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更新日:2009年10月22日

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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第64号)

(答申日 平成13年2月23日)

  1. 対象行政文書
    • (1)介護保険指定居宅介護支援事業者の指定(許可)申請書及び添付書類(5事業者分)
    • (2)介護保険指定居宅サービス事業者の指定(許可)申請書及び添付書類(3事業者分)
  2. 実施機関の決定
    • (1)実施機関
      大阪府知事(担当課 健康福祉部高齢介護室介護保険課、同在宅課)
    • (2)決定内容
      部分公開決定
      • ア 非公開部分
        • a 管理者の住所、電話番号、生年月日、学歴、主な職歴等(公職歴を除く。)並びに取得資格の種類、取得年月及び登録番号
        • b 主なサービス提供責任者、訪問介護員及び事務員の氏名、住所、生年月日、本籍地、各資格に係る番号及び過去の勤務先等
        • c 介護支援専門員の氏名、介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)及び生年月日
        • d 実務経験証明書のうち、氏名、住所、施設又は事業所名、代表者氏名及び証明者の印影
        • e 議事録の陪席者の氏名
        • f 事業計画書のうち、「事業の内容」、「事業実施の予定時期(予定期間)」及び「利用者の推定数及び通常の事業地域内外比率」の各欄に記載された情報の部分
        • g 収支予算書のうち、項目及び合計欄に記載された情報を除く部分
        • h 貸借対照表のうち、流動資産、固定資産、資産合計、流動負債、固定負債、負債合計、資本金、剰余金、当期利益、資本合計及び負債・資本合計の金額を除く部分
        • i 損益計算書、利益処分計算書、勘定科目内訳書
        • j 法人の代表者及び個人の印影
      • イ 公開しない理由
        • 大阪府情報公開条例第8条第1号に該当する。
          本件非公開部分には、法人の代表者の印影、事業計画、収支予算等に関する情報が記載されており、これを公開することにより、取引の安全を害するなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
        • 大阪府情報公開条例第9条第1号に該当する。
          本件非公開部分には、個人の氏名、住所、生年月日、本籍地、職歴等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
  3. 異議申立て
    • (1)申立ての趣旨
      本件決定の一部(2(2)アの下線部分を非公開とした部分)を取り消すよう求める。
    • (2)理由(要旨)
      開示を求めている部分は、利用者として合理的なサービス選択するに当たって重要な情報であり、秘匿されることで、利用者の選択の自由、権利を制限し、取り返しのつかない被害に結びつく危険がある。
      社会福祉法では、国及び地方公共団体は、福祉サービスを利用しようとするものが必要な情報を容易に得られるように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない(75条)とある。
      介護業務等は、人対人のサービスであり、一般に匿名性をもって行える事業ではない。医師や教員などと同様に人格が重要な要素であり、一般に「知られたくないと思う」職業には当たらない。管理者の職歴、主なサービス提供者や訪問介護員等の過去の勤務先等は、消費者が、事業者を選択するに当たっての重要な判断材料であり、それらが不明では消費者は選択の権利を奪われたのと同じである。
      建設業法、宅建業法には、許可申請書や、免除申請書が自由に閲覧できる制度がある。介護保険事業は、税金や強制徴収される保険料によって賄われるものであり、本来、これらと同等以上の情報公開制度が存在してもよいはずである。
  4. 大阪府情報公開審査会の答申
    • (1)審査会の結論
      実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、別表1及び別表2に掲げる部分(a事業計画書のうち「通常の事業地域内外比率」を除く全部、b収支予算書のうち収入に係る項目別の金額及び内訳(説明)、c訪問介護員等、介護支援専門員及びサービス提供責任者の氏名、dサービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分のうち、国立の施設の名称等が記載された部分)を公開すべきである。
      実施機関のその余の判断は妥当である。
    • (2)理由(要旨)
      • ア 条例第8条第1号についての判断
        • (ア)「貸借対照表」、「損益計算書」、「利益処分計算書」及び「勘定科目内訳書」について
          本件貸借対照表等を提出した法人は、いずれも「小会社」で、少なくとも現行法令上は、貸借対照表の小科目の内訳や損益計算書、利益処分計算書、勘定科目内訳書に記載された情報をどの程度まで公にするかは、基本的に当該株式会社の判断に委ねられている。
          本件貸借対照表等は、当該株式会社が当該指定居宅介護支援事業を行う以前の事業活動に関するもので、指定居宅介護支援事業者としての当該事業に関する情報は全く含まれていない。
          一般に、市場原理においては、公益的な事業と関わりのない詳細な内部情報の公開・非公開による利益・不利益は、本来各事業主体の自己責任により処理されるべきである。
          当該株式会社のような小会社の財務状況の詳細がその意向に反してまで一般に流布されることとなれば、小会社の当該介護保険事業への積極的な参入を阻害するおそれがある。
        • (イ)事業計画書について
          「事業の内容」については、基本的には、実施機関が示した記入例を参考に、各厚生省令に従って適正な事業の運営を行うことを各項目別に記載したものであって、各事業者がそれぞれ蓄積した知識と経験を基に生み出した各事業の運営に関するノウハウと言えるものでない。
          「事業実施の予定時期」の部分は、既に事業を開始している事業者の申請時における事業実施の予定年月日及びそれ以前の事業活動の概要が記載されているのにすぎない。
          「訪問介護事業者に係る「利用者の推定数」の部分は、申請時点において各事業者が計画していた見込みの人数であって、当該事業者の過去に計画された事業規模の一端を示すにすぎないものであることから、各事業者の事業運営に関するノウハウとまでは認めることはできない。
          「通常の事業地域内外比率」の部分に記載された情報は、各事業者が、どの地域に重点をおいて営業活動を行っていくかを示す情報で、事業者の営業上の戦略に関する情報である。一般に公にされ、競争相手にも知られると、事業者の営業活動等に不利益を与えることは十分に予測される。
          上記以外の「通常の事業地域」等については、インターネット等により既に公にされている。
        • (ウ)収支予算書
          支出に係る項目別の金額及び内訳(説明)については、公にすることにより、当該事業者にとってはその蓄積した知識と経験を基に生み出した事業運営上の具体的なノウハウが容易に競争相手である他の事業者に知られることとなるものであり、従来の社会福祉法人に加え、株式会社、医療法人など様々な形態の法人が競争を行っている状況下では、主として公金によりサービスを提供する事業者に関する情報であることを考慮してもなお、事業者の意思に反して公開することにより、当該事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当する。
          収入に係る項目別の金額及び内訳(説明)については、収入の大半が介護報酬であり、介護報酬は、介護保険金や税収等を財源として市町村から支払われる公的資金であることから、市からの委託料収入とともに、本来公にされることが予定されている情報というべきものであって、その他の非公開部分についても、当該介護報酬から容易に判別できるものである。
      • イ 条例第9条第1号についての判断
        • (ア)氏名について
          • (あ)訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名
            利用者やその家族にとっては、どのような資格等を有する誰がサービスを行ってくれるのかなどの情報は、事業者を選択するに当たって極めて重要な判断材料となり得るものであり、訪問介護員等や介護支援専門員個人についても、こうしたサービスの提供時はもちろん、業務として相談や問い合わせを受けた場合において、その氏名等を秘匿することはほとんど考えられない。利用者等が、申込前に、事業者に訪問介護員等又は介護支援専門員の氏名及び資格等を問い合わせることは十分考えられるが、事業者がこうした情報を全く提供しないことは通常予測できない。
            「指定居宅サービス事業人員等基準」及び「指定居宅介護支援人員等基準」を確認したところ、法は、訪問介護員等及び介護支援専門員はその氏名や資格等を明らかにして介護サービスの提供を行うべきものであることを明確に示している。
            府が示している上記各基準の運用マニュアルでは、訪問介護員等又は介護支援専門員の氏名の掲示等については、各事業者の判断に委ねられているもののこれを否定するような指導はなされておらず、本件行政文書に記載された事業者の中にも、勤務当日の訪問介護員等の氏名をその顔写真とともに当該事業所に掲示しているものが含まれている。
            加えて、介護保険制度は、未だその運用が定着しているとはいえない段階にあることから、各事業者が指定を受けるために提出した本件各行政文書に記載された訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名を明らかにすることによって、今後行われる当該申請の適正さがさらに確保され得ることにも十分な配慮がなされるべきである。
          • (い)サービス提供責任者の氏名
            本件サービス提供責任者は、法に基づき指定訪問介護事業者の指定を受けるために各事業者が実施機関に提出した書類に記載され、当該事業者に訪問介護員等として勤務することが予定されている者であって、また、その氏名が掲示等により公にされることが予定されている情報であることは明らかである。
          • (う)事務員の氏名
            指定訪問介護事業所又は指定居宅介護支援事業所の事務員については、法において資格等の要件が定められているものではなく、実施機関の基準等においてもその職責や掲示等について何らの規定も設けられていない。
        • (イ)訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員の生年月日について
          これらの者の生年月日がその職務や職責と密接に関連しているものでもなく、その職務を遂行する上でも公にされることが予定されている情報といえるものでないことは明らかである。
        • (ウ)訪問介護員等及びサービス提供責任者の取得資格等に係る番号並びに介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)について
          これらの資格等の番号は、公にされる訪問介護員等や介護支援専門員等の氏名や資格等の内容と結びつけることにより、当該個人にとっては、各資格等を有していることを証する情報、言い換えれば、当該個人の身分を証する情報となり得るものであって、当該個人のいわゆるID番号ともいえるものである。そして、このような個人の識別番号が広く公にされることにより、日常生活の様々な場面において本人の知らない状況下で使用され、当該個人が何らかの不利益を被るおそれが生ずることを全く否定することはできない。
        • (エ)サービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分について
          サービス提供責任者の過去の勤務先等の名称のうち、公務員としての履歴等いわゆる公職歴に関するものついては、既に公にされているか、公にされることが予定されている情報であるといえるが、それ以外のものについては、当該個人の私的な履歴事項であり、通常公にされることはない情報である。
        • (オ)管理者の生年月日、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分、取得資格の種類、取得年月及び登録番号並びに学歴について
          これらの情報は、いずれも、当該管理者個人にとっては、その生年月日、過去の経歴や事業所における当該事業の実施に必要とされない取得資格の詳細、あるいは学歴を具体的に示すものであって、当該個人の私的な履歴事項として、通常公にされることのないものである。

大阪府情報公開審査会答申(全文)

第一 審査会の結論

実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分公開決定において非公開とした部分のうち、別表1及び別表2に掲げる部分を公開すべきである。

実施機関のその余の判断は妥当である。

第二 異議申立ての経過

  1. 平成12年6月7日、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定に基づき、大阪府知事(以下「実施機関」という。)に対し、次の文書の公開請求(以下「本件請求」という。)をした。
    • (1)下記の介護保険指定居宅介護支援事業者の申請書((あ)、(い)、(う)、(え)、(お))
    • (2)下記の介護保険指定居宅サービス事業者の申請書(訪問介護)((か)、(え)、(き))
  2. 平成12年7月6日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書として、次の(1)の文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、次の(2)に示す部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない理由を次の(3)のとおり付して異議申立人に通知した。
    • (1)本件行政文書
      • ア 下記法人からの指定居宅介護支援事業者指定(許可)申請書及び添付書類
        • a 社会福祉法人A((あ)に係るもの)
        • b 社会福祉法人B((い)に係るもの)
        • c C株式会社((う)に係るもの)
        • d 株式会社D((え)に係るもの)
        • e 株式会社E((お)に係るもの)
      • イ 下記法人からの指定居宅サービス事業者指定(許可)申請書及び添付書類
        • a 社会福祉法人A((か)に係るもの)
        • b 株式会社D((え)に係るもの)
        • c 社会福祉法人F((き)に係るもの)
    • (2)公開しないことと決定した部分
      • ア 法人の代表者及び個人の印影
      • イ 管理者の住所、電話番号、生年月日、学歴、主な職歴等(公職歴を除く。)並びに取得資格の種類、取得年月及び登録番号
      • ウ 主なサービス提供責任者、訪問介護員及び事務員の氏名、住所、生年月日、本籍地、各資格に係る番号及び過去の勤務先等
      • エ 介護支援専門員の氏名((い)に係るものを除く。)、介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)及び生年月日
      • オ 議事録の陪席者の氏名
      • カ 実務経験証明書のうち、氏名、住所、施設又は事業所名、代表者氏名及び証明者の印影
      • キ 事業計画書のうち、「事業の内容」、「事業実施の予定時期(予定期間)」及び「利用者の推定数及び通常の事業地域内外比率」の各欄に記載された情報の部分((い)、(う)及び(お)に係るものを除く。)
      • ク 収支予算書のうち、項目及び合計欄に記載された情報を除く部分((う)及び(お)に係るものを除く。)
      • ケ 貸借対照表のうち、流動資産、固定資産、資産合計、流動負債、固定負債、負債合計、資本金、剰余金、当期利益、資本合計及び負債・資本合計の金額を除く部分((え)及び(お)に係るものを除く。)
      • コ 損益計算書((え)に係るものを除く。)、利益処分計算書、勘定科目内訳書
    • (3)公開しない理由
      • ア 条例第8条第1号に該当する。
        本件非公開部分には、法人の代表者の印影、事業計画、収支予算等に関する情報が記載されており、これを公開することにより、取引の安全を害するなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
      • イ 条例第9条第1号に該当する。
        本件非公開部分には、個人の氏名、住所、生年月日、本籍地、職歴等が記載されており、これらの情報は、個人のプライバシーに関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
  3. 同年8月30日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立てを行った。

