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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第240号)
都市整備部発注工事の金入設計書部分公開決定審査請求事案
(答申日 平成26年9月30日)
第一 審査会の結論
諮問実施機関(大阪府知事)の判断は妥当である。
第二 審査請求に至る経過
- 平成25年11月18日、審査請求人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により、大阪府知事(以下「諮問実施機関」という。)に対し、「平成24年度寝屋川流域下水道 大東門真増補幹線(4工区)下水道管渠築造工事金入設計書(表紙・積算書・単価表・代価表・機械運転代価表)」の行政文書公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
※「金入設計書」とは、土木工事を入札に付して発注する場合に、その工事目的物を完成させるために必要な価格の総額(予定価格算出の根拠となる設計金額)を計算した根拠資料を指す。 - 同月20日、諮問実施機関から「府土木事務所長等の職にある職員に権限を委任する規則」第11条第2号により権限を委任された大阪府東部流域下水道事務所長(以下「実施機関」という。)は、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書を特定の上、非公開決定(以下「本件非公開決定」という。)を行い、(2)のとおり公開しない理由を付して審査請求人に通知した。
- (1)行政文書の名称
平成24年度寝屋川流域下水道 大東門真増補幹線(第4工区)下水管渠築造工事 金入設計書(表紙・積算書・単価表・代価表・機械運転代価表) - (2)公開しない理由
大阪府情報公開条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書は、大阪府が行う入札の予定価格算出に用いる単価等の設計積算に関する情報であり、これを公開する事で、技術的根拠に基づかず安易に入札の予定価格等について類推設定することが可能となる。
大阪府の入札では、現在、予定価格等を類推設定して応札することを防ぎ、適正な競争性や工事品質の確保、不良不適格業者の排除等を目的として、予定価格等の事後公表を実施しているが、この情報の公開は予定価格等の事後公表の趣旨と相反することとなり、入札の公正かつ適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため。
- (1)行政文書の名称
- 同年12月3日、審査請求人は、本件非公開決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により、実施機関の上級庁にあたる諮問実施機関に対し審査請求を行った。
- 平成26年1月14日、実施機関は、本件非公開決定が誤りであったため、同決定を取り消すとともに、新たに、条例第13条第1項の規定により、本件請求に対応する行政文書として(1)の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定の上、(2)の部分を除いて公開するとの部分公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、(3)のとおり公開しない理由を付して審査請求人に通知した。
- (1)行政文書の名称
平成24年度寝屋川流域下水道 大東門真増補幹線(第4工区)下水管渠築造工事
金入設計書(表紙及び1式計上の内訳書まで)及び金抜設計書 - (2)公開しないことと決定した部分(以下「本件非公開部分」という。)
金入設計書(1式計上の内訳書以降及び代価表・単価表)
※「金入設計書(1式計上の内訳書以降及び代価表・単価表)」とは、- ア 積算における条件
- イ 共通仮設費(率分)、現場管理費、一般管理費の対象額及び率
- ウ 内訳書及び代価表における数量、単価、金額
- エ 代価表のうち任意仮設工種にかかる代価表
- (3)公開しない理由
条例第8条第1項第4号に該当する。
本件行政文書の非公開部分は、大阪府が行う入札の予定価格算出に用いる単価等の設計積算に関する情報であり、これを公開する事で、技術的根拠に基づかず安易に入札の予定価格等について類推設定することが可能となる。
