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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第248号)
高等学校アンケート文書等部分公開決定異議申立事案
(答申日 平成27年10月26日)
第一 審査会の結論
実施機関(大阪府教育委員会)の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成26年12月26日、異議申立人は、大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対し、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「大阪府立A高等学校(以下「当該学校」という。)において 1.平成26年12月上旬に実施された学校生活に関するアンケート(生徒対象)における記述式回答部分 2.平成26年12月上・中旬に実施された教育自己診断アンケート(保護者対象)における記述式回答部分〔設問25 本校の教育をよりよいものにするために、何か意見、ご提言がございましたら別紙記述用紙にご記入下さい--に対する回答部分〕」についての情報公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 平成27年1月19日、実施機関は、本件請求に対して、条例第13条第1項の規定により、対象行政文書を(1)のとおり特定し、(2)に掲げる部分を除いた部分を公開することとする部分公開決定(以下「本件決定」という。)をして、(3)のとおり公開しない理由を付して、異議申立人に通知した。
- (1)対象行政文書
- ア 学校生活に関するアンケート(生徒対象)における質問内容及び回答
- イ 保護者向け学校診断アンケート記述欄(平成26年)
- (2)公開しないことと決定した部分
(1)ア及びイに係るアンケートの回答内容 - (3)公開しない理由
条例第8条第1項第2号及び条例第9条第1号に該当するため
- (1)対象行政文書
- 平成27年1月29日、異議申立人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対して、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定のうち、アンケートの記述式回答欄を非公開とした部分を取り消すとの決定を求める。
第四 異議申立人の主張要
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
1 異議申立書における主張
異議申立てに係わる処分は、次の(1)、(2)のように不合理に条例の条文適用を用いて公開部分をすべて黒塗りすることにより、記述式の回答内容の開示を実質的に拒絶しており違法であり不当である。
また、(3)の通り大阪府立学校条例第9条の義務を果たしておらず違法であり不当である。
異議申立人はアンケートの記述部分の扱いの不透明さ、公開に対する消極性により、アンケートの本来の目的を果たさなくなりつつある現状を危惧し、重大な違法性を解消すべく今回の異議申立てに至った。
(1)条例第8条第1項第2号に該当するかどうか
ア 原処分におけるアンケートの実施方法について
平成26年12月上旬に実施された学校生活に関するアンケート(生徒対象)における記述式回答部分(以下、1において「1号アンケート」という。)
平成26年12月上・中旬に実施された教育自己診断アンケート(保護者対象)における記述式回答部分(以下、1において「2号アンケート」という。)
1号アンケートについて、その原紙は未入手であるが、異議申立人が複数の当該学校の生徒にアンケートの方法や結果について聞き取りを行ったところ、いずれの生徒もアンケート用紙には「公にしない」旨の記載もなく、アンケートの記入時の注意点でも教師から「公にしない」旨の説明も無かったということである。
生徒にしてみれば、「毎年同様のアンケートがあり、択一式のアンケート内容はその集計結果がわかるが、記述式の回答部分は本当に自分たちの意見や声が漏れなく反映や考慮されているとは考えられない。」、「特定の人に都合の悪い部分は闇に葬り去られていても自分たちには何もわからない。」などアンケートの結果の開示方法についての不満が聞かされた。
