつ、ダムの恩恵を受ける地域が下流に限られるため、地元の犠牲感は極めて大きいのが一般的である。このため、事業主体にとっては、住民らの理解と協力を得ることは容易ではなく、事業推進に当たっては、一般の公共事業以上に、地元の意向を尊重しなければならないのである。
特に、安威川ダムのように、山間の自然環境に恵まれ、かつ都市にも近接し、地元住民の生活の利便性も高い地域にダムを建設する場合には、地元住民のダム事業に関する理解と協力を得るためには、相当の誠意と熱意をもって信頼を得る必要がある。
本件公開請求に関し、地元の自治会や住民から、大阪府知事及び安威川ダム建設事務所長あて「大阪府情報公開条例第6条の規定による公開請求のあったとき、その請求内容等が貴職と当自治会員との契約内容に係わる文書は、第9条1号により非公開とされるよう要求します。なお、行政文書の公開にあたっては当該条例の前文、並びに第9条第1号を遵守され、個人のプライバシー・財産権等がいささかも第三者から侵害されることのない文書公開処置をとられるよう強く要請します。」等の要請文が提出されており、他の自治会からも、口頭ではあるが、同趣旨の申し入れがなされているところである。
こうしたことを踏まえ、今後の用地買収交渉にあたっては、プライバシーの保護等に最大限配慮して行うべきは言うまでもない。
2 本件行政文書について
(1)安威川ダム建設事業に係る土地台帳
土地台帳は、大阪府が作成している「用地事務処理要綱」及び「同細則」の中で、実施機関が土地の取得を完了した際に台帳として整備しておくべきものとして位置づけられている。
[以下2の(1)について記載略]
(2)安威川ダム建設事業に係る補償台帳
補償台帳は、上記土地台帳と同様、実施機関が物件補償を完了した際に台帳として整備しておくべきものとして位置づけられている。
[以下2の(2)について記載略]
(3)安威川ダム建設事業に係る買戻し台帳
- ア 土地に係るもの
大阪府土地開発公社(以下第五において「公社」という。)が安威川ダム建設事業のために先行取得した土地を、府の資金をもって実施機関が公社から買い戻した土地を記載しておく目的をもって作成している台帳である。
[以下2の(3)のアについて記載略] - イ 補償に係るもの
上記土地に係るものと同様、公社が安威川ダム建設事業のために先行補償したものを、府の資金をもって実施機関が公社から買い戻した内容を記載しておく目的をもって作成している台帳である。
[以下2の(3)のイについて記載略]
3 条例第9条第1号に該当することについて
個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。個人のプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、大阪府情報公開条例(以下第五において「条例」という。)第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない」ことを定めている。そして、条例第9条第1号においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則が明確に定められている。
本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当と認められる」情報の判断については、個人を取り巻く背景や情報そのものの性質を十分に考慮した上で行うべきである。
本件処分において非公開とした部分のうち、本号に該当するものとして非公開としたのは下記[1]から[4]の部分(以下第五において「取得金額等」という。)である。
- [1]土地台帳のうち、取得単価、取得金額及び支払金額
- [2]補償台帳のうち、補償額の内訳、契約金額計及び支払金額
- [3]買戻し台帳(土地に係るもの)のうち、取得単価、取得金額、買戻金額及び内訳
- [4]買戻し台帳(補償に係るもの)のうち、契約金額、買戻金額及び内訳
取得金額等の情報は、安威川ダム建設事業に係る用地買収の相手方である個人が、実施機関又は公社(以下第五において「実施機関等」という。)との売買契約に基づき実施機関等から受け取った代金の金額そのもの及び当該金額が類推され得るものであることから、当該個人の所得等に関する情報であって、条例第9条第1号に規定する「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報」に該当する。
次に、用地買収の相手方である個人のうち、土地所有者は不動産登記によって公にされており、土地上に存する物件の所有者及び耕作権者は不動産登記等から容易に知り得ることから、取得金額等は、条例第9条第1号に規定する「特定の個人が識別され得る」情報に該当する。
そこで、取得金額等が「一般に他人に知られたくないと望むことが正当である」と判断したことについて述べる。
公共事業の用地買収は、公的資金を支出するものであって、適正な時価に基づいて買収予定者と交渉し、その合意による任意買収を通例としている。つまり、実際の用地買収においては、実施機関と土地所有者等との交渉を経て、その合意に基づき売買価格等が決定されるものであり、土地所有者等にとっては、通常の私人間の売買契約と何ら異なるところはない。また、公共事業の用地買収については、その用地取得が困難な場合には、法的な手段として土地収用法に基づく収用裁決による用地取得が認められているが、このような手続きは、公共事業を円滑に推進するための最終手続きにすぎず、収用手続きにおいても、買収予定者には公共事業の必要性や買収価格の適正性等を十分説明し、相手方の理解を得ることを基本としている。
公共事業における用地買収は公的資金を支出するものではあるが、売買契約等により個人に支払われた金額等が具体的にいくらであったかということは、当該個人にとっては、私的経済活動の情報に属する事項であり、当該個人が土地の売買代金等が公的資金によって支払われていることを承知していることをもって、売買代金等の金額が契約の当事者以外の者に対して公にされることまで想定しているということはできない。
本件安威川ダム建設事業における用地買収については、他の事業と異なり、地区全体を買収する必要があるといったダム事業の特殊性から、各地権者別の交渉ではなく、地区別の団体交渉を進めており、地区別に基準単価及び補正率等を明記した「損失補償基準」に基づいて、現在、鋭意交渉を行っているところである。一方、土地の価格は、種々の価格形成要因の相互作用によって形成されるものであり、各々の土地の適正な時価を的確に把握することは困難を伴うものである。例えば、同一地域に存在する宅地であっても、間口、奥行き、地積、形状等の画地条件が異なれば、それぞれの宅地の単位面積あたりの価格は異なるものである。言い換えれば、損失補償基準が公にされていることをもって、個々の土地等の金額、すなわち、各土地所有者等に対して支払われた金額が正確に識別され得るものではない。さらに、土地の売買価格等は、不動産登記に記載される事項には含まれてはいないことから、それぞれの土地の所有者等に支払われた金額が一般に公にされている情報であるということはできない。また、用地買収の実施に当たっても、個人に支払った金額等に関する情報を公にすることを前提として行っているものではない。
したがって、土地所有者等である個人が、自らの財産の対価として実施機関等から受け取った代金等の金額は、当該個人の所得そのものに関する情報であり、これを公にすることにより、当該個人の生活状況等が容易に推測され得ることから、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、条例第9条第1号の規定に該当する。
4 条例第8条第1号に該当することについて