第三 異議申立ての趣旨

本件処分において非公開とした部分のうち、次の情報を除く部分に対する非公開決定を取り消すよう求める。

(異議申立ての対象から除外する部分)

  1. 法人の代表者及び個人の「印影」
  2. 管理者の「住所、電話番号」
  3. 主なサービス提供責任者、訪問介護員及び事務員の「住所」、「本籍地」
  4. 議事録の「陪席者の氏名」
  5. 実務経験証明書のうちの「住所」
  6. 従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表の「氏名」

第四 異議申立人の主張要旨

異議申立人の主張を総合すると概ね次のとおりである。

  1. 公的介護保険は、税金及び保険料という強制的に国民から集めた資金によって行われる事業であり、資金を支出する市民は介護保険によってなされるサービスについて、詳しく知る権利を有する。開示を求めている部分は、利用者(消費者)として合理的なサービス選択するに当たって重要な情報であり、秘匿されることによって、利用者の選択の自由、権利を制限し、取り返しのつかない被害に結びつく危険がある。当該法人の「競争上の地位及び正当な利益」はむしろ、これらの情報を公開することによって確保される。社会福祉法では、国及び地方公共団体は、福祉サービスを利用しようとするものが必要な情報を容易に得られるように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない(75条)とあり、当該事業が何者によって運営され、どのような事業計画のもとに事業をしているか等は消費者の選択に重要な情報である。
  2. 介護業務等は、人対人のサービスであり、一般に匿名性をもって行える事業ではない。医師や教員などと同様に人格が重要な要素であり、一般に「知られたくないと思う」職業には当たらない。管理者の職歴、主なサービス提供者や訪問介護員等の過去の勤務先等は、消費者が、これからサービスを受けようとする事業者を選択するに当たっての重要な判断材料であり、それらが不明では消費者は選択の権利を奪われたのとおなじである。サービス事業者は商業戦略として、これまでの経験をアピールし、顧客を獲得する努力をするのがふつうである。経験の少ない事業者はそれを埋め合わせる事業努力をさまざまな工夫やアイデアで行う。こういう状況が生まれてこそ、公正な市場競争と言えるのである。これらの情報を「他人に知られたくないと望む」のは、公正な市場競争に参加したくない事業者のみである。
  3. 建設業法、宅建業法には、許可申請書や免許申請書が自由に閲覧できる制度がある。それには、従業者の資格や個人の経歴、それに工事実績や取引実績、財務諸表などが記載され、定期的にそれらを提出し、数年間閲覧に供されている。介護保険事業は、税金や強制徴収される保険料によって賄われるものであり、本来、これらと同等以上の情報公開制度が存在してもよいはずである。最初から、公開されることが承知されている形であり、個人情報の保護の面からもこうした方策が望ましく、地方分権の今であれば、条例によって「業法」を立法することも可能である。一般的な情報公開制度では、それに比べて、個人に関する情報の公開度は下がらざるをえないが、介護保険事業という性格から、申立て人が異議を申し立て開示を主張する部分ぐらいは公開すべき情報だと言える。
  4. 問題提起として
    本件異議申立てのねらいは、公的介護保険事業者の情報開示制度の確立にあり、最終的には、建設法などの「業法」に相当する「業条例」がつくれないか、という提案である。
    理由は、第一に、同制度の費用を生み出す仕組みは一般的な市場システムにあるのではなく、強制的に徴収される社会保険制度に基づくものであること。第二には、サービスが人の生命、健康に重大な影響を与えることが避けられないということ。第三に、サービスの内容も工場で生産されるような製品ではなく、提供者の専門性に基づく、「人対人」のものであり、単なる需要と供給の均衡による価格システムで決まるものではないという点である。
    弁明書の非公開理由を検討してみると、事業者情報の扱い方は「一般的な市場を前提としている」としか言えず、残念ながら、公的介護保険という公共的な制度における情報公開のあり方は「一般市場の商品」とは異なる形がありうるのではないか、という問題意識に十分答えているとはいえない。
    また、もう一つの論点として取り上げたいのは、大阪府知事への介護保険指定事業者申請書の意味付けである。従来の発想からすれば、「民」から「官」に提出し、その許可をもらって指導監督を受ける。
    また、消費者(介護を受ける人)は「官」によって「措置」され、保護を受けるというものであった。しかし、社会福祉事業法(現社会福祉法)の改正などで、福祉サービスは事業者と消費者の契約によって成立する形に変わった。最近、消費者問題の考え方は、消費者を「保護する」という行政法的な視点から、消費者と事業者の「民・民」の権利関係を律する消費者「私法」にうつっており、行政の役割は両者を媒介するものとして位置付けられている。行政は、旧来のように情報を独占し、他を指導するという立場にあるとは考えられない。
    公的介護保険制度は「市場システムによるサービス供給」に異ならないが、ただ、「一般的な市場システム」とは言えない。さらに、有効な市場システムは、消費者が事業者のサービスの実態、その将来的な見通しなどを十分に知ることを前提にして成り立っており、消費者としての「知る権利」が保障されなければ機能しない。
  5. 個別具体的な検討
    • A 財務諸表等について
      府知事は、小会社の財務諸表等の一部を「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」とし、公開の範囲を「商法の規定」に基いて決めているが、介護保険という公的な資金を使い、サービスそのものの公益性、生命・健康へのかかわりといった観点からすると、それが適当な範囲であるのか疑問である。資料そのものが公開されていない以上、異義申立て人は詳細な反論はできないが、建設業法や宅地建物取引業法においても、財務諸表は開示することになっており、そのことで競争上の正当な地位が脅かされたとは聞いていない。財務諸表は、民間の信用調査機関なども集めており、取引の相手方として信用すべきものかどうかを判断する有力な材料とされている。消費者がそれを直接見て判断を下すことはあまりないと思うが、最近は「福祉オンブズマン」が、事業者ごとの福祉サービスの評価を行い、消費者に比較評価の情報を提供するという市民活動も起きている。財務諸表が消費者の目に届くことは極めて公益にかなっているといえる。
      先程も申し上げたように、申請書は一部の「お役人」に出すのではなく、市民の代理人としての「公共団体」に出したものであり原則的に市民のものである。市民には「知る権利」が存在し、正当な目的で利用する自由がある原則を忘れてはならない。
    • B 事業計画書等について
      弁明書は、「公開すれば、各事業者がどのように利益を生み出そうとしているかについて具体的かつ詳細な情報が競争相手に看取される」としている。しかし、「看取される」ことが直ちに「正当な利益を害する」ことに結びつくというのは、市場競争についての一面的な見方に過ぎない。市場における競争は、必ずしも「相手を蹴落とす」ためのものではなく、一種の「すみわけ」をするためとも言えるからである。
      「蹴落とす」が多いのは過当競争に陥っている場合である。米国では、情報自由法を利用する企業が多いが、その利用は競争相手の動向を探ることにある。例えば、食品医薬品局では、許可を求めている医薬品の検査状況などについて公開請求が行われている。それをみると、競争相手の製薬会社がどんな薬の開発に力点をおいているかがわかり、無駄な開発や競争を抑える効果をもたらしているのである。
      今回、公開請求の対象とした淀川区では各事業者が協議会をつくってお互いに情報交換している。公的介護保険の市場では「隠し合い、蹴落とし合う」のではなく、「ノウハウを出し合い、互いに協力し、住み分ける」方が生産的である。そうした情報も正しく消費者に伝えられ、消費者も輪に参加することでサービスの向上が図れるのである。介護においては、消費者と事業者は長いつきあいにならざるをえない。事業者がどのような事業計画で、どのような地域で、どのようなサービスを、どのような量提供する予定なのかは、消費者には重要な情報である。
    • C 管理者、訪問介護員、介護支援専門員などの個人情報について
      先程も述べたように、公的介護保険のサービスは「人対人」のものであり、その専門的な能力によってサービスに差異が生じると考えられる。介護サービスを担当する職員の氏名や資格は、実際にサービスが始まれば、初回訪問時に提示するよう指導されることになっているとしているが、極めて乱暴な理論である。
      訪問が始まる時は消費者がすでに事業者を選択した後である。しかも、対面時に、身分証明書の提示を求め実際に行わせるのが可能とは思わない。こんなことを堂々とできるのは警察官の職務質問か交通検問である。悪質な業者だったら、「きょうはピンチヒッターで来ました」などと言って、無資格者を派遣してその場をごまかすこともありえる。消費者が事前に資料を見て、当該事業者の有資格者の状況を把握することで、有効な選択ができるといえるのである。
      4月から始まった公的介護保険に参入した業者の中には、十分な専門性を持たないケースも多いと聞く。福祉専門職の養成機関を出たからといって十分な経験や職能を持っているとは限らない。実際、「促成栽培」の場合も少なくないからである。消費者は「資格」以外の情報を知ることで適正な選択をせざるを得ない状況にある。事業者間の正当な競争とは、「資格」以外の経験等の情報を含めて消費者に提供されていなければ成り立たないと言わざるをえない。
      「若い女性が笑顔で介護する」といったテレビ媒体によってイメージだけが流されているが、それが実際と乖離しているのかどうかも、介護員の年齢などの情報も含めて分析しなければわからないし、当然、事業所の責任者や専門員の職務経験も重要な判断材料である。
      公的介護保険のサービス従事者の氏名等は、申請書などに記載されているだけであり、住所を分からないようにすれば、閲覧・コピー可能になっても、ただちにプライバシー侵害に利用されるとはいえない。
    • D 事業者による「公開反対」の意向について
      「第三者情報への意見聴取」というのははたして、一般論を聴くためにあるのかどうか、解釈上の疑問がある。法人情報や個人情報などの公開・非公開の判断は、一般的な原則に従って行えばよいのであって本来、いちいち当事者にきく必要はない。ただ、実施機関の判断だけでは知り得ない特別な事情がある場合も考えられるので、当事者に知らせて確認するというものであるべきである。府知事の弁明書からは、「第三者への意見聴取」はただ単に一般的な意見を求めているようにしかみえない。「特別な事情があるのかどうか」がわからない。
      例えば、一般的には「どうでもよい情報」に見えても、この業界では「他社に知られたら大変困る情報である」とか、個人情報では、日常生活は「通名」を使っているが、資格証明書は本名で国籍等がわかると差別や日常生活に支障が出る場合とかに限られると考えられる。
      4の冒頭で述べたように、異議申立ての目的は合理的な「情報開示制度の確立」にある。つまり、消費者への公開を前提とした事業者情報の公開、専門職有資格者の登録制度などである。これがあれば、消費者に提供する必要のない情報は申請書に記載する必要はないし、個人のプライバシーにかかわるような情報も登録する必要はない。もし、必要な場合があっても、用紙を別にすることで、公開・非公開をきちんと切り分けることも可能になる。また、事業者も「これだけの情報は提供しなければならない。うそを書いても『実際と違うではないか』という消費者の指摘がこわい」という覚悟の上で書類を作成すると思う。
      市民に目を向けた公的介護保険制度づくりに、重要な位置を占める事業者情報の公開のあり方について判断を仰ぎたい。

第五 実施機関の主張要旨

1 介護保険制度の概要について

介護保険制度は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保険医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき、介護保険法によって設けられた制度であって、国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的としており(介護保険法第1条)、介護保険制度の仕組み、手続き等については、介護保険法(以下「法」という。)及び厚生省令等において定められている。

[以下1について記載略]

2 指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者の指定

本件行政文書は、a居宅サービスのうち、訪問介護を行おうとする者が、訪問介護に係る指定居宅サービス事業者(以下「指定訪問介護事業者」という。)の指定を受けるために実施機関に申請した際の申請書及び添付書類並びにb居宅介護支援事業を行おうとする者が、指定居宅介護支援事業者の指定を受けるために実施機関に申請した際の申請書及び添付書類であり、それぞれの申請手続きは、法及び介護保険法施行規則(以下「規則」という。)において定められている。

そして、指定訪問介護事業者及び指定居宅介護支援事業者の指定申請の手続き及び指定の要件については、それぞれ以下のとおりである。

[以下2(1)及び(2)について記載略]

  • (3)申請情報の公開状況
    実施機関においては、事業者が提出する指定申請書の情報の主要な部分(事業者の名称、法人の代表者氏名、主たる事務所の所在地、事業所名称、管理者氏名、従業者数、利用料金、営業日、営業時間等)について、社会福祉医療事業団が構築する福祉・保健・医療並びに介護の関連情報を提供するためのネットワーク・システム(WAMネット)に登載し、利用者による事業者選択や指定居宅介護支援事業者等の業務を円滑に行わせるため、誰もがインターネットを通じて事業者に関する情報を入手できるよう計らっている。
    このため、実施機関は、指定申請時等において、その主要な情報がWAMネットに登載されることを事業者に周知しており、これら主要な情報については個人の氏名であっても公開されることが前提のうえ、提出されているものといえるが、WAMネットにおいて提供されない訪問介護員(ホームヘルパー)等の従業員の個人の氏名や事業者独自の情報については、上記(1)及び(2)に掲げる指定申請にあたり、実施機関が指定要件を満たすものか否かの判断材料として提出を求めているものであり、公開を前提として提出されたものとは言えない。