2号アンケートについて、択一式の部分と記述式は添付資料1.(省略)のような内容である。アンケート用紙には「公にしない」旨の記載もなく、このアンケート用紙と回答用紙は生徒を通じてその保護者に手渡され、保護者は回答用紙を後日学校側に提出した。
アンケートの回答内容は「公にしない」と生徒を通じて保護者に伝えるようにとの教師からの指示は無かった。アンケート用紙の説明の末尾に「アンケート結果は後日報告させていただきます」と記載されている通り、保護者としてはアンケートの記述欄も含めて当然に開示されるものと考えている。
保護者は毎年同じようにアンケートの協力を行っているが、その結果については特に記述欄の部分の報告がなされていないので、マンネリ感が生じてきているのも事実である。アンケートの記述欄についての扱いの不透明さが逆にアンケートに対する協力への積極性を失わせていることを否めない。
記述式のアンケートの設問は「本校の教育をよりよいものにするために、何か意見、ご提言がございましたら別紙記述用紙にご記入下さい」という内容である。生徒・保護者の意見を集約して、教育をよりよいものにするためのものが、その内容が開示されることによって今後アンケートの協力を得ることが著しく困難になるとは考えられない。
イ 1号、2号アンケート結果報告について
平成25年度同様に行われた1号アンケートの結果報告は添付資料2.(省略)の通りである。
結果報告において「記述部分も全教員で読みました。アンケート結果は分析し、今後の教育活動に活かしていきたいと思います。」の表現のみで済まされていることに対し、生徒、保護者からの不平が高まっている。
記述式の部分の方がより具体的で差し迫った意見も多数あると考えられるにもかかわらず、「全教員で読みました。」のみで記述式の部分についての報告が済まされている。内容を項目別に集計されたりして集約して読まれたのか、それとも原文そのままで読まれたのか、原文を一部黒塗りされた状態で読まれたのか、すべてもれなく伝わっているのか、非常に不透明な報告で済まされている。このような結果報告である限り、今後アンケートを毎年繰り返し行い続けても、どれほど効果が得られるのか疑問である。
アンケート内容の記述部分が公開されることにより協力を得られなくというよりも、その扱いの不透明さ故に協力が得られなくなるおそれの方が高いと考える。
また、2号アンケートについての集計結果については言及すらされていない。保護者に対するお願い文では「アンケート結果は後日報告させていただきます」と記載されているが、このようなアンケートの結果報告というのは保護者の協力を完全に裏切ることになっている。何故このような不完全な結果報告なのか、なんら説明を受けることができないことは著しく不当である。
本来なら記述式の部分を少なくとも適宜分類し集約するなどして、保護者へ報告すべきであり、合わせてどのように今後の教育活動に生かしていくのかを報告すべき内容でもある。(民間の企業では業務改善の活動として極めて当たり前のことである。)
アンケートがいつ頃から行われ続けてきたものか異議申立人には不明であるが、このような不完全なアンケートの結果報告を毎年繰り返し続けてきて、今後も同様に続けていくことに疑問すら感じる。次項ウのように学校協議会からも同様の意見が出ている。
ウ 学校教育自己診断の結果と分析・学校協議会からの意見として
平成25年度学校経営計画及び学校評価は添付資料3.(省略)の通りであるが、その内容で「学校協議会からの意見」として「授業アンケートの意義を高めるには、教師の多忙化に配慮しつつ、結果についての対応を生徒に見える形で還せるシステム(コメントシート等)が必要であろう。なお、評価やアンケートには功も罪もあり、意図しない「傲慢化」の原因にもなっているとの指摘も」
以上のようにアンケートの結果について学校協議会から意見が出ている。
以上アからウの結論として、条例第8条第1項第2号に該当するとは考えられない。
(2)他の部分公開決定通知との関連について
添付資料4.(省略)に異議申立人が別途申請を行った文書公開請求の決定通知を示す。
この文書公開においては「特定のものに不当に不利益を及ぼすおそれがある部分、個人の氏名及び個人が特定される内容が除かれ、部分公開されている。」
当該異議申立てに係わる文書の公開についても、同様の措置を行えば、条例第9条第1号に該当しないこととなるが、積極的にそのような措置をとることは行われず、回答部分をすべて黒塗りにして部分公開されていることは条例第1条の趣旨にも反している。
(3)大阪府立学校条例との関連について