本号は、人の生命等の保護に係る情報を除き、公開することにより、法人等及び事業を営む個人の正当な利益を害することを防止する観点から定められたものであり、事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に照らし、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができる旨を定めたものである。
そして、本号に該当するかどうかの判断を行うに当たっては、当該情報の内容のみではなく、事業を営む者の性格、事業活動における当該情報の位置づけ等にも十分留意しつつ、慎重に判断する必要がある。
本件処分において非公開とした部分のうち、本号に該当するものとしたのは、取得金額等である。
取得金額等の情報は、安威川ダム建設事業に係る用地買収の相手方である法人が、実施機関との売買契約に基づき実施機関等から受け取った代金の金額そのもの及び当該金額を類推され得るものであることから、条例第8条第1号の「法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当する。
次に、用地買収の相手方である法人のうち土地所有者は不動産登記によって公にされており、土地上に存する物件の所有者は不動産登記等から容易に推測され得ることから、実施機関等から買収代金等を受け取った法人は、容易に識別し得るものである。
公共事業の用地買収は、公的資金を支出するものであって、適正な時価に基づいて買収予定者と交渉し、その合意による任意買収を通例としている。そして、交渉による買収という意味においては、土地所有者等にとって、通常の私人間の売買契約と何ら異なるところはないことは上記3において述べたとおりである。また、公共事業の用地買収については、収用裁決による用地取得が認められているが、これは、公共事業を円滑に推進するための最終手続きにすぎず、この場合でも、買収予定者には公共事業の必要性や買収価格の適正性等を十分説明し、相手方の理解を得ることを基本としている。
公共事業における用地買収は公的資金を支出するものではあるが、売買契約等により法人に支払われた金額が具体的にいくらであったかということは、当該法人にとっては経営上の内部情報に属する事項であり、当該法人が土地の売買代金等が公的資金によって支払われていることを承知していることをもって、売買代金等の金額が契約の当事者以外の者に対して公にされることまで想定しているということはできない。
本件安威川ダム建設事業における用地買収については、先に述べたとおり、ダム事業の特殊性から、各地権者別の交渉ではなく、地区別の団体交渉を進めており、地区別に基準単価及び補正率を明記した「損失補償基準」に基づいて、現在、鋭意交渉を行っているところである。一方、土地の価格は種々の価格形成要因の相互作用によって形成されるものであり、各々の土地の適正な時価を的確に把握することは困難を伴うものである。「損失補償基準」が公にされていることをもって、個々の土地等の金額、すなわち、各土地所有者等に対して支払われた金額が正確に識別され得るものではない。さらに、土地の売買価格等は、不動産登記に記載される事項に含まれてはいないことから、それぞれの土地の所有者等に支払われた金額が一般に公にされている情報であるということはできない。また、用地買収の実施に当たっても、法人に支払った金額等に関する情報を公にすることを前提として行っているものではない。
したがって、土地所有者等である法人が、自らの財産の対価として実施機関等から受け取った代金等の金額は、当該法人の経営上の内部情報であり、条例第8条第1号に規定する「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当する。
5 条例第8条第4号に該当することについて
本号は、行政が行う事務事業に係る情報のうち、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがあることから、このような支障を防止するために、これらの情報については、公開しないことができる旨を定めたものである。
そして、本号に該当するかどうかの判断を行うに当たっては、当該事務事業の性質を十分考慮し、当該事務事業の経過をも踏まえ、公にすることにより、「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度について慎重な検討を行う必要がある。
本件処分において、本号に該当するものとしたのは、下記のとおりである。
- [1]土地台帳のうち、取得面積、土地売渡者の住所及び氏名並びに耕作権者の住所及び氏名
- [2]補償台帳のうち、所有者の住所及び氏名
- [3]買戻し台帳(土地に係るもの)のうち、取得面積、買戻面積、土地売渡者氏名及び耕作権者氏名
- [4]買戻し台帳(補償に係るもの)のうち、氏名
- [5]取得金額等
上記非公開部分は、実施機関が安威川ダム建設事業を実施するに当たり、まず、事業実施に必要な土地を取得するために行った用地事務に関する情報であり、条例第8条第4号に規定する「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報」に該当する。
次に、上記非公開部分を公にすることにより、「当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれ」があることについて述べる。
用地事務は、公共事業のために、地権者である私人に土地の売渡し等を求めるという性格から、相手方との日々の交渉の積み重ねが大部分を占め、相手方との円滑な交渉を行うために信頼関係を構築することが事業を推進していくための重要な前提となる。用地事務の実施に当たっては、交渉の相手方に無用な混乱を生じさせないように、あるいは、円滑な交渉事務に支障が生じることのないように最大限配慮しなければならない。
そして、安威川ダム建設事業については、昭和42年にダム構想が立案されてから30年以上にわたり関係地区住民との協議を続けており、その長年にわたる歴史の中には、水没予定地における激しい反対運動や交渉の中断など厳しい局面も存在したが、実施機関としては、安威川の治水対策に万全を期す必要性から、地元関係地区とダム建設に関する協議を、粘り強く、熱意をもって鋭意進め、信頼関係の構築に最大限の努力を払ってきたところである。そして、現在においては、補償面積の4分の1の買収を終え、残りの土地の買収に向けて、全力をもって事務を遂行していく段階にある。
安威川については、流域の市街化が進んだことに伴い、氾濫区域の人口が約26万人にも及ぶものと推定されることから、府民の安全を守る責務がある実施機関としては、安威川の治水対策に万全を期すべく、一刻も早く安威川ダム建設事業を進める必要があり、今後とも、今までの長い年月にわたり構築した地元との信頼関係に基づき、地元の協力を得ながら、事業の円滑な推進を図る必要がある。
本件処分における、非公開部分は、私人が有していた土地等に関する情報であって、土地等に関する契約の相手方である個人や法人においては、相続や税務関係等様々な事情を抱えており、これらの土地に関する情報を公にすることによって、実施機関等に土地を売渡した人々等、言い換えれば、公共事業に協力した個々の人々に如何なる影響を与えるのか、はかり知れないものがある。
本件行政文書に記載された情報は、安威川ダム建設事業における用地買収等の事務について実施機関が作成した各種台帳であって、土地台帳については、土地の「所在」、「地番」、「地目(公簿、現況)」、「公簿面積」、「取得面積」、「取得単価」、「取得金額」、「土地売渡者」、「買取申出年月日/契約年月日」、「所有権移転登記年月日」、「支払金額」、「支払年月日」等の情報が、補償台帳については、「物件所在」、「補償種別/物件種類」、補償項目の内訳としての「地上物件/仮住居費/借家人補償/動産移転費/家賃減収/仮施設費/営業補償/移転雑費/残地補償/その他」、「契約年月日/契約金額計」、「所有者住所氏名」、「支払年月日」、「支払金額」等の情報が、買戻し台帳についても、「所在地」、「地番」、「取得面積」、「取得単価」、「取得金額」、「買戻年月日」、「買戻面積」、「買戻金額」、「土地売渡者」、「契約金額」等の情報がそれぞれ一覧表にとりまとめられている。