3 本件行政文書について

本件行政文書は、前述のとおり、a指定訪問介護事業者の指定申請書及び添付書類又はb指定居宅介護支援事業者の指定申請書及び添付書類であり、それぞれ次のとおり大別される。

[以下3について記載略]

4 条例第8条第1号に該当することについて

本号は、許認可等の事務事業を通じて事業を営む者から収集した情報については、原則として公開としつつも、事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないとする見地から、社会通念に照らし、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」は、営業の自由の保障、公正な競争秩序維持等のため、公開しないことができることを、その趣旨とする。

本号の該当性については、情報の内容のみではなく、事業を営む者の性格、事業活動における当該情報の位置づけ等に十分留意することに加え、客観的に明白なものを除き、当該事業を営む者から意見を聴取するなどにより、公開した場合において侵害される利益の有無、程度等についての客観的な判断を行う必要がある。

本件処分において、本号に該当する情報として非公開としたものは次のとおりであり、これら情報のうち、異議申立ての対象から除外されているgの法人の「代表者の印影」を除いたものについて、以下本号に該当する理由を述べることとする。

  • a 資本金が1億円以下の株式会社(以下「小会社」という。)に係る貸借対照表のうち、流動資産、固定資産、資産合計、流動負債、固定負債、負債合計、資本金、剰余金、当期利益、資本合計及び負債・資本合計の金額を除く部分(以下「貸借対照表非公開部分」という。)
  • b 小会社に係る損益計算書(以下「損益計算書」という。)
  • c 小会社に係る利益処分計算書(以下「利益処分計算書」という。)
  • d 小会社に係る勘定科目内訳書(以下「勘定科目内訳書」という。)
  • e 事業計画書のうち、「事業の内容」、「事業実施の予定時期」及び「利用者の推定数及び通常の事業地域内外比率」に記載された部分(公開に反対の意思を示さなかった事業者に係るものを除く)
  • f 収支予算書のうち、項目及び合計欄に記載された情報を除く部分(公開に反対の意思を示さなかった事業者に係るものを除く。)
  • g 法人の代表者の印影

介護保険制度においては、行政機関が各人のサービス提供を決定する行政処分としての措置制度から、利用者がサービスを提供する事業者を選択し、利用者と事業者が契約を締結する契約制度への転換に伴い、従来からサービスを提供してきた社会福祉法人、医療法人等に加え、株式会社等の営利法人等多種多様な事業主体がサービス提供事業者として参入している。こうした状況のなか平成12年7月1日現在、指定訪問介護事業所数は936件(うち、株式会社等の営利法人470件、社会福祉法人295件、医療法人99件)、指定居宅介護支援事業所数は、1,406件(うち、株式会社等の営利法人457件、社会福祉法人390件、医療法人383件)と、多種多様な事業者が指定を受けており、各事業者は利用者の選択を得るため、創意工夫に基づいたサービス提供の実施方法等に企業努力を払う状況にあると思われる。こうしたなか、指定訪問介護事業者及び指定居宅介護支援事業者?各事業者の経営状況の詳細に関する情報や営業上のノウハウ等の営業上の秘密に関する情報を公開するかどうかの判断に当たっては、当該事業者がこのような状況下において、指定訪問介護事業や指定居宅介護支援事業において諸活動を続けていることを十分に踏まえ、当該事業者から聴取した意見を参考としながら慎重に行う必要がある。

なお、実施機関は、条例第17条第1項の規定により第三者である事業者に意見を提出する機会を与え、当該事業者から公開に対する意見を聴取したうえで本号該当性の判断を行っており、上記の非公開部分について公開に反対の意思表示をしなかった事業者については、上記の情報を公開している。

次に上記非公開部分を大別し、それぞれ、本号に該当する理由を述べる。

(1)「貸借対照表非公開部分」、「損益計算書」、「利益処分計算書」及び「勘定科目内訳書」について

「貸借対照表非公開部分」、「損益計算書」、「利益処分計算書」及び「勘定科目内訳書」については、いずれも小会社の事業者の指定居宅介護支援事業の申請書に添付されたものであり、それぞれ、平成11年度末における当該事業者の財政状況、その年度における経営成績、利益処分の状況、預金状況等が具体的かつ詳細に記載されている。

まず、「貸借対照表非公開部分」については、流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、剰余金の各大科目の内訳として、それぞれの小科目の詳細の内訳及びその金額が具体的に記載されており、「損益計算書」については、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外利益、営業外費用等の各項目別にその金額が具体的に記載され、これらの項目について更に詳細な項目及び金額を記載した内訳書が添付されている。また、「利益処分計算書」については、剰余金の処分状況が記載されている。

「勘定科目内訳書」については、「貸借対照表」及び「損益計算書」の明細書であり、現金、普通預金等の勘定科目別に金額及び取引先等の名称が詳細かつ具体的に記載されている。すなわち、これらの情報は、当該事業者の財産状況に加え、経営成績、営業活動における取引先の具体的な名称、ひいては事業の進め方、その方法といった営業上のノウハウに関する情報である。

前述のとおり、介護保険事業においては、社会福祉法人、医療法人、株式会社等の営利法人など多くの法人主体が参入しているが、なかでも営利法人である株式会社については、社会福祉法人などのいわゆる認可法人と比較して、その規模、会社設立の目的、事業の内容、範囲もそれぞれ多様、広範なものであり、その情報の公開を検討するにあたっては、根拠規定である商法の規定や当該法人の持つ特性を考慮する必要がある。

上記において非公開とした情報は、全て株式会社の上場を行っていない小会社である事業者に関するものである。そして、株式会社は営利法人であり、その事業活動は株主の拠出した資本を基に行われ、毎年度その経営成績により株主へ利益を配当していくものであり、より多くの利益をあげることが要求される。

また、商法においても、このような事業者に関しては、商法第283条第3項の規定により取締役が公告を義務づけられている「貸借対照表又はその要旨」についても、商法中改正法律施行法第49条及び株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則第50条の規定により、「資産の部を流動資産、固定資産及び繰延資産の各部に、負債の部を流動負債及び固定負債並びに引当金の部を設けたときは引当金の各部に、資本の部を資本金、法定準備金及び剰余金又は欠損金の各部に区分して、各部につきその合計額を記載し、剰余金又は欠損金の部に当期利益又は当期損失を付記しなければならない。」とされている。すなわち、このような事業者において商法上公告義務があるのは、本件処分において公開した、いわゆる大科目の部分のみであって、本件処分において非公開とした部分については、商法上の開示義務は存在していない。

更に、当該事業者は、介護保険の事業(居宅介護支援事業)以外にも複数の他の事業を営んでおり、本件処分において非公開とした部分は、当該事業者が行っている事業全般に関する財政状況や経営状況についての詳細な情報である。

なお、当該事業者は、条例第17条第1項の規定により、これらの文書について公開に対する意見を聴取したところ、公開に対し反対の意思を示している。

とすれば、前述のとおり、ここで非公開とした部分は、当該事業者の財産状況に加え、経営成績、営業活動における取引先の具体的な名称、ひいては営業上のノウハウに関しての情報が詳細かつ具体的に記載された部分であり、これらの情報を公開することは、当該事業者の事業活動全般にわたる経営状況の詳細や営業上のノウハウを容易に競争相手に看取されることになるばかりではなく、その取引先の名称等も一般に流出させることになる。

従って、上記に述べた当該事業者の商法上の位置づけ、記載された情報の性質、当該事業者の意思を踏まえると、本件において非公開としたこれらの情報は、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ものであり、本号に該当するものである。

(2)「事業計画書」及び「収支予算書」について

「事業計画書」には、事業者における、その事業の内容及び事業実施までの具体的な作業内容、利用者の推定数及び通常の事業の実施地域内外の利用者比率(地域ごと)がそれぞれ具体的かつ詳細に記載されている。また、「収支予算書」には、事業所の1年間の収支が収入、支出の項目ごとに記載され、各項目ごとに更に詳細な項目とそれぞれの項目に該当する予算額が具体的かつ詳細に記載されている。

そして、事業者によっては、これらに加え、各項目の詳細な説明が記載されている。

本件において非公開とした部分は、各事業者がそれぞれ蓄積した経験と知識を基に生み出した訪問介護事業や居宅介護支援事業の運営に関するノウハウの結晶といえるものであり、各事業者の事業の進め方、その方法といった営業上の戦略やノウハウそのものに関する情報である。なお、非公開とした部分については、当該情報についても、条例第17条第1項の規定により、公開に対する意見を聴取したところ、公開に対し反対の意思を示したものである。

とすれば、前述のとおり、多種多様な事業者が利用者の選択を得るためにサービス提供の実施方法等に企業努力を払う現在の状況下では、これらの情報を公開すると、各事業者がどのように利益を生み出そうとしているのか等についての具体的かつ詳細な情報が競争相手に看取されることになる。

従って、本件において非公開としたこれらの情報は、「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」であり、本号に該当する。

5 条例第9条第1号に該当することについて

個人の尊厳の確保、基本的人権の尊重のため、個人のプライバシーは最大限に保護されなければならない。特にプライバシーは、一旦侵害されると、当該個人に回復困難な損害を及ぼすことに鑑み、条例は、その前文において、「個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護」することを明記し、条例第5条において「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをみだりに公開することのないよう最大限の配慮をしなければならない。」ことを定めている。そして、条例第9条においては、「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」については、「公開してはならない情報」として公開を禁止するという基本原則が明確に定められている。

本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」とは、一般的に社会通念上、他人に知られることを望まないものをいい、この「正当と認められるもの」の判断にあたっては、客観的に明白である場合を除き、当該個人から意見を聴取するなどにより、条例第5条の規定の趣旨に十分配慮し、プライバシーの侵害のないよう特に慎重に取り扱うことが要請されている。なお、実施機関においては、条例第17条第1項の規定により、第三者である各事業者に意見を聴取したうえで、本号該当性の判断を行っている。

本件処分において、本号に該当する情報として非公開としたのものは、次の(1)のとおりであり、これらの情報のうち、異議申立ての対象から除外されている部分を除いた次の(2)について、以下本号に該当する理由を述べることとする。

(1)非公開とした部分
  • a 管理者に関する情報について
    • ア 住所及び電話番号
    • イ 生年月日
    • ウ 主な職歴等のうち、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分
    • エ 取得資格の種類、取得年月及び登録番号
    • オ 学歴
  • b 主なサービス提供責任者及び訪問介護員に関する情報について
    • ア 氏名
    • イ 本籍地
    • ウ 住所
    • エ 生年月日
    • オ 電話番号
    • カ 主な職歴等のうち、過去の勤務先等に関する部分
    • キ 取得資格の登録番号等
    • ク 実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分
  • c 介護支援専門員に関する情報について
    • ア 氏名
    • イ 介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)
    • ウ 生年月日
    • エ 住所
  • d 事務員の氏名
  • e 従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表に記載された氏名
  • f 議事録の陪席者の氏名
  • g 理事等の印影
(2)上記のうち、異議申立ての対象となる部分
  • a 管理者に関する情報について
    • 生年月日
    • 主な職歴等のうち、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分
    • 取得資格の種類、取得年月及び登録番号
    • 学歴
  • b 主なサービス提供責任者及び訪問介護員に関する情報について
    • 氏名
    • 生年月日
    • 主な職歴等のうち、過去の勤務先等に関する部分
    • 取得資格の登録番号等
    • 実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分
  • c 介護支援専門員に関する情報について
    • 氏名
    • 介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)
    • 生年月日
  • d 事務員の氏名
(3)主なサービス提供責任者、訪問介護員、介護支援専門員及び事務員の「氏名」について

これらの情報は、本件行政文書の提出者である各事業者の業務に従事している個人の氏名である。本件処分においては、各事業者の名称、事業の種類及び事業所名がすでに公開されていることから、当該情報は、個人がどの事業者に勤務し、どのような業務に従事しているのかを具体的に示す個人の職業に関する情報といえ、条例第9条第1号の「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもの」に該当する。

そして、この非公開部分については、各事業者が公開を前提として実施機関に提出したものでないことは前述のとおりである。

とすれば、これらの情報は、公開することにより、容易に当該個人の勤務先や勤務内容等が具体的に明らかになる「個人の職業に関する情報」であり、条例第9条第1号の規定において、個人のプライバシーに該当する例示として「職業」が具体的に示されていることからしても、既に公にされている場合等を除き、一般的に当該個人の社会的活動等を伺い知ることができる情報として極めて秘密性が高く、条例上、保護することが強く求められている情報であり、条例第9条第1号に定める「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当する。

なお、指定訪問介護事業者及び指定居宅介護支援事業者においては、それぞれ、訪問介護員等や介護支援専門員に身分を証する書類を携行させ、初回訪問時及び利用者又はその家族から求められたときは、これを提示すべき旨を指導しなければならない(サービス事業者指定基準第18条、支援事業者指定基準第9条)とされており、これら氏名は、実際のサービス利用等にあたっては明らかにされるものではあるが、これは利用者とサービスの提供者との関係を前提とするものであり、医師名の掲示義務を定めた医療法等にみられるような開示義務を定めた規定とは趣旨が異なるものである。

