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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第247号)
府立学校入学式における教職員の懲戒処分に関する文書部分公開決定異議申立事案
(答申日 平成27年8月17日)
第一 審査会の結論
実施機関(大阪府教育委員会)は、本件異議申立ての対象となった「府教委事情聴取書」及びそれに添付された「顛末書」について、別紙において「非公開が妥当と判断した部分」を除いて公開すべきである。
実施機関のその余の判断は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成26年7月6日、異議申立人は、実施機関に対して、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、「大阪府立高等学校における2014年度入学式に関して、校長が監督責任により「訓戒」処分を受けたことに係わるすべての文書(「訓戒」の理由説明書を含む)」について、行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 同年7月22日、実施機関は、本件請求に対応する行政文書について(1)のアからウまでの文書を特定し、それぞれについて、(2)アからウまでのとおり、非公開とする部分を特定して部分公開決定を行い、それら非公開とする部分について、条例第13条の規定により、非公開の理由を(3)のとおり付して異議申立人へ通知した。
- (1)本件請求に対応する行政文書
- ア 大阪府公立学校教員の懲戒処分について(伺い)
- イ 校長報告書(添付資料を含む)
- ウ 府教委事情聴取書
- (2)非公開とする部分
- ア 大阪府公立学校教員の懲戒処分について(伺い)
- 学校名及びこれを特定し得る事項
- 懲戒処分の対象となった教員の氏名
- 事件発生の月日
- 事件の経過にかかる月日及びこれらを特定し得る事項
- イ 校長報告書(添付資料を含む)
- 学校名及びこれを特定し得る事項
- 懲戒処分の対象となった教員の氏名及びこれらを特定し得る事項
- 関係者の氏名
- 事件発生の月日
- 事件の経過にかかる月日及びこれらを特定し得る事項
- 聴取の内容
- ウ 府教委事情聴取書
- 全部
- ア 大阪府公立学校教員の懲戒処分について(伺い)
- (3)公開しない理由
- ア 条例第8条第1項第4号に該当する。
実施機関が行う懲戒処分等の事務に関する情報である事情聴取書及び聴取の内容は、公にすることにより、外部の者から中立・公平な審査に影響を及ぼされることにより当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - イ 条例第9条第1号に該当する。
本件行政文書(非公開部分)に記録された情報は、処分等の対象となった教員等その他関係者の氏名等、当職個人の特定に繋がり得る情報が記載されている。これらは、特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。
- ア 条例第8条第1項第4号に該当する。
- (1)本件請求に対応する行政文書
- 異議申立人は、本件決定を不服として、同年8月7日、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分のうち、「大阪府立学校における2014年度入学式に関して、校長が監督責任により『訓戒』処分を受けたことに係わるすべての文書」の公開請求に対して、「府教委事情聴取書」を大阪府情報公開条例第8条第1項第4号および、第9条第1号に該当するとの理由で、全部非公開とした部分を取り消す、との決定を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 異議申立書における主張
本件処分は、条例第8条第1項第4号および、第9条第1号該当を理由に非公開としているが、異議申立てにかかる処分は、次の点が違法不当である。
2013年度以前の卒業式・入学式において、国歌斉唱時の不起立が「職務命令違反」とされた処分に係わって、被処分者自身が提出した「顛末書」および府教委が作成した「事情聴取書」の写しは、条例第8条第1項第4号および第9条第1号により、「特定個人が識別される個人のプライバシーに関する情報であって、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる部分」を除き(黒塗りし)、公開されている。
しかし、申立人が2014年度入学式に関する同情報を全面非公開とする理由について大阪府教育委員会担当課(実施機関)に確認したところ、2013年度以前の公開を認めた上で、2014年4月に以降の非公開を担当課において決定した旨を明らかにした。