一般に土地売買に関しては、不動産登記制度が確立されており、土地の所有者の住所、氏名、担保権等の物権等の内容が法務局備え付けの登記簿に記載され、公示されているものではあるが、本件行政文書は、上記の情報、すなわち、個々の土地について、実施機関等の取得状況や補償状況に関する詳細かつ具体的な情報が一覧表としてとりまとめられたものであり、これを見れば、いつ、誰が、どこの土地を売渡し、その対価としていくらの金額を得たのか等の情報が容易に知られることとなり、その意味においては、登記簿から知り得る情報とは性格を異にするといえる。
そして、本件事業における用地買収等について、誰が、いつ、いくらで土地を売渡したか等の情報が既に知られているとまではいえない現状においては、先に述べたとおり相続や税務関係等様々な事情を抱えている地権者にとっては、これらの情報を公開してほしくないと望むことは十分に理解できるところである。したがって、本件行政文書である各種台帳に記載された情報を全て公開すると、個々の土地の売渡者等の所得の一部が容易に識別されることにより当該個人等の生活水準や経営状況、あるいは、安威川ダム事業に対する姿勢等が地元において様々に推測ないし憶測される等により、本件行政文書に記載された地権者や今後用地買収等の事務の相手方となる地権者等の実施機関に対する信頼関係を損ない、不信感や不快の念を抱くことが十分予測され、ひいては、今後用地買収の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
なお、先に述べたとおり、地元の一部からは、「安威川ダム建設事業の場合、「損失補償基準」を公開していることから、台帳記載の住所、氏名、取得面積、取得単価及び取得金額等の情報は本来個人のプライバシーに関する情報であり、これらの情報をこのまま公開すれば、今後一切協力しない」旨の意向も示されている。
また、上記非公開部分のうち、[5]の取得金額等については、既に述べたとおり、個人の所得に関する情報であって、また法人にとっては経営上の内部情報である。そして、これらの情報は個人又は法人が所有していた土地又は土地上に存する物件の評価に関する情報でもある。
ところで、本件用地買収は、現在4分の1を終えたところであり、今後実施機関において用地買収を継続していかなければならないが、土地所有者等の理解や協力が不可欠であることはいうまでもなく、これら土地所有者等との各段階における交渉、調整等の如何が、本件事業の進捗に大きな影響を及ぼすこととなる。
このような現状において、既買収地の取得金額等の情報が明らかになると、未買収地の土地所有者等においては、自己が所有する土地等についても、将来同程度の評価を得られるものと推測され、また、公的に確定した評価として一般に流布されるなどにより、当該土地所有者等に不確実な期待や不安を与え、あるいは、本件用地買収交渉に不測の損害を及ぼすなどの事態が考えられる。その結果、実施機関に対する信頼が大きく損なわれ、交渉の相手方に不満や不信の念を抱かせるおそれが十分予測される。
したがって、これらの情報は、公にすることにより、今後、本件用地買収交渉に対する土地所有者等の理解や協力が得にくくなり、交渉に応じなくなるなど、当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあり、条例第8条第4号の「公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又は、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのある」情報に該当する。
6 結論
以上のとおり、本件処分は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 ダム建設事業の特殊性
- (1)ダム建設事業は、地域の生活環境を一変するほどの大事業であり、その主な目的が水害を防除する治水であることから、広範囲にわたる住民の生命、身体や財産等に重大な影響を及ぼすおそれがあるなど、地元地区はもちろん下流の住民にとっても、特にその進捗状況や生活への影響等に対する関心が極めて高い事業である。また、河川という地域社会のかけがえのない共有財産に莫大な費用を投じて大きな変更を加えるという意味においては、広く一般府民にとっても関心の高い事業であるということができる。
こうした大規模プロジェクトについては、広範な府民の理解と協力を得て推進することが強く望まれるところであり、特に府民の関心の高い情報については、可能な限り公開・提供していくことが必要である。 - (2)一方、ダム建設事業により直接影響を受ける地元住民等は、ダムによって自らの土地、家屋、墓地等の生活基盤を広く喪失することになるため、生活再建についての不安は極めて大きく、かつ、ダムの恩恵を受ける地域が下流に限られるため、地元の犠牲感は極めて大きいのが一般的である。このため、ダム建設事業を推進するに当たっては、一般の公共事業以上に地元住民等の意向を尊重しなければならず、その理解と協力を得るには相当な困難を伴うものである。
- (3)ダム建設事業については、昭和48年10月17日、「ダム・・・の建設によりその基礎条件が著しく変化する地域について、生活環境、産業基盤等を整備し、あわせてダム貯水池の水質の汚濁を防止・・・するため、水源地域整備計画を策定し、その実施を推進する等特別の措置を講ずることにより関係住民の生活の安定と福祉の向上を図り、もってダム・・・の建設を促進し、水資源の開発と国土の保全に寄与することを目的」として水源地域対策特別措置法(以下「水特法」という。)が制定されているが、同法案に対する参議院建設委員会の附帯決議(昭和48年6月26日)においては、「ダム等を建設する者は、事業の実施にあたり、極力、任意の協議による土地取得等に努め、強制的措置は避け、ダム等の建設により生活の基盤を失うこととなる者と、その生活再建の対策について積極的に協議し、適切な措置を講ずること。」とされている。このように、ダム建設事業においては、事業の推進のために、地元関係住民の理解と協力を得ることが非常に重要な要素とされていることなどから、一般の公共事業において行われている土地収用等の強制的措置は原則として回避すべきであるとされている。
そして、ダム建設事業の実施においては、先に述べたような事業の性格から、長期間にわたり行政と地元住民が協議・交渉等を行うことが予定されており、行政と地元関係住民が信頼関係を構築し、これを維持していくことが求められている。
加えて、ダム建設事業は、通常、長期間にわたり、多額の経費を必要とするものであるので、用地取得や生活再建対策等における地元との協議・交渉の遅れは、必要以上の経費の増大につながるなど、事業を効率的・効果的に推進するという府民の要請に応えることができなくなるという点にも留意する必要がある。
3 安威川ダム建設事業について
- (1)淀川水系安威川安威川ダム(以下「安威川ダム」という。)建設事業は、昭和42年7月の北摂豪雨災害を契機に、同年、実施機関において構想立案されたものであり、昭和51年から同62年にかけての実施計画調査を経て昭和63年から建設段階に入っている。安威川ダムは茨木市生保及び大門寺地先に建設する総貯水量2,290万立方メートル、堤高82.5m、堤頂長368.5mのダムであり、安威川ダム建設事業は、ダム本体の建設のみならず、ダム建設により水没することとなる府道茨木亀岡線の付替道路の整備拡幅、工事用道路、ダム管理用道路及び付替市道としての左岸道路の整備、ダムの堤体建設に用いるロック材運搬のための道路の建設、ダム堤体に用いるロック材・コア材の採取、ダム建設工事に伴い発生する掘削残土の処分をも含むものである。本件安威川ダム建設事業は平成20年度の完成を目途としており、その総事業費は約836億円とされている。