大阪府の入札では、現在、予定価格等を類推設定して応札することを防ぎ、適正な競争性や工事品質の確保、不良不適格業者の排除等を目的として、予定価格等の事後公表を実施しているが、この情報の公開は予定価格等の事後公表の趣旨と相反することとなり、入札の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため。
- (1)行政文書の名称
- 平成26年1月30日、審査請求人は、本件決定を不服として、行政不服審査法第5条の規定により、諮問実施機関に対し審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。
第三 審査請求の趣旨
非公開とした部分を取り消すとの裁決を求める。
第四 審査請求人の主張要旨
審査請求人の主張は、概ね次のとおりである。
1 審査請求書における主張
処分庁がおこなった本件処分は、憲法、情報公開法の運用解釈を誤ったものであると考えられるため、審査請求をおこなった。
2 意見書における主張
- (1)実施機関の処分決定理由に「予定価格等を類推設定して、応札することを防ぎ、適正な競争性や工事の品質の確保、不良不適格業者の排除を目的として、予定価格等の事後公表を実施しているが、この情報の公開は予定価格等の事後公表の趣旨と相反することとなり、入札の公正かつ適正な執行に著しく支障を及ぼすおそれがあるため。」と不開示決定がなされているが、納税者に対しての説明責任を果たしていないと考えられる。
- (2)諮問実施機関が危惧している不良不適格業者が公共工事に参入することは、諮問実施機関が競争参加資格を厳格に設定しチェックをすれば、不良不適格業者は入札に参加できないのではないか。国土交通省などのように、配置予定技術者の同種工事の実績や、同種工事の施工成績などを競争参加資格で設けて審査すれば事前に線引きをすることは可能であると考えられる。諮問実施機関は不開示を前提に公開努力を怠っていると考えられる。また、入札の公正かつ適正な執行を確認する為には、設計書の内容を確認しなければ分かるはずがない。これは当然納税者の権利であると考えられる。
- (3)また内閣府、国土交通省、農林水産省、防衛省、独立行政法人鉄道建設、運輸施設整備支援機構、その他自治体は同様に開示請求をおこなった際に全開示しており、適正に公共工事を執行しているように考えられる。落札価格も高騰しているとも考えられない。
- (4)以上の様に実施機関が行った不開示決定は、情報公開法の運用を誤ったものと考えられる。
第五 諮問実施機関の主張要旨
諮問実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
1 公開しないこととした情報について
本件行政文書は、土木工事を入札に付して発注する場合に、その工事目的物を完成させるために必要な価格の総額(予定価格算出の根拠となる設計金額)を計算した根拠資料である。またその内容は、設計金額が記載されている表紙、総括情報表、内訳書、代価表で構成されている。
本件行政文書のうち、公開に一定の制限を加えたものとしては、代価表、内訳書の一部であり、代価表は、工事における個々の作業の単位当たりの金額を表し、内訳書は代価表をまとめたものであり、内訳書の中でも個々の単位当たりの金額を示している部分もある。
工種毎の作業日数や仮設物の所要量等、本来、入札参加者各々が施工計画、工程を検討のうえ算定すべき要素は入札公告で交付する設計図書等においても公表していない。ここでいう、設計図書とは建設工事請負契約書第1条に定めるものであり、図面、仕様書、金額を記載しない設計書、補足説明書及び質問回答書をいい、入札公告時の交付書類のひとつである。
本件行政文書の具体的な内容は、下水管としてシールド工法により直径4.5mの管渠を設置するとともに、マンホール等の設置を行う工事であり、各工種に必要な資材費、労務費及び機械経費等を積上げ、当該工事に必要な価格を計算したものである。
非公開とした部分は各工種を構成する細別の単価(管渠工であればその内訳となる材料費、機械器具損料等の単価)及びさらに細別を構成する代価表(管渠工であれば機械運転工の日数、労務人数等とその単価)であり、これらは、「建設工事積算基準」(以下「積算基準」という。)に基づき積算しており、この積算基準は大阪府府政情報センターにおいて公表しており、入札参加者はこれを用いることで積算可能である。また、積算基準に定められていない工種については、設計図書等の一部である特記仕様書において、当該工事で求める性能や規格を明記しており積算は可能である。
