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大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第242号)
教育委員会会議速記録等不存在非公開決定異議申立事案
(答申日 平成27年3月25日)
第一 審査会の結論
実施機関(大阪府教育委員会)の決定は妥当である。
第二 異議申立ての経過
- 平成26年6月1日付けで、異議申立人は、大阪府情報公開条例(以下「条例」という。)第6条の規定により大阪府教育委員会(以下「実施機関」という。)に対して、「(1)2014年3月25日大阪府教育委員会議の議事録全文及び速記録 ※大阪府教育委員会ウェブサイトに公開されている『平成26年度3月委員会会議会議録』は、各委員及び事務局からの発言内容がかなり削除されており、議題によってはすべて削除されており、およそ議事録の体をなしていないため、議事録全文及び速記録の公開を求める。(2)2014年4月3日に実施された大阪府立学校校長会での中原徹教育長の訓辞内容の全文」の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
- 平成26年6月13日付けで、実施機関は、本件請求のうち上記1(1)記載の「2014年3月25日大阪府教育委員会議の議事録全文」に対応する行政文書として、「平成26年3月委員会会議会議録」を特定し、また上記1(2)に対応する行政文書として「平成26年度当初府立学校長会 教育長あいさつ」を特定して、ともに条例第13条第1項の規定により、その全部を公開する旨の公開決定を行い、異議申立人に通知した。同日付けで、実施機関は、本件請求のうち上記1(1)記載の「2014年3月25日大阪府教育委員会議の速記録」について、「速記録については、組織的に用いるものとして管理していない。」との理由を付して、条例第13条第2項の規定により不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)を行い、異議申立人に通知した。
- 異議申立人は、平成26年7月1日、本件決定を不服として、行政不服審査法第6条の規定により、実施機関に対し異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第三 異議申立ての趣旨
本件決定について、「速記録については、組織的に用いるものとしては管理していない。」との理由で、「不存在による非公開」とした決定を取り消す、との決定を求める。
第四 異議申立人の主張要旨
1 異議申立書における主張
異議申立人の主張は、次のとおりである。
本件決定は、条例第13条第2項を適用して、「公開請求に係る行政文書を管理していない」として非公開理由としているが、異議申立てにかかる処分は、次の点が違法不当である。
異議申立人は、2014年3月25日に行われた大阪府教育委員会会議(以下大阪府教育委員会会議を「委員会会議」といい、2014年3月25日に行われた委員会会議を「3.25会議」という。)を傍聴し、議題6「入学式及び卒業式等における国歌斉唱時の対応について」の事務局報告及び委員の発言において、中原徹教育長(以下「中原教育長」という。)、陰山英男委員長(以下「陰山委員長」という。)及び府教育委員会事務局(以下「事務局」という。)より、同年4月3日に中原教育長が府立学校校長会において行った「年度当初教育長あいさつ」と同主旨の内容の報告及び発言を行ったことを承知している。したがって、4月3日の教育長あいさつは、教育長個人の思い等を語ったものではなく、委員会会議において確認し承認されたものである。
しかし、3.25会議議事録では、議題6に関する委員やり取りが現にあったにもかかわらず、この部分の議事録は「簡略化」の範疇に入らない「空白」となっている。
異議申立人は、4月3日の「教育長あいさつ」が、3.25会議の承認に基づく指示であることを確認する必要から、情報公開請求を行ったが、行政文書に基づいてその確認を行うことができない。
平成26年6月13日付け教委総第1646号「公開決定通知書」により公開が実施された3.25会議の議事録全文及び「2014年4月3日大阪府立学校校長会での中原教育長訓示内容の全文」の交付を受ける際、事務局教育総務企画課(以下「教委総務企画課」という。)担当者は、「速記録(担当職員によるメモを含む)」の存在を認めている。
