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農業が持つさまざまな働き
知っていますか?
田畑や森は、野菜や木材を作るだけでなく、人々の生活や命を守るためのさまざまな働きを持っています。
日本の面積は37万平方キロメートルです。そのうち、農地面積は5万平方キロメートルで、日本の面積に占める割合は13%になります。また、森林面積は25万平方キロメートルで、日本の面積に占める割合は67%になります。農地と森林をあわせて30万平方キロメートル、なんと日本の面積の8割が、緑におおわれた自然豊かな大地なのです(平成 10年国土庁調べ)。それは、日本の国土が豊かな水と土に恵まれているためです。
その水や土に育まれた農地や森が、私たちの生活や命を守ってくれています。農地や森には、野菜や果物などを栽培したり、木材にするための木を育てたりする働きのほかにも、人々の生活や命を守るための色々な公益的(こうえきてき)な働きがあります。
私たち日本人は、大昔から農業や林業を行いながら、農地や森とともに暮らし、農地や森を大切に守ってきました。農地や森を守ることによって、それらが持っているさまざまな働きが保たれてきました。
それでは、公益的機能といわれるものには、どのようなものがあるのでしょうか。農業の持つ公益的機能のうちの主なものを紹介しましょう。
水を貯める働き
水田には、畦(あぜ)という土の仕切りが、田の周りに一定の高さでめぐらされていますので、水を貯えることができます。また、畑は、耕されることによって土の中に小さな隙間がたくさんできており、その中に水を一時的に貯えることができます。水田に貯えられたり、畑にしみこんだりした農業用水や雨水は、徐々に土の中にしみ込んで地下水となり、地中で水を貯えます。
府下の水田11,000ha(ヘクタール)が水深30cmの水を貯める能力があると仮定すると、約3,300万t(1トン=1,000kg)もの雨水を一時的に貯えることができます。この量は大阪ドームのアリーナ(約120万t)の27.5個分にあたります。
また、府下には約11,000ヵ所、総面積約2,300haのため池があって、大雨の時の遊水池としての役割も持っているのです。
水を貯える働きを「貯水機能(ちょすいきのう)」といい、水が自然に地面にしみ込み徐々に流れ出す働きを「水源涵養機能(すいげんかんようきのう)」といいます。
水が急激に流れ出るのを防いだり、山が崩れたりするのを防ぐ働き
貯えられた水は徐々に地中にしみこみ地下水となって、直接、川に流れ出るよりも長い時間をかけて水路や川に流れます。このことによって、川の流れを安定させ、周辺や下流の地域に洪水がおきるのを止める役割を果たしています。こういった働きを「洪水防止機能(こうずいぼうしきのう)」といいます。
また、斜面にある水田(棚田)や畑(段々畑)などの農地が適正に管理されていると、土の表面が削り取られるのを防ぐ効果や斜面の地すべりを防ぐ効果があります。
こういった働きを「土壌浸食防止機能(どじょうしんしょくぼうしきのう)」、「土砂崩壊防止機能(どしゃほうかいぼうしきのう)」といいます。
水をきれいにする働き
雨水が田や畑で土にしみ込んでいくことにより、土の層によってこされます。そのとき、水に混じっている窒素(チッソ)やアンモニア、リンなどの物質が土の中にあるイオンと結びついてとり除かれ、きれいな水になっていきます。
このように「液体をこして、混じり物を除く」ことを「ろ過」といいます。農地は雨水などをろ過する自然の浄水器となっているのです。
この働きを「水質浄化機能(すいしつじょうかきのう)」といいます。
空気を冷やす働き
夏、庭に打ち水をすると涼しくなります。それは、水分が蒸発するときにまわりの空気から熱を奪うからです。これを気化熱といいます。
田に張られた水や稲・野菜などの作物の葉っぱから水分が蒸発するときにも同じようにまわりの空気から熱を奪い、周囲の気温をさげる働きをしているのです。
この働きを「気候緩和機能(きこうかんわきのう)」といいます。
空気をきれいにする働き
作物は主に葉っぱで呼吸をしています。そのとき、葉っぱは、二酸化炭素を吸って、代わりに私たちが生きるために必要な新鮮な酸素を吐き出しています。また、植物の葉は硫黄酸化物やオキシダントなどの大気汚染物質を取り込んで空気をきれいにしています。
この働きを「大気浄化機能(たいきじょうかきのう)」といいます。