従って、これらの状況を踏まえると、ここで非公開とした訪問介護員等の氏名は、あくまでも特定個人の職業に関する情報であって、「個人のプライバシーの最大限の保護」を定めた条例の基本原則を踏まえると、利用者に対するサービス提供の場において匿名をもって行っていないことをもって、直ちにこれらの情報が「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当せず、公開すべき情報であるということはできない。

(4)管理者、主なサービス提供責任者、訪問介護員及び介護支援専門員の「生年月日」について

まず、管理者の生年月日については、その氏名が本件処分において公開されていることから、当該管理者の年齢が具体的に明らかになる情報であり、条例第9条第1号の個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であり、本号に該当する。

また、主なサービス提供責任者、訪問介護員及び介護支援専門員の生年月日については、生年月日が個人特有の情報であることから、特定の個人が識別され得る情報であり、既に各事業者の名称、事業の種類及び事業所名が公にされていることから、これを公開すると、既に公になっている情報等他の情報と結び付けることにより、訪問介護員等の氏名及びその職業が明らかになるおそれがある。

従って、訪問介護員等の生年月日についても、本号にいう「特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当する。

(5)管理者の主な職歴等のうちの非公開部分並びに主なサービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分について

まず、管理者の職歴等について非公開とした部分については、各事業者の管理者の氏名が既に公開されていることから、これを公にすると、当該管理者の過去の勤務先及び職務内容等職業に関する詳細な情報が明らかになるが、これらの職業に関する情報が本号に該当することは前述のとおりである。

また、主なサービス提供責任者の職歴については、その氏名を非公開としていることから、過去の職歴に係る年月及び職務内容の部分を公開し、過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分のみを非公開としたものであるが、過去の勤務先等や実務経験を行った施設又は事業所名を公開すると、既に公にされているその勤務年月及び職務内容等他の情報と結び付けることにより、特定の個人が識別され得ることとなり、ひいては、その個人の勤務先等、実務経験を行った施設名、勤務年月及び職務内容が全て明らかにされることとなる。

従って、これら個人の過去の勤務先等、勤務年月及び職務内容は、個人の職業に関する情報であって、既に述べたとおりこれが本号に該当することは明らかであるから、主なサービス提供責任者の過去の勤務先及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分については、本号に該当し、公開してはならない情報である。

(6)「管理者の取得資格の種類、取得資格の取得年月及び登録番号並びに学歴」、「主なサービス提供責任者及び訪問介護員の資格に係る番号」、「介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)について

まず、管理者に係る上記非公開部分については、その氏名が既に公開されていることから、これを公にすることにより、特定の個人の資格の取得状況及び学歴が明らかになることとなる。これらは、特定の個人の学歴や個人の過去に習得した技能に関する情報そのものであることから、当該個人が自ら公にしている場合を除き、本号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当する。

また、主なサービス提供責任者及び訪問介護員の資格に係る番号並びに介護支援専門員番号は、これを公開することによって、その資格の管理を行っている団体の作成している名簿等他の情報と結び付けることにより、その資格を有している個人が特定され、ひいては、その当該個人がどの事業者に所属し、どのような業務に携わっているのか、すなわち、特定の個人の職業が明らかになり得ることとなる。個人の職業に係る情報は前述のとおり、本号に該当することから、ここで非公開とした資格に係る番号についても、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当する。

6 異議申立人の主張について

異議申立人は、開示を求めている部分は利用者(消費者)として合理的なサービス選択をするに当たって重要な情報であり、秘匿されることによって、利用者の選択の自由、権利を制限し、取り返しのつかない被害に結びつく危険があるとし、a介護保険事業者の「競争上の地位及び正当な利益」はむしろ、これらの情報を公開することによって確保されるものであること、b介護業務等は人対人のサービスであり、一般に匿名をもって行える事業ではなく、管理者の職歴、主なサービス提供責任者や訪問介護員等の過去の勤務先等は、消費者が、これからサービスを受けようとする事業者を選択するに当たっての重要な判断材料であり、それらが不明では消費者は選択の権利を奪われたのと同じであること、c建設業法、宅建業法は、許可申請書や免許申請書を自由に閲覧できる制度があり、介護保険事業は、税金や強制徴収される保険料によって賄われるものであり、本来、これらと同等以上の情報公開制度が存在してもよいはずであって、異議申立人が開示を主張する部分ぐらいは公開すべき情報である旨を主張している。

本件行政文書は、各事業者が介護保険制度における指定訪問介護事業者及び指定居宅介護支援事業者の指定を受けるために実施機関に提出したものであり、管理者の氏名等情報提供システムにおいて公になることが予定されているものを除き、各事業者は申請情報の全てが公開されることを承知した上で、これらの情報を実施機関に提出しているものではなく、また、介護保険法においては、異議申立人の主張するような建設業法又は宅地建物取引業法における事業者からの提出資料の閲覧制度は規定されていない。

そして、まず、条例第8条第1号に該当するとして非公開とした部分は、各事業者の財産状況、経営状況、事業活動上の経営方針やノウハウに関する情報であって、これを公にすると、これら事業者の経営に関する具体的かつ詳細な情報が競争相手である他の事業者に看取されることとなり、これらを公開することは事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害するもの」と認められる。

次に、介護業務等に従事している個人の氏名等、条例第9条第1号に該当するとして非公開とした部分は、まさに条例が保護する個人のプライバシーに当たるものであって、前述のとおり、実施機関がこれらを公にすることを前提として提出されたものではないこと、更に、指定訪問介護事業者や指定居宅介護支援事業者は、指定を受けるに際しては法人格を具備していなければならず、各事業者を個人事業者として捉える余地は存在しないことから、「個人のプライバシーの最大限の保護」という条例の基本原則を踏まえると、これらの情報は、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であり、異議申立人の主張には理由がない。

なお、介護保険制度は、その運営の一部に公的財源が充てられおり、係る性格のためその事業が公益的な性格を有するものであるとしても、前述のとおり条例の趣旨を踏まえると、事業者の「競争上の地位その他正当な利益」や個人のプライバシーに係る情報については保護されるべきであり、その事業の公益性ゆえにこれら事業者や個人の正当な利益が侵害される理由はないものである。

7 結論

以上のとおり、本件処分は条例の趣旨を踏まえて行われたものであり、何ら違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。

第六 審査会の判断理由

1 条例の基本的な考え方について

行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。

このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人・法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。

このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第8条及び第9条める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。

2 介護保険制度について

(1)介護保険制度の公的性格

介護保険制度は、「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき」、平成9年に制定された介護保険法(以下「法」という。)によって設けられた公的保険制度である(法第1条)。

そして、介護保険の費用は、国民の共同連帯や相互扶助の観点から、利用者の負担(概ね10%程度)を除いた部分の半分を税金で負担し、残りの半分を保険料で負担する社会保険方式が採られている。言い換えれば、介護保険制度における費用の大半は、国民から強制的に徴収される資金によって賄われているのである。

(2)介護保険制度の基本的な考え方

従来、高齢者介護に関する公的制度として中心的な役割を担ってきたのは、「措置制度」を基本とする老人福祉制度であり、老人福祉に係る措置制度においては、特別養護老人ホームへの入所やホームヘルプサービス、日帰り介護(デイサービス)等の市町村が提供する各種サービスの実施について、行政機関である市町村が各人の必要性を判断し、サービス提供を行政処分として決定し、利用者はその所得に応じた額の費用を負担することとされていた。

そして、この老人福祉制度においては、行政がサービスの種類や提供機関を決めるため、利用者がサービスやその提供者を自由に選択できず、サービス提供者についても競争原理が働かないことからサービスの内容が画一的になりがちであり、また、福祉と医療の窓口が別々であったことや老人福祉制度における利用者の費用負担が所得に応じて高くなっていく仕組みであったことなどから、主として介護を必要とする高齢者が長期間一般病院に入院するという、いわゆる「社会的入院」が生じ、医療サービスが効率的に提供されていないなどの問題点が指摘されていた。

介護保険制度は、このような問題点を解決するため、従来分かれていた「老人福祉制度」と「老人保健医療制度」を再編成し、給付と負担の関係が明確な方式により社会全体で介護を支える新たな仕組みを創設し、利用者が自らの選択により、保健・医療・福祉にわたる介護サービスを総合的に利用できるようにしようとするものである。

そして、このような観点から、介護保険制度においては、従来の制度とは異なった新しい考え方が導入されている。つまり、介護保険制度においては、これまでの「措置制度」が廃止され、利用者が自らの選択によって、サービスの種類や内容を決定し、それを提供する事業者についても、利用者が自由に選択できる、利用者と事業者の「契約制度」が採用されたこと、また、従来市町村や社会福祉法人等に限定されていた福祉サービスの提供主体について、新たに株式会社等の営利法人や医療法人など多様な事業主体の参入を認め、多様な事業主体に市場原理に基づき自由に競争を行わせることによって、利用者本位の効率的なサービス提供を確保しようとしていることなどの基本理念がその根底にある。

(3)介護保険制度の仕組み

介護保険制度は、法、介護保険法施行令(以下「施行令」という。)、介護保険法施行規則(以下「施行規則」という。)及び厚生省令等によってその仕組みや手続等が定められており、その概要は次のとおりである。

  • ア 保険者は、市町村及び特別区であり(法第3条第1項)、被保険者は、市町村又は特別区の区域内に住所を有する65歳以上の者(第一号被保険者)及び40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第二号被保険者)である(法第9条)。
  • イ 保険給付の対象者
    介護保険の保険給付は、被保険者の「要介護状態」又は「要介護状態となるおそれがある状態」に関し行われるものであり(法第2条第1項)、主に介護給付と予防給付の2種類がある。介護給付とは、被保険者の要介護状態に関する保険給付であり(法第18条第1項)、予防給付とは、被保険者の要介護状態となるおそれがある状態に関する保険給付をいう(同条第2項)。そして、これらの保険給付を受けようとする被保険者は、保険給付の種類に応じ、介護給付については「要介護者」に該当すること及びその該当する要介護状態区分について、予防給付を受けようとする被保険者は「要支援者」に該当することについて、それぞれ、市町村の認定を受けなければならない(法第19条)こととされている。
    なお、「要介護者」、「要介護状態」、「要支援者」及び「要介護状態となるおそれがある状態」の定義については、それぞれ法第7条に定められているとおりである。
  • ウ 保険給付の種類と意義
    保険給付には、主に介護給付と予防給付があり、介護給付には、a居宅介護サービス費の支給、b特例居宅介護サービス費の支給、c居宅介護福祉用具購入費の支給、d居宅介護住宅改修費の支給、e居宅介護サービス計画費の支給、f特例居宅介護サービス計画費の支給、g施設介護サービス費の支給、h特例施設介護サービス費の支給及びi高額介護サービス費の支給の9種類があり(法第40条)、予防給付には、a居宅支援サービス費の支給、b特例居宅支援サービス費の支給、c居宅支援福祉用具購入費の支給、d居宅支援住宅改修費の支給、e居宅支援サービス計画費の支給、f特例居宅支援サービス計画費の支給及びg高額居宅支援サービス費の支給の7種類がある(法第52条)。
    本件行政文書は、これらの保険給付のうち、介護給付のa居宅介護サービス費の支給及びe居宅介護サービス計画費の支給並びに予防給付のa居宅支援サービス費の支給及びeの居宅支援サービス計画費の支給に関するものであるため、以下これらの保険給付について述べることとする。
    • a 「居宅介護サービス費の支給」及び「居宅支援サービス費の支給」の内容及び要件
      「居宅サービス」とは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴呆対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護及び福祉用具貸与の計12種類のサービスをいい(法第7条第5項)、「居宅介護サービス費の支給」については、この12種類のサービスすべてがその対象となる。また、「居宅支援サービス費の支給」については、居宅サービスから痴呆対応型共同生活介護を除いた11種類のサービスが支給の対象となる。
      そして、居宅介護サービス費の支給について、法第41条第1項は、「市町村は、要介護認定を受けた被保険者(以下「要介護被保険者」という。)のうち居宅において介護を受けるもの(以下「居宅要介護被保険者」という。)が、都道府県知事が指定する者(以下「指定居宅サービス事業者」という。)から当該指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われる居宅サービス(以下「指定居宅サービス」という。)を受けたときは、当該居宅要介護被保険者に対し、当該指定居宅サービスに要した費用(略)について、居宅サービス費を支給する」と定め、居宅支援サービス費の支給についても法第53条第1項において同趣旨の規定を設けている。つまり、要介護認定又は要支援の認定を受けた者が訪問介護等の居宅介護サービス費又は居宅支援サービス費の支給を受けるためには、そのサービスが、都道府県知事が指定する「指定居宅サービス事業者」によって提供されたものでなければならないこととされているのであって、この指定を受けていない事業者から提供されたサービスは、介護保険の対象とはならないものである。
      また、居宅介護サービス費の支給について、法第41条第6項は、「居宅要介護被保険者が指定居宅サービス事業者から指定居宅サービスを受けたとき(当該居宅要介護被保険者が第46条第4項の規定により指定居宅介護支援を受けることにつきあらかじめ市町村に届け出ている場合であって、当該指定居宅サービスが当該指定居宅介護支援の対象となっている場合その他の厚生省令で定める場合に限る。)は、市町村は、当該居宅要介護被保険者が当該指定居宅サービス事業者に支払うべき当該指定居宅サービスに要した費用について、居宅介護サービス費として当該居宅要介護被保険者に対し支給すべき額の限度において、当該居宅要介護被保険者に代わり、当該指定居宅サービス事業者に支払うことができる」ことを定め、同条第7項において、「前項の規定による支払があったときは、居宅要介護被保険者に対し居宅介護サービス費の支給があったものとみなす」こととし、居宅支援サービス費の支給についても法第53条第4項においてこれらの規定が準用されている。つまり、介護保険における居宅介護サービス費の支給については、保険給付を現物で給付するという考え方から、利用者を通さずに直接指定居宅サービス事業者に支払うという制度が導入されているのである。
    • b 「居宅介護サービス計画費の支給」及び「居宅支援サービス計画費の支給」の内容及び要件居宅介護サービス計画費の支給及び居宅支援サービス計画費の支給の対象となるのは、「居宅介護支援」である。「居宅介護支援」とは、「居宅要介護者等が第41条第1項に規定する指定居宅サービス又は特例居宅介護サービス費若しくは特例居宅支援サービス費に係る居宅サービス若しくはこれに相当するサービス及びその他の居宅において日常生活を営むために必要な保健医療サービス又は福祉サービス(以下この項において「指定居宅サービス等」という。)の適切な利用等をすることができるよう、当該居宅要介護者等の依頼を受けて、その心身の状況、その置かれている環境、当該居宅要介護者等及びその家族の希望等を勘案し、利用する指定居宅サービス等の種類及び内容、これを担当する者その他厚生省令で定める事項を定めた計画(以下この項において「居宅サービス計画」という。)を作成するとともに、当該居宅サービス計画に基づく指定居宅サービス等の提供が確保されるよう、同条第1項に規定する指定居宅サービス事業者その他の者との連絡調整その他の便宜の提供を行い、及び当該居宅要介護者等が介護保険施設への入所を要する場合にあっては、介護保険施設への紹介その他の便宜の提供を行うこと」(法第7条第18項)をいう。
      そして、居宅介護サービス計画費の支給についても、法はその第46条第1項において、居宅サービス費の支給と同様に、「市町村は、居宅要介護被保険者が、都道府県知事が指定する者(以下「指定居宅介護支援事業者」という。)から当該指定に係る居宅介護支援事業を行う事業所により行われる居宅介護支援(以下「指定居宅介護支援」という。)を受けたときは、当該居宅要介護被保険者に対し、当該指定居宅介護支援に要した費用について、居宅介護サービス計画費を支給する」と定め、居宅支援サービス計画費の支給についても法第58条第1項において同趣旨の規定を設けている。
      また、居宅介護サービス計画費の支給について、法第46条第4項は、「居宅要介護被保険者が指定居宅介護支援事業者から指定居宅介護支援を受けたとき(当該居宅要介護被保険者が、厚生省令で定めるところにより、当該指定居宅介護支援を受けることにつきあらかじめ市町村に届け出ている場合に限る。)は、市町村は、当該居宅要介護被保険者が当該指定居宅介護支援事業者に支払うべき当該指定居宅介護支援に要した費用について、居宅介護サービス計画費として当該居宅要介護被保険者に対し支給すべき額の限度において、当該居宅要介護被保険者に代わり、当該指定居宅介護支援事業者に支払うことができる」と定め、同条第5項において、「前項の規定による支払があったときは、居宅要介護被保険者に対し居宅介護サービス計画費の支給があったものとみなす」ことを定めており、居宅支援サービス計画費の支給についても法第58条第4項においてこれらの規定を準用している。このように、介護保険においては、居宅介護サービス計画費の支給についても、居宅介護サービス費の支給と同様に、市町村が利用者を通さずに直接指定居宅介護支援事業者に支払うという制度が導入されているのである。
(4)介護保険制度における本件行政文書の位置付け