大阪府立学校条例第9条に示されているように、府立学校には学校の運営に関する状況を説明する責任を果たすとともに、学校評価、教育活動などの状況に関する情報を積極的に提供する義務があるが、実施機関はその責任を果たすことなく不当に開示請求を退けていると異議申立人は考える。
2 反論書における主張
(1)弁明書の記載内容に関する個別の反論点
ア 第五の1(2)アの6行目までについて
「学校教育自己診断」の制度設計をした実施機関の意思としては、自由記述欄は公にしないことを念頭にアンケートを実施しているにも拘らず、その実施において「公にしない」旨の説明を行ったのは一部の教員についてしか確認できていないということは、すべての教員に実施機関の意思が理解されないまま、アンケートが実施されたことに他ならない。実施要綱にも「公にしない」旨の記載もされていない。
また、今問題としているのは当該学校1校のみについての言及だが、これが大阪府立高等学校全体でどのようにアンケートが実施されたのか、計り知れないことである。実施機関の意思としての制度設計上の著しい不備と言わざるを得ず、一部の教員が「公にしないことを条件に」と説明したということをもって、条例の適用を受けるようにアンケートを行ったと装い、不当に文書公開を拒否していると言わざるを得ない。
一部の教員というのは具体的にアンケートを担当した教員のうちの何人の教員であるのか?どのような権限をもって要項に含まれていない条件を付して一部の教員のみがアンケートを行うことができたのか?何故その他の教員は条件を付さずにアンケートを実施したのか?不可解なので明確な弁明を求める。
そもそも条例第8条第1項第2号に定められるように、『「公にしない」ことを条件にすることが正当であり、かつ承諾なく公にすることにより将来的に協力を得ることが著しく困難になると認められる』ということについて、いかなる主張をもって当該「原則公開の適用除外規定」を適用して情報公開を阻むことができるのか、的確かつ具体的な弁明を異議申立人は実施機関に求める。
異議申立人は平成27年1月29日の異議申立書にて、第四の1(1)ア、イに主張する通り「協力を得ることが著しく困難になると考えられない」旨主張を行っているが、実施機関側で論点のすり替えを行うことなく的確かつ具体的な弁明を求める。
仮に次年度のアンケートの実施が行われる際、その実施要領において「公にしない」と盛り込まれることがあっても、それは条例を不当に運用し、かつ、不当に情報の公開を妨げるものであり、到底許されるものではない。
イ 第五の1(2)アの6-8行目について
直筆で本人の筆跡が公になることが問題であるのならば、実施機関から弁明書と共に提出された学校教育自己診断実施要項の3.(4)にて「・・診断票の配布・回収・集計・分析を行うとともに、分析結果及び考察を学校協議会に提示するものとする」と定められている。少なくともこのときの集計分析結果を公開すれば良いと考える。
合わせて個人情報などの部分について必要最低限の黒塗りを行って、回答内容の写しを交付するのではなく、文書公開請求者の閲覧に供し、望ましくは音読による録音を認めれば良いと考える。
異議申立人は生徒・保護者の特定個人の筆跡を見てもその筆跡が誰のものであるのか知り得る材料も能力も持ち合わせていない為、生徒・保護者に何ら不利益を与えるものではない。
むしろ後述(2)にて主張するように生徒や保護者の意見や不満などを把握することが生徒・保護者の重大な不利益を被ることの回避につながるものと考える。
ウ 第五の1(2)イについて
異議申立書における平成25年度のアンケートの結果報告についての主張は、第四(1)イにおいて記述式の回答についての扱いを問題視しているのであり、それに対する弁明は何らなされていない。生徒に配布しているのは選択式回答の集計結果のみであり、その集計結果すらホームページで見ることは出来ない状況である。
学校教育自己診断の結果と分析についてホームぺージで確認できる内容は選択式の回答内容についてのごく一部のみであり、しかもどのような課題が浮かび上がってきたのかは明確にされていない。
記述式回答については、平成25年度の校長の第5回PTA実行委員会挨拶(平成26年1月18日)においてなされた発言によると83名の保護者からの意見等があったとのことである。しかし、何人の生徒からの記述式回答が得られたのかについては不明である。
記述式回答の扱いについては極めて不透明であり、「当該学校はアンケート結果を保護者等に広く情報提供している」とは決して言えるものでない。記述式の回答結果について、生徒・保護者等に一切の結果報告を行わずして「当該学校はアンケート結果を保護者等に広く情報提供している」と判断できる的確かつ具体的な弁明を求める。
