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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第234号)
〔高校教科書採択関係資料部分公開決定異議申立事案〕(答申日 平成26年7月10日)
第一 審査会の結論
大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)は、本件処分において請求対象文書として特定され、公開しないものと決定された文書(概要メモ)について、全て公開すべきである。
第二 異議申立ての経過
- 平成25年8月31日、異議申立人は、実施機関に対して、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、以下の文書についての行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
大阪府教委の高校教科書採択に関わって- ア 8月21日、府教委が実教を選定した校長を呼び出したときに配布した資料、校長から提出された資料等。
- イ 府教委・知事等に届いた要望書・申し入れ(市民団体、労働組合、政党、議員団からのもの)
- ウ 高校採択が教育長の専決事項であることの法的根拠が分かる資料
- エ 8月30日の教育委員会議の録音テープ(議事録のもとになる音声データ)
- オ 知事からの指示・問い合わせ・連絡等の文書、メールなど
- カ 教育長から指示された文書、教育長からのメール
- キ 教育委員間のメール、教育委員に事前に配布された資料
- 平成25年9月17日、実施機関は、本件請求に係る文書のうち、上記エ及びオについて、不存在による非公開決定を行い、ア、ウ及びカについて、別紙のとおり請求に対応する文書の名称を示した上、公開決定を行い、イ及びキについて、別紙のとおり請求に対応する文書の名称及びそれらのうち非公開とする部分を示した上、一部を公開するとの部分公開決定(以下、この決定を「本件処分」という。)を行い、条例第13条の規定により、非公開の理由を附して、異議申立人へ通知した。
- 平成25年10月12日、異議申立人は、本件処分において、請求に対応する文書として示された「概要メモ」を開示しないものと決定したことについて、「大阪府情報公開条例第1条の趣旨に反する。」として、「概要メモ」の「非公開決定」処分の取り消し及び当該情報の全部公開を求めて、行政不服審査法第6条の規定により、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消し、「概要メモ」の全部公開を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張は概ね以下のとおりである。
1 条例の「精神」と実施機関の情報提供義務
「『知る権利』の保障と個人の尊厳の確保に資するとともに、地方自治の健全な発展に寄与するため」に制定された条例は、周知のようにその前文において、「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。」とし、更に「府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」と、条例制定の「精神」を明示している。特に、「府は、その諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」という部分は、従前の大阪府公文書公開条例(昭和59年大阪府条例第2号、以下「旧条例」という。)にはなく、市民の知る権利(前文)もしくは「行政文書の公開を求める権利」(第1条)の保障を目的とする条例の「精神」をより一層具体化するために追加されたものである。従って、実施機関が、条例の「精神」に沿った情報公開を進めることは、大阪府民に対する責務である。
2 実施機関の主張の不当性
- (1)本件処分で開示しないこととされた「概要メモ」は、実施機関が提出した弁明書にもあるとおり今年度の府立高等学校の教科書採択途中である8月8日に大阪維新の会・府議団と府教委の間で行われた「勉強会」での発言概要のメモである。
8月8日という日は、高校教科書採択の真っ最中である。この「勉強会」で中原教育長は維新の会府議団に実教日本史を「選定」した学校の「選定理由書」を見せ、それを見た議員が「府教委が止められないなら、皆で大挙してその学校に行こうか」と発言したとされている。中原教育長もその発言を受け、「是非、大いに議論してもらってかまわない」と発言している。
これらの事実は、教科書採択の公正確保の観点からも、教育の中立性の観点からも、重大な問題をはらんでいる。秋の大阪府議会でも、8月8日の「勉強会」が政治介入になっていたかどうか、議論にもなった。このように議会でも議論となり、教科書採択の公正性に疑義が生じている以上、「概要メモ」を公表し、堂々と不公正・違法行為がないことを府民に明らかにすべきである。
また、中原教育長は、「勉強会」の直後(8月8日15時32分)に教育委員に「改めて、教科書採択の方法につき、決議をさせていただきたいと思います。」とのメールを送っている。従って、8月8日の「勉強会」は教科書採択方針を改めるきっかけにもなる重要な議論の場であったことが推察される。