委員会会議の審議内容にかかわる担当職員メモは、職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的なメモで組織的な検討に付されない性格のものではない。たとえそれが、職員個人の判断で作成されたものであったとしても、所管の組織において、議事録作成のために、複数の職員による検討に付された記録であって、所管の機関が業務上必要なものとして利用または保存されるべきものである。
現状のままでは、公開された3.25会議の「議題6」の審議そのものが「不存在」となり、府民に審議内容を隠す行為となる。「大阪府情報公開条例」の前文「情報の公開は、府民の府政への信頼を確保し、生活の向上をめざす基礎的な条件であり、民主主義の活性化のために不可欠なものである。府が保有する情報は、本来は府民のものであり、これを共有することにより、府民の生活と人権を守り、豊かな地域社会の形成に役立てるべきものであって、府はその諸活動を府民に説明する責務が全うされるようにすることを求められている。」の趣旨に則り、本件決定を取り消し、情報の全部を公開すべきである。
2 反論書における主張
異議申立人の主張は、次のとおりである。
(1)「個人メモ」の扱いに関する実施機関の弁明の不当性
- ア 実施機関は、条例第2条において、「『行政文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものをいう。」という規定を根拠に、委員会会議に同席した職員による議事録作成のためのメモは組織としての共用文書の実質を備えた状態にはなく、「行政文書」には該当しないと主張している。
また、「『組織的に用いる』とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関の組織において、業務上必要なものとして、利用または保管されている状態のものを意味する。従って、職員が単独で作成した文書であって、専ら自己の職務の遂行の便宜のためにのみ利用し、組織としての利用を予定していないもの(備忘録等)や職員の個人的な検討段階にとどまるもの(決裁文書の起案前の職員の検討段階の文書等)は組織的に用いるものには該当しない。会議録の素案を作成する職員が記した個人メモは、職員個人の段階のもので未だ組織的な検討に付されておらず、組織としての共用文書の実質を備えた状態になっていないので、条例第2条に規定する行政文書には該当しない。」と弁明している。
しかし、以下に確認するとおり、委員会会議に同席した職員による議事録作成のためのメモは組織としての共用文書の実質を備えており、「行政文書」に該当する。 - イ 例えば、「大阪府情報公開審査会答申(大公審答申第194号)〔教職員評価・育成システム苦情審査会情報不存在非公開決定異議申立事案〕(答申日 平成22年9月22日)は次のように指摘している。
「『職務上』とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。『実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの』とは、作成又は取得に関与した職員個人のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
したがって、職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的なメモで未だ組織的な検討に付されていないものなど専ら当該職員のみが利用するに過ぎないものはこれに該当しないが、職員が個人の判断で作成したものであっても、所管の組織において、複数の職員による検討に付され、その結果、これらの者が共用するに至ったもの、当該職員が関与した会議又は応接等の事務の記録であって、必要に応じて他の職員が利用することとなるものなど、実施機関の組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているものは、『実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの』に該当すると解すべきである(答申第194号第六の3)」 - ウ 実施機関による弁明のとおり、「会議録作成にあたっては、まず委員会会議に同席した職員が個人のノートに記した備忘のためのメモと記憶に基づいて素案を作成する。この際、事務局が議事等について説明する発言については、別途、会議資料があるため記載していない。その素案を同じく委員会会議に同席した他の職員が加筆修正し、教育委員が個別に確認したうえで、会議録案を作成している。」という手順にしたがって委員会議議事録が作成されているとすれば、次のような流れになる。