エ 第五の1(2)ウについて
文書の性質がどのように異なり、どのように条例に基づく決定をしているのか的確かつ具体的な弁明を求める。
オ 第五の1(2)ウ及びエについて
異議申立人は「学校教育自己診断」の記述式の回答内容の情報について、実施機関及び学校の公開に対する積極性が皆無であることを問題視している。つまり、前述イのように個人のプライバシーに関することや公開されることにより不利益を被る可能性のある部分を適宜黒塗りにして公開するという義務を果たさずして、実施機関は記述式回答部分のすべてをいたずらに、黒塗りにして部分公開の決定を行った。このことは情報公開請求者の「知る権利」を保障するという条例の理念をないがしろにすることであり、かつ、大阪府立学校条例第9条の趣旨をないがしろにするものである。
とりわけ後述するように、記述式アンケートの内容は生徒・保護者等にとって特に重要な情報であるから、それらを公開しないことは条例における「原則公開の適用除外事項の規定」を不当に適用することによって、実施機関は文書公開請求を実質的に不当に拒絶しており、もはや違法であるとしか言いようがないと主張しているのである。この主張に対しての的確かつ具体的な弁明を求める。
(2)H26年度実施の選択式アンケート集計結果及び記述式回答の公開によって、生徒保護者の不利益を回避することについて
平成26年12月上旬に実施された生徒向けの選択式回答の集計結果において、平成25年度と比較して校長に対する評価結果について異常事態とも言える極めて重大な事態が判明した。(結果表省略)
現在の校長に対する生徒の理解がほとんど得られていない結果になっている。前年度と比較して大きな違いが起きているが、この設問は唯一学校長に対する生徒の評価項目である。生徒の校長に対する理解状況の著しい低さから考えて、校長以外の全教職員の校長に対する理解状況は如何なるものか?生徒からの評価同様に教職員からの理解が乏しい場合、学校運営上極めて深刻な問題で、異常事態であると考える。
学校長に対する生徒の信頼度合いのバロメーターとも言える、校長の言動に対する生徒の理解状況がこのように著しく悪い状態であることは、学校教育上あってはならないことである。学校長を取り巻く教職員及び生徒・保護者にとって極めて大きな不利益をもたらす状況をこのまま放置することは許されないことである。
記述式アンケートの回答には生徒・保護者からの多数の意見等が含まれている為、これらを分析し、学校運営上の問題点等を把握して解決していくことが重要である。
しかし、前述の1(1)イにおける主張及び同2(1)ウの通り、記述式のアンケート内容については生徒・保護者や府民に対して公表されておらず、学校協議会にすら報告されていないと考えられる。教職員や学校長に対する批判めいた意見などが反省材料として、課題として認識され、生徒や保護者からの意見などがどのような形で学校教育運営に反映されているのか全く不明である。
万が一、特定の教職員にとって不都合な意見等が封殺されていても知るすべがないことは問題である。
生徒や保護者の意見や不満などを把握することによって学校協議会への意見書に保護者からの意見を反映させることが出来、不利益を被ることの回避ひいては生徒・保護者の大きな価値の獲得につながると考える。
また、アンケートの趣旨は生徒・保護者の意見を集約して、教育をよりよいものにするためである。その内容が開示されることによって今後アンケートの協力を得ることが著しく困難になるとは到底考えられない。
(3)まとめ
(2)において、とりわけ学校長の生徒に対する接し方についての問題点があるから云々と指摘しているが、このことに限らず、記述式アンケートの回答には、学校運営上の重要な指摘事項が含まれていると考える。この回答には様々な課題や不具合な部分が多分に含まれている為、それらは生徒や保護者等にとっての利害に直結している事項である。
昨今の状況で実施機関の高等学校だけに限っても、入試の学区撤廃が行われたり、導入して間無しの前期・後期入試の撤廃、教育長の辞任に伴い「教育行政は手に負えない」と発言して教育委員長が辞任をしたりと、大阪府民として、そして入試制度に翻弄される生徒の保護者にとっても、その意図を理解し得ないことが継続して起こっており、当該機関に教育行政を委ねることに疑念を抱かざるを得ない。