2 予定価格、最低制限価格、低入札価格調査基準価格及び失格基準価格について
予定価格とは、公共工事の発注者が競争入札を行う際に、その落札価格を決定するための基準となるものであり、仕様書、設計書等により積算して、作成するように定められている(予算決算及び会計令(以下「予決令」という。)第79条、地方自治法第234条)。
公共工事において作成される予定価格は、競争入札に付される工事の仕様書、設計書等に基づき、各工種の細部まで厳密に積算された設計金額に基づき作成される。
予定価格の前提となる設計金額は、まず、契約の目的である公共工事の施工上必要な労働者、建設資材等の取引の実例価格、需給の状況、数量の多寡、履行の難易、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。
また、「予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。」(予決令第80条第2項)と定められており、具体的な設計金額の算出は、工事に要する作業手間並びに作業日数を数値化したもの(歩掛り)に対応する職種の労務単価、材料費、機械損料等を乗じ、それに諸経費等を加えて行う。これらは、積算基準として一般に公表されており、これにより、入札参加者がある程度まで予定価格を類推できるようになっている。
最低制限価格とは、地方自治体が入札の実施にあたって設定することのできる落札額の下限値であり、最低制限価格を下回った応札者は失格となる(地方自治法施行令第167条の10第2項)。
低入札価格調査基準価格及び失格基準価格とは、地方自治法施行令第167条の10第1項の規定に基づき、工事又は製造その他についての請負の契約の入札において、あらかじめ設定した調査基準価格を下回る価格をもって入札した者があった場合、すぐに落札者を決定せず、低入札価格の調査を行ったうえで、当該契約の内容に適合した履行がなされるかどうかを決定する制度において、調査を行う基準価格を低入札価格調査基準価格といい、失格を判定する価格を失格基準価格という。
大阪府の最低制限価格・低入札価格調査基準価格及び失格基準価格の設定方法は、予定価格の積算に対して一定の率を乗じて算出することとしており、その算出方法は一般に公開しているため、一般の入札参加者であっても、最低制限価格、低入札価格調査基準価格及び失格基準価格も推定可能となっている。
3 予定価格等の事後公表について
大阪府では、平成13年度以降、事前公表(入札の実施を一般に周知する入札公告の時点で、あらかじめ予定価格、最低制限価格、低入札価格調査基準価格及び失格基準価格を公表すること。以下同じ)としていたが、大阪府の公共工事の発注量の減少に伴い、請負業者間の競争が激化し、入札に参加した請負業者の大半が最低制限価格、低入札価格調査基準価格又は失格基準価格(以下「最低制限価格等」という。)と同額で応札する状況が常態化するようになった。
本来、入札においては、入札参加者は自社の有する人員・機材・材料・技術等をもとに、受注した場合に必要と考える費用や利益を見込んだ実行予算を積算し、その上で応札価格を定めるべきものである。
しかし、最低制限価格等と同額で応札する業者の中には、まったく積算を行わず、単に公表されている最低制限価格等をそのまま応札する業者もあり、このような業者が落札した場合には、契約の実施にあたって公共事業の品質の確保など、通常よりも多大な負担を伴う。
また、入札の趣旨に即し実行予算を積算して応札した業者は、応札額が最低制限価格等と同額程度にならない限り事実上落札できず、最低制限価格等と同額となったとしても、積算せずに単に公表された最低制限価格等をそのまま応札した業者と同列に並んで抽選を行って落札者を決定することとなるため、入札の公正性や入札本来の意義が失われるおそれがあるばかりでなく、業者の適正な積算意欲を失わせ、契約実施能力の低下を招き、結果として公共事業の品質を損なうおそれがある。
そこで、大阪府では、電子入札案件において、平成21年12月より、一部の発注案件において事前公表ではなく、事後公表(予定価格及び最低制限価格等は入札公告の時点では公表せず、開札後に予定価格を公表し、落札候補者が確定した時点で最低制限価格等を公表すること。以下同じ)の試行を実施し、順次、対象となる入札案件の範囲を拡大し、平成25年4月1日から全ての案件において事後公表とした。
4 設計図書の単価等の非公表について