- (2)次に、本件安威川ダムと水特法の関係についてみると、水特法第8条は、「水源地域対策特別措置法第2条第2項のダム、同条第3項の湖沼水位調節施設及び第9条第1項の指定ダムを指定する政令」(以下「政令」という。)第1条で指定されたダム(以下「指定ダム」という。)に関し、「指定ダム等を建設する者・・・は、指定ダム等の建設・・・に伴い生活の基礎を失うこととなる者について、次に掲げる生活再建のための措置が実施されることを必要とするときは、その者の申出に基づき、・・・当該生活再建のための措置のあっせんに努めるものとする。
- [1]宅地、開発して農地とすることが適当な土地その他の土地の取得に関すること。
- [2]住宅、店舗その他の建物の取得に関すること。
- [3]職業の紹介、指導又は訓練に関すること。
- [4]他に適当な土地がなかったため環境が著しく不良な土地に住居を移した場合における環境の整備に関すること。」
本件安威川ダムは、平成5年1月22日に、この指定ダムに指定されたところであり、実施機関においては、用地取得と併せて、水特法第8条に基づき生活再建のための様々な措置を講じることとなるものである。
4 安威川ダム建設事業における用地取得等の基本方針について
- (1)一般に、公共事業のための用地の取得に伴う損失補償の基本原則としては、国において「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(以下「損失補償基準要綱」という。)が昭和37年6月29日に閣議決定されている。損失補償基準要綱は、「土地収用法その他の法律により土地等を収用・・・することができる事業に必要な土地等の取得・・・に伴う損失の補償の基準の大綱を定め、もってこれらの事業の円滑な遂行と損失の適正な補償の確保を図ることを目的とする」ものであり(第1条)、同第7条で土地の補償額算定の基本原則として「取得する土地に対しては、正常な取引価格をもって補償する」こと等が、同第8条で土地の「正常な取引価格は、近傍類地の取引価格を基準とし、これらの土地及び取得する土地の位置、形状、環境、収益性その他一般の取引における価格形成上の諸要素を総合的に比較考慮して算定する」こと等が定められている。また、同第14条で建物等の取得に係る補償として「取得する建物その他の土地に定着する物件に対する補償については、第1節に規定する土地の取得に係る補償の例による」ことが、同第24条で建物等の移転料として「土地等の取得・・・に係る土地等に建物等で取得せず、又は使用しないものがあるときは、当該建物等を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償する」こと等が定められている。
- (2)本件安威川ダム建設事業において、実施機関は、水特法及び損失補償基準要綱の趣旨を踏まえ、平成11年3月18日付けで「安威川総合開発事業における用地取得方針」(以下「用地取得方針」という。)を、同年4月30日付けで「安威川総合開発事業における生活再建対策方針」(以下「生活再建対策方針」という。)及び「安威川総合開発事業に係る代替地処理方針」(以下「代替地処理方針」という。)を定めている。
- (3)用地取得方針は、安威川ダム建設事業に必要な用地の取得及び物件等の補償(以下「用地取得」という。)についての基本的な指針となるものであり、用地取得の対象となるものの生活環境及び生活基盤等に与える影響を緩和するために、
- ア 生活再建対策の実施と用地取得の基本的基準
- イ 補償基準の締結による用地買収の実施
- ウ 補償基準価格による買収(価格維持)
- エ 水源地域整備計画による代替地の確保
- (4)生活再建対策方針は、用地取得により生じる生活環境及び生活基盤等の激変緩和措置として、
- ア 生活再建計画の策定
- イ 代替宅地と代替農地の確保
- ウ 生活再建相談窓口の開設・コミュニティ再構築の支援
- エ 水特法の規定によるその他生活再建対策の実施努力
- (5)代替地処理方針は、実施機関が、生活再建対策上、代替宅地若しくは代替農地が必要と認められるものに対し、水特法の趣旨に基づき、生活再建対策及び地域のコミュニティ(地域社会)の機能維持を図るため代替地を提供する際の方針として、
- ア 代替地の取得、造成、管理及び分譲の実施に係る実施機関の責務
- イ 代替地計画の作成並びに土地利用計画及び施設整備計画の作成
- ウ 代替地の分譲方式と譲渡に係る協議価格の採用
- エ 代替地の保全及び環境上必要な公共施設整備費用の実施機関負担
- (6)このように、本件安威川ダム建設事業においては、用地取得の方針とともに、併せてその相手先の生活再建対策と代替地の提供に関する方針が定められており、実施機関においては、これらの各方針に基づき、用地取得、生活再建対策及び代替地の提供に関する交渉等の事務を総合的に一体として実施していることが認められる。
5 地元関係者との交渉経過について
- (1)本件安威川ダム建設事業の地元関係者との交渉は、安威川ダム建設のための調査について説明を始めた昭和44年から既に30年以上を経過しており、その間水没予定地における激しい反対運動や交渉の中断を経ながらも、平成7年3月から同10年10月にかけて安威川ダム建設に関する基本合意である基本協定書が当該事業に関係する車作、生保、大岩、大門寺及び桑原の各地区(以下「関係5地区」という。)の自治会等と実施機関との間でそれぞれ締結され、平成11年3月には、関係5地区の自治会長又は地権者の代表者と実施機関との間でそれぞれ「安威川総合開発事業(安威川ダム建設)に伴う損失補償基準協定書」(以下「損失補償基準協定」という。)が締結されている。
- (2)安威川ダム建設事業の用地取得は、平成8年度の府道茨木亀岡線付替道路建設に係る用地取得から始まっているが、当該用地取得は、実施機関が直接公費により行う方法と、大阪府土地開発公社(以下「公社」という。)が、実施機関の取得依頼に基づき、公社の資金により先行取得した後、実施機関が公費で公社から買い戻す方法により行われている。そして、当審査会において確認したところ、平成12年12月末現在における用地買収の進捗率は31.3%(総買収予定面積約142.8haのうち買収済面積約44.7ha)であり、特に、総買収面積の71%を占める車作地区及び生保地区についてみると、車作地区では進捗率が38.2%(買収予定面積約59.3haのうち買収済面積約22.6ha)であること、また、生保地区では進捗率が18.6%(買収予定面積約42.8haのうち買収済面積約7.95ha)であることが認められた。
- (3)現在、実施機関は、先に述べた用地取得方針、生活再建対策方針及び代替地処理方針に基づき車作、生保、大門寺及び桑原の4地区計3か所において代替地となる用地を確保し、その造成を進めるとともに、当該代替地における土地利用計画や施設整備計画作成のため関係地区の自治会等と協議・交渉を進めているところである。そして、これらの計画の確定後は代替地の最終造成を行う予定であるが、こうした代替地の造成が完成し、地権者等への分譲及び当該代替地への移転が完了して初めて、ダム本体の工事に着手することとなるものである。
- (4)当審査会で確認したところ、本件行政文書に記載された土地売渡者、耕作権者及び物件所有者の人数は個人、法人合わせて288名で、その内訳は、土地売渡者が218名、耕作権者が14名、物件所有者が56名であり、土地売渡者等288名のうち64名については、既買収地以外にも当該事業区域内に土地等を所有しているため、実施機関は、再度用地取得の交渉を行う必要があることが認められる。そして、このような状況の中、平成12年10月6日付けで地元自治会長等から実施機関にあてて、「行政文書の公開にあたっては当該条例の前文、並びに第9条第1号を遵守され、個人のプライバシー・財産権がいささかも第三者から侵害されることのない文書公開措置をとられるよう強く要請」する趣旨の文書が提出されている。