本件行政文書は、介護保険の保険給付のうち、a「居宅サービス費の支給」又は「居宅支援サービス費の支給」の対象のうち「訪問介護」を提供する「指定居宅サービス事業者」及びb「居宅介護サービス計画費の支給」又は「居宅支援サービス計画費」の対象となる「居宅介護支援」を行う「指定居宅介護支援事業者」に関するものであるため、以下これらのサービスの内容及び事業者がこれらの「指定」を受けるための手続について述べることとする。

  • ア 訪問介護の意義及び費用負担
    介護保険制度における「訪問介護」とは、「要介護者又は要支援者(以下「要介護者等」という。)であって、居宅(略)において介護を受けるもの(以下「居宅要介護者等」という。)について、その者の居宅において介護福祉士その他政令で定める者により行われる入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生省令で定めるもの」(法第7条第6項)をいう。そして、この「政令で定める者」について、施行令第2条の2第1項は、次のように定めている。
    (法第7条第6項の政令で定める者)
    第2条の2法第7条第6項の政令で定める者は、次の各号に掲げる研修の課程を修了し、それぞれ当該各号に定める者から当該研修を修了した旨の証明書の交付を受けた者(以下「訪問介護員」という。)とする。
    • 一 都道府県知事の行う訪問介護員の養成に関する研修当該都道府県知事
    • 二 次項の規定により都道府県知事が指定する者(以下「訪問介護員養成研修事業者」という。)の行う研修であって厚生省令で定める基準に適合するものとして都道府県知事の指定を受けたもの(以下「訪問介護員養成研修」という。)
    当該訪問介護員養成研修事業者、すなわち、介護保険制度において、居宅介護サービス費等の支給を受けることができる「訪問介護」とは、「社会福祉士及び介護福祉士法」に基づく国家資格である「介護福祉士の登録を受けた者」又は施行令第2条の2に定められた「訪問介護員」(以下併せて「訪問介護員等」という。)が行う「日常生活上の世話」であって、これらの者以外の者から提供を受けたサービスは、介護保険制度の対象とならないものである。
    訪問介護に係る居宅介護サービス費又は居宅支援サービス費の額は、訪問介護について厚生大臣が定める基準により算定した費用の額の9割である。介護保険制度において、要介護者等は、指定居宅サービス事業者から、介護福祉士又は訪問介護員によって行われた入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話を受けたときに初めて、介護保険からその費用の9割の給付を受けることができるのである。
  • イ 居宅介護支援の意義及び費用負担
    法は、「居宅介護支援」等を実際に行う主体として「介護支援専門員」という専門職を設けている。「介護支援専門員」とは、「要介護者等からの相談に応じ、及び要介護者等がその心身の状況等に応じ適切な居宅サービス又は施設サービスを利用できるよう市町村、居宅サービス事業を行う者、介護保険施設等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして政令で定める者」(法第79条第2項)をいい、「政令で定める者」とは、「厚生省令で定める要件を満たす者について都道府県知事又はその指定する者が厚生省令で定めるところにより行う試験(以下「介護支援専門員実務研修受講試験」という。)に合格し、かつ、都道府県知事又はその指定する者が厚生省令で定めるところにより行う研修(以下「介護支援専門員実務研修」という。)の課程を修了し、当該都道府県知事が作成する介護支援専門員名簿に登録されている者」(施行令第35条の2第1項)をいう。
    居宅介護支援に係る居宅介護サービス計画費又は居宅支援サービス計画費の額は、居宅介護支援について厚生?臣が定める基準により算定した費用の額の全額である。
    また、介護支援専門員は、この「居宅介護支援」の実施主体となるほか、要介護認定を受けようとする被保険者が市町村にその申請を行った場合において、当該申請に係る被保険者に面接し、その心身の状況、その置かれている環境その他厚生省令で定める事項について調査を行い得ることが法で定められており(法第27条)、この業務を行う介護支援専門員等については、「刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」(法第27条第5項)旨が定められている。
  • ウ 指定居宅サービス事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定
    本件行政文書は、上記「指定居宅サービス事業者」又は「指定居宅介護支援事業者」の指定を受けようとする事業者が都道府県知事に提出した申請書類であるため、ここでこれらの指定に関する手続について述べる。
    • a 指定居宅サービス事業者の指定
      指定居宅サービス事業者の指定は、「厚生省令で定めるところにより、居宅サービス事業を行なう者の申請により、居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービス事業を行なう事業所ごとに行う」(法第70条第1項)こととされ、訪問介護に係る指定居宅サービス事業者の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書又は書類を、当該指定に係る事業所の所在地を管轄する都道府県知事に提出しなければならないこととされている(平成12年3月厚生省令第25号による改正前の施行規則第114条。なお、以下において同条各号を引用する場合は、本件行政文書に係る申請が行われた時点において適用されていた下記のものを引用することとする。)。
      • 一 事業所(当該事業所の所在地以外の場所に当該事業所の一部として使用される事務所を有するときは、当該事務所を含む。)の名称及び所在地
      • 二 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名及び住所
      • 三 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
      • 四 申請者の定款、寄付行為等及びその登記簿の謄本又は条例等
      • 五 事業所の平面図
      • 六 事業所の管理者及びサービス提供責任者の氏名、経歴及び住所
      • 七 運営規程
      • 八 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
      • 九 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制及び勤務形態
      • 十 当該申請に係る事業に係る資産の状況
      • 十一 その他指定に関し必要と認める事項
      そして、都道府県知事は、上記の申請があった場合においては、原則として、次のいずれかに該当するときは、指定居宅サービス事業者の指定をしてはならないこととされている(法第70条第2項)。
      • 一 申請者が法人でないとき。
      • 二 当該申請に係る事業所の従業者の知識及び技能並びに人員が、第74条第1項の厚生省令で定める基準及び同項の厚生省令で定める員数を満たしていないとき。
      • 三 申請者が、第74条第2項に規定する指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従って適正な居宅サービス事業の運営をすることができないと認められるとき。
      そして、指定居宅サービス事業者は、当該指定に係る事業所ごとに、厚生省令で定める基準に従い厚生省令で定める員数の当該指定居宅サービスに従事する従業者を有しなければならず、指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準は、厚生大臣が定めることとされており(法第74条第1項及び第2項)、その「事業の人員、設備及び運営に関する基準」は、厚生省令である「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(以下「指定居宅サービス事業人員等基準」という。)により定められている。
    • b 指定居宅介護支援事業者の指定
      指定居宅介護支援事業者の指定は、「厚生省令で定めるところにより、居宅介護支援事業を行う者の申請により、居宅介護支援事業を行う事業所ごとに行う」(法第79条第1項)こととされ、指定居宅介護支援事業者の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書又は書類を、当該指定の申請に係る事業所の所在地の都道府県知事に提出しなければならないこととされている(平成12年3月厚生省令第25号による改正前の施行規則第132条。なお、以下において同条各号を引用する場合は、本件行政文書に係る申請が行われた時点において適用されていた下記のものを引用することとする。)。
      • 一 事業所の名称及び所在地
      • 二 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名及び住所
      • 三 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
      • 四 申請者の定款、寄付行為等及びその登記簿の謄本又は条例等
      • 五 事業所の平面図
      • 六 事業所の管理者の氏名、経歴及び住所
      • 七 当該申請に係る事業の開始時の利用者の推定数
      • 八 運営規程
      • 九 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
      • 十 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制及び勤務形態
      • 十一 当該申請に係る事業に係る資産の状況
      • 十二 関係市町村並びに他の保健医療サービス及び福祉サービスの提供主体との連携の内容
      • 十三 その他指定に関し必要と認める事項
      そして、都道府県知事は、上記の申請があった場合において、次のいずれかに該当するときは、指定居宅介護支援事業者の指定をしてはならないこととされている(法第79条第2項)。
      • 一 申請者が法人でないとき。
      • 二 当該申請に係る事業所の介護支援専門員の人員が、第81条第1項の厚生省令で定める員数を満たしていないとき。
      • 三 申請者が、第81条第2項に規定する指定居宅介護支援の事業の運営に関する基準に従って適正な居宅介護支援事業の運営をすることができないと認められるとき。
      そして、指定居宅介護支援事業者は、当該指定に係る事業所ごとに、厚生省令で定める員数の介護支援専門員を有しなければならず、指定居宅介護支援の事業の運営に関する基準は、厚生大臣が定めることとされており(法第81条第1項及び第2項)、その「事業の人員及び運営に関する基準」は、厚生省令である「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(以下「指定居宅介護支援人員等基準」という。)により定められている。
(5)検討に当たっての基本的な考え方

介護保険制度は、先に述べたように、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき設けられた国家的規模の公的保険制度であり、その費用についても、その大半が国民から強制的に徴収する資金によって運営されているものである。

そして、介護保険制度においては、従来の福祉・保健制度とは異なり、介護保険を利用しようとする者が自らの選択によって受けるサービスの種類や内容を決定し、それを提供する事業者についても自由に選択できるという「利用者と事業者の契約制度」の考え方を導入し、また、サービスを提供する事業者についても、規制緩和の考え方に基づき、従来の社会福祉法人に加え、株式会社等の営利法人をはじめ多種多様な事業主体の参入を認め、これらが市場原理に基づく自己責任による自由競争を行うことで、利用者本位の効率的、効果的なサービスの提供を確保しようとしているところである。

本件行政文書は、介護保険制度において、上記の「指定居宅サービス事業者」又は「指定居宅介護支援事業者」の指定を受けるために事業者が実施機関に提出した申請書及びこれに添付された文書であることから、本件行政文書について公開・非公開の判断を行うに当たっては、これら介護保険制度の経過、意義、特色等を十分に踏まえる必要がある。