2014年4月以降に、本件処分に係わる法令、条例、規則、規程、訓令、通達等が改訂された事実はなく、昨年度までは公開され、今年度以降は非公開とされる根拠は見あたらない。したがって、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等によらず、担当課職員による判断による非公開決定は、きわめて恣意的であり、不当・違法である。
また、公開請求に係る文書は、「大阪府職員基本条例」や「国旗国歌条例」に係わり、府民に大きく影響する内容に関連している。「大阪府情報公開条例」の前文「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」の趣旨に則り、本件処分を取り消し、情報の全部を公開すべきである。
2 反論書における主張
- (1)実施機関は、条例の「解釈運用基準」(2013年4月版。本年5月にも改訂されている。)において、第8条第1項第4号に該当する情報例の「(6)人事管理に関する情報」の項で、「懲戒処分のための調査に係る事情聴取書」と記されていることを根拠に、本件対象文書の全部を公開しないことができるとのみ主張している。
確かに、「解釈運用基準」は、「該当する情報例」に「懲戒処分のための調査に係る事情聴取書」をあげている。しかし、その前提として、「本号該当性については、当該情報を公にすることにより、当該事務または同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることについて、具体的な事実に即して客観的に検討した上で、慎重に判断しなければならない。」ことを前提としている点に留意しなければならない。実施機関の主張が正しいとするならば、懲戒処分のための調査に係る本人「顛末書」の写し等を含む、「懲戒処分のための調査に係る事情聴取」関連文書の内、「校長報告書」など最終確定文書以外の一切が今後は機械的に非公開ということになる。公務上の懲戒処分に係る「顛末書」「事情聴取書」などはこれまでにも部分公開されてきた事実があるにもかかわらず、これらの点について、弁明書ではいかなる説明もなされていない。 - (2)「学校体罰関係文書部分公開決定異議申立事案」に関する大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第227号、答申日2013年10月25日)では、体罰事案に対する懲戒に係る教育委員会報告書(校長報告書、本人顛末書、事情聴取書の写し、懲戒対象教員の履歴書の写し等)において「非公開が妥当」とした部分を除き公開すべきであると答申している。(添付略)
上記事案について、実施機関(府教委)は、公開請求対象の文書の条例第8条第1項第4号の該当性について、次のように主張している。しかし、大阪府情報公開審査会は、実施機関による下記の主張を全面的には認めず、「非公開が妥当」とした一部を除き、事情聴取書等を含む文書を公開すべきであるとの答申を行った。
(実施機関主張)- ア 処分等の対象となった教諭に係る事情聴取書の写し、並びに聞き取り及び指導(写)(事情聴取書)のうち、学校長による当該事象に対する見解や当該教諭の人物評価など、条例第9条第1号に該当しない部分については、体罰等に至る経過等について、当該教諭の当時の言動、心境又は当該教諭の日頃の生活態度等に関する情報など、被害児童生徒・保護者等との関係者に関するものも含めて具体的かつ詳細に記載されている。これらの情報は、当該教諭等の個人を識別出来ない情報として公にしたとしても、特定の関係者に知れるおそれがあるだけで、今後、公開が前提としてなされることとなれば、事情聴取の対象となった本人又は関係者から事情聴取する場合、学校長が個人情報の保護への配慮等から詳細な情報を把握することが難しく、実施機関に報告するための各市町村教育委員会の報告書においても同様の事態が容易に予測されるため、実施機関が正確かつ詳細な情報を得ることに著しい支障が生じるおそれがあり、その結果、当該教諭等への処分等の事務の目的が達成できず、公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
- イ 処分等の対象となった教諭に係る報告書に記載のある学校長が行った事実確認に必要となる関係機関とのやり取り等のうち、条例第9条第1号に該当しない部分については、公にすることにより、柏原市立中学校のような体罰事象が校外での場合や、被害児童生徒が○○○○等の関係機関からの情報や事象の詳細が公になることとなり、今後、関係機関からの情報提供が受けにくくなり、その結果、体罰等の事象の事実が正確に把握できなくなり、当該教諭等への処分等の事務の目的が達成できず、公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
- (3)実施機関は、条例の「解釈運用基準」(平成25年4月版。本年5月にも改訂されている。)において、第8条第1項第4号に該当する情報例の「(6)人事管理に関する情報」の項で、「懲戒処分のための調査に係る事情聴取書」と記されていることのみを根拠に、本件対象行政文書の全部を公開しないと主張している。
しかし、上記の「大公審答申第227号」は、体罰事案についてであるが、「懲戒処分の対象行為となる体罰であると判断し実施機関へ提出」された行政文書の性質について、次のように答申している。