- (5)実施機関は、各地権者等と個別に用地取得の交渉を進めるとともに、先に述べた基本協定書や損失補償基準協定など各地権者等に共通する事柄については地元自治会等と協議・交渉を行っている。こうした団体との協議・交渉は、平成11年度において計225回、平成12年度において計221回(平成13年1月末現在)行われているが、これまで述べたような安威川ダム建設事業の特殊性や進捗状況からすれば、実施機関としては、これまで構築してきた地域住民との信頼関係を維持しながら、こうした団体との協議・交渉を継続していく努力が今後とも求められているものである。
6 本件行政文書について
当審査会において、本件行政文書について確認したところ、以下のことが認められた。
- (1)本件行政文書は、実施機関が、安威川ダム建設事業において用地取得を行った土地等を適切に管理するための台帳として作成した文書であり、[1]土地台帳、[2]補償台帳、[3]土地に係る買戻し台帳及び[4]補償に係る買戻し台帳の4種類に分類される。
- (2)そこで、本件行政文書に記録された情報を当審査会で確認したところ、以下のことが認められた。
- ア 土地台帳について
土地台帳は、平成8年度、10年度、11年度及び12年度に、実施機関が土地所有者から取得し、又は耕作権者に補償した土地について作成したものである。- (ア)平成8年度及び10年度の土地台帳には、表題として年度、事業名が記載され、用地取得を行った土地の所在及び地番ごとに、[1]地目(公簿、現況)、[2]公簿面積、[3]取得面積、[4]取得単価、[5]取得金額、[6]土地売渡者(耕作・借地権者)、[7]買取申出年月日/契約年月日、[8]所有権移転登記年月日、[9]所有者移転地番、[10]支払金額、[11]支払年月日及び[12]備考の各項目が表形式で記載されている。
そこで、主な項目についてみると、[2]の「公簿面積」には土地登記簿表題部に記載されている地積が、[3]の「取得面積」には実施機関が用地取得を行った土地の実測面積が、それぞれ記載されており、[6]の「土地売渡者(耕作・借地権者)」には土地売渡者の住所及び氏名のほか、耕作権者がある場合は耕作権者と表記した上でその氏名が記載されている。また、[4]の「取得単価」には各土地の単価が、[5]の「取得金額」には各土地の取得金額及び耕作権者がある場合は土地評価額と耕作権への補償額の内訳が、[10]の「支払金額」には各土地売渡者等への支払金額が、それぞれ記載されている。
なお、平成8年度及び10年度に実施機関が行った用地取得の対象となった土地売渡者及び耕作権者は、いずれも個人のみである。
また、実施機関は、土地の全部を買収する場合及び分筆して買収する場合のいずれの場合においても、当該土地の境界を確定し、その面積を実測した上で買収を行っている。しかし、土地登記簿上の地積については、分筆して買収した場合には当該地積の更正を行っているが、全部を買収した場合には行っていないため、[2]の「公簿面積」と[3]の「取得面積」は、必ずしも一致していない。 - (イ)平成11年度及び12年度の土地台帳には、表題として年度、事業区分名等が記載され、用地取得を行った土地の所在地及び地番ごとに、[1]公簿地目/現況地目、[2]公簿面積/取得面積、[3]取得単価、[4]取得金額、[5]土地売渡者住所・氏名、[6]持分、[7]権利区分、[8]買取申出日/契約年月日、[9]移転地番/登記年月日、[10]支払番号、[11]支払年月日、[12]支払金額及び[13]備考等の各項目が表形式で記載されている。
そして、主な項目についてみると、[2]の欄の「公簿面積」には土地登記簿表題部に記載されている地積が、「取得面積」には実施機関が用地取得を行った土地の実測面積が、それぞれ記載されており、[5]の「土地売渡者住所・氏名」には土地売渡者が個人の場合はその住所及び氏名が、株式会社の場合はその所在地及び名称が、地方自治法第1条第3項に定める財産区(以下「財産区」という。)の場合はその所在地、名称及び財産区管理者の名称が、耕作権者がある場合はその住所及び氏名が、それぞれ記載されている。また、[3]の「取得単価」には各土地の単価が、[4]の「取得金額」には各土地の取得金額が、[12]の「支払金額」には各土地売渡者等への支払金額が、それぞれ記載されている。
なお、平成11年度及び12年度に実施機関が行った用地取得の対象となった土地売渡者等のうち、土地売渡者は個人、株式会社及び財産区であり、耕作権者は個人のみであるが、[2]の「公簿面積」と「取得面積」が必ずしも一致していないことは、(ア)の場合と同様である。
- (ア)平成8年度及び10年度の土地台帳には、表題として年度、事業名が記載され、用地取得を行った土地の所在及び地番ごとに、[1]地目(公簿、現況)、[2]公簿面積、[3]取得面積、[4]取得単価、[5]取得金額、[6]土地売渡者(耕作・借地権者)、[7]買取申出年月日/契約年月日、[8]所有権移転登記年月日、[9]所有者移転地番、[10]支払金額、[11]支払年月日及び[12]備考の各項目が表形式で記載されている。
- イ 補償台帳について
補償台帳は、平成11年度及び12年度に、実施機関が行った小屋、倉庫、樹木等の物件の補償について作成したものであり、表題として年度、事業区分名等が記載され、補償を行った各物件の所在ごとに、[1]補償種別/物件種類、[2]地上物件/仮住居費/借家人補償、[3]動産移転費/家賃減収/仮施設費、[4]営業補償/移転雑費/残地補償、[5]その他、[6]契約年月日/契約金額計、[7]所有者住所・氏名、[8]支払番号、[9]支払年月日、[10]支払金額及び[11]備考等の各項目が表形式で記載されている。
そして、主な項目についてみると、[7]の「所有者住所・氏名」には補償された物件の所有者が個人の場合はその住所及び氏名が、株式会社の場合はその所在地及び名称が、それぞれ記載されている。また、[6]の欄の「契約金額計」には、各物件に対する補償の契約金額が記載されており、さらに、当該契約金額の内訳として、[2]の欄のうち「地上物件」に物件の移転に要する費用が、[3]の欄のうち「動産移転費」に動産の移転に要する費用が、[4]の欄のうち「移転雑費」に移転先の選定等に要する費用が、[5]の「その他」に樹木の取得等に要する費用が、それぞれ記載されているが、[2]から[4]の各欄のその余の項目についての記載は見受けられない。さらに、[10]の「支払金額」には、各物件の所有者への支払金額が記載されている。
なお、平成11年度及び12年度に実施機関が補償を行ったものは、個人及び株式会社である。 - ウ 買戻し台帳について
- (ア)買戻し台帳のうち土地に係るものは、平成8年度、10年度及び11年度に公社が土地所有者から取得し、又は耕作権者に補償した土地で、実施機関が既に買い戻したもの及び将来買い戻す予定のものについて作成されたものであり、表題として年度、事業名が記載され、用地取得を行った土地の所在地及び地番ごとに、[1]地目(公簿、現況)、[2]取得面積、[3]取得単価、[4]取得金額、[5]買戻年月日、[6]買戻面積、[7]買戻金額、[8]内訳(公共、単独、諸経費)、[9]残面積及び[10]土地売渡者の各項目が表形式で記載されている。
そして、主な項目についてみると、[2]の「取得面積」には公社が用地取得を行った土地の実測面積が、[6]の「買戻面積」には実施機関が公社から買い戻した土地の面積が、[9]の「残面積」には実施機関が公社から買戻しを終えていない残地の面積が、それぞれ記載されており、[10]の「土地売渡者」には土地売渡者が個人の場合はその氏名が、宗教法人及び財産区の場合はその名称が、耕作権者がある場合はその氏名と耕作権者である旨の表記が、土地が共有されている場合は各所有者の共有持分が、それぞれ記載されている。また、[3]の「取得単価」には公社が取得した際の各土地の単価が、[4]の「取得金額」には公社が取得した際の各土地の取得金額が、[7]の「買戻金額」には実施機関が公社から買戻した金額が、[8]の欄のうち「公共」には国からの補助を受けて実施機関が買い戻す金額が、「諸経費」には公社が土地等を取得してから実施機関が買い戻すまでの間に要した金利及び事務費等の金額が、それぞれ記載されている。なお、[8]の欄の「公共」の金額については[3]の「取得単価」に[6]の「買戻面積」を乗じた額に概ね一致しており、また、「諸経費」については各土地の「取得金額」に一定の率を乗じたものであることから、いずれも取得金額等が類推される情報であることが認められる。