- (1)職員が委員会会議に同席して議事録素案を作成するためのメモを作成する。
- (2)素案作成の役割分担を受けた職員が同メモ及び記憶に基づいて素案を作成する。
- (3)同素案を委員会会議に同席した職員が加筆修正する。
- (4)加筆修正された事務局案を教育委員が個別に確認し「会議録案」が作成される。
したがって、「職員メモ」は、「職員が単独で作成した文書であって、専ら自己の職務の遂行の便宜のためにのみ利用し、組織としての利用を予定していないもの(備忘録等)や職員の個人的な検討段階にとどまるもの(決裁文書の起案前の職員の検討段階の文書等)」に該当すると主張する実施機関の弁明は、失当である。
(2)弁明書「異議申立人の主張について」への反論
- ア 実施機関は、委員会会議を公開で開催し、大阪府教育委員会会議規則(以下「規則」という。)第5条に基づき会議録を作成し公開しているところである。このように委員会会議の情報は、府民と共有しているため、条例前文の趣旨にも即している、と主張しているが、委員会会議は各回10名の抽選による傍聴が認められているに過ぎず、ネット中継や画像・音声の公開・保存もされていないことから、府民がその内容を広く知ることができるのは、委員会承認後の「会議録」以外にはなく、委員会の公開と「会議録」による情報の公開が十分になされなければならない。
- イ 会議録に議題6に関する委員やり取りが記載されていないことについて、実施機関は、「出席者の記憶によれば、議題6では、委員からの質問や意見は無くそれを確認した委員長がそのまま採決をとったものであり、異議申立人の記憶間違いである。」と主張するが、このような「水掛け論」になること自体が問題であり、「職員メモ」の公開により事実確認されるべきである。また、委員長が採決を行う際に議事進行のため以外の提案内容に関する発言を行い、教育長も補足しているはずであるが、委員長と教育長も教育委員であり、議事進行以外の発言があれば、その内容は会議録に記載されるべきである。これらの発言についても、「出席者の記憶(職員)」により、あったかなかったかの判断が行われることになる。
(3)結論
以上のとおり、3.25会議の議事録全文及び速記録の「速記録」に係わる「速記録については、組織的に用いるものとしては管理していない。」との理由でなされた本件決定は不当かつ違法であり、「不存在による非公開」とした決定は取り消されるべきである。
3 異議申立人の口頭意見陳述における主張要旨
異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。
- (1)入学式及び卒業式における国歌斉唱時の起立と斉唱にかかる報告の方法について、平成25年9月4日に出された教育長通知(以下「25.9.4教育長通知」という。)では、教職員の起立と斉唱をそれぞれ、目視により行う等と記載されており、その通知の内容が「口元チェック」問題として社会的に問題となった。この通知の撤回を求める署名が8,000以上集まり、我々はこの署名を平成26年1月に実施機関に提出したところである。これらの社会的な反響も踏まえた結果、3.25会議の議題6によって、起立と斉唱にかかる報告の在り方について方針撤回されたものと考えるが、このようになった経緯が全く分からない。
- (2)同年4月3日に校長会の場で教育長が、違反があった場合のみ報告することとし、各校長の裁量に委ねる旨発言したが、この教育長の発言に沿って職員への指示内容を変えた校長が訓戒処分を受けた、この処分についても解明するため、上記(1)の経緯を解明したい。
- (3)同年10月29日の委員会会議の会議録を見ると、内容が詳細であって、メモや録音がなければ作成できないと考えられる。3.25会議についても、メモや録音が存在するのではないか。
- (4)公開されず、議事録が作成されない「意見交換会」の場で、議題6について実質的議論がなされたのではないか。
- (5)以上のとおり、公開された3.25会議で議論された委員会会議の会議録の内容では審議内容が分からないし、委員会会議の会議録作成のため作られた「職員メモ」は行政文書であるから公開されるべきである。また、委員会会議の会議録自体の作成の在り方を見直してほしい。
第五 実施機関の主張要旨
1 弁明書における主張
実施機関の主張は、次のとおりである。
(1)委員会会議の会議録作成について
実施機関では、委員会会議の会議録を次のとおり作成している。
- ア 会議録の作成根拠について