「本件行政文書は、平成23年度に政令指定都市である大阪市を除く市町村教育委員会等が体罰事案の発生に伴い関係者等へ事情聴取を行った結果、懲戒処分の対象行為となる体罰であると判断し、実施機関へ提出した大阪府小・中・高等学校における学校事故(体罰)報告書等である。これらの文書は事情聴取により把握された体罰事案の事実経過、その後の対応等が具体的に記載されており、これを広く公表することが加害教員に対する適正な処分や体罰の再発防止、教育行政に対する信頼回復に資すると考えられる。報告書等は本来、関係者が真摯に反省し協議して体罰等の再発を防ぐ貴重な資料となるべき性質のものであり、教育現場で最大限に活用されることが望ましい。また、報告書等の作成が懲罰的に受け止められている風土があるならば一掃されなければならない。」(「第六 審査会の判断理由の第2項 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について(1)本件行政文書について」)
本件行政文書と事案が異なるとはいえ、教育課程の重要な一部である卒業式・入学式の内容に関係し、式に参加するすべての児童・生徒及び保護者の思想・良心の自由に係わる行動にも影響を与える「日の丸・君が代」問題の扱いについての事案である。この問題について、各地で裁判などが継続されている。校長及び教員が教育委員会の「指示」の通りに動かなかったことに対する本件懲戒処分の経過がいかなるものであったのかは、教育現場及び関係者による十分な議論を保障するための重要な行政文書である。
したがって、本件文書もできる限り積極的な公開がなされるべきである。
また、「大公審答申第227号」は、対象行政文書の条例第8条第1項第4号該当性について、「同号の解説において、『「おそれのあるもの」に該当して公開しないことができるのは、当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」、又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、またそれらの「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られる。』とされている。」として、同条例解説に基づいて、非公開とする場合の条件を厳格に扱うべきであると確認している。その上で、対象事案に即して次のように判断し、「別紙2」記載の非公開が妥当と判断する部分を除き開示すべきであると答申した。
実施機関は、本件行政文書において加害教員等の関係者の個人が識別される情報が公開されると、事情聴取において、加害教員等が自己に都合の悪い事実を報告しなくなる等のおそれがあり、正確かつ詳細な情報を把握することが困難となれば、今後懲戒処分等の同種の事務の公正かつ適切な執行に支障を及ぼすおそれがあると主張する。
確かに加害教員の氏名や学校名が公開されることになると、体罰に関する事情聴取に際して、加害教員が事実をありのままに発言することに消極的になるおそれがあると考えられるが、そもそも体罰事案において加害教員が進んで事情聴取に応じるとは想定し難いことからすると、本件行政文書を公開されることにより直ちに正確な事情聴取ができないことになり、ひいては、実施機関の当該事務に著しい支障が生じるとする主張には支障を及ぼすおそれに法的保護に値する蓋然性があるとはいえない。(上記項目の(3)条例第8条第1項第4号該当性にかかる当審査会の判断)
本件事案についても、同様の判断がなされるべきである。 - (4)大阪市教育委員会は、校長を含む教職員の懲戒事案について、報道各社の情報開示請求に対して、本人「顛末書」の写しを開示している。
重大な事案として、大阪市立桜宮高校における体罰事件に関して、例えば、産経新聞は情報開示請求によって入手した本人「顛末書」の内容について、次のように報じている。
『「すべてが慢心だった」体罰のバスケ部元顧問、顛末書でさんげ(産経新聞2013年7月4日)
≪信念さえ分からなくなった≫≪すべてが慢心だった≫。大阪市立桜宮高バスケットボール部主将の男子生徒=当時(17)=が自殺した問題で、4日に在宅起訴された同部顧問だった元教諭(47)=懲戒免職=は、市教委に提出した顛末書でざんげした。産経新聞が情報公開請求し、入手した顛末書の写しには暴力を伴う指導をとってきた被告の哲学が自殺を契機に崩れていく様子が記されている。(以下略)』
また、大阪市の別の事案について、『大阪市教委:セクハラ前校長に退職要求へ・・・「不適格」(毎日新聞 2013年10月25日)児童の母親へのセクハラ行為で更迭された大阪市立小の民間出身の前校長(59)について、市教委は「校長として不適格」として学校現場に復帰させず、自主退職を求める方針を固めたことが24日、分かった。(中略)市教委に提出した顛末書で、前校長は英国のスパイ映画を引き合いに、保護者から情報を得るために気を引く「007の様な行動」をしてしまったとも記述していた。』と、本人顛末書が開示されていることを伝えている。