事後公表の試行を実施したものの、先行して予定価格等を事後公表した案件であっても、相変わらず最低制限価格付近に応札額が集中する状況となっていた。
2で述べたとおり、一般に公表されている積算基準等のみであっても、ある程度予定価格の類推は可能であるが、この積算基準等に加えて、行政文書公開請求により積算基準に記載のない大阪府の見積単価等を入手することで、府の予定価格等をきわめて正確に推定することが可能となっており、これが原因と考えられた。
実際、設計単価に関する行政文書公開請求は、事前公表のみの時にはほとんどなかったものが、事後公表の試行開始後から増大していることからも裏付けられる。
もちろん、全ての業者が行政文書公開請求を行っているわけではないが、行政文書を入手した業者から、見積単価等の情報が積算用コンピュータソフトウェアに組み込まれるなどの形で拡散し、実質的に事後公表の趣旨を損なう状況となっていることが推定できた。
加えて、大阪府の入札においては、不適格業者の排除、不正行為の防止の観点から入札参加者に対して、入札額の根拠となる工事費内訳書の提出を求めているが、金入設計書を全部公開することにより、設計における単価が明らかになると、業者自ら積算せず、公開された単価に数量を乗じて工事費を算出することが可能となり、不適格業者や不正行為の判定ができなくなり、入札制度の運用にも支障をきたすこととなる。
事後公表の試行範囲について、平成23年11月21日以降からほぼすべての入札案件を対象に拡大することとしていたが、新たに事後公表となる工事案件が増加し、行政文書公開請求によりさらに、単価等の情報が拡散し、事後公表の趣旨が損なわれる状況が拡大することが予想された。このため、平成23年11月21日の予定価格等の事後公表の試行範囲の拡大に合わせて、1に述べた範囲の情報については公開しないこととしたものである。(表1参照)
(表1)予定価格、最低制限価格等の事後公表の推移【電子入札案件】(都市整備部)
時期 |
項目 |
対象案件 |
---|---|---|
H22.11~ |
【予定価格】 |
土木一式工事(工事金額1億8千万円以上) |
【最低制限価格等】 |
全工種、全案件 |
|
H23.6~ |
【予定価格】 |
全工種、ただし、 土木一式工事(工事金額1億8千万円以上) 建築工事(工事金額3億5千万円以上) 電気工事(工事金額1億円以上) 管工事(工事金額1億円以上) |
H23.11~ |
【予定価格】 |
全工種、ただし、 土木一式工事(工事金額2千万円以上) 建築工事(工事金額1億8千万円以上) 電気工事(工事金額5千万円以上) 管工事(工事金額5千万円以上) |
H24.10~ |
【予定価格】 |
全工種、ただし、 土木一式工事(工事金額2千万円以上) 建築工事(工事金額5千万円以上) 電気工事(工事金額2千万円以上) 管工事(工事金額2千万円以上) |
H25.4~ |
【予定価格】 |
全工種、全案件 |
5 本件の適法性について
(1)条例第8条第1項第4号に該当することについて
- ア 条例第8条第1項第4号について
条例第8条第1項第4号は、府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、公にすることにより、当該若しくは同種の事務の達成ができなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならないと規定している。 - イ 上記アの要件について
本件行政文書(非公開部分)は、府の機関が行う入札の予定価格算出に用いる単価等の設計積算に関する情報であり、これを公開すると、府の機関が行う入札の予定価格等について、相当正確な水準で容易に把握することができるものである。
大阪府の入札では、現在、予定価格等を類推して応札することを防ぎ、適正な競争性や工事品質の確保、不良不適格業者の排除等を目的として、予定価格等の事後公表を実施しているが、これらの情報の公開は事後公表の趣旨と相反することとなり、これらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
また、予定価格等の事後公表を順次拡大し、積算情報等を非公表とした結果、くじ落札(同額での入札により、くじ引きにより落札者を決定した落札)の発生率は平成22年度において46.82%あったものが、平成23年度では24.95%、平成24年度では12.59%、平成25年度においては12.15%と減少してきており、入札者が個別に積算を行った場合、発生頻度が低いはずの同額での入札が減少していることから、事後公表と積算情報等の非公開は一定の効果があることがわかる。(表2参照)