委員会会議の会議録は、規則第5条に基づき、規則第6条で規定される会議録の記載事項(一 開会及び閉会の年月日時、二 会議に出席した者の職及び氏名、三 教育長の報告の要旨、四 議題及び議事の要旨、五 議決事項、六 その他委員長が必要と認めた事項)を備えたものを作成することとしている。 - イ 会議録の作成手順について
会議録作成に当たっては、まず委員会会議に同席した職員が個人のノートに記した備忘のためのメモ(以下「第五 実施機関の主張要旨」において「個人メモ」という。)と記憶に基づいて素案を作成する。この際、実施機関の事務局が議事等について説明する発言については、別途、会議資料があるため記載していない。その素案を同じく委員会会議に同席した他の職員が加筆修正し、教育委員が個別に確認したうえで、会議録案を作成している。なお、この会議録案の作成作業においては、マイクロソフトワードファイルを上書きしているため、途中段階の素案は残っていない。その後、次の委員会会議に会議録案を諮り、承認を受けた会議録を公表している。
(2)個人メモの扱いについて
行政文書の定義として、条例第2条は、「この条例において『行政文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものをいう。」と規定している。
「組織的に用いる」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関の組織において、業務上必要なものとして、利用又は保管されている状態のものを意味する。したがって、職員が単独で作成した文書であって、専ら自己の職務の遂行の便宜のためにのみ利用し、組織としての利用を予定していないもの(備忘録等)や職員の個人的な検討段階にとどまるもの(決裁文書の起案前の職員の検討段階の文書等)などは組織的に用いるものには該当しない。
会議録の素案を作成する職員が記した個人メモは、職員個人の段階のもので未だ組織的な検討に付されておらず、組織としての共用文書の実質を備えた状態になっていないので、条例第2条で規定する行政文書には該当しない。
(3)本件行政文書について
本件請求について、上記(2)のとおり、個人メモは行政文書ではないことから、速記録は不存在であり条例第13条第2項に該当するとして非公開決定し、上記第二の2記載のとおり会議録を公開したものである。
(4)異議申立人の主張について
- ア 異議申立人は、本件決定について「条例前文の趣旨に反する」と主張しているが、実施機関としては、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第13条の規定に基づき委員会会議を公開で開催し、規則第5条に基づき会議録を作成し公開しているところである。
このように委員会会議の情報は、府民と共有しているため、条例前文の趣旨にも即している。 - イ 「議題6に関する委員やり取りが現にあったにもかかわらず、この部分の議事録は『簡略化』の範疇に入らない『空白』となっている。」との異議申立人の主張については、出席者の記憶によれば、議題6では、委員からの質問や意見は無くそれを確認した委員長がそのまま採決をとったものであり、異議申立人の記憶間違いである。
- ウ 「委員会会議の審議内容にかかわる担当職員メモは、職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的なメモで組織的な検討に付されない性格のものではない。たとえそれが、職員個人の判断で作成されたものであったとしても、所管の組織において、議事録作成のために、複数の職員による検討に付された記録であって、所管の機関が業務上必要なものとして利用又は保存されるべきものである。」との主張については、上記(1)イ及び(2)記載のとおり、行政文書には該当しない。
(5)以上のとおり、本件決定は、条例に基づき適正に行われたもので、違法、不当な点はなく適法かつ妥当なものである。
2 実施機関説明における主張の要旨
実施機関の主張は、概ね次のとおりである。
委員会会議の会議録の作成については、教委総務企画課の主たる担当職員(以下「主担」という。)と副たる担当職員(以下「副担」という。)の二人が担当している。主担が自らの作成した個人メモをもとに会議録の素案を作成し、教育委員に会議録案の確認を求めること及び次回の委員会会議に会議録案を諮ることについて決裁を得ることについて起案を行う。決裁ルートは、副担、担当課長補佐及び教委総務企画課長が承認者、事務局次長が決裁権者となっている。