以上のとおり、懲戒事案の事情聴取に係る行政文書の内、少なくとも本人提出の「顛末書」が一般的に情報の対象とされていることは明らかである。
以上のとおり、平成26年7月22日付 決定通知書(教委職人第1951号)における「府教委事情聴取書の全部非公開決定」は、不当かつ違法であり、「全部非公開」とした部分は取り消されるべきである。
第五 実施機関の主張要旨
1 弁明書における主張
実施機関の主張は概ね次のとおりである。
(1)任命権に基づく懲戒処分
地方公務員法第27条では、「すべて職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない」と規定されており、さらに「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず・・・、」と平等取扱いの原則が規定されている。一方で、任命権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかの具体的な基準が法律等で規定されていないことから、任命権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響のほか、当該公務員の行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定すべきものと解されている。(最高裁判所昭和52年12月20日判決)
このことから、府立学校において懲戒事由に該当すると思われる事案が生起した場合、所属学校長が事実関係を調査の上、実施機関に対して報告書を提出し、実施機関においても本人に対する事情聴取を実施し、事実確認等を行った後、前述の事項を総合的に考慮して、懲戒処分を行うかどうか、いかなる処分を行うかを決定している。
したがって、公正な処分の決定、処分にかかる事務を遂行する上で、本人への事情聴取が重要な情報となっている。
(2)本件請求の非公開部分の条例第8条第1項第4号の該当性について
条例第8条では、行政文書公開制度における適用除外事項を定め、該当する情報については、実施機関は公開しないことができる旨を規定している。そして、同条第1項第4号では、「府の機関…が行う…人事管理…等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」と規定し、「大阪府情報公開条例 解釈運用基準」(平成25年4月)において、同条第1項第4号の「該当する情報例」として「懲戒処分のための調査に係る事情聴取書」が説明されている。
本件では、申立人は、府教委が作成した「事情聴取書」の「全部非公開決定」処分の取消し、及び当該情報の全部公開を求めている。
「事情聴取書」の情報は、実施機関が懲戒処分にかかる事務を遂行する上で、必要かつ重要な情報であり、仮にその内容が公開され、さらに、今後公開が前提となれば、非違行為を行った教職員が、事実関係や動機等を率直に述べなくなるおそれがあり、実施機関が懲戒処分にかかる事務の実施に必要かつ十分な情報を得ることが困難になり、当該若しくは同種の事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
以上の理由により、本件処分の「事情聴取書」の情報については、条例第8条第1項第4号の規定により非公開決定としたものである。
(3)結論
以上のとおり、本件処分は、条例に基づき適正に行われたものであり、違法、不当な点はなく適法、かつ、妥当なものである。
2 追加資料における主張
(1)「顛末書」を公開することに伴う具体的支障について
ア 懲戒処分等の実施手続きについて
府立学校において、懲戒事由に該当すると思われる事案が生起した場合、まず、本人に対して「顛末書」の提出を求め、その内容に基づき、当該教職員の所属する学校長が事情聴取等を実施して事実関係を調査の上、実施機関に報告書を提出し、実施機関においても本人からの事情聴取等の事実確認を行った後、諸般の事情(原因、動機、性質、態様、結果、影響等)を総合的に考慮して、懲戒処分等をすべきかどうか、また、いかなる処分を行うかを決定している。
その過程において、本人から提出される「顛末書」は、非違行為をするに至った原因、動機、態様等を迅速に把握し、また、公正な処分の決定、処分にかかる事務を遂行する上で、極めて重要な情報となっている。
イ 「顛末書」を公開することに伴う具体的支障について
上記のとおり、「顛末書」の情報は、実施機関が処分にかかる事務を遂行する上で、必要かつ極めて重要な情報であり、仮にその内容が公開され、さらに、今後公開が前提となれば、非違行為を行った者が、「顛末書」を提出しなかったり、提出した場合でも事実関係や動機等を率直に記載しなくなるおそれがある。
その結果、実施機関が懲戒処分等にかかる事務の実施に必要かつ十分な情報を得ることが困難になり、当該若しくは同種の事務の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