したがって、上記の情報は、上記アの要件に該当すると言える。
(表2)くじ落札の推移【建設工事・電子入札案件】(都市整備部)
|
発注件数 |
くじ落札数 |
割合 |
---|---|---|---|
平成22年度 |
991件 |
464件 |
46.82% |
平成23年度 |
914件 |
228件 |
24.95% |
平成24年度 |
882件 |
111件 |
12.59% |
平成25年度 |
930件 |
113件 |
12.15% |
6 審査請求人の主張について
審査請求人は、処分庁が行った本件処分は、憲法、情報公開法の運用解釈を誤ったものであると考えられるとの主張をしている。
しかしながら、前述のとおり、適正な競争環境の確保、不良不適格業者の排除を目的とし事後公表の試行範囲を拡大しているにもかかわらず、見積単価等の情報をすべて開示してしまうと、事後公表制度の趣旨を損なっていたことから、平成23年11月21日にほぼすべての入札案件で予定価格等が事後公表とするのに合わせて、公開範囲に制限を加え部分公開としたものであり、本件処分の理由は明白である。
また、審査請求人は意見書において、不良不適格業者の排除は、入札参加資格を厳格に設定しチェックすれば可能であり、不開示を前提に公開努力を怠っていると主張している。
これについても、いくら入札参加資格を厳しくしても、施工実績や工事成績点だけでは不良不適格業者の判定は難しく、自ら積算を行わない業者が容易に落札してしまうと、品質の確保、安全対策等、適切な工事の施工が行われないおそれが生じ、大阪府の業務に著しく影響を及ぼす。
さらに、審査請求人は、国や他の自治体では開示請求を行った場合、全開示していると主張しているが、全開示を行っていない自治体は多数あり、事実誤認であるといえる。
7 結論
以上のとおり、本件処分は、条例の規定に基づき適正に行われたものであり、適法かつ妥当なものである。
第六 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、その前文及び第1条にあるように、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府民の府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、一方では公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 本件行政文書について
本件行政文書は、実施機関が「平成24年度寝屋川流域下水道 大東門真増補幹線(第4工区)下水管渠築造工事」を入札に付して発注するのに際し、その工事目的物を完成させるために必要な価格の総額(予定価格算出の根拠となる設計金額)を計算した積算資料である。また、その内容は、表紙、積算書、単価表、代価表及び機械運転代価表で構成されている。
当該工事の具体的な内容は、下水管としてシールド工法により直径4.5mの管渠を設置するとともに、マンホール等の設置を行うものである。
本件非公開部分は、各工種を構成する細別の「単価」(例えば管渠工であればその内訳となる材料費、機械器具損料等の単価)及びさらに細別を構成する代価表(管渠工であれば機械運転工の日数、労務人数等とその単価)に記載された「数量」、「単価」、「金額」、「積算条件」等である。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
諮問実施機関は本件非公開部分は、条例第8条第1項第4号に該当すると主張しているので、以下検討する。
(1)条例第8条第1項第4号について
行政が行う事務事業に関する情報の中には、当該事務事業の性質、目的等からみて、執行前あるいは執行過程で公開することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又はその公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼし、ひいては、府民全体の利益を損なうおそれがあるものがある。また、反復継続的な事務事業に関する情報の中には、当該事務事業実施後であっても、これを公開することにより同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものもある。