しかし、植物は、私たちが出している汚染物のごくわずかしか浄化することはできません。一定の濃度以上になると植物に異常がでたり、枯れて死んでしまったりしますので、汚染物を出さないようにすることが重要です。
鳥や虫などの生き物が生きる場所を提供する働き
田や畑では多くの生物に出会うことができます。
水田には、アメンボやオタマジャクシ、ゲンゴロウ、カブトエビ、タニシ、イナゴなどが、また、農業用水路やため池には、ウグイやオイカワ、ニゴイ、ドジョウなどの魚種がすんでいるところもあります。
畑にも多くの生きものがいます。ミミズ、アオムシ、モグラ、コオロギ、カメムシ、メイガ、トンボなどが生息しています。これらをエサとする鳥たちも集まってきます。
農林水産省が平成13年に行った調査では、水田や農業用水路、ため池など全国1,098地点で18科72種の魚種が確認されています。これは、日本に生息している淡水魚約300種のうちの24%にあたります。
生物はお互いに食物連鎖(しょくもつれんさ)でつながっています。太陽をエネルギーとして食物が光合成を行い、その植物を昆虫が食べます。その昆虫を肉食の昆虫や魚が食べ、それをヘビや小鳥たちが食べ、その小鳥たちをワシやタカなどの大型の鳥や哺乳類が食べます。植物や動物が死ぬと土の中の微生物がそれらを分解し、これを栄養として植物が吸収します。このようにして生態系が保たれていくのです。田や畑の動物たちは、その食物連鎖の一部分を担っているのです。
このような働きを「生物多様性保全機能(せいぶつたようせいほぜんきのう)」、または「生態系保全機能(せいたいけいほぜんきのう)」といいます。
生ゴミ、家畜の排泄物、泥などを分解する機能
農地の土の中には、バクテリヤなどの微生物がたくさんすんでいます。これらの微生物は、堆肥となった生ゴミ、牛や鶏などの家畜の排泄物、汚泥などの有機性廃棄物といわれる物質を分解して、再び植物が栄養として吸収できるようにする働きをしています。この働きを「有機性廃棄物処理機能(ゆうきせいはいきぶつしょりきのう)」といいます。
良い風景を作る働き
農村の風景は日本人の心の原風景といわれており、農村の風景を見ると誰もが懐かしさを感じます。農作物が実る風景や農家、ため池、里山などが一体となって良好な景色を作っています。これらの景色を見ると、そこに住んでいる人々だけでなく、農村を訪れる人々が安らぎやうるおいを感じることができます。この働きを「景観形成機能(けいかんけいせいきのう)」といいます。
祭りや農業の体験、環境を学ぶ場所の提供
農業という生産活動の中から「お田植え神事」や「秋祭り」などの豊作を祈願したり豊作を感謝する祭事が生まれました。
全国的に有名になった「岸和田だんじり祭り」もこうした行事の一つです。五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈願した稲荷祭りがその始まりで約300年の歴史があります。また、農村文化として、「能勢(のせ)の浄瑠璃(じょうるり)」も有名です。この浄瑠璃は農業のかたわらの芸事として広がり、約200年の歴史があります。今でも200名余りの語り手の方がおられ、国や府の無形民俗文化財に指定されています。こういった働きを「文化伝承機能(ぶんかでんしょうきのう)」といいます。
農村は農業や環境を学ぶ場でもあります。農作業や農村に伝わる文化や芸能などに触れたり体験したりすることによって、食べ物の大切さや農空間に生息する生き物や命の大切さ、自然環境を学ぶという教育的な働きも持っています。子どもたちが農家で寝泊りして、農業体験や自然観察を行う農山村留学も各地で行われています。
農業の有する公益的機能の貨幣評価
農業の有する公益的機能をお金に置き換えるとどれくらいになるのでしょうか。
農林水産省が発行している平成13年度の農業白書によると次のようになっています。
項目(機能) | 評価額(年間) |
---|---|
洪水防止 | 3兆4,988億円 |
河川流域安定 | 1兆4,633億円 |
地下水涵養 | 537億円 |
土壌浸食(流出)防止 | 3,318億円 |
土砂崩壊防止 | 4,782億円 |
有機性廃棄物処理 | 123億円 |
気候緩和 | 87億円 |
保健休養・やすらぎ | 2兆3,758億円 |
- この数字は、日本全体の1年間の数字です。
- 項目によって評価する方法が異なっていることと、評価されている機能が公益的機能の一部であることから、合計額が記載されていません。
- この数字は一応の目安と考えてください。