なお、平成8年度、10年度及び11年度に公社が行った用地取得の対象となった土地売渡者等のうち、土地売渡者は個人、宗教法人及び財産区であり、耕作権者は個人のみである。 - (イ)買戻し台帳のうち補償に係るものは、平成10年度及び11年度に公社が行った物件の補償のうち、実施機関が公社に支払ったものについて作成したものであり、表題として年度、事業名が記載され、補償を行った物件の所在地ごとに、[1]氏名、[2]物件の名称、[3]契約金額、[4]買戻年月日、[5]買戻金額、[6]内訳(公共、単独、諸費用)及び[7]備考の各項目が表形式で記載されている。
そして、主な項目についてみると、[1]の「氏名」には、当該物件の所有者が個人の場合はその氏名が、株式会社の場合はその名称が、それぞれ記載されており、また、[3]の「契約金額」には公社が物件補償として支払った金額が、[5]の「買戻金額」には実施機関が公社に支払った金額が、[6]の欄のうち「公共」には国の補助を受けて実施機関が支払った金額が、「諸費用」には公社が物件補償を行ってから実施機関が支払うまでの間に要した金利及び事務費等の金額が、それぞれ記載されている。さらに、[6]の欄のうち「公共」の金額については[3]の「契約金額」と一致しており、また、「諸費用」については各物件の「契約金額」に一定の率を乗じたものであることから、いずれも「契約金額」が容易に類推される情報であることが認められる。
なお、平成10年度及び11年度に公社が行った補償の対象となった物件の所有者は、個人及び株式会社である。
- (ア)買戻し台帳のうち土地に係るものは、平成8年度、10年度及び11年度に公社が土地所有者から取得し、又は耕作権者に補償した土地で、実施機関が既に買い戻したもの及び将来買い戻す予定のものについて作成されたものであり、表題として年度、事業名が記載され、用地取得を行った土地の所在地及び地番ごとに、[1]地目(公簿、現況)、[2]取得面積、[3]取得単価、[4]取得金額、[5]買戻年月日、[6]買戻面積、[7]買戻金額、[8]内訳(公共、単独、諸経費)、[9]残面積及び[10]土地売渡者の各項目が表形式で記載されている。
- ア 土地台帳について
- (3)本件処分において、本件行政文書のうち非公開としたのは、以下の部分である。
- ア 土地台帳、補償台帳及び買戻し台帳に記載された情報のうち、次の各欄に記載された部分(以下「本件取得金額等」という。)
- (ア)土地台帳の「取得単価」、「取得金額」及び「支払金額」
- (イ)補償台帳の「地上物件」、「動産移転費」、「移転雑費」、「その他」、「契約金額計」及び「支払金額」
- (ウ)買戻し台帳の土地に係る「取得単価」、「取得金額」、「買戻金額」、「公共」及び「諸経費」並びに物件補償に係る「契約金額」、「買戻金額」、「公共」及び「諸費用」
- イ 土地台帳、補償台帳及び買戻し台帳に記載された情報のうち、次に掲げるもの(以下「本件土地売渡者等」という。)の個人にあっては氏名及び住所、法人にあっては名称及び所在地
- (ア)土地台帳に記載された土地売渡者及び耕作権者
- (イ)補償台帳に記載された物件の所有者
- (ウ)買戻し台帳に記載された土地に係る土地売渡者及び耕作権者並びに補償に係る物件の所有者
- ウ 土地台帳及び買戻し台帳に記載された情報のうち、次の各欄に記載された部分(以下「本件取得面積等」という。)
- (ア)土地台帳に記載された「取得面積」
- (イ)買戻し台帳に記載された土地に係る「取得面積」及び「買戻面積」
- ア 土地台帳、補償台帳及び買戻し台帳に記載された情報のうち、次の各欄に記載された部分(以下「本件取得金額等」という。)
7 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について
実施機関は、本件非公開部分に記録された情報が条例第8条第4号に該当するほか、本件取得金額等のうち個人の土地等に係る取得金額、補償金額等については同第9条第1号に、株式会社又は宗教法人の土地等に係る取得金額、補償金額等については同第8条第1号に、それぞれ該当すると主張するが、同第8条第4号については、本件非公開部分のすべてが該当すると主張するので、当審査会は、まず、本件非公開部分が同号に該当するか否かを判断し、なお必要があればその余の条号について判断するものとする。
- (1)条例第8条第4号について
- ア 行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが、条例第8条第4号の趣旨である。
これを本件各行政文書に記載された情報について検討する。 - イ 本件各行政文書は、実施機関が行った安威川ダム建設事業に係る各年度の用地買収、地上物件等の補償又は公社からの買戻しの状況を記録したものであり、これらに記載された情報は、いずれも実施機関又は公社がこれらの事項について地元地権者等と協議・交渉し、合意(契約)に至った内容等の記録であることから、条例第8条第4号の「府の機関又は国等の機関が行う交渉等の事務に関する情報」に該当すると認められる。
- ウ 次に、本件非公開部分に記載された情報を公開することによって、「当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある」かどうかを検討することとする。
- エ ところで、先に述べたように、安威川ダムは、水特法第2条に定める「指定ダム等」として建設されるものであるが、同法第8条は、指定ダム等を建設する者及び整備事業を実施する者は、これに伴い生活の基礎を失うこととなる者について、協力して、必要な生活再建のための措置のあっせんに努めるものとすると定めており、同法に係る参議院附帯決議においても「ダム等を建設する者は、事業の実施にあたり、極力、任意の協議による土地取得等に努め、強制的措置は避け、ダム等の建設により生活の基盤を失うこととなる者と、その生活再建の対策について積極的に協議」することとされている。そして、これを受けて実施機関は、「用地取得方針」第10条で「可能な限り土地収用法の適用を避け、任意買収による用地取得に努める」と定めるとともに、「生活再建対策方針」に基づく措置として、代替地等の提供、斡旋に加え、生活再建相談窓口の開設やコミュニティ再構築の支援、職業斡旋、技能取得の援助等を実施することとしている。このように、安威川ダム建設事業は、一定の地域全体がダムに水没するなど当該地域の生活環境や生活基盤等に多大な影響を及ぼす事業であることから、用地の取得等に当たってはできる限り任意の交渉によるとともに、地域社会の再建を図るため、地域住民の理解と協力を得て様々な施策を推進していくことが求められており、当該事業を円滑、適正に実施していくためには、事業の実施者である実施機関と地域住民とのゆるぎない信頼関係の構築が不可欠の要素であるといえる。こうした事情から、実施機関においては、既に述べたように昭和44年から30年以上にわたり地元関係者との協議・交渉を重ねてきたものであり、現在は、地元自治会長等との合意により定めた用地買収等の額の算定基準である「損失補償基準協定」に基づき、各地区の地権者等との個別交渉を進めているところであって、今後とも、事業終結に至るまで、地域社会の再建を目指し、様々な生活再建策等について、これら地権者等を含む地域住民との協議・交渉等が予定されているところである。