以上のことから異議申立人は記述式アンケートの回答部分の内容公開を強く求めるとともに、異議申立人の申立理由及び本反論書の内容を十分に理解した上でその論点をすり替えることなく的確にかつ具体的に実施機関からの弁明や意見陳述を受けることを強く求め、大阪府情報公開審査会の判断を賜りたく存じます。
3 再反論書における主張
- (1)記述式のアンケート結果の取り扱いについては、異議申立人による公開請求(平成27年3月27日付、受付番号第1692号)「資料1」(省略)によると記述式アンケートの集計整理結果等は存在しない。これでは実施機関の先の弁明書による「学校教育自己診断」の目的を果たしているとは言えない。また、実施状況の報告公表について、実施機関はその義務を果たしているとは言えない。
- (2)異議申立人が行った先の反論書に記載した通り、選択式の回答結果に関して、当該学校の校長に対する生徒の理解度が極めて低いことに対しては、「資料2」(省略)に示すように学校協議会の場において議題となっていたが、学校側の認識としては全く見当違いと考えられる。記述式回答においては、極めて明確に学校長に対する意見が多数集約されていたことが予想されるが、その内容について学校側が認識していたのか不明である。認識していたにもかかわらず、学校協議会の場で議事録に示されているような見解であるのならば、もはや学校側及び学校協議会の教育上の諸問題の把握・解決能力は無いものと考えられる。
- (3)上記のことから学校側及び実施機関の自浄能力に期待することは出来ないため、生徒・保護者の不利益を回避する為に異議申立人は記述式回答の公開を求めているのである。仮に生徒に対して公開しないことを条件にしてアンケートを配布したのであれば、今回の情報公開請求の趣旨を説明し、プライバシーに十分配慮したうえで、部分的に公開する旨を説明することによって公開することも出来ると考えられる。
実施機関は将来的に自由記述に対する生徒の躊躇を懸念しているが、(2)に述べている学校側の問題をそのままにしておきながら、毎年同様のアンケートを続けることの方が生徒・保護者からの信頼を薄めていくことにつながり、その弊害によりアンケートの形骸化を進めていくと考える。 - (4)実施機関は「いじめ問題などのセンシティブな同様のアンケートにおいて、公にしないことを文書で明示したとしても、それを信頼できない生徒や保護者が生じることも容易に予測されるところである」と弁明しているが、「学校教育自己診断」のアンケートと「いじめ問題など」のアンケートとは全く異質なものである。
全く異質なアンケートと同じ扱いで「学校教育自己診断」のアンケートを公開することによって今後の事務の目的が達成できなくなると主張する以前に、(1)から(3)に述べた通り、学校側及び実施機関の本来果たすべき義務遂行を異議申立人は強く主張する。 - (5)実施機関が主張するような極めてセンシティブなアンケートに関する情報公開請求及び異議申立てに伴う兵庫県の情報公開・個人情報保護審議会の答申を「資料3」(省略)に例示する。本件では県立高校の生徒が自殺したことについて、学校が生徒に対して実施した記名式のアンケートの回収された全てのアンケート用紙が情報公開請求の対象であり、アンケート用紙には「書いてくださった方のプライバシーは守ります。」と明記されていた。
審議会の結論は次のとおりである。
兵庫県教育委員会は、対象公文書については、アンケート回答者の氏名、所属する組及び番号並びに異議申立人の長男以外の生徒の氏名を除いて、開示すべきである。ただし、開示の方法は目視による閲覧に限るものとする。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
1 弁明書における主張
(1)「学校教育自己診断」について
ア 学校教育自己診断は、学校教育活動が児童・生徒の実態や保護者・地域の住民の学校教育に対するニーズ等に対応しているかどうかについて、学校自らが診断票(診断基準)に基づいて学校経営計画の達成度を点検し、学校教育活動の改善のための方策を明らかにするものである。
イ 目的としては、次の4点が挙げられる。
- a 継続した診断活動を通して、校長のリーダーシップと全教職員の共通理解のもと、学校経営計画に定めた教育目標の達成状況を評価し、効果的かつ効率的な改善を行い、府民の信頼に応える学校づくりに資することを目的とする。
- b 学校自らが自校の教育を点検する姿勢を明らかにすることによって、保護者や地域の住民その他の関係者に理解され、支持される開かれた学校づくりをすすめるとともに、保護者等の意向を的確に把握し、その意向を学校の運営に適切に反映する。