また、本件行政文書は、指定居宅サービス事業者のうち「訪問介護」の事業を行う「指定訪問介護事業者」又は「居宅介護支援」の事業を行う「指定居宅介護支援事業者」の指定を受けようとする事業者が、都道府県知事に対し提出した申請書及びその添付書類であるが、この「訪問介護」及び「居宅介護支援」は、先に述べたように、介護福祉士又は訪問介護員あるいは介護支援専門員が実際に利用者の居宅を訪問するなどにより、利用者に直接接することによってはじめて提供できるサービスであり、基本的に利用者と提供者の「人対人」のサービスであって、その実際の提供主体である「個人」がサービスの大部分の要素を占め、その内容が利用者にとっては事業者を選択する上での重要な判断材料となるものと考えられる。また、これらのサービスを提供する事業者においては、自らの責任において自由な競争を行うことによって、より効率的なサービスの提供を行い得るような環境が整えられていることが重要であることは言うまでもない。本件行政文書に記載された情報の公開・非公開を判断するに当たっては、先に述べた介護保険制度の経過、意義、特色等はもとより、介護保険制度における本件行政文書の位置付け、「訪問介護」あるいは「居宅介護支援」の意義、特色等についても十分考慮すべきであると考えられる。

上記のとおり、当審査会は、本件行政文書に記載された情報の公開・非公開の判断を行うに当たり、先に述べた介護保険制度における「契約制度」と「事業者の自己責任による自由競争の原則」等の考え方を踏まえ、「訪問介護」と「居宅介護支援」の意義、特色等を勘案して検討を行ったものである。

3 本件行政文書について

  • (1)本件行政文書は、指定訪問介護事業者の指定を受けようとする法人が実施機関に提出した申請書類及び指定居宅介護支援事業者の指定を受けようとする法人が実施機関に提出した申請書類に大別される。それぞれの文書の種別及び記載された情報等は、次のとおりである。
  • (2)指定訪問介護事業者の指定に係る申請書類
    指定訪問介護事業者の指定に係る申請書類は、社会福祉法人である2法人及び資本金額が1億円を超える株式会社である1法人の計3法人が実施機関に提出した書類であって、その分類及びそれぞれに記載されている主な情報等は、別表3のとおりである。
  • (3)指定居宅介護支援事業者の指定に係る申請書類
    指定居宅介護支援事業者の指定に係る申請書類は、社会福祉法人である2法人、資本金額が1億円以下である株式会社1法人、資本金額が1億円を超える株式会社2法人の計5法人が実施機関に提出した書類であって、その分類及びそれぞれに記載された主な情報等は別表4のとおりである。

4 本件処分に係る具体的な判断及びその理由

本件処分において非公開とした部分のうち、本件異議申立ての対象となるのは、次のaからiに記載された部分(以下「本件非公開部分」という。)である。

  • a 資本金が1億円以下である株式会社(以下「小会社」という。)である事業者に係る貸借対照表(以下「貸借対照表」という。)のうち、流動資産、固定資産、資産合計、流動負債、固定負債、負債合計、資本金、剰余金、当期利益、資本合計及び負債・資本合計の金額を除く部分
  • b 小会社に係る損益計算書(以下「損益計算書」という。)、利益処分計算書及び勘定科目内訳書
  • c 事業計画書のうち、「事業の内容」、「事業実施の予定時期」及び「利用者の推定数及び通常の事業地域内外比率」に記載された部分(公開に反対の意思を示さなかった事業者に係るものを除く。)
  • d 収支予算書のうち、「項目及び合計欄に記載された情報を除く部分」(公開に反対の意思を示さなかった事業者に係るものを除く。)
  • e 管理者の「生年月日」、「主な職歴等のうち、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分」、「取得資格の種類、取得年月及び登録番号」及び「学歴」
  • f サービス提供責任者の「氏名」、「生年月日」、「主な職歴等のうち、過去の勤務先等」、「各資格等に係る番号」及び「実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分」
  • g 訪問介護員等の「氏名」、「生年月日」及び「各資格等に係る番号」
  • h 介護支援専門員の「氏名」、「生年月日」及び「介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)」
  • i 事務員の氏名