承認者及び決裁権者は、それぞれ自らの記憶等と突合しながら、会議録の素案の確認を行い、決裁等を行う。決裁の後、各委員に対し、各委員の発言内容に誤りはないかを確認するよう依頼した上で会議録案とし、委員会会議に諮り、承認を得て会議録となる。
なお、会議録の素案の作成方法は主担に委ねられており、主担が会議録の素案を作成するために作った個人メモは職務命令に基づくものではない。また、会議録の素案作成のための録音は行っていない。
第六 審査会の判断
1 条例の基本的な考え方について
行政文書公開についての条例の基本的な理念は、府民の行政文書の公開を求める権利を明らかにすることにより「知る権利」を保障し、そのことによって府民の府政参加を推進するとともに府政の公正な運営を確保し、府民の生活の保護及び利便の増進を図るとともに、個人の尊厳を確保し、もって府政への信頼を深め、府民福祉の増進に寄与しようとするものである。
このように「知る権利」を保障するという理念の下にあっても、公開することにより、個人や法人等の正当な権利・利益を害したり、府民全体の福祉の増進を目的とする行政の公正かつ適切な執行を妨げ、府民全体の利益を著しく害することのないよう配慮する必要がある。
このため、条例においては、府の保有する情報は公開を原則としつつ、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項の規定を設けたものであり、実施機関は、請求された情報が条例第2条第1項に規定する行政文書に記録されている場合には、条例第8条及び第9条に定める適用除外事項に該当する場合を除いて、その情報が記録された行政文書を公開しなければならない。
2 3.25会議について
- (1)委員会会議は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第13条第6項に基づき公開で実施されている。その会議録の作成について、規則第5条第1項に「委員長は、事務局の職員をして会議録を作成させなければならない。」と規定されており、規則第6条には、「一 開会及び閉会の年月日時、二 会議に出席した者の職及び氏名、三 教育長の報告の要旨、四 議題及び議事の要旨、五 議決事項、六 その他委員長が必要と認めた事項」を、会議録の記載事項とするものと規定されている。また、規則第5条第2項によると、「会議録は、委員長及びその都度委員長の指定する委員一人が署名し、次回の会議において承認を受けなければならない。」とされている。
- (2)3.25会議では、「議題6」として、「入学式及び卒業式等における国歌斉唱時の対応について」が審議されており、当該会議には別添の「入学式及び卒業式等における国歌斉唱時の対応について」という見出しの資料が提出されていた。同資料には、今後の入学式及び卒業式等における国歌斉唱時の対応について、「校長・准校長の職務」として、教職員の起立斉唱の確認については各校の状況に応じて校長・准校長の裁量と責任において実施すること、起立斉唱しなかった教職員がいた場合には、不起立・不斉唱の事実を含めた実施状況について速やかに報告すること等と記載されている。なお、同資料は、実施機関のホームページでも公表されている。
3 本件決定に係る具体的な判断及びその理由について
(1)条例第2条第1項について
行政文書公開請求の対象となる「行政文書」の定義については、条例第2条第1項に「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びスライド並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」と規定されている。
「職務上」とは、実施機関の職員が、法令、条例、規則、規程、訓令、通達等により、与えられた任務又は権限を、その範囲内において処理することをいう。
「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において、業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味する。
したがって、職員が自己の執務の便宜のために保有する複写物や個人的なメモで未だ組織的な検討に付されていないものなど、個人で自由に廃棄しても組織上・職務上支障がないものはこれに該当しないが、職員が個人の判断で作成したものであっても、所管の組織において、複数の職員による検討に付され、その結果、これらの者が共用するに至ったもの、当該職員が関与した会議又は応接等の事務の記録であって、必要に応じて他の職員が利用することとなるものなど、実施機関の組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているものは、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」に該当すると解すべきである。