教科書採択は、大多数の府民が何らかの関わりのある事柄で、府民の関心も高い。公正な教科書採択を確保するためにも公開されるべきである。しかし、府教委は、弁明書中の「弁明の理由2(2)」で、議員の調査活動の公表について一般論を述べているが、ここで異議申立人が主張しているのは、公正性に疑義が生じている本件についてである。本件に即した非公開決定の理由になっていない。 - (2)「概要メモ」は、教育委員間にメールで流されている。それに基づいて、小河教員委員等は、8月8日のやり取りの一部を8月30日の教育委員会議や秋の府議会の場で明らかにしている。府教委は、弁明書中の「弁明の理由2(3)」で、「概要メモ」は「正確性に欠ける」「発言者の本意が性格に伝わらない」等としているが、すでに「勉強会」の内容は、半ば公になっているのである。
- (3)府教委は、「概要メモ」の非公開理由として「相手方の確認を得ていない」から「関係者の不信感を招く」ことをあげている。もしそうであるとしたら、府教委の参加者の発言内容は公表できるはずである。「概要メモ」の全面非公開に合理的な理由を見出すことはできない。
3 結論
以上のとおり、本件処分は、条例の趣旨を蔑ろにし、条例第1条に明確に反するもので、実実施機関の主張には、何ら正当性がない。従って、実施機関の決定は不当であるとの決定を望むものである。
第五 実施機関の主張要旨
実施機関の主張は概ね以下のとおりである。
1 本件非公開情報(概要メモ)について
本件非公開情報は、平成25年8月8日に大阪維新の会所属の大阪府議会議員の求めに応じて、大阪府教育委員会教育長及び同事務局職員が平成26年度に府立高等学校で使用する教科書の選定について説明した際の発言概要を、当事者の一方である同事務局職員が個人的な備忘録に基づきメモを起こしたものである。
2 本件非公開情報を非公開とした理由(条例第8条第1項第4号該当性)
条例第8条第1項第4号は、「府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当する情報について公開しないことができる旨規定している。
同号の趣旨は、行政が行う事務事業に係る情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがあり、また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがのあるものもある、というものである。
その趣旨に沿って、本件非公開情報を開示しないことと決定した理由について、以下のとおり説明する。
- (1)本件非公開情報である概要メモが記載する場は、府議会の本会議や常任委員会といった正式な場ではなく、会派が議員活動の一環として、非公開を前提にして、実施機関に説明を求めたものであり、多様な議員活動の中で行われる広範な調査研究として実施されたものである。このような場での発言内容を公にすれば、今後、実施機関は、府議会はもとより、あらゆる団体や個人との関係で信用、信頼を失い、非公開を前提とした率直かつ自由な意見交換に基づく調査研究等ができなくなる事態が容易に予測される。
その結果、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - (2)また、大阪府においては、大阪府議会基本条例第3条第2項で、「議員は、府民の多様な意見を府政に適切に反映させるため、広く府域、府政の諸課題についての調査研究を行うこととし、必要に応じて知事等に対し、資料の提出や説明を求めることができるものとする。」と規定している。
仮に説明の場での出席者の発言が全て公開対象になってしまうと、議員の自由な調査研究を妨げ、議員の活動に著しい支障を及ぼすおそれがある。 - (3)さらに、当該行政文書は、出席者が非公開を前提にして、率直かつ自由に発言したものを、実施機関の担当者が個人的な備忘録に基づきメモを起こしたものであり、複数の者がメモしたものを突合して正確性を高めたもの、又は音声データを文字にしたものではなく、正確性に欠けるものである。
このようなメモを公にすれば、その時点での発言者の本意が正確に伝わらないばかりか、その後の社会情勢の変化や新たな判断資料により、発言者の意見が変化したとしても、当該メモの記録が発言者の最終の意見であるかのように、広く府民に伝わることになり、無用の誤解や混乱を生じるおそれがあり、利用方法によっては、発言者の社会的地位を貶めるおそれもある。
以上のとおり、本件非公開情報を公開することにより、府が行う調査研究等の事務の執行に著しい支障を及ぼすおそれがあり、また、議員の自由な活動に支障をきたすおそれがあることから、非公開と判断したものである。
3 異議申立人の主張に対する反論について
異議申立人は、実施機関の決定を、「大阪府情報公開条例第1条の趣旨に反する。」と主張しているが、条例では、府の保有する情報は公開を原則としつつ、一方でこれを公開することにより、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な施行を妨げ、府民全体の利益を害することのないよう、適用除外事項の規定をおいており、本件のようにそれに該当する文書を非公開とすることは条例が予定するところである。
4 結論
以上のとおり、本件決定は、条例に基づき適正に行われたものであり、違法、不当な点はなく、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、条例第8条及び第9条に定める事項に該当する場合を除いて、公開しなければならない。
2 異議申立ての対象とされている情報(本件係争情報)について
本件異議申立ての対象とされている情報は、本件請求の対象となる文書のうち、「教育委員間のメール、教育委員に事前に配布された資料」に該当するものとして実施機関が特定した文書の中の「概要メモ」に記載された情報(以下、「本件係争情報」という。)である。