実施機関は、本件非公開部分に記録された情報が条例第8条第1号及び第9条第1号に該当すると主張するので、以下第8条第1号、第9条第1号の順に検討する。

(1)条例第8条第1号について
  • ア 事業を営む者の適正な活動は、社会の維持存続と発展のために尊重、保護されなければならないという見地から、社会通念に基づき判断して、競争上の地位を害すると認められる情報その他事業を営む者の正当な利益を害すると認められる情報は、営業の自由の保障、公正な競争秩序の維持等のため、公開しないことができるとするのが同号の趣旨である。
    したがって、公にすることにより法人等事業を営む者(以下「事業者」という。)の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報は、同号に該当し、公開しないことができるのであって、事業者から直接収集し、あるいは提供された情報に限定されるものではない。
  • イ 本件非公開部分のうち条例第8条第1号に該当するとして非公開とした部分は、社会福祉法人又は株式会社である各事業者が指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けるために実施機関に提出した申請書及びこれに添付された文書のうち、上記a、b、c及びdの部分であり、これらの情報は、いずれも申請者である法人の財務状況、指定訪問介護事業又は指定居宅介護支援の事業に係る事業計画及び収支予算に関するものであることから、条例第8条第1号に規定する「法人等に関する情報」に該当すると認められる。
    そこで、これらの部分を公にすることによって、法人等の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」かどうかについて検討する。
  • ウ ところで、介護保険制度においては、先に述べたとおり、行政機関が各人のサービス提供を決定する行政処分としての「措置制度」から、利用者がサービスを提供する事業者を選択し、利用者と事業者が対等な立場において契約を締結する「契約制度」への転換が図られており、訪問介護又は居宅介護支援の給付は、それぞれ都道府県知事の「指定訪問介護事業者」又は「指定居宅介護支援事業者」の指定を受けた事業者によってのみ行われることから、利用者は、これらの指定を受けた各事業者の中から自己のニーズに適した事業者を自ら選択してその事業者と契約を締結し、各サービスの提供を受けることとなるのである。そして、本件行政文書に記載された情報は、法に基づき指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けようとする者が、どのような財務状況にあり、今後どのような計画、方針をもって、どのような収支予算をたてて各事業を運営していこうとしているかなどであることからすれば、今後訪問介護又は居宅介護支援を受けようとする利用者等にとっては、当該事業者の選択を行うに当たり、重要な判断材料となり得るものといえる。
    一方、介護保険制度においては、従来の社会福祉法人に加え、株式会社等の営利法人の参入を認め、多種多様な形態の法人が自己の責任において自由競争を行うことにより効果的、効率的なサービスの提供を確保しようとする考え方が導入されており、本件処分に係る事業者についても株式会社をはじめとする様々な法人が含まれていることから、本件行政文書のうち法人の財務状況の詳細については、現行法令上、その法人の法的形態や公的性格等により公にされるべき部分が異なることに留意する必要がある。また、事業者が作成する事業計画書や収支予算書についても、各事業者がそれぞれ蓄積した知識と経験を基に生み出した各事業における具体的な営業上の戦略やノウハウ等の詳細が記載されることも考えられることから、各事業者が利用者の選択を得るために自由競争を行っている状況においては、公にすることにより、事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報が含まれることも考えられるところである。
    なお、法においては、指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けるために各事業者が実施機関あてに提出した申請書及びこれに添付された文書について、建設業法等に見られるような閲覧制度の定めが全く見当たらず、これらの文書に記載された情報をどの範囲で公開すべきかについても具体的な規定は見当たらない。
    以上のように、たとえ介護保険制度における指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者として現在活動を行っている事業者に関する情報といえども、その全てが直ちに公にされるべきものとまではいえず、本件各行政文書に記載された情報の公開・非公開の判断に当たっては、先に述べた介護保険制度の趣旨を踏まえ、当該介護保険事業の公共性のみならず、本件非公開部分に記載された情報の性格や内容、社会的な流通状況、当該情報と当該介護保険事業の関わりの程度、当該事業者の法的形態や性格、当該事業者の公開に対する意見やその意思に反して公開することによる介護保険制度の運用への影響等について総合的に考慮し、本号に該当するかどうかを個別具体的に検討する必要がある。
  • エ 次に、こうした見地から、本件各行政文書について検討する。
    • (ア)「貸借対照表」、「損益計算書」、「利益処分計算書」及び「勘定科目内訳書」について
      本件貸借対照表は、法に基づき指定居宅介護支援事業者の指定を受けるための申請を行う法人が、施行規則第132条第11号の「当該申請に係る事業に係る資産の状況」を記載した書類として実施機関に提出したものであり、損益計算書、利益処分計算書及び勘定科目内訳書は、貸借対照表の添付資料として法人が任意に提出した書類である。そして、これらの書類は、いずれも指定居宅介護支援事業者の指定を受けるための申請を行う時点においてのみ提出が求められているものであり、当該指定を受けた後においても継続的に提出することが義務付けられているものではない。すなわち、これらの文書は、あくまでも指定居宅介護支援事業者の指定の申請があった時点において、実施機関が申請者について、「当該申請に係る事業に係る資産」を有しているかどうかなどを判断するための資料であるといえる。
      本件貸借対照表、損益計算書、利益処分計算書及び勘定科目内訳書(以下「本件貸借対照表等」という。)を提出した法人は、いずれも「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」第22条第1項に規定する株式会社、つまり、資本金が1億円以下の株式会社であり、本件貸借対照表等は、いずれも平成10年度の事業活動に係るものである。すなわち、本件貸借対照表等は、「商法中改正法律施行法」第49条及び「株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則」第50条の規定により、商法第283条第3項の規定により公告すべき貸借対照表の要旨がいわゆる大科目に限定されている「小会社」であって、本件貸借対照表等は、いわゆる未上場の営利法人の過去の財務状況を示すものである。そして、小会社については、商法中改正法律施行法第49条等の規定により、その貸借対照表の要旨として記載すべき事項がいわゆる大科目に限定されていることからすると、少なくとも現行法令上は、その貸借対照表の小科目の内訳や損益計算書、利益処分計算書、勘定科目内訳書に記載された情報をどの程度まで公にするかということは、基本的に当該株式会社の判断に委ねられているといえる。
      当審査会において確認したところ、貸借対照表の非公開部分には、既に公開されている大科目の内訳であるいわゆる小科目の内容及びその金額が、損益計算書には経常損益及び特別損益の各部の詳細な項目別の金額が、利益処分計算書には利益処分の金額及び内容が、それぞれ具体的に記載されており、さらに勘定科目内訳書には、貸借対照表及び損益計算書の小科目の内訳として、取引先の金融機関名をはじめとする各科目別の個々の取引先の名称とそれぞれの取引金額が、個別具体的に記載されていることが認められた。また、本件貸借対照表等は、法に基づき指定居宅介護支援事業者の指定を受け、現に指定居宅介護支援事業者としての活動を行っている株式会社に係るものではあるが、これらの文書に記載されている情報は、全て当該株式会社が当該指定居宅介護支援事業を行う以前の事業活動に関するものであることから、指定居宅介護支援事業者としての当該事業に関する情報は全く含まれておらず、公益的な事業に係るものについてもほとんど含まれていないことが認められる。
      したがって、これらの情報が公にされたとしても今後の利用者の事業者選択等に資するところは少ないというしかなく、一方、一般に、市場原理においては、公益的な事業と関わりのない詳細な内部情報の公開・非公開による利益・不利益は、本来各事業主体の自己責任により処理されるべきであると考えられ、また、当該株式会社のような小会社の財務状況の詳細がその意向に反してまで一般に流布されることとなれば、小会社の当該介護保険事業への積極的な参入を阻害するおそれがあることなどを併せ考慮すると、法令上公にされることが予定されていない営利法人の財務に関する詳細な内部情報について、これを公にされない当該法人の利益は、本件非公開部分に関する限り、正当なものであると認められる。
      以上を総合すると、本件貸借対照表における非公開部分、損益計算書、利益処分計算書及び勘定科目内訳書は、公にすることにより、事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当する。
    • (イ)事業計画書について
      本件事業計画書は、法に基づき指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けるための申請を行う者に対し、これらの者が、それぞれ厚生省令である「指定居宅サービス事業人員等基準」又は「指定居宅介護支援人員等基準」に従って適正な居宅サービスの事業又は居宅介護支援の事業の運営をすることができるか否かを判断するため、施行規則第114条第11号又は第132条第13号の「その他指定に関し必要と認める事項」として実施機関が提出を指導し、その指導に基づき各申請者が実施機関あてに提出した書類である。
      そして、当審査会において確認したところ、本件事業計画書については、申請予定者に対する説明会において、担当課が参考資料として様式を配布しており、その資料には、「事業の内容」、「事業実施の予定時期」、「従業者等の予定人員」、「利用者の推定数及び通常の事業地域内外比率」の各項目とその記入例が記載されていることが認められた。また、本件事業計画書に記載されているのは、申請に係る指定訪問介護事業又は指定居宅介護支援の事業に係る内容のみであり、申請者が行っている他の事業活動に関するものは全く記載されていないことが認められる。
      • (あ)そこで、まず、事業計画書において非公開とした部分のうち、「事業の内容」に記載された情報について検討する。
        当審査会において審査したところ、「事業の内容」については、各申請者によってその記載内容が若干異なるものの、基本的には、実施機関が示した記入例を参考に、「指定居宅サービス事業人員等基準」又は「指定居宅介護支援人員等基準」の各厚生省令に従って適正な事業の運営を行うことを各項目別に記載したものであって、実施機関の主張するような各事業者がそれぞれ蓄積した知識と経験を基に生み出した各事業の運営に関するノウハウと言えるものでないことは明らかであり、また、既に公にされている他の事業者の事業計画書と比べても、その記載内容に大きな差異を認めることはできないと言わざるを得ない。そして、この「事業の内容」が、利用者がどの事業者を選択するかの判断に当たり、重要な判断材料となり得るものであることは、先に述べたとおりである。
        したがって、本件事業計画書のうち、「事業の内容」に記載された情報は、条例第8条第1号の公にすることにより、各事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報には該当しない。
      • (い)次に、「事業実施の予定時期」に記載された情報について検討する。
        当審査会においてこの部分の内容を確認したところ、既に事業を開始している事業者の申請時における事業実施の予定年月日及びそれ以前の事業活動の概要が記載されているのにすぎないものであることから、条例第8条第1号に定める情報には該当しない。
      • (う)続いて、訪問介護事業者に係る「利用者の推定数」について検討する。
        当審査会においてこの部分を審査したところ、この訪問介護事業者に係る利用者の推定数は法的に記載が義務付けられているものではないが、これは指定訪問介護事業者の指定の申請時点において各事業者が計画していた見込みの人数であって、当該事業者の過去に計画された事業規模の一端を示すにすぎないものであることから、実施機関の主張するような各事業者の事業運営に関するノウハウとまでは認めることはできず、条例第8条第1号に定める情報には該当しない。
      • (え)最後に、「通常の事業地域内外比率」について検討する。
        当審査会においてこの部分を確認したところ、事業者によっては複数の通常の事業地域ごとの利用者比率(見込み)が記載されており、事業者ごとにそれぞれの比率を合計すると100%になることが認められた。
        この部分に記載された情報は、各事業者が、指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の定を受けた後、各事業地域のうちどの地域に重点をおいて営業活動を行っていくかを示す情報、言い換えれば、各事業者にとってはいわゆるマーケティングにおける重要度を数値で明確に示しているものであって、事業者の営業上の戦略に関する情報であるといえる。そして、これらの情報は、一般に公にされ、競争相手にも知られることになると、事業者の営業活動等の事業活動に不利益を与えることは十分に予測され、これが利用者の事業者選択等の判断材料となる情報であることを考慮したとしても、公にすることにより、各事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当すると言わざるを得ない。
        なお、本件事業計画書において非公開とした部分のうち、上記(あ)から(え)までに述べた以外の「通常の事業地域」等については、インターネット等に登載されるなどにより既に公にされていることが認められる。
        以上により、本件事業計画書において非公開とした部分のうち、「通常の事業地域内外比率」の部分については、条例第8条第1号に該当する情報と認められるが、その他の「事業の内容」、「事業実施の予定時期」、「利用者の推定数」及び「通常の事業地域」の部分については、同号に該当する情報とは認められない。
    • (ウ)収支予算書
      本件収支予算書は、先に述べた事業計画書と同様、法に基づき指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けるための申請を行う者に対し、これらの者が、それぞれ厚生省令である「指定居宅サービス事業人員等基準」又は「指定居宅介護支援人員等基準」に従って居宅サービス事業又は居宅介護支援事業を適正に運営することができるか否かを判断するため、施行規則第114条第11号又は第132条第13号の「その他指定に関し必要と認める事項」として実施機関が提出を指導し、その指導に基づき各申請者が実施機関あてに提出した書類である。
      当審査会において確認したところ、本件収支予算書には、申請に係る指定訪問介護事業又は指定居宅介護支援の事業の予算の明細が記載されており、事業者によっては、これに加え、収入の部分に他の事業からの繰入金や市からの委託料収入の項目が計上されているものも見受けられるが、事業者によって各項目の記載内容が異なっており、各予算額の説明が個別具体的かつ詳細に記載されているものが含まれていることが認められる。
      そして、当審査会において本件収支予算書の記載内容について審査したところ、支出に係る部分のうち、職員の給与をはじめとする各項目別の金額については、それぞれの事業者の事業運営に必要な経費等が各項目別に具体的な金額として記載されたものであって、当該事業者がその蓄積した知識と経験に基づき算出した数値であると考えられ、各項目別の支出予算額の内訳(説明)の部分については、その記載内容等が各事業者によって異なっているものの、概ね、当該事業者の事業運営計画の詳細を窺い知ることができるものであると認められる。また、事業者の収入に係る部分は、利用者の負担金や市町村からの介護報酬等により構成されており、しかも、その大部分は介護報酬に係るものであることが認められる。
      以上を総合すると、本件収支予算書に記載された情報のうち、支出に係る項目別の金額及び内訳(説明)については、公にすることにより、当該事業者にとってはその蓄積した知識と経験を基に生み出した事業運営上の具体的なノウハウが容易に競争相手である他の事業者に知られることとなるものであり、従来の社会福祉法人に加え、株式会社、医療法人など様々な形態の法人が参入し、これらの事業主体が一定の競争原理に基づく自己責任による自由競争を行っている状況の下では、たとえ、介護保険制度という極めて公共性の高い制度において、主として公金によりサービスを提供する事業者に関する情報であることを考慮したとしてもなお、事業者の意思に反して公開することにより、当該事業者の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」情報に該当すると言わざるを得ない。
      一方、本件収支予算書に記載された情報のうち、収入に係る部分について非公開とした部分、すなわち収入に係る項目別の金額及び内訳(説明)については、収入の大半が介護報酬であり、介護報酬は、介護保険金や税収等を財源として市町村から支払われる公的資金であることから、市からの委託料収入とともに、本来公にされることが予定されている情報というべきものであって、その他の非公開部分についても、当該介護報酬から容易に判別できるものであり、当該事業者の事業運営上の秘密といえるものでないことは明らかである。したがって、本件収支予算書に記載された情報のうち収入に係る項目別の金額及び内訳(説明)の部分については、条例第8条第1号に該当する情報とは認められない。
      以上により、本件収支予算書において非公開とした部分のうち、「支出に係る項目別の金額及び内訳(説明)」の部分については、条例第8条第1号に該当すると認められるが、「収入に係る項目別の金額及び内訳(説明)」の部分については、同号に該当する情報とは認められない。
  • オ なお、異議申立人は、建設業法や宅地建物取引業法においては許可申請書等を自由に閲覧できる制度があって、財務諸表等についても開示されることになっており、そのことで競争上の正当な地位が脅かされたとは聞いていないなどと主張する。確かに、本件行政文書は介護保険法に基づく指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けるために各事業者が実施機関に提出した申請書及びこれに添付された文書ではあるが、先に述べたとおり、介護保険法においては、建設業法等に見られるような申請書やこれに添付された文書の閲覧等の定めが全く見当たらない。加えて、株式会社や社会福祉法人等その設立の根拠法が異なる様々な形態の法人が市場原理に基づき自己の責任において競争を行っている状況を考慮すると、本件行政文書に記載された情報の公開・非公開を判断するに当たっては、各文書に記載された情報の性格や内容、事業者の法的形態等を総合的に検討し、個別具体的に判断せざるを得ないのであって、本件非公開部分全ての公開を求める異議申立人の主張は認めることができないというしかない。
(2)条例第9条第1号について
  • ア 条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないよう最大限に配慮をしなければならない旨規定している。
    このような趣旨をうけて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたのが条例第9条第1号である。
    同号は、
    • a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
    • b 特定の個人が識別され得るもののうち、
    • c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
    情報が記録された行政文書については公開してはならないと定めている。
  • イ 本件非公開部分のうち、条例第9条第1号に該当するとして非公開とされたのは、先に述べたe管理者の「生年月日」、「主な職歴等のうち、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分」、「取得資格の種類、取得年月及び登録番号」及び「学歴」、fサービス提供責任者の「氏名」、「生年月日」、「主な職歴等のうち、過去の勤務先等」、「各資格等に係る番号」及び「実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分」、g訪問介護員等(サービス提供責任者を除く。)の「氏名」、「生年月日」及び「各資格等に係る番号」、h介護支援専門員の「氏名」、「生年月日」及び「介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)」及びi事務員の氏名であるが、これらの情報は、いずれも各事業者が指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を受けるために実施機関に提出した申請書及びこれに添付された文書に、それぞれの従業者に関する情報として記載したものであり、条例第9条第1号の個人の職業、経歴、勤務先等に関する情報であることが認められる。
    次に、これらの情報について、「特定の個人が識別され得るもの」であり、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当するかどうか検討する。
  • ウ ところで、介護保険制度においては、先に述べたとおり、従来の「措置制度」に代わり、利用者が自ら受けたいサービスを選択し、さらにそのサービスを提供する事業者を選択し、利用者と事業者が対等な立場において契約を締結するという「契約制度」の考え方が導入されている。すなわち、国民は、その要介護認定等の程度に応じ受けることのできる保険給付の様々なメニューの中から自己の受けるサービスを選択し、さらに、どの事業者からそのサービスを受けるのかを選択して初めて保険給付を受けることができるのであって、介護保険制度が適正かつ効果的に運営されるためには、利用者が事業者と対等な立場において契約を締結し得る状態にあること、言い換えれば、利用者が適切な事業者を選択するために十分な情報を入手し得ることが必要不可欠であると考えられる。