また、近年、卒業式等において職務命令違反をした者が、「顛末書」の提出や事情聴取を拒否するという事案が複数発生しているが、これらの事案については、本来、実施機関は、本人から「顛末書」により、非違行為をするに至った原因、動機等の情報を把握し、諸般の事情(原因、動機、性質、態様、結果、影響等)を総合的に考慮して、処分を決定すべきところ、顛末書の提出がないため、本人から非違行為をするに至った原因、動機等の情報を得ることができず、起立斉唱の職務命令を発した学校長の報告や、教頭等による職務命令違反の現認報告により、かろうじて事実認定を行うことができている状況である。
他の事案においては、本人からの「顛末書」が提出されなければ、捜査権限を有しない実施機関としては、正確な事実関係や動機等の把握が極めて困難となり、懲戒処分等にかかる事務の公正かつ適正な執行に著しい支障がある。
ウ 本件「顛末書」の大阪府情報公開条例第8条第1項第4条の該当性について
条例第8条では、行政文書公開制度における適用除外事項を定め、該当する情報については、実施機関は公開しないことができる旨を規定している。そして、同条第1項第4号では、「府の機関・・・が行う・・・人事管理・・・等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」と規定し、「大阪府情報公開条例解釈運用基準」(平成25年4月)において、同条第1項第4号に「該当する情報例」として、「懲戒処分のための調査に係る事情聴取書」が記載されている。
本件「顛末書」は、懲戒処分のための調査に係る「事情聴取書」の一部として実施機関が管理しているものであり、条例第8条第1項第4号の規定及び上記解釈運用基準に照らし非公開決定としたものである。
なお、仮に、本件「顛末書」を「事情聴取書」とは別の行政文書として管理していたとしても、本件「顛末書」は、「訓戒」を受けた当該校長が、事実関係や教職員への指導内容、そのような指導を行った原因、動機等について、書面に記載して府教育委員会に提出したものであり、まさに、非違行為を行った者からの事情聴取というべきもので、「事情聴取書」と同質の行政文書であることから、条例第8条第1項第4号の規定に基づき非公開とすべきものである。
(2)「事情聴取書」や「顛末書」に対する公非の判断が、大阪府小・中・高等学校にかかる学校事故(体罰)報告書事案と本件事案で異なる理由について
ア 大阪府小・中・高等学校にかかる学校事故(体罰)報告書事案について
平成18年12月22日大阪高裁判決(平成18年行コ第26号、同第68号)は、兵庫県教育委員会(以下「兵庫県教委」という。)における体罰事故報告書に係る情報公開について、「加害教員が被害生徒に対し体罰を行ったという情報は、教育現場における教育指導等の過程で発生するものであって、加害教員との関係でみると、まさに公務員である教職員の職務の遂行に関する情報であると言わざるを得ず、したがって、このような情報は前段(個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもののうち、通常他人には知られたくないと認められるもの)の非公開事由に該当しないと解することが相当」と判示している。
また、平成23年2月2日大阪高裁判決(平成22年行コ第153号)も、兵庫県教委における体罰事故報告書に係る情報公開について、「本件文書により個々の教職員が具体的にいかなる懲戒処分等を受けたかは明らかにされていないことからすると、加害教員の体罰について調査・報告が行われたとの情報は、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる公務員の私事に関する情報に該当するということはできない。」と公開するよう判示している。
学校事故(体罰)報告書事案については、貴審査会の答申(平成25年10月25日付大公審答申第227号)がだされ、これらの判例等を踏まえて公開することとした。
イ 本件事案について
本件事案は、教職員の職務の遂行に関する情報公開である上記事案とは異なり、教職員の懲戒処分等に係る情報公開の事案であり、上記平成18年12月22日判決は、「加害教員その他の教職員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、前段の非公開事由に該当しないと解すべきところ、加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けたことは、公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから、私事に関する情報の面を含むものということができ、そうすると、このような情報は前段の非公開事由に該当すると解することが相当である。」と判示し、教職員が懲戒処分等を受けたことに係る情報は非公開事由に該当するとしている。
また、上記平成23年2月2日判決において、当該文書を公開することとされたのは、当該文書により個々の教職員が具体的にいかなる懲戒処分等を受けたかは明らかにされていないからであって、懲戒処分等に関することが含まれていれば非公開と判断されたと推察できる。