本件各非公開部分の審査に当たっては、それぞれの非公開情報や用地取得の交渉等の事務の性格・内容のみならず、こうした安威川ダム建設事業の経緯、特殊性、進捗状況、地域住民との関係への影響等についても総合的に考慮し、本号に該当するかどうかを個別具体的に検討する必要がある。 - オ 次に、こうした見地から、本件各非公開部分について検討する。
- (ア)本件取得金額等について
本件取得金額等のうち、土地台帳に記載された「取得単価」、「取得金額」及び「支払金額」並びに補償台帳に記載された「契約金額」、「支払金額」及び補償額の内訳は、安威川ダム建設事業において実施機関が個々の土地等の権利者と交渉し、契約を締結して支払った金額又はその内訳等であって、個々の権利者にとっては、自己の重要な資産であった土地や物件等の対価又は補償として受け取った収入金額が具体的に明らかとなる情報であるといえる。また、その余の買戻し台帳に記載された情報のうち、「取得単価」、「取得金額」及び「契約金額」は、実施機関に代わって公社が買収又は補償した金額等であって、「買戻金額」とその内訳についても、一定の割合を乗じるなどにより「取得金額」等がほぼ明らかとなるものであり、個々の地権者等にとっては、これら買戻し台帳に記載された情報についても、実施機関の土地台帳等に記載された「取得金額」等と性格、内容が異なるものではない。
およそ、ダム建設などの公共事業に伴う用地買収や物件補償等については、全て国や府などの公共団体が支弁する公費から支払われるものであり、これによる個人や法人の収入については租税特別措置法等により一定の税制優遇が認められていることなどから、その基準や執行状況については、本来、一般に明らかにされるべきものである。また、先に述べた国の損失補償基準要綱では、取得する土地や物件等に対する補償については正常な取引価格によるとされているが、公共事業に係る用地買収や物件補償等の基準等については、今後その対象となる地元権利者等にとって最大の関心事であることはいうまでもなく、これらの事務の公正、公平を確保し、地域住民の理解と協力の下に当該事業を推進する観点からすれば、こうした情報はできる限り積極的に公開していくことが求められているといえる。したがって、少なくとも当該公共事業が全て完了した後においては、その公開を望まない者が多いとの理由のみをもって、これを公にすることにより、用地買収の交渉等に関する事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできないというしかない。
しかしながら、本件安威川ダム建設事業については、一定の地域全体がダムの底に水没するなど地域住民等の生活環境や生活基盤に重大な影響を及ぼす極めて特殊な事業であって、水特法において生活再建のための措置のあっせんに努めることとされるなど、当該事業の実施に伴い生活の基礎を失うこととなる者への特別な配慮が求められている。そして、当審査会において確認したところによれば、本件取得金額等に係る土地売渡者等についても、その多くが事業実施により耕作地等の生活基盤を手放すこととなる者であり、今後とも、生活再建に関する協議・交渉が継続されることはもとより、再度の用地買収等の相手先となる者も含まれており、また、当該土地売渡者等を会員とする地元自治会等から実施機関に対し、本件取得金額等を含む契約内容の非公開を要請する書面が提出されていることが認められる。もとより、個人や法人からの土地の取得金額や補償金額等については、当該個人や法人の収入金額が具体的に明らかになるものであり、公にされるとその生活や経営等の状況が様々に推測され得ることから、他者に知られたくないと望む場合が多く、ダム建設の対象区域という極めて限られた地域において、当該土地売渡者等の氏名、名称等が既に一般に明らかになっている状況の下では、そうした心情や懸念が全て杞憂であり、また、不当であるとは到底いい得ないものであって、これを公にすることにより、これらの土地売渡者等に不快、不信の感情を抱かせ、今後本件安威川ダム建設事業において実施機関等が引き続き行うこの種の協議・交渉等に協力しなくなるなどの事態が生じることも十分に考えられるところである。
また、本件取得金額等については、用地買収等の金額の基準として地元自治会長等と実施機関が合意した損失補償基準協定に基づき個別に算定され、実施機関等が各土地売渡者等と交渉の結果、契約に至ったものであるが、個々の土地の取得金額等についてはその形状、位置、環境等の要因を、個々の物件の補償金額等については当該対象物件の構造、材質、大きさ、形状等の要因を、それぞれ個別に評価したものであり、また、耕作権補償の金額については、個々の土地を評価した金額に土地所有者と合意した割合を乗じた額である。そして、こうした個々の具体的な金額については、いずれも一般の不動産評価と同様、その算定に高度の専門的知識と経験を要するものであって、そのほとんどが既に公にされている損失補償基準協定のみから容易に判明するものではなく、当該金額等の算定等の内容の詳細について地元関係者の十分な理解を得るには相当な困難を伴うものと考えられる。およそ、公共事業のために土地を売却し、あるいは、物件の補償を受けようとする場合、個人・法人を問わず、自己の資産をわずかでも高く評価されたいと願うのが通例であり、また、そのこと自体は一概に否定できるものでもないことから、用地買収や物件補償等の交渉に当たり、実施機関としては、まず、当該金額の算定が他者のそれとの比較においても公平かつ適正なものであることについて、その対象者の理解を得る必要があるのであって、本件安威川ダム建設事業においても、そうした事情から損失補償基準協定について地元自治会長等と合意したものである。しかしながら、平成20年度の事業完了を目指して鋭意用地取得の交渉等が進められている現状においては、それ以上に、こうした個々の用地取得に係る専門的な金額算定等の内容の詳細についてまで、全ての交渉先に対し、納得し得る説明を行っていくことは、実務上、極めて困難であるというしかなく、そうすると、本件取得金額等が公になることにより、今後用地取得の交渉等の相手先がその算定方法等について様々に推測し、その結果として、十分な理解が得られないことなどから実施機関に対して不満や不信の念を抱き、当該交渉等が困難となる事態も容易に予想されるところである。
こうした事情を総合すると、本件安威川ダム建設事業に関する限り、本件取得金額等のうち個人や株式会社、宗教法人に係るものについては、これを公にすることにより、当該土地売渡者等に不快、不信の感情を抱かせ、あるいは、今後の用地取得交渉の相手先等に実施機関に対する不満や不信の念を抱く者が生じることは十分に予測されるところであり、その結果、実施機関が、改めて、こうした地元関係者の理解と協力を得るために多大な労力、時間、経費等を要することは避けられないものと考えられ、先に述べたこれを公にすることの公益性や必要性等を考慮したとしても、少なくとも現状においては、当該ダム建設事業における交渉、協議等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
一方、本件取得金額等のうち財産区に係るものについては、茨木市長を管理者とする地方自治法上の特別地方公共団体に関する情報であることから、先に述べたような支障は全く考えられないものであり、また、これが明らかになることにより近傍の土地等の評価額が類推され得ることがあるとしても、公共団体の保有する資産の評価として、本来公にされることが予定されている情報であることなどからすれば、これを公にすることにより、当該交渉、協議等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすとは認められない。
以上により、本件取得金額等のうち個人若しくは株式会社又は宗教法人に係るものについては、条例第8条第4号に該当すると認められるが、財産区に係るものについては、同号に該当すると認められない。 - (イ)本件土地売渡者等の氏名及び住所等について