    そして、本件非公開部分のうち条例第9条第1号に該当するとして非公開とした部分について公開・非公開の判断を行うに当たっては、条例の基本原則である「個人のプライバシーの最大限保護」とともに、先に述べた介護保険制度の公的性格やその運用が利用者と事業者との「契約」によって成り立つという「契約制度」の考え方、介護保険制度における本件行政文書の位置付け、さらに、介護保険制度における「訪問介護」あるいは「居宅介護支援」の意義、特色等を十分踏まえる必要がある。
    そこで、当審査会においては、これらの点を考慮しながら、本件非公開部分の審査を行った。
    なお、上記非公開部分については、まず氏名について、「訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名」、「サービス提供責任者の氏名」及び「事務員の氏名」の順に検討し、以下「訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員の生年月日」、「訪問介護員等及びサービス提供責任者の各資格等に係る番号並びに介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)」、「サービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分」及び「管理者の生年月日、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分、取得資格の種類、取得年月及び登録番号並びに学歴」の順に検討することとする。
    • (ア)氏名について
      • (あ)訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名
        まず、訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名について検討する。
        訪問介護員等とは、先に述べたとおり、「社会福祉士及び介護福祉士法」で定められた国家資格である「介護福祉士」の資格を有する者又は都道府県知事又は都道府県知事が指定する者の行う訪問介護員の養成に関する研修の課程を修了した旨の証明書の交付を受けた者であって、「訪問介護」を実際に提供する主体となるものである。法における「訪問介護」とは、訪問介護員等が居宅において介護を受ける者に対し行う日常生活上の世話を意味し、訪問介護員等以外の者が行う日常生活上の世話は、介護保険の対象とはならないものである。そして、この訪問介護のサービスが、サービスを受ける者とそのサービスを実際に提供する訪問介護員等との「人対人」の関係を基本とするものであることはいうまでもないところである。
        また、介護支援専門員とは、先に述べた「居宅介護支援」を実際に提供する実施主体であって、利用者がその心身の状況、その置かれている環境、利用者及びその家族の希望等を勘案し、利用する指定居宅サービス等の種類及び内容、これを担当する者等の事項を定めた居宅サービス計画を作成するとともに、当該居宅サービス計画に基づく指定居宅サービス等の提供が確保されるよう、指定居宅サービス事業者等との連絡調整その他の便宜の提供を行い、利用者が介護保険施設への入所を要する場合にあっては、介護保険施設への紹介その他の便宜の提供を行うことをその職務とするものである。そして、居宅介護支援が、その内容、性格からして、利用者と介護支援専門員との「人対人」の信頼関係を基本とするサービスであることは、訪問介護の場合と同様である。
        さらに、介護支援専門員については、居宅介護支援の実施主体となることに加え、先に述べたように、要介護認定を受けようとする被保険者が市町村にその申請を行った場合において、当該申請に係る被保険者に面接し、その心身の状況、その置かれている環境その他厚生省令で定める事項について調査を行うことができることが定められている。この調査は、介護保険制度の根幹である「要介護認定等」を市町村が行うことに当たって基礎となる情報を調査する重要なものであり、市町村の職員又は介護支援専門員のみが行うものであって、この調査が正確かつ公正に行われるべきものであることはいうまでもない。そして、この業務を行う介護支援専門員については、法第27条第5項の規定により、「刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」旨が規定され、少なくとも、この意味においては、介護支援専門員に関する情報の公開については、公務員に準ずる取り扱いがなされるべきものであるといえる。
        そして、介護保険制度における「訪問介護」及び「居宅介護支援」については、先に述べた当該サービスの内容や性格からして、実際にこれらのサービスの提供を受けようとする利用者やその家族にとっては、どのような資格等を有する誰が訪問介護等のサービスを行ってくれるのかなどの情報は、事業者を選択するに当たって極めて重要な判断材料となり得るものであり、これらの事業者に勤務する訪問介護員等や介護支援専門員個人についても、こうしたサービスの提供時はもちろん、自らの業務として相談や問い合わせを受けた場合において、その氏名等を秘匿することはほとんど考えられないというしかない。すなわち、先に述べた介護保険制度における「契約制度」の考え方からすると、利用者等が事業者の選択を行うに当たり、利用申込みを行う前に、事業者に対し訪問介護員等又は介護支援専門員の氏名及び資格等を問い合わせることは十分考えられることであるが、それに対しこれらの事業者がこうした情報を全く提供しないことは通常予測できないものである。もとより、介護保険は、国家的規模の公的保険制度であり、国民は誰しもその意思にかかわらず、「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等」となり、訪問介護をはじめとする各種居宅サービスや居宅介護支援を受ける可能性を有している。そして、このような介護保険制度が機能的に運営されるためには、このような状態となった利用者が自らの判断でできる限り適切な事業者を選択できるよう、その判断に必要かつ十分な情報が与えられるべきであり、また、現実にもそのように運営されるべきものと考えられる。
        そこで、訪問介護員等及び介護支援専門員について、「指定居宅サービス事業人員等基準」及び「指定居宅介護支援人員等基準」を確認したところ、まず「指定居宅サービス事業人員等基準」は第8条で、「指定訪問介護事業者は、指定訪問介護の提供の開始に際し、あらかじめ、利用申込者又はその家族に対し、第29条に規定する運営規程の概要、訪問介護員等の勤務の体制その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を記した文書を交付して説明を行い、当該提供の開始について利用申込者の同意を得なければならない」旨を定めるとともに、同基準第32条において、「指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所の見やすい場所に、運営規程の概要、訪問介護員等の勤務の体制その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を掲示しなければならない」とし、さらに、同基準第18条は、「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に身分を証する書類を携行させ、初回訪問時及び利用者又はその家族から求められたときは、これを提示すべき旨を指導しなければならない」旨を定めており、介護支援専門員についても、「指定居宅介護支援人員等基準」第4条、第22条及び第9条において訪問介護員等と同様の規定が設けられている。こうしたことから、法は、先に述べた訪問介護や居宅介護支援の内容や性格から、訪問介護員等及び介護支援専門員はその氏名や資格等を明らかにして介護サービスの提供を行うべきものであることを明確に示しているものと解される。
        そして、当審査会において確認したところ、府が指定訪問介護事業者及び指定居宅介護支援事業者に対し示している上記各基準の具体的な運用マニュアルでは、訪問介護員等又は介護支援専門員の「勤務の体制その他の利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項」の一部として、訪問介護員等又は介護支援専門員の人員数が記載されており、訪問介護員等又は介護支援専門員の氏名の掲示等については、各事業者の判断に委ねられているもののこれを否定するような指導はなされておらず、本件行政文書に記載された事業者の中にも、勤務当日の訪問介護員等の氏名をその顔写真とともに当該事業所に掲示しているものが含まれていることが認められた。
        加えて、介護保険制度は平成9年に制定された介護保険法に基づく新しい制度であり、未だその運用が定着しているとはいえない段階にあることから、現段階において各事業者が指定を受けるために提出した本件各行政文書に記載された訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名を明らかにすることによって、今後行われる当該申請の適正さがさらに確保され得ることにも十分な配慮がなされるべきであるといえる。
        以上を総合すると、本件非公開部分に記載された本件訪問介護員等及び介護支援専門員の氏名は、本来、これらの者がその業務を行うに際しては、誰に対しても明らかにされるべきものであって、公にされることが予定されている情報に類するものと認められ、条例の「個人のプライバシーの最大限保護」の基本原則を踏まえてもなお、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当しないというしかない。
      • (い)サービス提供責任者の氏名
        サービス提供責任者は、「指定居宅サービス事業人員等基準」第5条第2項により定められているものであって、「指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとに、常勤の訪問介護員等であって専ら指定訪問介護の職務に従事するもののうち事業の規模に応じて1人以上の者をサービス提供責任者としなければならない」(同項)とあるように、指定訪問介護事業所に勤務する「常勤の訪問介護員等であって専ら指定訪問介護の職務に従事するもの」のうちから設置されるものである。そして、その職務は、「利用者の日常生活全般の状況及び希望を踏まえて、指定訪問介護の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した訪問介護計画を作成」することとともに、「指定訪問介護事業所に対する指定訪問介護の利用の申込みに係る調整、訪問介護員等に対する技術指導等のサービスの内容の管理を行う」(同基準第24条第1項及び第28条第3項)ことである。
        また、当審査会において確認したところ、サービス提供責任者の氏名は、同基準の具体的な運用マニュアル等において、同基準第8条及び第32条に定める「重要事項」として、利用申込者又はその家族に対し説明を行い、事業所に掲示されるべき情報とされていることが認められた。
        本件サービス提供責任者は、法に基づき指定訪問介護事業者の指定を受けるために各事業者が実施機関に提出した書類に記載され、当該事業者に訪問介護員等として勤務することが予定されている者であって、本件訪問介護員等の氏名については、これが条例第9条第1号に定める情報に該当しないことは先に述べたとおりであり、また、その氏名が掲示等により公にされることが予定されている情報であることは明らかである。
        したがって、訪問介護員等として各事業所に勤務することが予定されているものとして記載された本件サービス提供責任者の氏名についても、条例第9条第1号に定める情報には該当しない。
      • (う)事務員の氏名
        次に、事務員の氏名について検討する。
        当審査会において確認したところ、指定訪問介護事業所又は指定居宅介護支援事業所の事務員については、先に述べた訪問介護員等や介護支援専門員と比較すると、法において資格等の要件が定められているものではなく、実施機関の基準等においてもその職責や掲示等について何らの規定も設けられていないことが認められた。したがって、本件事務員の氏名は、当該個人の勤務先や職業を具体的に示す情報であって、指定訪問介護の事業や指定居宅介護支援の事業の運営にあたり、当該事業者において公にすることが予定されているものとまではいえないことから、条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
    • (イ)訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員の生年月日について
      次に、訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員の生年月日について検討する。
      これらの情報は、訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員について、上記のとおりその氏名が公にされることから、「特定の個人が識別され得るもの」に該当し、公開することにより、特定の個人の生年月日が明らかになる情報である。
      訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員については、先に述べたとおりそれぞれ介護保険制度において重要な役割を担うものではあるが、これらの者の生年月日がその職務や職責と密接に関連しているものでもなく、その職務を遂行する上でも公にされることが予定されている情報といえるものでないことは明らかである。そして、これらの者の生年月日は、あくまでも当該個人に専属する固有の情報であって、その職務の内容や公的性格を考慮したとしても、これらの者の生年月日を公にすることが求められているとまでは考えられない。
      したがって、訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員の生年月日は、条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。
    • (ウ)訪問介護員等及びサービス提供責任者の取得資格等に係る番号並びに介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)について
      次に、訪問介護員等及びサービス提供責任者の取得資格等に係る番号並びに介護支援専門員番号(これに類するものを含む。)(以下「資格等の番号」という。)について検討する。
      これらの資格等の番号は、まずその資格等の内容が本件処分によって既に公開されており、上記のとおり訪問介護員等、サービス提供責任者及び介護支援専門員の氏名が公にされることから、「特定の個人が識別され得るもの」に該当し、公開することにより、特定の個人が取得している特定の資格等の番号が個別に明らかになる情報である。
      これらの資格等の番号は、公にされる訪問介護員等や介護支援専門員等の氏名や資格等の内容と結びつけることにより、当該個人にとっては、各資格等を有していることを証する情報、言い換えれば、当該個人の身分を証する情報となり得るものであって、当該個人のいわゆるID番号ともいえるものである。そして、このような個人の識別番号が広く公にされることにより、日常生活の様々な場面において本人の知らない状況下で使用され、当該個人が何らかの不利益を被るおそれが生ずることを全く否定することはできず、これが介護保険制度における職務に従事する者に関する情報であることを考慮したとしても、一般に公にされることが求められているとまではいえないものである。
      したがって、訪問介護員等及びサービス提供責任者の取得資格等に係る番号並びに介護支援専門員番号(これらに類するものを含む。)は、条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当すると認められる。
    • (エ)サービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分について
      続いて、サービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分について検討する。
      これらの情報のうち、サービス提供責任者の過去の勤務先等については、先に述べたとおり、サービス提供責任者の氏名が公にされることから、「特定の個人が識別され得るもの」に該当し、公開することにより、当該サービス提供責任者が過去に勤務していた職場等が明らかにされる情報であり、実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分は、当該サービス提供責任者が介護等の実務経験を行った施設又は事業所の名称が明らかにされる情報である。
      サービス提供責任者は、訪問介護計画の作成等の職務を行うものであり、法における訪問介護について重要な役割を担うものではあるものの、このことをもってサービス提供責任者の過去の経歴に関する情報全てが直ちに公にされるべきであるとはいえず、記載された情報ごとに「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」かどうかを個別に判断すべきである。
      当審査会で確認したところ、過去の勤務先等については、サービス提供責任者ごとに、勤務先等の具体的な名称がその在籍していた年月とともに記載され、併せて個々の勤務先等における職務等の内容が具体的に記載されている。そして、本件処分においてこの年月及び職務等の内容が既に公開されていることからすると、過去の勤務先等は、公にすることにより、当該サービス提供責任者がいつからいつまで、どのぐらいの期間、どの勤務先等で、どのような職務等に携わっていたのかを詳細かつ具体的に明らかにする情報であることが認められる。なお、過去の勤務先等の一部及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分については、国立の施設の名称等が具体的に記載されていることが認められた。
      サービス提供責任者の過去の勤務先等の名称のうち、公務員としての履歴等いわゆる公職歴に関するものついては、既に公にされているか、公にされることが予定されている情報であるといえるが、それ以外のものについては、当該個人の私的な履歴事項であり、通常公にされることはない情報である。そして、サービス提供責任者が介護保険制度において担う職責を考慮したとしても、その職務を遂行する上で、過去の具体的な勤務先等の名称までを常に公にすることが求められているとまではいえないものである。
      したがって、サービス提供責任者の過去の勤務先等及び実務経験を行った施設又は事業所名が特定され得る部分のうち、国立の施設の名称等いわゆる公職歴に関する情報が記載された部分については、「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報」には該当しないが、その他の部分については、当該サービス提供責任者個人に固有の情報であり、通常公にされることが予定されている情報とまでは認められず、先に述べたサービス提供責任者の職務の内容等を考慮したとしてもなお、条例第9条第1号に該当する情報であると認められる。
    • (オ)管理者の生年月日、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分、取得資格の種類、取得年月及び登録番号並びに学歴について
      最後に、管理者の生年月日、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分、取得資格の種類、取得年月及び登録番号並びに学歴について検討する。
      管理者とは、「指定居宅サービス事業人員等基準」第6条又は「指定居宅介護支援人員等基準」第3条により、指定訪問介護事業者又は指定居宅介護支援事業者それぞれにおいて、事業所ごとに設置が義務付けられているものであり、事業所において従業者及び業務の一元的な管理を行うとともに、事業所の運営がこれらの基準に従って適正に行われるように従業者に対し必要な指揮命令を行うことがその責務とされているものである。なお、管理者については、その要件として何らかの資格等を有していることが法等で定められているものではない。
      そして、管理者については、その職責から、指定訪問介護事業所又は指定居宅介護支援事業所における事業の運営において重要な役割を担うものであることはいうまでもないが、このことをもって当該管理者の生年月日や過去の経歴、取得資格の詳細、学歴に関する情報の全てが直ちに公にされるべきであるとはいえず、記載された情報ごとに「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」かどうかを個別に判断すべきである。
      当審査会において本件行政文書を確認したところ、管理者個人ごとに、生年月日及び過去において勤務していた先の名称等が個別具体的に記載され、管理者によっては、その取得した資格の種類が取得年月及び登録番号とともに具体的に記載され、中には卒業した学校名、学部等が具体的に記載されているものも見受けられた。そして、本件処分において非公開とした部分に記録された取得資格については、当該管理者の勤務する事業所における当該事業の実施について法等において必要とされているものは含まれていないことが認められた。
      そして、これらの情報は、いずれも、当該管理者個人にとっては、その生年月日、過去の経歴や事業所における当該事業の実施に必要とされない取得資格の詳細、あるいは学歴を具体的に示すものであって、当該個人の私的な履歴事項として、通常公にされることのないものであり、管理者が介護保険制度において担う職責を考慮したとしても、その職務を遂行する上で、これら個人の経歴等に係る詳細な情報を常に公にすることが求められているとまでいえるものではない。
      したがって、本件において非公開とした管理者の生年月日、過去の職歴に係る勤務先、職務内容及び年月に関する部分、取得資格の種類、取得年月及び登録番号並びに学歴は、当該管理者個人に固有の情報であり、通常公にすることが予定されている情報とは認められず、先に述べた管理者の職務の内容等を考慮したとしてもなお、条例第9条第1号の「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる」情報に該当する。

5 結論

以上のとおりであるから、本件各行政文書のうち、別表1及び別表2に示す「公開すべき部分」については、本件異議申立てには理由があり、「第一審査会の結論」のとおり答申するものである。

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