- c 診断活動を積み重ね、学校が積極的に家庭や地域社会に情報を提供することによって、家庭・地域社会と一体となった、学校教育の在り方や家庭・地域社会の役割について話し合うための場づくりをめざすとともに、学校の運営状況に対する説明責任を果たし、保護者等との連携及び協力並びに保護者等の学校運営への参加を促進する。
- d 学校教育の改善のための課題を明らかにすることによって、教育行政の課題を明らかにする。
ウ 実施状況の報告・公表については、「学校教育自己診断実施要項」で次のように定められている。
- a 府立学校は、分析結果及び考察を「学校経営計画及び学校評価」に記載し、府教育委員会が定める期日までに、府教育委員会あてに報告するものとする。
- b 府立学校は、学校のWebページ上で「学校経営計画及び学校評価」を公表するとともに、さまざまな機会をとらえ、保護者等に広く情報提供するものとする。
(2)異議申立人の主張に対する実施機関の見解
- ア 異議申立人は、本件決定について「条例第8条第1項第2号には該当しない」と主張している。しかし、制度設計をした実施機関の意思としては、自由記述欄は公にしないことを念頭にアンケートを実施している。また、本件のアンケートを実施する際にも、「公にしない」旨の説明を行ったことを一部の教員には確認できた。自由記述欄を公開すれば、生徒・保護者に自由な記述を躊躇する者が現れ、素直にアンケートの回答ができなくなるおそれがあり、そうなれば学校の教育をより良いものにする事務の目的が達成できなくなるものである。さらに、自由記述欄は直筆であるため、公にすることにより特定の個人を識別できる個人情報であることから条例第9条第1号に該当し、非公開とすることが適切である。
- イ 異議申立人は平成25年度のアンケートの結果報告についても指摘をしているが、学校は、「学校教育自己診断実施要項」にしたがって、分析結果及び考察を「学校経営計画及び学校評価」に記載しており、この「学校経営計画及び学校評価」についても学校HPで広く府民に周知されている。また、学校は独自に「平成25年度 学校生活に関するアンケート結果」(生徒対象、保護者対象共に)を、生徒を通じて保護者に配付している。
以上から、当該学校はアンケート結果を保護者等に広く情報提供しているものである。 - ウ 異議申立人は他の部分公開決定通知(教委高3288号)との関連についても指摘をされているが、そもそも「学校宛に送られてきた電子メールやFAX」と「アンケートにおける記述式回答部分」では文書の性質が異なる。それぞれの文書の性質に応じて条例に基づく決定をしており、今回の決定が条例第1条に反しているとは言えない。
- エ 異議申立人は、「大阪府立学校条例第9条の趣旨に反している」と主張しているが、学校はHPで授業の内容や学校経営計画および評価を広く公開している。また、学校行事や生徒会・部活動、進路、国際交流などの情報についても積極的に発信しており、大阪府立学校条例第9条に反しているとは言えない。
以上のとおり、本件決定は、条例に基づき適正に行われたものであり、違法、不当な点はなく適法かつ妥当なものである。
2 追加の弁明における主張
実施機関は当初、自由記述欄は公にしないことを念頭にアンケートを実施しており、また、公にすることで特定の個人の筆跡を識別できると判断し、条例第8条第1項第2号(公にしないことを条件に提供された情報)及び第9条第1号(個人の氏名及び個人が特定される情報)の規定による部分公開決定通知を行った。
実施機関としては、アンケートの依頼時に「公にしないこと」を条件として、アンケートを配付した教員がいることを確認していることから、それをもって、非公開理由としては十分であると考えていたところであるが、今般の審査会では「公にしないことを条件に提供された情報」とは、公にしないことを文書により明示した上で提供された情報でなければ、当該非公開理由としては認められないと説明があったので、追加の弁明をするものである。
実施機関が当該アンケートの自由記述部分を「公にしないことを条件」に実施したのは、まさに、条例第8条第1項第4号(事務支障)の規定によるものである。つまり、アンケートの自由記述欄について、この直筆部分が公開されれば、生徒・保護者に自由な記述を躊躇する者が現れ、素直にアンケートの回答ができなくなるおそれがある。そうなれば他の学校教育に関する同種のアンケートでも、自由記述を躊躇するものが出てくる可能性があることは容易に予測されるところである。