本件係争情報は、実施機関の説明によると、平成26年度に大阪府立高等学校において使用する教科書の選定等の手続等について、大阪府教育長(以下、「教育長」という。)及び実施機関の事務局(以下、「事務局」という。)の職員が、平成25年8月8日に大阪維新の会所属の大阪府議会議員の求めに応じて説明等を行った場(以下、「勉強会」という。)の発言概要が記載されたものであり、また、当事者の一方である事務局職員が個人的な備忘録に基づきメモとして起こしたものであり、音声データを文字にしたものであったり、複数の者がその内容を突合したものではなく、正確性に欠けるものであるとされている。
3 本件処分に係る具体的な判断及びその理由について
- (1)本件の争点及び条例第8条第1項第4号の趣旨について
本件処分において、実施機関は、条例第8条第1項第4号を理由として、本件係争情報を非公開としている。一方、異議申立人は、本件処分については非公開とすべき具体的な理由がなく、条例第1条に反するものである旨主張している。したがって、本件の争点は、本件係争情報の条例第8条第1項第4号該当性である。
ここで、条例第8条第1項第4号は、は、公開しないことができる旨を定めている。
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが同号の趣旨である。- ア)府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ)公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
- (2)条例第8条第1項第4号該当性について
当審査会において、本件係争情報が上記(1)のア)及びイ)の要件に該当するか否かについて検討したところ、以下のとおりである。
まず、実施機関は、前記「第五 実施機関の主張要旨」の2(1)及び(2)に記載されているとおり、本件係争情報を公にすることにより生じる支障について主張している。
これらの説明を踏まえ、本件係争情報に記載される内容について、当審査会で見分したところ、概ね、大阪府立高等学校において使用する教科書の採択について、府議会の特定会派に所属する議員が、教育長を含む事務局に対して行った要望についての記載であることが確認された。
本件係争情報に記載されている内容は、府議会会派に所属する議員が教育長及び事務局に対して行った要望行為に関するものが大部分であるから、例えば、個々の議員が府議会において質問を行うために実施機関から事務事業の内容について予め説明を受ける場合のような、条例第8条第1項第4号が、通常、想定する調査研究とはその性格を異にするものであると言わざるを得ず、したがって、本件係争情報が上記(1)ア)の要件を明らかに満たすものであるとまではいえない。
また、仮に、本件係争情報が(1)ア)の要件を満たすものであるとしても、それに記載された質疑は、事務局の責任者である教育長や複数の議員が出席及び発言していることに鑑みれば、通常、府議会等の公の場で行われるものと趣旨を同じくするものと考えられることから、それを公にすることで、事務の執行に著しい支障を及ぼすものであるとは考えられず、(1)イ)の要件を満たすものとはいえない。
なお、実施機関は、本件係争情報に記載された内容の不正確性について言及し、それを公にすることにより生じる支障について、別途、前記「第五 実施機関の主張要旨」の2(3)に記載されているとおり主張している。
本件係争情報については、細部の表現の解釈によっては、勉強会での発言内容の微妙な意味合いが正確に理解されない可能性があると思われる部分が一部に見受けられることから、このような実施機関の主張については、全く理解できないものではない。
しかしながら、本件処分では、本件係争情報について、各教育委員にすでに配付されるなど実施機関内部で組織共用され、実施機関が現に管理する行政文書として特定がなされているものであるから、単に、正確性に欠けるという理由でもって、これを非公開とすべきと判断することはできない。
一方、当該勉強会に出席し、主に発言を行った府議会議員及び教育長の社会的地位等に鑑みれば、本件係争情報が公になることで一時的に誤解等が生じるおそれがあるとしても、後日、それに対する反論や弁明を行う機会は、ある程度、担保されているものであると考えられ、実施機関が危惧するような誤解が生じ、又は発言者が不当な不利益を被る蓋然性が高いとはいえない。
現に、昨年9月の府議会においても、当該勉強会での教育長の発言内容についての質疑が行われ、その発言の具体的な意図が説明されたところである。
なお、本件係争情報に記載された勉強会出席者の個々の発言に関する記載の中に、条例第9条第1号の個人情報に該当するものが含まれていないかどうかについても、念のため、審査を行ったが、かかる記載は確認されなかった。
以上のとおりであるから、本件係争情報については、(1)ア)イ)のいずれの要件にも該当せず、公開すべきものであると判断する。
なお、本件係争情報の冒頭部分に、勉強会が開催された日時、場所、出席者及び対応者に関する記載があるが、かかる庶務的事項については、条例第8条第1項第4号の該当性を検討する余地もなく、これを公開しないものとした実施機関の判断は妥当ではなかったことを、念のため申し添えるものである。
4 結論
以上のとおり、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
野呂充、松本哲治、小谷寛子、久末弥生、三成美保