(2)本件決定の妥当性について
異議申立人は、委員会会議の会議録作成のために職員が作成した「メモ」は、組織共用された行政文書であると主張するので、以下検討する。
- ア 実施機関の弁明書及び実施機関説明における主張によると、実施機関における委員会会議の会議録作成の実務は以下のとおりと認められる。
会議録作成の担当職員は、教委総務企画課内に主担と副担の2名がいる。会議録作成に当たっては、まず、主担が委員会会議の議事内容について個人の備忘のためのメモ(以下「主担メモ」という。)を主担個人のノートに作成し、これをもとに会議録の素案を作成する。
規則第5条第2項により、会議録は、次回の会議において承認を受けなければならないとされているため、主担は、次回の委員会会議で会議録の承認を受けるため、会議録の素案を添付して、教育委員に会議録案の確認を求めること及び委員会会議に会議録案を諮ることについて起案を行い、事務局次長が決裁権者として決裁する。決裁経路は、副担、担当課長補佐及び教委総務企画課長が承認を行い、事務局次長が決裁を行うこととなっている。なお、会議録作成に当たり、主担は職務命令に基づいて会議録素案を作成するための主担メモを作成する訳ではなく、その作成方法は、主担及び副担の裁量に委ねられている。
承認者及び決裁者は、それぞれ自らの記憶等と突合しながら、会議録の素案を確認し、決裁等を行っており、主担メモを決裁文書に添付して回付することはない。また、このメモは行政文書として組織的に管理されるのではなく、主担である担当職員個人の保有するノート等に記載され、同人が保有しているものである。会議録の素案は、決裁途上のものは保存されず、決裁後の会議録案のみが組織共用文書として保存されている。 - イ 3.25会議の会議録の素案を作成するために作成された主担メモが、組織共用文書に当たるか否か等を確認するため、当審査会は条例第23条第4項に基づき主担である担当職員に対し、主担メモの提出を求めた。当審査会が主担メモを見分したところ、同人が個人保有する大学ノートに委員の発言内容等が逐語的に細かく手書きされており、その記録は8ページに渡っていた。同大学ノートには、3.25会議の主担メモが記載された次のページ以降は別の業務にかかる記録がされていた。また、主担メモには、議題6にかかる記録は一切なかった。
- ウ 以上のことからすると、主担メモは、所管の組織において、複数の職員による検討に付されておらず、組織共用文書であると考えられるような特段の経緯はなく、主担メモは「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」とは認められない。よって、主担メモは情報公開請求の対象となる行政文書には当たらず、委員会会議の速記録は行政文書として存在しないのであるから、実施機関の決定は妥当である。
(3)異議申立人のその他の主張について
- ア 異議申立人は、3.25会議の場で、委員長が議題6について提案内容に関する発言を行ったにもかかわらず会議録にその記録がない、担当職員が作成したメモを含む速記録等にはその発言内容が記録されているはずであって、これにより事実確認がされるべきである等と主張するが、当審査会が主担メモを見分したところ、議題6にかかる記録は一切なかった。
- イ また、異議申立人は、3.25会議の議題6の内容は、卒業式・入学式における国歌斉唱について、いわゆる口元チェックを行うという25.9.4教育長通知の方針撤回に当たるものであるが、方針撤回に至った経緯が分からないなどとして、委員会会議の会議録の在り方等を検討されたい等と主張するが、この会議録は規則に基づき作成されているものであって、当審査会がその適否について判断するものではない。
- ウ 異議申立人は、平成26年10月29日の会議録が詳細な内容であることなどから、3.25会議においても、録音した記録が存在するのではないかと主張するが、当審査会が主担メモを見分したところ主担メモには委員の発言内容等が逐語的に事細かに記載されており、録音した記録が存在すると考えられるような特段の事情は認められなかった。
4 結論
以上のとおりであるから、本件異議申立てには理由がなく、「第一 審査会の結論」のとおり答申するものである。
主に調査審議を行った委員の氏名
小谷寛子、三成美保、有澤知子、長谷川佳彦
別添(PDF:112KB)