本件土地売渡者等の氏名及び住所等のうち土地台帳に記載されたものは、本件安威川ダム建設事業の実施に伴い、実施機関に所有地を売渡し、又は、耕作権について補償を受けた個人の氏名及び住所、法人(財産区を除く。以下同じ。)にあってはその名称及び所在地であり、補償台帳に記載されたものは、同様に、小屋、工作物、樹木等の物件について実施機関から補償を受けた個人の氏名及び住所、法人の名称及び所在地である。また、買戻し台帳には、公社に所有地を売渡し、又は、耕作権や物件について公社から補償を受けた個人の氏名又は法人の名称が記載されている。
当審査会において確認したところ、これらの情報のうち、土地売渡者の氏名及び名称については、既に土地登記簿において公示されており、その住所及び所在地についても同じ内容が登記されていることが認められることから、いずれも何人でも容易に知り得る情報であって、これを公にすることによる支障は考えられないというしかなく、条例第8条第4号に該当するとは認められない。
また、小屋、工作物、樹木等の物件について補償を受けた個人の氏名と法人の名称については、現に登記されている情報ではないものの、こうした外見上明らかな物件について、通常その所有者名までを秘匿することは考えられず、その移転等についても一見して明らかであり、また、公費の支出先として、本来、公にされるべき性格の情報であることなども併せ考慮すれば、地元自治会等の反対については、実施機関として理解と協力を求めるなどにより克服すべきものであるといえ、これを公にすることにより、今後の交渉等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障をおよぼすおそれがあるとは認められない。なお、当該法人の所在地についても、その名称の公開を前提とすれば、商業登記簿等により何人でも容易に知り得るものであり、条例第8条第4号に該当するとは認められない。
さらに、耕作権について補償を受けた者の氏名についても、同様に、本来公にされるべき性格の情報であり、また、先に述べたように実施機関からの「第三者意見書提出機会通知書」に対し、公開に反対の意思「有」とする回答は提出されていないことなどから、今後の交渉等の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障をおよぼすおそれがあるとは認められない。
次に、物件又は耕作権について補償を受けた個人の住所については、登記簿等で公示されている情報ではなく、その氏名の公開を前提とした場合、当該個人の私的な生活の本拠を明らかにするものとして通常公にされることを望まない場合が多いと考えられ、公費の支出先に関する情報であること等を考慮したとしても、そのこと自体が正当でないとはいえず、これを公開することにより、当該個人等が実施機関に対して不満や不信の念を抱き、その結果、今後、当該安威川ダム建設事業に係る交渉や協議等に応じなくなるなど、当該事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる。
以上により、本件土地売渡者等の氏名及び住所等のうち、物件又は耕作権について補償を受けた個人の住所は条例第8条第4号に該当すると認められるが、その余については、同号に該当すると認められない。 - (イ)本件取得面積等について
本件取得面積等のうち本件土地台帳又は買戻し台帳に記載された取得面積は、実施機関又は公社が本件安威川ダム建設事業に係る各用地買収を実施するに当たり当該用地を実測した面積であり、買戻し台帳に記載された買戻面積は、公社が取得した用地を府が公費により買戻した面積であって、残面積との合計が取得面積に一致するものである。そして、当審査会で確認したところ、本件取得面積等の数値は、一部を除いて公簿面積即ち土地登記簿に登記されている面積と異なっており、これは現状においても同様であることが認められた。
一方、本来、一筆毎の土地の面積は、隣地や公有地との境界を確定し、測量することにより客観的に定まるものであり、本件取得面積等についても、買収対象となる各土地について、それぞれ隣接地所有者等との立会いにより境界を確定し、各筆毎の現実の土地面積を計測したものであって、実施機関のみにおいて内密に算定されたものではなく、また、現実にもその範囲が明らかにされていることから、各土地の位置、形状等と同じく外見上からも比較的容易に看取され得る情報であるといえる。
加えて、本件土地台帳又は買戻し台帳に記載された各土地は、全て府が公費により取得したものであって、本件取得面積等は、個人や法人が実施機関等に売却した土地の面積ではあるものの、少なくとも現状では、公有地の実測面積であるというしかなく、地方公共団体が保有する資産の状況を示す数値として、本来、府民に明らかにされるべきものであると考えられる。
また、本件取得面積等は、本件安威川ダム建設事業の実施用地として、各筆毎に必要な分筆等も行いながら実測し、買収した土地に係るものであり、その範囲が明確に示されている区域内の土地面積であることから、土地登記簿で公示されている地積と同じく、又はそれ以上に確定性、公示性の高いものであって、また、そのように管理されるべきものであるといえる。
以上を総合すると、本件安威川ダム建設事業の特殊性、特に、本件用地買収等により生活基盤を失うこととなる者等の意向に配慮したとしても、本件取得面積等は、外見上も明らかに確定した公有地の実測面積であり、本来、何人でも容易に知り得べきものであって、各土地の「取得単価」が公にされない以上、その実測面積から直ちに取得金額等が算定できるものではないことなども併せ考慮すれば、これを公にすることにより、地元関係者等が、今後当該事業に係る協議、交渉等に応じなくなるなどの事態は想定できないというしかなく、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、条例第8条第4号に該当しない。
- (ア)本件取得金額等について
- ア 行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
- (2)その余の条号について
以上に述べたことからすると、本件非公開部分のうち、実施機関が条例第8条第1号又は第9条第1号に該当すると主張する「本件取得金額等」の部分(財産区に係るものを除く。)については、全て条例第8条第4号に該当し、公開しないことができる情報であると認められるので、その余の条号の該当性については判断するまでもない。
8 結論
以上のとおりであるから、本件非公開部分のうち、別表に示す「公開すべき部分」については、本件異議申立てには理由があり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
別表
区分 |
公開すべき部分 |
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平成8年度、10年度、11年度及び12年度土地台帳 |
左欄の文書のうち、次の情報が記載された部分
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平成11年度及び12年度補償台帳 |
左欄の文書のうち、次の情報が記載された部分
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平成8年度、10年度及び11年度買戻し台帳のうち土地に係るもの |
左欄の文書のうち、次の情報が記載された部分
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平成10年度及び11年度買戻し台帳のうち補償に係るもの |
左欄の文書のうち、次の情報が記載された部分
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