さらに、貴審査会の答申(平成10年5月21日付け大公審答申第56号)においても、懲戒処分等に係る「事情聴取書」について、「たとえ、一般人が当該教職員等の個人を識別できない情報として公にするとしても、上司や同僚、不祥事の相手方など特定の関係者に知れるおそれがあるだけで知られたくないと望むのが通例であり、そのこと自体は正当でないといい得るものではなく、本事案において事情聴取を内密に実施したことには、一応の合理性があると認めざるを得ず、事情聴取した内容そのものの詳細については、これを公にすることにより、今後服務義務違反等の事実が正確に把握できなくなることから、教職員の勤務関係における規律と公務遂行上の秩序の維持という事後措置の事務の目的が達成できなくなり、また、その公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある情報である」との判断が示されている。
これらの判例、また、貴審査会の答申を本件事案に当てはめると、条例第8条第1項第4号の規定に基づき「事情聴取書」を非公開決定したことは、適法かつ妥当である。
なお、本件「顛末書」については、前記(1)ウで述べたとおり、「事情聴取書」の一部として実施機関が管理しているものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、条例第8条及び第9条に定める事項に該当する場合を除いて、公開しなければならない。
2 異議申立ての対象とされている行政文書について
本件異議申立ての対象とされている行政文書は、「大阪府立高等学校における2014年度入学式に関して、校長が監督責任により「訓戒」処分を受けたことに係わるすべての文書」について実施機関が特定した第二の2(1)アからウまでの文書のうち、ウ「府教委事情聴取書」である。
なお、府教委事情聴取書には、顛末書が添付されている。
3 府教委事情聴取書の非公開部分に係る具体的な判断及びその理由について
本件府教委事情聴取書の非公開部分について、実施機関は条例第8条第1項第4号の規定に該当すると主張することから、以下において検討する。
(1)条例第8条第1項第4号について
府の機関又は国等が行う事務事業に係る情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれのあるものがある。
本号は、
- ア 府又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものに該当する情報については、公開しないことができる旨定めている。
本号の「人事管理」とは、職員の任免、服務監督、懲戒、勤務評価、人事異動などの事務をいうものである。
また、本号のおそれのあるものに該当して公開しないことができるのは当該情報を公開することによって、「事務の目的が達成できなくなり」、又は「事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼす」程度が名目的なものに止まらず具体的かつ客観的なものであり、また、それらの「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく法的保護に値する蓋然性がある場合に限られると解される。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
当審査会において、この異議申立ての対象である「府教委事情聴取書」を見分したところ、当該文書は実施機関が校長に対し懲戒処分等を行うに際して、実施機関が非違行為の事実確認や当該行為に至った理由等を直接校長から聴取した内容を記録した「事情聴取書」と、非違行為を行った校長がその行為に至った原因、動機、態様等を記述し、実施機関へ提出した「顛末書」から構成されており、いずれも上記(1)アの「人事管理の事務に関する情報」に該当する。
次に、(1)イの要件に該当するかどうかについて、審査会において確認した内容に基づいて検討したところ、次のとおりである。
この府教委事情聴取書には「事情聴取書」と「顛末書」とがあり、実施機関はこの顛末書は事情聴取書の一部として管理しているものと主張しているが、通常、顛末書は事情聴取の前に作成される文書であり、事情聴取書とは別の文書と考えるべきである。よって、事情聴取書と顛末書を分けて検討する。
事情聴取書は、実施機関が懲戒処分等の事後措置を行うにあたり、当該校長から任意に、あくまでも公開しないことを前提として非違行為の事実等を聴取した内容を記録した文書で、事後措置の原因となった事案の経過、内容、動機等がきわめて具体的かつ詳細に記載されており、懲戒処分等に直接関わり、かつ、その基礎をなす情報であると認められる。
事情聴取書は、公開が前提となれば、非違行為を行った者が事実関係や動機等を率直に述べなくなるおそれがある。本事案においては、職務命令の出し方など校長本人に聴取することにより、初めて把握できる情報が含まれており、この情報が述べられないと、懲戒処分に係る事実の把握等事務の実施に必要かつ十分な情報を得ることが困難となり、当該若しくは同種の事務の公正かつ適切な執行に著しい支障が生じると認められ、非公開が妥当である。