このような支障を防止するため、これらの情報は公開しないことができるとするのが本号の趣旨である。
同号は、
- ア 府の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、許可、認可、試験、入札、契約、交渉、渉外、争訟、調査研究、人事管理、企業経営等の事務に関する情報であって、
- イ 公にすることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの
は、公開しないことができる旨を定めている。
(2)条例第8条第1項第4号該当性について
本件行政文書は、入札により発注された土木工事の資料であり、入札事務に関する情報であることから、(1)アの要件に該当する。
次に、本件行政文書の非公開部分に記録されている情報が(1)イの要件に該当するかどうか検討する。
- ア 諮問実施機関へ事務支障について具体的な説明を求めたところ、次のとおりであった。
本来、入札参加業者は自らの技術力等を踏まえ自社で積算した価格で応札すべきところであるが、現実には積算能力のない事業者が自ら積算を行わず、これまで公表されてきた予定価格等を利用して、最低制限価格を容易に類推して入札に参加していると考えられるケースが多数みられる。審査請求人は、競争参加資格を厳格に設定しチェックすれば、不良不適格業者は入札に参加できないのではないかと主張するが、その判定は困難であることから、都市整備部ではこのような不適切な入札が継続されるのを回避するため、金入設計書に係る情報公開の範囲の制限など、入札事務の改善に向けた取組みを続けている。その結果、都市整備部発注工事の入札に関しては、応札額が最低制限価格に集中する件数が減り、くじ入札が減少し、競争性の確保に一定の効果が現れたと認められた。
また、平成25年3月28日、答申「都市整備部発注工事の金入設計書部分公開決定審査請求事案」(大公審答申第225号)において、当審査会から金入設計書について「知る権利の観点から、実施機関に対し、公開の基準のすみやかな作成を求める」などの意見が示されたことを受け、公開基準の作成に向けた検討を行ってきた。積算単価や歩掛等は調査等により順次改正され、3年が経過すれば概ね変わるという実態を踏まえ、最低制限価格等が類推されるおそれがなくなれば直ちに公開できるよう、平成26年4月1日以降に金入設計書(積算書)の情報公開請求を受付した案件については、完成後3年を経過したものは、原則全部公開とするなどの公開基準の改定を平成26年3月28日付で行ったところである。
本件工事は、請求時点において施工中(平成29年11月28日完成予定)であり、完成後3年を経過していない。 - イ 上記のような諮問実施機関の説明を踏まえると、当審査会としては、適切な入札の実施を求める諮問実施機関の主張とその取組みについて一定の理解はできるものの、一方で、本件行政文書は、積算価格と落札価格が適正であるかどうかを検証する上で、あるいは実施機関、諮問実施機関等が府民に対する説明責任を果たす上で重要な情報であると考える。
この点について、諮問実施機関は、審査請求人が主張する説明責任等の重要性は認識した上で、本件行政文書を公開しても今後実施する入札において支障を及ぼすおそれがなくなれば直ちに公開するよう、これまで取り組んできた公開範囲の制限の効果も踏まえ、公開基準の改定を平成26年3月28日付で行ったとのことである。その中の、完成後3年を経過したものは、原則全部公開とするなどの公開基準の改定については、積算単価や歩掛等は3年が経過すれば概ね変わるという実態があるとする諮問実施機関の説明から一定の合理性が認められることから、現在施工中である本件工事については、本件非公開部分を公開すると入札の適切な執行に著しい支障が生じるおそれがあると認められる。よって、本件行政文書の非公開部分に記録されている情報は、(1)イの要件に該当する。 - ウ 当審査会は、府民の知る権利の観点から、諮問実施機関等に対し、引き続き、改定後の公開基準に基づく情報公開請求に対する決定と入札の適正執行との因果関係が明らかとなる詳細な分析・検証を行うことを求めるとともに、同基準において全部公開の基準とされている3年の妥当性について詳細な分析・検証を行うこと、これらを踏まえ、適宜、公開基準の改定の検討を行う必要があることを申し添える。
4 結論
以上のとおりであるから、本件審査請求は理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
鈴木秀美、北村和生、小原正敏、細見三英子