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空中花粉捕集マニュアル
1 花粉の捕集
重力降下を利用した空中花粉の捕集法(重力法(gravity method))であるダーラム(Durham)型捕集器を用いる。
ダーラム型捕集器
直径23センチメートルのステンレス円盤2枚が高さ7.6センチメートルの支柱3本に支えられ、中央にスライドホルダーが下部の円盤より2.5センチメートルの位置に設置されたもの
花粉捕集器の設置
下記の条件に適合する保健所屋上に設置。
- 風の通る場所
- 容易に行き来できる場所(捕集用スライド交換を毎日容易に出来るところ)
- 10メートルから20メートル四方にスギ、ヒノキがない場所(地上1メートルから20メートルでは、捕集効率に影響はないと言われている)
- 捕集器は、しっかり固定する。
- 捕集器は、原則として移動させない。
捕集用スライドグラスの作成
事前に調査期間中に必要な枚数のスライドグラス(ワセリン塗布)を作成し、スライドグラスケースに保存しておく。
花粉捕集用スライドグラス(ワセリン塗布)の作成(フロストスライドグラスを使用する)
白色ワセリンをスライドグラスに薄く塗布し作成する。
- ホットプレートで温めたスライドグラス同士を摺り合わせ、ワセリンによる摩擦感覚が無くなる手前まで薄くする。
- ワセリンを厚く塗布しないこと。薄くても花粉は、充分捕集できる。
フロスト部分に、捕集日を鉛筆で記入(例:2月1日から2月2日)
2 気温の測定
デジタル式最高最低温度計の設置
花粉捕集器と同一場所に設置する。
3 花粉の計測
- 24時間設置したスライドグラスの回収(運搬用スライドグラスケースにて)…注1
捕集器へのセット期間:前日の朝9時30分から当朝9時30分(24時間) - 染色・標本作成…注2
- 鏡検:同定とカウント…注3
- 記録(所定の記録用紙にカウント数を記入)…注4
- スライドグラスの保存(日付順にスライドケースに保存)
注1
- ワセリン塗布済みのスライドグラスを運搬用スライドケースに移して搬送し、捕集器にセット(回収も同様)
- 雨でスライドグラスが濡れているときは、自然乾燥させてから染色する
- 肉眼で見えるゴミは、針先、ピンセットなどで除去する
- 開庁日は、毎日回収する(24時間設置)。閉庁日については、茨木保健所はダーラム型自動花粉捕集器(花粉キャッチャー)で対応するが、藤井寺・泉佐野保健所は、連続設置とし、データは設置日の平均とする。
注2
染色は、A:カルベラ液、B:ゲンチアナバイオレットグリセリンゼリーの両者を併用する。
A:「カルベラ液」
Gvグリセリンゼリーに比べ染色時間が早い、しかし保存が利かない。
<組成>
- グリセリン 5ミリリットル
- 95%エチルアルコール 10ミリリットル
- 蒸留水 15ミリリットル
- 飽和フクシン溶液 2滴
<飽和フクシン溶液の作成方法>
塩基性フクシン11グラムを乳鉢に入れ、95パーセントエチルアルコール100ミリリットルを徐々に加え、つぶしながら溶かし濾過する。
カルベラ液の染色方法
スライドグラスに、カルベラ液を適量(液がはみ出さない量)滴下しカバーグラス(18ミリメートル×18ミリメートル)を被せて鏡検。
花粉は、赤色に染まる。
B:「Gv(ゲンチアナバイオレット)グリセリンゼリー」
花粉の染色と封入が同時に行い、標本を保存できる利点がある。
<組成>
- ゼラチン 10グラム
- グリセリン 60ミリリットル
- 蒸留水 35ミリリットル
- 0.1%Gvアルコール溶液 1ミリリットル
- 液状フェノール 0.5ミリリットル
<調製法>
ゼラチン、グリセリン、蒸留水をビーカーに入れ水浴中で緩く撹拌しながら溶解する。
これに、Gvアルコール液と液状フェノールを加えて混和後、シャーレなどに入れて固め保存する。
ゼリーが乾燥して固くなるので乾燥を防いで保管し、2から3年ごとに作り変える。
注)0.1%Gvアルコールの調製には、95%エチルアルコールを用いる。
一般的には上記の方法で記載されているが、ゼラチン、グリセリン、蒸留水が容易に溶けず、混和しづらいため、下記の方法もある。
蒸留水をビーカーに入れて温めながら、グリセリンを入れて煮沸直前まで加温し、Gvアルコール溶液を加えて混ぜた後フェノールを加え、ゼラチンを追加して一気に溶かす。温かいうちにビーカーを真空用の容器にいれ、真空ポンプで引く。泡が溢れ出すが、そのままでよい。
最後に、ビーカーの上部の泡を薬さじで取り、下の透明な溶液のみを、浅めの軟膏容器や浅型シャーレなどに入れて固め保存する。
ゲンチアナバイオレットグリセリンゼリーの染色方法
カバーグラス(18ミリメートル×18ミリメートル)の中央部分に、Gv(ゲンチアナバイオレット)グリセリンゼリーの小片(カバーグラス全体に広がる量)を載せ、バーナーの遠火又はホットプレートで徐々に加温溶解させ、染色液がはみ出さないようスライドグラスに被せる。(この時、スライドグラスも暖めながら行うと、染色液の延びが良く少ない染色液量で済む。量が多いと標本が厚くなり鏡検しにくく、カバーグラス外にはみ出す量が多くなる。)
花粉は、青紫色に染まる。
注3
- カバーグラス全面積の花粉を同定しながら、数取器で計測する。
- 染色液がカバーグラスからはみ出した部分にある花粉は、すべて計測する。ただしこの部分の花粉数は、2分の1量として合計する。
- 通常、倍率100倍でカウントする。
- 判別の困難な場合は、倍率を上げて確認する。また、サンプル標本も参考とする。
注4
- 飛散量の報告は、1平方センチメートルあたりに換算する。(小数点以下1桁まで記録する)
(計測数÷3.24=報告数3.24・・・・1.8×1.8) - 飛散開始日の条件:はじめて2日以上1個以上/平方センチ観測された最初の日とする。
飛散開始日以外に初観測日を記録する。(はじめて小数点以下1桁の数が認められた最初の日) - 飛散終了時期の条件:飛散終了時期に3日間連続して0個が続いた最初の日の前日とする。
- データの表示
(例)3月3日に計測したデータは、「3月2日」の飛散量とする。
3月3日に計測したデータは、3月2日朝にスライドグラスを設置し3月3日朝までの期間の捕集であること。また花粉はほとんどが昼間に飛散することから、計測した花粉量は3月2日に飛散した花粉であることによる。 - 閉庁日のデータの取り扱い
閉庁日のデータが平均値として算出されたものである場合は、その旨を明記したうえ、データをホームページに公開する。
花粉の光学顕微鏡写真像(ゲンチアナバイオレットグリセリンゼリーによる染色)
スギ花粉
大きさ30から40マイクロメートル
パピラという鈎状の突起部がある
ヒノキ花粉
大きさ25から35マイクロメートル
球状で星状の内容物が見える
コナラ花粉
大きさ20から40マイクロメートル
3から4孔溝粒、表面に1マイクロメートル前後の刺状紋がある
マツ花粉
大きさ50マイクロメートル前後
両端に2個の気嚢と呼ばれる空気袋がある