また、今般のアンケートを公開した場合は、公にしないことを明言してアンケートを配付した教員が存在する以上、その教員を信頼し、公にされるものではないと信じて率直な意見を記述した生徒や保護者の信頼を裏切ることとなり、いじめ問題などのセンシティブな同様のアンケートにおいて、公にしないことを文書で明示したとしても、それを信頼できない生徒や保護者が生じることも容易に予測されるところである。
よって、今般のアンケートの直筆部分を公表した場合は、今後、実施機関が、率直な意見を求めるというアンケート調査を実施しようとする場合、その事務の目的が達成できなくなるものと考えられる。したがって、公開しないこととした理由に、条例第8条第1項第4号(事務支障)にも該当するものとし、弁明事項を追加するものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念のもとにあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 非公開部分に係る具体的な判断及びその理由について
対象行政文書の非公開部分について、実施機関は条例第8条第1項第2号、第4号及び第9条第1号の規定に該当すると主張することから、以下において検討する。
(1)条例第8条第1項第2号について
ア 意義
本号は、任意の情報提供者との信頼関係、協力関係を確保し、行政の公正かつ適切な運営を確保するため、実施機関が要請して、第三者(個人又は法人等)から公にしないことを条件に提供を受けた情報については、当該条件を付することに正当性があるなどの一定の要件を満たす場合に限り、公開しないことができる旨定めている。
また、公にしないことの条件は、明示のもの(契約書、要綱、調査票等書面中に他の目的に使用しない、秘密を厳守する、公開しない等の記載のあるもの)に限ると解されている。
イ 該当性
実施機関によると、第二の2(1)ア及びイのアンケート(以下「本件アンケート」という。)の制度設計をした実施機関の意思として、自由記述欄は公にしないことを念頭に実施を依頼し、また、当該学校において、本件アンケートを実施する際にも「公にしない」旨の説明を行ったことを一部教員に確認できたと説明しているが、実際のアンケート用紙に公開しない旨の記載はされていないとのことであった。
(1)アで述べたように、公にしないことの条件は明示のものとされていることから、本号の要件には該当しない。
(2)条例第8条第1項第4号について
ア 意義
府の機関又は国等が行う事務事業に係る情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがある。
本号は、
- a 府又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- b 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの
に該当する情報については、公開しないことができる旨定めている。
また、本号のおそれのあるものに該当して公開しないことができるのは当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」、又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、また、それらの「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られると解される。
イ 該当性
本件アンケートは、今後の教育活動の参考とするためのものであり、その回答内容はいずれも(2)アaの「調査研究の事務に関する情報」に該当する。
次に、本件非公開部分が(2)アbの要件に該当するかどうかについて、審査会において確認した内容に基づいて検討したところ、次のとおりである。
本件アンケートの自由記述欄は、生徒及びその保護者(以下「生徒等」という。)が任意に記述することとされている。しかるに、本件アンケートの自由記述欄の記述には、機微にわたる情報も含まれているので、仮に、これらの情報が公にされることになれば、回答者が当該学校の生徒等に限られ、また、記述が直筆であることから、生徒等において回答者が識別され得るのではないかと考え、今後、自由な記述を行うことに非協力的ないし消極的になるおそれがあることは否定できない。とすると、本件アンケートの目的である学校の教育理念を実現するために日常的に教育活動が実施されているかどうかを生徒等に診断してもらい、今後の教育活動の参考とするという公益性のある事務の目的が達成できなくなるおそれがあると言わざるを得ない。