顛末書は、処分を受ける当該校長が、事実関係や教職員への指導内容、そのような指導を行った原因、動機等について記載した文書で、それらの内容がこの顛末書の提出により初めて把握できるものであり、また、事実関係や教職員への指導内容、そのような指導を行った原因・動機等について記載している点で事情聴取書と同様に、実施機関が処分にかかる事務を遂行する上で重要な情報であると認められる。よって、その内容が公開されると顛末書が提出されず、それに基づく事情聴取ができなくなる場合が予測される。そうすると、正確な事実関係や動機等の把握がきわめて困難となり、懲戒処分にかかる事務の公正かつ適切な執行に支障を及ぼすおそれがあるという主張は一定理解できる。しかし、本件では、顛末書を公開することによる事務の執行支障について、実施機関から具体的な主張がなく、法的保護に値する蓋然性があるとまでは言えないことから、(1)イに該当せず、以下(4)で非公開が妥当と判断した部分を除いて、公開が妥当である。
(3)条例第9条第1号について
条例は、その前文で、府の保有する情報は公開を原則としつつ、併せて、個人のプライバシーに関する情報は最大限保護する旨を宣言している。また、第5条において、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければならない旨規定している。
本号はこのような趣旨を受けて、個人のプライバシーに関する情報の公開禁止について定めたものである。
本号は、
- ア 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報であって、
- イ 特定の個人が識別され得るもののうち、
- ウ 一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる
情報が記載されている行政文書を公開してはならない旨定めている。
(4)条例第9条第1号該当性について
- ア 当該顛末書には当該校長の氏名、所属学校名及び印影に関する記載が含まれており、これらの情報は(3)アからウまでに該当する情報であるため、非公開が妥当である。
- イ 当該顛末書に記載されている校長が事情聴取した教職員及び当該校長の内心にかかる内容については、大阪府立高等学校における平成26年度入学式に関して、監督責任により「訓戒」を受けた者及び事情聴取を受けた者がそれぞれ1名と個人が特定され得るもので、個人の思想、信条等に関する情報であり、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であるため、(3)アからウまでに該当し、非公開が妥当である。
4 体罰事案との相違について
異議申立人は、反論書において、本審査会が「体罰事案に対する懲戒に係る教育委員会報告書(校長報告書、本人顛末書、事情聴取書の写し、懲戒対象教員の履歴書の写し等)において」「(条例第9条第1号に基づき)「非公開が妥当」とした部分を除き公開すべきであると答申して」いることから、本件についても、「同様の判断がなされるべきである」と主張している。
実施機関が行う事後措置に係る事務の公正かつ適切な執行に及ぼす支障については、行政文書に記載された情報の性格、体裁、位置づけのみならず、これに係る個々の事務執行において当該情報を秘匿することの必要性、合理性を、条例の原則公開の趣旨を踏まえ、総合的に判断して、個別に判断すべきものである。
体罰事案に係る対象文書は、教育現場における教育指導の過程で発生した事項を記載したもので、加害教員との関係でみるとまさに公務員たる教職員の職務の遂行に関する情報である。これは関係者が真摯に反省し協議して体罰等の再発を防ぐ貴重な資料となるべき性質のもので、教育行政に対する信頼を回復し府民への説明責任にも資することとなるものである。
一方、本件異議申立てに係る対象文書は、懲戒処分されたことやそれに至った非違行為等の公務員たる校長の私事に関する事項を記載したもので、公務員の立場を離れた一個人としての評価を低下させる、まさに他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報であり、本件においても体罰事案と同様の判断をすべきであるという異議申立人の主張は当たらない。
5 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立ては、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
小谷寛子、有澤知子、近藤亜矢子、長谷川佳彦
別紙
1 公開対象文書 |
2 非公開が妥当と判断した部分 |
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(1)府教委事情聴取書 |
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事情聴取書 |
全部 |
(2)顛末書 |
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