また、他の府立高等学校でも同様のアンケートを実施しており、これらのうち自由記述欄が公開されることとなれば、このアンケートに関する事務が広範囲で実施できなくなり、事務の目的が達せられなくなるおそれが高くなるものと考えられる。
よって、本件非公開部分を公開することにより、今後、当該若しくは同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障があると認められることから、(2)アbの要件に該当し、非公開が妥当である。
(3)条例第9条第1号について
ア 意義
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号はこのような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
本号は、
- a 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報
であって、 - b 特定の個人が識別され得るもののうち、
- c 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨定めている。
イ 該当性
実施機関は、自由記述欄は直筆であるため、公にすることにより特定の個人が識別できると主張している。
今回異議申立ての対象となっている行政文書は、既に学年が公開されており、このような状況で自由記述欄を公開してしまうと、同じクラスの生徒、保護者など日ごろから接する機会のある者が見ると、回答内容や筆跡から誰が記載したものか、特定の個人を識別され得る可能性は否定できない。また、これらの自由記述欄には、学校に対する生徒や保護者の機微にわたる情報や率直な意見が記載されている。
したがって、これらの情報は特定の個人が識別され得るもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものであることから、(3)アのaからcまでに該当し、非公開が妥当である。
3 付言
(1)アンケートの実施方法について
本審査会が確認したところ、本件アンケート用紙には「アンケート結果は後日報告させていただきます」と記載されているだけで、アンケートに記載された個人情報や回答に関する取扱いについて事前に明確にされていない。
このため、生徒等は、生徒等の個人情報がどのように保護されるのか、及びアンケートがどのように活用されて公表されるのか、という点が明確でないままに回答しなければならない立場におかれている。
したがって、実施機関においては、アンケートを実施する際に、自由記述欄も含めたアンケートの回答を公にしないことの合理性を十分に検討したうえで、アンケートの自由記述欄や個人情報の取扱い、及び(2)で述べるようなアンケートの回答に関する情報提供等について事前に明確にしておくべきである。
(2)アンケート結果に関する情報提供について
実施機関の主張によると、当該学校は「学校教育自己診断実施要項」にしたがって、分析結果及び考察を「学校経営計画及び学校評価」に記載し、この「学校経営計画及び学校評価」についてもホームページで広く周知しており、また当該学校は独自に「平成25年度 学校生活に関するアンケート結果」(生徒対象、保護者対象共に)を、生徒を通じて保護者に配付していると述べている。
しかしながら、このアンケート結果というのは選択式回答のみの集計結果であって、記述式に関しては特段まとめられた情報も見受けられない。
アンケート用紙には「アンケート結果は後日報告させていただきます」と記載されており、また、他の府立高等高校においても同様のアンケートを実施していることから、実施機関において、選択式だけではなく記述式に関しても、分析した結果等を情報提供されたい。
(3)行政文書の公開方法と非公開事由該当性について
異議申立人は「本人の筆跡が公になることが問題であるのならば」、「写しを交付するのではなく、閲覧に供すればよい」旨を主張し、他県の情報公開・個人情報保護審議会の答申の写しを示しているが、条例第9条第1号だけではなく、条例第8条第1項第4号
該当性が問題となる本件では、2の判断のとおり、異議申立人の主張はあたらない。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
小谷寛子、有澤知子、近藤亜矢子、長谷川佳彦